限定承認とは|相続で限定承認を行うメリットとデメリット

相続問題

限定承認とは|相続で限定承認を行うメリットとデメリット

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

相続の際、亡くなった方(被相続人)の遺産を処理するメジャーな方法としては、①遺産をそのまま受け取る方法と②相続放棄をする方法があります。
しかし、第三の方法である「限定承認」という方法があります。
この記事では、皆様の相続をより良いものとしていただくべく、限定承認がどういう制度であるかを説明させていただきます。

限定承認とは

限定承認とは、裁判所が選任する相続財産管理人の下で、被相続人の遺産の限度で被相続人の債務を清算し、残った遺産を相続人の下に返す制度となります。

限定承認のメリット

負債を負うことがない

限定承認の手続きの中で、被相続人の負債は、残されていた遺産によって清算されます。
相続財産管理人が、被相続人が残した財産の範囲で、被相続人の債務の弁済を行うのです。
仮に、被相続人の負債が多く、遺産では払いきれないとしても、それ以上、相続人が債務を支払う責任を負うことはありません。

連帯保証人の地位は受け継ぐことに注意が必要

被相続人が連帯保証人となっていた場合、限定承認によって相続人が連帯保証人の地位を受け継ぎます。これは、相続が、被相続人の財産を受け取る権利を得るという性質のものではなく、被相続人の権利も義務も受け継ぐものであるからです。
限定承認をすると、相続人が連帯保証人の立場となるため、債権者から請求を受けた場合には、遺産の範囲内で支払う義務があります。

特定の財産を残せる

限定承認手続の際、通常、不動産等は競売によって清算されますが、遺産を一部残したい場合もあるでしょう。
実家や事業用資産が遺産になってしまっている場合、先買権を行使することが考えられます。
先買権は、家庭裁判所が選任する鑑定人の鑑定結果上の評価額以上の金額を支払うことで、相続人が優先的に遺産の一部を購入できる権利です。
被相続人の借金が多い一方で、どうしても残したい遺産がある場合には、先買権を考慮して限定承認を選択すべき場合もあるでしょう。

限定承認のデメリット

被相続人の負債を負わない、特定の財産を残せる可能性がある限定承認手続ですが、他方で、次のようなデメリットもあります。

相続人全員が限定承認する必要がある

限定承認は、被相続人の遺産を手続き中に清算するものです。
そのため、相続人の中に遺産をそのまま受け取りたい人がいる(単純承認をした相続人がいる)場合とは両立しません。
限定承認を行いたい場合、相続人全員の足並みをそろえるよう、相続人間で意思の調整をしておく必要があるでしょう。

相続放棄した人がいる場合

上述のように、限定承認を行いたい場合には、相続人全員が限定承認を行う意思である必要があります。しかし、相続放棄をした相続人がいるときには、その者以外の相続人で限定承認を行うことができます。
これは、相続放棄をした者は、初めから相続人ではなかった扱いとなるからです。

相続財産に手を付けることができない

限定承認を行う場合には、限定承認手続きが終了するまで、相続人が勝手に遺産を処分することはできません。
手続開始後、遺産の一部を使用する必要があるとしても、一時的な使用であっても遺産に手を付けることは許されません。
限定承認手続が完了するまで、通常、数か月以上かかりますので、遺産の一部を急遽使用する必要が想定される場合、限定承認手続の利用は再考すべきでしょう。

税金がかかってしまう場合がある

通常の相続の場合、相続人は、被相続人の所得税の申告(準確定申告)と相続税の申告を行う必要があります。限定承認の場合にも、相続人がこれらの申告を行う必要があります。
そして、限定承認に伴う準確定申告には、みなし譲渡という考え方があります。
これは、限定承認によって、被相続人の財産が時価で相続人に譲渡したものと扱われるというものです。この扱いにより、被相続人には、所得が生じていることになり、予想以上に所得税が生じてしまう場合もあります。
そのため、被相続人の遺産にどのような財産が含まれているか、十分な調査をしたうえで限定承認手続きに臨むことが重要です。

申請までに手間や時間が掛かる

限定承認を行う上で上述のように、税金がかかってしまう場合があります。
そのため、申立てを行う時点で、相続財産の調査をある程度済ませ、どの程度税金が発生するかを把握しておく必要があるでしょう。
相続財産の調査を進めようとしても、一定の手がかり(例えば、預金通帳、保険会社からの郵便物など)すらない場合、容易に遺産を明らかにできません。
その場合には、遺産を明らかにするだけでも数か月かかってしまうこともあり、申請には時間がかかってしまいます。

受理された後も、更に手続きがある

限定承認は裁判所に申立書類を提出して終わりではありません。
裁判所は限定承認の申述を受理すると、遺産の清算を行う相続財産管理人を選任します。
この相続財産管理人は、相続人の中から選任されることが原則となっています。
そして、選任された相続財産管理人は、被相続人の債権者に債権を届け出てもらうための広告手続を行います。
その後も、届け出のあった債権者に対して、遺産から弁済を行う等、様々な手続きを進める必要があります。

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限定承認の手続き方法

以下、限定承認手続きのポイントを解説します。

限定承認に必要な書類

限定承認を行う場合、以下の書類が最低でも必要となります。
相続人と被相続人の関係性次第では、さらに書類が必要となる場合もあります。

  • 限定承認の申述書
  • 財産目録(遺産の中にどのような財産があるのかをまとめた一覧表)
  • 被相続人の戸籍(除籍)謄本
  • 被相続人が出生から死亡までのすべての戸籍謄本類
  • 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の子(及びその代襲者)が亡くなっている場合は、その子(及びその代襲者)が出生してから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類

限定承認の手続きの流れ

限定承認は大まかに次のような流れで進みます。

1 相続財産と相続人の調査
限定承認は、相続人全員で行う必要があるので、相続人が誰であるかを初めに確認する必要があります。
また、可能な限り、相続財産の調査を行うことも重要です。
調査の結果、相続人の足並みをそろえるための話合いをすべき場合もあるでしょう。

2 申述書等の作成・必要書類の収集
続いて限定承認の申述書や財産目録を作成し、戸籍等必要な書類を収集します。

3 家庭裁判所への申述書等の提出・受理
申述書や必要書類をそろえたら、家庭裁判所に申述を行います。
その際、必要な費用は前述したとおりです。

4 相続財産管理人の選任・公告や催告
限定承認の申述が受理されると、家庭裁判所から相続財産管理人が選任されます。
その後、相続財産管理人は、被相続人の債権者を確定するために、官報に公告を行い、知れている債権者に対する催告を行います。

5 換価・評価
相続財産には現金ではない不動産や株式などが含まれていることが少なくありません。
債務の弁済に必要な場合には、相続財産の換価手続が行われます。

6 弁済
換価手続が終わると、相続財産から債権者に対する弁済が行われます。
この弁済手続は、各債権者の保有する債権の金額の割合に応じて行われます。

7 残余財産の取得
債権者の弁済が終了し、残余財産がある場合には相続人が残余財産を取得します。

費用

家庭裁判所に限定承認の申述を行う際には、収入印紙800円及び郵便切手代が必要となります。
郵便切手代は、申述を行う先の裁判所によって異なるので、申立の際に確認しておく必要があります。

限定承認の期限は3ヶ月

限定承認の申述期限は原則として、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月です。
この期限までに、相続人が限定承認の申述を行わないと、単純承認をしたものとみなされてしまいます。
そうなってしまうと、限定承認の申述が受理される見込みはなくなってしまいます。
相続財産の調査が間に合わない場合には、期限を延長する手続きを裁判所に行う必要があります。
なお、期限を延長する場合、3か月延長されることが通例です。

限定承認についてご不明な点はぜひご相談下さい

以上より、相続の際には、限定承認という選択肢があることをご理解いただけたと思います。
もっとも、これまで見てきたように、他の相続の方法に比べ、手続きが段違いに煩雑です。
特に、限定承認を裁判所に申し立てた後に、相続財産管理人に選任される可能性があることも考えると、不安もあるでしょう。
相続にあたり、限定承認をすべきかお悩みの方は一度、弊所にご相談ください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。