監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭うと、被害者は加害者へ損害賠償を請求することができます。
これを損害賠償請求権といいますが、事故の種類によって時効があり、いつでも治療費や慰謝料を請求できるわけではない点に注意が必要です。
では、時効を迎えそうになっているにもかかわらず、被害者はただ待つしかできないのでしょうか?
本記事では、時効の計算方法や、時効を迎えそうな場合の被害者側にできる対処法について解説していきます。
時効を過ぎてしまうと、被害者は大きな不利益を被ることになりますので、特に注意が必要です。この記事を読んでいただき、しっかりと理解を深めておくとよいでしょう。
目次
交通事故の損害賠償請求は3年または5年で時効となる
交通事故の被害者には、加害者に対し損害賠償を請求できる権利=損害賠償請求権が与えられます。
交通事故の示談そのものに期限はないものの、この損害賠償請求権には時効があり、事故の種類によってそれぞれ定められています。
物損事故の場合は3年、人身事故や死亡事故の場合は5年と定められており、時効の期間が過ぎてしまうと損害賠償請求権を失ってしまい、加害者へ損害賠償を請求できなくなってしまいます。
そのため、まずは時効がいつなのかを事前に確認しておくことが重要です。
時効のスタートはいつから?
時効は、事故の種類によって期間と起算日が異なります。
基本的には下記表のとおりですが、人身事故においては後遺障害の申請をしたかどうかで起算日が異なります。
後遺障害の申請を行っている場合は、症状固定日の翌日から5年が期限と定められていますので、注意しましょう。
事故の種類 | 時効 |
---|---|
物損事故 | 事故日の翌日から3年 |
人身事故※傷害のみの場合 | 事故日の翌日から5年 |
死亡事故 | 死亡日の翌日から5年 |
当て逃げ・ひき逃げ※人身事故の場合 | 加害者が判明した日から5年 |
当て逃げやひき逃げなどについては、加害者が判明しているかどうかで時効の期間が異なります。
加害者が判明していない場合、時効は事故の翌日から20年と定められており、途中で加害者が判明した場合などは、判明した日から物損事故なら3年、人身事故なら5年となっています。
※事故発生日が令和2年3月31日より前の場合は、改正前の民放が適用されるため、人身事故と死亡事故の時効は3年となります。
交通事故示談で時効が近い場合の注意点
時効が近いからといって、示談を急ぐことはやめておきましょう。
期限が迫ると焦りが生じてくるものですが、基本的に、一度示談して示談書(免責証書)を取り交わしてしまうと、やり直すことはできません。
しかし、時効を延長する方法がいくつかあります。
延長することができれば、時間的な余裕が生まれます。
もちろん、時効を覚えておく必要はありますが、延長できるということも念頭に置いておきましょう。
では、どのような延長方法があるのか、一つ一つ解説していきます。
交通事故の時効を延長する方法は?
時効を延長するためには、被害者側がアクションを起こす必要があります。
いくつか方法はありますが、主なアクションは以下のとおりです。
① 催告をする(請求書を送付する)
② 加害者に債務を認めてもらう
③ 裁判を起こす
④ 強制執行の手続きを行う
被害者が与えられた損害賠償請求権の時効までに示談が成立しなかった場合は、「時効の完成猶予」と「時効の更新」により時効を延長することができます。
主な方法である①~④について、具体的に解説していきます。
請求書を送付する(催告)
加害者側に請求書を送付することを、催告といいます。
なお、送付する際は普通郵便などではなく、必ず内容証明郵便を使用して配達完了したことを郵便局に証明してもらいます。
請求書を送付することで、「被害者は加害者に対し、損害賠償請求をする意思があること」を示すことができ、催告のときから6ヶ月間、時効完成が猶予されます。
ただし、催告は複数回できるわけでなく、一度しかできません。
そのことから、一般的には裁判の準備中に時効を迎えてしまいそうな場合などに行われたりします。
加害者に債務を認めてもらう
加害者から、被害者に対して損害賠償を支払うことの債務を認めてもらえれば、加害者が債務を認めた日が時効の起算点となり、時効が更新されます。
加害者が以下のような行動をとった場合に、債務を承認したと認められます。
●債務を承認する旨を書面に記す
●被害者に対して示談金額を提示する
●損害賠償金の一部を被害者へ支払う
なお、加害者ではなく、加害者側の任意保険会社に債務を認めてもらうことでも時効が更新されます。
裁判を起こす
裁判を起こした場合、裁判が終わるまで時効の完成が猶予されます。
「裁判によって判決の確定」または「判決が下されるまでに和解が成立した後」に、止まっていた時効のカウントが再スタートします。
※図のようなイメージです。
具体的には、裁判所へ訴状を提出した日から、時効がストップします。
ただし、裁判所が訴状を受け付けても、訴えが却下された場合には、当然時効は中断しません。
加害者側から不誠実な対応をされ続け、時効が迫ってきてしまった場合は、裁判を起こした方が早く示談成立できる可能性があります。
強制執行の手続きを行う
裁判所へ強制執行の申立ておよび手続きを行うと、決定後に加害者の財産を差し押さえることができます。差し押さえた加害者の財産から、「強制的に損害賠償金を支払ってもらう」という結果になります。
加害者の財産=換金できそうなものを差し押さえ、基本的には生活に欠かせない家財道具(衣服、寝具など)以外を差し押さえます。
この強制執行の手続きが完了するまでは、時効の完成が猶予されます。
ただし、手続き完了後は、「3.3裁判を起こす」と同様、改めて時効のカウントが再スタートします。
示談が進まない場合の対処法
「加害者や加害者の任意保険会社との示談交渉が思うように進まず、時間だけが過ぎてしまい疲弊する」といった状況に陥る場合もあるでしょう。
そういった示談が進まない場合は、ADR(交通事故紛争処理センター)の利用など、第三者に介入してもらうと早期解決につながりやすくなります。
ADRとは、裁判を起こさずに、加害者側と被害者側の間に入って、示談成立までのサポートをおこなってくれる機関です。中立的な立場で判断してくれるため、示談が進まない場合はADRの利用を検討するとよいでしょう。
示談が進まない場合の対処法については、以下の記事でも解説しています。あわせてご覧ください。
交通事故の示談交渉が進まない原因と対処法について詳しく見るまずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故で時効が気になる場合は弁護士にご相談ください
弁護士法人ALGでは、時効の手続きをする場合、基本的には「3.1請求書を送付する(催告)」方法と「3.2加害者もしくは加害者の任意保険会社に債務を認めてもらう」方法から試します。
なぜならば、裁判を起こす場合は無料で起こすことはできず、ある程度費用がかかるからです。
そのため、まずはあまり費用がかからない催告と債務を認めてもらう方法から始めており、内容証明書の作成や加害者との交渉などもすべて弁護士で対応しております。
時効を延長させる手続きは、一筋縄ではいかないケースもあります。
そのような場合でも、弁護士であればできる限り費用を抑えつつ、臨機応変に対応することができます。
早期解決したいのに、思うように進まない、時効も迎えてしまいそう‥
時効を迎えてしまうのに、まだ解決の見通しが立たない・・
など、時効の手続きで不安を抱かれている方は、ぜひ一度弁護士への相談・依頼をご検討ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)