
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
配偶者の不貞やモラルハラスメントなど、離婚の原因となった有責行為により生じた精神的苦痛に対する損害の賠償と、離婚によって配偶者の地位を失ったこと自体から生じる慰謝料とをまとめて「離婚慰謝料」といいます。
この記事では、離婚協議中の配偶者や、離婚済みの元配偶者から離婚慰謝料を請求された場合に気を付けることや、必要な対応について解説します。
目次
離婚慰謝料を請求されたら確認すべきこと
請求してきたのは誰か
冒頭で書いたように、離婚慰謝料は、離婚の原因となった有責行為によって生じた精神的苦痛や離婚自体によって生じた精神的苦痛に対する賠償ですので、それを請求できるのは、配偶者か元配偶者に限られます。
まずは、請求してきた相手方が自身の配偶者もしくは元配偶者であるのかどうかを確認してください。
回答期限があるか
離婚慰謝料の請求が内容証明をはじめとする書面でなされた場合、回答をすべき期限が書かれていることが多いので、期限を確認してください。
この期限は法的に守ることが義務付けられたものではありませんが、守らなかった場合、相手方が訴訟に踏み切るおそれがあります。訴訟になった場合、争いが長期化することになり、ご自身の負担が大きくなってしまうため、回答期限は守りましょう。
慰謝料が発生する理由
離婚慰謝料の請求が認められるためには、請求された側の有責行為によって離婚を余儀なくされ、それによって精神的苦痛を被ったことが必要になります。
有責行為とは、類型的に婚姻関係の破綻を招くような責めに帰すべき行為をいいます。例えば、不貞行為やモラルハラスメント、不労、浪費、犯罪行為などが挙げられます。
不貞行為とは、夫婦が負う貞操義務に反して配偶者以外の者と肉体関係をもつことをいいます。食事に行っただけの場合や、メールやSNSでやり取りをしていただけの場合には不貞行為に当たらない可能性が高いです。
また、モラルハラスメント等は、直ちに有責行為にあたるとされるわけではなく、その程度が甚だしく重大なものである必要があります。
相手の主張は真実か
相手方は、請求の理由として、あなたが有責行為をしたと主張をしてきますので、その主張が真実かを確認する必要があります。そのような行為をした覚えがないのならば、相手方の主張する有責行為は存在しないということを主張していく必要があります。
また、相手方が証拠を持っているのかどうかも確認する必要があります。証拠が不十分な場合、支払いの拒否や、慰謝料の減額ができる可能性があります。
請求金額は妥当か
裁判所における離婚慰謝料の相場は、有責行為の類型によって異なりますが、どの類型であっても300万円を超えることは少ないとされます。
また、類型ごとの相場について、例えば、不貞行為の場合では100万円~300万円、DVの場合では30万円~100万円程度であるとされています。これらの相場価格に比較して過大な請求をされていないかどうかを確認してください。
離婚慰謝料を請求されたときにやってはいけないこと
慰謝料請求を無視する
相手方からの請求に対して何も回答をしなかった場合、交渉の余地はないものとされ、相手方が慰謝料請求の訟を提起する可能性があります。相手からの請求に対して、無視はせず必ず回答してください。
訴訟が提起された場合、裁判所から訴状等の書類が届き、訴状記載の主張を認めるか否かや自分の主張を書面に書いて裁判所に提出することが求められます。これを無視した場合には、相手方の主張の真偽にかかわらず請求が認められ、最悪の場合、強制執行をされるおそれがあります。絶対に無視はせず、回答に時間がかかる場合にはその旨だけでも連絡するようにしましょう。
相手の言い値で慰謝料を支払う
相手方の請求額が妥当な額だとは限りません。むしろ多くの場合は、相手方が有利になるように多めの金額で請求してきます。それは、相手方に弁護士が代理人としてついていて、弁護士から書面が届いた場合でも同様です。交渉によって減額できる可能性があります。
また、一度払ったものを取り戻すことや、支払いを約束したことを変更することは難しいので、慰謝料の金額についての合意は慎重に行いましょう。
相手の神経を逆撫でするような発言を行う
相手方としては有責行為によって傷つけられたと認識しており、怒りなどの感情も高まっている状況にあることが予想されます。これから慰謝料の減額等を交渉しようとするにあたって、相手方の神経を逆撫でするような発言をしてしまうと、相手方がより強固な姿勢をとることになってしまい、交渉に応じてもらえなくなるおそれがあります。
相手方からの突然の請求に驚きや怒りを感じるかもしれませんが、冷静に丁寧な対応をするよう心がけましょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚慰謝料の支払いを拒否できるケース
相手方から離婚慰謝料の請求をされたかといって、必ずしも支払いをしなければならないわけではありません。下記のように離婚慰謝料の支払いを拒否できるケースもあります。これらにあたるかどうか判断に迷う場合にも、お気軽に弁護士にご相談ください。
相手が主張する内容が虚偽である・証拠がない場合
相手方の主張する有責行為が事実無根なのであれば、法的に慰謝料を請求する権利はないことになるので、支払いを拒否することができます。
また、相手方が裁判所に訴えた場合、有責行為があったことを証明しなければならないのは相手方です。そのため、証拠がない場合には、裁判所に訴えたとしても相手方の請求は認められない可能性が高いということになります。この場合にも支払いを拒否することができます。
時効が成立している場合
法的に存在が認められる権利であっても、消滅時効が完成し、請求された側が消滅時効の完成によって権利を消滅させる意思を相手方に表示した場合には消滅します。
離婚慰謝料のような不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、原則として、離婚成立時から3年を経過することで完成します。ただし、例外的に離婚をした後に初めて不貞行為を知ったという場合などは、その不貞行為を知った時から3年経過することが必要になることもあるので、注意が必要です。
婚姻関係がすでに破綻していた場合
裁判所は、不貞行為があった場合について、不貞行為の時に既に婚姻関係が破綻していたときは離婚慰謝料の請求は認められないとしています。
婚姻関係が既に破綻していたとは、単に不和ということだけでなく、婚姻関係が完全に復元の見込みのない状態に至っていることをいうとされます。具体例としては、長期間別居をしていた場合や、双方に離婚意思の合致あった場合、不貞行為をしてしまった側の配偶者がもう一方の配偶者から暴力を受けていた場合などが挙げられます。
離婚慰謝料が減額できるケース
相手にも過失がある
慰謝料請求は、請求者側にも過失がある場合その過失の程度に応じて減額されることがあります。例えば、請求された側もDVなどをしていたが、請求者側も不貞行為をしていたという場合がこれに当たります。
相場以上の慰謝料を請求された
相場以上の慰謝料を請求された場合、支払いを拒否して訴訟を提起したとしても、相場価格を超える部分については請求が認められない可能性が高いといえます。また、訴訟をすることは金銭的にも労力的にも精神的にも負担が大きくなります。
そこで、裁判でも相場を超える多額の請求は認められないことや、訴訟に踏み切ることは双方ともに負担が大きいことを説得材料として交渉をすることで減額できる可能性があります。
自分の資産・収入が少ない
慰謝料を請求して支払いに合意したとしても、支払う側に資力がなければ支払うことはできません。その場合、請求した側は強制執行をして財産を差し押さえるという選択肢がありますが、財産もなければ強制執行もできません。その場合、支払い合意は絵に描いた餅になってしまいます。
請求する側もそれを避けるために、分割払いなど支払いを任意にしてもらえる方法や金額で和解をしたいと考えるため、自分の資産・収入が少ないことを相手方に伝えることで、請求を減額してもらえる可能性があります。
有責性が低い
有責行為があったとしても、その有責性が低い場合は相場価格より慰謝料が減額される可能性があります。ケースバイケースではありますが、例えば、DVや不貞行為の回数が少ない場合、不貞行為の期間が短い場合、上司からの圧力で誘いを断れず肉体関係を持ってしまった場合などには有責性が低いとされる可能性があります。
離婚慰謝料額を減らすことに成功した事例
相手から、DVをされたとして、離婚慰謝料として500万円を請求された事案があります。これに対して、DVはしていないこと、DVの対象となる事実や証拠の提示求めるなどし、最終的には慰謝料の支払いは0円で合意をしました。
離婚慰謝料が増額されるケースもある?
慰謝料額が相場より増額されてしまうケースとして、例えば、不貞をしていた期間が長期間であった場合や、有責行為によって相手方が精神疾患を患った場合、複数の有責行為がある場合(例えば、不貞行為もしていて、DVもしていた場合など)などが挙げられます。
ただ、最初に相手方が請求してくる金額は、多めに請求している可能性が高いため、当初相手から提示されてきた金額から交渉の過程で増額されることは、交渉中に相手方が新たな有責行為を知った場合など例外的な場合に限られると思われます。
離婚慰謝料を決める流れ
まずは、当事者間で慰謝料の支払いの有無、支払うとしてその金額や支払方法、支払期限などを話し合います。減額を希望する場合は、その理由を相手方にしっかりと伝えましょう。そうすることで相手方もその減額の申立てに応じるかどうかを具体的に検討でき、話し合いが円滑に進みます。
当事者のみでの話し合いで解決できない場合は、調停を申し立てる方法があります。調停は、裁判所において調停員や裁判官といった公正な第三者が当事者の間に入って話し合いを行う手続きです。
調停における話し合いでも合意に至らなかった場合は、請求をする側が訴訟を提起することになります。裁判では裁判官が当事者双方の主張と提出された証拠をふまえて、慰謝料請求が認めるか、慰謝料請求を認める場合にその金額について判断をします。
離婚慰謝料が支払えない場合の対処法
一度合意に至った離婚慰謝料であっても、どうしても支払えない場合は相手方と交渉をすることで減額をしてもらったり、分割払いで無理なく支払える計画を立てたりすることができる場合があります。
また、脅迫されるなどして合意書を無理やり書かされた場合などは、そもそもその合意の効力が認められないので、合意通りの慰謝料を支払わなくてもよい可能性があります。
離婚慰謝料の減額に関するQ&A
公正証書を作った後でも慰謝料を減額できますか?
公正証書を作成した場合、その合意の有効性自体を争うことはかなり難しいです。もっとも、公正証書作成後に、当事者間の交渉で減額をしてもらえる可能性があります。ただ、相手方も一度払ってもらえるとなった金額を減額することには難色を示す可能性が高く、難易度の高い交渉となることが予想されます。
内容証明郵便で慰謝料請求された場合、減額交渉はどのように進めたらいいですか?
内容証明郵便とは、郵便局が文書の内容や、差出人と宛先、差出日時を郵便局が証明してくれる郵便のことをいいます。特別なものに感じるかもしれませんが、内容証明郵便を使うこと自体には法的効力はありません。内容証明郵便が届くということは、相手方も場合によっては裁判をすることを考えている可能性がありますので慎重な交渉が必要になります。また、相手方に対して送る回答書も証拠として利用されるため、記載の内容には慎重になる必要があります。まずは、内容証明郵便に記載の内容を確認し、それに対する回答をまとめ、期限内に返答し交渉を開始することになります。
離婚慰謝料を請求されたら、弁護士に相談してみましょう
離婚慰謝料には相場があるといわれているとはいえ、いくらが適正な金額になるかはケースバイケースであり、判断が難しい場合が多いです。また、一人で対応した場合、どうしても感情的になってしまうため、相手方との交渉がこじれ、減額に応じてくれなくなったり、裁判を起こされたりするおそれもあります。
離婚慰謝料を請求された際には、ぜひ専門家である弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)