監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
「内縁関係」とは、法律上定義されたものではありませんが、婚姻届は提出していないものの、お互いに婚姻の意思があり、実質的には結婚している夫婦と同様の状態にある関係をいいます。
内縁関係にある場合、婚姻に準ずる関係として、法律婚と同様の法的保護を受けられる場合があり、そうしたときに内縁関係の証明が必要となります。
以下では、内縁関係をどのように証明していけばいいか、必要な書類や方法について詳しく説明していきます。
内縁関係の証明が必要となるのはどんな時?
内縁関係は、「婚姻に準ずる関係」と認められており、結婚している夫婦と同様に、法的に保護されているものがあります。例えば、次のようなものです。
- 内縁関係にある相手方が不貞行為をした場合の慰謝料請求
- 正当な理由がない一方的な内縁関係の解消があった場合の慰謝料請求
- 内縁関係を解消する場合の財産分与請求
このように、夫婦であれば当然発生するような権利を主張する際に、内縁の相手方が内縁関係を否定する場合には、権利を主張する側が内縁関係を証明する必要があります。
内縁関係を証明するには?書類や方法について
内縁関係にあるかどうかは、①双方に婚姻の意思があるか、②夫婦としての共同生活を送っているかどうかによって判断されます。
法律婚であれば、戸籍謄本から夫婦であることを簡単に証明することができますが、内縁関係の場合、こうした決定的な証拠はありません。そのため、以下のような書類や事実関係から、内縁関係にあることを証明していくことになります。
住民票
内縁関係を証明する書類として、まず、住民票が挙げられます。住民票上の世帯を同一にしておけば、2人が同居していたことや同居期間の長さ等の事実を証明することができます。
さらに、住民票の続柄の欄に、「妻(未届)」ないし「夫(未届)」と記載されていれば、当事者双方に婚姻の意思があることがより認められやすくなります。
このように、住民票は、同居の事実や婚姻の意思の有無に関する事実を示すことができる公的な書類であることから、内縁関係を証明する証拠として、特に重要なものといえます。
賃貸借契約書
同居する際に作成された賃貸借契約書も、内縁関係を証明するものとなり得ます。
例えば、賃貸借契約書の同居人の欄に、内縁の相手方の氏名が記載され、続柄に「内縁の妻」「内縁の夫」といった表記がされていれば、同居の事実や婚姻の意思があったことの証明に繋がるといえます。
健康保険証
内縁配偶者の「被扶養者」として記載された健康保険証も、内縁関係を証明する証拠の一つとなると考えられます。
健康保険証の「被扶養者」には、主として被保険者によって生計を維持している事実上の配偶者も含まれます。
例えば、内縁の妻(夫)が健康保険法上の被扶養者の条件を満たし、内縁の夫(妻)の被扶養者として認定され、内縁の夫(妻)の勤務先から健康保険証の交付を受けている場合には、その保険証も、2人の内縁関係を証明する1つの材料となり得ます。
遺族年金証書
「遺族年金証書」も、内縁関係を証明するための証拠になり得ます。
遺族年金とは、国民年金または厚生年金の保険に加入していた者が亡くなったとき、その者に生計を維持されてきた遺族(配偶者や子供など)が受け取る年金のことをいいます。
上述の健康保険と同様に、遺族年金の受給者とされている配偶者にも事実婚状態にある者が含まれているため、内縁関係であっても、受給要件を満たしていれば遺族年金を請求できます。
請求が認められると、遺族年金証書が送られます。遺族年金を支給する際には、内縁関係であることを確認してから支給することになりますので、遺族年金証書は内縁関係を証明する証拠となるといえます。
給与明細
勤務先からの給与明細も、内容によっては内縁関係を証明する証拠の1つとなり得ます。
例えば、内縁関係の相手が勤務先に対し、内縁の相手を被扶養者として申告し、勤務先もこれを認めていた場合、勤務先によっては、「家族手当」や「扶養手当」、「住宅手当」等の諸手当が支給されることがあります。
このように、勤務先が内縁の相手を被扶養者として認め、内縁の相手にかかる諸手当を支給している場合には、その給与明細も、内縁関係にあることを証明する証拠になるといえます。
民生委員が作成する内縁関係の証明書
民生委員が作成する「内縁関係の証明書」も、内縁関係を証明する際の証拠になり得ます。
民生委員とは、住民の立場に立って相談を受けて必要な援助を行うなど、社会福祉の増進に努める非常勤の地方公務員のことをいいます。民生委員に依頼すれば、「内縁関係の証明書」を作成してもらえることがあり、内縁関係の証明に役立つ可能性があります。
もっとも、民生委員は、社会福祉の増進に努める地方公務員ですので、内縁関係の証明書についても、福祉サービスを利用するための支援としてでなければ作成してもらえず、また、法律に触れるような問題であったり法的証拠として取り扱われたりするものについては作成してもらえないことにご留意ください。
長期間の同居
夫婦同然の共同生活をしていた同居期間の長さは、内縁関係の成立の判断で考慮される事情の一つです。
同居期間は長ければ長い方が、内縁関係にあることを証明しやすくなります。
内縁関係の成立が認められるためには、一般的には3年程度の同居期間が必要だといわれていますが、実際には個別の様々な事情から内縁関係の成立の有無が判断されるため、3年というのもあくまで目安にすぎません。
親族や友人たちから夫婦として扱われている
親族や友人など周囲の人たちから、夫婦としての扱いを受けているといたという事実は、内縁関係を証明する事実の一つとなります。
例えば、「親族の冠婚葬祭に夫婦として呼ばれている」「お互いの友人に夫婦だと紹介している」というような場合は、お互いに婚姻の意思があり、かつ、夫婦として共同生活を送っていると認められやすくなりますので、内縁関係を証明する上で重要な事実といえます。
結婚式や披露宴を挙げたことがわかる書類や写真
結婚式や披露宴を挙げたことがわかる書類や写真は、内縁関係の証明となる可能性があります。
婚姻届を提出していないとしても、結婚式や披露宴を挙げていた場合には、双方に婚姻意思があることが読み取れますので、それらの写真等は、内縁関係があったと証明する証拠となり得ます。
また、結婚式や披露宴を挙げているということは、お互いの親族や友人からは夫婦であると扱われている可能性が高いので、上述の事実関係と相まって、内縁関係を証明する上で重要な事実といえます。
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内縁関係の証明に関するQ&A
半同居生活を送っていた場合でも内縁関係を証明することはできますか?
内縁関係を証明するためには、お互いに婚姻の意思があり、かつ、夫婦としての共同生活を送っていることを立証する必要がありますので、基本的には、同居をして共同生活を送っていることが前提となると考えられます。
もちろん、最終的には様々な個別的事情を考慮して判断されるため、半同居生活であることから直ちに内縁関係が否定されるとはいえません。
半同居であったとしても、家計を同一にしていた等の事情があれば、夫婦同然の共同生活を送っていたものとして、内縁関係を証明できる可能性はありますが、完全に同居していた場合に比べると、証明は難しくなることが予想されます。
自分で作成した契約書は内縁関係を証明する証拠になりますか?
自分たちで作成した契約書も、内容次第では内縁関係を証明する証拠になります。
例えば、双方に婚姻意思があることを証明するため、「お互いに婚姻の意思があることを確認し、夫婦として共同生活を始める」といった内容で契約書にしておくと、同契約書を根拠に内縁関係があったことを主張しやすくなります。
また、作成した契約書を公証役場で「公正証書」にすれば、さらに、契約書の証拠価値が高まります。
自動車保険は内縁関係を証明する証拠になりますか?
一般的に、自動車保険では、内縁関係にある者も配偶者として取り扱うとされています。
内縁関係を配偶者とする場合、通常、保険会社が内縁関係にあることの確認をした上で契約を締結することになりますので、自動車保険の契約内容から内縁関係を証明することが可能となります。
例えば、自動車保険の内容が、内縁の妻(夫)を配偶者として補償を受ける対象としている場合など、内縁関係にある者が配偶者と同等の扱いを受けていれば、その自動車保険の契約書等が内縁関係を証明する証拠になるといえます。
内縁関係を証明できれば浮気相手から慰謝料をもらうことができますか?
内縁関係であっても、法律婚における夫婦と同様、お互いに貞操義務を負っていると考えられますので、内縁関係にある者以外の者と性的関係をもつことは不貞行為にあたるといえます。
したがって、内縁関係を証明できれば、不貞行為を行った内縁関係の相手方及び不貞相手に対して慰謝料を請求できる可能性があります。
なお、慰謝料を獲得するためには、内縁関係の証明だけではなく、内縁関係の相手方が不貞相手との間で不貞行為があったという事実を証明することも必要となります。
また、浮気相手が「単なる同居人だと聞いていた。内縁関係にあるとは知らなかった」などと反論してくる可能性もあります。
そうした主張をされたときは、浮気相手が内縁関係にあると知っていた、または知り得る状況にあったということを証明する必要があります。
内縁関係を証明できるか不安なときは弁護士にご相談ください
以上、内縁関係を証明するために必要な書類や事実関係等について説明してきましたが、これらの証拠や事実関係は、どれか1つがあれば、直ちに内縁関係が認められるものではありません。
法律婚と違って、戸籍謄本によって簡単に証明することができるわけではないため、様々な事情を組み合わせて証明していく必要があります。
内縁関係の成立の有無によって法的な保護を受けられるかどうかが変わってきますので、内縁関係の証明に関してご不安な場合には、お早めに弁護士に相談されることをお勧めします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)