監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭い、損害を受けた被害者は、その損害を賠償してもらうために、加害者側の保険会社と示談交渉を行うことになります。
「保険会社からそろそろ治療を打ち切りましょうと言われたが、聞き入れた方がいいの?」「保険会社から示談書が送られてきたが、このままサインしてもいいの?」と疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。
基本的には、一度示談が成立すると、示談で定めた額以上の賠償金を請求できなくなってしまいます。よって、保険会社より提示された示談案に簡単にサインをしてはいけません。
ここでは、交通事故発生から示談成立までの流れ、示談交渉の具体的内容や注意点などについて、説明していきたいと思います。
交通事故後から示談までの流れ
交通事故発生後から示談成立までの一連の流れは下記のとおりとなります。
①交通事故発生
②警察への通報
③加害者の身元、事故状況の確認
④被害者、加害者双方の保険会社への報告
⑤ケガの治療、通院、入院開始
⑥治療終了または後遺障害等級の認定(損害額確定)
⑦示談交渉開始
⑧示談交渉成立(交渉決裂の場合は、民事調停または訴訟へ)
交通事故発生直後にすべきことは?
交通事故発生直後にするべきことは、主に下記のとおりとなります。
①救護措置、危険防止措置|
ケガ人がいるなら、救急車を呼び、ケガ人の救護を行います。また、後続車に事故を知らせるなどして危険防止措置をとります。
②警察への通報
人身事故・物損事故いずれの場合でも、警察への交通事故の報告は道路交通法上の義務となっています。警察に通報しないと、賠償金請求に必要な交通事故証明書を入手することができません。
また、どんなに軽傷でもケガをしているなら、必ず人身事故として警察に届け出てください。人身事故として報告しないと、過失割合などの重要な証拠となる実況見分調書が作成されないため、示談交渉で不利になる場合があります。当日は異常がなくても、後日体に痛みが現れるケースもあります。その時に、保険会社に治療費などを請求したとしても、人身事故での届け出が無いと支払えないと対応されるおそれがあります。
③加害者の身元、事故状況の確認
加害者の氏名、連絡先、車のナンバー、保険会社名などを確認し、控えておきます。また、車の破損状況や事故現場も撮影しておきます。目撃者がいる場合は、名前と連絡先を確認しておいてください。
また、加害者から「ここで口頭で示談してしまいましょう」と言われても、応じるべきではないでしょう。口頭でも示談は成立しますので、適正な賠償金が請求できなくなる可能性があるからです。
④病院での診察
事故が起こったとき少しでも違和感があれば病院に行き、医師の診察を受けるようにしてください。
当日に明らかな異常がなかったとしても、後日痛みが現れる場合があります。しばらく経った後に病院を受診し、「やはりケガをしていた」と主張しても、事故とケガとの因果関係は薄いと判断され、賠償金が請求できなくなるおそれがあるので注意が必要です。
⑤保険会社への報告
警察への報告など、事故現場での措置が一通り終了したら、自分の加入している保険会社に連絡し、事故報告を行います。
治療、通院(入院)開始 ~ 加害者側の保険会社とのやりとり
交通事故に遭ったら、事故後すみやかに、医師のいる外科または整形外科病院の診察を受けてください。整骨院のみの通院となると、医師しか診断書を作成することができないため、賠償金の請求時にケガの内容や程度を説明できず、加害者側の保険会社から十分な補償を得られなくなるおそれがあります。
また、当日に外傷や痛みがなかったとしても、後日痛みが出てくる場合もあります。特に、むちうちの場合は、怪我をしたこと自体が分かりにくく、通院を後回しにしがちです。体に違和感が生じた場合は、すぐに病院に行き、医師に診察してもらうようにしましょう。事故日から受診日までの期間があまりに離れてしまうと、「やはりケガをしていた」と主張しても、事故とケガとの因果関係は薄いと判断され、賠償金が請求できなくなる可能性があるためです。なお、事故から1週間を経過して初めて通院する場合には、治療費について争いになることがよくあります。
保険会社とのやりとりの流れ
事故により負ったケガの治療費は、基本的には、加害者側の任意保険会社が病院に直接支払ってくれます。これを「任意一括対応」といいます。ただし、保険会社や事故状況によっては、任意一括対応してくれない場合がありますので、その際は、被害者がいったん治療費を立て替え、後日、立て替えた分を保険会社に請求することになります。
なお、加害者が任意保険に入っていなかった場合は、加害者側の自賠責保険会社に治療費を請求することが可能です。ただし、金額の上限が定められており、治療費や休業損害、入通院慰謝料などを合計して120万円までとされています。
症状固定
交通事故によってケガを負い、治療を続けた結果、これ以上改善の見込みのない状態になることを「症状固定」といいます。ケガの治療開始時から症状固定時までは、治療費、休業損害、入通院慰謝料などが支払われますが、症状固定になった段階でこれらの支払いは打ち切られます。そして、症状固定時に残った後遺症については、後遺障害等級認定を受ければ、後遺障害慰謝料、逸失利益を請求することができるようになります。
ただ、治療を受けている段階で、加害者側の任意保険会社から「もうそろそろ症状固定なので、治療を打ち切りませんか?」と連絡が入ることがあります。治療が長引くと、それだけ治療費や入通院慰謝料などの金額が上がりますので、保険会社は治療の打ち切りを迫ってきます。しかし、症状固定を決めるのは保険会社ではなくあくまで医師ですので、治療が必要であれば医師と相談のうえ、治療を続けることが望ましいでしょう。
後遺障害等級認定
ケガの治療が終わり、医師から「症状固定=これ以上治療しても改善の見込みのない状態」と判断された時点で、通常のケガ⇒後遺障害の損害賠償のステージに移ります。
「症状固定」と言われたら、まずは、医師に後遺障害診断書を作成してもらい、必要書類を準備し、加害者側の保険会社に提出し、後遺障害等級認定を受けることになります。
後遺障害等級認定を受けなければ、基本的には、後遺障害慰謝料や逸失利益などの賠償金を加害者側に対して請求することができません。
等級認定の審査は後遺障害診断書をもとに行われますので、その内容に記入漏れがないかどうか弁護士などに確認してもらうことをおすすめします。
等級認定申請後、審査機関より認定結果通知書が届きます。通知書と審査に使用した書類は、後遺障害慰謝料や逸失利益などの賠償金の請求の際に必要となるため、保管するようにしてください。
後遺障害の等級が認定されなかったら?
後遺障害等級認定の申請後、審査機関(損害保険料算出機構)より認定結果の通知書が届きます。
その際、例えば、「むちうちで首の痛みが今も治らないのに後遺障害等級に非該当だった」「自分の後遺症は12級だと思っていたのに14級だった」など、目標とする等級が得られない場合があります。
このように、等級認定結果に不服がある場合は、審査機関に対して異議申し立てをすることが可能です。
認定結果をくつがえすためには、改善した後遺障害診断書や主治医の意見書など、初回の申請時に提出した資料より有利なものを提出する必要があります。
なお、異議申し立ての結果が返ってくるまでの期間はおよそ2~6ヶ月程度で内容により幅があります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
示談交渉開始
加害者側の保険会社との示談交渉は、交通事故による損害額が確定した時点で開始することが可能になります。
損害が確定するのは、「ケガが完治した時点」もしくは「後遺障害等級認定申請をした場合には、後遺障害等級認定の結果が出た時点」となります。
早く解決したいというお気持ちは理解できますが、損害が確定しない段階では、保険会社も対応しきれないため、示談交渉が進みません。
ただ、後遺障害等級認定の申請をする場合には、ケガの傷害部分だけ先行して示談を行うということも中にはあります。
また、交通事故で被害者が死亡してしまった場合は、49日法要後に示談交渉がスタートするのが一般的です。
示談の期間はどれぐらいかかる?
交通事故の場合、示談交渉から示談成立までの期間は1~3ヶ月程度になるのが一般的です。
ただ、事案によっては、示談交渉が長期化することがあります。示談交渉が長引く原因としては、「被害者の治療期間が長引く場合」「後遺障害等級認定自体が遅れたり、異議申し立てをしたりした場合」「過失割合や賠償金額などに関して被害者と加害者で意見が対立する場合」が考えられます。
早期に示談成立をさせたい場合は、交渉の専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。
示談書が届くまでの期間
被害者が加害者側の保険会社に対して、ケガが完治または症状固定になったことを報告すると、約1ヶ月程度で保険会社より示談案(損害賠償案)が届きます。
被害者が示談案(損害賠償案)に同意すれば、保険会社から示談書や免責証書(被害者が無過失の場合)が届きます。
ただし、後遺障害等級認定を申請中でまだ認定結果が出ていない場合や、加害者が示談案の内容に納得していないなどの場合は、示談書の到着までにさらに時間がかかることが想定されます。
示談案や示談書の到着があまりに遅い場合は、保険会社に連絡をし、問い合わせをしてみましょう。
交通事故の示談交渉で何が請求できるか?
示談交渉開始後、基本的には、まず、加害者側の保険会社から損害賠償金額の提示がなされます。
提示された損害賠償金の費目や金額、過失割合、既払い金(すでに保険会社から支払いを受けている治療費など)などに間違いがないか、確認することが必要です。
交通事故でケガをしたときに請求できる損害賠償金の費目は主に下記のとおりです。
(通常請求できる損害賠償金)
①治療関係費:治療費、入院費、接骨院などの施術代など
②入通院交通費:通院や入院の際に必要となった交通費
③付添看護費:通院や入院の際に付き添い看護をした人に対する日当
④入院雑費:入院で必要となった日用品雑貨費や通信費など
⑤入通院慰謝料:事故のケガによって入通院を強いられた精神的苦痛に対する慰謝料
⑥休業損害:事故のケガによって仕事を休んだ間の収入の減少分。無収入の主婦や子供なども請求できる場合があります。
⑦物損に関する賠償金:事故により壊れた車や所持品などに対する賠償金
(後遺障害認定を受けた場合に請求できる損害賠償金)
①後遺障害慰謝料:事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する慰謝料
②後遺障害逸失利益:事故によって後遺障害が残ってしまったことにより失われた将来の収入分
(死亡した場合に請求できる損害賠償金)
①死亡慰謝料:交通事故により死亡させられた精神的苦痛に対する慰謝料。
②葬祭関係費:葬儀や法要、仏具購入などにかかった費用
③死亡逸失利益:事故によって死亡したことにより失われた将来の収入分
損害賠償金の計算は複雑な判断を必要としますので、一人で示談書の内容を確認するのは難しいと思われる方は、弁護士に相談することをおすすめいたします。
死亡事故の示談交渉について
死亡事故の場合は、被害者が亡くなられたと同時に損害額がほぼ確定しますが、死亡事故の示談交渉は、49日法要の終了後に開始されるのが一般的です。
また、被害者が亡くなられた場合は、ご遺族が保険会社と交渉することになりますので、ご遺族の方のお気持ちや体調を優先し、準備ができた段階で示談交渉を開始するというケースもあります。
示談交渉を自分で(被害者が)行う場合の注意点
示談交渉を行う際に必要なことは、加害者側の保険会社の提示を鵜呑みにしないということです。
保険会社は賠償金を支払う立場です。支払いを抑えるため様々な説明をして賠償金の減額をはかってくるはずです。保険会社の意見に惑わされず、常に冷静に「保険会社の言うことは正しいのか?」「賠.償金の項目や計算はあっているのか?」と検討することが必要です。
基本的には、一度示談が成立すると、示談で決めた金額以上の賠償金を請求できなくなってしまいます。よって、提示された示談案に不満がある場合は、決して署名をしてはいけません。
保険会社より提示された示談金額が正しいか検討するには、賠償金に関する専門的知識が必要ですので、被害者が一人で判断するのは難しいと思われます。
示談交渉を行うことに不安があるという方は、弁護士に相談することをおすすめします。
示談交渉成立
一度示談が成立すると、基本的には、示談の内容を覆すことはできず、示談で定めた額以上の損害賠償金を請求できません。
よって、加害者側の保険会社より提示された示談案に納得がいかない場合は、署名せず、専門家にご相談ください。「勘違いしていた」「無理やり示談させられた」等の主張は、実務上ほぼ認められません。示談内容に納得してから、示談書に署名するようしてください。
示談から支払いまでの期間
示談交渉成立から示談金が支払われるまでの期間は、およそ1か月程度と言われています。
示談成立後は下記のようなスケジュールで進行します。
①示談成立
②保険会社から示談書が送付される。
③示談書に署名、捺印して、返送する。
④示談金が振り込まれる。
示談金が1か月経っても振り込まれない場合は、保険会社に連絡して問い合わせをしてみましょう。
交通事故の示談交渉についてお困りの方は弁護士にご相談ください
交通事故の被害に遭い、怪我を負った場合は、事故後なるべく早い段階で、弁護士に相談することをおすすめします。
治療中の段階で弁護士に依頼すれば、慰謝料等の請求に必要な通院頻度、後遺障害等級認定申請に必要な検査や資料などのアドバイスが受けられるため、安心して治療に専念できるというメリットがあります。
また、弁護士が介入すれば、示談に必要な書類の作成や資料収集などを代行して行いますので、被害者の負担が軽減されます。何より、交渉のプロである弁護士が示談交渉しますので、賠償金の増額が認められる可能性も高まります。
「今後の治療や保険会社との示談交渉について不安がある」「保険会社から提示された示談金額に納得がいかない」というような場合は、ぜひ、交通事故に精通した弁護士が所属する弁護士法人ALGにご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)