養育費の減額請求

離婚問題

養育費の減額請求

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

子供がいる夫婦が離婚をする場合、親権の他に養育費についても取り決めをします。養育費は、子供と離れて暮らす親から、子供と共に暮らす親へと支払われる金銭で、子供が社会的に自立できる年齢になるまでやり取りが行われます。
しかし、子供の年齢によっては十数年という長期的なやり取りになるため、互いの生活環境等が変化した場合、支払う側としては養育費を減額したい事情が出てくるかもしれません。とはいえ、受け取る側にも生活があるので、減額請求を受け入れるのは難しいことかと思います。
本記事では、どのような場合に養育費の減額請求が認められるのか、減額請求の方法と注意点、また減額請求をされた場合の対応についてご説明します。

理由があれば養育費の減額は認められている

養育費の支払いは扶養義務に基づいているため、支払う側が勝手に減額したり、送金を中断したりすることは認められません。とはいえ、様々な事情で支払いが困難になり、減額したいとお悩みの方もいらっしゃることでしょう。
養育費の金額や支払期日、支払期間といった条件は、当事者同士で話し合って合意できるのであれば、自由に変更することができます。
話し合いが決裂してしまったとしても、次の条件に当てはまれば、法的にも養育費の変更が認められる可能性があります。

  • 取り決め時に前提となっていた客観的な事情に変更があったこと
  • その事情変更をあらかじめ予測することが困難だったこと
  • 事情変更が生じたことに当事者の責任がないこと
  • 取り決めどおりの条件をそのまま継続すると著しく不公平になること

養育費の減額が認められる条件

それでは、具体的にはどのような場合に、法的に養育費の減額請求が認められるのでしょうか。考えられる代表的なケースは以下のとおりです。

  • 義務者(養育費を支払う側)が再婚した場合
  • 権利者(養育費を受け取る側)が再婚した場合
  • 義務者の年収が減少した場合
  • 権利者の年収が増加した場合

それぞれのケースについて、順番に説明していきます。

義務者が再婚した場合

支払う側が再婚すると、扶養する対象が増えることになるため、取り決めどおりの金額で養育費の支払いを続けると、支払う側の新しい家族が経済的に困窮してしまうおそれがあります。
そのため、減額請求をすれば裁判所に認めてもらえる可能性があるのですが、単に「再婚した」だけで認められるわけではなく、次のような事情が必要になります。

  • 再婚相手との間に子供が生まれた
  • 再婚相手の連れ子と養子縁組をした
  • 再婚相手が病気や育児等を理由に働けない、または働いているが収入が少ない
  • 離婚から相当な期間が経過
  • 再婚や再婚相手との間の子の出生について、支払う側が離婚当時予想できなかったこと

権利者が再婚した場合

受け取る側の再婚も、養育費の減額が認められる事情になり得ます。ただし、受け取る側の再婚相手と子供が“養子縁組をしているか否か”という点がポイントになります。

【養子縁組をしている場合】
養子縁組によって、再婚相手にも子供を扶養する義務が発生します。そのため、再婚相手の収入に応じた減額や、支払いの免除が認められることになります。

【養子縁組をしていない場合】
再婚相手に子供を扶養する義務が発生しないため、親である支払う側の方がそのまま養育費を支払い続ける必要があります。

義務者の年収の減少・権利者の年収の増加

養育費の金額は、取り決め時の当事者双方の年収等をもとに算定しているため、双方の収入の増減は、養育費を減額する事情変更として裁判所に認められる可能性があります。

【義務者の年収が減少した場合】
支払う側が、突如勤めている会社からリストラされたり、病気の治療や療養のために働けなくなったりして収入が減少した場合、養育費の減額や支払い免除が認められるでしょう。
ただし、自身の希望で取り決め時より収入の低い会社に転職した場合等は対象外です。

【権利者の年収が増加した場合】
婚姻中は専業主婦(主夫)だった受け取る側が就職したり、パートから正職員になったりして収入が大幅に増加した場合、養育.費の減額請求が通る可能性があります。
ただし、就職しても非正規雇用等の場合は一時的なものに留まることもありますし、増加した収入のほとんどを生活費や子供の教育費等に充てているケースもあるので、裁判所は判断に慎重になることが多いです。

あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います

離婚問題ご相談受付

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
離婚問題の経験豊富な弁護士にお任せください

養育費の減額請求をしたい場合の方法と注意点

ここからは、養育費の減額請求の手順と注意点について解説します。

まずは話し合う

受け取る側の了承を得ることができれば、それだけで養育費を減額することが可能です。そのため、まずは受け取る側に減額してほしい理由を説明して、しっかりと話し合いをしましょう。
話し合う方法は、二人の関係によりますが、直接会って話す、電話やメール等の様々な方法があるかと思います。
話し合いによって減額することが決まったら、その内容を公正証書のかたちで残すようにしておくと安心です。

話し合いを拒否されたら内容証明郵便を送る

受け取る側に話し合いを拒否された場合、養育費の減額を請求する旨を記載して、内容証明郵便を送っておくのも一つの手です。内容証明郵便は、後々の調停や審判で、減額請求したことを示す証拠として扱ってもらえます。
ただ、拒否された時点ですぐに調停を申し立てるつもりであれば、内容証明郵便は送らなくてもかまいません。
なお、養育費の減額は、話し合いレベルではあくまでも受け取る側に変更を“受け入れてもらって”成立することなので、いきなり内容証明郵便を送ってしまうと、高圧的だと捉えられて揉めてしまうおそれがあります。やはり、まずは穏便に話し合うのが賢明でしょう。

決まらなかったら調停へ

話し合っても養育費の条件が決まらない場合や、そもそも相手が話し合いを拒否する場合は、家庭裁判所に「養育費減額請求調停」を申し立てましょう。
調停では、まず支払う側(申立人)が裁判所内の個室に入り、養育費を減額したい事情等について、調停委員に説明をします。次に、受け取る側が生活状況や収支、減額請求に対する考え等について、調停委員に説明します。調停委員は、双方の意見や提出された資料を整理したうえで、解決策を提示してくれます。
調停によって双方の意見がまとまったら、調停成立となり、新たに取り決めた内容をもとに調停調書が作成されます。
もし調停で解決できなければ、自動的に審判に進み、裁判官が判断を下すことになります。

踏み倒しは絶対にしないこと

養育費の支払いで生活が苦しいからといって、勝手に支払いを中断して踏み倒すことは許されません。
離婚の際に、養育費について公正証書※で取り決めをした場合や、裁判所の手続きを経て取り決めをした場合、決めた内容を守らなければ、相手が強制執行を申し立ててくる可能性があります。強制執行がなされると、銀行口座等の財産を差し押さえられてしまいます。給与も差し押さえ対象となるため、踏み倒しをしている現状が職場に知られてしまうおそれもあります。
こうした取り決めを一切していなかったとしても、相手が養育費請求調停を申し立ててくれば、最終的には強制執行をされる可能性が高いです。そのため、養育費を減額したいのであれば、面倒に感じても正当な手続きを踏むようにしましょう。

※強制執行認諾文言付のもの

養育費の減額請求をされた方の対応

ここまで、養育費を減額したい立場の方に向けて解説してきましたが、減額請求をされた立場の方は、どうすればよいのでしょうか。減額請求を受け入れたくない場合に、やるべき対応について、以下で説明します。

減額請求されたら無視しないこと

支払う側から養育費の減額を打診され、受け入れられないと思ったとしても、無視をするのはあまり得策ではありません。
相手も何かしらの事情があって相談してきたのでしょうし、相手に資産がなければ養育費の支払い自体が止まってしまうおそれがあります。その場合、強制執行をすれば財産の差し押さえは可能ですが、手続きに多少なりとも時間がかかるので、まずは話し合いをして事情を聞きましょう。
話し合いを拒否し続けると、相手が調停を申し立ててくる可能性があります。調停も無視し続けた場合、調停不成立となって審判に進みます。相手の主張する事情が法的に正当なものであれば、審判で減額が決まってしまうため、自身の主張をする機会を得るためにも、調停には必ず出席しましょう。

養育費をできるだけ減額されないためにできること

養育費減額請求調停では、相手の主張が正当ではないと反論する必要があります。相手の言う“事情変更”が、「予測可能なものではなかったのか」「相手に責任はなかったのか」といった点を押さえて、主張をしていきましょう。
また、調停はあくまでも話し合いであり、いかに調停委員を味方につけるかということも重要になってきます。感情的になって強く主張し続けるのではなく、相手の事情も推し量ったうえで、「子供の幸福や健全な成長のために、今後このように養育していくつもりだ」というプラン等も説明しましょう。
ただ、本当に相手に資力がなく、主張も正当なケースもあります。そのような場合は、程よく譲歩する姿勢を見せて、お互いの妥協点を探っていくようにしましょう。

養育費の減額についてお困りなら弁護士にご相談ください

一度取り決めた養育費を減額することは、簡単なことではありません。支払う側の方は、自身に生じた事情変更が法的に正当であることを、論理的に主張していくことになります。一方、受け取る側の方は、相手から不当な主張をされた場合に言いくるめられてしまわないように、しっかりと反論する必要があります。
現在の事情に応じて養育費の適正額を算出することは、一般の方には難しいことかと思います。弁護士であれば、あらゆる事情を加味して、法的知識やこれまでの経験をもとに適切なアドバイスをすることが可能です。養育費の減額でお困りの方は、ぜひご相談ください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。