監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
遺産分割に際して、遺言執行者が必要になる場合があります。遺言執行者は、被相続人の遺言書で指定されている場合もあります。
では、遺言執行者とは何者なのでしょうか。遺言執行者は、何をするのでしょうか。ここでは、このような遺言執行者に対する疑問にお答えしていきます。
遺言執行者とは
遺言執行者とは、被相続人に代わって、遺言の内容を実現する者のことです。本来、遺言に記載されている不動産の相続人への名義変更などは、被相続人本人が行うものですが、既に亡くなっている被相続人が、登記手続きをすることは不可能です。もっとも、相続人が登記を行うことももちろんできます。しかし、相続人にとって遺言の内容が不利な場合、きちんと実行してくれるかはあやしいものです。そのため、このような手続を被相続人に代わって、相続人との利害を離れて、遺言の内容に従って実行する者が必要となり、遺言執行者という制度が存在するのです。
遺言執行者がやるべきこと
相続人の確定
まずは、相続人が誰なのかを確定する必要があります。相続人が不明のまま、遺産分割を実行することは、後に遺産分割をもう一回やることになりかねません。そのため、戸籍謄本を取り寄せ、その記載をたどる方法で、相続人を確定させることが先決となります。
相続財産の調査
次に、相続財産を調査することになります。遺言に書かれているからといって、本当にその財産が存在するかどうかは分かりません。実際、銀行口座などを誤記してしまう方はいらっしゃいます。そのため、どこにどれだけの財産があり、遺言書通りに分配できるか確認するためにも、しっかり相続財産の対象と、相続財産に何が含まれているかを調査する必要があります。
財産目録の作成
調査を終了したら、財産目録を作成します。そして、作成した目録を、相続人に交付します。相続財産として何が含まれ、どれだけあるのかをきちんと目録にしておくことで、相続財産の現状と遺言執行者の権限の範囲を明らかにするためです。
その他
遺言執行者として就職した場合、直ちに遺言執行者としての任務を開始しなければなりません(民法1007条1項)。また、任務を開始したなら、相続人に遺言の内容を通知する義務が課せられます(同条2項)。
そして、遺言執行者と相続人との関係は、委任に関する規定が準用されます(1012条3項・1020条)。そのため、相続人に対して、執行の内容を報告する義務(645条)や、善管注意義務(644条)、遺言執行に関して受けとった郵便物などを引き渡す義務として、受取物の引渡し義務(646条)を負います。
一方で、遺言の執行にかかった費用は、相続人に対して請求できます(費用償還請求権 650条)。もちろん、遺言執行の報酬も請求できます(報酬請求権)。
遺言執行者の権限でできること
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(1012条1項)。
具体的には、被相続人の所有権登記がされている不動産の登記を、相続人に移すこともできます。また、相続に関する訴訟でも、当事者となる場合があります。遺言による認知がされていたときは、認知の届け出もできます。相続人の排除やその取消も、遺言執行者が家庭裁判所に申立を行うことになります。
このように、遺言の内容を実現するために、広範な権限をもっています。
遺言執行者が必要になるケース
では、どのようなときに遺言執行者が必要になるのでしょうか。まず、相続人が一人しかいないときに、その一人に前部の財産を相続させたいときには必要ないということはあきらかです。
遺言執行者が必要になるのは、遺言を残しても、それが実行されるとは限らない場合といえるでしょう。
例えば、相続人が複数おり、しかも、互いの仲が悪い場合や一部の相続人にとって遺言の内容が不利になる場合は、遺言を初めに入手した相続人の都合で遺言を無視した遺産分割がされてしまうかもしれません。
そのような場合に、中立の第三者を遺言執行者につけておけば、遺言の内容が実現されやすくなるでしょう。
遺言執行者になれるのは誰?
では、遺言執行者になれるのは誰でしょうか。これは、特別な資格が必要な職ではありませんので、ほぼ誰でもなれると言っていいでしょう。また、法律上の人であればいいので、法人も遺言執行者になれます。
もっとも、誰でもなれるからといって、適当に知っている人を指名しても意味がありません。遺言執行者は前述のように、登記手続き、訴訟追行等、専門的知識が必要な任務が多い役割です。そのため、弁護士といった専門家に依頼するのが適当でしょう。
遺言執行者になれない人
遺言執行者になれない人とは、どのような人でしょうか。
相続に利害関係を有する人が遺言執行者になると、前述のように、きちんと遺言の執行をしてくれるかどうかに疑問が生じますので、利害関係人も遺言執行者になることはできません。
未成年者は、未熟であるため選任できません。破産者は、お金がない状態であるため、お金を扱うことが多い遺言執行者に任命することは危険であるとの配慮から就任することができません。
遺言執行者の選任について
遺言執行者は、どのように選任されるのでしょうか。遺言執行者は、遺言で指名してこれを受諾することで、選任されます。もちろん、指名されたからといって遺言執行者になる義務はなく、指名を拒否することもできます。
他に、遺言執行者を選ぶ人を遺言で決めて、遺言執行者を選ぶ人が指名した人が遺言執行者となる場合があります。
さらに、相続における利害関係者が家庭裁判所に請求することで、家庭裁判所が選任する場合もあります。
遺言書に複数の遺言執行者が指名されていた場合
遺言執行者は、複数を選任することができます。その場合は、全員で好き勝手に遺言の執行をすると大変なことになります。そのため、保存行為という遺産の価値を守る行為以外は、遺言執行者の過半数でどのように遺言を執行するのかを決めることになります。
遺言執行者が二人いると、その意見が食い違うと何もできなくなります、そのため、よほどの事情がない限り、一人の遺言執行者にするべきでしょう。
家庭裁判所で遺言執行者を選任する方法
家庭裁判所で遺言執行者を選任する場合は、裁判所のホームページを見て必要な書類を集めて、申立書を書いて提出することになります。
裁判所のホームページによれば、以下の書類と、申立書が必要です。
- 遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)(申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合(検認から5年間保存)は添付不要)
- 遺言執行者候補者の住民票又は戸籍附票
- 遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し(申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合(検認から5年間保存)は添付不要)
- 利害関係を証する資料(親族の場合,戸籍謄本(全部事項証明書)等)
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遺言執行者の仕事の流れ
遺言執行者は、相続開始後に遺言や、家庭裁判所の選任により選任されます。その後の流れはどうなるのでしょうか、以下では、遺言執行者の仕事の流れを説明します。
①相続開始
②遺言や家庭裁判所等による遺言執行者の指名
③指名承諾
④任務開始
⑤遺言の内容を相続人に伝える
⑥任務終了
⑦報酬の請求
簡単な流れとしては、以上のようになります。
遺言執行者の辞任
遺言執行者は、正当な事由があれば、辞任することができます。逆に言えば、正当な事由なく自由に辞任することはできません。
正当な事由にあたるのは、病気、海外への出張など長期的に遠方に出向く必要があるとき、多忙などの理由で、遺言執行が困難になる場合と考えられます。
任務を怠る遺言執行者を解任できる?
遺言執行者を解任できる場合は、その任務を怠ったときとその他正当な事由があるときです。そのため、任務を怠る遺言執行者がいれば、解任事由にあたるので解任ができます。
もっとも、解任とつたえれば、解任にできるわけではありません。利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の解任を請求し、家庭裁判所がそれに理由があると考えて、解任の審判をしたときに初めて遺言執行者は解任されます。
遺言執行者が亡くなってしまった場合、どうしたらいい?
遺言執行者が死亡しても、遺言執行者の相続人にその任務は承継されません。そのため、新たに遺言執行者を選任しなければ、遺言執行者は空白のままとなります。
もっとも、遺言執行者が有していた報酬請求権などの権利義務は遺言執行者の相続人に引き継がれます。そのため、それまでの遺言執行者の仕事への報酬は、相続人に支払う必要があります。また、相続人の側も、委任終了後の引継ぎをする義務が生じます(654条)。
遺言執行者についてお困りのことがあったら弁護士にご相談ください
これまでにお話ししたように、遺言執行者に関しては、法律的な問題がつきまといます。また、遺言執行者を選ぶ際にも、遺言執行者には高度な専門的知識を持った人を選ぶ方が、迅速に遺言の執行が終了すると考えられます。
したがって、もし、遺言執行者に関して問題が生じた場合は、弁護士などの専門家に依頼されるのが得策でしょう。弊所では、遺言執行者を含む、相続問題に詳しい弁護士が数多く在籍しておりますので、ぜひご検討のほど宜しくお願い致します。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)