遺産分割協議はやり直しできる?

相続問題

遺産分割協議はやり直しできる?

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

相続人全員で遺産分割協議を成立させた後でも、遺産の内容を誤解していた、他の相続人に騙されていた、など、遺産分割協議をやり直す必要がある場合があります。
しかし、すでに遺産分割協議が成立し、相続が発生したにもかかわらず、これをひっくり返すことはできるのでしょうか。
今回は、そもそも遺産分割協議をやり直すことはできるのか、また、どのような場合に遺産分割協議をやり直すことができるのかについて、ご説明いたします。

遺産分割協議がやり直せるケース

遺産分割協議をやり直せるケースというのは、大きく分けて、①相続人全員の合意で遺産分割協議をやり直す場合、②詐欺など遺産分割協議の無効や取消しの原因となる事情がある場合、に分けられます。

全員がやり直しに合意した

遺産分割協議が、調停や審判を経ずに当事者の話合いで成立した場合は、相続人全員が同意すれば、遺産分割協議をやり直すことができます。
ただし、誰かひとりでもやり直しに反対した場合は、他の全員が賛成してもやり直すことはできません。

遺産分割協議後に騙されたと気づいた・勘違いしていた

例えば、他の相続人から重要な財産の価値について嘘の説明をされていた、あるいは、そもそも財産がないと嘘をつかれたことで不利益な内容の遺産分割に合意してしまった、というような場合、詐欺(民法96条)として、法律上は取り消すことができます。
また、騙されていなかったとしても、財産の価値や存在について誤解していた場合は、錯誤(民法95条)として、これも取消しの原因となります。
ただし、こうした理由で取り消す場合は、取消す原因があることを知ってから5年、知らなかったとしても遺産分割協議から20年が経過すると、遺産分割協議を取り消すことはできなくなってしまいます。

遺産分割協議が無効になるケース(やり直しが必須になるケース)

上記に挙げたのは、当事者の合意や、取消しの意思表示によって遺産分割協議をやり直すケースですが、遺産分割協議に無効原因がある場合は、やり直しの合意や取消しを主張するまでもなく、協議は無効です。

参加していない相続人がいる、新たに相続人が現れた

遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。
生前の被相続人と仲が悪かった相続人でも、法定相続人である限り、そうした相続人も参加していなければ、遺産分割協議は有効に成立したとは言えず、無効です。
また、生前没交渉だったことから、遺産分割協議に呼ばれなかった相続人がいた場合も、全ての相続人が揃って有効に成立したとは言えないため、遺産分割協議は無効です。

認知症等、意思能力のない人が参加していた

相続人の中に、認知症などで、意思能力がない相続人がいた場合にも、遺産分割協議は無効になります。そのため、意思能力がない相続人を参加させて、形だけ遺産分割協議を成立させても無意味ということになります。
このような場合は、成年後見人を付けるなどして、遺産分割協議を行うことになります。

遺産分割協議後に新たに遺産が見つかった場合は?

遺産分割協議後に新たな遺産が見つかった場合、有効に成立した遺産分割協議は、当然には無効とならず、新たな遺産についてのみ、分割協議を行います。
ただし、新たに見つかった遺産の価値や重要性という点から、その遺産があることが判明していれば、遺産分割協議を行わなかったであろうという事情がある場合には、すでに成立した遺産分割協議も合わせて、取消しの対象となる可能性があります。

やり直したいけど相続人の中に亡くなった人がいる場合

遺産分割協議後に亡くなってしまった相続人がいる場合、合意による遺産分割のやり直しを行うためには、その方の相続人全員を集めて、遺産分割協議をやり直す必要があります。

遺産分割協議のやり直しはいつまで?時効はある?

相続人全員の合意で遺産分割協議をやり直す場合は、期間制限はありません。
錯誤や詐欺を理由に取り消す場合は、上記で述べたように、取消しの原因を知った時から5年、知らなかった場合でも20年が過ぎた場合は、取り消すことはできなくなります。
相続人に漏れがあった場合など、無効原因がある場合は、遺産分割協議そのものが無効ですので、無効を主張することに期間の制限はありません。

遺産分割協議をやり直す場合の注意点

遺産分割協議をやり直せる場合でも、いくつか気を付けなければならない点があります。
例えば、遺産分割協議のやり直しに伴って課される税金に注意しなければなりません。

遺産分割のやり直しには贈与税がかかる

遺産分割協議をやり直す場合、税務上、それは遺産分割ではなく、相続人間で財産の譲渡・取得が行われたと評価されます。
そのため、やり直しがなければ、相続税の負担だけで良かったのに、遺産分割協議をやり直すことで、高額の譲渡所得税や贈与税が課されるリスクがあります。

不動産がある場合は不動産取得税や登録免許税が発生する

遺産分割協議をやり直し、不動産の取得者を変更する場合、新たな取得者には不動産取得税がかかります。
また、新たな登記をするに際して、登録免許税が発生します。

やり直しができないケースはある?

上記で説明したように、相続人間の合意で遺産分割協議をやり直すためには、相続人全員の同意が必要になります。
そのため、ひとりでもやり直しに反対している人がいる場合には、やり直すことはできません。
また、詐欺や錯誤などを理由に遺産分割協議を取り消す場合は、5年または20年という期間制限があるため、気づいた時には取消しができなくなっていたという事態もありえます。

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遺産分割協議のやり直しについては弁護士にご相談ください

遺産分割をやり直したい場合には、まずやり直しの理由があるのか検討しなければなりません。
また、やり直しができる見込みがあったとしても、税務上の問題点など、考慮しなければならない要素は多岐にわたります。
そのため、遺産分割のやり直しを検討された際は、まずは弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。