監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
自分が遺した財産を相続人ではない人に相続してもらいたい場合、養子縁組して相続してもらう方法が考えられます。養子縁組によって法定相続人が増えることによって相続税を抑えられる可能性があるというメリットがあります。
しかし、誰かれ構わずに養子縁組をしてしまうと、相続の時にトラブルとなってしまうこともありますので、注意が必要です。この記事では、養子の法定相続分や、相続における養子縁組の注意点等について解説します。
養子は法定相続人に含まれる?実子との違いは?
養子は法定相続人になります。そして、養子の相続順位や法定相続分は実子と違いがありません。相続順位は、以下のように定められています。
- 常に相続人になる:配偶者
- 第1順位:子
- 第2順位:両親等
- 第3順位:兄弟姉妹
被相続人に配偶者や実子がおらず、養子縁組した養子が1人だけという場合には、基本的には、その養子のみが法定相続人になります。
普通養子縁組
普通養子縁組とは、養子が養親と法律上の親子関係となる一方で、実親との親子関係もなくならずに継続する制度です。
養子は、養親が亡くなったときに、子として法定相続人になることができます。また、実親が亡くなったときにも子として法定相続人になることが可能です。
養子縁組には、養子縁組を役所に届けるだけいい場合や家庭裁判所の許可を要する場合など、手続きは複数ありますが、いずれにしても、養子縁組した事実は戸籍に記載されます。そのため、戸籍を確認すれば、養親や養子であることは分かります。
特別養子縁組
特別養子縁組とは、養親と養子が法律上の親子関係になり、養子になった子と実親との法律上の親子関係を終了する制度です。
そのため、養子は、養親が亡くなったときには法定相続人になることができます。しかし、実親が亡くなっても法定相続人になることはできません。
特別養子縁組は、普通養子縁組と比べて、養親や養子になることについて、年齢等に関する条件が設けられており、家庭裁判所の審判を経る必要性もあります。
養子の戸籍には、養子という文言は記載されませんが、民法817条の2の裁判確定日といった記載があることによって特別養子縁組したことが分かるようになっています。
他方で、住民票には続柄までしか記載されてないため、特別養子縁組をしたことは住民票だけでは分かりません。
養子の法定相続分はどれぐらい?
養子を含めた子の法定相続分は次のとおりです。
- 配偶者がいる場合:相続財産の1/2を子の人数により等分
- 配偶者がいない場合:相続財産のすべてを子の人数により等分
例えば、実子が2人、養子が1人である場合、養子の法定相続分は以下のようになります。
- 配偶者がいる場合:1/6
- 配偶者がいない場合:1/3
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養子縁組できる人数に上限はある?
養子縁組できる人数に制限は設けられていないため、養子は何人でも法定相続人になることができます。
ただし、養親と養子には互いに扶養義務がある等、相続とは直接的な関係のない点について考慮する必要があります。
相続が発生する前に養親と養子が不仲になってしまい、離縁をするかどうかでトラブルになったり、相続直前に養子縁組をした養子と実子が相続財産の取り分で揉めるおそれもあります。
相続税の基礎控除額の計算において制限がある
相続税の基礎控除とは、相続税の金額を計算するときに用いられる非課税枠のことです。基礎控除額は、次のような式によって計算します。
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
この式において、法定相続人の数に加えられる養子の数には、以下のような制限が設けられています。
- 被相続人に実子がいる場合:1人まで
- 被相続人に実子がいない場合:2人まで
ただし、特別養子縁組をした場合や、配偶者の連れ子を養子にした場合には、この制限から除外されます。
このようなルールを把握せずに養子を増やしても、相続税の節税にならないおそれがあるため注意しましょう。
養子がいる場合の相続でのデメリットや注意点
他の親族と遺産の取り分でトラブルになりやすい
養子を増やすと、実子の相続財産の取り分が減ってしまい、トラブルになるおそれがあります。相続税の基礎控除が増えて税負担を抑えることができたとしても、1人あたりの相続財産の金額は減ってしまうリスクが高いことに注意しなければなりません。
また、実子の親である配偶者等の親族も不満を抱くかもしれません。
そして、養親が亡くなる前に養子との関係が悪化してしまうと、養子が協議離縁に応じてくれなければ、簡単には離縁できなくなってしまいます。養子縁組するためには、親子としての関係を継続する覚悟が必要だと言えるでしょう。
養子の子が代襲相続人になれないことがある
養子が養親よりも先に亡くなってしまった場合、養子の子が代襲相続人になれるのは、養子になった後で生まれた場合に限ります。
養子になる前に生まれていた子は、代襲相続人になれません。養子の子にも財産を遺したい場合には、養子の子とも養子縁組する方法や生前贈与する方法、遺言書を作成して遺贈する方法等が考えられます。
孫を養子にすると相続税が2割加算される場合がある
被相続人が孫を養子にすると、その孫が支払う相続税が2割加算されるため注意しましょう。
孫を養子にすると相続税が2割加算されるのは、通常であれば被相続人から子への相続が発生し、それから孫への相続が発生するため、相続税を支払う機会が2回あることが理由です。
孫を養子にすると相続税を支払う機会が1回になるため、税負担を公平に近づけるために2割加算の対象となります。
孫を養子にしても、人数制限の範囲内であれば基礎控除は増えますが、かえって家族全体での相続税の負担が重くなってしまうリスクもあるので注意しましょう。
養子縁組に関する相続トラブルは弁護士にご相談ください
自分の相続のことを考えて、生前に養子縁組する場合や離婚と再婚にとって実子も養子もいる場合など、養子縁組の絡む相続は、相続時にトラブルが発生しやすい部分があります。
自分の世話をしてくれた人養子にしておけば、財産を相続させることは容易になりますが、実子との関係が悪化してしまうこともありますし、養子縁組後に養子と不仲になってしまうこともありえます。
そこで、相続のために養子縁組したい方や、すでに養子縁組したものの状況が変わって不安になってしまった方は弁護士にご相談ください。弁護士であれば、養子縁組について注意するべきことについてアドバイスできます。
また、遺言書を作成するのが望ましい状況であればサポートすることも可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)