監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
一度遺産分割を行った後、何かしらの事情で、遺産分割をやり直したいと考えることがあります。
では、遺産分割のやり直しをすることはできるのでしょうか。できるとしたら、いつまでやり直すことができるのでしょうか。
今回は、遺産分割のやり直しについて、説明していきます。
目次
遺産分割はやり直しができるのか
遺産分割を一度行っている以上、基本的には、遺産分割のやり直しができません。
その上で、いくつかの場合には、遺産分割をやり直すということが認められています。以下、再度の遺産分割協議ができる場合を記載します。
ただし、以下の記載があるものでも、必ず遺産分割協議のやり直しができるということではなく、再協議できる可能性があるに過ぎないということは注意しましょう。
- 分割協議の意思表示に瑕疵がある場合(心裡留保、虚偽表示、錯誤、詐欺・強迫等)
- 一部の相続人が参加していない場合
- 相続人でない者が参加している場合
- 遺産の一部が脱漏していた場合
- 相続人全員が既に行った遺産分割を合意解除し、遺産分割のやり直しを希望する場合
遺産分割後に他の財産が見つかった場合
遺産分割後に、新たに遺産が見つかる場合があります。
この場合には、基本的に、新たに見つかった遺産のみを対象とする遺産分割を行えばよく、既に行っていた遺産分割を無効とする必要はないと考えられています。
もっとも、漏れていた財産が非常に重要なものであり、その財産があることが分かっていれば、先のような遺産分割はしなかったというような場合には、先の遺産分割も無効となる可能性があります。その場合には、再度全体で遺産分割協議をすることになります。
遺産分割のやり直しを行う場合に期限や時効はある?
民法上、遺産分割自体には期限や時効はありません。したがって、遺産分割をやり直すというような場合でも、期限や時効はありません。何年後でも、遺産分割のやり直しをすることは可能です。ただし、以下に記載するような注意点があります。
取消権には時効があるので注意が必要
例えば、民法上の詐欺(96条1項)に該当する行為によって遺産分割を取り消すというような場合、いつまでも取り消しができるということはありません。取消権には消滅時効が定められており、追認できるときから5年間、行為のときから20年が経過したときには、取消権が時効により消滅してしまいますので注意が必要です。
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遺産分割をやり直した場合の注意点
遺産分割をやり直す場合でも、既に一旦遺産分割をしてしまっていることから、いくつか注意が必要な点があります。遺産分割のやり直しを考えるときには、事前に、以下の点について確認しておくことをお勧めいたします。
やり直し前に第三者へ譲渡していた場合
例えば、民法上の詐欺により遺産分割が成立し、Aが不動産を取得したとします。Aは、第三者にその不動産を譲渡していたとします。この遺産分割が取り消された場合、不動産は遺産共有状態に戻るべきですが、第三者が既に不動産を取得しているため、不動産を遺産共有状態に戻すということは、基本的にはできません。ただし、上記第三者が、詐欺により遺産分割が成立していること等について認識している場合には、遺産共有状態に戻すことができる可能性があります(民法96条3項)。
不動産の名義が変わった場合
例えば、一度成立した遺産分割で、Aが不動産を取得した場合、Aは不動産の所有権移転登記をすることになります。その後、遺産分割をやり直し、不動産をBが取得した場合、Bは不動産の名義をAからBに変更する必要があります。
その場合には、Aの所有権移転登記を抹消し、Bが相続により取得したという登記をすることになります。
抹消登記及び新たな相続登記の際は、登録免許税がかかりますので、注意が必要です。
課税対象となる場合がある
遺産分割をやり直した場合、1度目の遺産分割のみならず、2度目の遺産分割にも課税されることがあります。これは、1度目の遺産分割が、法律上無効なものではないというような場合に、2度目の遺産分割について、新たに贈与、譲渡、交換があったものと捉えるためです。1度目の遺産分割が当初から無効であったかどうかについては、民法の規律により判断することになりますが、課税段階では、税務署が判断することになります。
遺産分割をやり直す際の期限について弁護士にご相談ください
遺産分割をやり直したいという場合にも、事実上期限があるというようには考えた方がよいです。当時の相続人全員が存命である方がよいですし、第三者に遺産が渡っている可能性もあります。取消権の消滅時効もありますので、なるべく早い段階で遺産分割のやり直しを進める必要があります。遺産分割から長期間経過してしまったような場合でも、遺産分割のやり直しが可能な場合もありますので、遺産分割のやり直しを希望される場合には、一度、弁護士に相談されることをお勧めします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)