監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交際相手の配偶者から、ある日突然、不貞慰謝料を請求された場合、驚かれると思います。
多くの場合、内容証明郵便が自宅に届き、1週間以内に300万~500万円の慰謝料を支払わなければ、法的措置を取るなどと書かれており、急いで慰謝料を支払わなければ、大変なことになってしまうと考えるかもしれません。
この記事では、交際相手の配偶者から不貞慰謝料を請求された際の対応について解説していきます。
目次
不貞慰謝料を請求されたら確認すること
不貞慰謝料を請求された場合、まず、不貞慰謝料の原因となる不貞行為があったのかを確認しましょう。
いきなり内容証明や弁護士からの受任通知が届くと、不貞行為がなかったにもかかわらず、勢いで不貞行為を認めてしまうことがあります。自分から不利な証拠を作ってしまわないように、届いた書面をよく読み、誰が、誰との関係に対して、慰謝料を請求しているのかを確認しましょう。
慰謝料の支払いが必要ないケース
不貞慰謝料を請求されていても、慰謝料を支払わなくても良いケースがあります。自分が慰謝料を支払わなくてもよいケースに該当しないか、確認をしてみてください。
不貞の事実がない
まず、不貞の事実がない場合には、当然ながら、慰謝料を支払う義務はありません。慰謝料の原因となる不貞(法的には、「不貞行為」といいます。)とは、性交渉を伴う肉体関係を指すというのが一般的な理解です。そのため、肉体関係がなく、メールのやり取りをしていただけ、何回か食事に行ったことがあるだけという場合には、慰謝料を支払う義務はありません。
ただ、性交渉を行っていない場合でも、キスやハグ、高頻度の接触など、平穏な夫婦関係を破綻させるような行為を繰り返している場合は、性交渉がある不貞行為と同視されるとして慰謝料が認められ可能性はあります。
夫婦関係が破綻していた
不貞慰謝料は、不貞行為によって平穏な夫婦関係という法的な権利を侵害したことに対して発生するものです。そのため、不貞行為が行われた時点で、夫婦関係が破綻していたのであれば、法的な権利が侵害されておらず、慰謝料の請求も認められません。
ただし、ここでいう夫婦関係の破綻とは、会話が減っていた、夫婦喧嘩が増えていたというだけでは足りず、不貞行為時点ですでに長期間にわたる別居をしていたり、離婚調停を行っていたりするなどの客観的な事情が必要になります。
慰謝料請求の時効を過ぎている
慰謝料を請求できる期間を過ぎている、つまり消滅時効が完成している場合も、法的には慰謝料を支払う必要はありません。
不貞に対する慰謝料は、正確にいうと、不法行為(民法709条)に対する慰謝料であり、不貞行為及び加害者を知った時から3年を経過した場合は、消滅時効を主張(援用)することによって、慰謝料の支払いを免れることができます。
相手が既婚者だと知らなかった
交際相手が既婚者であると知らなかった場合も、慰謝料を支払う必要がありません。
すでに説明したように、不貞行為は、法的には不法行為(709条)というもので、不法行為に基づく賠償請求が認められるためには、権利侵害に対する故意又は過失が必要です。不貞行為による慰謝料は、不貞行為によって平穏な夫婦関係という法的な権利を侵害したことに対して発生するものですから、交際相手が既婚者であると知っていた、又は注意をすれば既婚者であると気づけたということが必要となります。
そのため、相手が既婚者であることを巧妙に隠していたため、既婚者であると知らなかった、又は細心の注意を払っても既婚者であると気がつかなかった場合は、慰謝料を支払う必要はありません。
不貞慰謝料を請求された際にやってはいけないこと
請求を無視する
不貞行為がない、又はどうしたらいいか分からない場合でも、相手からの請求を無視することはやめましょう。
請求に対して何もリアクションがない場合、交渉を続ける意味がないと判断して、相手が訴訟提起をする可能性があります。
訴訟となった場合、膨大な費用や時間がかかるだけでなく、態度が不誠実であるとして、慰謝料が増額される可能性があります。
開き直る・逆切れする
不貞行為が事実であるなら、開き直ったり、逆ギレをしたりしても、意味はありません。
慰謝料の支払いを避けられない状況であるにもかかわらず、相手の感情を逆撫でしてしまい、減額や分割などの相手との交渉が困難となってしまいます。
また、裁判となった場合は、態度が不誠実であるとして、慰謝料が増額される可能性があります。
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不貞慰謝料が高くなるのはどんな時?
自分から誘った場合
交際相手が既婚者であることを知りながら積極的に不貞関係を持ち掛けた場合、慰謝料が増額されることがあります。自分から誘うことは、平穏な夫婦関係を破綻させたことに対する責任の度合いが高くなるからです。
反省していない場合
相手からの請求を無視する、逆ギレをする、不貞行為はないとしらを切るなど、不貞行為をしたことに対して反省がない場合も、慰謝料が増額されることがあります。
請求された後の行動も慰謝料に影響する可能性があります。
それまで夫婦円満だった場合
不貞行為が発覚するまでは、相手の夫婦関係が円満だった場合、平穏な夫婦関係を破壊したことに対する影響が大きいため、慰謝料が増額されることがあります。
妊娠・出産した場合
不貞行為によって、子どもを妊娠・出産した場合、慰謝料が増額されることがあります。
不貞相手が妊娠・出産した場合、配偶者の精神的苦痛は、当事者間で不貞行為のみが行われたことに比べて極めて大きくなりますし、平穏な夫婦関係に与える影響も大きくなります。
また、精神的苦痛だけでなく、養育費や相続など、将来にわたって、金銭面での影響が生じることもあり、慰謝料の増額事由になります。
不貞が原因で離婚した場合
不貞が原因で夫婦が離婚した場合、不貞が平穏な夫婦関係に与えた損害が極めて大きいものであると評価できます。それまで、婚姻関係が円満だったにもかかわらず、不貞が原因で離婚に至った場合は、慰謝料が増額になる傾向があります。
請求された金額が払えない場合の対処法
不貞慰謝料として、高額の慰謝料が請求されることが多く、支払いが困難となることも多いです。
以下では、請求された慰謝料の金額が支払えない場合の対応を説明します。
減額交渉する
最初の請求時点では、相手も感情的になっていることもあるため、求められる金額が高額になることも多いです。そのため、まずは、請求金額が裁判例と比較すると請求額が過大であるとして、減額を求める余地があります。
また、交際期間が短い、不貞行為の回数が少ない、婚姻期間が短いなどの減額事由を説明して、減額の交渉をします。
分割払いの交渉をする
減額をしても一括での支払いが困難である場合は、分割払いを提案するという方法もあります。不貞行為に対する償いとして、できる限り多く慰謝料を支払ってほしいという相手であれば、支払う金額を多くする代わりに、分割で慰謝料を支払うことを提案することが考えられます。
分割払いでは、途中で支払いが止まってしまうのではないかということを危惧して、分割払いには難色を示されることもあるので、支払回数や期間は、弁護士に交渉を任せると良いでしょう。
請求された不貞慰謝料の減額事例
弊所では、不貞慰謝料の請求をされた方からご依頼を受け、請求額からの大幅な減額に成功した事例も数多くあります。
依頼者は、当初、交際相手の配偶者から300万円の慰謝料を請求されており、相手の弁護士からは減額には応じないと強硬な態度を取られていました。相手の夫婦は、不貞行為の発覚により、離婚しており、不貞の影響が小さいとは言えない事案でしたが、不貞行為が行われた時点で夫婦関係が悪化していたことや、すでに夫から多額の慰謝料が支払われていることなどを主張して、200万円以上の減額に成功しました。
不貞慰謝料を請求されたら弁護士にご相談ください
不貞の慰謝料を請求されると、突然のことでどうすればいいか分からず、不安な気持ちになると思います。誰にも相談できず、1人で解決しようとすると、気づかないうちに自分に不利なことを言ってしまったり、支払う義務のない慰謝料を支払ったりしてしまうことがあります。
弁護士であれば、ご依頼者様の代わりに交渉をして、適切な結果へ話合いを進めることができます。
弁護士法人ALG&Associates横浜法律事務所では、男女問題を数多く扱った弁護士が多数在籍しておりますので、お困りの際はぜひ一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)