監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
「養育費について取り決めをしたのに、相手からの支払いが滞ってしまった……」
残念ながら、こうした事態は決して珍しいことではなく、統計的にも頻発しているデータがあります。しかし、大切な我が子を育てていくために、このまま泣き寝入りすべきではないのは明らかです。
そこで、今回は、養育費が未払いになってしまったときの対応策について、【調停で取り決めをした場合】と【口約束で取り決めをした場合】といったケース別に紹介していきます。請求していくうえで重要になってくる“時効”に関しても交えつつわかりやすく解説していきますので、ぜひ参考になさってください。
目次
調停で決められた養育費が不払いになった場合
調停で取り決めをした養育費が不払いとなってしまった場合、「調停をした」事実を強みとして催促や督促を行うことができます。
対策として、3つのステップがありますので、順を追ってみていきましょう。
対策1.履行勧告
まずは、裁判所から“履行勧告”をしてもらいましょう。
履行勧告とは、家庭裁判所から「約束を守るように」といった通達や説得をしてもらえる制度です。裁判所から、電話や書類などで連絡が行くことになるので、届いた相手も焦りを感じ支払いに応じるきっかけになる可能性があります。
手続き自体は無料かつとても簡単で、養育費を取り決めた家庭裁判所の窓口で履行勧告の申出をすることでできます。電話で応じてもらえる場合もありますので、一度問い合わせてみるとよいでしょう。
ただし、履行勧告は、家庭裁判所の調停や審判、裁判などを経て、調停調書や審判調書、判決といった債務名義がないと利用できないことに注意が必要です。同じ債務名義でも、離婚協議などで作成した公正証書は、家庭裁判所の手続きを経ていませんので利用できないことにご注意ください。
また、あくまでも通達に限られるものですので、支払いを強制するような強制力までは持ち合わせていないことも理解しておく必要があります。
対策2.履行命令
履行勧告でもなお、支払いに応じてもらえない場合は、次のステップとして“履行命令”が考えられます。
履行命令とは、管轄の家庭裁判所が必要と認めた場合に、「●●までに支払いなさい」といったように期限を決めて支払いを命令してもらえる制度です。これに従わないと、10万円以下の過料が科せられるという点で、勧告よりも強い強制力を持ちます。
履行命令の手続き方法は履行勧告と同様で、特別の費用もかかりません。
なお、金銭罰に処せられる意味で反応する人もいれば、刑事罰でもなければ過料も10万円以下と低額なので、応じない人がいるのも事実です。
対策3.強制執行
履行勧告や履行命令を行っても応じてもらえない場合は、最終的な手段として“強制執行”が考えられます。
強制執行とは、相手の財産を差し押さえるといったイメージをお持ちの方も多いと思いますが、具体的には、給与や預貯金、不動産といった財産を強制的に差し押さえて、約束している養育費の支払いを実現させるといった強い強制力のある手続きをいいます。
なかでも給与の差押えは、最大2分の1に限られますが、一度手続きをしてしまえば将来分も継続して差し押さえることができますので、今後も安心して過ごすことができるでしょう。
勧告や命令と異なる点は、強制執行の申立てには手続きが必要で、別途費用がかかるところです。しかし、相手の財産を差し押さえて、今後の支払いも確保できるといった強制力を考慮するのであれば、検討する余地は十分にあるといえます。
申立てには調停調書や判決といった債務名義が必要で、強制執行の場合は執行を認諾する文言が付いている公正証書も有効となりますので、一度ご確認ください。
民法改正で未払い養育費に対応しやすくなりました
民事執行法が2019年に改正、2020年に施行となりました。
これにより、強制執行が行いやすくなり、養育費の未払いにも対応しやすくなったのです。背景を交えつつ少しだけ詳細を紹介させてください。
改正前は、強制執行をするには、相手の財産を明確にしたうえで申立てをする必要がありました。このため、相手が転職してしまったり、相手の口座番号がわからなかったりすると、財産を明確にできず申立てをすること自体できなかったのです。
この点、改正後は、裁判所に対して「第三者からの情報取得手続」を申し立てれば、裁判所を通じて市区町村や、日本年金機構、厚生年金保険の実施機関、金融機関といった関係各所に調査することが可能になりました。
つまり、相手の財産がわからなくても強制執行の申立てができ、養育費の支払いを実現できる可能性が高まったことを意味しています。
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口約束で決めた養育費が突然支払われなくなった場合
続いて、裁判所の手続きを介しておらず、口約束で養育費の取り決めをして、支払いが滞ってしまっているケースをみていきます。
この場合どう対応すればいいのか、順を追ってみていきましょう。
まず、相手に連絡を取る
まずは、相手に支払いが滞っている旨、連絡をしてみましょう。
プライベートや仕事などが立て込んで、単純に忘れてしまっていることも考えられるためです。
連絡手段は、相手が確認できれば何でも構いません。
電話をはじめ、メールやLINEなど、普段から確認しやすいツールを使うことをおすすめします。
なお、コンタクトとして、手紙は推奨しません。忙しい状況で目を通すことは考えにくいですし、相手が読んでそのままにしてしまう可能性も考えられるからです。
内容証明郵便を出すのも1つの手
コンタクトとして手紙はおすすめしませんが、内容証明郵便ともなると話は変わってきます。支払いが滞っている際や相手と連絡が取れない場合などに、内容証明郵便を送っておくのは、一つの有効的な手段といえます。
内容証明郵便とは、文字どおり郵便局が内容を証明してくれる郵便で、相手にきちんと届いたという送達記録が残るものです。「未払いの養育費を支払ってほしい」といった意思が、きちんと相手に届いたことを郵便局が証明してくれるような文書になります。
後々、有用な証拠となったり、時効を延ばすことになったり、相手にプレッシャーを与えたりと、メリットが大きい手段といえますのでぜひご活用ください。
内容証明郵便の利用方法については、郵便局のホームページで紹介していますので、こちらをご確認ください。
交渉・調停で養育費を請求する
コンタクトがとれたら、養育費について支払ってもらえるよう交渉を試みます。
交渉により相手が応じたり、合意できたりした場合は、今度こそ口約束では済ませず、文書に残すようにしましょう。その際、公証役場で執行認諾文言付きの公正証書を作成しておくと、強制執行時の債務名義となりますので、再度養育費が滞った際の対応策も練られることになります。
交渉がむずかしいようであれば、裁判所に対して「養育費請求調停」を申し立てましょう。
調停では、交渉の場を裁判所に移して、調停委員を間に交えて双方の折り合いを探っていきます。合意できれば債務名義である調停調書が作成されますので、履行勧告や履行命令、強制執行といった手続きができるという、お守りも手に入れられることになります。
養育費の未払い分はどこまで遡って請求できる?
養育費に不払いが発生し、継続してしまっている場合は、時効についても気にしておかなければなりません。
養育費の取り決めをしている場合、裁判所を介しているかいないかで時効が異なります。
- 裁判所を介している場合(調停、審判、裁判)・・・支払期日から10年(※)
- 裁判所を介していない場合(話し合い、公正証書を作成した場合を含む)・・・支払期日から5年
※調停や判決後の将来の養育費は時効が5年となります。
いずれの場合も、未払い分をさかのぼって請求できるのは、時効が成立しない分に限られます。また、この間に子供が成人に達してしまった場合でも、時効が成立していなければ該当期間の未払い分はさかのぼって請求できます。
なお、養育費について取り決めていなかった場合は、基本的にさかのぼって請求することはできないのが実情です。さかのぼれても、“内容証明郵便が送達された日”や“養育費請求調停を申し立てた日”などとされるケースが多いでしょう。
養育費未払いの理由が環境の変化によるものだった場合
時が経つにつれ、お互いの事情や環境が変化していくのは通常のことです。なかには、再婚したり、再婚相手との間に子供が生まれたり、転職や昇級などで給与の増減が生じたりするケースも出てくるでしょう。
だからといって、すぐさま養育費を支払わなくていいといったことにはなりません。
ただし、相手が環境などの変化を理由に「養育費減額調停」を申し立ててきた場合には、状況が変わってくる可能性があります。
調停や審判、裁判などで養育費の減額が認められるとなると、“養育費減額調停を申し立てられた日”や“個別の事情の変化が発生した日”などを境に養育費の金額が減ってしまうことになります。
未払い養育費にお困りなら弁護士にお任せください
子供がのびのび成長していくには、経済的な余裕があることに越したことはありません。
養育費を受け取れないから、無理に仕事を詰め込んで子供との時間を削ってしまったり、子供に我慢をさせてしまったりするのは決して望ましいことではないでしょう。
養育費が滞っていてお困りでしたら、ぜひ弁護士にご相談ください。
なかでも弁護士法人ALGは、離婚問題に特化したチームがあり、養育費の未払い問題についてもさまざまなケースを解決に導いてきました。
ご依頼者さまお一人お一人の状況に寄り添って、ベストな道筋を見つけるサポートを全力で行いますので、お悩みの方はぜひ無料相談からご検討ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)