
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、養育費をいくらとすべきかが問題となります。子どもが健全に成長するために必要な養育費は、夫婦各々の経済力に応じて分担し、子どもと離れて暮らす親から、子どもを監護・養育する親に対して支払われます。こうした養育費の金額を決めるにあたって用いられるのが、「養育費算定表」です。
ここでは、養育費算定表の使い方等について解説していきます。
目次
- 1 養育費算定表とは
- 2 養育費算定表の使い方
- 3 養育費算定表の結果はあくまでも相場
- 4 養育費算定表に関するQ&A
- 4.1 養育費算定表以上の金額をもらうにはどうしたらいいですか?
- 4.2 古い算定表で金額を決めました。新養育費算定表の金額で支払ってほしいのですが、どうしたらいいですか?
- 4.3 子どもに障害があるため医療費がかかります。それでも算定表の額しか支払ってもらえないのでしょうか?
- 4.4 新算定表の額が高すぎると調停を申し立てられました。減らさなければいけないのでしょうか?
- 4.5 再婚を理由に算定表の金額よりも養育費を減らしたいと言われました。受け入れなければいけないのでしょうか?
- 4.6 子どもが4人以上いる場合の養育費算定表がありません。相場はどう調べればいいでしょうか?
- 4.7 上の子を夫が引き取り、下の子2人を私が引き取ることになりました。算定表はどう見たらいいのでしょうか?
- 4.8 算定表に書かれている年収は手取りですか?支払額ですか?
- 5 養育費のことでお困りのことがあれば、弁護士への相談がおすすめ
養育費算定表とは
養育費は、離婚後に、子どもと離れて暮らす親が払う、養育や教育、医療などにかかる費用の分担のことです。離婚して子どもと離れて暮らすことになったとしても、親は、子どもに対して負う扶養義務の一環として養育費を支払う必要があります。
養育費算定表とは、離婚に際して子どもの養育費の金額を決めるときに、父母の収入金額や子どもの数と年齢だけから、標準的な養育費の金額を簡易・迅速に算出できる早見表をいいます。
養育費は、子どもの生活のための金銭ですから、簡易・迅速に算出される必要があるため、実務で活用されています。
新養育費算定表について
従来の算定表は、2003年に公表されたもので、裁判所の実務では、この算定表を基に、養育費や婚姻費用の額を判断していました。しかし、時間の経過とともに社会情勢が変化し、「現在の生活実態にあっていない」などの指摘が出ていたことから、改訂が検討され、2019年に新養育費算定表が公表されました。
養育費算定表の使い方
養育費算定表は、以下の流れで使用します。
- 子どもの人数と年齢を確認する
- 裁判所のHPから該当の養育費算定表をダウンロードする
- 相手方の年収を確認する
- 自分の年収を確認する
- 相手方と自分の年収から、養育費の金額を確認する
具体的には、以下で解説します。
子どもの人数と年齢を確認する
養育費算定表は、子どもの人数(3人まで)や年齢(0~14歳/15歳以上)に応じて分けられています。何歳の子どもが何人いるかによって、該当する養育費算定表を確認することになります。
裁判所のHPから該当の算定表をダウンロードする
養育費算定表は裁判所のHPで公開されていて、誰でも閲覧し、ダウンロードすることができます。該当のページにある、表1~表9が養育費算定表です。この中から、子どもの人数や年齢に応じた算定表を用います。
義務者(支払う側)の年収を確認する
養育費を支払う側の年収を確認して、養育費算定表の縦軸から、該当する箇所を確認します。
なお、養育費を支払う側が、会社員などで給与を受け取って生活しているか自営業であるかによって、年収の軸が異なるため、ご注意ください。
権利者(もらう側)の年収を確認する
養育費を受け取る側(権利者)の年収を確認して、養育費算定表の横軸から、該当する箇所を確認します。
養育費を受け取る側についても、会社員などで給与を受け取っている場合と自営業である場合とで、年収の軸が異なります。
2つの年収を辿り、養育費の金額を決定する
養育費を支払う側と受け取る側の年収および「給与受給者か自営業者か」を確認したら、養育費算定表の交差する箇所が、いくらの養育費とされているかを確認します。
算定表では、養育費に1万~2万円ほどの幅が設けられているため、交差する箇所により近い金額を相場とするのが一般的です。
養育費算定表の結果はあくまでも相場
養育費算定表で算定される養育費は、あくまでも標準的な生活をすることを前提とした相場です。そのため、個々の状況によっては、必ずしも適切な金額であるとは限りません。
当事者双方が合意できれば、算定表に縛られることなく、自由な金額で取り決めることもできますので、算定表上の金額では納得できない場合は、算定表とは異なる金額にする必要性や合理性を伝えて、よく話し合いましょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費算定表に関するQ&A
養育費算定表以上の金額をもらうにはどうしたらいいですか?
養育費算定表よりも高額の慰謝料を受け取るためには、まずは父母で話し合います。 話し合いに応じてもらえない、あるいは合意が得られない場合は、家庭裁判所の調停や審判手続を利用することになります。 その際には、相場以上の養育費が必要な理由や根拠を示し、相手や裁判官を納得させることが重要です。
古い算定表で金額を決めました。新養育費算定表の金額で支払ってほしいのですが、どうしたらいいですか?
養育費算定表が改定されたことだけを理由に、既に取り決めた養育費の増額を認めてもらうことはできません。 義務者が、養育費の改定をきっかけに任意で増額に応じてくれれば問題ありませんが、そうではない場合に増額を求めるには、算定表の改定以外に、義務者の収入が予想以上に増えたことや、権利者であるご自身の収入が想定外の事情で減ったこと等の事情が必要です。
子どもに障害があるため医療費がかかります。それでも算定表の額しか支払ってもらえないのでしょうか?
子どもに障害があることによって、特別に医療費が必要なケースでは、養育費算定表以上の養育費が認められる可能性があります。 算定表は、子どもに必要な費用について、標準的な費用を基準としており、特別に必要な医療費等までは考慮されていないことから、持病に関する医療費は、特別費用として加算することができると考えられます。その場合、月々の明細書・領収書などを証拠として、父母間の協議や、調停・審判手続の中で、養育費の増額を求めることになります。
新算定表の額が高すぎると調停を申し立てられました。減らさなければいけないのでしょうか?
新算定表の額が高すぎるという理由だけで養育費の減額を求められた場合は、必ずしも応じる必要はありません。 ただし、調停で、養育費算定表をもとに、父母それぞれの事情を勘案して、具体的な金額を取り決めるための話し合いが進められる中で、義務者のやむを得ない収入減少や、義務者に扶養家族が増えたなど、事情の変化があると判断された場合には、養育費の減額が認められる可能性があります。
再婚を理由に算定表の金額よりも養育費を減らしたいと言われました。受け入れなければいけないのでしょうか?
再婚を理由に養育費の減額が認められることはあり得ますが、必ずとは言い切れません。 例えば、調停・審判手続きとなった場合、養育費を支払っている側が再婚して扶養家族が増えた場合には、減額が認められる可能性が高いと考えられますが、再婚による扶養人数に変動がなければ減額が認められない場合もあります。 具体的には、次のような事情の変化がある場合に、養育費の減額や免除が認められる傾向にあるといえます。 【義務者側が再婚した場合】 再婚相手の連れ子と養子縁組をした。 再婚相手との間に子どもが生まれた。 【権利者側が再婚した場合】 十分な収入のある再婚相手と子どもが養子縁組をした。
子どもが4人以上いる場合の養育費算定表がありません。相場はどう調べればいいでしょうか?
子どもが4人以上いる場合には、養育費算定表では養育費の相場が調べられませんが、養育費算定表の基礎となる計算方法をもとに算出することができます。 具体的な計算方法は、以下のとおりです。 ① 義務者と権利者、それぞれの基礎収入を算出する。 基礎収入とは、年収から税金などを差し引いた金額のことで、「年収×基礎収入割合」で算出できます。 ② 子どもの生活費を算出する。 義務者の基礎収入と、親子それぞれの生活費指数を用いて、次のように算出します。 「義務者の基礎収入×子どもの生活費指数計÷(義務者の生活費指数+子どもの生活費指数計)」 ※生活費指数: 親=100、0~14歳の子ども=62、15歳以上の子ども=85 ③養育費の相場を算出する。 次のように算出します。 「子どもの生活費×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)」
上の子を夫が引き取り、下の子2人を私が引き取ることになりました。算定表はどう見たらいいのでしょうか?
養育費算定表は、1人の親が、子ども全員の世話をしている状況を想定して作成されているため、父母それぞれが子どもを引き取った場合、養育費算定表だけでは養育費の相場を求めることができません。 こうした場合の養育費の計算方法としては、様々な考え方がありますが、そのうちの1つとして、一方が全ての子どもを引き取ったと仮定して算定表から養育費を求めた上で、子どもの年齢による「生活費指数」を加味して差引きすることによって算出するものがあります。
算定表に書かれている年収は手取りですか?支払額ですか?
養育費算定表の年収は、手取りではなく「支払額」です。 なお、源泉徴収票では「支払金額」、課税証明書では「給与収入」、確定申告書では「課税される所得金額」に実際は支出されていない費用を加算したものが、年収に相当します。
養育費のことでお困りのことがあれば、弁護士への相談がおすすめ
養育費算定表は、簡易に養育費の相場を知ることのできるとても便利なツールですが、あくまでも目安に過ぎません。
多額の教育費がかかっている、子どもに高額の医療費がかかっている等といった個別事情がある場合や、子どもが4人以上いる、父母それぞれが子どもを引きとるといった算定表だけでは相場が調べられない場合などで、具体的な養育費の金額を取り決めるためには、離婚問題に精通した弁護士に相談することをお勧めします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)