監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
いざ身内が亡くなると、相続の手続を進めなければいけないことは分かってはいるものの、何をすればいいのか分からない、整理がつかない、という方が少なくありません。
特に、身内が亡くなった直後ですと、心身ともに疲弊してしまって相続についてゆっくり考える余裕がない場合があります。
このページでは、相続に必要な手続について説明をしておりますので、ご参考になればと思います。
相続の手続きには期限のあるものが多い
相続は、亡くなった方(以下「被相続人」と言います。)が亡くなった時点から各種手続が始まります。
そして、相続に関する手続には期限が設定されているものが少なくありません。
各期限を過ぎないように手続きを進めておく必要がありますので、以下の各期限については具体的な日にちをメモしておくなりしておくとよいです。
7日以内に必要な手続き
死亡届の提出
まず、被相続人が亡くなってから7日以内に、市区町村役場に死亡届を提出する必要があります。
死亡届を提出しなければ、火葬許可証や埋葬許可証といった火葬や納骨のために必要な書類を取得することができません。許可証無しで、火葬や埋葬をしてしまうと、違法行為となりますのでご注意ください。
死亡届自体、病院や事件で亡くなった場合、右半分(死亡診断書・死体検案書)が記入された状態で取得できることもありますが、市区町村役場でももらうことができます。
また、死亡届の提出先は、①死亡者の死亡地、または、②死亡者の本籍地、または、③届出人の所在地のいずれかの市区町村役場となります。その際、親族や同居人、(被相続人が借家で亡くなった場合には)家主、地主、土地家屋の管理人が手続きを進めることになりますが、役所では届出人の印鑑と身分証明書が必要ですので、忘れずに持参するようにしましょう。
10日以内に必要な手続き
被相続人の年金受給の停止(厚生年金)
被相続人が亡くなりますと、年金を受け取る資格を失いますので、被相続人が亡くなってから10日以内に年金の受給を止める手続きを行う必要があります。この手続きは、年金事務所や年金相談センターで行うことができます。
この手続きの際、死亡診断書や通帳の写し等、必要な書類がありますが、個別の事情によって必要な書類が異なることもありますので、年金事務所などに問い合わせたうえで手続きを進めましょう。
14日以内に必要な手続き
保険証の返還(国民健康保険)
国民健康保険も、被相続人の死亡によって被保険者の地位を失いますので、保険証を変換する必要があります。被相続人が亡くなってから14日以内に、被相続人が居住していた市区町村の役場に、国民健康保険資格喪失届を保険証とともに提出しましょう。
年金受給の提出の場合と同様に、手続きを進める上で、個別の事情、また地域によって必要な書類が異なる場合もあります。役場に問い合わせのうえ確認しましょう。
被相続人の年金受給の停止(国民年金)
厚生年金の場合と同じく、被相続人が国民年金を受給していた場合も、受給停止の手続を行う必要があります。厚生年金と手続期限は異なりますが、いずれにしても期限が短いので、速やかに手続を進めるようにしましょう。
3ヶ月以内に必要な手続き
相続方法の選択
被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内(この期間を「熟慮期間」といいます。)に、相続人となった人は、それぞれ、遺産をどのように相続をするか決める必要があります。
選択肢としては、単純承認、相続放棄、そして限定承認の3択があります。
以下、それぞれの特徴を見ていきます。
単純承認は、被相続人のすべての遺産について、無条件で相続をする方法です。
単純承認をするには特段手続きは必要ありません。
もっとも、単純承認をするつもりがなくとも、遺産の一部を処分してしまうと、単純承認をしたものと扱われてしまいます。また、熟慮期間内にほかの相続手続きを行わない場合にも、単純承認をしたと扱われてしまいますので、注意が必要です。
限定承認は、被相続人の遺産のうち、プラスの財産とマイナスの財産を清算した結果、遺産にプラスの財産が残っている限り、相続をする特殊な相続方法です。
3つの手段のうち、一番損をしない手段と見られやすい限定承認ですが、税負担やかかる手間を考えると、かえって損をする場合もあります。
そのため、限定承認を選択肢に入れる場合、法律家や税理士へのご相談をお勧めいたします。
相続放棄は、被相続人の遺産を一切相続しない方法です。
相続放棄をする場合、ただただ相続放棄を宣言するだけでは足りず、家庭裁判所での手続きを進める必要があります。
上述したように、熟慮期間内に手続を進めないと、単純承認をしたと扱われてしまうので、相続放棄の手続は速やかに進めましょう。
相続財産の調査、目録の作成
被相続人がどのような財産が遺産に含まれているか一覧を作成している場合、その一覧を元にどのような相続方法を選択するかを検討すればいいでしょう。ただ、そのような一覧が残されていない場合、相続人が被相続人の遺産を調査することになります。
不動産や預貯金、そのた資産を熟慮期間のわずか3か月以内に調査しきることは容易でなく、場合によっては見落としもあるかもしれません。
相続人となった場合には、速やかに調査に掛かる必要がありますので、ご注意ください。
4ヶ月以内に必要な手続き
準確定申告
被相続人が亡くなったからと言って、被相続人の生前の所得税が免除されるわけではありません。
相続人全員がそろって、被相続人の生前の確定申告と納税を行う必要があり、この手続のことを準確定申告と言います。
相続人が被相続人の所得の状況を知っていたり、被相続人が従前から確定申告を依頼していた税理士がいたりする場合は大きな問題になりにくいですが、それ以外の場合は資料収集から行わなければならず、非常に手間と時間がかかる可能性があります。
そのため、被相続人が亡くなった後、準確定申告の必要があるか、資料収集は誰が行うかは早期に確定しておくほうが良いです。
10ヶ月以内に必要な手続き
相続税の申告及び納税
相続人が受け取る遺産の価値が一定以上となりますと、相続人は相続税の申告および納税を行う必要があります。
相続税の計算は遺産の種類や価額によっては、複雑になる場合もあります。
また、様々な「控除」の制度があり、その適用を受けることができるかによって相続税の金額が大きく変わり得ます。
遺産分割協議書の作成
法律上、遺産分割を行う期限はありません。
ただ、10カ月以内に遺産分割が終了しないからと言って、相続税の申告・納税の期限は延びません。遺産分割が未了の場合、各相続人は、各種税金の軽減措置を受けられない状態で、法定相続分や包括遺贈の割合に従って遺産を取得したとして相続税の計算を行い、申告・納税を行うことになります。
後日、遺産分割が完了した時点で、再度正確な計算を行い、正しい相続税の申告(修正申告・更正の請求)を行うこともできますが、時期によっては税金の軽減措置が受けられない場合もありますので、注意が必要です。
その他にも、特別受益や寄与分を主張できる期限があったり、今後の法改正によっては主張できる内容に期限が設けられることもあったりしますので、遺産分割に時間がかかりそうな場合には専門家に相談しましょう。
1年以内に必要な手続き
遺留分侵害額請求
相続人の中には、遺産に対して一定の割合の権利を持つ者がいる場合があります。
被相続人の兄弟姉妹(及びその相続人)を除く法定相続人には、遺留分という権利が認められており、本来得られるはずの遺留分をもらえない場合には遺留分侵害額請求を行って、遺産の一部を取得できることがあります。
もっとも、この権利自体、被相続人が亡くなったこと、そして、遺留分が侵害されていることを知ってから1年以内に行う必要があります。
2年以内に必要な手続き
埋葬料・葬祭費の請求
被相続人が国民健康保険や後期高齢者医療保険に加入していた場合、葬儀を行った日の翌日から2年以内に市区町村役場へ請求することで、市区町村の規定次第で3万円から7万円程度の葬祭費が支給されます。
また、健康保険によっては、被相続人が亡くなってから2年以内に請求があれば、一定の埋葬料が支払われることもあります。
3年以内に必要な手続き
生命保険(死亡保険)の生命保険会社への請求
生命保険金(死亡保険金)は、請求できる期限があり、被相続人が亡くなってから3年以内に請求する必要があります。
もっとも、生命保険金や死亡保険金は保険会社から自動的に支給されるものではなく、請求がないと支払われないことが通常ですので、受け取ることができる立場にある相続人は、速やかに保険会社に連絡を取って手続きを進めるとよいでしょう。
相続税の軽減措置
上述したように、相続税には各種軽減措置があります。
相続税がかかる財産の価格を減らす小規模宅地等の特例や、相続税額から一定の金額を差し引く未成年者控除、障害者控除等様々な措置があります。
ただ、これらの特例はすべて必ず受けられるとは限らず、どの軽減措置を受けられるかは専門家に相談が必要な場合もあります。
5年以内に必要な手続き
相続税の還付請求
相続人が相続税を過大に申告してしまった場合、後日、更正の請求を行うことで、払いすぎた相続税の還付を受けることができます。
ただ、いつまでも還付を受けることができるわけでもなく、被相続人が亡くなってから5年10ヶ月以内に還付請求手続を行う必要があります。
期限のない相続手続き
期限が明確に定められてはいないものの、様々な観点から早期に進めておくべき手続もあります。
以下は、そのような手続の例となりますので、ご確認ください。
法定相続人の確定
被相続人に複雑な生い立ちがある場合、誰が被相続人の遺産を受け取る相続人となることができるかが分かりにくい場合があります。
その場合に参照するのが戸籍です。
戸籍を調べてみると、思いもよらない相続人がいることがあります。
法定相続人が誰であるのかを早期に確定できないと、相続の各種手続をどのように進めるかが確定できませんので、被相続人が亡くなって速やかに戸籍を確認した方がよいです。
遺言書の有無の確認、検認
公正証書遺言以外の遺言を見つけた場合、勝手に開けてはいけません。
そのような遺言があった場合には、裁判所の検認手続きを経て内容を確認することになります。
もっとも、遺言があるかどうかが不確かな場合もあるでしょう。
被相続人が公正証書遺言を作成している場合には、公証役場に申し込みをすることで遺言書があるかどうかを確認することができます。
また、自筆証書遺言保管制度が利用されていた場合、遺言書保管官が被相続人の死亡を確認したときに、被相続人の指定した者に対して遺言書が保管されていることを通知する制度もあります。
遺産分割協議
既に述べているように、遺産分割協議を行う期限は法律上ありません。
もっとも、相続税や主張できる内容への制限といった観点から早期に進めることが好ましいです。
預貯金などの解約、名義変更
被相続人が生前保有していた預貯金や金融商品は遺産となりますが、相続に当たって各種金融機関毎に解約や名義変更の手続きを求められることが通常です。
金融機関によっては、相続全員分の署名・捺印が必要となったり、印鑑証明書や戸籍などの書類を要求されたりと手続きが煩雑になることも珍しくありません。
もっとも、金融機関との手続を進めなければ誰も受け取ることもできませんので、いずれは手続きを進める必要があります。
(不動産を相続する場合)相続登記
不動産については、誰がどのような権利を持っているかを管理する登記制度があります。
相続によって不動産の所有者が変わった場合、法務局に対して相続登記を進める必要があります。
家屋の種類(戸建てかマンションか)等、手続きの進め方に影響を与える要素が様々ありますので、どのような手続が必要となるかは早期に確認しておくとよいでしょう。
(車やバイクを相続する場合)名義変更
車も、所有者が変わった場合に、不動産と同様に役場に一定の登録が必要であり、名義変更の手続を陸運局で行う必要がります。
また、車両の持ち主が変わった場合、保険についても考えなければいけません。
被相続人の保険を引き継ぎたい場合には、保険契約についても名義変更の手続きを進めることになります。
なお、車両の売却や廃車を考えている場合、一度、相続人に名義を変えた上で進める必要がある点は要注意です。
相続の手続きは自分でできる?
相続の手続きを自分で進めることは可能です。
もっとも、役場をはじめとする各手続先は平日の昼間しか開いていないことが多く、仕事、育児、その他の都合により、手続きが期限内に行えないこともあります。
被相続人が亡くなった後、速やかに何をいつまでに進めるかを整理し、全ての手続きを進めることが可能か慎重に検討をしましょう。
相続手続きについてわからないことがあったら弁護士にご相談ください
家族やご親族が亡くなった後の手続きは上に見てきたように多岐にわたり、すべてをご自身で行おうとすると大きな負担となってしまいます。
弁護士にご依頼いただければ、相続にかかわる手続のほとんどを代理人として進めることが可能となります。
また、遺産をどのように処理するかは非常に揉めやすい問題です。
一度揉めてしまうと、相続人の代わりに交渉できる資格があるのは弁護士だけです。
揉めた場合にどうなるかを想定しながら争わない相続を目指す整理・助言を行ったり、揉めた場合にどのように争いを治めるかは、弁護士の得意分野となります。
その他にも、そもそも何から手を付ければいいのか分からない場合にも、お気軽にご相談下さい。
弁護士法人ALG&Associatesでは、相続についての経験や知見を備えた弁護士が多数在籍しており、今後どのようにご相談者様が進むべきかを提案することができます。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)