家事従事型の寄与分が認められるポイントを解説します

相続問題

家事従事型の寄与分が認められるポイントを解説します

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

相続における寄与分とは、複数の相続人の中に、被相続人の財産の維持又は増加について特別な貢献をした人(寄与者)がいた場合、遺産分割にあたって、その寄与者が取得できる遺産を増額させる制度です。
寄与分として認められる行為には主に5つの類型があります。この記事では、そのうちの「家事従事型」と呼ばれる類型について解説します。

目次

家事従事型の寄与分とはどんなもの?

家事=炊事洗濯ではない。家事従事型の具体例

家事従事型の「家事」とは、炊事洗濯といった意味ではなく、「家業」や「事業」を意味します。
具体例としては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 農業を営む父の手伝いを、長期間にわたってほぼ毎日無償で行い、農地からの収穫を維持できるようにした。
  • 母が開業したブティックにおいて無償で勤務して経営を支え、売り上げの大幅な増加に貢献した。
  • 配偶者が経営する診療所で、週5日ほぼ無給で医師として勤めた。

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寄与分を認めてもらう要件

寄与分が認められるための要件は、以下のとおりです。
①相続人自らの寄与があること、②当該寄与行為が特別の寄与に当たること、③被相続人の遺産が維持または増加したこと、④寄与行為と被相続人の遺産の維持または増加の間に因果関係があること。

家事従事型の独自の要件

寄与分の一般的な要件に加えて、家事従事型で求められる要件は以下のとおりです。

  • 無償ないしこれに近い状態で行われていること(無償性)
    提供した労務に見合うだけの報酬が支払われていた場合は、寄与分として認められません。
  • 労務の提供が長期間継続していること(継続性)
    一時的な手伝いではなく、一定期間継続する必要があります。
  • 労務の内容がかなりの負担を要するものであること(専従性)
    専業であることまでは求められませんが、片手間ではできず、一定の負担を要する労務である必要があります。

通常の手伝いをした程度では認められない

相続人が、ただ単に被相続人の営む農業や商工業などの手伝いをしたことがあるという程度では、寄与分が認められる可能性は、非常に低いです。
そもそも、親族間には民法上の扶養義務があるため、通常の手伝いや身の回りの世話をしたという程度では、親族としての扶養義務を果たしたにすぎないと評価されてしまい、寄与分は認められません。

「特別の寄与」として寄与分が認められるか否かを判断するためには、被相続人との関係(夫婦、親子、兄弟姉妹等)、労務の提供の内容、これに伴う報酬の有無及び内容等を具体的に検討する必要があります。

家事従事型の寄与分を主張するためのポイント

家事従事型の寄与分を主張するためのポイントとしては、以下のような項目が挙げられます。

  • 労務を提供するようになった経緯
  • 労務の具体的内容、時期、頻度、1日のうち労務に充てた時間
  • 被相続人との同居の有無(同居していた場合、生活費等は誰が負担していたか)

これらの事情を総合的に考慮して、「特別の寄与」があったか否かを判断することとなります。

こういったものが証拠になります

家事従事型の寄与分を主張する際には、以下のようなものが証拠となり得ます。

労務の実態が分かる資料:
労務の内容を裏付ける日記、業務日報、タイムカード、電子メール、他の従業員の供述等
無償性(又はこれに近い状況)を裏付ける確定申告書、給与明細書、預貯金通帳等

被相続人の財産の推移が分かる資料:
被相続人の確定申告書、領収書、預貯金通帳、会計帳簿等

家事従事型の寄与分に関する裁判例

家事従事型の寄与分については、具体的な事情を考慮する必要があります。以下、裁判例をご紹介します。

相続人以外の寄与分が認められた裁判例

東京高裁平成22年9月13日決定
被相続人Aは,相続人Bの妻であるCが嫁いで間もなく脳梗塞で倒れ、半身となりました。
CによるAの入院期間中の看護、その死亡前の介護は、本来家政婦などを雇って当たらせることを相当とする事情の下で行われ、それ以外の期間についても入浴の世話や食事及び日常の細々とした介護が13年余りの長期間にわたって継続して行われました。こうしたCによるAの介護は、同居の親族の扶養義務の範囲を超え、Bの履行補助者として相続財産の維持に貢献したものと評価することが相当と判示し、寄与分を認めました。

家事従事型の寄与分が認められなかった裁判例

札幌高等裁判所 平成27年7月28日決定
相続人Bは、被相続人Aの求めに応じて被相続人の経営していた簡易郵便局に夫婦で勤め、2人で月25万円から35万円の給与を得ていましたが、この給与は、当時の賃金センサスによると、大卒46歳時の平均給与の半分にも満たない低い金額でした。
しかし、Aが引退するまでの間の業務主体はAであったこと、給与水準は事業の内容・企業の形態・規模・労働者の経験・地位等の諸条件によって異なること、B夫婦はAと共に住んでおり、家賃や食費はAが支出していたことをも考慮すると、Bは郵便局の事業に従事したことにより相応の給与を得ていたというべきであると判断され、寄与分は認められませんでした。

家事従事型の寄与分の額はどのように決めるか知りたい

家事従事型の寄与分額は、基本的に、以下のような算式で求めた金額が目安となります。
寄与者が通常得られたであろう年間の給付額×(1-生活費控除割合)×寄与年数-現実に得た給付
「寄与者が通常得られたであろう年間の給付額」は、相続開始時(被相続人が亡くなったとき)における、家業と同種同規模の事業に従事する、寄与者と同年齢層の年間給与額を基準にします。実際には、賃金センサス等を参考にすることが多いです。
また、寄与者が被相続人と同居しており、家賃や食費を支払わずに済んでいた場合、被相続人から利益を得ていたとみなされるため、その分が「生活費控除割合」に換算され、控除されます。さらに、少額であっても現実に給付を得ていたようであれば、その分についても控除されます。
ただし、寄与分を決める際には、寄与の時期や方法、程度、相続財産の額といった一切の事情が考慮されるため、上記の計算式によって算出した額からさらに調整される可能性があります。

家事従事型の寄与分に関するQ&A

夫の飲食店を無償で手伝っていたが離婚しました。寄与分は認められますか?

寄与分が認められるのは、法定相続人(民法で定められた相続人)に限られます。被相続人の配偶者であれば必ず法定相続人になれますが、相続開始時にすでに離婚していた場合は、法定相続人とは認められません。そのため、過去にどんなに負担の大きい労務を無償で提供していたとしても、離婚した人には寄与分が認められないどころか、相続権もないので、一切の遺産を受け取ることができません。

長男の妻として農業を手伝っていました。寄与分は主張できるでしょうか。

被相続人の長男の妻(被相続人の子の配偶者)は法定相続人ではないため、寄与分は認められません。
ただし、無償で農業を手伝うことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合、相続人に対し特別寄与料(民法1050条1項)の支払を請求できる可能性があります。

夫の商店を手伝いながら、ヒット商品の開発にも成功しました。寄与分を多くもらうことはできますか?

単に被相続人の事業を手伝うだけでなく、ヒット商品を開発するなどして、被相続人の財産の維持又は増加に大きく貢献したような場合、その貢献の程度に応じて寄与分が認められる可能性があります。
ただし、寄与分の具体的な金額については、その貢献の程度や、遺産の総額に左右されます。

父の整体院を給与無しで手伝っていました。小遣いを月4万円もらっていたのですが、寄与分は請求できるのでしょうか?

被相続人の整体院を無給で手伝うことが日常的であり、長期間にわたっていた場合、その整体院従業員の標準的な賃金に相当する額が、寄与分として認められる可能性があります。
ただし、小遣いを月4万円もらっていたという点については、その総額が現実に得た給付額として控除されます。

父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合、寄与分は認められますか?

寄与分が認められる被相続人の事業とは、基本的には個人事業を想定しており、被相続人が設立した法人や、取締役等を務める法人を含まないのが原則です。法律上、個人と法人は別人格として扱われるため、会社内での従業員としての貢献は、被相続人の財産に対する貢献ではなく、会社の財産の維持・増加に貢献したものと評価されます。したがって、この場合は、寄与分は認められにくいものと考えられます。

無給で手伝っていましたが、たまの外食や旅行等に行く場合は費用を出してもらっていました。
寄与分の主張はおかしいと言われましたが、もらうことはできないのでしょうか。

親族であれば、たまの外食や旅行等にかかる費用を、割り勘にせずに一部の人のみが負担することもあり得るものです。そのため、被相続人の事業を無給で日常的に手伝っている者が、被相続人にときどき外食代や旅行代等を支払ってもらっていたという程度であれば、寄与分額の算定で控除すべき対象と評価される可能性は低いと考えられます。
ただし、被相続人と同居し、家賃や食費をほぼ被相続人が負担していたような場合は、寄与者の利益として控除となるでしょう。

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ご自身のケースが寄与分として認められるか、弁護士へ相談してみませんか?

これまで述べてきたように、寄与分が認められるための要件を満たすことができるかどうかといった点や、具体的な主張・立証方法については、なかなか判断が困難な面があります。
しかし、寄与分は、 相続人が被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与・貢献をした場合に、その相続人が取得できる遺産を増額させるという制度であり、公平の見地から認められているものです。あなたがこれまで被相続人のために尽くされたのであれば、その努力は正しく評価されるべきです。
寄与分について判断に迷ったり悩んだりしたときは、是非、弁護士にご相談ください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。