
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
相続放棄の期限はどれくらい?
相続放棄は、原則として、相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」にする必要があります(民法915条第1項)。この期間を、熟慮期間といいます。
起算日はいつから?
熟慮期間の起算点は、自己のために相続の開始があったことを知った時です。これは、一般的には、被相続人が死亡したという事実に加えて、それによって自分が相続人となったことを知った時をいいます。熟慮期間は、上記の事実を知った翌日から計算します。
相続放棄の期限は延長できることもある
相続人は、熟慮期間内に、単純承認、限定承認又は相続放棄をしなければなりません。この熟慮期間内に相続人が相続財産の状況を調査してもなお、単純承認、限定承認又は相続放棄のいずれをするかを決定できない場合には、家庭裁判所は、申立てにより、この3か月の熟慮期間を伸長することができます。
申立てが認められる場合、延長される期間は個々の事情によりますが、概ね3ヶ月程度延長されることが多いといえます。
期限を延長する方法
熟慮期間は、相続開始地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所において伸長することができます。その申立ては、熟慮期間が経過しない間になされる必要があります。
期間伸長の申立てには、⑴申立書のほか、⑵①被相続人の住民票除票又は戸籍附票、② 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(親族の場合,戸籍謄本等)、③ 伸長を求める相続人の戸籍謄本が必要です。審理のために必要な場合は、さらに追加書類の提出を求められることがあります。
申立てにかかる費用は、収入印紙800円分(相続人1人につき)及び連絡用の郵便切手(申立てる裁判所ごとに異なるため確認が必要)となります。
相続放棄は相続人個々の意思表示ですので、期間伸長の申立てをしたい相続人が複数いる場合、各自が手続きを行う必要があります(複数の相続人の手続きをまとめて行うことは可能です)。
再延長はできる?
事情によっては、再度の伸長の申立てをすることができます。この場合も、伸長が認められた期間内に申立てをする必要があります。
熟慮期間の伸長が必ず認められるわけではありません
熟慮期間の伸長は、相続財産の調査考慮をするために特に3か月以上の期間が必要となる場合に、その調査考慮に必要な期間に限って認められるとされています。
相続人が複数いる場合、相続人ごとに事情を考慮して判断されますので、期間伸長の申立ては、各共同相続人について個別に認められます。1人について期間伸長が認められたとしても、他の相続人の熟慮期間には影響しません。
弁護士なら、ポイントを押さえた申立てを行うことが可能です
期間伸長の申立ては、熟慮期間中に行わなければなりません。また、家庭裁判所に対して「熟慮期間内に相続手続の方法を選択できないのはやむを得なかった」と認められるように説得することが必要となります。
相続財産を調査して期間伸長が必要となった場合、期限前にポイントを押さえた申立てを行うためには、一度弁護士に相談されることをお勧めします。
相続放棄の期限を過ぎてしまったらどうなる?
相続人が相続放棄をしようとするときは、熟慮期間内にその旨を家庭裁判所に申述し、これが受理されなければなりません。相続人が限定承認又は相続放棄の申述をせずに熟慮期間を経過すると単純承認をしたものとみなされます。
理由によっては熟慮期間後の相続放棄が認められる場合も
相続人が自己のために相続の開始があったことを知った場合であっても、相続人が、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じていたために、相続放棄の申述をしないまま熟慮期間を徒過した場合、このように信じることについて相当な理由があると認められるときには、相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識可能な時から熟慮期間を起算することができるとされています。
例えば、何十年も被相続人と疎遠にしていて、その間交際が全くない状態が継続していたために相続財産の状況を把握する機会がなかったような場合は、「相当な理由」があると認められやすいといえます。
こんな場合は相続放棄が認められません
熟慮期間を経過すると、単純承認したとみなされ、相続放棄ができなくなります。相続人が法律を知らず、相続放棄という仕組みや相続放棄に期限があることを知らなかったとしても、その結論は変わりません。
また、他の相続人に家庭裁判所を経由せずに相続放棄の意思表示をしていたとしても、熟慮期間中に家庭裁判所に相続放棄の申述をしない限り、相続放棄は認められません。
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相続した後に多額の借金が発覚したら
熟慮期間が経過してしまった場合には、もはや相続放棄はできないのが原則です。
もっとも、先に述べたように、熟慮期間中に相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであって、相続人がこのように信じることについて相当な理由があると認められる場合には、例外的に、借金が判明した時点を熟慮期間の開始とできる可能性があります。
熟慮期間後の相続放棄が認められた事例
依頼者は、疎遠だった被相続人の死亡の事実を死亡から半年後に知り、裁判所に相続放棄の申し立てをしたそうですが、裁判所から取り下げ勧告を受け、相続放棄をすることができませんでした。依頼者は、その約1年後に初めて被相続人に多額の負債があることを知りました。
弊所では、徹底的な事例分析や依頼者から聞きとった事情をもとに、裁判所に対して、相続放棄を受理すべき事情があることの書面を作成し、再度、裁判所に相続放棄の受理申立を行いました。その結果、無事、相続放棄の申述は受理され、依頼者は相続放棄をすることができました。
相続放棄の期限に関するQ&A
相続放棄の期限内に全ての手続きを完了しないといけないのでしょうか?
相続人が、相続放棄をしようとするときは、熟慮期間内にその旨を家庭裁判所に申述し、これが受理されなければなりません。熟慮期間が経過する前に申述書を提出し、家庭裁判所にて受付されれば、その後の手続きが熟慮期間内に完了する必要はありません。
相続順位が第2位、第3位の場合でも、相続放棄の期限は亡くなってから3ヶ月なのでしょうか?
熟慮期間の起算点は、自己のために相続の開始があったことを知った時です。これは、被相続人が死亡したという事実に加えて、それによって自己が相続人となったことを知った時をいいます。
相続順位が第2位、第3位の場合、被相続人の死亡の事実を知っただけでは、自分が相続人になることは分かりません。そのため、先順位の相続人が相続放棄をした場合であれば、その事実も知らない限りは次順位の相続人に関する相続放棄の熟慮期間はスタートしません。この場合、先順位の相続人の相続放棄が完了したことにより次順位の自分が相続人となったことを知った時から3か月の期限となります。
相続放棄の期限に関する疑問・お悩みは弁護士にご相談ください
お身内がお亡くなりになって間もないうちに、相続に関する判断をすることは様々な意味で負担が大きいことと思います。また、被相続人と疎遠だった場合などは、事情の把握も困難なことがあるかもしれません。しかし、相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3箇月以内」に行わなければならないため、早急に対応しなければなりません。その上、その判断は慎重に行われる必要があります。
そうした中で、相続放棄の期限に関して疑問やお悩みがある場合は、弁護士にご相談いただければ少しでもお力になれるかと存じます。まずは、お気軽にお問い合わせください。
遺言が存在するからといって、必ずしも遺言が有効であるとは限りません。
遺言の全部または一部が無効となり、遺産を遺言通りに分ける必要がなくなることがあります。
ただ、遺言の有効・無効について当事者間で話し合いしようにも、もらえる遺産に直結する話なので、激しい紛争の火種となることが多く、解決が困難であることが珍しくありません。
そのため、裁判所の手続きとして、遺言の有効性を確定させる遺言無効確認訴訟という手段が用意されています。
このページでは、遺言無効確認訴訟がどういうものであるかを解説します。
遺言無効確認訴訟(遺言無効確認の訴え)とは
遺言無効確認訴訟は、判決によって遺言が無効であることを確認してもらう手続きです。
重要な手続き上の特色として、判決が訴訟の当事者にしか及ばない点が挙げられます。
当事者が二人いてお金の貸し借りについて揉めているようなケースであれば、当事者の間でのみ判決が有効であっても問題はありません。
ただ、遺言の有効性は、相続人の間のみならず、遺言者の債権者のような第三者との関係で問題となることも珍しくありません。
そのため、問題となる全当事者を巻き込む形で訴訟を提起する必要があります。
遺言無効確認訴訟にかかる期間
遺言無効確認訴訟は遺言に関係する当事者が多くなった場合に紛糾してしまうことが多く、審理期間が1年以上かかることもあります。
特に、生前の遺言者の様子等について、過去の長期にわたる事実関係が問題となることが多く、当事者間で主張の整理だけでも長期間必要となることも珍しくありません。
そのため、訴訟の提起から少なくとも1年以上は審理が続くことの想定をしておく必要があります。
遺言無効確認訴訟の時効
遺言無効確認訴訟は遺言の効力が問題となる限り、いつでも提起できます。
いわゆる「時効」がないので、じっくりと準備をして提起をすればいい訴訟のように思えます。
しかし、遺言の無効の確認を求めたい場合、悠長に構えることは得策ではありません。
時間がたてば物事の記憶が薄れるように、重要な証拠も散逸してしまいます。
また、遺言によって財産が他者の手に渡る場合、同時に遺留分侵害額請求という請求を行うことが有力な手として考えられます。
この遺留分侵害額請求は、遺言が有効であることを前提とする請求なのですが、遺留分が侵害されていることを知った日から1年という非常に短い時効が設けられています。
敗訴した場合に備えた有力な選択肢を残すためにも、早い段階で遺言無効確認訴訟を起こすかを検討すべきです。
遺言無効確認訴訟の準備~訴訟終了までの流れ
遺言無効確認訴訟を起こすには、調停前置という前提条件があります。
つまり、遺言無効確認調停、という手続きを先に行っていないと、遺言無効確認訴訟は提起できません。
遺言無効確認調停が不成立となったことを受けて、離婚無効確認訴訟が起こせるようになります。
証拠を準備する
訴訟は、証拠をもって事実を認定する手続きです。
遺言が無効であることをひたすらに述べても、裁判所は無効と判断はしてくれません。
そのため、調停を起こす前の段階から、遺言が無効であると言えるだけの証拠を収集しておく必要があります。
よく使用される証拠の類型としては、遺言者の判断能力が低下していた内容の医師の診断書や、遺言者の筆跡と異なることを証する遺言者の手書きのメモや日記が挙げられます。
遺言無効確認訴訟を提起する
先ほども述べたように、遺言無効確認訴訟は調停を先行させる必要があります。
そして、調停は、申し立てる本人以外の当事者(相手方)の住所を管轄する裁判所に起こす必要があります。
これと異なり、訴訟は申し立てる本人の住所を管轄する裁判所に提起することが可能です。
さらに、冒頭でも述べたように、判決は訴訟当事者の間でのみ効力がありますので、判決効を及ぼす必要がある相手は訴訟の相手になるべくする必要があります。
勝訴した場合は、相続人で遺産分割協議
遺言無効確認訴訟にて、遺言が無効であることが判決で確認されると、遺産をわけるための指針となる遺言が存在しない状態となります。
そのため、遺産をどのように分けるかを相続人の間で決定する必要があります。
この手続きを遺産分割協議と呼びます。その詳細については以下のリンクをご確認ください。
遺言無効確認訴訟で敗訴した場合
遺言無効確認訴訟で遺言が有効であると判断されると、遺言によって法律上、保障されている遺産の取り分(遺留分)を侵害されている相続人は遺留分侵害額請求を行うことができます。
この請求は上述したように期間制限があるので、遺言無効確認訴訟に敗訴した場合に備えて遺留分侵害額請求を行っておくことが重要となります。
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遺言が無効だと主張されやすいケース
遺言はどのような場合にでも無効となるとは言えません。
定型的に裁判所が遺言の無効を認めやすい類型があり、その場合には遺言の有効・無効が争われやすくなります。
認知症等で遺言能力がない(遺言能力の欠如)
遺言を有効に行うには、遺言を作成した時点で遺言者に遺言能力があったと認められる必要があります。
この遺言能力は、遺言者が自身の財産や身分関係について十分に理解し、遺言を作成する意味を十分に理解できている状態にある場合に認められます。
ところが、一般的に遺言を作成する時点で遺言者が高齢であることが多く、認知症をはじめとする判断能力が低下する症状を抱えていることも珍しくありません。
そのため、認知症を抱えていた遺言者の遺言能力が問題視されて、遺言の有効性が争われてしまうことがよく見られます。
もっとも、認知症とは一言で言っても、全ての患者の判断能力が常時低下しているわけではありませんので、認知症患者の遺言が無効となるとは限らないことは注意する必要があります。
遺言書の様式に違反している(方式違背)
遺言は、遺言者の現世における最後の意思表示であり、法律上も非常に重要な位置づけがされています。
遺言の重要性から、法は遺言書に形式上も厳格な制約を課しています。遺言が法に定められた方法に違反して作成された場合には、その違反した部分もしくは遺言全体が無効となる扱いがされます。
例えば、自筆証書遺言と言われる形式の遺言の場合、「自筆」という名称のとおり、一部を除き遺言者の手書きで作成されることが求められています。
手書きかどうかで大げさに感じる方もいるかもしれませんが、複数の遺言が出てきた場合には揉める原因となります。パソコンなどで作成して印刷した遺言はあくまでも内容の推敲のために作成した物であり、手書きの遺言が真の遺言として扱われます。
相続人に強迫された、または騙されて書いた遺言書(詐欺・強迫による遺言)
遺言のような意思表示については、遺言者の真意が現れていない場合、有効と扱うべきではありません。
そのため、詐欺や脅迫によって作成されたと認められる遺言については無効となります。
もっとも、「詐欺」や「脅迫」があったとは裁判所も容易に認めません。
しっかりと、第三者の目から見て「詐欺」や「脅迫」の存在を認められるだけの証拠を準備しておくことが重要です。
遺言者が勘違いをしていた(錯誤による無効・要素の錯誤)
遺言者の真意が現れていない遺言の一つの類型として、遺言者が遺言の内容について勘違いをしていた場合があります。
この勘違いが、遺言の重要な部分に関するものであり、その勘違いがなければ遺言をしなかったと認められる場合、遺言が無効となり得ます。
この場合、遺言者の意思を、遺言者のいない状態で残された証拠を元に推測する必要があります。
遺言者の真意が何であったかの証拠が足りない場合、遺言の体裁に問題がないことを前提に、遺言の記載内容が遺言者の真意であったと認められることとなります。
共同遺言
民法は、二人以上の者が同一の遺言書で遺言を残すことを禁止しています(民法975条)。
このルールに反した遺言は遺言書全体が無効となると判断した裁判例があります。
何度も述べているように、遺言は非常に重要な意思表示です。
そのため、遺言者の真意が何であったかは遺言に現れていないと問題があるのは明白です。
複数人が相続に関して全く同一の意見であることは通常、考え難く、場合によっては遺言者同士の力関係を利用して特定の遺言者の意思に反する遺言すらされるおそれがあります。
また、遺言は遺言者が自由に作成・撤回してよい性質のものです。
複数人で作成した遺言が存在すると、撤回が困難となるおそれもあります。
このように類型的に遺言者の真意が現れないおそれが大きい共同遺言は、法律上禁止されており、実際にも相続人間の紛争の火種となります。
公序良俗・強行法規に反する場合
遺言の内容は遺言者の生前の最後の意思表示なので、なるべく尊重されるべきです。
しかしながら、遺言の内容が到底社会的に許容されないような場合には公序良俗に反するものとして無効と扱われることもあります(民法90条)。
例として不倫相手に対して財産を渡すことを内容とする遺言がよく挙げられます。
この場合、当事者間の感情的な対立も激しいので遺言無効の主張が出やすい場面となります。
もっとも、本来、遺産を家族以外の者の第三者に残すこと自体、遺言者に認められた権利です。
そのような遺言者の権利とのバランスから、裁判所はケースバイケースでそのような遺言も有効とすることもありますので、単純に不倫相手へ財産を渡す遺言が無効と考えてはいけません。
遺言の「撤回の撤回」
遺言者は既に作成した遺言を、その遺言と内容が抵触する遺言を作成することで撤回することができます。
たとえば、遺言者が唯一の財産を長男に渡す旨の遺言を残していた場合を想像してみましょう。
後日、同じ財産を長女に渡す遺言が作成されていた場合、長男に財産を渡す旨の遺言は撤回したものと扱われます。
この撤回の効果は原則として不可逆であり、「撤回」を「撤回」することはできません。
複数遺言が発見された場合に問題となる類型であり、どの遺言が有効であるのかが悩ましいです。
ただ、「令和○年〇月〇日付の遺言のうち、~の部分の効力を復活させる」というような遺言者の真意が何であったかが明確となる場合には、撤回の撤回も有効となる余地があります。
但し、結局は詐欺、脅迫によって撤回を撤回したという主張が現れる温床となるので遺言の書き方としてはあまり好ましくありません。
偽造の遺言書
遺言の全部または一部が遺言者ではない者によって作成された場合、その内容を尊重する理由がありません。
そのため、遺言の内容に疑義がある場合に無効を主張するため、偽造を主張する場合があります。
ただ、偽造の可能性があるだけでは遺言が無効となりません。
通常人から見て、遺言者でない者が偽造したことに疑義を差し挟まない程度に真実性が認められる必要があります。
遺言が無効だと認められた裁判例
遺言が訴訟において頻繁に無効となるとは言えませんが、実際に遺言が無効となっている裁判例を見ると、豊富な証拠や丁寧な主張・立証があったがために無効という判断につながっているケースが多くみられます。
実際、令和3年3月31日東京地方裁判所判決では、遺言者がただ単にアルツハイマー型認知症に罹患していることを指摘するだけではなく、その症状の進行の程度を細かく認定しています。
例えば、徒歩数分の距離にある場所への行き来が困難になっていたり、ファクシミリの送信ができない様子、直前の訪問客や電話相手が誰であったかを思い出せないことまで具体的に判決書に記載されています。
あらゆる生活上の状況から、遺言作成時の状況まで細やかに見て、裁判所は遺言者が作成した遺言によってどういう結果が生まれるかを理解できなかったものと判断しており、遺言能力に欠けた状態で作成された遺言として無効と結論付けています。
遺言無効確認訴訟に関するQ&A
遺言書を無効として争う場合の管轄裁判所はどこになりますか?
遺言無効確認訴訟の管轄は、被告の住所地又は相続開始時における被相続人の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所になります。
ただ、訴訟となる場合、遺産がある程度の規模で残されていることが多いので、地方裁判所が管轄となることが多いと思われます。
弁護士なら、遺言無効確認訴訟から遺産分割協議まで相続に幅広く対応できます
遺言無効確認訴訟に勝訴したとしても、その後、遺産をどのように分けるかはまた別の問題です。
そのため、遺言の無効に関する手続きのみならず、遺産分割の協議まで含めて、全体としてどのように相続を終わらせるかを常に念頭に置いておく必要があります。
そのため、遺言無効確認訴訟を検討する時点で、常に手続きの状況に応じて最善の手を打ち続ける高度な判断が要求されていると言えます。
そのような厳しい状況に悩む場合、是非弁護士に相談し、解決への第一歩を踏み出しましょう。
養育費は、離婚後の子供の健やかな成長に欠かせない大切なお金であり、その支払いは親の義務です。しかし、「話し合いが平行線でまとまらない」「約束どおりに払ってくれない」「金額を減らして欲しい」など、非常にトラブルになり易いテーマでもあります。
このような養育費に関するトラブルについて、夫婦2人だけの力では解決できない場合、裁判所の手続きである「養育費請求調停」を利用して、解決を目指すことができます。
今回は、この養育費請求調停とはそもそもどのような手続きなのか、また、その流れや注意点などを解説します。
養育費請求調停でできること
そもそも、養育費の支払いは法律に定められた義務です。親であれば、必ず子供のために負担しなければならないお金です。離婚して親権者でなくなったとしても、一緒に暮らしていなくても、子供の親である限り、養育費の支払義務は無くなりません。
しかし、そうは言っても、現実は、養育費の支払いをめぐるトラブルは後を絶ちません。
養育費請求調停は、離婚成立後に生じた養育費についての問題を解決するための手続きです。裁判官と「調停委員」という有識者を介して、養育費の
①請求
②増額
③減額
これらの3つを求め、話し合うことができます。
養育費の請求
養育費に関する取り決めをしないまま離婚が成立した場合や、離婚前に約束したはずの養育費を支払ってもらえない場合は、養育費請求調停を申し立て、支払いを求めることができます。
養育費請求調停では、調停委員を仲介役とし、両親の仕事や経済状況、子供の人数・年齢などを総合的に考慮しながら、
- 養育費の金額
- 支払方法(口座振り込みにするのか、その場合の振込先、いつまでに支払うか)
- 支払期間(子供が何歳になるまで支払うか)
について話し合いを重ね、取り決めを行い、双方が納得のいく解決を目指していきます。
養育費の増額
離婚成立前に養育費について取り決めを交わしていても、その後、不測の事態が生じて親子を取り巻く環境に変化があれば、取り決めた養育費では足らず、生活が苦しくなることもあるでしょう。そのような場合は、養育費の増額請求調停を申し立てることができます。
しかし、一般的には、養育費の増額が認められるためには、
- 子供が大病を患い、高額な治療費が必要になった
- 子供が大学に進学した
- 親権者が失業した
- 養育費の支払義務者の収入が増大し、親権者との間で大きな生活格差が生じている
など、一定の理由が必要になります。
養育費の減額
離婚後に生じた不測の事態によって、養育費の支払義務者の生活環境や資力に変化があり、これまでどおりの養育費の支払いが難しくなることもあるでしょう。その場合、親権者に対し、養育費の減額請求調停を申し立てることができます。
例えば、
- リストラされた
- 再婚し、再婚相手との子供が産まれた
- 親権者の収入が離婚時より増大している
このような、「養育費を減額してもやむを得ない」と認めるに足る事情があれば、養育費の減額が認められる可能性があります。
養育費請求調停の申し立てに必要な書類
養育費請求調停の申し立てに必要な書類は、以下のとおりです。
なお、個別の事案や申立先の家庭裁判所によっては、必要に応じて追加の書類の提出が求められる可能性もありますので、あらかじめ確認しておきましょう。
- 申立書とその写し…各1通
- 子供の戸籍謄本(3ヶ月以内に発行されたもの)…1通
- 自分の収入を証明できる資料(源泉徴収票写し、給与明細写し、確定申告書写し、非課税証明書写し など)…1通
その他、手続きの概要や申立書の書式、記入例を参考にされたい方は、裁判所のホームページも併せてご覧ください。
養育費請求調停(裁判所)養育費請求調停にかかる費用
養育費請求調停の申し立てにかかる費用は、以下のとおりです。
- 養育費の対象となる子供1人につき、収入印紙1200円
- 郵便切手
(概ね合計1000円分前後ですが、金額や内訳は裁判所によって異なります。詳細は申立先の家庭裁判所に確認しましょう。)
調停の流れ
養育費請求調停の主な流れは、
①家庭裁判所への申し立て ②第1回目調停期日 ③第2回目以降の調停期日 ④調停終了(成立、不成立、取り下げ)
となります。以下、各段階の内容などについて、解説していきます。
家庭裁判所へ調停を申し立てる
養育費請求調停の申し立て先は、基本的には、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。そのほか、夫婦が合意した家庭裁判所への申し立ても可能ですが、その場合は、夫婦双方が合意していることを示す「管轄合意書」などの書面の提出が必要になります。
裁判所の窓口への持参のほか、郵送による申し立ても可能です。
申し立て後、記載内容や提出書類に不備がなければ、通常2週間ほどで、裁判所から第1回目の調停期日への呼出状が当事者双方へ送られます。
第1回目の調停期日は、多くの場合、申し立て日から1ヶ月~2ヶ月後に設定されています。
第1回目養育費請求調停に出席
調停では、裁判官と調停委員(裁判所が任命した有識者で、男女1名ずつの合計2名で構成されています)が夫婦の間に入り、2人の意見を擦り合わせていきます。基本的には、夫婦は別々の待合室で待機し、交代で調停委員と協議を行うため、顔を合わせることはありません。自分の番がきたら調停室に入室し、約15分から30分程度、調停委員からの質問に答えたり、自分の意見を言ったり、相手の意見を伝え聞いたりします。1回の調停で、この流れを2~3回繰り返します。
1回目の期日で解決できない場合は、2回目以降の期日が開かれることになります。
第2回目以降の調停
第1回目の期日で両者が納得のいく結論がでなかった場合、その後も、約1ヶ月に1回のペースで2回目以降の調停期日が開催されます。
全体的な調停の流れ自体は、2回目以降の期日も、1回目の期日と同様です。夫婦が交代で、調停委員を介して、前回期日の内容を踏まえた意見を主張したり、相手の主張を伝え聞いたり、調停委員からのアドバイスを受けたりなどして、双方の意見を擦り合わせていきます。
調停の終了
調停の終了には、3つのパターンあります。
①成立
調停で話し合った内容にお互いが納得し、合意できれば、その調停は成立の形で終了します。合意内容は、裁判所により「調停調書」という書面にまとめられます。調停調書は、確定判決と同一の効力を有します。
②取り下げ
調停を申し立てた人は、いつでも、どんな理由でも、調停を取り下げて終了させることができます。取り下げられた調停は、最初から無かったものとして扱われます。
③不成立
いくら話し合っても合意に至らない場合、調停は不成立に終わります。不成立後の流れについては、後述します。
不成立になった時はどうなる?
調停で話し合っても夫婦の意見がまとまらない場合、残念ながら、その調停は不成立の形で終了します。そして、その後は自動的に「審判」という手続きに移行します。審判では、裁判官が、調停で話し合われた内容や、提出された資料など総合的に考慮して、養育費の内容についての最終的な判断(審判)を下します。
裁判官が下した審判の内容に納得できなければ、高等裁判所に不服申し立てをし、更に争うことができます。しかし、不服申し立てをしない場合や、不服申し立てが退けられた場合は、審判が確定します。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費請求調停を有利に進めるポイント
調停でやみくもに自分の主張を押しとおすだけでは、建設的な話し合いにはなりません。養育費請求調停を自分に有利に進めるためには、まず自分自身が養育費のことについてよく理解し、必要なポイントを押さえておかなければなりません。以下、養育費請求調停を有利に進めるために、抑えておくべきポイントを解説します。
養育費の相場
まず、養育費の相場感を把握しておきましょう。
養育費の金額は、法律で定められているわけではありません。しかし、養育費の額が調停や裁判などで争いになった場合は、裁判所が公表している【養育費算定表】の基準に基づき、決められているというのが実情です。
この表によると、例えば、子供が1人(0歳~14歳)、親権者の年収が150万円、支払義務者の年収が500万円(共に給与所得者)の場合、養育費の相場は月額4万円~6万円となります。
いくら子供のためとはいえ、相場と比べてあまりにも高額な養育費を請求しても、請求が認められないばかりか、「がめつい人だ」など、調停委員からの心証を悪くしかねませんので、注意しましょう。
調停委員を味方につける
「いかに調停委員に自分の味方になってもらうか」が、調停を有利にすすめるための最大のポイントであると言っても、過言ではありません。
調停委員は、建前上は中立的な立場であり、夫婦どちらかの味方ということはありません。
しかし、そうはいっても、「この人の言うことはもっともだ」と調停委員からの共感を得られ、心情的にも寄り添ってもらうことができれば、あなたの意向に沿った内容で相手を説得してくれる可能性もあります。冷静・論理的に正当性のある主張をすることは勿論ですが、調停委員に良い印象を持ってもらえるよう、身だしなみや立ち振る舞い、言葉遣いにも十分気を配りましょう。
養育費の請求が正当であることの証明
「子供のために1円でも多く養育費を払ってほしい」「生活が苦しいからなるべく払いたくない」このような心情は、もっともなことかもしれません。しかし、だからといって、必要以上に高額な支払いを要求したり、大幅な減額を要求したりしても、相手や調停委員からの納得は得られません。
調停では、感情論に終始せず、論理的な説明で、調停委員から、「この人の言うことはもっとだし、そのような事情ならこの請求金額も納得できる」と、自分の主張の正当性を理解してもらうことが重要です。そのためにも、
- 給与明細や源泉徴収票など、自分や相手方の収入状況がわかる資料
- 子供にかかった医療費の領収書
- 学費に関する資料
このような客観的な証拠を積極的に提出し、説得力のある主張を心がけましょう。
審判を申し立てることを検討しておく
離婚そのものについて争う場合、まずは調停の手続きを経なければなりませんが(調停前置主義)、養育費に関する問題は、このような決まりはありません。そのため、最初から審判を申し立てることが可能です。
相手が調停に出席する見込みがなかったり、調停をしても良い結果が得られないことが明らかだったりする場合は、手間や時間を省くため、最初から審判を申し立てることも、選択肢の1つといえるでしょう。
しかし、事案の内容によっては、裁判所の職権で、「先に調停を申し立てなさい」といわれ、調停の手続きに回されてしまう可能性があるため、注意が必要です。
弁護士に依頼する
調停を自分の有利に進め、納得のいく結論を導くためには、調停委員に対し、客観的・論理的に自身の主張の正当性を説き、理解してもらわなければなりません。しかし、慣れない法律の手続きに戸惑ったり、判断に迷ったり、プレゼンテーションが苦手な方は、上手く自分の意見が伝えられなかったりもするでしょう。
この点、弁護士に相談すれば、法律の知識と経験に基づく効果的なアドバイスを受けることができますし、代理人として、ご自身の代わりに調停に出席してもらうことも可能です。
加えて、弁護士に依頼することで、相手や調停委員や相手方に対し、自分の本気度を示す効果も期待できます。
養育費請求調停に関するQ&A
養育費請求調停に相手が来ない場合はどうなりますか?
仕事の都合や体調により調停に出席できないなど、欠席するにあたり正当な理由があり、裁判所にもきちんと事前に連絡している場合は、調停の期日は別日に変更されます。
しかし、相手が正当な理由がなく調停に相手が出席しない場合や無断欠席を繰り返す場合は、話し合いができないため、その調停は不成立として終了します。
不成立として終了した調停は、自動的に審判の手続きに移行します。審判では、裁判官が調停の内容を考慮し、判断を下します。そのため、「子供の養育費の話し合いである調停という大事な場に無断欠席した」という事実は、審判の内容に対し、相手にとってはマイナスな判断材料に、ご自身にとってはプラスの判断材料に働く可能性があります。
養育費請求調停で決めた金額を払わない場合は、なにか罰則などはありますか?
調停で決めた養育費を支払わない場合、罰金や罰則などが課されることはありません。
この場合、親権者側としては、裁判所に対し、相手に支払いを促してもらう「履行勧告」や、支払いを命じてもらう「履行命令」の申し立てをすることができます。しかし、いずれも勧告・命令に過ぎず、支払い自体を強制することはできません。(なお、履行命令に違反した場合は10万円以下の過料が科される可能性があります。)
この点、調停で話し合われた合意内容をまとめた「調停調書」は、確定判決と同一の効果を有します。そのため、調停で決めた養育費が支払われない場合は、最終的には、「強制執行」を申し立てることで、差し押さえた相手の財産(預貯金、給与、不動産など)から支払いを受けることができます。
養育費の調停について弁護士にご相談ください
養育費を支払ってほしい方、増額を希望する方、減額を希望する方…いずれの場合も、養育費の調停では、まずは自分自身が養育費に関する十分な知識を得たうえで、裁判官や調停委員を相手に、いかに自分の主張に合理性があるかを冷静・論理的に主張していかなければなりません。そのためには、専門的知識だけでなく、プレゼン能力、交渉力、先を見通す力など、様々な能力が必要になってきます。
弁護士法人ALGには、離婚や親権、養育費に関するトラブルに精通した弁護士が多数在籍しております。養育費に関してトラブルを抱えている方は、ぜひ一度、弁護士法人ALGまでご相談ください。問題の早期解決に向け、経験豊富な弁護士が尽力いたします。
意図しない事故に遭ったのですから、「正当な慰謝料を受け取りたい!」と思われるのは当然です。
通常、事故被害者は慰謝料を受け取ることができますが、受取金額に注意しなければなりません。なぜなら、用いられる算定基準によっては本来受け取れる金額よりもはるかに少なくなっている可能性があるからです。
その背景には、慰謝料を計算する算定基準が3つあることが大きく関係しています。
本ページでは、【慰謝料の算定基準】を取り上げ、概要や相場などについて解説していきますので、正当な慰謝料を受け取るためにもぜひ最後までご一読ください。
交通事故の慰謝料の算定基準とは?
交通事故の慰謝料の算定基準とは、慰謝料の金額を計算するためのツールのことです。1つであればすぐに完結するのですが、3つあることが混乱を引き起こす原因ともいえます。なぜなら、それぞれに計算式や指標があり、算定結果の金額が異なるからです。
また、算定基準が影響してくる慰謝料には、次の3種類があります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
もう少し掘り下げていきます。
そもそも、なぜ算定基準が必要なの?
警視庁の統計※によりますと、令和3年度の交通事故発生件数は、30万5424件にのぼります。
これだけの数の慰謝料を一人一人の事情を考慮しながら決定していくのは、相当な時間がかかるうえに、同じような事故でも金額にバラつきが出てしまい、現実的ではありません。
このような状況を避けるため、算定基準は、解決までの時間短縮や、金額のばらつきといった不公平性をなくすことを目的として設けられています。
※https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/toukeihyo.html
3つの算定基準の違い
ではここで肝心の“3つある算定基準”について、それぞれの概要や特徴を比べていきます。
ポイントは、それぞれの基準で算定した結果、基本的には【自賠責基準<任意保険基準<弁護士基準】の順に高額となるところにあります。
自賠責基準について
「自賠責基準=最低限度の補償=基本的に最も低額となる」ことを念頭に置きましょう。
本基準は、自賠責保険という強制加入保険が補償するために用いる指標です。被害者への補償を国が保障しているので、確実性が高い一方あくまでも怪我に対するものでかつ、最低限度に留まるのが最大の特徴です。
例えば、傷害部分の補償限度額は120万円までなど、あくまでも保険金の限度内で補償されることになります。
任意保険基準について
「任意保険基準=非公開=自賠責基準と同等または少し上乗せした程度の金額」が特徴です。
本基準は、保険会社という一企業が独自に設定している指標に過ぎません。基本的に社外秘扱いなので、詳細は伏せられています。とはいえ、営利目的の企業が定める指標なので、できるだけ自社の利益を追求した内容になっており、最低限度補償の自賠責に多少上乗せした程度の結果となることが多いです。
なお、最終的な支払いは、自賠責分も併せて任意保険会社から受け取るのが通常ですので、自賠責分とは別に二重取りできるわけではない点にご注意ください。
弁護士基準について
「弁護士基準=裁判所や弁護士が使用=最も高額かつ正当な金額」と押さえておきましょう。
本基準は、過去の裁判の実例をもとに設けられた指標です。3つの中で基本的に最も高額となるのが特徴といえます。(が、実際の裁判内容をもとにしていることからもわかるとおり、裁判をした際に認定される金額に近い基準です。)注意点としては、保険会社との交渉時には弁護士が用いないと通用しないことがあげられます。弁護士が裁判をも辞さない強気な姿勢で持ち掛けることで、裁判への発展を避けたい保険会社が渋々弁護士基準に近い金額での解決に応じるようになるのです。
赤本と青本とは?
交通事故でいう“赤本”、“青本”とは、裁判例や弁護士基準の具体的な内容が記載されている書籍のことです。
ちなみに主に関西地方で用いられる“緑本”もありますが、いずれも背表紙の色で表現しています。
それぞれの違いは、地域性と指標の具体性です。
基準とする裁判例について、赤本は首都圏、青本は全国、緑本は関西圏をまとめているので、自ずと内容が変わってきます。また、赤本は指標金額が決まっているのに対し、青本は上下の幅を持たせているのが特徴です。
なお、実務上は赤本をベースにすることが多いです。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故慰謝料の相場比較
ここからは、3種類ある交通事故慰謝料について、それぞれの相場を算定基準ごとに比較していきます。
より基準ごとの金額差が明らかになりますので、ぜひ算定結果にご注目ください。
入通院慰謝料の相場
まずは、入院・通院を強いられることで生じる精神的苦痛に対する入通院慰謝料の相場をみていきます。
入院が不要な怪我の場合、通院のみのケースでも請求できますのでご安心ください。
入通院慰謝料の算定には、入通院期間や実際の通院日数のほか、通院頻度、怪我の内容などが考慮されることになります。
同じ条件で算定基準別に比較していきますので、金額の開きにご着目ください。
※なお、任意保険基準については非公開のため省略させていただきます。
通院期間が2ヶ月、実通院日数が15日の場合の慰謝料の相場
自賠責基準の入通院慰謝料 | 弁護士基準の入通院慰謝料 |
---|---|
12万9000円 | 52万円 |
<自賠責基準>
入通院慰謝料=日額4300円×対象日数
上記が自賠責基準の計算式になります。
ポイントは“対象日数”で、以下のいずれか少ないほうを採用します。
①入院+通院期間
②(入院期間+実通院日数)×2
これらを例の条件にあてはめると、
①30日×2ヶ月=60日
②15日×2=30日
①と②を比較すると、②の方が少ないので、
入通院慰謝料=4300円×30日=12万9000円
<弁護士基準>
入通院慰謝料の別表Ⅰ、Ⅱを参照します。
今回のケースは、通常の怪我(別表Ⅰ)を想定しますので、「通院2ヶ月」の該当箇所を下表で確認すると、52万円となります。
入院1ヶ月、通院期間6ヶ月、実通院日数70日だった場合の慰謝料の相場
自賠責基準の入通院慰謝料 | 弁護士基準の入通院慰謝料 |
---|---|
86万円 | 149万円 |
<自賠責基準>
同じく計算式にあてはめて求めていきます。
② 30日+30日×6ヶ月=210日
② (30日+70日)×2=200日
入通院慰謝料=4300円×200日=86万円
<弁護士基準>
今回のケースは、通常の怪我(別表Ⅰ)を想定しますので、「入院1ヶ月、通院6ヶ月」の該当箇所を下表で確認すると、149万円となります。
むちうちで、通院期間5ヶ月、実通院日数70日だった場合の慰謝料の相場
自賠責基準の入通院慰謝料 | 弁護士基準の入通院慰謝料 |
---|---|
60万2000円 | 79万円 |
<自賠責基準>
同じく計算式にあてはめて求めていきます。
② 30日×5ヶ月=150日
③ 70日×2=140日
入通院慰謝料=4300円×140日=60万2000円
<弁護士基準>
むちうちなど軽傷の場合は、別表Ⅱを参照します。
「通院5ヶ月」の該当箇所を下表で確認すると、79万円となります。
後遺障害慰謝料の相場
まず、後遺障害慰謝料は、治りきらなかった後遺症について後遺障害等級の認定がされたら請求できるようになるとを押さえておきましょう。
下表のように、症状の内容、程度などに応じて1~14級までの等級ごとに慰謝料金額が決まっています。
算定基準別の差額にもご着目ください。
※なお、任意保険基準については非公開のため省略させていただきます。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級 | 1150万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
死亡慰謝料の相場
死亡慰謝料は、亡くなった被害者本人と遺族に対して支払われます。正確には、被害者は亡くなっていますので、被害者の請求権は相続人に受け継がれることになります。
自賠責基準と弁護士基準では、以下のように指標が異なります。
<自賠責基準>
被害者本人分は、年齢・性別などにかかわらず一律400万円です。
遺族分については、遺族(被害者の配偶者、父母、子)の人数によって異なり、さらに被害者に被扶養者がいた場合には200万円追加されることになります。
<弁護士基準>
被害者本人分と遺族分を分けて算出する概念がありません。
被害者の属性、家族の中での役割に応じて指標が決まっており、その他個別具体的な事情が考慮され調整されることもあります。
例えば、一家の大黒柱であれば2800万円、配偶者であれば2500万円などです。
弁護士に依頼しないと、弁護士基準での慰謝料獲得は難しい?
被害者としては、ぜひとも高額水準の弁護士基準で請求したいところですが、保険会社を相手に被害者自身で交渉を試みてもまず応じてもらえないでしょう。
相手方となる保険会社は、幾度となく交通事故事案の示談交渉を経験してきたいわば“示談交渉のプロ”です。自社の損失をなるべく抑えたい保険会社に対して、被害者本人が慰謝料の増額を持ち掛けても、歯が立たないと予想できます。
しかし、そこに弁護士が介入すると事態がかわる可能性があります。
弁護士が入ると裁判での解決も視野に入るため、裁判への発展を控えたい保険会社は弁護士基準での交渉に応じやすくなります。
弁護士の介入によって弁護士基準に近い金額まで増額できた解決事例
ここで、弁護士法人ALGが解決に導いた実際の事例をご紹介します。
本件は、青信号で交差点進入時、赤信号無視の相手方車両が追突してきたという事故態様でした。この事故で、依頼者は開放骨折という重傷を負ったうえに、PTSDを発症し長期間の治療を余儀なくされ、後遺障害等級も12級に認定されていました。相手方保険会社からは、すでに約600万円の示談金が提示された状態でご依頼を受けました。
受任後、早速精査したところ、事故の大きさや怪我・後遺障害の程度などを総合的にみても、提示額は極めて低いと判断しました。
そこで、事故の悪質性も考慮し、通常の弁護士基準よりさらに上乗せした金額で交渉に臨みました。
譲らない姿勢かつ強い態度で交渉を続けた結果、約1700万円もの賠償金を取り付けることに成功しました。通常の弁護士基準で予想される金額よりも高い水準での解決に、依頼者にも大変ご満足いただけた事案です。
交通事故慰謝料を適正な算定基準で計算するためにもまずは弁護士にご相談ください
不運にも交通事故に遭い、背負わされた精神的苦痛に対する慰謝料は、きちんと適正額を受け取るべきです。それを叶えるには、適正な算定基準である弁護士基準で請求するために、弁護士に依頼する必要があります。
「弁護士への相談はハードルが高い」、「弁護士費用がかかりそうで気が引ける」と、二の足を踏む方もいらっしゃると思います。
この点、弁護士法人ALGは、最初のお問い合わせを受付職員が行わせていただくことで、気軽にご相談いただける体制を整えています。交通事故専門の受付ですので、不安に思われることをお気軽にお伝えください。
また、弁護士費用特約を利用することで、基本的には弁護士費用の負担なくご依頼いただけます。ぜひご自身が加入している保険契約内容をご確認ください。
弁護士への依頼は、適正な慰謝料獲得だけでなく、“納得のいく解決”を目指すためにも非常に有用です。弁護士法人ALGは、万全の体制でお待ちしています。
相続に際して、遺言がある場合は、その遺言に従って遺産を分けることが多いです。
もっとも、遺言がない場合、複数の相続人がどのように遺産を分けるかを協議して決める必要があります。ただ、さまざまな種類の財産をどのように分けるか、各相続人の抱える事情も相まって、一筋縄では決められないことも珍しくありません。
本記事では、遺産分割の方法としてよく用いられる4つの方法を紹介していきます。
遺産分割の方法は複数ある
遺産が現金のみであれば、1円単位でその相続人がどの程度の金額を相続するか決めることができます。ただ、遺産には不動産や動産、金銭と様々な種類の財産が含まれることがあります。それらの財産をすべて、各相続人の法定相続分に従って分配することが原則ではあるのですが、例えば遺産となった一軒家などは相続人全員で切り分けて相続することはできません。
そういった場合には、以下の4つの方法をとれないかを検討してみるとよいでしょう。
分割方法1:現物分割とは
現物分割とは、遺産に含まれる財産をそのままの姿で分配する方法です。
例を挙げれば、自宅は妻、銀行口座のお金は長男、骨董品は次男、宝飾品は長女といった形で分配する方法です。
現物分割のメリット
例を見れば明らかなように、現物分割は非常に単純な分け方ですので、誰がどの遺産をもらうかが一番わかりやすい方法となります。
また、他の方法と違って、遺産を売却するなどの手間をかけずに遺産分割を終えられるので、各相続人の手続きの負担も少なくて済みます。
現物分割のデメリット
他方で、現物分割をしてしまうと、ある相続人が高価な遺産を取得して、別の相続人が価値の低い遺産を取得することになってしまうことが多いです。
遺産に含まれる財産の内容次第では、相続人間で大きな不公平が生まれてしまう可能性がある分割方法です。
分割方法2:換価分割とは
換価分割とは、不動産等の金銭ではない財産を売却し、その結果得た現金を分配する方法です。
換価分割のメリット
換価分割は遺産を現金化するので、現金の性質上、公平に分配をする調整が可能となります。
また、相続人全員が不要だと考えている財産の引き取り手を決めない点や、不動産の維持・管理に伴う負担も発生しない点で、事後的な問題が起きにくい分割方法と言えます。
換価分割のデメリット
他方で、財産の現金化には時間がかかることがあります。
不動産であれば買い手が現れるまでは売却手続きが完了しませんし、売却にかかる費用や税金の負担の問題もあります。
また、故人の口座を利用し続けることは通常できないので、売却代金を遺産分割手続が終わるまで、誰が管理するのか、という点で紛争が発生することもあります。
分割方法3:代償分割とは
代償分割とは、不動産などの分割しがたい財産を、一定の相続人に取得させたうえで、その他の相続人に対しては代償金を支払う方法です。
1000万円の価値がある実家を4人の兄弟で分ける場合を例に見てみましょう。
本来であれば法定相続分は兄弟全員平等(4分の1ずつ)ですが、長男が単独で実家を引継いだとします。この場合、長男以外の兄弟が遺産をもらえていないので、長男から残りの兄弟3人それぞれに対し、実家の価値の4分の1ずつ(250万円)を代償金として支払えば、理屈上は公平に分割が可能となります。
代償分割のメリット
このように、理屈上は相続人全員が同じ程度の遺産を受け取ることができる意味では、優れた分割方法でしょう。
また、不動産などの財産を売却等処分しないので、実家を残したい希望があるなど、遺産を残すことに意味があるときには一つの選択肢となります。
代償分割のデメリット
代償分割について協議を進めると、分ける財産の価値をどの程度として評価をするかについて揉めることが珍しくありません。
実際、複数の相続人がそれぞれ取得してきた不動産の評価額が異なることがあり、各々が自らの主張にこだわって代償金を決められないこともあります。
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分割方法4:共有分割とは
共有分割とは、分割しにくい不動産等の遺産を、複数の相続人で、各相続人の相続分に応じて共同で所有するという方法です。
例えば、実家を複数の相続人全員で共有状態にするような場合のことを共有分割と言います。
共有分割のメリット
代償分割の場合と同様に、遺産を処分しませんので、遺産を残すことが可能となります。
また、相続人全員が相続分に従って共有分割をすれば、各相続人が理屈上はもらえるべき遺産の取り分を取得しているので、公平な分割方法と言えます。
共有分割のデメリット
法律上、共有状態は例外的なものという立て付けになっているので、一度共有分割をしてしまうと、後日問題が発生することが多いです。
共有状態となった不動産については、売却をするのに共有者全員の許可が必要となりますし、不動産を賃貸したい場合も共有者持ち分の過半数の同意が必要となります。
また、固定資産税の負担等、不動産管理費の分担について争いが生じることもあります。
遺言書に遺産分割方法が書かれている場合は従わなければならない?
遺言は被相続人の最後の意思表示ですので、原則として、遺言に記載された分割方法を尊重し、遺産の分配を進めることとなります。
もっとも、相続人全員が遺言とは別の方法で分けることに合意をした場合、遺言の内容に反して遺産の分配を行うことは認められます。
また、法定相続人の一部には遺留分という権利が認められる場合があります。遺留分は、遺産についての最低限の取り分であり、遺言によっても侵害することができません。
遺言の中で、遺留分を持っている相続人に一切遺産を渡さない旨を記載しても、遺留分侵害額請求権の行使により一定の遺産がその相続人にわたってしまうことを避けられません。
遺言書がない場合の遺産分割方法
遺言書がない場合、残された財産をどのように分けるかは相続人間で話し合って決めるほかありません。
合意に至らない場合、裁判所にて遺産分割調停を行い、相続人全員が合意できる分割方法を模索することになります。
それでもなお、皆が合意できる分割方法を決められない場合、最終的には遺産分割審判という手続きを利用して裁判所の判断に基づいて分割をすることになります。
遺産分割の方法でお困りのことがあったら、弁護士にご相談ください
遺産を分ける場面では、各相続人の感情等が邪魔をして穏やかに話し合いができないことも珍しくありません。その結果、何年にもおよび遺産争いに発展してしまうケースも見受けられます。
分割について争いが生じることを防ぐため、また、争いが生じてしまっても長引くことを防ぐためには、弁護士に相談・依頼するという方法があります。合意ができない、揉めている原因となっている事情をお話しいただければ、法的視点のみならず、紛争の解決に向けて何が一番良いのか、という視点で助言が得られるでしょう。
また、相手方との交渉や裁判所との手続を弁護士に依頼することで、負担感を軽減することも考えられます。
弁護士法人ALG&Associatesでは、相続事件を多く取り扱っており、その経験の多さから適切な助言をすることができます。遺産分割についてお悩みの場合はぜひ、弊所にご相談ください。
遺言書には、公証役場で作成する公正証書遺言のほかに、遺言者自らが作成する自筆証書遺言があります。時や場所を選ばずに自分ひとりで作成することができ、手続きとしては簡易なものになりますが、法律で定めた遺言書作成のための要件を充たさないと遺言書が無効になるなどのトラブルが生じる可能性があります。自筆証書遺言の作成について、以下に解説していきますので、本記事を参考にしていただければ幸いです。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、文字どおり、遺言者が自分で手書きして作成する遺言書のことです。紙と筆記用具、印鑑と朱肉などの道具さえあれば特に費用もかからず、自分ひとりでいつでもどこでも作成できるメリットがあります。公正証書遺言や秘密証書遺言などほかの遺言書の作成方法と比べると、作成手続が非常に簡易であるといえます。もっとも、原則、全文手書きであることを要するなど、有効な遺言書として作成するために厳格な要件があり、要件を充たさないと無効になってしまうことがあります。また、自筆証書遺言の場合、相続開始時に家庭裁判所の検認という手続を要する点も特徴の一つです。
自筆証書遺言が有効になるための4つの条件
自筆証書遺言が有効となるために要件は、①遺言者の自筆で書かれていること、②特定できる日付が作成日として自筆で書かれていること(例:「末日」との記載で日付が特定できる場合は問題ありませんが、「吉日」は不可となります。)、③自筆で署名されていること、④捺印されていることの4つです。4つの要件のうち、1つでも守られていない場合には遺言書が無効になるので注意が必要となります。また、遺言書の訂正や文章の削除などを行う場合にも修正方法などの形式を遵守しないと、訂正部分が無効とされてしまうことがあるので注意が必要です。
パソコンで作成してもOKなもの
2019年の民法改正により、遺言書の内容を補足する財産目録については、パソコンで作成したものや、登記全部事項証明書、通帳の写し等を添付する方法を用いることも可能となりました。 ただし、財産目録をパソコンで作成する場合、遺言者が各ページに署名して、押印しなければなりませんので、遺言書本体を含め、原則として手書きを要することを意識することが重要です。
自筆証書遺言の書き方
自身の財産を、誰に、どのように相続させるかを定める重要な書面(遺言)を、自ら作成する手続きが自筆証書遺言制度です。財産の全体像を把握し、作成方法をきちんと確認しながら適切に作成する必要があります。
まずは全財産の情報をまとめましょう
遺言書は、遺産の一部のみを対象にすることもできますし、遺産の全部を対象に作成することもできます。遺産には、預貯金はもちろん、株や不動産等の財産についても含まれますし、負債(借金)も含まれることになります。遺産の情報を財産目録に一元化することが遺言書を適切に作成するうえで重要であり、遺言書を読むことになる相続人のためにもなります。なお、財産目録をパソコンで作成する場合には、各ページに署名、押印をする必要があるので注意を要します。
誰に何を渡すのか決めます
遺言書を作成する主な目的は、遺産のうち、誰に何を相続させるのかを明確にして、相続にあたって遺言者の意思を反映させることにあります。そのため、不動産は長男に、株式は二男に、といったように誰に何を相続させるのかを具体的に決めて遺言書に作成する必要があります。
誰に何を相続させるのかを検討する過程でメモなど作成する場合には、パソコンを使用することは問題ありません。
縦書き・横書きを選ぶ
遺言書というと、縦書きの印象もあるかもしれませんが、縦書き、横書きに法律上の制限があるわけではありません。そのため、縦書きにこだわる必要はなく、遺言者自身が書きやすい方で書くのがよいといえます。
代筆不可、すべて自筆しましょう
自筆証書遺言は、「自筆」という名のとおり、自署で作成しなければならず、代筆をすることは認められません。遺言書の作成を希望する者が字の書けない状態であれば、自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言の作成を検討することになります。
なお、財産目録については、パソコンで作成することが認められており、パソコンで作成してプリントアウトをしたものを遺言書に添付することができます。この場合、各ページに署名押印が必要となります。
遺言書の用紙に決まりはある?
遺言を記載する用紙に特に制限や指定があるわけではありません。そのため、コピー用紙や便箋を使用しても問題ありませんし、要件さえみたしていれば、チラシの裏側に記載することも可能です。もっとも、重要な書類になるわけですから、破れにくいきちんとした紙を使用するのがおすすめです。文具メーカーから遺言書用のキットも販売されているので、不安のある方は検討されてみるとよいと思います。
筆記具に決まりはある?
トラブルを防ぐなら、書き始めから書き終わりまで同じペンを使うと良いです。
遺言書を作成する筆記具には特に制限や指定があるわけではありません。しかし、事後のトラブルを回避するためには鉛筆や消せるタイプのボールペンの使用は避けた方が賢明です。
また、誰かが書き換えた可能性を疑われやすいことから、最初から最後まで同じ筆記具を使用するのがおすすめです。
誰にどの財産を渡すのか書く
誰にどの財産を渡すかを記載する部分は、遺言書の最も重要な部分といえますので、遺言者の意向を明確にして記載する必要があります。特定の人にすべての遺産を相続させる場合には分かりやすいですが、複数の相続人に相続させる場合には、妻に不動産、長男に預貯金、長女に株式といった形で誰に何を相続させるかを明確にしておくべきです。
日付を忘れずに書く
遺言書には作成した日付を忘れずに記載する必要があります。○年○月○日と明確に記載するのが基本ですが、○月末日や○歳の誕生日のように特定できる日付であれば問題ありません。しかし、○月吉日のような特定できない日付は認められませんし、日付が特定できても、ゴム印など自著でない場合も認められません。
署名・捺印をする
遺言書の最後には、遺言者の署名、押印をする必要があります。押印については実印が望ましいですが、シャチハタも認められています。また、署名については、本名を記載するのが原則ですが、遺言者との同一性が認められるのであれば、芸名や通称名による署名も有効とされており、必ずしも、戸籍上の氏名と同一でなくても構いません。
遺言書と書かれた封筒に入れて封をする
遺言書は封筒に入れることが必須ではありません。しかし、封筒に入れて分かりやすく保管しておかないと、発見されないままとなってしまうことや、発見者が誤って捨ててしまうリスクもありますので、遺言書と記載した封筒にいれるのがおすすめです。また、遺言書を誤って開封してしまう事態を防ぐために、封筒に「開封禁止」と明記しておいたり、封筒を二重にして、一つ目の封筒と一緒に開封しないように記載したメモを入れるなどの工夫をした方がよいといえます。
自宅、もしくは法務局で保管する
自筆証書遺言については、これまでは遺言者自らが自宅等に保管する方法が一般的でした。しかし、自宅に保管しておくと、発見されないままになったりする可能性もあります。
そこで、2020年7月から、自筆証書遺言を法務局に保管してもらうこともできるようになりました。手続の負担はありますが、偽造、変造や紛失、破棄のリスクを回避することができ、関係相続人への通知をしてくれるなどのメリットがあります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
自筆証書遺言の注意点
自筆証書遺言は、遺言者一人で作成できる簡易な手続きである分、将来の相続や遺言書作成後を見越した注意点がいくつかあります。
遺留分に注意・誰がどれくらい相続できるのかを知っておきましょう
相続制度には遺留分という相続人の最低限の取り分に関する定めがあります。そのため、遺言書作成時に遺留分に一切配慮しないようにしてしまうと、将来の相続時に相続人間でトラブルが生じる原因となってしまいます。特定の相続人に全ての遺産を相続させる遺言書を作成する場合などには、なぜ当該相続人にすべての遺産を相続させるのか理由も記載しておくとよいでしょう。
訂正する場合は決められた方法で行うこと
遺言書は、全文自筆で作成することが原則となる書類ですが、当然、事後になって内容の一部を削除したり、訂正したりする場合もありえます。また、作成中に修正の必要が生じることもありえます。そして、遺言書の文章の削除や訂正等をする場合には、遺言者自身が二重線で消した上で訂正部分に押印し、さらに変更箇所について指示し、これを変更した旨を記載した上で署名しなければなりません。正しい方法で修正をしないと遺言全体が無効になってしまう可能性もあります。そのため、面倒であっても、遺言書を最初から書き直してしまう方が分かりやすい場合もあるといえます。
自筆証書遺言の疑問点は弁護士にお任せください
自筆証書遺言には、作成する上の要件が厳密に定められているほか、法律上気を付けるべき点が複数あります。せっかく作成した遺言書が原因で法律トラブルが生じてはもったいないことですので、適切な方法で、遺言者の意思を反映した遺言書を作成するためにも、是非一度当法人にご相談ください。
離婚の際に親権を獲得して、子供と一緒に暮らすことになった方の親は、もう一方の親から養育費を毎月受け取ることができます。
しかし、子供との生活を続けていると、思った以上に出費がかさんでしまい、離婚時に取り決めた金額の養育費では家計が回らなくなってしまうこともあるかと思います。このような場合、養育費を増額するよう相手に求めることはできるのでしょうか。
本記事では、養育費の増額が認められる要件や、請求の方法などについて解説します。養育費を増額したいとお考えの方は、ぜひご一読ください。
一度決めた養育費を増額してもらうことはできる?
通常、養育費の金額などの条件を決めるのは離婚時です。ただ、養育費は「子供が社会的に自立できる年齢になるまで」という長い期間、やり取りを続けるものであるため、想定外の出来事が生じて増額してほしいと思うことはあるでしょう。
まず前提として、一度決めた養育費であっても、相手が承諾するのであれば、増額してもらうことはできます。
しかし、いくら頼んでも相手の同意が得られない場合は、裁判所の手続きを踏んで改めて取り決める必要が出てきます。法的には、以下の条件を満たせば、養育費の増額が認められる可能性があります。
- 取り決め時に前提となっていた客観的な事情に変更があったこと
- その事情変更をあらかじめ予測することが困難だったこと
- 事情変更が生じたことに当事者の責任がないこと
- 取り決めどおりの条件をそのまま継続すると著しく不公平になること
養育費の増額請求が認められる要件
養育費の増額請求が認められる事情変更として、具体的には以下のようなケースが考えられます。
- 子供を監護する親が、突如リストラにあって無収入となった。
- 子供を監護する親が、病気などを理由に以前のように働くことができなくなり、収入が減った。
- 子供を監護していない方の親が、転職などによって収入が大幅に増えた。
- 子供が病気やケガをして、高額な治療費がかかるようになった。
- 子供が高校や大学へ進学した。
- 子供が私立学校へ進学した。
なお、子供の進学による支出の増加は、離婚時でも想定できることであるため、「本来であれば最初に取り決めをする際に考慮しておくべき」と裁判所に判断されてしまう可能性はあります。
また、私立学校の学費分の増額については、両親の収入や学歴などを踏まえて相当と判断される場合に認められます。
養育費算定表を参考に増額額が決まる
養育費の増額請求をする場合、離婚時に取り決めたときと同様に「養育費算定表」を参照して、請求する金額を決めます。養育費算定表は裁判所のWEBサイトで公開されていて、双方の収入や子供の人数・年齢を当てはめるだけで、簡単に養育費の相場を調べることができます。
この算定表は2019年12月に改定されており、生活費や税負担の増加など、現在の社会情勢を反映した結果、旧算定表よりも増額傾向となっています。
ただ、算定表が改定されたことだけを理由に、一度決めた養育費を増額するよう請求しても、基本的には認められません。裁判所の手続きを経る場合、増額する正当な理由(事情変更)が求められることになります。
養育費の増額請求の方法について
それでは、実際に養育費を増額するよう相手に請求したい場合、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。以下で説明します。
まずは話し合いを試みる
法的に養育費を増額するに値する事情変更が特になかったとしても、任意の話し合いの段階であれば、相手が合意さえすれば、増額することは可能です。そのため、まずは相手の説得を試みましょう。
ただし、養育費を支払っている相手にお願いする立場となるため、あまり高圧的な態度にならないよう気を付けてください。現在の家計の収支を明らかにし、なぜ増額してほしいのか丁寧に論理立てて説明する必要があります。
内容証明郵便を送る
相手が話し合いに応じてくれるとは期待できない場合、内容証明郵便を送っておくのもひとつの手です。内容証明郵便であれば、差出人や受取人、送付日や受取日だけでなく、手紙の内容までも郵便局に証明してもらうことができ、裁判所の手続きでも養育費の増額請求をしたことの証拠として扱われます。
増額請求が認められた場合、「増額請求したとき」にさかのぼって、変更後の金額を適用することも可能です。「増額請求したとき」=「調停申立て時」となることが多いですが、事前に内容証明郵便を送っていれば、「増額請求したとき」=「内容証明郵便の受取日」となる可能性があるので、早めに送っておくと良いでしょう。
合意を得られなかったら調停・審判へ
任意の話し合いで説得することができなかった場合、家庭裁判所に「養育費増額調停」を申し立てましょう。調停とは、一般市民から選ばれた知識人である“調停委員”が、双方の話し合いを取り持ってくれる裁判所の手続きです。
調停では双方が直接顔を合わせずに済み、調停委員がそれぞれから聴取した事情をもとに解決策を提示してくれるため、話し合いが円滑に進むことが期待できます。
そして、調停で合意に至った際には、「調停調書」が作成されます。この調停調書があれば、相手が約束を守らなかったとしても、強制執行によって相手の財産を差し押さえることができます。
調停でも話し合いが決裂した場合は、裁判官が判断を下す「審判」にそのまま移行します。審判が確定すると「審判書」が作成されますが、こちらも調停調書と同様に強制執行の効力があります。
なお、審判で提示された金額に納得がいかないようであれば、高等裁判所に即時抗告をすることも可能です。
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養育費の増額について決まったら公正証書を作成する
任意の話し合いで養育費の増額が決まったのであれば、必ず公正証書を作成するようにしましょう。話し合って口約束をしただけでは、調停調書や審判書のように、取り決めた内容を証明してくれるものが残りません。最悪の場合、相手から話し合いをなかったことにされてしまうおそれがあります。
公正証書は公証役場で作成を依頼することができ、公文書として扱われるため、法的にも信頼性のある証拠となります。さらに、増額した養育費を約束通り支払わなければ、強制執行に従うという趣旨の内容の文言(強制執行認諾文言)を入れておけば、強制執行を申し立てることも可能になります。
養育費の増額が認められた裁判例
ここで、実際に養育費の増額が認められた裁判例を紹介します。
【東京高等裁判所 令和3年3月5日決定】
長男Aの親権者である母親が、相手方である父親に対して養育費の増額請求調停を申し立て、その後審判に移行した事案です。
両者は平成28年に調停離婚をした際に、長男Aの養育費を「月額5万円」にすると取り決めましたが、以下の2点を理由に、母親が養育費の増額を請求しました。
- 相手方の年収が増額したこと
- 長男Aが15歳になり、公立高等学校に進学したこと
審判では、これらの事情変更は想定内のものであるため、母親の請求は認められないとしましたが、母親はこれを不服として高等裁判所に即時抗告しました。
高等裁判所は、以下の事情を考慮して、養育費を「月額6万円」に増額することが相当と認めています。
①「長男Aが20歳になるまで養育費を増額しないこと」について、協議して合意した証拠がない。
②特段の事情がない限り、子が15歳に達したことは養育費を増額すべき事情変更に該当する。
③離婚時に取り決めた養育費(月額5万円)は、長男Aの英会話学校の費用を考慮して、改定前算定表の目安額(月額4万~6万円)よりも若干高めであった。
④③の事情があるにもかかわらず、長男Aが15歳になった後は、新算定表の目安額(月額6~8万円)より低めの月額5万円を維持すると合意したとは想定しにくい。
この裁判例では、「子が15歳に達したこと」を養育費を増額すべき事情変更として認めており、さらに増額後の養育費の算定については、新算定表を参照しているという点がポイントといえるでしょう。
よくある質問
養育費の増額請求を拒否された場合はどうしたらいいですか?
任意の話し合いで増額請求を相手に拒否されたら、すみやかに調停を申し立てましょう。調停でも相手が一貫して拒否し続けていたり、増額の意向は見せているけれど、ごく一部の条件で折り合いがつかなかったりする場合、家庭裁判所の判断で審判に移行します。
審判では裁判所に判断を下してもらえます。ただし、その内容に不服がある者は、2週間以内に異議を申し立てれば(即時抗告をすれば)審判を無効化することができます。この場合、高等裁判所で再審理がなされることになるので、さらに結論までに時間を要します。
相手側が養育費増額調停を欠席した場合は増額が認められますか?
相手が調停を欠席したからといって、ただちに増額が認められるわけではありません。初回の調停を相手が欠席した場合、よほどの理由がなければ、申立人であるあなたのみが調停委員に事情を聴取されたうえで、改めて別の日程を組み直します。
しかし、その後も相手が欠席を続けるようであれば、裁判所の判断で調停は不成立となり、審判へと移行します。審判では、裁判所が双方の提出した資料や、主張する内容をもとに判断を下します。そのため、審判に至っても相手が何の反応も示さない場合、裁判所はあなたの主張をもとに判断することになるため、増額したい理由が法的に正当であれば、認められる可能性は高いでしょう。
今月15歳になる子供がいます。数年前の離婚時に一律と決めた養育費を、算定表に合わせて増額するよう請求することは可能ですか?
養育費算定表は、子供が14歳以下の場合と15歳以上の場合とで分けられています。15歳以上になると、生活費がよりかかるようになると考えられているため、14歳以下に比べて養育費は高額になるよう設定されているのです。
離婚時は子供が14歳未満で、その年齢を基準に養育費を決めたけれど、15歳になったので改めて算定表に当てはめて算出したら、いま受け取っている金額より高額だったというケースはあるでしょう。
子供が15歳に達したり、高校に進学したりしたことを契機に養育費の増額を求めた場合、その請求が認められる可能性はあります。
また、裁判所は、養育費の金額について、子側に不利な内容の合意については認めない傾向があります。ただ、今回のケースは離婚時に「養育費を一律にする」と取り決めたとのことなので、もともと相場より高額に設定していた等の事情によっては、子供が15歳になったことを理由に増額請求を認めてもらうのは難しい場合もあり得ます。
養育費の増額請求を行う場合は弁護士にご相談ください
養育費を現在受け取っている金額よりも増額してほしい場合、相手が任意で了承してくれるケースを除いて、基本的にはあらかじめ予測することが困難だったといえる“事情変更”が求められます。
そして、実際に相手に増額請求する際は、収入や支出がわかる資料をそろえて、なぜ増額してほしいのかを具体的に説明する必要があります。
この点、弁護士は過去の裁判例などを根拠にして、論理的に相手を説得したり、調停や審判などの場面で主張したりすることを得意とします。
養育費は子供が健全に成長できる環境を整えるために、必要不可欠なお金です。養育費が足りずにお困りの方は、ぜひ弁護士に一度ご相談ください。
遺言書は、相続財産の分配をどのように行うのかを判断するうえで、法的に極めて重要な意味合いを持った書面です。そのため、遺言書は、その効果の重要性ゆえに作成するにあたって守るべきルールが定められており、ルールに反した遺言書については無効となってしまうおそれがあります。せっかく作った遺言書が無効となり、相続人間のトラブルの原因とならないように遺言書作成のためのルールをきちんと把握しておくことが必要となります。
遺言書に問題があり、無効になるケース
遺言書が無効となってしまうケースとしては、自筆遺言書について、作成に関する形式的ルールが守られていない場合、公正証書遺言について不適格な証人が立ち会っていた場合など、様々なものが想定されることになります。以下では遺言書が無効となる典型的なケースをいくつか紹介しますので、遺言書作成の参考にされてください。
日付がない、または日付が特定できない形式で書かれている
自筆証書遺言の場合、作成された日付を記載する必要があり、遺言書に作成された日付の記載がない場合には遺言書が無効となります。日付は、一般的に年月日が記載されていることまでが求められますが、具体的な日付ではなくても、「末日」という記載があれば遺言書が有効される余地があります。
その他、「還暦の日」や「○歳の誕生日」という形で一般的に日にちが特定可能なものについても有効となる場合がありますし、「平成」を「平生」と記載しているような明らかな誤記についても、有効となる場合があります。
遺言者の署名・押印がない
自筆証書遺言の場合、遺言者は署名と押印する必要があり、署名、押印のいずれかを欠く遺言書は原則として無効となります。
もっとも、署名は遺言者が誰であるかを明確にすることが趣旨とされていることから、必ずしも戸籍上の氏名でなくても、通称、芸名、ペンネームなどでも有効とされる場合があります。
また、押印については、実印である必要はなく、認印や指印、拇印でも足りるとされています。
内容が不明確
遺言書の内容が不明確であると、遺言者の真意が分からず、相続手続を行うことができないことから、遺言書は無効となります。例えば、「身内」とだけ記載があり、誰に相続させるつもりなのか分からない場合などが考えらえます。
もっとも、遺言書の解釈にあたっては、一義的に内容が明確ではなくても、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものと考えられており、「単に、遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出し、その文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して、遺言者の真意を探究し、当該条項の趣旨を確定すべきもの」とされています(最高裁昭和58.3.18第二小法廷判決)。
そのため、不明確な表現があったとしても、遺言書の他の記載や、作成当時の状況等から解釈ができるのであれば、無効とならない場合があります。
訂正の仕方を間違えている
遺言書は、内容を訂正することも認められていますが、定められた方法によって訂正を行う必要があり、誤った訂正方法をした場合、遺言書全体が無効とされてしまう可能性もあります。
遺言文中に内容を加えたり、変更を加えたりする場合、遺言者がその場所を指示し、変更した旨を付記してこれに署名し、さらにその変更の場所に印を押さなければなりません。修正テープによる訂正や二重線による訂正を行うことはできないので注意が必要です。
共同で書かれている
「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」と定められていることから(民法975条)、複数人が共同で遺言書を作成することができません。
例えば、AさんがBさんに、CさんがDさんに財産を相続させるといったように、同一の証書に数人のそれぞれ独立した遺言がされる場合、遺言書は無効となります。
認知症などで、遺言能力がなかった
遺言者が遺言をする時には、遺言の能力を有していなければなりません(民法963条)
そのため、遺言書作成の時点で認知症などにより遺言能力がなかったとされた場合には遺言は無効となります。遺言能力とは、遺言の内容や効果を理解する意思能力のことを指すとされており、その有無は、当時の年齢、健康状態やその推移、遺言の内容等の様々な要素から判断されることになります。
誰かに書かされた可能性がある
遺言書は、遺言者の真意に基づいて作成されたことが重要となります。
そのため、遺言書が存在していたとしても、誰かに強迫されて書かされていたり、誰かに騙されて書かされていた場合、あるいは、認知症で理解のできないまま唆されて作成した場合、無効となる可能性があります。
証人不適格者が立ち会っていた
秘密証書遺言や公正証書遺言を作成するためには証人の立会いが必要となります。
しかし、誰でも遺言書の証人になれるわけではありません(民法974条)。
①未成年者、②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人は、遺言の証人又は立会人になることができませんので、これらの者が遺言の証人又は立会人になっていた場合には、遺言が無効になる可能性があります。
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遺言書の内容に不満があり、無効にしたい場合
遺言書を作成した時期には遺言者の認知症がかなり進行していた証拠が残っている場合など、実務上、遺言書が無効になるケースは決して珍しくはありません。
遺言書が自分に不利な内容である場合(例えば、他の相続人に財産の全てを相続させる場合)などについては、遺言書が無効になると、相続できる財産が増える場合が考えられます。例えば、遺言書が有効であれば、遺留分しか請求できなくとも、遺言書が無効となれば、法的相続分どおりに相続できることになるケースなどがあり得ます。
そして、遺言が無効であることを確認するために、遺言無効確認調停の申立てや、遺言無効確認訴訟の提起を行う方法があります。
遺言無効確認調停
遺言無効確認調停とは、遺言が無効であることを確認するための話合いを行うことを求めるものです。遺言書の無効を求める手続きについては、いきなり訴訟を行うことはできず、調停を先に行う必要があります(調停前置主義)。調停が平行線となり、話合いでの解決が難しい場合には、訴訟に移行することになります。
なお、調停前置主義が取られていますが、いきなり訴訟を提起した場合でも、裁判所が調停に付することが相当でないと認める場合には、調停が省略される場合もあります(家事事件手続法257条2項)。
遺言無効確認訴訟
遺言無効確認調停が不成立になる、若しくは、遺言無効確認調停を経たとしても不成立になることが明らかな場合には、遺言無効確認訴訟を提起することになります。
遺言無効確認訴訟については、遺言書が無効であるかどうかを話し合いではなく、裁判官が提出された証拠等に基づいて判断することになります。
時効は無いけど申し立ては早いほうが良い
遺言書が無効であるかを確認する手続きを取るうえで、法律上、時効期間は規定されていません。そのため、いつでも遺言無効確認調停を申し立てたり、遺言無効確認訴訟を提起することが可能であって、相続開始時から時間がたってから行うことも可能です。
しかし、遺言書が作成されてから時間が経てば経つほど、遺言書が無効である事情の証明が難しくなったり、証拠等が処分されたりする可能性があるため、できるだけ早い段階で行動に移す方がよいといえます。
遺言書を勝手に開けると無効になるというのは本当?
遺言書の保管者または保管者がいない場合で、遺言書を発見した相続人は、遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を請求する必要があり(民法1004条1項)、封印のある遺言書は、家庭裁判所において、相続人(またはその代理人)の立会いがなければ、開封することができません(同条3項)。
法律で定められた手続を定めた遺言書の提出や検認を怠った場合には、5万円以下の過料に処せられることがあります(民法1005条)。
遺言書の検認は、一種の検証ないし証拠保全の手続きですので、遺言の効力の有無に直結するものではありません。そのため、遺言書を勝手に開けても直ちに無効と言わけではありませんが、保管されている、もしくは発見した場合には、速やかに家庭裁判所に提出するのがよいといえます。
遺言書が無効になった裁判例
原告が、遺言書が作成された時点で遺言者に遺言能力がなく、遺言者の意思に基づかずに作成されたものであるとして、遺言無効確認訴訟を提起した結果、遺言が無効と判断された事案があります(東京地裁平成30年1月30日判決)。
裁判所は、遺言者が遺言書作成前の時点で夜間徘徊を繰り返していたこと、遺言者の施設での言動の内容等から判断して、遺言書作成時点でアルツハイマー型認知症は相当程度進行していたとし、本件遺言は無効であると結論付けました。本件では、公正証書という一般的に信用性の高いとさせる公正証書遺言が無効となった点で特徴的といえます。
遺言書が無効かどうか、不安な方は弁護士にご相談ください
遺言書が無効となるかどうかによって、相続人の受け取る相続財産の金額は大きく異なることがありますが、遺言書が有効か無効かの判断をすることは容易ではありません。
遺言書の無効を確認することは、自分の利益のためのみならず、被相続人の意思を尊重することにもつながるものです。
適切な相続の実現のためにも、遺言書に関する知識や経験を有している弁護士に依頼した上で、遺言書の有効性を判断してもらうことをおすすめいたします。
多数の相続事件を担当してきた弊所に是非お気軽にお問い合わせください。
被相続人の生前、その財産の維持や増加について特別に貢献した相続人は、他の相続人に対し、法定相続分に寄与分をプラスするよう主張することができます。もっとも、相続人間の話し合いで、寄与分の合意が成立しないこともあります。
その場合、家庭裁判所に遺産分割調停、寄与分を定める処分調停を申し立てることができます。調停では、感情的な主張は避け、法律上どのような場合に特別の寄与が認められるかを意識しながら、主張や立証を行うことが大切です。本記事では、寄与分の調停におけるコツを分かりやすく解説します。
寄与分とは
寄与分とは、被相続人の生前、被相続人の介護や看護を行う、被相続人の事業を手伝うなど財産の維持または増加について特別に貢献した相続人について、法定相続分にその貢献分をプラスしますが、その貢献分をプラスさせる制度のことをいいます。
寄与分が認められる条件として、①相続人であること、②被相続人の財産の維持または増加に貢献したといえること、③法律上の義務の範囲を超えて貢献したこと、④継続的に貢献行為をしたこと、⑤無償または無償と評価できるような貢献をしたことの5つを満たさなくてはいけません。その中でも、③については争われることが多く、「特別の寄与」をしたか否かで対立が生じやすいです。そもそも、対象行為が寄与といえるのかどうかも判断の分かれ目になり、以下の表にまとめてあります。
類型 | 寄与行為 |
---|---|
家業従事型 | 被相続人の自営する店舗で手伝いをした場合(但し無償の場合に限る) |
金銭出資型 | 被相続人の自宅のリフォーム費用を支払った場合など資金援助をした場合 |
療養看護型 | 被相続人の介護を毎日した場合や介護士を雇うのに費用を支出した場合 |
扶養型 | 病気やケガで働けない被相続人に対し生活費を援助した場合 |
財産管理型 | 被相続人の賃貸不動産を管理するなどその財産形成に貢献した場合 |
法改正により新設された「特別寄与料」との違いは?
寄与分 | 特別寄与料 | |
---|---|---|
対象となる人 | 相続人 | 相続人以外の被相続人の親族 |
寄与となる行為 | 被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法 | 被相続人の療養看護その他の労務提供 |
相続人以外の被相続人の親族が、被相続人の生前、介護や看護によりその財産の維持や増加に貢献した場合に、相続人に対し、その貢献度に応じて支払いを請求できる金額のことをいいます。
寄与分と異なり、特別の寄与を主張するのは相続人以外の親族です。また、被相続人に対する財産上の給付行為が寄与行為に当たらない点も寄与分とは異なるため注意が必要です。
特別寄与料の目的は、相続人でなくとも、被相続人の世話を献身的に行った親族に対し、公平な保護を図ることにあります。
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寄与分を主張する方法と流れ
相続が開始すると、相続人同士で遺産分割協議を行い、各々の相続分について話し合いをします。その話し合いの中で寄与分を主張することができます。
話し合いで寄与分について合意ができなかった場合、家庭裁判所に遺産分割調停、寄与分を定める処分調停の申立てができ、併せて申し立てることも可能です。それでも話合いがまとまらず、調停が不成立になれば、自動的に遺産分割審判に移行します。審判では、当事者が家庭裁判所に集まり、主張書面や証拠を提出しますが、追加で意見を述べることも可能です。そして、一通り提出が終われば、審判が下されることになります。
寄与分を主張する調停には2種類ある
遺産分割調停 | 遺産分割の方法を全般的に決める調停 |
---|---|
寄与分を定める処分調停 | 寄与分の具体的金額を決める調停 |
相続人同士の遺産分割協議で話し合いがまとまらない場合、調停を申し立てることができます。
調停には、遺産分割調停、寄与分を定める処分調停の2種類がありますが、前者は寄与分も含む全般的な遺産分割方法を決めるものであり、後者は寄与分の具体的金額を決めるものです。調停は当事者双方が資料を提出し合い、調停委員を介して話し合いが行われます。月に1回、2時間程度の頻度で行われますが、合意に至ればすぐに終結することもあります。
それでも話がまとまらず調停が不成立になると、「審判」という手続きに移行し、裁判官が当事者双方の主張、立証を踏まえて最終的な判断を下すことになります。ただし、自動的に審判に移行するには、上記の調停を両方とも申し立てていなければならないため、一方の申立てしかしていない場合、別途追加で申立てが必要になります。
「寄与分を定める処分調停」の申立て方法
寄与分を定める処分調停の手続きについては、よくわからないという人も多いでしょう。
以下、具体的な手続きについて解説していきます。
申立人
申し立てることができるのは、寄与分があると主張したい相続人になります。よって、申立ての相手方は、申立人以外の他の相続人全員ということになります。
申立先
調停の申立ては、原則として相手方である相続人の住所地を管轄する家庭裁判所または相続人間で合意した家庭裁判所です。もっとも、既に遺産分割調停を行っている場合には、その裁判所に申し立てることになります。
申立てに必要な書類
寄与分を定める処分調停の申立てには、以下の書類の提出が必要です。
- 申立書
- 申立書の写し(相手方の人数分)
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本、住民票または戸籍附票
- 遺産に関する資料の写し(不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書、預貯金の通帳又は残高証明書など)
寄与分の証拠となる資料とは?
寄与分を主張するには、相続人がどのような貢献をしたのか立証する必要があります。寄与の内容により、収集する証拠も変わるため、寄与行為がどの類型にあてはまるのか確認しましょう。一般的には以下の5つの類型に分けられます。
類型 | 証拠となる資料 |
---|---|
家業従事型 | 家業への従事の期間、従事の態様を示す資料、家業の所得、規模の分かる資料 |
金銭出資型 | 給付額・時期またはその期間を示す資料 |
療養看護型 | 療養看護の必要性が分かる資料、相続人による看護介護の内容・期間を示す資料 |
扶養型 | 被相続人の生活状況を示す資料、扶養の内容・期間が分かる資料 |
財産管理型 | 財産管理の必要性を示す資料、相続人が期待を超える貢献をしたことを示す資料 |
申立てにかかる費用
調停の申立てには、申立人1人につき収入印紙1200円分、連絡用の郵便切手(裁判所ごとに金額は異なります。)分の費用が必要になります。
寄与分の請求に時効はあるのか?
寄与分自体に時効はありません。寄与分は、債権ではなく、遺産分割における相続分の1つにすぎないと考えられているためです。もっとも、遺産分割は一度決定すると、原則としてそれを覆すことはできないため、実際には遺産分割の合意が成立するまでに寄与分の主張をする必要があります。
これに対し、特別寄与料は相続分ではなく、金銭の請求なので時効があります。特別寄与料の請求をできるのは、特別寄与者が相続の開始および相続人を知った時から6カ月間です。
寄与分の主張が認められた判例
脳梗塞で入院した被相続人の退院後、相続人が約7年間にわたり、半身麻痺が残る被相続人の介助を行った事例で、相続人に寄与分が認められた裁判例があります。この事例では、相続人が起き上がりや立ち上がりの補助、入浴の手伝い、深夜にトイレに付添い排泄を手伝うなど身の回りの世話を行っていました。退院当初の介助に不慣れな時期や被相続人の体調が悪化した晩年の頃には、介助の負担も相当重かったであろうこと、約7年間にもわたり継続的に行ってきたことから、無償で行った相続人の当該行為は特別の寄与にあたると判断されました。裁判では、調停で提出した資料ももとに、裁判所が相続人の行為が特別の寄与にあたるかを判断することになります。
寄与分に関するQ&A
寄与分の調停を経ずに、いきなり審判から申立てることは可能ですか?
寄与分については、審判を先行することは原則としてできません。寄与分は調停で話し合いを尽くすことが前提とされています(これを調停前置主義といいます)。調停で合意ができず不成立になった場合に初めて、審判へと移行し裁判官が判断を下すことが予定されています。まずは、寄与分を定める処分調停を申し立てましょう。
他の相続人が「調停証書」の内容に従わなかった場合はどうなりますか?
調停手続きにおける話し合いの結果を記載したものを調停調書といい、調停が成立した場合に作成されます。調停調書は確定的なものであり、判決と同様の効力をもちます。そのため、調停調書の内容に従わない相続人に対しては、他の相続人はその財産を差し押さえることにより、遺産相続を完成させることができます。
寄与分は遺留分侵害額請求の対象になりますか?
寄与分とは、被相続人の生前、被相続人の介護や看護を行う、被相続人の事業を手伝うなど財産の維持または増加について特別に貢献した相続人について、法定相続分にその貢献分をプラスしますが、その貢献分をプラスさせる制度のことをいいます。
これに対し、遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人が、最低限度取得できる相続分のことをいい、遺留分侵害額請求の対象は、遺贈及び贈与です。
寄与分は、被相続人の死亡後に評価されるものであり、被相続人の意思に基づき生前に行う遺贈や贈与とは性質が異なります。そのため、寄与分を有する相続人が遺贈や贈与を受けていない限りは、遺留分侵害額請求をすることはできません。
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寄与分の調停を有利に進められるよう、弁護士が全力でサポートいたします。
このように、寄与分を得るためには、遺産分割協議または、遺産分割調停及び寄与分を定める処分調停で他の相続人から合意を得るか、裁判において寄与分の主張が認められる必要があります。
過去の裁判例を踏まえて、どのような主張や立証を行うべきであるかは、やはり法律の専門家である弁護士が詳しく知っており、収集すべき証拠や寄与分の認定にとって有効な証拠についても適切なアドバイスを求めることができます。相続は手続きも複雑であり、何をしていいかと悩む人も多いでしょう。寄与分にかかわらず、相続については、全般的にサポートしてくれる弁護士に依頼する方が、無駄な徒労に終わるといったことを避けられるでしょう。
成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や精神障害等により判断能力が不十分になった人を保護する制度で、成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度があります。
法定後見制度では、家庭裁判所が、判断能力の程度に応じて、後見人、保佐人、補助人を選任し、本人の財産管理や身上監護を行います。
任意後見制度は、本人が元気なうちに、判断能力が乏しくなった場合に自分の代わりに財産等の処分管理をしてもらう人を選んでおき、実際に判断能力が不十分となった場合にその人が本人に代わって法律事務を行う制度です。なお、任意後見人の辞任解任、本人または任意後見受任者が後見開始の審判を受けたときには終了します。
以下では、主に法定後見制度を前提に解説します。
相続の場で成年後見人が必要なケース
遺産分割協議は、法定相続人の全員で遺産分割協議をし、全員がその協議で合意をすることが必要ですが、この遺産分割協議に合意をするためには、自身に影響がある重要な事項の判断となるので、判断能力があることが必要となります。
認知症などで、判断能力が不十分な相続人がいると、その人は遺産分割協議の内容に合意することができないので、いつまでたっても遺産分割協議が成立しないことになりますし、判断能力が不十分な人が合意をしても、その遺産分割協議は無効となってしまいます。このような状況を避けるために、判断能力が不十分な人がいるときには、成年後見人を選任する必要があります。
相続人が未成年の場合は未成年後見制度を使う
未成年者は、親権者の同意がない限り法律行為をすることできず、親権者の同意なくして行った法律行為は取り消すことができます(民法5条)。相続人が未成年者の場合に、遺産分割協議を有効に成立させるためには、親権者の同意が必要となります。仮に、親権者が不在の場合には、未成年者だけで遺産分割協議を進めることができないので、未成年後見人の選任が必要となります。
成年後見制度と未成年後見制度では、目的や役割などで重複することも多いですが、未成年後見制度では、選任の方法は親権を行う者の死後に遺言で指定することができる点や役割の内容においても、教育に関する監督権や未成年者が行った法律行為に対しての同意権、婚姻していない未成年者に子がいる場合の親権代行権など、成年後見制度とは異なる点もあります。
成年後見人ができること
成年後見人等は、本人の財産管理と身上監護を行います。具体的には、日用品の購入以外の売買契約などの法律行為の代理、本人の預貯金等の管理、本人が行った契約の取消しなど法律行為への対処、介護施設への入所契約の締結等広範囲にわたっており、成年後見人等が選任されると本人の日常生活に密に関与していきます。
成年後見人になれるのは誰?
成年後見人等には、誰でも就任できるわけではありません。
未成年者、家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人、補助人、破産者で復権していない人、行方不明者は、成年後見人等にはなれません。また、本人に対して何か請求をしているなど本人と利害関係がある人も成年後見人にはなれません。
誰が申し立てすればいい?
法定後見人の選任手続きは、誰でも申立てをすることはできるわけではなく、本人、配偶者、本人からみた4親等以内の親族、成年後見人等、任意後見人、任意後見受任者、成年後見監督人等、市区町村長、検察官です。
成年後見制度申し立ての手続き
申立ての準備
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管轄の家庭裁判所へ申立て
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調査
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審理
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選出
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法務局への登記
成年後見人の候補者を決める
成年後見人等の選任を求めて裁判所申し立てを行う場合、成年後見人等になる候補者を選ぶことができます。
ただし、成年後見人になる資格があっても、家庭裁判所が成年後見人等として適格か否かを審理して選出をするので、候補者として申立書に記載したからといって、必ず選任されるわけではありません。
成年後見人等には親族以外の弁護士や司法書士などの専門職の第三者を選出することもあるので、候補者がいなくても申し立てをすることはできます。
必要書類を集める
- 申立書、申立事情説明書、後見人等候補者事情説明書
裁判所のホームページに書式がありますので、ダウンロードして作成します。また、裁判所の受付では、直接申立てに必要な書式をもらうことができます。 - 本人情報シート
福祉関係者に作成してもらうものです。 - 本人の健康状態に関する資料(障碍者手帳や療育手帳など)
- 財産目録、収支予定表、相続財産目録(遺産分割未了の相続財産がある場合のみ)
- 財産や収支を裏付ける資料(通帳、保険証書、不動産登記簿など)
- (本人の)親族の意見書
ここでいう親族とは、本人が亡くなった時に相続人となる推定相続人です。 - 本人の戸籍謄本と住民票
3カ月以内のもの - 後見人等候補者の住民票(戸籍の附票でも可)
3カ月以内のもの - 登記されていないことの証明書
法務局で申請し、交付を受けます。
このほかに、収入印紙(登記手数料、申立て手数料)と郵便切手、鑑定費用がかかります。
後見・補佐・補助について
成年後見制度には、後見、補佐、補助の3種類ありますが、これは、本人の判断能力の程度によって分かれています。申立て段階では、医師や診断書の内容に対応する類型の申立てをすることになります。
申立て後に、当事者の調査や精神鑑定等の結果から、家庭裁判所が申立時とは異なる類型の審判をすることもありますが、その場合には、申立ての趣旨の変更手続きを取ることになります。
家庭裁判所に申し立てを行う
申立て書類が整ったら、家庭裁判所に申し立てを行います。
申立てを行う裁判所(管轄の裁判所)は、本人の住所地(住民登録をしている場所)が管轄の家庭裁判所になります。
なお、申立てを行った後は、公益性や本人保護の観点から、裁判所の許可を得なければ取り下げをすることはできません。
管轄の裁判所によっては、申立て前に調査のための面接の予約をすることができるため、管轄の裁判所に確認をすることをお勧めします。
また、申立て書類は返却されないので、提出前にコピーを取っておく必要があります。
家庭裁判所による調査の開始
申立てがされると、裁判所は、本人の判断能力や成年後見人等候補者の適格性等を判断するために、本人や申立人、後見人等候補者に直接会って面談をしたり、親族への意向照会をしたりなどの調査を行います。
また、場合によっては、本人の判断能力の程度を判断するために、医師による精神鑑定が行われることもあります。
成年後見人が選任される
裁判所において行った調査や精神鑑定の結果を踏まえ、裁判所が後見人等の支援が必要であると判断した場合には、後見等開始の判断をすると同時に、後見人等を選任します。
裁判所が後見等の開始及び後見人等を記載した審判書が、裁判所から送付されます。この審判書が成年後見人等に到着してから2週間以内に不服申立てがされない場合は、裁判所の審判の法的効力が確定します。
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成年後見人の役割は本人の死亡まで続く
成年後見人等は、財産の管理や身上保護など本人を保護するための仕事をするので、判断能力の改善もしくは本人の死亡まで仕事をします。そのため、成年後見人との申立てをするのは、遺産分割協議や福祉サービスの締結などのきっかけがあることが多いですが、これが解決で来た後も成年後見人等の仕事は続きます。
本人が死亡したときには、成年後見人等の仕事も終わります、その際、成年後見人等は、本人が死亡したことと本人の財産状況を家庭裁判所に報告する必要があります。
成年後見制度にかかる費用
成年後見人等の選任を求めて裁判所に申立てた場合、申立手数料800円分と登記手数料2600円分の収入印紙と送達や資料送付のための郵便切手を4000円前後収める必要があります。なお、裁判所や申し立ての類型によって必要な収入印紙や郵便切手の金額が異なるので、申立ての前に管轄の裁判所に確認をする必要があります。その他に、診断書作成のための文書料や戸籍等取得のための収入印紙がかかります。
成年後見人に支払う報酬の目安
成年後見人等が報酬を受け取る場合には、成年後見人等が、都度、家庭裁判所に成年後見人等の報酬付与の申立てをして、家庭裁判所が本人の資力やその他の事情を考慮して決定した金額の報酬をもらうことができます。報酬金額は、管理財産の金額によって異なってきますが、大体2万円から6万円くらいとなります。
親族が成年後見人等に就任した場合にも、報酬をもらうことができますが、実際には報酬を請求しないことも多く、その場合は無償で行うことになります。
成年後見制度のデメリット
成年後見人等は、財産が散在しないようにしたり健康的な生活を送れるようにしたりして、本人の利益になるように仕事をしますので、成年後見人等が就任すれば、遺産分割協議を進めることや福祉サービスを利用することができるようになります。
他方で、成年後見人等選任のためには申立て費用がかかりますし、報酬も発生する可能性があります。また、本人は自由に財産を処分管理することができないので、生前贈与などの相続対策を行うことはできません。
このように、成年後見制度を利用すると、本人が自由に資産運用をしたり相続対策をすることはできなくなりますが、判断能力が不十分な状況の中で行われた法律行為はその後無効となる可能性もあり、更なるトラブルに巻き込まれる危険もありますので、成年後見人等を選任する必要は高いです。
相続対策に関しては、判断能力は乏しくなる前に、遺言書を作成するなどを対策をしておいた方が良いです。
成年後見制度についてお困りのことがあったらご相談下さい
主に法定成年後見制度について解説してきましたが、成年後見人等の選任のためには、申立て書類を作成することや関係各所に必要書類を準備する必要があるだけでなく、本人の生活を見守りつつ、医師や福祉関係者との連絡を取ったりすることが必要になります。そもそも、成年後見制度がどのようなものなのかわからないということもあると思います。
弁護士にご相談いただければ、法定後見制度だけでなく任意後見制度のこと、成年後見人等の選任が必要か否かなど専門的なアドバイスをすることができます。今後の財産管理に関して不安に感じておられる方は、ぜひ一度ご相談にいらしてください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)