「接近禁止命令」でDVから身を守る|申し立ての流れや注意点

離婚問題

「接近禁止命令」でDVから身を守る|申し立ての流れや注意点

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

ドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力、「DV」)という言葉が世間で広く知られるようになり久しいですが、実際に深刻なDVから身を守るにはどうすればよいのでしょうか。

DVを受けた被害者が生命又は身体に危害を加えられることを防ぐために、配偶者への接近禁止命令という制度が存在します。

要件を満たせば、被害を受けた被害者のみならず、子どもや親族等への接近禁止命令も求めることができます。この記事では、接近禁止命令の発令条件や、申立ての手続き等について詳しく解説していきます。

接近禁止命令とは?

接近禁止命令には、

  • 被害者に対するもの
  • 未成年の子に対するもの
  • 被害者の親族等に対するもの

の3種類があります。

それぞれ要件の違いはありますが、どれも命令の効力が生じた日から1年の間、対象者の住居その他の場所におけるつきまとい、又は対象者の住居、勤務先や学校その他通常所在する場所の付近の徘徊(はいかい)を禁止する内容になっています(配偶者暴力防止法10条1項、3項、4項)。

それでは、詳しく見ていきましょう。

違反した場合

接近禁止命令に違反した場合には、刑事罰の対象になります。

具体的には、(1)2年以下の懲役※又は(2)200万円以下の罰金が科されます(配偶者暴力防止法29条)。従前は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金と規定されていましたが、改正により厳罰化されました。

違反による刑罰を設けることで、接近禁止命令の形骸化を防いでいます。

※刑法等の改正により2025年6月からは「拘禁」刑になります。

接近禁止命令が出る条件

被害者への接近禁止命令が出る条件は、

(1)申立人が「被害者」に当たること

ここで「被害者」とは、「配偶者からの身体に対する暴力又は生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知してする脅迫(以下「身体に対する暴力等」)を受けた者」をいいます。 

(2)「配偶者」からの更なる身体に対する暴力等により、その生命又は心身に重大な危害を受けるおそれが大きいこと

(3)被害者の申立てであること

の3つです。

その他、原則的に、申立て前にDVセンター(配偶者暴力相談支援センター)や警察に相談しておくことが必要です。

接近禁止命令以外の申し立てておくべき保護命令

接近禁止命令とは、配偶者暴力防止法に定められた様々な保護命令のうちの1つです。

保護命令には、接近禁止命令のほか、電話等禁止命令、退去等命令の2つがあります。
また接近禁止命令にも、被害者に対するもののほか、子への接近禁止命令、被害者の親族等への接近禁止命令等の種類があります。

それでは各保護命令について、以下見ていきましょう。

電話等禁止命令

電話等禁止命令とは、被害者に対する面会要求や、電話等を禁止する命令です(配偶者暴力防止法10条2項)。

発令には、被害者への接近禁止命令の発令要件をすべて満たしていることが必要です。また、電話等禁止命令を単独で発令することはできず、被害者への接近禁止命令を前提に、被害者への接近禁止命令と同時又は被害者への接近禁止命令の後に発令されます。

発令された場合、配偶者暴力防止法10条2項各号に掲げられたすべての行為が禁止になります。

退去等命令

被害者と配偶者がともに生活の本拠としている住居から、配偶者を2か月間退去させて被害者を保護する命令です(配偶者暴力防止法10条の2)。退去のほか、その住居の付近をはいかいすることも禁止されます。

退去等命令を申し立てられるのは、その申立て時において被害者及び配偶者が生活の本拠を共にする場合に限られます。ただし、申立て時、被害者が一時的にDVセンターや実家等に避難している場合でも、両当事者が生活の本拠を共にしている場合と認められると解されています。

子への接近禁止命令

被害者への接近禁止命令が発令された後に、配偶者が子を連れ去ったことにより、被害者がその子の養育監護のために配偶者に会いに行くことになってしまっては、被害者への接近禁止命令が発令された意味がなくなってしまいます。

そこで、配偶者暴力防止法では、被害者への接近禁止命令が発令されている場合に、子への接近禁止命令も併せて発令することができると定められています(同法10条3項)。

ただし、当該子が15歳以上であるときは、子の同意が必要です。

親族等への接近禁止命令

同様に、被害者への接近禁止命令が発令されていても、配偶者が被害者の親族等の住居などに押しかけて乱暴な言動を行う場合には、被害者がそれを止めるために配偶者と会うことになってしまうかもしれません。

そこで、配偶者暴力防止法では、被害者の親族等への接近禁止命令についても定められています(同法10条4項)。

この命令も、被害者への接近禁止命令が発令されていることが前提です。また、発令には当該親族等の同意が必要です。

接近禁止命令の申立ての流れ

接近禁止命令は、裁判所が、被害者の申立てにより、裁判によって発令するものです。

発令までには、まず①DVセンターや警察への相談をした上で、②裁判所に申立てをし、③口頭弁論又は審尋の期日を経て、いよいよ④接近禁止命令の発令という流れとなります。

各段階について、詳しく見ていきましょう。

①DVセンターや警察への相談

配偶者からのDVに悩まされている場合は、まずはDVセンター又は警察に相談しましょう。保護命令制度の利用についての情報提供その他の援助を受けることができます。

両機関に相談した実績があることは接近禁止命令の申立書に記載します。相談に行かなくても申立ては可能ですが、後述する通り、被害者本人の負担が大きくなる場合があります。

警察はもちろん、DVセンターも各県に設置されていますので、お近くの機関にご相談ください。

相談実績がない場合

DVセンターや警察に相談したことがない場合は、

①身体に対する暴力等を受けた状況

②①のほか、配偶者からの更なる身体に対する暴力等により、生命又は心身に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる申立て時の事情等

について、申立人たる被害者の供述書面を作成し、公証役場で公証人の認証を受けたものを添付する必要があります。子や親族等への接近禁止命令を申し立てる場合には、それぞれにつき書かなければならない内容もあります。

②裁判所に申立てを行う

申し立てができるのは本人だけ

被害者への接近禁止命令について、申し立てることができるのは被害者自身に限られます。

例えば、被害者の家族等が被害者に代わって裁判所に申し立てることはできません(配偶者暴力防止法10条1項)。

申立先

申立て先の裁判所は、

(1)相手方配偶者の住所(住所がないとき又は明らかでないときは居所)の所在地を管轄する地方裁判所

(2)申立人の住所又は居所の所在地を管轄する地方裁判所

(3)配偶者からの身体に対する暴力等が行われた地を管轄する地方裁判所

のいずれかになります。

なお、(2)について、被害者が一時避難している場合は、その避難場所である居所の所在地を管轄する地方裁判所にも申し立てることができます。

必要書類

申立てに必要な書類は、

(1)接近禁止命令申立書

(2)DVセンターや警察へ相談していない場合は、宣誓供述書

(3)子への接近禁止命令を申し立てる場合、対象の子が15歳以上ならば、その子の同意書

(4)親族等への接近禁止命令を申し立てる場合、その親族等の同意書

(5)申立書副本、書証(裁判官に接近禁止命令を発令させるために必要な証拠)

(6)申立人、相手方、子、親族の戸籍謄本

(7)申立人、相手方、子の住民票写し(マイナンバーの記載がないもの)

(8)郵券、印紙

等です。

(1)の申立書には、被害者への接近禁止命令の場合、

  • 身体に対する暴力等を受けた状況
  • 配偶者からの更なる身体に対する暴力等により、生命又は心身に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる申立て時における事情
  • DVセンター又は警察に対し相談し、又は援助若しくは保護を求めた事実の有無、及びその事実がないときの必要事項

を記載する必要があります。

申立てに必要な費用

申立手数料として、収入印紙につき1000円、これに加えて、郵便切手が必要です。

郵便切手については、金額や切手の種類が決まっていますので、申立てをする前に裁判所に確認をするようにしましょう。

③口頭弁論・審尋

接近禁止命令は、原則、口頭弁論又は相手方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、発令することができません(配偶者暴力防止法14条1項)。裁判官が申立書を読むと、まず申立人本人又は代理人弁護士との非公開の面接(審尋)が行われます。

審尋では、申立書の記載に沿って、裁判官から詳しい事情について聴取されます。その後、相手方と裁判官の審尋も行われます。

④接近禁止命令の発令

裁判所は、口頭弁論又は申立人・相手方双方の審尋の結果や、DVセンターや警察等の事前相談先機関から得た回答、及び書証等を総合的に判断して、接近禁止命令の申立てを認容するか、却下するかを決めます。申立てが認容された場合は、接近禁止命令が発令されるということになります。

なお、相手方が正当な理由なく口頭弁論や審尋の期日への出頭を拒否した場合でも、それ以外の資料により総合判断され、認容か却下かが決定されます。

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接近禁止命令における注意点

発令されるためにはDVの証拠が必要

接近禁止命令は、配偶者の行動範囲を制限するものであり、違反すれば刑罰も科されます。

そのため、証拠もないのにむやみやたらに発令されるものではありません。申立てが認容されるためには、有力な書証を提出する必要があります。

裁判所は、書証の例として、

  • 診断書
  • 身体に対する暴力を受けた際の受傷状況と日付がわかる写真
  • 陳述書(申立人本人が記載)
  • 親族等への接近禁止命令の場合、親族等本人が記載した陳述書

等を挙げています。

その他、日記、目撃者等第三者の陳述書、メール、録音録画等が考えられます。

家庭内で起こるDVは証拠が少ないことが往々にしてあります。できるだけ具体的で客観性の高いものをたくさん集めることが大事です。

相手に避難先や離婚後の住所を知られないよう注意

接近禁止命令が発令されれば、それに違反した場合刑罰が科されることになるため、刑罰による抑止力が期待できます。

しかし、DVから真に逃れるためには、そもそも接近できないようにすることが肝要です。

また、配偶者に住所等を知られてしまっては、申立ての準備中に邪魔をされてしまう危険性もあります。

役所に住民票の閲覧制限を申請する避難前に警察へ相談し捜索願を受理されないようにする等して、自身の住所等を知られないように細心の注意を払いましょう。

モラハラは対象にならない

接近禁止命令に違反した場合の対処法

配偶者が接近禁止命令に違反して身辺につきまとい、又は住居や勤務先等の付近を徘徊(はいかい)していたら、決して自分で対応しようとせず、迷わずに警察に通報しましょう

接近禁止命令が発令された段階で、警察に配偶者の情報や接近禁止命令が発令されていることを伝えておけば、いざ配偶者の違反を警察に通報した際、迅速に対応してもらえる場合があります。

配偶者が職場等に来ると、迷惑をかけているという罪悪感から自分で対応したくなるかもしれませんが、生命身体を守るためにも絶対にやめましょう。

接近禁止命令に関するQ&A

接近禁止命令の期間を延長したい場合はどうしたらいいですか?

接近禁止命令の有効期間は、命令の効力が生じた日から起算して1年間です。
しかし、1年間のうちに配偶者の違反行為があったり、終了間際になって配偶者から接触を図られたりする等、このまま接近禁止命令が失効するのが不安な場合ももちろんあるでしょう。
そのような場合には、当初の接近禁止命令の理由となったDVを理由に、再度の申立てをすることができます。ただし、あくまで新たな事件として受理されるため、再度の申立ての時点で、今後の身体的暴力等の危険が大きいことを立証しなければなりません。
改めてDVセンターや警察に相談する、期間終了付近の配偶者の言動を記録する等して、再度の申立てに備えましょう。

接近禁止命令はどれくらいの距離が指定されるのでしょうか?

接近禁止命令にあたっては、例えば半径何メートル以内に近づいてはいけないというように、具体的な距離が指定されることはありません。
被害者の住居や勤務先等、被害者が通常所在するであろう場所の付近をはいかいしたり、被害者につきまとったりすることが禁止されるのみです。
逆に言えば、どこまでなら近づいていいということもありません。日常的な行動範囲内に配偶者が接近していたら、警察に相談してみましょう。

離婚後でも接近禁止命令を出してもらえますか?つきまとわれて困っています。

配偶者暴力防止法は、「配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、被害者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者」からのDVであっても、接近禁止命令の対象となると規定しています(同法10条1項)。
ただし、婚姻中にDVがあり、その後離婚したという条件が付いていることに注意が必要です。離婚後に初めてつきまとい等が問題になった場合は、ストーカー規制法等の利用が検討されます。

DVで接近禁止命令を申し立てる際は弁護士にご相談ください

今まさにDVを受けている被害者は、精神も身体も疲弊し、DVから逃れるための行動をとることさえ困難な場合があります。接近禁止命令はその違反に刑罰も科されており、DVから身を守るために有効な手段ですが、その申立ては簡単ではありません。

我々弁護士は、申立人代理人として、申立て手続きや証拠の収集等を代理し、またサポートすることができます。

第三者に話すことで、自分の状況を客観視することができるかもしれません。おひとりで悩まず、弁護士にご相談ください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。