
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
配偶者からモラハラ被害を受けている場合に、離婚を希望することもあると思います。離婚について話し合いで解決できる場合にはよいですが、話し合いでの解決が難しいケースも多くあるのが実情です。
話し合いでの解決が難しい場合には、裁判手続きを利用することになりますが、そういった場合に、モラハラによる離婚の慰謝料請求が認められるかどうか等について、以下、説明していきます。
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モラハラを理由に離婚したら慰謝料を請求できる?
モラハラを理由に離婚する場合にも、相手方に慰謝料を請求することは出来ます。ただ、常に慰謝料が相手方から支払われるわけではありません。
まず、離婚について話し合いでの解決を目指している場合には、相手方が慰謝料として金銭を支払うことに同意している必要があります。
話し合いでの解決ができず、離婚訴訟となった場合には、モラハラの事実を客観的な証拠により立証し、加えて、それが慰謝料を生じさせるものであることを主張し、裁判官に認めてもらう必要があります。
慰謝料請求が認められるモラハラ行為とは
モラハラは、道徳や倫理から外れる暴言や嫌がらせ等の行為が該当するものとされています。例えば、繰り返し「最低」「バカ」「死ね」等といった暴言をすれば、モラハラに該当するものと考えられます。
また、配偶者の言動に不満がある場合に徹底的に批判し罵るというようなことをした場合にも、モラハラと認定されることがあります。このように、配偶者の人格を否定する言動がなされ、それが理由として婚姻関係が破綻したと認められる場合には、慰謝料の支払いを命じられる可能性があります。
モラハラの慰謝料請求が難しいとされる理由
一般的には、モラハラによる離婚の場合、慰謝料請求を裁判官に認めてもらうことは難しいとされています。これにはいくつか理由が考えられますが、まずは証拠収集が難しいということが挙げられます。
モラハラは日常生活の中でなされることが多く、咄嗟に録音や録画をすることが難しいことが多いです。
また、証拠を一定数集めることができたとしても、裁判上は、「その日時にそういった発言があったこと」は立証できますが、「長期間、毎日のようにこのような暴言が続いていた」ということまで立証できたことにはならないため、法的に慰謝料を発生させるほどのものと評価してもらうことは難しいことも多いです。このような理由から、モラハラの慰謝料は難しいとされています。
モラハラの証拠の集め方
モラハラは日常生活の中での発言等であることが多いです。証拠として最も明確に事実認定をすることができるのは、客観的な記録(録音や録画等)ですので、こういった証拠を、日常生活の中でなるべく集めるようにする方が良いです。
客観的な証拠が最善ですが、それが難しい場合もあると思います。そこで次に考えられるのが、日々の日記です。なるべく長期間、毎日書いてあれば、記載内容の信用性は高まっていくものと考えられます。
記録しておきたい発言等については、なるべく主観を交えず、発言内容をそのまま記録しておくようにしましょう。日記は、長期間高頻度でモラハラに苛まれていたということを立証するためには必須ともいえますので、客観的な証拠の有無にかかわらず作成した方がよいです。
モラハラで離婚した場合の慰謝料相場
モラハラで離婚した場合の慰謝料の相場はどの程度でしょうか。
まず、話し合いであれば双方の合意した金額になるため、金額設定は自由です。双方が合意した金額であればいくらでも良く、相場はないものと考えてよいでしょう。
裁判の場合には、そもそも慰謝料請求が認められない事案の方が多いと思われますが、仮に慰謝料が認められるとしたら、極端な場合を除き、数十万円~200万円程度の間に収まることが多いと思われます。
モラハラ慰謝料が高額になる要素とは?
モラハラの慰謝料が高額になる要素として重要なのは、具体的言動の悪質性と、モラハラを受けてきた期間、頻度だと考えられます。実際には、証拠不足により、これらの事情が十分に立証できないことが多いです。
慰謝料請求を認めてもらい、また、なるべく認容額を高額にしたいのであれば、客観的証拠や日記等の積み重ねが重要ということになります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
モラハラ離婚で慰謝料を請求する流れ
モラハラでの離婚を考える場合には、まずは別居を検討した方がよいです。モラハラを受けると精神的な負担も大きく、正常な判断ができなくなることもあるためです。
別居をした場合にはモラハラの証拠を収集することは難しくなりますが、そのどちらを優先するかは決めなければなりません。
また、別居する場合には、事前に話し合いをすることが出来るか否か、荷物として持ち出すものはどうすればよいか等、悩む点も多いと思われますので、慎重に検討する必要があります。
②話し合いで請求する
次に、離婚の意思とモラハラの慰謝料請求の意思があることを相手方に連絡をしなければなりません。連絡の方法は何でも構いませんが、形に残るように、可能であれば手紙やFAX,メール等にすべきでしょう。
通常であれば、裁判所を通すことなく、話し合いを求めることが多いですが、モラハラ案件では、およそ話し合いにならないということも多いと考えられます。そのような場合には、家庭裁判所に離婚調停の申し立てをすることが考えられます。
最初の連絡をする勇気が出ない方もいらっしゃると思います。そのような場合、弁護士に相談されるのがお勧めです。
③内容証明郵便で請求する
最初の連絡方法として、内容証明郵便というものを利用することがあります。内容証明郵便というのは、記載した文章の内容や、相手方に配達できた日にち等が客観的に記録に残るものです。そのため、どういった内容の文章を、いつ相手方に送付したのかを立証するためには最適な方法といえます。
このようなメリットがあるため、最初の連絡は内容証明郵便にすることも多いです。内容証明郵便は郵便局にて利用できます。具体的な利用方法は郵便局にお問い合わせください。
④離婚調停で請求する
離婚調停というのは、当事者だけでの話し合いでは解決が困難と考えられるときに、裁判所の関与のもと話し合いを行う手続きです。相手方住所地を管轄する家庭裁判所に離婚調停の申立書を提出することで、離婚調停を申し立てることができます。話し合いは調停委員を介して行うことになります。
この中で、離婚自体の可否や離婚条件について協議をしていき、最終的に合意が成立すれば離婚調停成立として、離婚が成立します。合意が成立しなければ、離婚調停不成立となり、婚姻関係は継続することになります。
⑤離婚裁判で請求する
離婚調停が成立しなかった場合、離婚が出来ていない状態ということになります。そのため、なお離婚をしたい人は、離婚裁判を提起する必要があります。
離婚裁判では、離婚自体を認めるか否か、(申立があった場合には)離婚を認める場合の条件を裁判官が判断することになります。離婚裁判中話し合いで解決をすることも多いですが、やはり合意が成立しない場合には、裁判官が判決という形で判断を下します。
離婚裁判の中で、離婚が認められるべきということと、モラハラの慰謝料が認められるべきであるという主張を行っていくことになります。
モラハラの慰謝料請求の時効はいつまで?
多くの事案では、過去の個々のモラハラ行為自体を不法行為と捉えて慰謝料請求するのではなく、モラハラ行為により婚姻関係が破綻し、離婚に至ることとなったことを不法行為と捉えて慰謝料請求するものと思われます。
これは離婚慰謝料といって、時効については、離婚成立時から3年となっています。そのため、通常は時効について気にする必要はなく、離婚の協議をしているタイミングや、離婚訴訟のタイミングで、一緒に請求をすることになります。
モラハラの慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット
モラハラ案件では、離婚自体もそうですが、慰謝料の請求をするにあたって、相手方配偶者が激高して話し合いにならないということが考えられます。そのような反応をされることが事前に分かってしまうため、恐怖から、そもそも離婚を切りだすことができない、慰謝料請求をすることができないという方も多くいます。
確かに自分だけで離婚を進める場合には、全て自分で対応しなければなりませんが、弁護士へ依頼すれば、自分の代わりに弁護士が対応してくれることになります。大きくストレスが軽減され、自分の希望どおりに請求の意思表示等をすることも出来ます。モラハラ案件では、特に弁護士に依頼するメリットが大きいといえるでしょう。
よくある質問
姑からのモラハラを理由に、離婚や慰謝料を請求することは可能ですか?
基本的には配偶者自身の行為である場合と比較して、離婚が認められるハードルや、慰謝料請求が認められるハードルは高くなるものと考えられます。
もっとも、実際にそういったケースは存在しますし、離婚も慰謝料も認められる場合はあるものと考えられます。
ここでは、配偶者自身が、姑の暴言等を止めていたか、積極的に関与していたか等の事情により、判断が変わってくるものと考えられます。
旦那が子供にもモラハラをしていた場合、慰謝料の増額は期待できますか?
自身に対するモラハラのみならず、子供へのモラハラもなされていたような場合、それが婚姻関係の破綻及び離婚に繋がっていると認められれば、慰謝料の増額もあり得るということになります。
もっとも、自身へのモラハラ行為そのものではないため、大幅なモラハラによる離婚慰謝料の増額を期待できるものとはいえないと考えられます。
妻からモラハラを受けていたことを理由に、養育費の支払いを減額してもらえますか?
話し合いであれば、離婚条件について双方が合意すればそのとおり離婚が成立します。そのため、モラハラを受けていたことを理由に、養育費を本来の金額より低い金額で設定することも可能です。
他方、離婚裁判においては、モラハラを受けていたことを理由に、養育費の金額を下げるということは認められないと考えられます。
また、モラハラを理由に慰謝料請求が認められた場合でも、慰謝料と養育費とを一方的に相殺することは許されていません。
モラハラで慰謝料請求するなら、離婚問題に強い弁護士に依頼することがおすすめです。
モラハラで離婚請求、慰謝料請求をする場合には、離婚問題に強い弁護士に依頼することがおすすめです。モラハラ案件では、相手方と対応するだけでも大きなストレスがかかり、場合によっては離婚協議を行っている中で体調を崩してしまったり、不本意ながら離婚自体を取りやめてしまったりすることがあります。
また、裁判で離婚自体や慰謝料を認めてもらうためには詳細な主張・立証で、弁護士のアドバイスが有用です。モラハラ離婚、慰謝料請求をお考えの場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)