監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
親権とは、未成年の子供を監護・養育し、子供の財産を管理する親の権限・義務をいいます。
現時点では、離婚する際には、父親と母親のどちらを子の親権者とするかを決めなければなりませんが、一般的に、父親が親権に指定される可能性は低く、全体の1割程度であるのが実状です。
しかし、父親として、子のためにもご自身が親権者になった方がよいと考え、親権を取得することを求める方もおられることでしょう。この記事では、父親が親権獲得するために必要な情報や、役に立つ情報について解説します。
父親が親権を取りにくい理由
親権者は、父親と母親のいずれを親権者にすれば、子が健全に成長できるか、子にとってふさわしいかという視点で決められます。その際には、子を監護してきた実績やこれまでの監護状況、居住環境、健康状態、監護に対する意欲、祖父母などの監護補助者の支援の状況、子の意思、子の年齢等々が考慮されます。
父親が親権を取りにくい理由としては、以下のような事情があります。
フルタイムで働いているため子供の世話が難しい
父親と母親のどちらが親権者として適格かを判断する際には、従前の監護実績・状況が重要な要素となります。
かつては、父親が働き、母親は専業主婦ということが多かったのに対し、近年では、女性の社会進出が進んでいることに伴い、共働き家庭が増えています。また、子育てに対する父母の役割分担意識にも変化してきました。とはいえ、今もなお、監護養育の実情からすると、父親がフルタイムで働き、母親が主に子を監護していることが多い状況です。
また、子が乳幼児の場合には、母親の方が、心理的、身体的な結びつきが強いように考えられています。
そのため、母親の監護養育に大きな問題点がなければ、母親が親権者として指定されることが多いというのが実情であり、父親が親権を取りにくい理由の一つとなっています。
子供への負担を考えると母親優先になりがち
特に乳幼児については、特段の事情がない限り、母の監護養育に委ねることが子の福祉に合致するという考え方があります。乳幼児には、母親の存在が情緒的成熟のために不可欠であって、スキンシップを含めて母親の愛情が必要であるということがその根拠にあります。
しかし、先述のとおり、現在の社会においては、監護養育の在り方も多様化し、父親が母親と同様の役割を担っていることも少なくありません。
父親が親権を獲得するためのポイント
これまでの育児に対する姿勢
親権者について判断する際には、どちらが子の監護養育を主に行っていたのかが重視されています。単に生物学上母親だというだけで母親が親権者として有利なわけではありません。
そのため、たとえば、母親が子らの監護養育を実際にはあまりしていない一方、父親は仕事をしながらも子らの監護養育をしているような状況があれば、父親が親権を取得できる可能性もあります。
離婚後、子育てに十分な時間が取れること
親権者を父母のいずれとするかの判断においては、子育てのために十分な時間が取れるかどうかが重視されますが、他方で、経済力の大きさはあまり重視されない傾向にあります。
たとえば、父が子のために長時間勤務して生活費を稼いだとしても、直接子どもと触れ合える時間がなければ、親権者として適格であるとは判断してもらえません。父親の方が母親より経済力があったとしても、その場合に母親は養育費の支払いを受けることができるため、経済力がより大きいことが有利になることにはならないのです。
そこで、離婚後、たとえば、出勤時間を調整して子どもの監護養育のための時間を確保できる、不在時は祖父母に子の面倒をみてもらえる体制を整えられる等といったように、父親側で子育てに十分な時間が取れるということも非常に重要なポイントになります。
子供の生活環境を維持できるか
子の生活環境が変化すると、子にとっては、幼稚園や学校との関係、近所の友人関係等といった社会的な繋がりが断絶されたり、疎遠となったりする場合があります。そのような場合には、新しい生活環境にうまく適用できるかどうかという不安も生じますし、子に精神的負担を与えることになり得ます。
そのため、子の生活環境を維持できるかという点も重要なポイントになります。
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父親が親権争いで有利になるケース
父親が親権の争いで有利になるケースを紹介します。
母親が育児放棄をしている
母親が育児放棄をして子の適切な監護ができていない場合、父親が子の監護を行っているのであれば、父親が親権の争いで有利になるといえます。
なお、このような場合、裁判所では、そもそも育児放棄と評価できるかが争点になることが多いため、母親が育児放棄している証拠をとっておいくことが重要になります。
母親が子供を虐待している
母親が子を虐待している場合、父親にとって親権の争いで有利な事情となり得ます。
母親が子を虐待している場合には、警察や児童相談所へ相談すべきケースもありますので、父親として適切な対応をすることも必要です。こうした行政機関に相談した場合には、その相談記録等が、母親が子を虐待していたことを立証する資料ともなります。
また、子に対する虐待については、そもそも子供を虐待していたと評価できるかが争点となることが多いため、上記行政機関への相談記録や虐待しているところを撮影した写真や動画等資料を収集しておくことも重要です。
子供が父親と暮らすことを望んでいる
子の親権者を定める目的は、子の利益及び福祉にありますから、子が自らの意思を表明できる場合には、当然その意思を尊重すべきこととなります。
そのため、子が父親と暮らすことを望んでいるのであれば、父親が親権を獲得するために有利になるといえます。
なお、裁判所は、子の親権者を指定するにあたり、子の年齢が15歳以上の場合には、その子の陳述を聴取しなければならない決まりとなっています。
また、子の年齢が15歳未満でも、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を尊重して判断するように求められています。
ただし、子が他方の親に気を遣ってしまう場合も少なくないため、子の真意は、発言だけでなく、態度や行動等を総合的に観察して検討されています。
妻の不貞は父親の親権獲得に有利にはならない
妻が不貞をしたこと自体は、父親の親権者獲得に有利には働きません。妻が不貞をしたからといって、子の監護養育能力が否定されるわけではないからです。不貞の問題は、慰謝料等で解決すべき問題であり、親権者は、あくまでも子の利益及び福祉の観点から判断されることになります。
もっとも、母親が不貞相手と過ごすために長時間家を空け、子の監護をしていない等、不貞行為が子の監護に悪影響を及ぼしているような場合には、そのことが母親側の不利な事情となることがあります。
父親が親権を獲得した場合、母親に養育費を請求することは可能か?
離婚をしても、親は子に対する扶養義務を負います。そのため、母親が親権を獲得した場合には、父親が母親に対して子の養育費を支払う義務を負いますし、逆に父親が親権を獲得した場合には、父親から母親に養育費を請求することが可能です。
親権を得られなくても子供には会える
仮に父親が親権を得ることができなかったとしても、子に会うことはできます。
夫婦としては離婚や別居をすることになったとしても、子どもにとっては、どちらも、かけがえのない父であり母であることに変わりはありません。子の利益及び福祉にとって双方の親との交流を持つことは非常に重要であり、子は、両親双方と交流することにより人格的成長を遂げると考えられています。
子供の親権を父親が勝ち取れた事例
弁護士法人ALG横浜法律事務所にも、父親から親権についての相談は数多くあり、子の親権を父親が勝ち取れた事例があります。
ケースとしては、子が15歳となっており、まずは子の意思が尊重されるケースでした。ただし、母親に子の監護を継続したいとの思いが非常に強かったことに加え、上の子については、17歳で母親が親権を取ることを希望していたことから、裁判官としても判断に迷われていました。これについては、下の子に対する母の監護に極めて不適切な事情が多々あり、離婚前から当該子が自身の希望により父親の下で生活し、父親に子を監護してきた実績があったこと、離婚後も子らが双方の親について自由に面会することを認めること等により、最終的に父親側で当該子の親権を獲得することができました。
父親の親権に関するQ&A
乳児の親権を父親が取るのは難しいでしょうか?
通常、子供が乳児の場合には、父親が親権を取るのは極めて困難といえます。 子が乳飲み子のうちは母親の存在が必要不可欠である上、情緒的成熟のためにも、母親の愛情が必要であると考えられているからです。 もっとも、母親が育児放棄や虐待をしているなど、親権者として不適格だと判断される他の事情があれば、父親が親権を獲得できる可能性があります。
未婚の父親が親権を取ることは可能ですか?
未婚で生まれた子(非嫡出子)については、母親が親権者となり、父親が認知しても、父親に親権が発生することはなく、母親の単独親権の状態が続きます。 母親との協議で父親を親権者とすることはできますが、合意ができなかった場合には、家庭裁判所に親権者指定あるいは変更の調停・審判を申し立てる必要があります。 ただし、認知前に母親が子を監護養育していたのであれば、母親が育児放棄や虐待をしているなど親権者として不適格な事情がない限り、実際に父親が親権を獲得するのは困難だと考えられます。
元妻が育児をネグレクトしています。父親が親権を取り返すことはできますか?
親権者を変更するためには、裁判所で親権者変更の調停や審判を申し立てる必要があります。 親権者の変更により父親が親権を獲得するのは一般的には困難といえますが、母親が育児放棄、虐待をしているような場合には、そうした事実を裏付ける証拠を提出することにより、親権を取り返すことも可能です。
妻は収入が少なく、子供が苦労するのが目に見えています。経済面は父親の親権獲得に有利になりますか?
経済力も親権者の考慮要素の1つにはなりますが、経済的な問題は、養育費や母子手当等の公的な援助で一定程度解決することができます。そのため、むしろ、従前主に子を監護養育していたのが父親と母親どちらなのかといったこと等の方が重視されるといえます。
父親の親権争いは一人で悩まず弁護士に相談しましょう
これまでご説明したように、父親が親権を獲得するハードルが高いのは事実ですが、必要なポイントを押さえることで、親権を獲得できる可能性はあります。
父親の親権争いは、一人で悩まず離婚問題に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)