監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
面会交流は、離れて暮らす親子の大切な交流の場です。子供の健やかな成長のためにも、離れて暮らす親から愛情を受け取れる機会を確保することは大切です。しかし、子供のことを想うからこそ、面会交流をさせたくないと考える親心もあるでしょう。
このように、面会交流について、父母の意見が対立してまとまらない場合には、「面会交流調停」を申し立てるという選択肢があります。
ここでは、面会交流調停を申し立てることをおすすめするケースや、面会交流調停の概要、手続の流れ、申立ての方法等について解説していきます。
面会交流調停とは
「面会交流調停」は、名前のとおり、面会交流(離婚した、あるいは別居しているため一緒に暮らしていない親子が交流すること)について取り決める調停手続です。そもそも面会交流を実施するかどうか、実施する場合にはいつ、どこで、どのように行うのか、日程変更の連絡はどうやって取り合うのか等、面会交流の細かい条件について、調停委員を介して親同士で話し合って取り決めます。
特に次のようなケースでは、面会交流調停を行うことをおすすめします。
- 別居中、子供と会わせてもらえない
- 離婚後に子供と暮らすことになった親が面会交流を拒否するため、子供と会えない
- 子供が虐待を受けていないか、養育環境に不安がある
- 事情が変わったため、面会交流の条件を変更したい
面会交流調停の流れ
面会交流調停は、以下のような流れで行われます。
①裁判所への申立て
まず、管轄の裁判所(相手方の住所地のある家庭裁判所、またはお互いに合意して決めた家庭裁判所)に申し立てることで、調停が始まります。
②調停期日の指定
申立て後、裁判所が日程を調整して調停を行う日時(調停期日)を指定するので、この期日に裁判所に出向いて話し合いを行います。
③-1 調停の成立
話し合いの結果、父母が合意すれば調停が成立し、合意内容に従って面会交流が実施されます(実施しないことに決まった場合は実施されません)。
③-2 調停の不成立
話し合いがうまくまとまらなかった場合、調停は不成立となって調停は自動的に審判に移行し、裁判所が面会交流に関する判断を下すことになります。
申立てに必要な書類や費用について
面会交流を申し立てるためには、下記の書類が必要です。
- 面会交流調停の申立書 3通
- 事情説明書(申立書に付随しています)1通
- 調停に関する進行照会書(申立書に付随しています)1通
- 連絡先等の届出書 1通
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)1通
また、必要な費用は次のとおりです。
- 収入印紙代:子供1人について1200円
- 郵便切手代:1000円程度(裁判所によって異なります)
申立書の書き方と書式
面会交流調停の申立書の書式は、下記の裁判所のホームページからダウンロードできます。
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazityoutei/syosiki_01_30/index.html
書式に従って記入すれば良いので、特に書き方に迷うことはないでしょう。
ただし、申立書は相手方にも送られるため、現在の住所等を知られてしまいます。相手方のDVやモラハラから逃げてきたケース等、相手方に知られたくない情報がある場合は、
- 非開示の希望に関する申出書を提出する
- 代理人である弁護士の事務所所在地を記入する
といった方法をとる必要があります。
家庭裁判所調査官の調査
調停では、裁判所が必要だと判断する場合、家庭裁判所調査官(以下、「調査官」)による調査が行われます。
家庭問題や児童問題のエキスパートである調査官は、面会交流を実施することが子供の幸せにつながるかを見極め、子供にとってより良い面会交流の方法を探るために、心理学等の知識を活用して調査を行います。具体的には、父母それぞれの収入や生活リズム等を確認するほか、子供の暮らしている家庭を訪問して、親子のコミュニケーションの様子や関係性、実際の生活環境等をチェックします。
また、家庭訪問の際に、実際に子供とコミュニケーションをとって発達具合や精神状態を確認したり、子供の年齢によっては、直接本人から両親の別居や離婚、面会交流に関する心情等を聞き取ったりします。なお、子供が同居している親の顔色をうかがって本心を隠すことを防ぐため、調査官が子供の面接を行う場に親が立ち会うことは認められないのが基本です。
面会交流調停で決められる内容
面会交流調停では、面会交流が子供の健全な成長を助けるものとなるように、子供の年齢や性別、性格、生活環境、生活リズム、子供本人の希望などを考慮したうえで、下記の内容について取り決めます。
- 面会交流を実施するかどうか
- 面会交流の具体的な方法
実施する日時、頻度、場所、時間、日時変更をする際の連絡方法、子供の送り迎えの方法など
面会交流調停を拒否したり欠席したりするとどうなるのか
面会交流調停を拒否して、調停期日に欠席することはできますが、理由を説明しないまま欠席を続け、裁判所からの連絡も無視していると、調停は不成立となり、審判に移行することになります。
審判では、当事者の主張や調査官の調査結果などを考慮したうえで、裁判所が面会交流の可否や具体的な方法について判断します。そのため、無断欠席を続けると、ご自身の意見がまったく反映されない結果になってしまいます。
また、正当な理由がないにもかかわらず欠席した場合には、5万円以下の過料が科されるリスクもあるので、調停を無断で欠席することはお勧めしません。どうしても欠席するときは、必ず理由を説明するようにしましょう。
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調停不成立の場合と不服申立てについて
調停が不成立になると、基本的に自動で審判に移行し、裁判所による判断が下されます。もしこの判断に不満があれば、“即時抗告”によって上級の裁判所に不服を申し立てることができます。
即時抗告は、審判書が届いた日の翌日から2週間以内に、審判を行った家庭裁判所に申し立てる必要があります。期限を過ぎてしまわないように気をつけましょう。
面会交流調停の取り下げ
面会交流調停は、申し立てた側が取り下げれば、いつでも終了させることができます。このとき、基本的に相手方の同意を得る必要はありません。所定の取下書を提出するか、調停期日に取り下げたい旨を伝えるだけで取り下げられます。ただし、電話で取り下げの連絡をしても取り下げはできません。
また、一度取り下げたからといって、再び調停を申し立てられなくなるわけではありません。
とはいえ、取下げ後、数日もたたないうちに再び申立てをするような場合、裁判所に不当な申立てだと判断されてしまい、受け付けてもらえない可能性があるので慎重に判断しましょう。
面会交流調停(審判)に関するQ&A
離婚調停と面会交流調停を同時に行うことは可能でしょうか?
可能です。同じ当事者間で、同時期に複数の調停が申し立てられている場合、併合(複数の手続をひとつにまとめること)したり、それぞれの調停期日を同じ日時に指定したりして、同時に進められるようにするのが一般的です。
ただし、離婚調停と面会交流調停が別々の裁判所で行われている場合には、どちらの裁判所で手続を進めるのか揉める可能性があります。
また、それぞれが別々の事件であることに変わりはないので、離婚調停だけが先に終了したり、面会交流調停だけが審判に移行したりする等して、同時に手続を行えなくなるケースもあります。
面会交流調停の成立にかかる回数と1回の時間はどのくらいですか?
面会交流調停は、1ヶ月~1ヶ月半に1回ほどの頻度で、1回あたり2時間程度をかけて行われます。調停は平均的に3~5回ほどで終了するので、成立するまでには半年程度かかるのが一般的です。
ただし、両親の対立が激しく、お互いに主張を譲らないような場合には、1年以上かかる場合もかなりあります。
面会交流について取り決めたルールを変更したい場合や守られなかった場合はどうしたらいいですか?
相手方が頑なにルールの変更に応じない、ルールを守らない場合には、面会交流調停を申し立て、第三者の力を借りてあらためて話し合うことをおすすめします。
子供が成長する等して、面会交流のルールを変更したくなった場合には、改めて父母で話し合う必要があります。しかし、離婚後は話し合いの場を持つことが難しくなるケースが多いですし、相手方にとってルールの変更が不利益なケースも少なくないので、なかなか合意に至らない可能性があります。
また、面会交流を実施することを約束したにもかかわらず子供に会わせてもらえない等、取り決めが守られない場合には、履行勧告(取り決めを守るよう、家庭裁判所に促してもらうこと)を申し出たり、間接強制(取り決めた内容を実行するまで一定額を支払うよう裁判所に命じてもらうこと)を申し立てたりといった対応をすることが考えられます。しかし、履行勧告に強制力はありませんし、間接強制をするためには、面会交流について相当に具体的に取り決められている必要があります。
このように、当事者だけでは問題の解決が難しい場合、面会交流調停を申し立てることで、解決の道筋が見える可能性があります。
面会交流調停について悩んだら弁護士に相談してみましょう。
「子供ともっと面会交流したい」「子供にとって悪影響なので面会交流させたくない」など、面会交流をめぐって、両親が対立することは珍しくありません。話し合いに決着がつかない場合には、調停手続を利用することをご検討ください。適切な解決が図れる可能性があります。
ご自身だけで面会交流調停に臨むことに不安や悩みがある方は、弁護士に相談されることをおすすめします。調停は、調停委員や調査官の心証に大きく左右されるので、調停委員等を味方につけられるかが重要なポイントとなります。この点、弁護士のアドバイスを受け、必要な事実を適切なタイミングで主張できるようになれば、調停委員や調査官を味方につけられる可能性が高まるでしょう。
ご相談者様のご希望を最大限叶えられるように尽力いたしますので、面会交流調停をはじめ、離婚問題に関するお悩みがある方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)