監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
ある財産が、被相続人の相続財産に含まれるかどうかは、相続人にとっては、自身の相続財産の取り分に影響を及ぼすことがあります。そのため、相続財産にどの財産が含まれるのかは非常に重要な問題であり、相続財産の範囲が争いになることは少なくありません。
相続財産の範囲を決めるうえでは、相続人間で協議をするのが基本になってきますが、協議だけでは解決できないこともあり、遺産確認の訴えを提起して、裁判所の判断で解決することも一つの選択肢となります。
目次
遺産確認の訴えとは(遺産確認訴訟)
遺産確認の訴えとは、遺産確認訴訟と呼ばれることもあります。遺産確認の訴えは、被相続人の財産のうち、相続財産に含まれるものがどれであるかを判断し、相続財産の範囲、つまり、遺産の範囲を確定させるために行うものです。
訴訟の結果には、事後の裁判において、当該訴訟の判決と矛盾する判断してはならないという裁判所への拘束力である既判力という効力が認められます。そのため、遺産確認の訴えにおいて、遺産の範囲を確定させておけば、後々になって遺産の範囲で揉める心配はなくなることになります。
遺産確認の訴えで認められた財産は誰のもの?
遺産確認の訴えは、あくまでも、ある財産が被相続人の相続財産に含まれることを判断するだけであることから、遺産確認の訴えで勝訴しても、ある財産について、訴えを提起した者の財産であると認められるわけではないということには注意が必要です。
ある財産が相続財産に含まれることが確定した時点では、誰のものとも決まってはいませんので、相続人間で遺産分割協議を行う必要があります。
どんな時に遺産確認の訴えを利用すると良い?
遺産の範囲に争いがある場合・相続財産に含まれるかどうか曖昧な場合
遺産確認の訴えの提起を検討する場面として、相続財産の範囲に争いのある場合があります。具体的には、被相続人が亡くなる直前に、被相続人から特定の相続人に名義変更された不動産、あるいは、被相続人が特定の相続人名義で積み立てていた預貯金などがあるときには、形式的には、被相続人以外の所有となっている財産について、実質的には被相続人の財産と判断できるのかが問題となり、相続財産の範囲が争いになることが多いといえます。また、被相続人と口約束で財産を受け取ることを約束していた相続人がいるときにも、口約束の内容の証明は容易ではなく、相続財産の範囲が争いになることは少なくなりません。
相続財産がどれくらいあるか不明な場合
遺産確認の訴えの提起を検討する場面として、相続財産の全体像は不明確な場合があります。ある相続人からすると、別の相続人が、被相続人の財産を隠している疑いを持っているケース、被相続人の財産のうち、発見されていないものがまだあるはずと考えているケースなどでは、自分以外の相続人を相手方として、遺産確認の訴えを提起し、裁判所を通じて、被相続人の財産の全体像を確定させていくことになります。
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遺産確認の訴えを起こす方法
遺産確認の訴えを提起するために、自身の主張を記載した訴状を作成し、裁判所に提出する必要があります。訴状を作成するうえでは、相続関係を証明するための戸籍謄本や住民票、相続財産の中身を証明するための不動産登記簿、通帳、被相続人が遺言書を作成している場合には遺言書など、相続財産の範囲を判断するうえで必要となる証拠を一緒に提出する必要があります。
遺産確認の訴えは、固有必要的共同訴訟と呼ばれる類型の訴訟になるため、相続財産の範囲を争っている相続人だけでなく、相続人全員を相手方として訴えを提起する必要があります。訴えを提起する先の裁判所は、被相続人の最後の住所を管轄する裁判所とすることが多いと思われますが、法律上、管轄が認められる裁判所であれば(例:被告の住所地)、どこにでも訴えを提起することができます。
遺産確認の訴えにかかる費用
遺産確認の訴えを提起する場合、確認の対象となる被相続人の財産の価額に応じて、裁判所に手数料を支払う必要があります。手数料は、印紙で支払うことになるところ、相続財産の規模が小さい場合、印紙代は数万円程度にとどまりますが、1億円を超えるような規模の相続財産がある場合、遺産確認の訴えを提起するだけでも印紙代が数十万円かかります。
遺産確認の訴えの提起を検討するでは、訴訟をすることの手間だけでなく、裁判所に支払う手数料のことも念頭に入れる必要があります。
遺産分割訴訟でも財産は確定できる
遺産の範囲を確定させたい場合、遺産確認の訴えを提起する以外に、遺産分割訴訟を提起するという方法もあります。
遺産分割という言葉から混乱が生じるかもしれませんが、遺産分割自体は、調停及び審判という裁判所の手続で解決することになるため、遺産分割自体を争う訴訟はありません。
ここでいう遺産分割訴訟というのは、①ある財産が、自身の固有の財産であることの判断を求める所有権確認訴訟、②ある財産は、相続人からの共有財産であることの判断を求める共有持分確認訴訟であり、遺産分割の前提となる相続財産の範囲を争うことになる点では、遺産確認の訴えを類似する点もあります。
遺産確認の訴えと異なるのは、遺産分割訴訟で勝訴した場合、①の訴訟であれば、特定の財産が特定の人の所有であることが確定しますし、②の訴訟であれば、特定の財産が特定の人たちの共有であることが確定する点で、相続財産の範囲を確定するのにとどまらないということです。
遺産確認の訴えに関する判例
遺産確認の訴えは、遺産の範囲を争いたい意向があれば、誰でも提起できるものではなく、法律上、遺産確認の訴えを提起することができると認められる当事者適格が必要となります。
当事者適格に関する判例として、平成2月14日最高裁第二小法廷判決があります。この判例は、被相続人の死後、かなり長期間が経過した後に遺産の範囲が問題となった事案において、ある相続人が、被相続人の死亡後、遺産の確認の訴えまでの間に自らの相続分を他の相続人に譲渡した場合、相続分を譲渡した相続人は、遺産確認の訴えの当事者適格を有しないと判断したものです。
つまり、かつては相続人であっても、相続分を譲渡した場合には、遺産確認の訴えの当事者となることはできないということになります。
遺産確認でお困りなら弁護士にご相談ください
相続財産の範囲に関する争いは、相続において頻繁に起こる争いですが、相続財産の範囲を決めないことには遺産分割協議を進めることはできず、いつまでも相続の問題を解決することはできません。ある財産が相続財産に含まれるかどうかは、遺言書の解釈や証拠の分析など法的な視点からの検討を要することも多いといえます。相続財産の範囲をきちんと整理し、適切な遺産分割協議に臨むためにも、相続財産の範囲でお悩みを抱えている方は、ぜひ一度弁護士に相談されてみてください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)