監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
目次
寄与分とは
寄与分とは、被相続人の財産や維持に貢献した相続人がいる場合に、その相続人に対して特別に与えられる相続財産への持ち分のことです。寄与分が認められる場合には、法定相続分とは別に遺産の一部を受け取ることができます。
寄与分請求の要件
寄与分が認められるためには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
どれか一つでも書けると、認められませんのでご注意ください。
共同相続人であること
寄与分自体、相続人の中で、被相続人の財産や維持に貢献した者がいる場合に初めて考慮されるものです。相続人でない者がどれだけ被相続人に対して献身的な協力をしていたとしても、その者が寄与分を受け取ることはできません。
財産が維持・増加していること
寄与分は、被相続人の財産を維持・増加させるために貢献したと認められる場合にのみ、認められます。そのため、被相続人に対する何かしらの貢献があると主張したとしても、被相続人の財産関係に何ら影響を及ぼさないのであれば、寄与分が認められません。
期待を超える貢献があること
財産を維持・増加させる貢献があるだけでは足りません。
寄与分が認められる貢献は、その相続人が通常期待される程度を超える特別な貢献に限られます。
例えば、子どもが足の悪い親の家に定期的に見舞いに行って、身の回りの簡単な世話をする程度では、特別な貢献とまでは言えないでしょう。
財産の維持・増加と因果関係があること
最後に、相続人の貢献が、財産の維持・増加につながったことが認められる必要があります。
ここで求められるのは、法的な意味での因果関係ですので、結果的に財産が維持・増加したかだけで判断されるものではありません。
寄与分の種類
他人の財産の維持・貢献をするにはいろいろな方法がありますが、大抵は、以下の5類型のいずれかに分類できます。
各類型によって、寄与分額の計算方法も変わってきますので、ここで確認しましょう。
家事従事型
家事従事型と呼ばれる類型がありますが、料理や洗濯のような日常家事を行うことで寄与分が認められる、という意味ではありません。
家族の行う事業について、一定の貢献を無償(もしくは少額の対価)で行った場合に寄与分が認められるのです。
そのため、家業従事型と呼ぶ方が正確でしょう。
この類型で注意が必要なのは、専従性が求められること、つまり、片手間で家業を手伝っている程度では認められない点です。
金銭出資型
金銭出資型は、被相続人の事業や生活のために、一定の財産上の給付を行った場合のことを指します。金銭的援助を行った場合以外にも、不動産や動産を貸した場合も含まれます。
ただ、あくまでも被相続人への給付である必要があるので、被相続人の会社に出資しただけである場合には認められません。
扶養型
被相続人との関係性から通常期待されるような扶養義務の範囲を超えて、日常生活に関する支援をしていた場合が、扶養型となります。
例えば、兄弟の中で長男だけが、長期間、親の住居費や生活費の一切を仕送りし続けた場合であれば扶養型の寄与分を認められやすいでしょう。
療養看護型
療養看護型は、相続人が療養看護を行ったために被相続人が看護や介護の費用を支出せずに済んだ場合にあたります。
日常生活の合間に定期的に看護や介護を子なっている場合は含められず、仕事を辞める等して付きっ切りで被相続人の看護や介護をした場合に初めて認められます。
財形管理型
財産管理型は、その名前のとおりで、相続人が被相続人の財産を管理したことによって、被相続人の財産が維持・増加した場合に認められます。
ただ、財産管理にあたる行為をしていても、無償かつ継続的に行われていなければなりません。
そのため、財産管理行為に対して、相続人が手間賃をもらっていたり、一時的に行われたに過ぎない場合には、寄与分が認められません。
寄与分を主張する相続人が複数いる場合はどうなる?
被相続人の財産維持・増加に対する貢献をした相続人が複数人いる場合があります。
その場合、いずれの相続人も寄与分を主張することができます。
また、どのような貢献をしたかによって優先順位をつけられることもありません。
各相続人は、自己の貢献に応じた寄与分を平等に受け取ることができます。
寄与分決定までの流れ
寄与分は自動的に分配されるものではなく、寄与分があると考える相続人が主張する必要があります。
そして、寄与分が遺産を分ける際に問題となる事項ですので、次のように、遺産に関する手続きと同時もしくは先行して決めることになります。
遺産分割協議で寄与分を決める
寄与分は、遺産の分け方の問題ですので、まずは当事者の協議によって分けられないかを模索することになります。そして、相続人全員の同意の下、一部の相続人に対して寄与分を認めることができます。
もっとも、寄与分を認めれば、自己の取り分が減ってしまう相続人は納得しないことが多いですので、遺産分割協議の段階で寄与分を認めてもらうのは難しいでしょう。
協議で決まらない時は調停へ
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所の調停にて解決を目指すことになります。
遺産分割の話とまとめて、遺産分割調停の中で寄与分について協議をすることもできますし、寄与分を定める処分調停という手続きを用いることもできます。
同時に両方の手続を申し立てることも可能です。
それでも決まらない場合は裁判(審判)・即時拮抗へ
調停手続きの中で合意に至ることができない場合もあります。
遺産分割調停が不成立となった場合には、自動的に審判手続きに移行します。
もっとも、寄与分を定める処分調停については、遺産分割に関する調停や審判が裁判所に係属していない場合に開始できません。
なお、審判手続の結果に不満がある場合には、即時抗告という手続きによって争うことも考えられます。
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寄与分の計算方法
寄与分については、複数の類型があることは既に説明しましたが、その類型毎に計算方法の傾向が異なります。
ここでは、一つの計算方法を示しますが、被相続人に対する貢献も多種多様であるので、以下の計算方法によらずに寄与分を計算することもあります。
家事従事型(事業従事型)の計算方法
被相続人の家業を手伝うにあたり、本来もらえたはずの給与・報酬額が寄与分として認められます。
ただ、家事従事型の場合、適正な報酬を受け取っていないとしても、被相続人と家計を同一にしている等、一定の生活費相当の負担を免れていることが多いです。
そのため、具体的な計算式としては、
相続人が受け取るべき報酬額×(1-生活費控除割合)×貢献があった年数
となります。
金銭出資型の計算方法
一般的には、被相続人に与えた利益がどの程度であったかを算出することになります。
ただ、金銭の価値も不動産の価値も時の経過とともに変わりますので、相続開始時の価値に引き直す必要があります。
金銭を贈与した場合であれば、
贈与額×貨幣価値変動率(現在の価値に引き直すための係数)×裁量的割合
という計算式によって求められます。
なお、寄与分の計算には「裁量的割合」という概念が現れますが、これは、公平の観点から裁判所が決める割合です。
扶養型の計算方法
扶養型の場合、その相続人に期待されている程度を超えて扶養義務を果たしています。
そのため、その相続人が通常果たすべき程度を超えて行った貢献の分だけ、寄与分として認められるべきです。
計算式としては、
被相続人のために負担した扶養額×(1-相続人の法定相続分割合)
という式が立てられるでしょう。
療養看護型の計算方法
本来であれば、被相続人がお金を支払い、療養介護を行ってくれる人を雇えます。
ただ、相続人が療養介護を行ったことでその費用の支払いをしていない場合、その費用を寄与分の計算上考慮します。
具体的には、
本来相続人に支払われるべき日当×療養介護を行った日数×裁量的割合
という計算式によって寄与分額を計算できます。
財産管理型の計算方法
この類型も、療養看護型と同じように、相続人でない第三者に財産管理をお願いする場合の費用を、寄与分額の計算上考慮します。
計算式としては、
本来であれば相続人に支払われるべき報酬×裁量的割合
寄与分が認められやすいケース
以下のケースでは、寄与分が認められやすい要素があります。
夫の個人事業のヒット商品の開発に貢献した場合
夫の会社の発展につながるような貢献をし、夫の財産の増加に貢献をしたと認められる場合、寄与分を得られる可能性が高くなります。
もっとも、夫の会社でヒット商品を開発したとしても、その売り上げ全額を寄与分として認められる訳ではありません。
あくまでも、ヒット商品開発によって、被相続人である夫の財産の維持・増加につながった割合に応じた寄与分が認められることになるでしょう。
兄弟で出資をしていた場合
兄弟で共同出資して、親である被相続人の住む家を購入した場合、その貢献が通常、子どもとして期待される程度を超えている場合には寄与分が認められやすいです。
この場合、不動産を購入した際の価額に対して、兄弟それぞれがどの程度出資をしたが寄与分の計算上重要となります。
介護費用を全額出した場合
被相続人である親の介護費用を全額出した場合、それが相続人となった子どもとして期待される程度を超える範囲の貢献と評価できる場合には寄与分が認められます。ただ、介護サービスも様々であり、低額のものから非常に高額なサービスもあります。
実際に支出された介護費用の金額が、寄与分を認めるかどうかの分水嶺となるでしょう。
寄与分が認められにくいケース
以下のケースですと、寄与分が認められにくい要素があります。
夫の仕事を無償で手伝っていたが離婚した場合
寄与分が認められるためには、被相続人が亡くなった時点で相続人である必要があります。
しかし、離婚済みの場合、そもそも元配偶者の相続人となることはできません。
したがって、残念ながら、どれだけ財産の維持・増加に貢献が認められるとしても、この場合には寄与分は認められません。
父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合
この場合、会社が法人である場合には、寄与分が認められにくい傾向があります。
原則として、法律上の手続では法人と被相続人を区別して扱います。
そのため、会社の発展に貢献がどれほど大きい場合であっても、被相続人の財産の維持・形成に貢献してないと評価されることもあります。
ただ、会社が法人であっても、父親の個人事業であれば、会社も父親個人の財産と認定できる場合もあり、寄与分が認められる可能性が生まれます。
義両親を介護していた場合
世間では、義理の両親を介護している方も珍しくなく、その負担も決して軽いものではありません。
しかし、義両親が亡くなった場合、法定相続人でない者は寄与分を受け取ることはできません。
法律上、被相続人の子どもは法定相続人になり得ますが、被相続人の子どもの配偶者は法定相続人として想定されていません(義両親の養子となれば、養子という立場に基づいて法定相続人となることはできます)。
そして、法定相続人とならない場合、寄与分が認められることもありません。
仕送りをしていた場合
被相続人に対して定期的な仕送りをしていた場合、仕送り額や頻度が通常、親族の扶養義務として期待される程度を超える限り、寄与分が認められる可能性があります。
そのため、親に仕送りを送っていたが、微々たる金額であったため親の財産が減るばかりであった場合には、寄与分が認められにくいです。
寄与分を認めてもらうのは難しいため、弁護士にご相談ください
被相続人の生前、被相続人の生活等に貢献してきたにもかかわらず、寄与分として認められないことがあります。
裁判所に寄与分を認めてもらうハードルが非常に高いため、相続人が十分な主張・立証を行ったと考えていても、実は不十分であったケースも少なくありません。
そのため、ご自身に寄与分が認めてもらえる余地があるか、認めてもらうにはどうすればよいのか、是非一度弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)