監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
法律上相続人の地位にある人を、法定相続人といい、法定相続人は、亡くなった家族(被相続人)の遺産を相続する権利があります。
もっとも、被相続人が遺言書で「遺産は全てはAに相続させる」というように、法定相続人以外の第三者に遺産を全て相続させる意思を遺す場合があります。このような場合、法定相続人は、少しも遺産を取得できないのでしょうか。
法定相続人には、「遺留分侵害額請求権(民法1046条)」という権利があり、遺贈を受けた人などに対し、その一部を分けてもらうよう請求することができます。
以下では、この権利について、順次説明していきます。
目次
遺留分はいつまで請求できる?期限はあるのか?
遺留分侵害額は、いつまでも請求できるわけではありません。
遺留分を有する権利者が「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間」または「相続開始の時から10年を経過するまで」と決められています。
遺留分権利者になれるのは、被相続人の「兄弟姉妹以外の相続人」です。そのため、被相続人の親や子、などが権利者です。
①遺留分があることを知った時から1年(時効)
遺留分侵害額の請求は、いつでもできるわけではありません。先に述べたとおり期間の制限があり、これを過ぎると時効にかかってしまいます。
「相続の開始と遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年」を過ぎてしまうと、遺留分侵害額請求権が消滅してしまいます。
時効はいつからカウントされる?起算点について
ここにいう「相続の開始を知った時」とは、被相続人が亡くなったことを知り、かつ、自分自身がその相続人であることを知った時を指します。一般的に、親や子がなくなったことは当日に知ることが多く、その時点で自身が相続人であることが明確になるのが通常なので、死亡日当日になることが多いです。
なお、遺贈等の場合、被相続人の作成した遺言書の存在を知り、かつ、受遺者が遺言書内でその旨の記載があることを知ったことが必要です。
②相続開始から10年(除斥期間)
相続開始の時から10年についても注意が必要です。
すなわち、遺留分侵害額請求をできる権利者が被相続人の死亡や遺贈の事実などを知らなくても、相続が開始してから10年が経過すると、請求権は消滅し、行使することができなくなります。
これを除斥期間といいます。10年経てば、初めから権利を有しなかったのと同一の効果が生じるので、注意が必要です。
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遺留分侵害額請求権の時効を止める方法
相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間を経過する前に、遺留分侵害額の請求をするという意思表示をしましょう。具体的に目に見える形で行うことが大切です。これにより、1年間という時効期間はストップすることになります。
相手方に内容証明郵便を送る
請求をする相手に対し、「配達証明付き」内容証明郵便を送るなどして、形に残すことが大切です。
相手方にきちんと通知内容が到達したことを証明として残しておけば、後に請求をしたかどうかといったトラブルを避けられるからです。
なお、意思表示は相手方に到達しなければ効果は生じませんので、相手に届いたことを確認できる方法でなければリスクがあります。
内容証明郵便に記載する事項
内容証明郵便に必要事項を書かなければ、請求の効果が生じない場合があるので、気を付けて内容証明を作成するようにしましょう。
例えば、下記の事項を忘れずに書くようにしましょう。
- 請求者の氏名
- 請求相手の氏名
- 被相続人に関する情報
- 請求する権利の名前
- 請求日
- どの遺産について、請求権を行使するのか
最後の項目については、具体的にどの遺贈、贈与について権利行使するのか特定している必要があります。
遺留分を請求した後の時効にも要注意!
遺留分侵害額請求権を行使すると、新たな消滅時効期間が進行することになるので注意が必要です。
具体的には、遺留分侵害額請求権を行使したときから5年間が消滅時効期間です。これは、令和2年4月1日以降の法改正に基づく期間ですので、それ以前に行使した場合には、10年間と大幅に異なることになります。
金銭債権の時効を止める方法はある?
まず、以下の方法により、進行している消滅時効をストップさせることができます。
相手が自ら債務のあることを承認すること、遺留分侵害額請求の訴訟を提起し、確定判決を取得することです。
もっとも、判決が確定しても、新たに10年の消滅時効が進行するので、請求を怠らないようにしましょう。
遺言や遺贈の無効についても争う場合の注意点
そもそも遺言の内容が無効であるとして、無効確認訴訟を提起することもできます。
その場合でも、注意しなければならないのは、遺留分侵害額請求権の消滅時効期間は進行してしまうことです。
訴訟では、まず遺言の無効について争い、予備的に遺留分侵害額請求をすることもできるので、そのような方法をとることが安全です。
訴訟を提起していれば、当然に遺留分侵害額請求権についても考慮がされると思い込まないようにしましょう。
遺留分の期限に関するQ&A
遺留分は放棄できますか?また、放棄するのに期限はありますか?
遺留分の放棄にあたり、特に期間制限はありません。
もっとも、相続開始前に放棄するためには、家庭裁判所の許可が必要です。誰かの働きかけにより、無理に遺留分を放棄しなければならなくなる事態を避けるためです。
これに対し、相続開始後、遺留分の放棄をするのは自由です。本来、請求をできる相手に対し、放棄するとの意思表示をすれば足ります。
遺留分の時効が迫っているのですが、相手が請求に応じない場合はどうしたらいいですか?
相手に対し、内容証明等の通知書を送り、請求権を行使したにもかかわらず、相手方が支払ってくれない場合もあります。そのときは、時効期間を経過しないように、訴訟提起などの手続きが必要です。調停でも行うことができますが、あらかじめどのような手続きが必要か調べておきましょう。
調停や裁判を起こすことで、遺留分の期間制限を止めることはできますか?
遺留分侵害額請求の訴訟を提起すると、訴訟が終了するまでは、時効期間が満了することはありません。ここでいう訴訟の終了とは、確定判決が下されるまでのことを指します。
判決が出た後、一定期間を経過して判決が確定した場合は、新たにそこから、10年間の消滅時効期間が進行することになります。
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遺留分の請求には時効があります。なるべく早めに弁護士にご相談下さい。
遺留分侵害額請求を行使しようと思っていると、いつの間にか時効期間が経過していた、ということも少なくありません。このような事態を避け、適切に権利を行使するならば、法律の専門家である弁護士に依頼する方が安心できます。複雑な手続きであくせくしなくても済むよう、弁護士に依頼することをおすすめします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)