監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
相手に対する不満がつのり、「もう我慢できない。離婚しよう」と決意しても、今後どのように離婚の手続きをとればいいのか、離婚について悩まれている方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
離婚の方法には、協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚と4つの方法がありますが、どの方法が適しているかは、夫婦の置かれた状況により異なります。
ここでは、日本で最も多い協議離婚にスポットをあて、協議離婚の進め方や注意点などについて、ご説明しますので、ぜひ参考になさってください。
協議離婚の進め方や流れ
協議離婚の進め方や流れは、主に以下のとおりとなりますので、ご確認ください。
相手に離婚を切り出す
離婚を切り出す前に、離婚したい理由や離婚後の生活設計を明確にしておくことが大切です。
例えば、「離婚したい理由は夫の浮気。親権は自分がとる。慰謝料は〇〇円で、養育費は月〇〇円、面会交流は1ヶ月に1回」などメモで整理しておけば、話し合いも進みやすいでしょう。
また、不貞などの離婚原因が相手にある場合、離婚を切り出したら、相手が証拠隠滅を図る可能性があるため、事前に、不倫をうかがわせるメール等の証拠資料を集めておくことが必要です。証拠資料は慰謝料請求のための大切な証拠となります。
さらに、切り出すタイミングも大切です。お互いが喧嘩中の時や子供がいる前で離婚を切り出すと、冷静な話し合いができなくなる可能性があるため、お互いが落ち着いて話し合えるタイミングを見計らって、離婚を切り出しましょう。
離婚に合意したら協議離婚で話し合うべきこと
離婚に合意したら協議離婚で話し合うべきことは、主に以下のようなものが挙げられますので、ご確認ください。
慰謝料
相手に不倫やDV、モラハラ、生活費を渡さないなどの不法行為があり、それが原因で離婚することになった場合に、慰謝料を請求することが可能です。
ただし、双方に離婚の原因があったり、性格の不一致や価値観の違いがあったりするなど、どちらの責任ともいえない場合は、慰謝料を請求することができないのが通常です。
協議離婚の場合、夫婦双方が合意すれば、慰謝料の金額はいくらでも構いません。しかし、あまりに高額だと相手が応じない可能性があり、過去の判例などを参考に、慰謝料の金額を決めるのが望ましいでしょう。
もっとも、「請求ができる」ということと「現実に支払われる」ということの間には大きな差があります。根拠となる証拠の有無や、請求先の資力、財産のありかなどの諸要素を慎重に検討し判断することが必要です。
財産分与
財産分与とは、婚姻中に夫婦で築いた共有財産を、お互いの貢献度に応じて、離婚に伴い分配することをいいます。現金や預貯金、土地、住宅、自動車、年金、婚姻中に契約した生命保険やローンなどが対象となります。財産分与の割合については、貢献度を具体的に測るのは難しいため、裁判など実務上では、基本的に、2分の1ずつとされています。
年金分割
年金分割とは、離婚する際に、夫婦の婚姻期間中に納めた保険料額に対応する厚生年金を分割し、それぞれ自分の年金とすることをいいます。具体的には、厚生年金の保険料納付記録を多い方から少ない方へと分割することになります。年金を分割する方法には、一定の要件で年金記録を1/2ずつ分割できる「3号分割」と、2人で話し合って分割割合を決定する「合意分割」があります。
年金分割には、基本的に、離婚した日の翌日から2年間という請求期限がありますので、注意が必要です。
養育費
養育費とは、未成熟子(経済的、社会的に自立していない子供)が自立するまでにかかる養育のための費用(生活費、教育費、医療費など)のことをいいます。
離婚によって親権者でなくなった親であっても、子供にとって親であることに変わりないため、養育費を支払う義務があります。子供を監護する親(監護親)は、子供と離れて暮らしている親(非監護親)から養育費を受け取ることが可能です。そのため、離婚時に養育費の金額、支払期間、支払方法や支払時期などについて取り決めておくことが必要です。
親権
親権とは、未成年の子供の養育や監護をしたり、財産を管理したりする権利及び義務です。
夫婦が婚姻中の場合は、夫婦が共同して親権を行使しますが、離婚後は共同で親権を行使できないため、離婚にあたっては、必ず、夫婦どちらか一方を親権者に指定する必要があります。
協議離婚の場合は、夫婦の話し合いにより親権者を決め、離婚届に記載しなければなりません。
離婚で親権者が決まらず争いになった場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、親権を決めるための話し合いを行います。調停不成立の場合は、離婚裁判で親権者が決定されることになります。
面会交流
面会交流とは、非監護親と子供が定期的、継続的に直接会って話をしたり、一緒に遊んだり、電話やメールなどの方法で、親子の交流をすることをいいます。
非監護親または子供が面会交流を希望した場合、基本的には、親権者が面会交流に否定的であっても、よほど合理的な理由が無ければ、面会交流が認められる傾向にあります。離婚時に面会の頻度、1回の面会時間や面会場所、面会交流の範囲などについて、取り決めておくことが大切です。
離婚協議書の作成と公正証書の作成
離婚協議書とは、離婚時に夫婦双方が合意した離婚条件などの内容を書面にしたものです。
離婚協議書に養育費や慰謝料など様々な取り決め事項を記載しておけば、離婚後の、言った、言わないのトラブルを防ぐことが可能です。
また、例えば、相手からの養育費や慰謝料の支払いが滞った場合、離婚協議書をもとに、裁判などを起こし、支払いを請求することができます。
なお、離婚協議書を作成する場合は、執行認諾文言付公正証書にしておくことをおすすめします。
相手が離婚条件を守らない場合に、この公正証書があれば、金銭債権については、裁判を行うことなく強制執行をかけることが可能です。相手の預貯金や給料などを差し押さえ、未払い金を回収できます。
離婚届けを役所に提出する
夫婦間で離婚に合意をし、離婚条件を決めたら、次に離婚届を提出します。
離婚届の提出先は、夫妻の本籍地、もしくは、夫または妻の所在地の市区町村役場です。
ただし、提出先が本籍地の役所でない場合は、離婚届と併せて、夫婦の戸籍謄本の提出も必要になります。
書式は市区町村役場の戸籍課に常備してあり、インターネットからダウンロードすることも可能です。提出方法は持参でも郵送でも、夫婦のどちらかだけ、または代理人が提出するのでもかまいません。
また、協議離婚の場合、成人の2名の証人の署名と押印が必要になります。
なお、離婚届に不備がある場合や、夫婦に未成年の子供がいる場合、離婚届に親権者が記載されていないと、不受理になってしまいますので、注意が必要です。
郵送や夜間窓口に提出した場合は、不受理になっても提出した離婚届は戻ってこないため、相手方が離婚届の作成に非協力的で、離婚届の作り直しが難しい場合には、日中に窓口で提出することをお勧めします。
離婚届を提出するタイミングに注意
今すぐにでも離婚したいというお気持ちはわかりますが、離婚条件などについてしっかり話し合わないまま、離婚届を出してしまうと、離婚後、養育費や財産分与など、金銭の支払い等についてトラブルになる可能性があります。ここは焦らず、相手と離婚条件などについてじっくり話し合い、離婚協議書を作成した後に、離婚届を出すことが望ましいでしょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚に応じてくれない場合や協議が決裂した場合の進め方
離婚について話し合いを続けていても、一方が離婚したくない場合や、親権や養育費、慰謝料などの離婚条件について折り合いがつかない場合は、いつまで経っても協議離婚が成立しません。
離婚協議が難航した場合の対処方法を、以下でご紹介します。
別居を考える
別居をすると、お互い精神的に落ち着き、今後の離婚について冷静に考える機会を得ることができます。また、相手が離婚を拒否していた場合でも、別居されてしまったらもう仕方がないと、離婚に応じる可能性もあるでしょう。離婚の話し合いがまとまらない場合は、一度別居をしてみることをおすすめします。
なお、別居期間が一定期間続いた場合に、婚姻関係についてすでに破綻していると判断され、法定離婚事由(民法第770条1項5号)に該当し、離婚が認められる場合もあります。
調停離婚を視野に入れる
夫婦間で離婚協議をしたが合意できない場合や、相手が話し合いに応じない場合には、調停による離婚を検討すべきでしょう。家庭裁判所に夫婦関係等調整調停を申し立てると、調停がスタートします。調停委員が間に入り、夫婦双方の言い分を聴き取り、離婚の合意や離婚条件について、意見の調整を行います。ここで夫婦双方が合意に至った場合は、調停が成立し、調停調書が作成され、離婚が成立するということになります。
調停調書には法的効力があり、仮に、相手が養育費や慰謝料などの支払いをしなかった場合、調書をもとに、家庭裁判所に履行勧告または履行命令を申立て、支払いを請求することが可能です。支払いがなされない場合は、地方裁判所に強制執行の申し立てを行い、相手の財産を差し押さえることになります。
別居中やDV・モラハラがある場合の協議離婚の進め方
別居中やDV・モラハラがある場合など、当事者間で離婚の話し合いができないケースでの離婚の進め方を以下に挙げますので、ご確認ください。
別居している場合
別居していて、直接会って離婚の話し合いができない場合には、まずは、メールや電話、手紙などで、相手に「離婚したいので、話し合いがしたい」という意思を伝えましょう。相手が応じれば、離婚に向けた話し合いを進めていきます。しかし、相手が無視している、離婚を拒否している、離婚条件で折り合いがつかないような場合は、弁護士に代理交渉を依頼するか、家庭裁判所に離婚調停を申し立てましょう。離婚調停では、調停委員を介して、離婚条件などについて話し合いを行うことが可能です。
DVやモラハラを受けている場合の協議離婚の進め方
相手からDVやモラハラの被害を受けていて、相手に「離婚をしたい」などと言ったら、身の危険が及ぶ可能性がある場合は、家を出て別居するか、DVシェルターなどに避難して身の安全をはかったうえで、弁護士などの専門家に依頼して、裁判所に対して保護命令や離婚調停の申し立てを行いましょう。
保護命令が発令されると、相手が付きまといなどをした場合に懲役や罰金などが科される可能性があるため、相手は近づきにくくなります。離婚調停においても、DVのことをあらかじめ説明しておけば、調停の場で相手と直接顔を合わさないよう、配慮してもらうことが可能です。
協議離婚を進める際の注意点
協議離婚を進める際の注意点を以下に挙げますので、ご確認ください。
協議内容を録音しておく
離婚に向けての話し合いをする場合は、メモをとることはもちろんのこと、ボイスレコーダーなどで録音しておくことをおすすめします。録音しておけば、後で言った、言わないのトラブルを避けることができますし、音声記録がご自身に有利な条件で離婚を進めるための、有効な証拠となる可能性があるからです。例えば、相手から不倫やDVを認めるような発言があったり、暴言があったりした場合、この音声記録をもとに、離婚事由があることを証明したり、慰謝料請求などをすることが可能となります。なお、無断で相手との会話内容を録音していたとしても違法にはなりませんので、相手から許可を得る必要もありません。
離婚届不受理申出を提出しておく
「離婚届不受理申出」とは、相手方から離婚届が出されても受理しないよう、役所に申し出ておくことをいいます。本来なら、離婚届は夫婦双方が離婚に合意した後に作成し、届出をするものですが、相手が先走って、離婚届を偽造し、勝手に役場に届け出てしまうおそれがあります。これを防止するために、あらかじめ離婚届不受理申出を行っておくことをおすすめします。
不受理申出は、申立人の本籍地または住所地にある市区町村役場に離婚届不受理申出書を提出する方法で行います。有効期限はありません。
不貞やDV等の証拠を出すタイミング
相手方の不貞やDVなどの証拠をつかんだとしても、相手方にはなるべく隠しておくことが望ましいでしょう。証拠を集めていることが知られると、相手が証拠の隠滅をはかったり、逆切れしたり、しらを切ったりして、協議が進まなくなるおそれがあるからです。
そのため、例えば、相手の言い分をすべて聞いた後に、言い逃れができない決定的な証拠を見せるなど、最適なタイミングで証拠を出せば、相手方に不貞やDVの事実を認めさせることができ、結果として、慰謝料の増額の可能性も高まります。最適なタイミングはケースにより異なりますので、弁護士に交渉を任せるという手もあります。
協議離婚の子供への影響
夫婦で離婚の話し合いをする場合は、子どもがいない場で行うようにしましょう。両親がケンカをしている様子を子どもが見てしまうと、不安や恐怖を感じ、精神的トラウマを残すおそれもあります。
また、協議離婚をする際に、親権や子供の苗字を夫婦どちらにするのか、子どもへの影響を考えて決定する必要があります。
男性でも有利に協議離婚の進められるのか
協議離婚においても、男性は女性に比べて親権を獲得できないケースが多いのが現状です。また、一般的に男性は女性より平均的に収入が多いため、親権を取られてしまったら、養育費を支払い続けることになります。また、離婚が成立する前に別居すれば、婚姻費用を支払う必要も生じる可能性があります。面会交流の申入れをしても拒絶された場合は、面会交流の実施が難し場合があります。
そのため、夫婦間で離婚条件について話し合い、なるべくご自身にとって不利な条件を減らすことが必要でしょう。話し合いがまとまらない場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
協議離婚に関するQ&A
協議離婚についてよくある質問をご紹介します。
協議離婚ではなくいきなり離婚調停をすることはできますか?
離婚の話し合いをせずに、いきなり家庭裁判所に離婚調停を申し立てることは可能です。特に、相手方がDVやモラハラ等を行う人物であって、話し合いが難しい場合には、直接顔を合わせることなく、調停委員を介した話し合いができるため、調停による離婚を目指すことをおすすめします。
また、相手方が離婚の話し合いに応じてくれない場合も、調停を申し立てるべきでしょう。
ただし、いきなり調停を申し立てると、相手が感情的になり、余計にこじれるおそれがありますので、まずは話し合いからスタートして、折り合いがつかない場合に、調停を申し立てるという段取りで進めるのがよいでしょう。
離婚届を提出した後に行う手続きは、どのようなものがありますか?
離婚届を提出した後に行うべき手続きは、主に以下のようなものが挙げられますので、ご確認ください。
たくさんの手続きが必要となります。
- 住民票の異動(転入、転居、転出届、世帯主変更届などを提出)
- 国民年金の変更(相手の厚生年金に加入していた場合は国民年金に加入し直します)
- 国民健康保険の加入(相手の健康保険に加入していた場合は国民健康保険に加入し直します)
- 印鑑登録の変更
- 児童手当の受給者変更
- 児童扶養手当の申請
- 年金分割
- 婚氏続称の届出(婚姻時の苗字をそのまま使う場合)
- 子の氏の変更許可の申立て(子供の苗字を自分の旧姓にする場合)
- 運転免許やパスポート、マイナンバーカードなどの書き換え
- 自宅や自動車の名義変更
- 公共料金の契約者の変更
協議離婚の証人には誰がなれるのでしょうか?
協議離婚では、成人の2名の証人の署名と押印が必要になります。令和4年4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられましたので、18歳以上の方であれば、証人になることができます。
一般的には、夫婦の親や兄弟姉妹、友人などに依頼する場合が多いようですが、まったく知らない赤の他人でも証人になれます。証人になることで受ける不利益は基本的にはありません。
離婚届の証人は、夫婦それぞれから1名ずつ出す必要はなく、どちらか一方が2名を出すことも可能です。
協議離婚を進める際、第三者の立ち合いは必要ですか?
協議離婚を進める際に、第三者の立ち合いは必要ありませんし、立ち会わせるべきではありません。第三者として、例えば、双方の両親に立ち合ってもらうことも可能ですが、当然、自分の子どもの方に有利な条件で離婚の話し合いが進むよう、肩入れすることが予想されるため、お互い感情的になり、冷静な話し合いができなくなるおそれがあります。
そのため、夫婦の親族などによる立ち合いは避け、できれば弁護士などの専門家を立ち合わせることをおすすめします。
協議離婚を適切に進められるかご不安な場合は弁護士へご相談ください
協議離婚は簡単な手続ですむ離婚方法ですが、夫婦間の話し合いによって、養育費や慰謝料、財産分与などの離婚条件を取り決める必要があります。
これら条件は法的な問題とも絡むため、夫婦間の協議だけで決めるというのは容易なことではありません。また、相手が離婚の話し合いに応じない場合は、いつまで経っても離婚が成立しません。
このように、離婚協議が難航している場合は、離婚問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士が介入すれば、法的知識に基づき、協議離婚を適切にスムーズに進めるためのサポートを受けることが可能ですし、ご自身にとって有利な離婚条件で離婚できる可能性も高まります。また、調停離婚や裁判離婚に進行した場合のサポートも受けられます。
協議離婚について悩まれている方は、ぜひ、離婚案件に豊富な相談実績をもつ、弁護士法人ALGにご相談ください。
-
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)