監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
「すぐにでも交通事故の損害賠償金を支払ってもらいたいのに、示談交渉がうまく進まず支払いの目途が立たない……」など、示談交渉に関するお悩みを抱えていらっしゃる方は少なくないでしょう。
では、なぜ交通事故の示談交渉はスムーズに進まなくなってしまうことがあるのでしょうか?また、示談交渉がスムーズに進まない場合、どのように対処すれば良いのでしょうか?
今回は、交通事故の示談交渉がうまく進まない原因とその対処法について解説します。
示談交渉が進まない原因
示談交渉が進まない原因は、主に次の2種類に分けられます。
「加害者本人に原因がある場合」と「保険会社に原因がある場合」です。
原因が違えば適切な対処法も変わってくるので、ご自身のケースはどちらなのかをしっかりと見極める必要があります。
そのためにも、次項以下では、示談交渉が進まない原因別の具体的なケースについて説明していきます。
加害者に資力がない場合
加害者が保険に加入していない場合、被害者は加害者と直接示談交渉をしなければなりませんし、損害賠償金も加害者本人から受け取ることになります。
しかし、お金のないところから取り立てることはできないので、加害者に損害賠償できるだけの資力がなければ、支払いを巡って争いになり、示談交渉がうまく進まなくなる可能性が高いでしょう。
ただし、このように加害者からの損害賠償が期待できない場合には、「政府保障事業」による補償を受けられることがあります。
「政府保障事業」とは、交通事故の被害者が保険会社や加害者からの補償を受けられないときに、最終手段として政府が損害をてん補してくれる制度です。なお、てん補してもらえる金額や限度額は、自賠責保険による補償と同等です。
加害者としての意識が低く賠償保険を利用してくれない場合
特に軽微な事故のケースで多いのですが、「交通事故を引き起こした加害者である」という認識が薄い加害者もいます。
このようなケースでは、そもそも加害者に示談する気がない、または自分が加害者として扱われることに抵抗を感じていることが多く、こちらから示談交渉の連絡をしても無視されたりして、交渉がスムーズに進まない場合があります。
また、対人保険や対物保険を利用すると保険の等級が下がり、保険料が高くなることを嫌って、保険を利用しない加害者もいます。このような場合には、話し合いが難航することが予想されます。
加害者との示談が進まない場合にできること
では、加害者との示談交渉がうまく進まない場合、どういった対処をすれば良いのでしょうか?
以下、加害者との示談交渉が進まない場合に行うことができる対処法について説明していきます。
連絡を無視される場合は内容証明郵便を送る
こちらからの連絡を何度も無視される場合は、「内容証明郵便」というサービスを利用して、損害賠償を請求する書面を送りましょう。
「内容証明郵便」とは、“誰が”、“誰に”、“いつ”、“どのような内容”の書面を送ったのかを郵便局 が証明してくれる、郵便の送付方法のことです。
内容証明郵便を利用すれば、損害賠償請求をした証拠が残るので、時効の成立によって損害賠償を請求する権利が消滅してしまうといった事態を防ぐことができます。また、加害者に心理的なプレッシャーを与えられるので、示談交渉の場につかせることができる可能性もあります。
ADRを利用する
「ADR(裁判外紛争解決手続)」を利用して解決を目指すのもひとつの手です。
「ADR」とは、裁判所の手続きを利用せずに、話し合いによって紛争の解決を図る方法をいいます。ADRの種類には、あっ旋・調停、仲裁がありますが、どれも裁判所の手続きと比べて簡単に利用でき、短期間で決着するというメリットがあります。
交通事故の場合は、「交通事故紛争処理センター」や「日弁連交通事故相談センター」などの交通事故問題に強いADR機関の利用を検討することをおすすめします。
裁判(訴訟)を起こす
内容証明郵便を送付し、ADRを利用しても問題が解決しない場合は、最終手段として裁判(訴訟)を起こすことを検討しても良いでしょう。
裁判は、裁判官の判断(判決)に問題の解決を委ねる、裁判所の手続きです。したがって、当事者の話し合いが円滑に進んでいなくとも、裁判官が判断を下すことによって結論が出て決着します。
ただし、裁判官がこちらに有利な判断をしてくれるとは限らないので、他の手続きと比べてリスクが高く、費用もかさむといったデメリットがあります。
しかし、請求する損害賠償金が60万円以下の場合には、より簡単かつ迅速に決着する「少額訴訟」という手続きを選択できるので、デメリットは少なくなります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
相手方保険会社と連絡が取れない・担当者の態度が悪い場合
相手方保険会社とスムーズに連絡が取れなかったり、担当者の態度が悪かったりするなど、相手方保険会社に原因があって示談交渉が思うように進まないこともあります。
例えば、
- こちらから連絡を入れても担当者から折り返しがない
- 仕事をしている平日の日中しか担当者と連絡がとれない
- 治療中なのに無理やり治療費を打ち切ろうとしてくる
- 事故状況などについて、こちらの言い分をまったく聞いてくれない
といった場合には、相手方保険会社に対する不信感が募るなどして、円滑な話し合いが難しくなってしまうでしょう。
過失割合や示談金額で揉めて進まない場合
最終的な示談金額(損害賠償金額)はもちろん、示談金額に大きく影響する過失割合について揉めていて交渉が進まないというケースも多いです。
例えば、過失割合は事故の態様によっておおまかな目安が決まっていますが、個別の事故状況に応じて細かく修正され、最終的な割合が決定します。しかし、事故の状況に関する被害者・加害者の意見が食い違って話が平行線になってしまえば、いつまでたっても過失割合が決まらず、示談交渉も止まってしまいます。
弁護士への依頼で態度が変わる場合も
交通事故の被害者の方は、交通事故や法律に詳しくない方がほとんどなので、加害者や加害者側の保険会社が強気な対応をしてくることも少なくありません。
しかし、法律の専門家である弁護士には小手先のごまかしは効かないので、弁護士に依頼することで加害者側の態度が改まる可能性があります。
例えば、保険会社にとって厄介なことに、弁護士は裁判を行うことも視野に入れて手続きを進めるため、弁護士に依頼することで、裁判を嫌う保険会社が早期かつ適切な内容で示談に応じる可能性が高まります。
示談が進まずお困りの方は弁護士にご相談ください
今回ご説明したとおり、示談が思うように進まない原因には様々なものがあります。しかし、弁護士は、交通事故問題を解決するうえで欠かせない法律に関する知識を備えています。そのため、いずれの原因で示談交渉が進まない場合でも、弁護士に相談・依頼することで解決への道筋が見えてくる可能性が高いといえます。
その際には、特に交通事故問題を取り扱った実績が豊富な弁護士を選ぶことをおすすめします。弁護士にはそれぞれ得意分野があるので、離婚分野や相続分野に詳しい弁護士より、交通事故分野に精通している弁護士に相談・依頼する方が、よりしっかりとしたサポートを受けられるからです。
示談交渉が進まずお困りの方は、ぜひ交通事故問題に詳しい弁護士に相談・依頼されることをご検討ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)