交通事故の過失割合9対0の仕組み

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交通事故の過失割合9対0の仕組み

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

過失割合とは、発生した交通事故に対する当事者の責任の大きさを割合にしたものです。そのため、9対1、8対2、7対3のように、加害者と被害者の過失割合を合わせると10割になるのが基本です。しかし、過失割合が9対0のケースなど、それぞれの過失割合を合計しても10割にならないことがあります。
今回は、過失割合9対0という例外的なケースについて詳しく解説していきます。
この考え方を理解することで、受け取れる賠償金を増額させたり、示談交渉を早期に終わらせたりできる可能性があるので、ぜひご確認ください。

交通事故の過失割合9対0ってどういうこと?

【過失割合9対0】と目にすると、一見、「加害者の過失が9割、被害者の過失がない」と受け取れますが、決してそうではありません。過失割合は、お互いの過失を合わせて【10割】となるのが基本ですので、加害者の責任はあくまでも9割であり、残りの1割は、被害者に課せられた過失です。
そのため、加害者に対する賠償請求は、被害者の損害の9割に留まります。
ただし、ここでポイントとなるのが、9対0の場合、本来加害者に対して支払わなければならない損害賠償金が免除されるという点です。このため、1割の賠償金を支払わなければならない9対1のケースと比べて、受け取れる損害賠償金は増額することとなります。

このように、事故の当事者双方に過失がある場合でも一方だけが賠償金を支払うことを「片側賠償」といいます。片側賠償には、9対0のケースだけでなく、8対0や7対0といったケースもあります。

9対0(片側賠償)になる仕組み

片側賠償は、過失割合について被害者と加害者がなかなか合意できないときに妥協策として提案されることがあります。
例えば、被害者が10対0を主張しているところ、加害者が9対1や8対2の主張を譲らず交渉が進まないような場合に、それぞれの折り合いをつけるための案として9対0の過失割合が提案されます。
この場合、被害者は過失割合で支払う賠償金がない分、受け取ることのできる損害賠償金が増えますし、加害者も支払わなければならない損害賠償金を減らすことができるというメリットがあるので、お互いに譲歩しやすくなります。

交通事故の過失割合9対0の計算例

片側賠償について、文字で説明するだけではなかなかイメージがつかないと思うので、実際に、過失割合が9対0の場合に被害者が受け取れる賠償金を計算してみましょう。

【例】損害額:加害者500万円、被害者800万円の場合

被害者には1割の過失があるので、損害額から1割を差し引いた残額が、損害賠償金として請求できる金額となります
「請求できる金額=800万円×(10割-1割)=720万円」

一方、被害者は加害者への賠償金の支払いが免除されるので、
「支払う金額=0円」

したがって、最終的な請求金額は720万円となります。

これを加害者が支払うべき賠償金と併せてまとめると、下記の表のようになります。

加害者 被害者
過失割合 9 0
損害額 500万円 800万円
請求できる金額 0円 720万円
支払う金額 720万円 0円
最終的な請求金額 0円 720万円

また、過失割合が10対0のケース・9対1のケースとも比較してみましょう。

【10対0のケース】

被害者に過失がありませんので、被害者は損害額の満額を賠償金として請求できますし、加害者に対して賠償金を支払う必要がありません。
最終的な被害者の請求金額は800万円となります。

9対0のケースと比べて、損害賠償金が80万円増額することになります。

【9対1のケース】

9対0のケースと同様に被害者の過失は1割なので、被害者が請求できる金額は次のとおりです。
「請求できる金額=720万円」

しかし、賠償金の支払義務は免除されないため、加害者の損害額の1割を支払わなければなりません。
「支払う金額=50万円」

したがって、最終的に請求できる金額は、
「720万円-50万円=670万円
となるので、9対0のケースと比べて50万円減額してしまうことになります。

まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

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過失割合9対0のメリット・デメリット

メリット

過失割合を9対0にするメリットには、下記のとおり様々なものがあります。

  • 最終的にもらえる賠償金が増える
    過失相殺(過失割合に相当する金額を損害賠償金から差し引くこと)はされてしまいますが、加害者に損害賠償金を支払う義務がないので、最終的にもらえる損害賠償金は増額します。
  • 保険の等級が下がらない
    また、加害者の損害を賠償しなくて済むので、基本的に自分の保険を使用する必要がありません。そのため翌年度の保険等級が下がりません。
  • 早期解決しやすくなる
    被害者と加害者の主張の折衷案にあたるので、お互いの譲歩を引き出しやすく、裁判で争う場合と比べて早期に解決できる可能性が高いです。
  • 保険会社に示談内容の調整をお願いすることができる
    被害者に完全に過失がない10対0の場合、被害者側の保険会社は保険金を支払う義務がありません。つまり、その事故について利害関係がないので、保険会社は被害者に代わって示談交渉を行うことができません。
    一方、被害者に過失がある9対0のケースでは保険会社は利害関係があるので、被害者は保険会社に相手方との示談内容の調整を依頼することができます。

デメリット

9対1のケースと比べてもらえる金額が増えるといっても、請求できる損害賠償金は満額ではなくそのうちの9割です。つまり、完全に過失のない10対0のケースでもらえる損害賠償金よりは、どうしても低額になってしまいます。この点はデメリットといえるでしょう。

交通事故の過失割合を9対0に修正できた解決事例

弁護士法人ALGの介入により、過失割合を9対0に修正できた実際の事例を2件ほどご紹介します。

粘り強い交渉によって8対2から9対0に修正することができた事例

一時停止を無視した加害車両が、優先道路を走行していた依頼者に衝突してきた交通事故で、過失割合は8対2だと主張して譲らない保険会社と争った事例です。
交渉は難航しましたが、弁護士が過去の裁判例を引き合いに、事故の態様からみて相手方の過失が大きく、保険会社の主張は不当であることを粘り強く主張した結果、過失割合を9対0に修正することに成功しました。
加えて、車両価値の低下に対する賠償として修理費の1割相当の金額を支払ってもらうほか、慰謝料も引き上げる内容で示談を成立させることができました。

過失割合5対5の駐車場内の事故を9対0へ修正することができた事例

スーパーの駐車場内で、前方からバックしてきた加害車両が依頼者の乗っている車に衝突してきた交通事故の事例です。加害者が車の損害調査を拒否し、加害者側の保険会社も過失割合を5対5と主張するばかりで交渉を拒んだため、個人での交渉に限界を感じて弊所にご相談くださることになりました。
受任後すぐに、ドライブレコーダーの映像や依頼者側の保険会社から提供された資料を調査したところ、過失割合は9.5対0.5が妥当だと思われたため、その旨を主張して交渉を開始しました。
長期に渡る交渉の後、加害者側保険会社から、「合意書を作成しないなら95対5で合意する」という条件が提示されました。しかし、この条件は依頼者にとってかなりのリスクが高く受け入れられないものでした。そこで保険会社の担当者の上席と交渉したところ、上席名義の示談書面を作成したうえで過失割合を9対0とすることに成功しました。

弁護士が介入することで、依頼者の負担を軽減しつつ、納得できる過失割合での示談を導くことができた事例です。

交通事故の過失割合を9対0にするためには弁護士にご相談ください

少しでも過失割合があると、過失相殺により、こちらから請求できる金額が減るだけでなく相手の損害も賠償しなければならなくなるので、もらえる賠償金が減ってしまいます。また、相手方の損害額によっては、こちらの過失割合の方が小さくても、支払わなければならない賠償金がもらえる賠償金を上回ってしまうこともあります。納得できる賠償を受けるためにも、過失割合で妥協しないことが重要です。

とはいえ、相手方や保険会社の主張に対抗するためには、対等以上に交渉する必要があります。
この点、交通事故事案を数多く取り扱った経験のある弁護士なら、事故状況を正確に把握して交渉に臨めるので、片側賠償の主張を認めさせられる可能性が高まります。さらに、妥協案である9対0ではなく、10対0で着地できる可能性も大幅に高まります。
今後の交渉の方針等についてアドバイスさせていただきますので、ぜひ弁護士への相談をご検討ください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。