監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
相続が発生した場合、各相続人は、原則として、民法に定められたルールにしたがって遺産を分け、取得することになります。ただし、亡くなった方(以下「被相続人」といいます)の財産を、生前に増やしていた、又は減少させずに済んだ場合には、「寄与分」といって、より多く遺産を受け取れる可能性があります。
寄与分が認められる行為には様々な形がありますが、今回は「扶養型」の寄与分を紹介していきます。
扶養型の寄与分とはどんなもの?
寄与分が認められるためには、法律上求められる義務を超えて、特に貢献したこと(「特別の寄与」といいます)が必要となります。
この「特別の寄与」については、具体的にどのようなものなのか、ある程度類型化されています。
扶養型の寄与分とは、相続人が、被相続人を扶養することで、被相続人が本来必要だった支出を免れたことにより、その財産の維持に寄与した(貢献した)場合に認められます。
扶養型の具体例
扶養型の寄与分の具体例としては、相続人やその家族が、被相続人を引き取り、同居して面倒を見ていた場合や、定期的に仕送りをすることによって被相続人の生活費を負担していた場合があります。
このような場合には、相続人の行為によって、被相続人は生前、ヘルパー等を雇うための費用を出さずに済んだと言えます。生活費の支出を免れ、財産を維持することができたと評価できるからです。
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扶養型の寄与分が認められるために必要な要件
寄与分が認められるためには
①相続人による寄与であること
②財産の増加・維持があること
③特別の寄与があること
④財産の増加・維持と因果関係があること
という条件を全て満たす必要があります。
ただし、もともと扶養するのが法律上の義務として定められている場合に、相続人の扶養が特別の寄与であると認められるためには、通常期待されるような扶養行為では足りず、特別の支援を行ったといえる必要があります。
通常期待される扶養義務の範囲とは
直系血族及び兄弟姉妹(特別の事情があるときは三親等内の親族も含みます)については、法律上、扶養義務が定められています。したがって、相続人の行った扶養が、通常期待される程度のものである場合は、寄与分は認められません。
相続人の行った扶養が、法律上求められる範囲を超えて、特別の寄与であると認められるためには、
①被相続人の扶養が必要だったこと(必要性)
②扶養が無償又は無償に近い状態で行われたこと(無償性)
③扶養が長期間に渡って行われたこと(継続性)
などの観点から判断されます。
扶養型の寄与分を主張するポイント
扶養型の寄与分が認められるためには、通常求められる程度を超えて扶養を行ったことを証明しなければなりません。
しかし、被相続人の生前にどのような扶養が行われていたかは、当事者しか知らないことも珍しくありません。そのため、被相続人が死亡している以上、寄与分を主張する本人が、被相続人に対して扶養を行っていた証拠を提出する必要があります。
有効な証拠を集める
定期的な仕送りをしていたのであれば、振込明細書や、被相続人と相続人の預金通帳などが、相続人の行った扶養の内容や金額を知るための証拠になります。
被相続人と同居して扶養をしていた場合、被相続人のために支出した金額のみを特定することは難しいですが、家計簿や、相続人と被相続人の預金通帳があれば、金銭の流れから被相続人のために支出した扶養料を算出できる可能性があります。
また、被相続人に扶養が必要になったことを証明するために、被相続人の診断書や、扶養するに至った事情を説明するための資料もあると良いでしょう。
扶養型の寄与分が認められなくても請求できる可能性あり!過去の扶養料求償とは?
扶養が必要だった相続人を、相続人の内の一部の者が扶養していた場合、その他の相続人に対して、過去に支払った扶養料を請求することができます。扶養型の寄与分と過去の扶養料は別個のものであるため、扶養型の寄与分の主張が認められなくても、過去の扶養料の支払いを求めることは可能です。
ただし、扶養型の寄与分の主張を却下する審判に不服を申し立てることなく、扶養料を求める審判を申し立てることは許されないとする裁判例があります。
寄与分が認められない場合に無制限に扶養料を請求できるわけではないことに注意が必要です。
扶養型の寄与分を評価する方法
扶養による寄与分を認めてもらうために、まず実際に扶養を負担した金額を確定します。仕送りをしていた場合はその合計額であり、同居して生活費を負担していた場合は、被相続人のための食費、光熱費や公租公課等がこれに当たります。また、具体的な金額を把握できない場合でも、生活保護基準等を参考にして、相当な額が算定されます。
次に、負担した額が全て寄与分として認められるわけでありません。なぜなら、被相続人に扶養義務がある場合は、扶養義務に相当する部分を控除しなければならないからです。この割合は、寄与の内容、扶養に至った経緯や相続人の扶養能力等の事情を総合的に考慮して、裁判所の裁量によって決められます。
扶養型の寄与分に関するQ&A
実家の両親に仕送りをしていました。扶養型の寄与分は認められるでしょうか?
両親は直系尊属であり、法律上扶養義務が認められています。そのため、少額のお小遣い程度を短期間仕送りしていただけでは、通常の扶養義務の範囲内として寄与分は認められません。
しかし、経済的に扶養の必要のある相続人に対して、分担義務の範囲を著しく超えて仕送りをした場合は、扶養型の寄与分が認められる可能性があります。
父の介護施設の月額費用を支払っていました。寄与分は認められますか?
父親は、直系尊属であり、その子には扶養義務があります。そのため、扶養義務者として通常負担すべき範囲内の介護費用を支払っていても、寄与分は認められません。
しかし、扶養義務があるとしても、負担した金額・期間等を他の共同相続人の負担分と比較して、その分担範囲を著しく超えて費用を支払っていた場合には、特別の寄与として、寄与分が認められる可能性があります。
母がやりたがっていた習い事の月額費用を払っていたのですが、これは寄与分になるでしょうか?
母親は、直系尊属であり、その子には扶養義務があります。そのため、習い事の費用が、扶養義務者が通常負担すべき程度の金額である場合は、寄与分は認められません。
しかし、上記のように、寄与分権者の負担した習い事の費用が、他の共同相続人の負担分と比較して、著しく高額であるような場合には、寄与分が認められる可能性はあります。
同居の父を看病していました。寄与分は認められますか?
病気の父親のために、自宅で看護を行った場合には、療養看護型という種類の寄与分を主張することも考えられます。この類型でも、寄与分が認められるための条件として、特別の寄与が必要になりますから、相続人が付き添い看護をすることで、本来かかるはずだった看護費用を抑えることができたというような場合には、寄与分が認められる可能性があります。
また、生活費を負担しながら自宅で療養看護を行ったというように、複数のパターンに該当する可能性がある場合には、扶養型と療養看護型のそれぞれの寄与分を主張することが可能です。
扶養型の寄与分に関する裁判例
扶養型の寄与分が認められなかった裁判例
相続人が、被相続人の食事の世話を無償で行っていたにもかかわらず、寄与分の主張を認めなかった裁判例があります(大阪高決平成27年3月6日)。
相続人は、被相続人を自宅の近くに呼び寄せ、1日約1000円に相当する食費の提供を、無償で約18年間続けたという事案において、親子関係に基づいて通常期待される扶養の範囲を超えたものではないとして、寄与分を否定しました。また、一審では、そもそも長期に渡り食事を提供した事実も、これを被相続人の負担で行った事実も認める証拠がないとして、寄与分の主張を否定しました。
寄与行為として求められる扶養行為の程度は、相当に高いレベルであるというだけでなく、証拠を集めることの重要性が分かる裁判例です。
扶養型の寄与分は判断が難しい
扶養型の寄与分が認められるためには、通常の寄与分の要件を満たすことに加え、通常求められる範囲を超える程度の扶養を行う必要があります。どのような場合に、通常求められる範囲を超えたと認められるかは、被相続人の生活状況、相続人と他の相続人との関係、相続人の行った扶養の内容等、様々な事情を総合的に考慮して判断されることになります。そのため、扶養型の寄与分を主張するためには、知識に基づき丁寧に事実を検討する必要があります。
また、寄与分が認められる事情があったとしても、証拠がなければ裁判所は認めてくれません。証拠が散逸する前に、迅速に行動して、証拠を確保する必要があります。
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扶養型の寄与分についてお困りなら弁護士にご相談ください
扶養型の寄与分が認められるかどうかは、個別の事情によるところが大きく、相談者の方がご自分で判断するのはかなり難しいと思われます。また、家族として当然に同居や介護をしていた場合、被相続人のために支出した費用についての明確な証拠が少なく、複数の証拠を組み合わせて主張しなければ裁判官に認めてもらえない場合もあります。
正当な寄与分を主張するためには、重要な事情を整理し、必要な証拠を確保する必要がありますから、なるべく早く、弁護士に相談いただいた方がよいかと思います。
養育費は、子供に必要な生活費をいいます。
子が3人いる家庭において離婚を考える場合、離婚後の養育費について相手ときちんと金額や内容を取り決めておくことが重要です。
本ページでは、養育費の決め方や子供が3人いた場合の養育費の相場など、3人のお子様がいる方にむけて養育費について詳しく解説します。
養育費の決め方
養育費とは、子供の監護や教育のために必要な費用をいいます。
養育費の金額を算定するうえでは、子の人数と年齢、当事者双方の収入に加えて、私立学校や大学の学費などのその他の要素も検討していきます。
子供が3人いる場合、子の進学のタイミングが重なる場合も多く、同時期に高額な出費を要する場合もありますので、月々の支払い以外の取り決めをしておく必要もあります。
養育費に含まれるもの
- 衣食住に必要な費用(食費、衣服費など)
- 教育費(義務教育費用、公立高校の費用など)
- 医療費(通院治療費、薬剤費など)
上記に加えて、子の習い事費用や私立学校・大学の学費を含めて算定するのかは個別の検討を要する部分となります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
子供が3人いた場合の養育費の相場
例えば、養育費の支払う側が給与所得者で、受け取る側が専業主婦(主夫)で無職の場合と年収300万円の給与所得者の場合の養育費の相場を「養育費算定表」を参考にして、下記表にまとめてみました。
養育費を支払う側の年収 | 養育費を受け取る側の年収 | 子供3人0~14歳 | 子供2人0~14歳 子供1人15~19歳 |
子供1人0~14歳 子供2人15~19歳 |
子供3人15~19歳 |
---|---|---|---|---|---|
200万円 | 0円 | 4~6万円 | 4~6万円 | 4~6万円 | 4~6万円 |
300万円 | 2~4万円 | 2~4万円 | 2~4万円 | 2~4万円 | |
300万円 | 0円 | 6~8万円 | 6~8万円 | 6~8万円 | 6~8万円 |
300万円 | 2~4万円 | 2~4万円 | 2~4万円 | 2~4万円 | |
400万円 | 0円 | 8~10万円 | 8~10万円 | 8~10万円 | 10~12万円 |
300万円 | 4~6万円 | 4~6万円 | 4~6万円 | 4~6万円 | |
500万円 | 0円 | 10~12万円 | 10~12万円 | 12~14万円 | 12~14万円 |
300万円 | 6~8万円 | 6~8万円 | 6~8万円 | 6~8万円 | |
600万円 | 0円 | 12~14万円 | 14~16万円 | 14~16万円 | 14~16万円 |
300万円 | 8~10万円 | 8~10万円 | 8~10万円 | 8~10万円 | |
700万円 | 0円 | 14~16万円 | 16~18万円 | 16~18万円 | 16~18万円 |
300万円 | 10~12万円 | 10~12万円 | 10~12万円 | 10~12万円 | |
800万円 | 0円 | 16~18万円 | 18~20万円 | 18~20万円 | 18~20万円 |
300万円 | 12~14万円 | 12~14万円 | 12~14万円 | 12~14万円 | |
900万円 | 0円 | 18~20万円 | 20~22万円 | 20~22万円 | 20~22万円 |
300万円 | 14~16万円 | 14~16万円 | 14~16万円 | 16~18万円 | |
1000万円 | 0円 | 20~22万円 | 22~24万円 | 22~24万円 | 24~26万円 |
300万円 | 16~18万円 | 16~18万円 | 16~18万円 | 18~20万円 |
裁判所実務で利用されている算定表は上記の表のように、2万円単位でおおよその養育費を算定する形で作成されています。
しかし、養育費は厳密には1円単位まで計算することができますので、上記はあくまでも目安として具体的な金額を協議することをおすすめします。
養育費の増減について
増額するケース
- 子供が私立学校の通学している、あるいは入学することに同意している場合
- 子供の習い事や塾代などで相場より教育費が高くかかる場合
- 子供に持病があり継続的に高額な医療費が必要な場合
- 3人のうちいずれかの子供が障害をもっている場合
減額するケース
- 支払う側が子供の住む住宅のローンを支払い続ける場合
- 受け取る側が就職して収入が増加する予定がある場合
- 支払う側が前婚の時の子の養育費を支払っている場合
養育費算定表の養育費の金額はあくまでも目安となりますので、上記表のような個別の事情があれば、養育費の相場より増額や減額することは可能な場合があります。
3人の養育費が支払われる期間
元々、養育費の支払期間は法律での定めはありません。
夫婦間の合意で「高校卒業するまで」や「大学卒業するまで」や「22歳まで」などとすることも自由に決めることができますが、実務上は20歳までと取り決めることが多いです。
なお、現時点では、養育費の支払期間は成人年齢の引き下げによる影響はなく、従前の実務の運用と同様に、20歳までとすることが原則とされています。
養育費の対象とならない期間
養育費が子の監護・養育のために必要なお金である以上,監護・養育の必要がない、あるいは、監護・養育費が必須ではないような場合には、養育費の対象期間から除外されます。
①高校卒業して働き始める
高校卒業後働き始めているということは,もはや経済的に自立していますので養育費の支払いは不要と考えることになります。
②成人しているがニート・フリーターで自立ができていない
子が成人した後は,大人として経済的に自立することが期待されるため、大学や専門学校などに進学していないようなケースでは,養育費の支払い期間には含まれません。
③大学院や留学の費用
養育費の支払いは,実務上は長くとも22歳までとすることが多く、当事者間で大学院への進学や留学について従前に合意がない場合には、大学院の費用は留学の費用も必須の教育費には含まれないと判断されることが多いです。
子供が3人いた場合の養育費に関するよくある質問
3人分の養育費を一括で受け取ることはできますか?
養育費を一括で受け取ることは可能です。
養育費は子供の日々の生活費ですので、夫婦間で一括払いでの合意が成立していれば支払いを受けることは可能であるものの、一括の場合の合計額は相当高額になるケースが多いと思われ、現実的には月払いとなるばあいがほとんどです。
養育費の支払い対象となる子供が3人ですので、子供ごとに養育費の額や支払終期などを詳細にして一括払いの内訳をわかるように書面で残しておくことをお勧めします。
再婚した場合は養育費を受け取ることはできませんか?
再婚したからといって、元夫から養育費を受け取ることができなくなると決まっているわけではなく、取り決めた養育費を引き続き受け取ることは可能です。
しかし、再婚相手と子供3人が養子縁組すると、再婚相手が第一次的な扶養義務者となり、元配偶者が第二次的な扶養義務者となるため再婚相手が優先的に子供たちを扶養しなければなりません。
そのため、養子縁組をした場合には、養育費を減額されたり、受け取ることができなくなったりする場合があります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
3人の子供の養育費について離婚問題に詳しい弁護士にぜひご相談ください
本ページでは3人のお子様がいる方にむけて、離婚する際に取り決める養育費について解説してきました。
養育費は子供3人を健やかに育てるために大切なお金ですので、適切な養育費の金額や内容を取り決めることが大切です。しかし、それぞれの家庭の事情によって複雑になることもありますので、「養育費」について、お悩みのある方はぜひ、弁護士にご相談ください。
3人のお子様の年齢や状況を伺ったうえで、適切な養育費の金額や内容をアドバイスさせていただきます。
離婚後のご自身とお子様3人との生活が安心して送れるようにサポートさせていただきますので、まずはお気軽にお問合せください。
交通事故によりケガを負い、後遺症が残ってしまった場合に、後遺障害等級認定が得られれば、後遺障害慰謝料や逸失利益などの補償が受けられるようになります。
後遺障害等級認定においては、医師の作成する後遺障害診断書が最も重要な医療証拠となるため、適切な内容で後遺障害診断書を作成することが必要になります。
ここでは、後遺障害診断書の入手方法、記載内容や注意点などについて、解説していきたいと思います。
後遺障害診断書とは
交通事故後に治療を継続したにもかかわらず、症状の改善が見込めなくなった場合に、後遺障害として自賠責保険に対して、後遺障害等級の認定申請を行うことになります。後遺障害診断書は、後遺障害等級の認定申請に不可欠な書類のことをいいます。
後遺障害診断書は、主治医に作成を依頼し、後遺症の部位や程度、検査結果や治療期間などを記載してもらうことになりますが、後遺障害等級の認定は後遺障害診断書の記載を基に判断されることになります。そのため、適切な賠償金を得るためには、不備のない、正確な後遺障害診断書の作成が求められます。
後遺障害診断書のもらい方
後遺障害診断書は、医師のみが作成できるものですが、どの医師に書いてもらってもよいというわけではありません。症状の経過を把握している主治医に作成してもらうことが基本となります。
しかし、時には、トラブルに巻き込まれたくないなどの理由で後遺障害診断書の作成を頑なに拒否されてしまうケースもあります。そのような場合には、後遺障害診断書を作成してくれる病院を探して転院をして、一定期間通院し、その治療経過をもとに、後遺障害診断書を作成してもらうのが良いでしょう。
整骨院や接骨院では作成できない
整骨院や接骨院で施術を行う柔道整復師は医師でなく、後遺障害等級認定に必要な後遺障害診断書を作成することはできません。
早めに整形外科への通院に切り替えるか、または、医師の指示のもと、整形外科と整骨院を並行して通院して、後遺障害診断書の作成は医師に依頼する形にするべきといえます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害診断書の取得方法
後遺障害診断書は、保険会社から郵送してもらうか、インターネットからダウンロードする方法でも取得することができます。なお、醜状障害や歯牙障害の場合には、専用の用紙があることに注意が必要です。
後遺障害診断書の作成料金や作成時期について、以下、説明したいと思います。
後遺障害診断書の作成料
後遺障害診断書の作成料は病院により異なりますが、基本的には、5000円~10000円が相場となります。ただし、相場より高額な病院もあるため、後遺障害診断書の作成を依頼する前に、金額を確認した方がよいでしょう。作成料は一旦自己負担になりますが、後遺障害等級認定を受ければ、後日、加害者側の保険会社より支払われることになります。
しかし、残念ながら、後遺障害等級が非該当となった場合は、基本的には、被害者の負担となります。
後遺障害診断書の作成のタイミング
後遺障害診断書を医師に作成してもらうタイミングは、症状固定になったときです。
症状固定とは、「これ以上治療を続けても、改善の見込みがない状態」のことをいいます。症状固定になるまでは、完治する可能性もあるため、後遺障害がどの程度残るのかを判断できません。
症状固定になるまでの期間はケガの部位や症状により異なります。例えば、むち打ち症の場合は、事故から半年程度で症状固定となるのが一般的です。
後遺障害診断書の書き方
後遺障害診断書には「自覚症状」、「他覚症状及び検査結果」等記載すべき項目が複数あり、記入漏れや誤記があると、適正な後遺障害等級認定を受けられない可能性があります。
後遺障害診断書にどのような項目が記載されるのか、説明していきたいと思います。
被害者の基本情報
被害者の氏名、性別、生年月日、住所、職業などの基本情報が記載されます。
後遺障害等級認定の申請者を特定するための項目ですので、誤記がないかどうか確認しましょう。
受傷年月日
交通事故に遭った日付が記載されます。
事故後すぐに病院に行かず、翌日以降に病院に行った場合、医師が誤って初回の通院日を記載している可能性もあるため、よく確認しましょう。
入院期間・通院期間
後遺障害診断書を作成してもらう病院に入院した期間と通院期間が記載されます。通院期間については、実際に通院した日数も記載されます。複数の病院に通院していた場合であっても、すべての治療歴が診断書に記載されるわけではありませんので注意が必要です。
傷病名
症状固定時に残存する症状の傷病名が記載されます。なお、治療中に完治したケガについては、記載されません。
症状名は、「首が痛い」などの抽象的な記載ではなく、「頸椎捻挫」「外傷性頸部症候群」などの具体的な傷病名を正確に記載してもらう必要があります。
既存の障害
既存の障害とは、交通事故以前から被害者が持っていた精神的、肉体的障害のことです。既存障害があるならば、その障害の部位や程度が記載されます。後遺障害等級認定では、今回の交通事故で後遺症が残ったと証明することが必要になるため、既存障害の欄が設けられています。
自覚症状
「頚部痛」など、被害者自身が感じている症状が記載されます。自覚症状は後遺障害等級認定において重要なものですので、痛みのある部位、痛みの程度、医師に訴えていた内容が正確に記載されているかを確認しておくようにしましょう。
なお、後遺障害等級認定においては、常時痛があるかどうかが重要な判断要素となっていることから、常時症状があるのであれば、その点を後遺障害診断書に記載してもらうことが重要です。
他覚症状および検査結果
後遺障害等級認定において、最も重要な項目となります。
レントゲンやMRI、CTなどの画像検査やスパーリングテスト、ジャクソンテストなどの神経学的検査等の結果と、それに基づく医師の見解を記載してもらうことになります。何らかの異常所見が記載されれば、後遺障害として認定される可能性が高まります。
ただし、交通事故案件に不慣れな医師の場合、そもそも、後遺障害等級認定に必要な検査をしていない場合もありますので、等級認定申請の前に、一度、弁護士などに相談し、確認してもらうことをおすすめします。
障害内容の増悪・緩解の見通し
後遺症について、医学的所見をもとに、今後、症状が悪くなるのか、同じ症状が変わらず続くのか、症状が軽くなるのか等、今後の見通しを記載してもらうことになります。
ここでは、「上記の症状を残し、症状固定とする」「今後も治る込みがない」など記載してもらうことが理想的です。
「今後、改善の見込みがある」「予後不明」などと記載されてしまうと、後遺症が残っているわけではないのではと判断され、等級非該当になってしまう可能性がありますので、注意が必要です。
医師が後遺障害診断書を書いてくれないときの対処法
後遺障害診断書の作成を医師に依頼しても、拒否される場合があります。そのような場合、医師が後遺障害診断書を書けないと主張する理由に応じた対応方法を、以下、ご紹介したいと思います。
治療の経過がわからないから書けないと言われた場合
転院したことによって治療経過が分からず書けないと言われた場合、転院先の病院に一定期間通院し治療経過を診てもらったり、転院前の病院から診断書や診療録などを取り寄せ、改めて転院先の病院に後遺障害診断書の作成を依頼することが必要になるでしょう。
後遺障害はないと言われた場合
後遺障害診断書は後遺障害が残っていることを前提に作成されるものです。よって、医師が「ケガは完治した。後遺症はない」と判断した場合、後遺障害診断書の作成を拒否される可能性があります。
しかし、重い障害ではなく、軽い痛みやしびれなどの症状であっても、自賠責上の後遺障害として認められる可能性があります。そのような場合は、具体的な症状を医師に伝え、これでも後遺症がないと判断できるのか、再度確認することが必要です。
症状を訴えても、後遺症はないと医師が固持した場合は、転院して、別の医師に作成を依頼するという方法も考えられるでしょう。
健康保険で治療しているので書けないと言われた場合
健康保険を使って通院している場合、「健康保険を使った治療だから、自賠責保険用の書類を書くことはできない」と医師より後遺障害診断書の作成を断られる場合があります。
これは、自賠責保険の手続きには健康保険を利用できないという誤解があるからです。
しかし、交通事故によるケガの治療でも、健康保険を利用することは可能ですし、後遺障害等級認定を申請しても問題はありません。
医師に、後遺障害診断書の作成に健康保険の利用の有無は無関係であることを伝え、作成を依頼しましょう。
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後遺障害診断書の注意点
後遺障害診断書に不備や誤記がある場合、本来得られるべき後遺障害等級に認定されなかったり、非該当になったりする可能性がありますので、適切な後遺障害診断書を作成してもらうためのポイントを、いくつか挙げたいと思います。
自覚症状は正確に伝える
通院をしている段階から、自覚症状は主治医と細かく共有しておくことが重要です。どの部位がどのように痛むのか、痛み以外の症状(しびれ、めまいなど)があるかなどなるべく詳細に伝えることが充実した後遺障害診断書の作成につながります。診察時に自覚症状を隈なく伝えることは難しいと思いますので、あらかじめ、メモなどに症状を書いてから、医師に伝えるという方法が望ましいでしょう。
一貫性、連続性がある症状を医師に伝える
医師に症状を伝える際には、事故によって生じた症状が、事故から一貫して継続的に存在していることを把握してもらうことが重要になります。
具体的には、「事故直後から首の痛みがずっと続いている」というように、事故直後から一貫性、連続性を後遺障害診断書に記載してもらうことが有効です。
診断書の記載内容に不備がないか必ず確認する
後遺障害等級認定申請の前に、後遺障害診断書に必要な事項が記載されているか、または、不利な事項が記載されていないか、必要資料が添付されているか等、確認することが必要になります。
具体的には、症状固定日、入院期間、通院期間、実治療日数、自覚症状、後遺症について実施した検査とその結果(陽性など)、医師による所見が記載されているか等をチェックします。
しかし、医学的知識のない被害者が記載内容の不備を判断することは困難ですので、等級認定申請の前に、交通事故案件に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
後遺障害診断書の書き直しは弁護士に依頼する
後遺障害診断書に不備や誤記がある場合は、医師に修正を依頼しましょう。
もちろん、事実に反する事項を記載してもらうことはできませんので、修正箇所や修正が必要な理由を医師に明確に伝える必要があります。
修正を依頼するべきか判断に悩む場合や医師に修正を頼みにくい場合は、交通事故案件に精通した弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、医学的根拠に基づき、修正の必要性を医師に説明することができますので、診断書の書き直しが認められる可能性が高まります。
後遺障害診断書入手後の流れ
医師に後遺障害診断書を作成してもらい、内容の確認も終えたら、後遺障害等級認定の申請手続きに進むことになります。後遺障害等級認定の申請手続きには、以下のとおり、2つの方法があります。
①被害者請求
被害者が自ら、加害者側の自賠責保険会社に、後遺障害等級認定に必要な書類を提出し、申請手続きを行う方法です。必要書類を自ら収集する必要があるため、手間はかかりますが、自分に有利な証拠(医証、文書)を提出できるため、適切な後遺障害等級に認定される可能性が高まります。
被害者請求を行いたいが、申請手続きに不安がある場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
②加害者請求
加害者側の保険会社に申請手続きを代行してもらう方法です。
後遺障害等級認定に必要な書類の収集や申請手続きは保険会社が行ってくれるため、被害者の手間はかかりませんが、申請が保険会社任せになるので、後遺障害診断書の不備や添付資料などの確認を行えませんし、等級認定に有利な証拠を提出することもできません。よって、適切な後遺障害等級認定がなされない可能性があります。
後遺障害診断書に関する解決事例
後遺障害診断書作成のフォローを弁護士が行った結果、後遺障害等級認定を得られた事例
ALGの弁護士が後遺障害診断書作成のフォローを行った結果、後遺障害等級認定を得られた事例をご紹介します。
【事故概要】
依頼者は小型バイクで走行中、交差道路から直進してきた相手方車両と接触し負傷されました。
依頼者は本件事故により頚椎捻挫等を負い、約1年間の通院治療後、主治医に後遺障害診断書を作成してもらいましたが、今後の進め方がわからずALGにご依頼されました。
【事件の経過】
①担当弁護士が後遺障害診断書を確認したところ、「他覚的所見」欄の記載が乏しく、自覚症状中心の内容で後遺障害等級認定を得ることは難しいと判断しました。
②主治医に対し、医学的知識に基づき、後遺障害診断書の修正を依頼したところ、一部追記をしてもらうことができました。
③修正した後遺障害診断書に基づき、被害者請求で後遺障害等級認定申請をした結果、後遺障害等級併合14級が認定され、慰謝料など含めた賠償金の増額に成功しました。
後遺障害診断書を新たに作成し直した結果、後遺障害等級認定を得られた事例
【事件の概要】
依頼者が駐車場内で停車中、後方から相手方車両に追突されるという事故が発生しました。
依頼者は、本件事故により頚椎捻挫などを負い、約1年間の通院治療後、後遺障害等級認定申請を行いましたが、非該当となり、異議申し立てをするため、弁護士法人ALGにご依頼されました。
【事件の経過】
①担当弁護士が後遺障害診断書を確認したところ、「自覚症状」や「医師の所見等」欄の記載が不十分であったため、新たな後遺障害診断書を作成してくれる病院を探し出しました。
②転院先の医師に頸椎捻挫の症状の判断に必要な検査を行ってもらうよう要請し、検査結果が記載された後遺障害診断書を作成してもらいました。また、依頼者の通院日数が少なかった経緯(子供の監護により時間がとれなかった)や症状固定までの治療経過などを説明した書面を作成し、異議申立てを行いました。
③修正した後遺障害診断書を基にした後遺障害等級認定申請をした結果、、頚部痛について、後遺障害等級14級9号が認定され、慰謝料などの賠償金の増額に成功しました。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害診断書の確認から作成後の流れなど弁護士にご相談ください
医師の作成する後遺障害診断書は、後遺障害等級認定の可否を左右する、最も重要な資料となります。
しかし、医師は治療のプロですが、交通事故のプロではないため、後遺障害等級認定に有効な後遺障害診断書の作成に長けているわけではありません。医師が作成した診断書でも、等級認定に必要な情報が漏れていたり、そもそも必要な検査がなされていなかったりする場合もあります。
被害者に有利な内容の後遺障害診断書を作成したい場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人ALGであれば、医学博士が在籍する医療事故チームと交通事故チームが連携し、事件解決にあたっているため、医学的知識に基づき、後遺障害診断書の内容を精査し、修正箇所があれば、医師に修正を依頼することも可能です。
「医師が作成した後遺障害診断書が適正なものなのか判断できない」「後遺障害等級認定の申請をお任せしたい」と思われるような場合は、ぜひ、一人で悩まず、弁護士法人ALGにご相談ください。
離婚調停をどう進めたらいいかわからない…というケースは多いでしょう。
離婚調停が長引くほど、ストレスも大きくなります。早く離婚したいのにと思いながら、気付いたら調停も不成立になってしまい、裁判をしなければ離婚できない、なんてことも少なくありません。
そこで、できる限り早くストレスから解放されるために、調停をスムーズに進める方法と、調停が不成立になってしまった場合にやるべき事を解説します。
離婚調停が不成立になる時とは?
離婚調停は、合意がなければ成立しません。どうしても親権が欲しい、絶対に離婚したくない、といったように条件で折合いがつかなければ、合意の見込みがないと判断され、調停は打切り、すなわち不成立になります。
調停委員によって不成立と判断される
調停では、お互いに離婚のための条件を出し合います。
もっとも、親権は譲りたくない、条件を出されても離婚したくない、と激しく意見が対立したときには、合意は無理であると調停委員の方から判断されます。
調停は複数回行われることが多く、第1回目の調停で不成立になることはあまりありません。ただし、性格の不一致や離婚条件の対立が明らかで話し合いの余地がない場合、1回目で打ち切られることもあります。
離婚調停を途中で取り下げる
申立人は、やめたいときにいつでも調停を取下げることができます。この場合、相手の同意はいりません。また、一度取り下げた後、再び調停を申し立てることもできます。
しかし、離婚裁判まで考えているときには注意が必要です。離婚したいからといって、いきなり裁判はできません。裁判の前にまず、離婚調停を行う必要があり、これを調停前置主義といいます。
第1回目の調停前に取り下げたのでなければ、調停を経たことにはなります。他方、離婚調停から離婚裁判まで1年以上空いてしまうと、調停を経ていないと判断されやすいので、この点も注意しましょう。
当然終了
離婚調停の最中に、夫または妻のどちらかが死亡したケースはどうでしょうか。
離婚調停は当然に終了します。離婚は、当事者本人が行わなければ意味を持たない身分行為なので、当事者が死亡した場合、調停の目的はなくなるからです。
その後、配偶者の家族と縁を切りたい場合、「姻族関係終了届」を役所に提出することになります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚調停が不成立と判断されるケース
離婚調停は、お互いの条件に折合いがつかないと成立しません。また、相手が絶対に離婚したくないなど、話し合いに応じない場合も同様です。以下は、調停委員により調停不成立と判断されたケースです。
離婚調停を相手が欠席
夫婦の一方または双方が調停を欠席し話し合いができない場合、手続は続行できず、調停は不成立になります。相手が全て欠席した場合も当然、不成立です。
正当な理由のない欠席は罰金との決まりですが、実際に科されたケースはあまりありません。もっとも、その後の裁判で、話し合いに協力的でない印象を裁判所に与えてしまいます。その意味では、相手が調停を欠席すると有利ですが、それだけで離婚条件まで全て有利になることはないでしょう。
相手が離婚を拒否
離婚調停は、合意をしなければ成立しません。
絶対に離婚はしたくない、などと相手が頑なに離婚を拒否しているような場合、合意の見込みがないと判断され調停は不成立となります。その場合にも、なぜ相手がそこまで拒否しているか、調停委員に聞いてもらいましょう。夫婦関係の修復をしたいのかもしれませんし、実はある条件さえクリアできれば離婚しても良いと考えているかもしれません。相手が何を求めているかを把握することが大切です。
親権で争っている
夫婦の間に18歳未満の子どもがいる場合、親権者を決めなければ離婚はできません。離婚後は、父または母のどちらか一方が親権者になります。
調停で夫と妻が親権を取り合った結果、どちらも譲らなかった場合、離婚はできません。他の条件は全て合意ができていても、調停は不成立になります。先に離婚だけを成立させてしまうと、子どもの利益を害するおそれがあるからです。
そのため、親権で対立することが顕著なときは、裁判になる覚悟が必要です。
財産分与の対象や額に納得できない
離婚調停の中で、財産分与についても決めることができます。
この場合、財産分与も離婚条件の1つになるため、合意ができなければ調停は不成立となります。
もっとも、離婚後に家庭裁判所に対し審判というのを申し立てて、財産分与をすることもできます。これは、離婚後2年以内までと決められているため、注意が必要です。
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離婚調停が不成立と判断された場合のその後
離婚調停が不成立になると、調停手続きは終了します。
それでも離婚したい場合には、その後どうすればよいでしょうか。
離婚裁判を提起することができますが、それ以外にもいくつか方法はあります。
当事者間で再び協議する
調停が不成立になった後、改めて夫婦で協議をすることもできます。
落ち着いて話し合うことで夫婦関係を振り返り、関係修復を試みることになるかもしれません。
また、離婚をするとしても、裁判にならずに解決へと向かうこともあります。
再調停はできるのか
調停の回数に制限はないため、離婚調停が不成立でも、再度調停を申し立てることができます。
しかし、ただ申立てをしても、結果は変わりません。時間の経過により新たな事情の変化があった場合に初めて再調停が意味を持ちます。
審判離婚
調停が不成立でも、あと少しで合意できそうなので最後は裁判所に決めて欲しいと当事者が望む場合、裁判所の判断で調停に代わる審判の手続きに移ります。
これは、あと少し条件を整えれば離婚できるような場合に有効的です。
離婚裁判
不貞やDVをしたというように、有責行為をした当事者から離婚裁判を起こすことは原則としてできません。
長期間の別居など夫婦関係が破綻している場合に限り、例外的に認められます。
しかし、裁判だからと言って、判決が下されるとは限りません。裁判所から和解を促されることは多く、和解の成立により裁判が終結することもあります。
離婚調停不成立にならないためにできることとは?
離婚調停が不成立になると、離婚裁判になるケースが少なくありません。
裁判になると、長引くことも多く、費用もエネルギーも消費してしまいます。
そうならないために、合意に向けて調停を上手く進めることが重要です。
希望の条件に優先順位をつけておく
親権、養育費、面会交流、財産分与、等の条件に優先順位をつけ、具体的な希望を整理しておきましょう。当然、相手にも主張があるため、全てにおいて希望を通そうとすると合意はできません。また、譲歩する姿勢は調停委員からの印象も良く、希望を聞いてもらいやすくなるため、有利に調停を進めることにも繋がります。
感情的にならない
思うように調停が進まないと、感情をぶつけてしまう人がいますが、ぐっと我慢しましょう。調停はあくまで、離婚条件の交渉をする場であり、調停委員に感情をぶつけても結果は変わりません。むしろ、理性的な話し合いができず、合意への道のりが遠のいてしまいます。
できる限り落ち着いて話し合うことが、合意への近道です。
弁護士に頼る
相手の財産がどれくらいあるか実は知らない、親権を取りたくても何をすればいいかわからない、など不安なことも多いでしょう。
弁護士に依頼すると、必要な資料の準備、主張の整理を事前に行うことができます。よくわからないまま調停に臨むよりも、離婚に詳しい弁護士に頼る方が、調停不成立を避けやすいことは間違いありません。
よくある質問
離婚調停不成立後、別居する際に気を付けることはありますか?
離婚に必要な別居期間に特に定めはありませんが、3年を経過すると婚姻関係が破綻していると裁判所から判断されやすいです。
もっとも、調停が不成立になった後、別居を始めるときには注意が必要です。
財産分与は、別居開始時までに夫婦共同で築いた財産が対象になります。相手がどのような財産をどこに持っているかわからないまま家を出てしまうと、後で調査ができなくなることもあります。事前に、相手の口座情報などを確認しておきましょう。
また、夫婦間に収入格差があるような場合、たとえ別居中でも相手に生活費を支払わずにいると、「悪意の遺棄」にあたり相手からの離婚請求が認められやすくなってしまいます。婚姻費用の支払いは怠らないようにしましょう。
離婚調停が不成立で終わった場合でも養育費や婚姻費用は受け取ることはできますか?
婚姻費用とは、婚姻関係にある家族が資産・収入・社会的地位等に応じた通常の社会生活を維持するのに必要な費用をいい、婚姻期間中に夫婦は分担して支払義務を負います。これには、夫婦にかかる生活費のほか、養育費も含まれます。
たとえ離婚調停が不成立でも、婚姻関係が継続している限りは婚姻費用を受け取ることができ、婚姻費用分担請求時から支払われるとされているので、できる限り早めに請求するのが得策でしょう。
もっとも、離婚調停が不成立なだけでなく、夫婦がその後別居状態を解消し再び同居を開始して共同生活を回復したときには、わざわざ夫婦で分担して支払い合う必要はないので、婚姻費用の分担義務は消滅します。
調停不成立から裁判を起こすまでに決められた期間はありますか?
裁判の前にまず、離婚調停を行わなければならないとされていますが、離婚調停が不成立になってから裁判を起こすまでの期間に特に制限があるわけではありません。
もっとも、離婚裁判で重視されるのは、離婚請求をした時すなわち離婚調停の申立て時に婚姻関係が破綻していたかどうかです。そのため、何年も前に離婚調停が不成立になっていたとしても、その当時の婚姻関係の状態にすぎないので、今回の離婚裁判との関係ではあまり意味がありません。
一般的には調停不成立から1年を過ぎると、調停前置の要件を満たさないとされていますが、ケースバイケースなのでどのように判断されるかはわかりません。できる限り早く裁判をするに越したことはないでしょう。
離婚調停が不成立になった場合、別の裁判所で再度離婚調停や離婚裁判などを行うことはできますか?
離婚裁判は、当事者の住所地を管轄する裁判所で行われるのが決まりです。裁判を起こす側(原告)、起こされる側(被告)、いずれの住所地でもかまわないとされているので、訴えを起こす際に原告が選ぶことができます。
離婚調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所で行ったけれど、離婚裁判は、申立人すなわち訴訟の原告の住所地を管轄する家庭裁判所で行うということもできます。
調停が不成立になると、調停の内容、不成立の理由を示した不成立調書が作成されます。同時に、離婚裁判の当事者の事件が調停に付されていたことがわかる事件終了証明書が発行されるので、裁判所が変わると、この2つの書面により、調停を経たことが証明されます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚調停の不成立を回避したい場合、経験豊富な弁護士への依頼がお勧めです。
様々な知識を集めても、本人だけで調停を行うと見通しがわからず焦ることも多いでしょう。
弁護士から助言を受け、調停に同席してもらうなどした方が、不安に駆られて感情的になることも少なく、調停を円滑に進めやすくなると思います。
離婚調停を無事成立させるには、知識や経験を備えた弁護士に依頼することをお勧めします。
人が死亡すると相続が開始します。相続財産というと価値のある財産を想定されるかもしれませんが、相続に含まれる財産は、プラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も含まれますので、相続した場合には借金等の支払いもしなければなりません。
この点、相続放棄をすると、相続人ではなくなるので借金等の支払いをする必要はなくなりますが、プラスの財産も相続することができなくなるデメリットもあります。
今回は、相続放棄をした場合のデメリットを説明します。
相続放棄で生じるデメリットとは?
相続放棄とは、相続人が、亡くなった被相続人が有していた権利や義務を引き継がないことの意思を表示することを言います。
相続放棄は、権利と義務の両方を引き継がないことになるので、良いことだけでなく不利益を被ることもあり、相続放棄をするか否かは慎重に検討する必要があります。
全ての遺産を相続できなくなる
相続放棄をすると、被相続人の権利と義務を一切引き継がないことになるので、マイナスの財産だけでなく、プラスの財産も引き継ぎません。プラスの財産とマイナスの財産で主なものは以下の通りです。
プラスの財産 | マイナスの財産 |
---|---|
・土地、建物、借地権等 ・預貯金 ・株券、証券、投資信託等の有価証券 ・貸付金、立替金等の債権 |
・借入金 ・未払金 ・買掛金 ・保証債務、連帯保証債務 ・税金、延滞金 |
他の相続人とトラブルに発展するおそれがある
相続人となるか否かについては、相続人になる順位が関係します。相続放棄をすると、その人は相続人ではなくなるので、同順位の相続人がいない場合には、次の順位の相続人に相続権が移ります。
先順位の相続人が相続放棄をすると、次順位の相続人が、想定に反して相続人になるので、相続人になるなんて思わなかったなどと困惑し、トラブルになることもあります。そのため、相続放棄をする場合には、事前に次順位の相続人に、相続放棄をすることを伝えておく方が良いです。
なお、相続順位は以下の通りです。
第1順位 | 子(死亡している場合は孫) |
---|---|
第2順位 | 親(死亡している場合は祖父母) |
第3順位 | 兄弟姉妹(死亡している場合は甥・姪) |
相続放棄したら原則撤回できない
上述の通り、相続放棄をすると次順位の相続人に相続権が移り、次順位の相続人で遺産分割協議を行うこともあり、他の人にも影響を与えますし、遺産分割を早期に終結する必要があります。そのため、一度相続放棄をした場合には、その意思表示を撤回することはできないのが原則です。
例外的に相続放棄の取消しをすることができるケースもあります。
- 未成年者が親権者等の同意を得ずに単独で行った相続放棄
- 成年被後見人、被保佐人、被補助人が、その定められた方法(同意や裁判所の許可等)以外で行った相続放棄
- 詐欺、強迫、錯誤など、自身の真摯な意思で行ったわけではない相続放棄
などの場合には、有効な法律行為ではないので取り消すことができます。もっとも、これらの場合も、相続放棄の意思表示を取り消すことができるだけで、撤回をすることができるわけではありません。
生命保険金・死亡退職金の非課税枠が使えない
生命保険金や死亡保険金は、相続財産ではなく、保険金を受け取る人の固有の財産ですので、相続放棄をしたとしても、保険金を受け取ることができます。
そして、保険金を受領する際には、【500万円×法定相続人の数】の非課税枠があります。
相続放棄をするか否かで相続税額を変更することを出来てしまうことによる、納税者間の課税の不公平を排除するため、相続放棄をした人がいるとしても、この非課税枠の「法定相続人の数」にはその人も含みます。もっとも、この非課税枠が適用されるのは、財産を相続する相続人だけです。相続放棄をした人は相続人ではなくなるので、非課税枠を適用されることはなく、税金を支払う必要があります。
家庭裁判所で手続きをしなければならない
相続放棄をするためには、自身が相続人であることを知った日から3か月以内に、管轄の家庭裁判所に相続放棄の申述の申立てを行い、受理してもらう必要があります。
相続放棄の申述のためには、戸籍や申立書など必要書類を提出する必要があり、資料の取り付けや作成をしなければなりませんし、相続放棄ができる期間も決まっているので、迅速な判断をしなければなりません。
相続放棄の手続き方法について相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続放棄のメリットとは?
相続放棄をすると、被相続人の権利義務を引き継がず、相続人ではなくなります。そのため、借金などのマイナスの財産を引き継がずに済みますので、債権者から取立を受けたり、債務を支払ったりすることはありません。また、相続人ではなくなるので、相続問題や他の相続人との関係を断ち切ることができ、相続トラブルを回避することができます。
相続放棄をする際の注意点
相続放棄をすることができるのは、3か月間と期間制限があるなど、相続放棄をした場合のメリットデメリットだけでなく、手続きについても知っておく必要があります。以下、相続放棄をするにあたっての注意点を解説します。
相続放棄には期限がある
相続放棄は、相続の開始を知ってから3か月以内に、管轄の家庭裁判所に相続放棄の申述を申し立てる必要があります。相続の開始を知ったときから、期限は進行しますので、相続放棄をする場合には、迅速に判断をする必要があります。
もっとも、相続の開始を知った時点で、被相続人と疎遠だった場合や被相続人の財産関係は不明だった場合なども考えられ、3か月の期限内に、相続放棄をすべきか否かを判断することが難しい場合もあると思います。そのようなときには、速やかに、家庭裁判所に対して、相続放棄をするか否かの検討のため、3か月間の申述期間の延長を求める申請を行う必要があります。家庭裁判所に、相続放棄のための申述期間の伸長の申請を行い、その申請が認められれば、申述の期間が延長できるので、その間に相続財産の調査や相続放棄をするか否かを検討することができます。
相続放棄の期限はいつまで?生前の相続放棄はできない
相続放棄をするには期限があるのであれば、相続開始前に相続放棄をしておこうと考えるかもしれませんが、相続自体が発生していないので、相続が開始する前に相続放棄をすることはできません。
そして、生前には、推定相続人の立場では財産調査をするにも限界があるので、正確に相続財産を把握することができません。また、相続放棄をした時点では、借金があっても、亡くなるまでの間に借金を完済することもあり、財産関係は変化しています。そのため、相続開始時点ではプラスの財産のみが残っていた状況だったということもあり、相続放棄をしたことを後悔する可能性もあります。
やはり、相続放棄は、相続が開始してからしっかりと検討する必要があるのです。
財産に手を付けてしまうと相続放棄が認められない
相続放棄は、期間を順守すればいつでもできるわけではありません。
相続放棄は、権利や義務も承継せず、相続人ではなくなる手続きですので、相続放棄をする前に、相続人として行動している場合には、相続放棄をすることができなくなります
例えば、
- 被相続人の預貯金を引き出して利用したり自分の口座へ入金したりした
- 被相続人の預金を解約して自分名義に変更した
- 被相続人の財産を処分した
- 形見分けや遺品整理として衣類などを他人に譲渡した
などです。
被相続人の財産を使用、処分する行為は、相続人でなければできない行動です。相続放棄をすると決めたときや相続放棄をするか否かを迷っているときには、むやみに被相続人の財産に手を付けてしまうと、相続放棄ができなくなるので、注意が必要です。
相続放棄しても管理義務が残る場合がある
相続放棄をすると、権利義務を引き継がなくなるのですが、相続放棄をしたからといって安心できない場合があります。
それは、不動産や株式などの管理が必要な資産を被相続人が有している場合です。
民法上、相続放棄をしても、他の人が相続財産の管理を開始できるまで、その人が管理しなければならないと定められています(民法940条1項)。つまり、相続人がもともと一人しかいなかった場合や、相続放棄したら他に相続人がいなくなった場合の最後に放棄した相続人は、相続放棄をしたとしても、不動産や株式などの財産を管理する人が現れるまで、その財産を管理しなければならないのです。
相続放棄でトラブルにならないためのポイント
相続放棄をすると、相続人ではなくなるので、相続トラブルとは無縁になると思われるかもしれませんが、そこには落とし穴があります。
相続放棄をしても、親族関係には変わりがないので、相続放棄をしたことでトラブルに発展してしまうこともあります。
他の相続人に相続放棄する旨を伝える
相続放棄をしても、他の相続人に対して、裁判所から相続放棄をしたことは通知されません。そのため、残りの相続人は相続放棄をしたことを知らず、残りの相続人だけに債務の取り立てが来たり、不動産等の管理が必要な財産がある場合には、その管理を継続しなければならなかったりと、他の相続人に負担が多くなることがありトラブルになることもあります。
そこで、相続放棄をする場合には、他の相続人が相続放棄について検討する機会を与えるためにも、事前に他の相続人に連絡をした方が良いですし、可能であれば相続人全員で協議ができるとなお良いです。
相続財産を正確に把握する
相続放棄するか否かの判断においでは、被相続人の資産や債務の内容を正確に把握する必要があります。その場合、相続人の立場で、相続財産を調査することができます。預貯金や金融資産の有無や不動産の有無、債務の有無などを調査することができます。
ただ、調査をするといっても簡単ではなく、必要な書類も多かったり、そもそもどこに問い合わせをしたらよいのかもわからなかったりする場合が多いです。
そのようなときは、相続財産調査を弁護士に依頼すれば、弁護士の方である程度の調査を行うことができるので、負担は軽減できます。
「限定承認」をする選択肢も
債務を引き継がない方法は、相続放棄だけではなく、限定承認という方法もあります。
限定承認とは、被相続人の債務がどの程度あるか不明の場合に、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ制度です。負債の程度は不明であるものの、不動産は受け継ぎたいなどの場合によく使われる制度です。
限定承認は、相続放棄と同様に申述には、相続の開始を知ってから3か月間という期間制限がありますし、相続人全員が共同して行う必要があります。そのため、限定承認の申述を行う際には、相続人全員で協議をしなければなりません。
全ての債務ではないとしても、債務を引き継がない方法には、相続放棄だけでなく限定承認という方法もあるので、相続放棄をする前に一度検討してみてください。
限定承認とは相続放棄に関するQ&A
土地や家を相続放棄する場合のデメリットはありますか?
被相続人が土地や家などの不動産を有している場合、相続放棄をすれば、不動産を相続しないので、その所有者になることができません。そのため、その不動産から得られる家賃収入や不動産売却益などは、所有者ではないので、受け取ることができなくなります。
また、相続人の全員が相続放棄した場合、不動産は管理が必要な財産ですので、次に管理をする人が現れるまでは、管理をする必要があります。そのため、相続放棄の申述が受理されたとしても、管理する手間や維持費用等は負担しなければなりません。
さらに、次に財産を管理する人として相続財産管理人の選任などの手続きを行ったりそのための費用を負担したりしなければならなくなります。
被相続人の子供が相続放棄すると、兄弟の相続分は増えますか?
被相続人の子が相続放棄をした場合、第二順位の親などの直系尊属もいないときには、第三順位の被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹が相続人となれば、相続分は増えることになりますが、マイナスの財産も引き継ぐことになるので、経済的利益があるとは限りません。そうすると、兄弟姉妹においても、相続放棄をすべきか否かを検討しなければなりません。
そのため、被相続人の兄弟姉妹は、先順位の相続人が相続放棄をしたか否かに注意を払う必要があります。
相続人の全員が相続放棄したら、借金は誰が払うのでしょうか?
相続放棄をすれば、権利も義務も承継しないので、被相続人の借金を返済する必要はなくなります。そのため、他の相続人がいるのであればその相続人が、その借金に、保証人や連帯保証人が要るのであれば、その人達が返済義務を負うことになります。
相続人や連帯保証人などがいない場合には、相続財産管理人が、被相続人の財産を調査して、プラスの財産から債権者に配当をして、借金を返済することになります。
相続放棄ができないケースはありますか?
- すでに相続を承認している場合
- 相続放棄の申述者の真意によらないで申立てをした場合
- 相続放棄の申述に必要な書類が足りなかったり、裁判所からの連絡に応じなかったりした場合
以上の場合には、相続放棄をすることはできません。
また、相続放棄の申述の熟慮期間を徒過すると、原則的には相続放棄は認められません。
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相続放棄で後悔しないためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
これまで述べてきた通り、相続放棄は、マイナスの財産を引き継がなくて済むなどのメリットだけの制度ではありません。プラスの財産が後で見つかっても相続できないなどのデメリットも多くあります。そのため、相続放棄をするか否かには慎重な判断が必要となる一方で、相続放棄の申述ができる期間は決まっているので、速やかに判断をする必要があります。
相続放棄をすべきか否かを迷っている間に、申述期間が徒過してしまい、相続放棄ができなかったというケースもあります。
相続放棄をすべきか否かで迷った場合には、お早めに弁護士にご相談ください。ご相談いただければ、現状を整理し、相続財産の調査が必要か、被相続人の財産や債務の状況を踏まえて相続放棄をすべきか、相続放棄の申述期間の延長申請をすべきかなどをアドバイスすることができます。
民法904条の2は、財産の維持又は増加について特別の寄与がある相続人に対し、寄与分を認めています。寄与の類型には家業従事型や財産給付型、療養看護型等、いくつかの類型があります。今回は、その中でも、被相続人の財産管理をしたことにより、遺産が維持又は増加された場合(財産管理型)の寄与分について、紹介していきます。他の寄与分の場合と同様ですが、どのような寄与行為をしたのか、なるべく客観的証拠を残しておくことが重要です。
財産管理型の寄与分とは
財産管理型の寄与分は、相続人が、被相続人の財産を管理することで財産の維持形成に寄与した場合の寄与分のことです。どういった財産管理行為が、財産管理型の寄与分として認められるかはケースバイケースですが、様々な態様が考えられます。
財産管理型の寄与分が認められるためには、財産管理の必要性、特別な貢献、無償性、継続性、財産の維持・増加との因果関係が必要です。
具体例
具体例としては、以下のものがあげられます。
被相続人所有の土地の売却の際、土地上の家屋の借家人との立退き交渉、家屋の取壊し、滅失登記手続き、土地の売買契約の締結等に努力した相続人について、寄与分を認めた例(長崎家諫早出昭62・9・1家月40・8・77)
被相続人が遺産である不動産関係の訴訟の第1審敗訴後、特定の相続人が証拠の収集に奔走し、控訴審で逆転勝訴の結果を得たことについて、その相続人に寄与分を認めた例(大阪家審平6・11・2家月48・5・75)
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寄与分と特別寄与料の違い
法改正により、「特別寄与料請求権」というものが法定されました。
これは、寄与分とは全く別の制度です。
特別寄与料請求権というのは、
- 被相続人の親族のうち、相続人、相続放棄をした者及び相続権を失った者以外の者が
- 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより
- 遺産の維持又は増加に特別の寄与をした場合に
- 相続人に対し
- 特別寄与者の寄与に応じた金銭の請求をすることができる
というものです。
寄与の態様として、労務の提供を伴わないような寄与では、特別寄与料請求権は認められません。
財産管理型の寄与分の計算式
あくまで財産管理型として寄与分が認められた場合の、計算式の一例にすぎませんが、例えば以下のような考え方で計算をします。
①不動産の賃貸管理等の場合
相当思われる財産管理費用×裁量割合=寄与額
相当と思われる財産管理費用については、例えば、賃料の3%、5%等といった数字です。
裁量割合は、0.5、0.7といった数字です。
いずれも、寄与分を定める処分の審判においては、裁判官が判断をすることになります。
②火災保険料、修繕費、不動産の公租公課等を負担している場合
現実に負担した額×裁量割合=寄与額
相続人が現実に負担した額に、上記裁量割合を掛けます。
寄与分を認めてもらう要件
寄与分全般として、寄与分が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 寄与行為
- 被相続人の財産の維持又は増加
- 寄与行為と財産の維持又は増加との因果関係
- 無償性
- 特別の寄与
- 継続性、専従性等
相続財産管理型の場合、特に、以下の要件を満たす必要があります。
- 財産管理の必要性(寄与行為)
- 被相続人の財産の維持又は増加
- 寄与行為と財産の維持又は増加との因果関係
- 無償性
- 特別の寄与
- 継続性
例えば、相続人が、長年にわたり、被相続人所有の収益不動産の管理全般を無償で行い、適切に管理した結果被相続人の財産の維持又は増加が図れた場合には、寄与分が認められる可能性があります。
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成年後見人として財産を管理していた場合
被相続人に判断能力がなくなってしまい、成年後見人が就任することがあります。成年後見人の業務として、被相続人の財産の管理を行うことになります。
成年後見人が相続人の中から選任されているのであれば、成年後見人の財産管理を寄与行為とみて、寄与分が認められる余地も一応はあります。しかし、成年後見人には通常であれば報酬も発生していますし、公的な職務として行っているのであり、特別の貢献といえるか等も問題となると思われます。基本的には、成年後見人の財産管理行為について寄与分を認めてもらうのは困難と考えられます。
なお、寄与分が認められるのは相続人だけですが、成年後見人は相続人以外からも選任されることがあります。
財産管理型の寄与分はどう主張すれば良い?
寄与分は、一般的に、裁判所に認めてもらうハードルは高く、適切な主張・立証が必要です。具体的な寄与行為の態様によって、主張・立証のポイントは異なりますが、とにかく重要なのは、なるべく客観的な証拠に残しておくことです。
主張するための重要なポイント
財産管理型の寄与分を主張する際は、要件に沿って、重要な事実に絞って主張するのが重要です。
財産管理をした場合には、いつから、どのような管理行為をしてきたのかを時系列にまとめるようにしましょう(寄与行為、特別の貢献、継続性)。また、どのような経緯で管理行為をするようになったかも主張する必要があります(財産管理の必要性)。無償であることも十分に説明する必要があります(無償性)。管理行為をして以降の被相続人の財産の推移についても整理しておく必要があります(財産の維持又は増加とその因果関係)。財産管理に伴い費用を負担した場合は、その経緯と内容を主張します。
有効となる証拠
寄与分の主張においては、上記主張を裏付ける客観的な証拠をなるべく残すようにしておくことが最も重要です。例えば、金銭出納帳や具体的な管理行為を行っていたことが窺われる様々な資料等を用意しておくことが重要です。裁判官は、まずは事実認定をしなければなりませんが、証拠がなければ、十分な認定を期待することはできません。
財産管理型の寄与分に関する裁判例
財産管理型の寄与分に関する裁判例は多くはありませんが、以下、いくつか紹介していきます。どのような寄与行為に寄与分が認められ、又は寄与分が認められていないか参考になります。
財産管理型の寄与分が認められた裁判例
被相続人が遺産である不動産関係の訴訟の第1審敗訴後、特定の相続人が証拠の収集に奔走し、控訴審で逆転勝訴の結果を得たことについて、その相続人に寄与分を認めた例(大阪家審平6・11・2家月48・5・75)があります。
訴訟の内容にもよるでしょうが、例えば、当該不動産の所有権をめぐる訴訟において、第1審で敗訴した後、証拠収集に相続人が奔走した結果、控訴審で逆転勝訴したのであれば、相続人の行為が遺産の維持又は増加につながったといえそうです。そして、証拠収集に奔走した時間や手間、集めた証拠の内容次第では、特別の貢献も認められ、寄与分が認められる可能性があります。
財産管理型の寄与分が認められなかった裁判例
被相続人が行っていた駐車場管理を相続人が引き継いで管理・経営していたことについて、相続人が報酬を毎月5万円取得していたことから、寄与分を否定された例(大阪家審平19・2・8家月60・9・110)があります。
財産管理行為について、相続人が有償で業務を行っていたことから、無償性が否定されたものと考えられます。他方、管理業務に対する報酬として、毎月5万円では著しく低額であるというような管理業務であれば、「無償」と評価してもよく、寄与分が認められる可能性もあります。
財産管理型の寄与分に関するQ&A
父の資産を株取引で倍増させました。寄与分は認められますか?
被相続人の財産管理行為として、投資行為をすることがあります。例えば、父の資産を株取引で倍増させたというような場合、寄与分が認められるかどうか、問題となります。
最終的な判断は、具体的な行為態様や結果により、異なり得るところですが、通常であれば、寄与分は認められないものと考えられます。投資には資産減少のリスクもありますが、資産減少の場合には相続人はリスクを負わず、被相続人の財産が減少するだけです。他方で、資産が増加したときに寄与分を認めてしまっては、公平ではないと考えられます。したがって、寄与分は認められにくいと考えられます。
母が介護施設に入っていた間、実家の掃除を定期的に行い、家をきれいに保ちました。寄与分は認められますか?
それぞれの要件において問題になる点があると思われますが、一般的には、寄与分は認められないものと考えられます。親と子という身分であれば、実家の掃除をして清潔に保つということは、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度の負担であると思われますので、特別の貢献とは評価されないと思われます。また、具体的な費用の支出がなく、単に掃除をしていたということであれば、被相続人の財産の維持又は増加があったと立証することも困難と思われます。
父の所有するマンションの一室に住みながら、管理人としてマンションの修繕等を行った場合、寄与分は認められますか?
父の所有するマンションに無償で居住していたのであれば、修繕等に対して有償の対価(無償で居住できる利益)があったものと評価される可能性があります。修繕等の内容に比して、その対価が著しく低額であるという事情がなければ、寄与分としては認められないものと考えられます。
また、管理人としての報酬をもらっていた場合でも、同様に、無償性が否定される可能性があります。
最終的には修繕等の具体的内容や賃料相当額、管理人報酬等の金額によって結論は変わり得ますが、有償の場合には、寄与分は認められにくいと考えられます。
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財産管理型の寄与分請求は弁護士にご相談ください。
寄与分の主張・立証は専門家でも難しいことがありますので、少なくとも専門家に一度相談されることをお勧めいたします。既に相続が発生している場合はもちろんですが、将来的に相続が生じる際、自分の寄与分が認められるようにしておきたいという場合でも、今からアドバイスできることは多くあります。ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
夫・妻からモラハラを受けて苦しみ、離婚を考えている方は少なくないのではないでしょうか?
モラハラは言葉による暴力であるため、被害が外に見えづらく、また、モラハラ相手は外面がいいことが多いため、周りに理解されず悩んでいる方が多くいらっしゃると思います。
そもそも、モラハラを理由に離婚することはできるのでしょうか?
また、モラハラで離婚する場合に注意しておくべきことはどんなことでしょうか?
この記事では、モラハラで離婚する際に知っておくべきことを解説していきますので、夫・妻からのモラハラで悩まれている方は、ぜひ参考になさってください。
モラハラを理由に離婚できるのか?
夫婦間の話し合いによる「協議」や、調停委員を介した「調停」においては、お互いが離婚に合意さえすれば、モラハラを理由に離婚することは可能です。
ただし、モラハラ配偶者は、モラハラをしている自覚がなかったり、自分の非を認めなかったりして、そもそも話し合いが難しい場合が多いです。そのため、協議や調停では合意にいたらず、裁判へと進む可能性も考えられます。
裁判で離婚を認めてもらうには、相手のモラハラが、法律が定める離婚理由(法定離婚事由)のうち、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあてはまることを証明する必要があります。例えば、悪質なモラハラが日常的に繰り返され、モラハラ相手に反省の色がないような場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由」と認められる可能性があります。ただし、悪質なモラハラが継続的に行われていることを、裁判官に認めてもらえるような客観的な証拠の提出が必要となりますので注意が必要です。
モラハラをしているのが姑の場合
協議や調停の場合では、離婚理由は訴訟の場合よりは厳密には問題とされませんので、姑からのいじめという理由であっても、夫・妻が離婚に応じさえすれば、離婚することは可能です。
しかし、夫・妻が離婚に応じない場合は、離婚裁判を起こす必要があります。
裁判で離婚を認めてもらうには、姑のモラハラが、法定離婚事由のうち「婚姻を継続し難い重大な事由」にあてはまることを、客観的証拠によって証明する必要があります。
例えば、以下のようなケースでは、離婚が認められる可能性があります。
①夫・妻が姑のモラハラを見て見ぬふりをした
②夫・妻が姑と一緒になってモラハラを行った
つまり、姑の行動その自体ではなく、姑のいじめに対して【夫がどのような対応をしていたか】によって、離婚できるかどうかが決まるということになります。一方で、離婚が認められにくい場合としては、以下のようなケースが考えられます。
①夫・妻がモラハラする姑に注意をしていた
②夫・妻がモラハラをされた相手の味方となっていた
子供がモラハラされている場合
子供が夫・妻からモラハラされている場合、夫・妻が離婚に応じさえすれば、離婚することは可能です。また、応じてくれない場合でも、モラハラの内容や程度によっては、裁判で離婚が認められる場合があります。
ただし、モラハラ配偶者との話し合いが難航し、離婚するまでに時間がかかりそうな場合は、まずは離婚よりも子供の身の安全を守ることを優先させることを検討すべき場面があるかもしれません。
配偶者暴力相談支援センター、児童相談所、場合によっては警察等に相談しましょう。後に、これらの事実や相談記録がモラハラの重要な証拠となる可能性があります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
モラハラの慰謝料はもらえる?
夫・妻のモラハラによって精神的苦痛を受けとしても、慰謝料をもらえる可能性はあまり高くありません。
例えば、夫婦喧嘩程度のものや、多少言い方がきついぐらいでは、慰謝料の請求は難しいです。
モラハラが誰の目から見ても悪質で、継続的に行われていることを証明する客観的な証拠を用意したとしても、認められる慰謝料の金額は低額なケースが多いです。
モラハラを理由に離婚する方法
夫・妻のモラハラを理由に離婚するにはどうすればいいのでしょうか?
離婚する方法として、以下の3つが挙げられます。
①協議離婚(夫婦の話し合いによる離婚)
②調停離婚(調停委員を介した話し合いによる離婚)
③裁判離婚(裁判所の判決による離婚)
まず、夫婦2人での協議(話し合い)から始めることになりますが、前述のとおり、モラハラを行うような者と冷静に話し合うことはそもそも難しいでしょう。
また、調停では、調停委員を介して話し合うことになりますが、モラハラ配偶者は外面がいいことが多いため、調停委員がだまされてしまい、離婚が認められない可能性があります。そのため、協議や調停では合意できず、離婚裁判へと進むことも少なくありません。
裁判離婚を成立させるためには、相手のモラハラが、法律が定める離婚理由(法定離婚事由)にあてはまることを、客観的な証拠によって証明する必要があります。
裁判による離婚を目指す場合でも、まずは原則として、離婚調停を行うことが必要となりますので、調停の段階から離婚問題に詳しい弁護士に相談し、必要な準備や対策をすることをおすすめします。
モラハラの証拠として有効なもの
モラハラを証明する証拠として有効なものを、以下でご紹介します。
モラハラが誰の目から見ても悪質で、継続して行われていることがわかるような客観的な証拠が必要となります。
- 相手がモラハラを行っているときの録音・録画データ
- モラハラ発言が含まれた相手からのメールやLINEなどの文面
- モラハラ発言が含まれた相手のSNS(Twitter、Facebook、Instagramなど)の投稿やメッセージ
- モラハラを受けたことを記録した日記やメモ
- 精神科や心療内科などを受診した診断書やカルテ、領収書
- 警察や児童相談所などへの相談記録
- 親族や友人など第三者からの供述書
モラハラ配偶者が離婚してくれない場合の対抗手段
モラハラ配偶者に離婚を切り出しても、「自分はモラハラをしていない」と否定したり、配偶者や子供への執着心が強かったりして、離婚に応じてくれない可能性があります。
モラハラ配偶者がなかなか離婚してくれない場合の対抗手段として、以下のようなものが挙げられます。
思い切って別居する
まずは、思い切って別居しましょう。同じ場所に住んで、モラハラを受け続けると、強いストレスから心のバランスが崩れてしまうおそれがあります。
また、モラハラの支配下にあると、「怒られているのは自分が至らないからだ」「この人を支えられるのは自分しかいない」などと思い込み、正常な判断ができなくなることもあるので、ひとまず距離を置いてみることが必要です。
別居をすると、お互い離婚について冷静に考える機会を持つことができます。また、別居されてしまったら仕方がないと、相手が離婚に応じる可能性もあります。
なお、別居期間が一定期間続くと、婚姻関係が破綻していると判断され、法定離婚事由に該当するとして、離婚が認められる場合もあります。
別居したいけれどお金がない場合
別居したいけれど、今後の生活費に不安を抱き、別居に踏み切れない方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。特に、専業主婦やパートタイマーなど収入が少ない方にとっては、別居後の生活費の工面が気がかりでしょう。
この場合、婚姻費用の請求をご検討ください。
婚姻費用とは、「夫婦が結婚生活を維持するのに必要な生活費」のことをいいます。基本的に、収入の多い者から収入の少ない者に支払われるもので、たとえ別居中だったとしても、戸籍上の夫婦であるならば、別居期間中の生活費を、一定の額、婚姻費用として相手に請求することができます。
別居にあたっての注意点
別居する際は、相手に察知されないように十分気をつけましょう。また、置き手紙やメールなどで構いませんので、モラハラ配偶者に「あなたの度重なる暴言に我慢できないから、別居します」などと、別居をしていること自体と、別居の理由を明確に伝えておくようにしましょう。
また、相手に別居先がバレないようにしておくことも必要です。家族や友人、共通の知り合い、子供の通う学校関係者などに、相手から居場所を聞かれても答えないよう、口止めしておきましょう。
また、住民票を移すことについても、慎重になってください。相手は住民票を取り付け、追跡をすることができるからです。
なお、別居後、相手と連絡をとることに不安がある場合は、弁護士が窓口となることも可能ですので、相談をご検討ください。
相手が下手に出ても受け入れない
モラハラには以下のように3つの周期があるとされています。
①蓄積期:常にイライラしており、ちょっとしたことでかっとなって、怒りやストレスを溜めていく時期
②爆発期:溜まった怒りやストレスが爆発し、相手に暴言を吐いたり、物を壊したりするなどの時期
③ハネムーン期:自分の非を認めて反省の弁を述べ、人が変わったように優しくなる時期
モラハラ配偶者が優しくなって下手に出てきても、決して受け入れてはいけません。
いわゆるハネムーン期にあるだけで、しばらく時間が経つと、また、蓄積→爆発→ハネムーンというサイクルが始まることになるため、同じことの繰り返しになってしまいます。
モラハラ配偶者と離婚をする際は、ハネムーン期の相手に翻弄されることなく、「何があっても離婚する」という強い意思を持つようにしましょう。
話し合いは第三者に介入してもらう
モラハラ配偶者と直接話し合う場合は、二人きりではなく、第三者の立ち会いのもとに話し合うことをおすすめします。家族や友人、知人などに立ち会いをお願いしてもよいですが、親しい間柄だと、夫婦のどちらかに肩入れしてしまったり、感情的になってしまったりして、話し合いがスムーズに進まない可能性があります。
そのため、離婚協議を公平に進めていくためには、できれば離婚問題に精通した弁護士を介入させ、代理人として交渉や調停対応をしてもらうことをお勧めします。
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モラハラでの離婚について不安なことがあれば弁護士に依頼してみましょう
夫・妻からモラハラを受けている方は、自分自身に問題があるのではと思い悩まれている方が多いですが、本当にそうかは、実は自分ではなかなかわからないものです。
一度相談いただき、状況を整理してみませんか。
人生の新たなスタートを踏み出せるよう尽力いたしますので、モラハラで離婚を考えている方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
交通事故によりケガを負い、治療をしたにもかかわらず、完治せず、後遺障害が残ってしまった場合、体が不自由になることにより、労働能力が低下し、将来の収入が減少することが想定されます。
この収入の減少分を逸失利益として、加害者に賠償請求することが可能です。
逸失利益は交通事故賠償金の中で最も高額になる可能性があるため、慎重かつ適切な計算が求められます。
ここでは、逸失利益の内容や計算方法、具体的な計算例、増額するためのポイントなどについて説明していきたいと思います。
後遺障害逸失利益とは
後遺障害逸失利益とは、事故により後遺障害が残ったことで失われた将来の収入分のことをいいます。後遺障害を負うと、自由に歩けなくなったり、手足を動かしにくくなったりするなど、労働が制限されますので、将来の収入分が減少することが想定されます。この減少分は事故によって発生した損害として、加害者に賠償請求することが可能です。ただし、請求するためには、自賠責保険の定める後遺障害等級認定を受ける必要があります。
後遺障害逸失利益を請求できるのは、後遺障害が残った被害者本人です。ただし、事故の時点で、以下の条件のいずれか1つを満たす必要があります。
①事故前に実際に収入を得ていた
②将来働いて収入を得る可能性が高かった
③家事労働など経済的価値が認められる活動をしていた
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後遺障害逸失利益の計算方法
後遺障害逸失利益の基本的な計算方法は以下のとおりとなります。各用語については後ほどご説明します。
有職者の場合は、事故前年の年収を基礎収入としますが、18歳未満の未就労者の場合は、収入がないため、基本的には、賃金センサスの平均賃金額に基づいた金額を基礎収入とし、逸失利益を計算します。なお、賃金センサスとは厚生労働省の調査結果に基づき、労働者の性別、年齢、学歴等別に平均賃金をまとめたデータのことをいいます。
(有職者)
基礎収入(事故前年の年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数=後遺障害逸失利益
(18歳未満の未就労者)
基礎収入(賃金センサスによる平均賃金)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数=後遺障害逸失利益
基礎収入の算出方法
逸失利益の計算に用いる基礎収入とは、基本的には、事故前1年間の収入になりますが、被害者の属性により算出方法が変わります。
以下、被害者の属性別の基礎収入額の算出方法を解説します。
給与所得者(会社員など)
サラリーマンやOLなど給与所得者の場合は、基本的には、事故前年の年収を基準とし、基礎収入を計算します。具体的には、源泉徴収票や給与明細などから判断します。なお、この収入は手取り額ではなく、所得税等控除前の収入で、基本給やボーナスの他、皆勤手当などの各種手当も含まれます。
ただし、被害者が30歳未満の若年労働者の場合で、事故前の収入額が賃金センサスの全年齢平均賃金額より低く、将来的に全年齢平均賃金額を得られる可能性が高い場合には、年収の低い若年労働者保護のため、全年齢平均賃金額を基準とし、基礎収入を計算するのが一般的です。
個人事業主(自営業など)
自営業者の場合も、事故前年の確定申告所得額を基準とし、基礎収入を計算します。
青色申告控除を受けている場合は、控除前の金額を使います。
この所得額は売上から経費を控除したものですが、事務所の家賃や従業員に対する給料などの固定費は、基礎収入の計算の際には、経費として控除されないとされています。
なお、確定申告をしていない場合や過少申告をしている場合でも、帳簿や領収書等により所得額を証明できれば、実際の収入が基礎収入として認められる可能性があります。
また、前年の所得額を証明できない場合や、確定申告額が赤字または賃金センサスの平均賃金よりも低額の場合は、被害者の職歴や勤務状況等を考慮し、賃金センサスの平均賃金を基準に基礎収入が計算される場合もあります。
もっとも、過少申告がなされている場合は、いざ裁判となった場合でも、裁判所からは、嘘をついていた点が重くみられ、「実際の収入の証明」のハードルがかなり高まってしまうことを覚悟しなければなりません。過去過少申告という嘘をついていた者が、実際の収入の証明において嘘をついていないという保証はどこにもないからです。
会社役員
会社役員は、基本的に事故前1年間の役員報酬額を基準として、基礎収入を計算します。
役員報酬は、役員が働いた結果支払われる労働対価部分と、会社の業績によって配当を受ける利益配当部分に分けられ、逸失利益として請求できるのは、労働対価部分のみです。
家事従事者(主婦など)
主婦(主夫)の場合、現実の収入はありませんが、家事労働をしているとみなされ、基本的には、賃金センサスの女子全年齢平均賃金をもとに基礎収入を計算します。主夫の場合も、公平のため、同様に女子全年齢平均賃金を基準とします。
また、仕事を持つ兼業主婦(主夫)の場合は、実際の収入と賃金センサスによる女子全年齢平均賃金とを比較し、金額が高い方を基礎収入とします。
なお、一人暮らしの家事労働は、他人のために労働をしているわけではないので、対価性がなく、逸失利益として認められていません。
無職
無職の場合は収入がないため、基本的には、逸失利益は認められません。
ただ、事故当時、就職先より内定を得ていた場合など、就労の可能性が高い場合には、失業前の年収や賃金センサスの男女別全年齢平均賃金などをもとに、基礎収入を計算する場合があります。
学生
収入のない学生でも将来的に働く可能性が高いため、基本的に賃金センサスの男女別全年齢平均賃金を基準とし、基礎収入を計算します。また、大学生や大学進学の見込みが高い者の場合は、賃金センサスの大卒の男女別全年齢平均賃金を基準とする場合があります。
高齢者
高齢者の場合も、働いて給与や事業所得を得ている者であれば、会社員や自営業者と同様、事故前の給与や確定申告所得額を基準とし、主婦(主夫)であれば、賃金センサスの女性全年齢平均賃金を基準とします。また、無職者でも、将来的に就労の可能性が高い場合は、賃金センサスの男女別年齢別平均賃金を基準とし、基礎収入を計算します。
また、年金生活者の場合は、後遺障害が残っても年金額が減ることはないため、逸失利益を請求することはできないとされています。
幼児・児童
幼児、児童については、まだ働いていませんが、将来働いて収入を得ていたはずとみなし、基本的には、賃金センサスの男女別全年齢平均賃金をもとに基礎収入を計算します。
ただし、女性より男性の平均賃金額が高いことから、男女間で逸失利益の金額に不平等が生じるため、女児の場合には、男女合わせた全労働者の全年齢平均賃金をもとに基礎収入を計算するのが一般的です。
労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、後遺障害によって失われた労働能力を割合で表したものです。後遺障害の等級ごとに労働能力喪失率の目安が定められています。等級が上級になるほど喪失率は高くなり、逸失利益も高額になる傾向があります。
ただし、下記表の割合がそのまま認められるわけではなく、被害者の職務内容や後遺症の部位、程度などにより、喪失率が増減する場合があります。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率(%) |
---|---|
第1級 | 100/100 |
第2級 | 100/100 |
第3級 | 100/100 |
第4級 | 92/100 |
第5級 | 79/100 |
第6級 | 67/100 |
第7級 | 56/100 |
第8級 | 45/100 |
第9級 | 35/100 |
第10級 | 27/100 |
第11級 | 20/100 |
第12級 | 14/100 |
第13級 | 9/100 |
第14級 | 5/100 |
例えば、理容師やピアニストなど指を使う専門職者が事故により後遺症を負い、指にしびれが残ってしまった場合など、仕事への影響度が強いと考えられる場合には、表の割合より高い喪失率が認められる可能性があります。
また、顔や身体に傷跡が残る「外貌醜状」、骨が変形する「脊柱変形障害」などの後遺症は、運動機能に障害を及ぼさないため、業務への支障は少ないと判断され、下記表の割合より低い喪失率とされる場合があります。
労働能力喪失期間の算出方法
労働能力喪失期間とは、事故によって負った後遺障害により、今後労働能力の喪失が続くであろう期間を年数で表したものです。基本的には、「被害者の症状固定時の年齢から67歳までの期間」を労働能力喪失期間とします。
ただし、後遺障害の程度によっては、労働能力喪失期間の終期を67歳よりも短い期間で算定する場合があります。例えば、むちうちの場合は、年数が経つと症状が軽くなると考えられているため、労働能力喪失期間は5~10年とされるケースが多いです。
労働能力喪失期間の計算方法は被害者の属性により異なりますので、以下解説していきたいと思います。
幼児~高校生
幼児から高校生については、高校卒業の年齢である18歳から67歳までの49年間を労働能力喪失期間とします。
ただし、大学進学が確実な場合は、22歳~67歳までの45年間を労働能力喪失期間とするのが一般的です。
大学生
大学生については、大学卒業後の就職が想定されるので、22歳から67歳までの45年間を労働能力喪失期間とする場合があります。
会社員
会社員については、原則どおり、症状固定時の年齢から67歳までの期間を労働能力喪失期間とします。
高齢者
67歳以下の場合は、「平均余命の2分の1」と「67歳-症状固定時の年齢」を比較し、長い方の期間を労働能力喪失期間とします。また、68歳以上の場合は、簡易生命表の平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とします。
中間利息の控除
逸失利益を受け取ると、毎年もらうはずの収入をまとめ受け取ることになります。例えば、20年分の収入を銀行に預金すると、20年分の利息が発生し、その分多くの運用利益を得られます。よって、逸失利益から余分に受け取る利息分を控除することになっており、中間利息の控除といいます。
ライプニッツ係数
ライプニッツ係数とは、逸失利益の中間利息控除のために用いられる係数のことをいいます。例えば、労働能力喪失期間が10年だとして、そのまま10を乗じればいいわけではありません。10年分先払いで逸失利益を受け取るわけですから、必要以上に受け取る10年分の利息を割り引く必要があります。この割引のためにライプニッツ係数が用いられます。
2020年4月1日以降に発生した事故については、法定利息年3%に基づき算出されたライプニッツ係数を使用しますが、2020年4月1日より前に発生した事故については、改正前の法定利息年5%に基づき算出されたライプニッツ係数を使用します。
例えば、被害者が36歳の場合、労働能力喪失期間は67-36=31年となりますので、下記の「年金原価表」にあてはめると、ライプニッツ係数は20.000となります。
なお、被害者が18歳未満の場合は、働き始めるとされる18歳までは無収入なため、逸失利益は発生しません。よって、不利益が生じないよう、67歳までの年数に対応するライプニッツ係数から18歳までの年齢に対応するライプニッツ係数を控除したライプニッツ係数を適用します。具体的には「18歳未満の者に適用する表」をもとに、被害者の年齢に適用されるライプニッツ係数を探し出します。
後遺障害逸失利益の計算例
16歳の男子高校生 後遺障害等級8級に該当した場合
逸失利益の計算式は以下になります。
「1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×(16歳から67歳までの年数に対応するライプニッツ係数-16歳から18歳までの年数に対応するライプニッツ係数)」
①16歳の男子高校生の場合、まだ就労していませんので、令和3年賃金センサスの男子の学歴計、全年齢平均賃金546万4200円を基礎収入とします。
②後遺障害等級8級に対応する労働能力喪失率は45%、16歳から67歳までの年数51年に対応するライプニッツ係数は25.9512、16歳から18歳までの年数2年に対応するライプニッツ係数は1.9135となりますので、適用する係数は25.9512-1.9135=24.038(四捨五入)となります
③後遺障害逸失利益は、546万4200円×0.45×24.038=5910万6797円となります。
50歳の公務員 年収600万円 後遺障害等級12級に該当した場合
逸失利益の計算式は以下になります。
「1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(67歳-50歳=17年)に対応するライプニッツ係数」
①1年あたりの基礎収入は600万円、後遺障害等級12級に対応する労働能力喪失率は14%、労働能力喪失期間17年に対応するライプニッツ係数は13.166となります。
②後遺障害逸失利益は、600万円×0.14×13.166=1105万9440円となります。
30歳の専業主婦 後遺障害等級14級に該当した場合
逸失利益の計算式は以下になります。
「1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(67歳-30歳=37年)に対応するライプニッツ係数」
①専業主婦の場合、収入がないため、令和3年賃金サンセスの女子全年齢平均賃金385万9400円を基礎収入とします。
②後遺障害等級14級に対応する労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間37年に対応するライプニッツ係数は22.167となります。
③よって、後遺障害逸失利益は、385万9400円×0.05×22.167=427万7565円となります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害逸失利益を増額させるポイント
後遺障害逸失利益が増額するポイントを説明します。
①適正な後遺障害等級認定を受ける。
後遺障害等級が上級になるほど、労働能力喪失率が上がるため、逸失利益額も高くなります。よって、後遺障害がいかなる等級に認定されるかが重要になります。
そのためにも、治療中の段階から等級認定を意識し、適切な通院回数を保持したり、MRI等認定に必要な検査を受ける必要があります。
また、認定された等級に不服がある場合は、異議申し立てをすることが可能です。
②基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間、それぞれが適切に計算されているか確認する。
基礎収入は被害者の職業や年齢によって計算方法が異なります。また、労働能力喪失率や労働能力喪失期間も職業、年齢、後遺障害の部位や程度などにより、数値が変動します。
保険会社から提示された逸失利益が、被害者の事情を考慮し、適正に計算されたものかを確認し、適正でない場合は、金額の修正を求めるべきでしょう。
等級認定に向けていかなる治療方針をとるべきか、また、適正な逸失利益額について、被害者自身で判断するのは難しいため、事故後の早い時期から、弁護士に相談し、必要な戦略を立てることをお勧めします。
減収がない場合の後遺障害逸失利益
逸失利益が発生するのは、基本的に、事故後、車椅子の生活を余儀なくされてしまったなど、将来にわたって収入の減少が続くと思われる状態の障害が残った場合とされています。しかし、職種によっては後遺障害が生じたとしても、収入に影響しない場合があります。
例えば、車椅子生活になったとしても、デスクワークをメインに仕事をする者にとっては、さほど業務に支障がなく、収入減少の影響は少ないと思われます。
このように、後遺障害は残ったものの、減収が発生していない場合については、保険会社側が逸失利益を認めないケースが多くなっています。
それに対し、裁判所は、現実に減収が発生していない場合でも、特段の事情があるならば、逸失利益を認めるという判断を示しています(最判昭和56年12月22日)。
ここでいう特段の事情とは、①収入維持は本人の努力や勤務先の配慮によるもの、②昇進、昇給などについて不利益な取り扱いを受ける可能性がある、③業務上支障がある等の事情を指します。
このような事情が認められれば、減収がなくても、逸失利益を請求できる場合があります。
後遺障害逸失利益に関する解決事例・裁判例
ここで、弁護士法人ALGの弁護士が介入し、後遺障害逸失利益の増額に成功した2つの事例をご紹介したいと思います。
耳鳴りなどの症状から後遺障害等級12級相当の認定が受けられ、後遺障害逸失利益などの増額に成功した事例
【ご依頼経緯】
交差点での右直事故により、耳鳴りなどの症状に悩まされた依頼者が、保険会社との交渉等すべて弁護士に委任するため、事故直後よりALGにご依頼されました。
【事件解決までの過程】
①担当弁護士は依頼者の症状固定後、後遺障害等級認定申請を行い、耳鳴りにつき、後遺障害等級12級の認定を受けました。
②等級結果をもとに、相手方と賠償金交渉をしたところ、相手方は耳鳴りは事故直後に発症した症状ではないと主張し、労働能力喪失率5%、労働能力喪失期間3年という低額の逸失利益の提示をしてきました。
③担当弁護士は、医療記録などの精査や、依頼者の事故前後の稼働内容を整理し、交通事故紛争処理センターにて、事故と耳鳴りとの因果関係を主張し、立証を行いました。
④当方主張を認めたあっ旋案で和解に至り、相手方の当初提示額の約4倍の後遺障害逸失利益を得ることに成功しました。
弁護士が介入したことで学生の後遺障害逸失利益と後遺障害等級14級9号が認められた事例
自転車で横断歩道を走行中の当時高校生であった依頼者と相手方車両が衝突する事故が発生しました。
依頼者は事故により頚椎捻挫や腰椎捻挫等のケガを負い、8ヶ月程治療を行いましたが、肩、腰の痛み等が残存したため、後遺障害認定申請を行いました。しかし、後遺障害非該当との回答があったため、担当弁護士は、カルテの記載や事故当時の状況証拠に基づき、異議申し立てをした結果、肩と腰の痛みにつき後遺障害14級9号が認定されました。
また、示談交渉中、相手方より「被害者は高校生のため、逸失利益は発生しない」との主張もありましたが、「高校在学時にアルバイトで収入を得ていたし、卒業後は進学せず働く場合もあるため、当然逸失利益は発生する」と主張したところ、請求通りの逸失利益を得ることに成功しました。
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後遺障害逸失利益は弁護士に依頼することで増額できる可能性があります
後遺障害逸失利益は将来の生活を支える重要な賠償金のうちの一つです。それだけに、適切な後遺障害等級認定を受け、逸失利益を正しく計算することが必要です。
しかし、等級認定に向けていかなる治療方針をとるべきか、また、適正な逸失利益額について、被害者ご自身で判断するのは難しいと思われますので、事故後の早い時期から、弁護士などに相談し、必要な対策を練ることをお勧めします。
交通事故問題に詳しい弁護士に依頼すれば、後遺障害等級認定に関するアドバイスを受けられるので、適切な等級に認定される可能性が高まります。さらに、適正な逸失利益額を計算し、相手方と示談交渉をすることが可能ですので、逸失利益の増額の可能性も高まります。
逸失利益を含めて、交通事故の賠償金に関して何かご不安がある場合は、一人で悩まず、ぜひ交通事故問題に精通した弁護士が所属する弁護士法人ALGにご相談下さい。
遺産分割審判とは
遺産分割審判とは、裁判所が、遺産の内容、性質、提出された証拠等を考慮して判断をする手続きです。遺産分割調停の中で当事者での協議を尽くしたものの協議が整わない場合に、裁判所が強制的に遺産分割の方法を判断して、遺産分割の終局的な解決を目指します。
遺産分割調停との違い
遺産分割調停は、裁判所で行いますが、その実質は当事者間での合意点を模索する手続きです。そのため、調停委員の仲介を得ながら、当事者同士で話し合い、遺産分割の方法等を柔軟に取り決めることが出来ます。
遺産分割調停は、当事者全員が遺産分割方法等について合意をして成立するので、当事者全員が出席して協議をする必要があります。
遺産分割調停の流れとメリット・デメリット遺産分割審判の効果
遺産分割審判で決まった内容で確定すると、その内容には当事者全員を拘束する強制力を持つことになるので、遺産分割審判には従わなければなりません。
強制執行を行うことができる
遺産分割審判が確定すると、その審判内容に当事者全員が拘束されるので、その内容に反した場合には、強制的に債権の回収を行うことができるようになります。
例えば、遺産分割審判の内容として、金銭の支払いを命じられた相続人がいたのに、その相続人が金銭の支払いをしない場合には、強制執行を申し立て、預貯金、土地、給与等から回収することができるようになります。
不動産の名義変更などができる
遺産分割審判が確定すると、その内容で遺産分割の方法が決まります。通常の相続手続きでは、相続人全員から印鑑証明書や委任状等の必要書類の取り付けが必要になりますが、遺産分割審判において不動産を取得することになった相続人は、他の相続人の協力なく、単独で不動産の相続登記をすることができます。他の相続人が資料提供などの協力を得ることできないために、相続登記ができないといった問題は避けることができます。
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遺産分割審判の流れ
遺産分割審判は、遺産分割の方法を裁判所が強制的に判断してくれるので、相続人間の対立が激しい場合や早期に解決したい場合には、審判手続きから始めたいと思う人も少なくないと思います。しかし、遺産分割審判は、遺産分割調停において、当事者全員で協議を尽くしてからでないと行うことができません。相続は家族の問題でもあるので、まずは親族間で話し合いを尽くすことが肝要であると考えられているからです。もっとも、遺産分割調停で協議が整わなかった場合には、協議の内容も含めて裁判所が判断するため、新たな申立てをすることなく、遺産分割調停から自動的に審判手続きに移行します。
遺産分割審判の1回目期日が決まる
調停が不成立になると、審判手続きに移行しますが、必要に応じて期日が指定されます。
審判では、主張書面や客観的な証拠に基づいて裁判官が判断しますので、自分の主張や主張を補強する必要な証拠は、事前に準備し裁判所に提出する必要があります。
また、審判期日では、当事者に対して、遺産分割の方法や財産の評価などに関し、意向の確認をされることがあるので、自身の主張や意向を整理しておき、裁判官から確認された時に回答できるようにしておくと良いです。
期日当日
調停は、交互に調停室に入って話をしますが、審判期日では、裁判所が判断する手続きになるので、裁判官と当事者の全員が一つの部屋に集まって、これまでの協議の内容や提出した主張書面及び証拠の確認をします。
審判期日では、調停での協議の内容を踏まえて、裁判官から一定の心証を示したうえで和解案を示されることもあります。この和解案を一人でも受け入れなければ、裁判官が判断することになります。
事案に応じて異なりますが、1回から3回くらい期日を経ても合意が得られない場合に、最終的な審判が下ることになります。
審判が下される
最後の期日で、審判が出される日が指定され、その日以降に、裁判所から審判の内容が記された審判書が郵送されてきます。裁判所に電話で結果を聞こうとしても、教えてくれません。
審判書には、遺産分割の方法の最終的な判断と裁判官がその判断をするに至った理由が書いてあります。
当事者は、その審判書を見て、理由と結論を知ることになります。
審判に不服がある場合
審判書を受領し、その内容に不服がある場合には、2週間以内に、即時抗告をする必要があります。この期間を徒過すると、不服を申し立てることができず、審判書記載の内容で確定してしまいます。
誰か一人でも即時抗告をした場合には、高等裁判所に場所を移して審理をし、他の裁判官の判断を仰ぐことになります。
遺産分割審判を有利に進めるためのポイント
審判手続きでは、
- 主張書面や客観的な証拠に従って判断される。
- 裁判所の考え方を軸に判断される。
- 主張や証拠を提出しないと、なかったものとして扱われる。
ことになるので、適切な主張と、それを補強する証拠を提出する必要があります。
自分の思う主張だけをしていてもその判断を採用されるわけではありません。
裁判所の考えを理解し、主張を補強する証拠を収集し、主張を書面にして提出する必要があるので、専門家である弁護士に依頼されることをお勧めいたします。
遺産分割審判を欠席した場合のリスク
遺産分割調停で主張していたとしても、口頭で話をしていただけでは、審判手続きにおいて考慮されません。
また、裁判所から指定された審判期日に欠席した場合には、書面で提出された書面の内容は考慮されますが、書面に漏れていた内容等を補足説明することができず、言い分や希望を聞いてもらえないですし、相手が虚偽の事実を言っていたとてしてもそれを訂正する機会がないまま判断がされてしまう危険があります。
そのため、審判期日までに、自身の主張と証拠を提出するだけでなく、審判期日に出席し、自分の言い分をきちんと裁判所に伝えましょう。
欠席したい場合の対処法
遺産分割審判の期日に出席することが難しい場合には、事前に裁判所に連絡をしましょう。
期日の日程変更を検討してくれる可能性もあります。
また、裁判所が遠方であるなど場合には、電話会議システムの利用が可能な場合もあります。
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遺産分割審判を検討されている場合は弁護士にご相談ください
遺産分割審判は、裁判所が遺産分割の方法に関し、最終的な判断をする手続きですので、自分の言い分や希望をきちんと裁判官に伝えなければなりません。そのためには、これまでの裁判所の考えの検討、証拠の取り付け、方針検討、書面作成を行うことになります。
当法人では、相続に関する案件を多々扱っており、遺産分割審判手続きの進め方、方針の検討等専門的な知識も有しております。遺産分割審判を検討されている場合、まずは弁護士にご相談ください。
相続人(相続する人)が被相続人(亡くなった人)に対して介護をしていた等、一定の貢献がある場合、相続人としてはその貢献は相続財産を分ける際に考慮してほしいものです。 そのような貢献を考慮するのが、寄与分という考え方です。
このページでは、介護等の療養看護を行っていた場合に認められる寄与分について解説をしていきます。
療養看護型の寄与分とは
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合に、他の相続人よりも相続財産を多く分けてもらうことができる制度です。
ただ、貢献とは一言で言っても、多種多様な貢献がありえます。
療養看護型は、相続人が病気療養中の被相続人の療養介護に従事した場合に認められる類型の寄与分です。
療養看護型の寄与分を認めてもらう要件
療養看護型の寄与分を認めてもらうには、寄与分の要件をすべて満たす必要があります。
①相続人による寄与であること
②被相続人の財産が維持または増加していること
③特別の寄与であること
④寄与行為と被相続人の財産の維持または増加に因果関係があること
(療養看護によって看護費用等の出費を免れたこと)
特別の寄与とはどんなもの?
そもそも、寄与分は被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合に、他の相続人よりも相続財産を多く分けてもらうことができる制度でした。ただ、他の相続人よりも相続財産を多くもらうことを正当化するには、通常期待されるような貢献では足りません。
特に、親族間では扶養義務がありますので、高齢であったり病気になったりした親族の世話は通常、通常期待される範疇を超えません。
その相続人が、同居やそれに伴う家事分担といった程度を超えて、特別の寄与をした場合に寄与分が認められるのです。
一般に療養看護をしたことを原因に寄与分が認められる場合、次の要件を満たしています。
①被相続人の症状からして、近親者による療養看護が必要であること(必要性)
②無報酬又は無報酬に近い状態で行われていること(無償性)
③療養看護が相当期間継続していること(継続性)
④療養看護の内容が片手間でないこと(専従性)
親族間の扶養義務、親族と見なされる範囲はどこまで?
扶養義務があるとされるのは、「直系血族及び兄弟姉妹」(民法877条1項)です。
ここでいう直系血族は、祖父母や父母、子どもや孫といったご家族を指します。
要介護認定が「療養看護が必要であること」の目安
必要性(①要件)を判断する上で、要介護認定が参考にされることが珍しくありません。 というのも、要介護認定が、介護保険を受けるだけの症状を抱えているかを審査していますので、受けた認定の程度を見れば被相続人が生活にどういう手助けを必要としていたかが分かるのです。
要介護認定は、手助けがあまり必要でない、「要支援1」から介護なくして生活がままならない「要介護5」まで7段階あり、日常の基本的な動作すら手助けを要する「要介護2」が療養看護型の寄与分を認める一つの線と考えられています。
要介護とはどのような状態をいう?
要介護とは「自力で日常生活を送るのが困難で、介護が必要な状態」をいいます。
具体的には次の表のような分類があります。
要介護1 | 日常の複雑な動作を行う能力が低下しており、部分的に介護を要する状態。問題行動や理解力低下がみられることがある。 |
---|---|
要介護2 | 日常の基本動作にも部分的に介護を要する状態。問題行動や理解力低下がみられることがある。 |
要介護3 | 日常の基本動作にほぼ全面的に介護を要する状態。いくつかの問題行動や全面的な理解力低下がみられる。 |
要介護4 | 介護なしでは日常生活を送ることがほぼ困難な状態。多くの問題行動や全面的な理解力低下がみられる。 |
要介護5 | 要介護状態のうち最も重度な状態。介護なしでは日常生活を送ることができず、意思の疎通も困難。 |
要介護認定がない場合、諦めるしかない?
要介護認定が療養看護型の寄与分を主張していくうえで分かりやすい指標とはなりますが、要介護認定の背景にある考え方が重要なのであって、要介護認定がないからと言ってすぐに諦める必要はありません。
被相続人の生前の身体の調子(他人の手助けを借りずにどこまで動くことができたか)、生活の様子、認知機能や社会生活への適応具体等を客観的な資料とともに説得的に主張できれば療養看護の必要が認められる場合もあります。
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寄与分を認めてもらうには主張する必要がある点に注意
どのような手続きにおいても、有利な事情は自ら主張しなければ誰も考慮しません。
そのため、寄与分が認められるべき事情を遺産分割の場面で自ら主張しなければいけません。
療養看護型の寄与分の主張に有効な証拠は?
療養看護が必要であることや、どれだけの療養看護を行ったという事実は、当事者以外分からないことが珍しくありません。
そのため、客観的にその点を残しているかどうかが、寄与分の主張が認められやすさを大きく左右します。
そのため、次のような資料を収集しておくとよいでしょう。
①被相続人の症状が分かる資料
健康状態が分かる資料、例えば、診断書、カルテといった医師が作成した資料があるとよいです。
また、日常生活の様子が撮影された動画なども有効であることもあります。
②行った療養看護が分かる資料
療養看護の内容が書かれた日記等、継続して書かれた記録があるとよいです。
療養看護型の寄与分の計算方法
寄与分は、被相続人の財産の維持や増価に貢献した場合に認められるものでした。
療養看護方の場合、通常は、相続人が療養看護を行うことで支払わずに済んだ諸費用を基準に計算していくことになります。
具体的には次のような式で考えることができます。
療養看護型の寄与分の金額=付添介護人の日当額×療養看護を行った量(日数)×裁量的割合
付添介護人の日当額の決め方
昨今、介護サービスも増え、支払う料金次第では非常に高度なサービスも受けられるようになりました。
もっとも、寄与分における日当については、介護保険における介護報酬基準を参考にして決めることが通常です。
裁量的割合とは
上に述べた介護報酬基準は、資格を持ったプロのサービスを受けることを前提に組み立てられた制度ですので、資格を持たない家族が行う場合には支援の程度がどうしても落ちてしまいます。
そのため、介護報酬基準を前提とした金額をそのまま適用するのではなく、一定の割合差し引いた金額を寄与分として認める運用がされています。
そのときに差し引く割合を「裁量的割合」といい、相続人が行った療養看護の程度を中心に様々な事情を考慮して裁判所が決めます。
療養看護型の寄与分に関する裁判例
寄与分が認められた裁判例
大阪高決平成19年12月6日は、家業である農業の手伝いをしながら、要介護認定を受けた被相続人を療養看護したケースでした。
このケースでは、相続人の貢献の程度等を考慮して、具体的な金額を定めるのではなく、遺産総額の15%もの寄与分を認めています。
寄与分が認められなかった裁判例
静岡家沼津支審平成21年3月27日は、13年間もの間通院や入浴の介助を行ったものの、被相続人が身の回りのことを自らできたことから、特別な寄与とまで言えないとして、寄与分を認めなかった事例です。
扶養義務として期待される療養看護を行ったということは容易でないことが分かる事例です。
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療養看護型の寄与分に関するQ&A
義両親の介護を一人で行っていました。寄与分は認められますか?
義両親の介護をしていたということなので、通常であれば、被相続人との相続人となることはできません。
相続人ではない以上、寄与分というものを考慮してもらう余地は本来ありません。
そのような事態を避けるには、被相続人が存命のうちに遺言書に相続財産を遺贈する旨の記載をしてもらうことが一番良いです。
それも難しい場合は、特別寄与料の請求を検討することになります。
介護できない分、介護費用を全額出しました。寄与分は認められますか?
自ら療養介護をしておらず、介護費用を支払っていた場合でも寄与分が認められることもあります。
ただ、通常負担すべき介護費用を超えるような金額を支払っていない限り、特別な寄与と言い辛いでしょう。
また、療養看護型ではなく、金銭出資型という別の類型の寄与分として考えて、寄与分を主張することも考えられます。
介護だけでなく家事もこなしていた場合、寄与分は増えますか?
療養看護型では、身の回りの世話をすべて含めて考慮しますので、介護や家事といった区分けに意味がありません。
いずれについても他人に任せた場合に比較してどの程度の特別な寄与と言えるかを見ることになります。
療養看護型の寄与分について不明点があったら弁護士にご相談ください
親族の介護をしていた相続人からすると、自らの貢献が相続の場面で考慮されないことは非常に腹立たしいことです。
しかし、その貢献を正当に評価されるには、寄与分を認めてもらう必要があります。
これまで見たように、寄与分が認められるには複数の要件を満たす必要があり、どの程度の主張が可能なのかを判断するのは容易ではありません。
また、寄与分を主張された側の相続人としても、どのように取り合ったらよいか悩ましいところです。
どうしても寄与分を主張する相続人が感情的になって交渉が大変になることも珍しくありません。
弁護士であれば、冷静に事実関係を整理して分析し、いずれの立場からも有効な主張が可能です。
遺産分割を進める上でお困りのことがあれば、是非、弁護士にご相談いただき、解決への道筋を見出してください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)