監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故で被害がでたら、賠償を受けるために示談交渉(話し合い)を行うことになります。示談交渉は、加害者が加入している保険会社の担当者と行うのが一般的です。
しかし、保険会社の担当者は示談交渉のプロです。十分な知識がない状態で交渉に臨むと、保険会社にとって都合のいいように進められてしまう可能性があります。損することなく納得できる示談を成立させるためには、どのように交渉を進めれば良いのかしっかりと理解しておかなければなりません。
そこで今回は、示談交渉を進めるうえでの注意点を詳しく解説します。
その場で示談は行わない
保険会社から提示された示談案を安易に受け入れ、示談を成立させてしまうことは避けましょう。
一度成立した示談は、基本的に撤回できません。つまり、「請求し忘れ」や損害があることや示談金(損害賠償金)の計算間違いがあることなど、後になって気づいたとしても、示談交渉をやり直すことはほぼできません。示談を成立させるかどうかは、慎重に検討するべきです。
事故状況や加害者の連絡先を控えておく
事故に遭ったら、まずは加害者の連絡先を確認するとともに、現場や車の状態を撮影して動画や写真などに残します。
加害者の連絡先がわからなければ、示談交渉を進めることは困難ですし、事故の責任を逃れる隙を与えかねません。
また、事故状況は過失割合を決める際などに争いになりやすいので、証拠となり得る写真や動画を残しておくことが大切です。
交通事故の処理は人身事故にする
交通事故に遭い、少しでも怪我をしたり痛みがみられたりする場合は、人身事故として届け出るべきです。
物損事故として届け出てしまうと、過失割合の認定などに役立つ実況見分調書(事故状況に関する調査結果をまとめた警察の書類)が作成されません。また、人損(人の生命や身体に関する損害)が発生していないものと扱われるため、慰謝料や治療費を受け取れません。
一方、人身事故では実況見分調書が作成されますし、慰謝料や治療費といった人損に対する賠償金も受け取ることができます。
通院頻度を確認する
適切な示談金を受け取るためには、適切な頻度・期間の通院を心がける必要があります。通院の状況は、慰謝料の金額に大きく影響するからです。
一般的に、通院期間が長引けばその分慰謝料も高額になる傾向にありますが、通院頻度が過剰あるいは少なすぎると、治療の妥当性や必要性を疑われて慰謝料が減額されてしまう可能性があります。
痛みがある場合は医師に必ず伝える
後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級に応じて金額が決まります。そして、後遺障害等級認定は医師が作成する後遺障害診断書の内容を重視して行われるのが基本です。つまり、後遺障害診断書の内容に誤りがあると、適正な等級認定が受けられない可能性があります。
そこで、正確な後遺障害診断書を作成してもらうためにも、痛みなどがある場合は、必ず医師に自覚症状について具体的に伝えなければなりません。
もし治療費を打ち切られても通院をやめないこと
治療を続けていると、保険会社から治療費の打ち切りを打診されたり、実際に打ち切られてしまったりすることもあります。しかし、そもそも治療費は治療の必要性が認められる間は支払ってもらえるものですし、治療の必要性の有無を判断するのは保険会社ではなく医師です。症状が残っていて、医師も治療の必要性があると判断している間は、たとえ治療費を打ち切られても通院を続けましょう。
健康保険などを利用して通院を続ければ、通院中の経済的な負担を軽減できますし、打ち切り後に立て替えた治療費は示談交渉でまとめて請求でき、回収できる可能性もあります。
領収書などはすべて保管しておく
示談交渉で損害の賠償を請求するためには、損害額、つまり事故による怪我の治療、車の修理、通院、診断書の作成などにいくらかかったのかを証明できなければなりません。そのためにも、領収書やレシートなどはきちんとすべて保管しておきましょう。
症状固定の時期は医師に見極めてもらう
治療費の打ち切りとも重なりますが、保険会社は自社の出費を最小限にするために、治療の途中で「そろそろ症状固定としませんか」と打診してくることがあります。症状固定とは、それ以上治療を続けても症状に悪化・改善といった変化がみられない状態のことです。
しかし、症状固定に至ったのか、それともまだ治療の必要性があるのかは医師が判断するものであって、保険会社が決定できるものではありません。
症状固定の時期について保険会社から提案されたとしても、医師に相談せずに安易に返事をすることは避けましょう。
後遺障害診断書の内容を確認する
後遺障害等級認定の審査では、後遺障害診断書の内容がかなり重視されるので、医師に作成してもらったら、内容に誤りがないか、記載事項に抜け漏れがないかなどをしっかりと確認しましょう。後遺障害診断書が適切に書かれていないと、誤った情報や不足した情報のまま審査されてしまうので、適正な等級が認定されない可能性が高いからです。
特に自覚症状の欄は、医師と認識が食い違っていると正確に記載されないので、注意が必要です。
示談交渉を焦らない・相手任せにしない
基本的に示談交渉が終わらないと示談金はもらえないので、経済的な不安などから示談交渉を早く終わらせたいと焦ってしまう方もいらっしゃるかと思います。
また、やりとりが手間だからと相手任せにしたくなるお気持ちもわかります。
しかし、一度した示談は撤回できないのが基本です。焦って交渉したり、相手任せにしたりして言われるがままに示談を成立させてしまうと、後で損をしたことに気づいても取り返しがつかなくなってしまう場合があるので気をつけましょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
過失割合をきちんと決めること
過失割合(事故に対する責任の割合を数値にしたもの)が1割でもあると、その責任の重さに応じて示談金が減額されてしまいます。例えば、2割の過失割合があると判断された場合、本来であればもらえたはずの示談金100万円から20万円が減額され、80万円しかもらえなくなってしまうことになります。
このように、過失割合によって、受け取れる示談金は大きく変わってきます。適正な示談金を獲得するためにも、実態に見合った過失割合を決めることが重要です。
交渉が長引くようなら時効についても気にしておく
交通事故による示談金は、いつまでも請求できるわけではありません。通常、以下のとおりの期間で時効が成立し、損害賠償金(いわゆる示談金)を請求できる権利はなくなります。
- 物損事故:事故の翌日から3年
- 人身事故:事故の翌日から5年
時効が成立して権利がなくなった後でも損害賠償金を請求することはできますが、相手が支払ってくれる可能性は限りなく低くなってしまうので、なるべく時効が成立する前に請求しておきましょう。
また、裁判などで損害賠償金を請求すると、時効が成立するまでの期間を延ばすことができます。他にも時効期間を延長できる手続があるので、交渉が長引くことが予想されるようなら、こうした手続の利用を検討すると良いでしょう。
弁護士に依頼する場合は、交通事故に詳しい弁護士へ依頼する
弁護士が取り扱う分野は幅広いので、人によって分野の得意不得意があります。例えば、離婚問題を中心に扱っている弁護士に交通事故の示談交渉を任せても、なかなかスムーズに進まないかもしれません。
交通事故問題についてサポートが欲しいときは、交通事故事案を取り扱った経験が豊富な弁護士にご相談することをおすすめします。また、後遺障害等級認定の申請などをお考えの方は、交通事故だけでなく医療分野にも詳しい弁護士を選ばれると良いでしょう。
示談金の計算は正しくされていますか?
示談金が正しく計算されているか、本来もらえるはずの金額より低く見積もられていないかを確認することも大切です。
示談金を計算する算定基準は3種類ありますが、保険会社は基本的に最も低額になる基準で計算してくるか、またはそれに少し上乗せした金額を提示してくることが多いです。
弁護士に依頼すれば、最も高額になる基準で計算した金額での主張をしますので、示談金を増額できる可能性が高まります。そのためにも、提示された金額をしっかりとチェックすることが重要です。
示談書は正しく書けていますか?
示談書には、示談内容(示談金の額、内訳、支払方法、期限など)をすべてまとめます。そのため、万が一示談書の内容の誤りに気づかずに示談を成立させてしまうと、損してしまう可能性があります。
そこで、示談書に署名・押印して加害者側に返送する前に、請求項目や条件といった示談書の内容に誤りや漏れがないことを十分に確認しましょう。
示談条件が不利になっていないか確認する
示談書の内容を確認する際には、特に示談条件が不利なものになっていないかを確認しましょう。
例えば、示談条件に「示談書に記載のない損害の賠償は一切請求しない」といった文言がある場合、示談後に請求漏れに気づいたとしても新たに請求することはできません。
逆に、「示談後に後遺症が発覚した場合には改めて請求できる」といった先を見越した文言を入れておくなど、ご自身に有利な内容になるように示談書の内容をよく検討することが大切です。
公正証書だとなお良い
相手方が保険会社でなく一個人といった場合には、示談書は「公正証書」で作成すると良いでしょう。
公正証書とは、公証役場で公証人によって作成される公文書です。示談書を公正証書で作成すると、示談内容について明確な証拠を残すことができます。また、加害者に後から改ざんされる心配もありませんし、裁判でも有力な証拠として扱われます。
示談書を公正証書にする一番のメリットは、強制執行認諾文言(支払いが滞った場合に強制執行されることを認める文言)を入れておけば、加害者が支払わなかったときにすぐに財産を差し押さえて回収できることです。
少し手間と費用がかかるというデメリットはありますが、メリットの方が大きいでしょう。
すべての注意点に気をつけて示談を成立させるのは難しい
ここまで示談交渉の注意点について説明してきましたが、いざご自身でこれらのポイントに気をつけながら交渉を進めようとしても、仕事をしながら片手間に交渉することは実際には難しいのではないでしょうか。ご自身がどれだけ気をつけて交渉に臨んでも、相手が示談交渉のプロである場合には限界があります。
そこで、交通事故や示談交渉に精通した弁護士の手を借りることをぜひご検討ください。
納得のいく示談成立を目指すなら、弁護士へご相談ください
被害者の方だけで交通事故の示談交渉を進める場合、どうしても交渉に慣れている保険会社の方が優位になりがちです。しかし、適正な示談金を獲得するためには、対等以上にやりとりができなければなりません。
この点、法律の専門家で交渉のプロでもある弁護士が介入すれば、保険会社も強気な態度をとりにくくなるので、対等以上の交渉が期待できます。また、最も高額になる算定基準で計算した示談金を主張したり、適切な過失割合を調べて主張したりすることもできるので、示談金を増額できる可能性があります。さらに、示談交渉を代理してもらえば、保険会社などとのやりとりで生じるストレスを大幅に減らすことができます。
納得できる示談を目指したい方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
-
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)