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相続問題

遺留分を請求された場合の対処法

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

遺言書等があったことにより、特定の人が遺産を多く取得することがあります。

その際、他の相続人の遺留分(最低限取得できる遺産)を侵害していることがあります。その場合には、遺産を多く受け取った人は、遺留分を侵害されたと主張する相続人から、「遺留分侵害額請求」という金銭請求を受けることがありまます。

今回は、遺留分侵害額請求を受けた場合に、どのような対応が考えられるかについて、紹介していきます。

遺留分侵害額請求をされたら、内容をよく確認しましょう

遺留分侵害額請求は、民法1042条から1049条までの間に、そのルールが定められています。遺留分侵害額請求を受けた場合には、それらの条文に基づき、本当に請求が許される状況なのか、また、適正な内容で請求されているかを確認する必要がありますので、請求内容をよく確認するようにしましょう。

請求者に遺留分を請求する権利はある?

まず、請求者に遺留分侵害額請求をする権利があるかどうかを確認しましょう。
民法1042条は、遺留分の帰属(=権利者)について定めています。

権利者は誰か

これは、「兄弟姉妹以外の相続人」です。
つまり、配偶者は常に遺留分を有する権利者です。
また、相続人の第一順位である子(及びその代襲相続人)も遺留分を有します。子がいない場合や子が相続放棄している場合には、第二順位である直系尊属(親、祖父母等)が遺留分を有することになります。

したがって、少なくとも、これらの人からの請求かどうかは確認するようにしましょう。

遺留分の侵害は事実かどうか

遺留分の侵害があった場合に、遺留分侵害額請求ができます。そのため、遺留分侵害の事実があるのかどうかを確認する必要があります。

例えば、遺言等が特段存在せず、請求されている人が遺産を多く取得しているわけではない場合は、遺留分を侵害しているとはいえないと考えられます。

遺留分を侵害しているといえるには、遺言等により特定の人が遺産を多く取得した結果、遺留分権利者が、遺留分を下回る遺産しか取得できていないという状況が必要です。多くの場合は、遺言により、特定の相続人が全て又は大部分の遺産を取得する内容となっているため、遺留分権利者がほとんど遺産を取得できていないというようなケースだと思われます。
遺留分を侵害している事実があるかどうか、確認をするようにしましょう。

請求された割合は合っている?

民法1042条は、遺留分の割合を定めています。
例えば、遺留分を算定するための財産の価額(ここでは、正確ではありませんが、遺産全額をイメージしていただければと思います。)が1200万円だとした場合、

①相続人が直系尊属(親、祖父母等)“のみ”である場合
その相続人の遺留分は3分の1の400万円です。
なお、被相続人の両親が生存している場合、相続人が2名ですので、それぞれが200万円ずつの遺留分を有することになります。

②①以外の場合
その相続人の遺留分が2分の1の600万円です。
例えば、配偶者1名と子2名がいる場合には、配偶者は300万円、子はそれぞれ150万円ずつの遺留分を有することになります。
遺留分がこのような割合できちんと計算されているかどうか、確認をするようにしましょう。

遺留分請求の時効を過ぎていないか

民法1048条は、「遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始のときから十年を経過したときも同様とする」と、遺留分侵害額請求の期間制限について定めています。

すなわち、①相続の開始及び②遺留分侵害の事実を知ったときから1年以内に遺留分侵害額請求を行わないと、同請求権が消滅時効にかかることになります。
例えば、子3人が相続人である事案で、被相続人に死亡当日に、子3人が全員、被相続人死亡の事実と、全遺産を長男に相続させる旨の遺言があることを認識したとします。長男以外の相続人からの遺留分侵害額請求が、死亡日から1年を経過していた場合には、長男は消滅時効の援用をし、請求を拒否することが可能となります。
請求を受けた場合には、起算点から1年経過していないかどうか、確認をするようにしましょう。

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払わなくていいケースでも連絡は必要?

遺留分侵害の事実がなかったり、既に消滅時効にかかったりしているような場合でも、請求者への連絡はした方がよいでしょう。

特に消滅時効により支払いを拒絶する場合には、請求された人も「時効の援用」をすることが必要です。例えば、請求者に対して、「遺留分侵害額請求の消滅時効が完成しているため、同請求権は消滅しており、支払には応じられない」というような連絡をする必要があります。
支払を拒絶する連絡をすることで、請求者に対してスタンスを明らかにすることができますし、不当な請求が止む可能性もありますので、連絡自体は行った方が良いでしょう。

遺留分の請求は拒否できないの?

遺留分侵害額請求が法律に従い適正な内容で行われている場合でも、任意の交渉段階で支払いを拒絶すること自体は可能です。
もっとも、その場合には、請求者が遺留分侵害額請求の訴訟を提起してくる可能性が高いと考えられます。

判決で一定額を支払わなければならない内容となった場合、それでも支払いをしなければ、自身の財産に対して強制執行され、強制的に支払いをさせられてしまうことになります。
訴訟に移行した場合等の見通しも踏まえて、請求者の請求に対して適切な対応をとることが必要です。

遺留分は減らせる可能性がある

遺留分侵害額請求者は、適正な金額よりも過大な金額で請求を行ってくることがあります。その場合には、当然、減額交渉や訴訟の中で減額の主張を行うことが可能です。
ここでは、遺留分侵害額請求に対して減額を主張する場合の具体例を説明していきます。

自身に寄与分がある場合

遺留分侵害額請求を受けた際、請求された人に寄与分がある場合、遺留分侵害額を減額することは可能でしょうか。

例えば、遺産分割の際は、相続開始時の遺産から寄与分を控除して、みなし相続財産を算出します(そのみなし相続財産に法定相続分等を乗じて一応の相続分を算出し、一応の相続分に寄与分を加算することで具体的相続分を計算します。)。

これと同じように、遺留分侵害額を計算する際の「遺産の全体額」を、遺産から寄与分を控除して計算できるのであれば、遺留分侵害額も減少するように思われます。

しかし、結論として、このような計算はできません。民法上、遺留分侵害額を計算する際の要素に、寄与分が含まれていないためです。遺留分侵害額請求に対し、自身の寄与分があることを理由に減額することはできませんので、注意が必要です。

請求者に特別受益がある場合

遺留分侵害額請求をする相続人に、特別受益があるような場合には、遺留分侵害額を減額できる可能性があります。
例えば、相続開始時の遺産の評価額が1300万円、子2名が相続人、子Bは被相続人の生前1500万円の贈与を受けており特別受益に該当する、遺言により死亡時の遺産1300万円は子Aが相続したという事案だとします。
この場合、遺留分侵害額は、(1300万円+1500万円)×4分の1-1500万円=0円となります。
したがって、子Bの請求額が、子Bの特別受益を無視した、例えば1300万円×4分の1=325万円であったとしても、正しくは0円であり、支払を拒絶することが可能です。

遺産の評価額を下げる

特定の遺産について、その評価額に争いがある場合があります。典型例は不動産です。片田舎の土地があったとして、当然請求者側は、当該土地の評価額を高く設定して請求します。

他方、片田舎の土地が高い金額で売却できるのか、不当に高い金額で評価されていないか、という点は請求された側は主張しておきたい点です。不動産の評価額を低く主張することで、遺留分侵害額の金額を下げることが可能です。交渉であれば、それで合意を目指すことになりますし、訴訟の場合には低い金額で裁判官が認定する主張・立証を尽くすことになります。

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遺留分を請求されてお困りのことがあれば弁護士にご相談ください

遺留分侵害額請求は、理屈の上では単なる計算をすればよいだけですが、法律実務家であっても、その多くは、遺留分侵害額請求は負担が大きいと認識していると思われます。それは、遺留分侵害額請求の計算が複雑で、深い知見が必要であることや、未処理の遺産がある場合に遺産分割と遺留分侵害額請求のいずれを先行させるか、その解決内容を如何に統一的なものとするか等、未解決の問題が残されているためです。

このような遺留分侵害額請求を法的知見がない場合に適切に処理することは困難を極めます。遺留分侵害額請求をする、又はされた場合には、是非、一度弁護士に相談をすることをお勧めいたします。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。