監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
DVの被害に苦しみ、離婚したいと思ったとき、重要になるのが“DVの証拠”です。なかでも「診断書」は、客観的な証拠として使えますので、DVによって怪我をしてしまった場合などには、お身体のためにも、きちんと病院で診てもらい、診断書を受け取るようにしましょう。
ただ、診断書をDVの証拠として使うにあたっては、その記載内容に注意が必要です。このページでは、そうした記載内容の注意点も含め、「DVで離婚するときに用意する診断書」について詳しく解説していきます。
離婚するときにDVの証拠になるもの
離婚するとき、DVの証拠になり得るものとしては、例えば次のようなものがあります。
●警察や配偶者暴力相談支援センター等への相談記録
DV被害の相談窓口としては、警察や配偶者暴力相談支援センターといったところがあります。こうした機関に相談すると、相談の内容が記録が残りますので、DVの証拠として使えます。
●怪我の写真
怪我をした部位だけではなく、ご自身の顔と怪我をした部位が一緒に写っているものも用意しましょう。「他人の写真ではないか?」と疑われないようにするためです。
●映像・音声データ
DVを受けている最中の様子のほか、相手がDV行為を謝罪したり反省したりしている場面の映像・音声データも、有効な証拠になる可能性があります。
●日記
日記をつけるときは、DV被害の内容(暴力の内容とその順番)などを具体的に書くようにしましょう。また、DVをされた日だけ書くのではなく、できるだけ毎日続けて書くと、証拠価値が高まりやすくなります。
●病院でもらった診断書
以降で詳しく解説していきます。
診断書の記載内容と重要ポイント
診断書をDVの証拠として使う際には、記載内容が重要になってきます。まずポイントとなるのが、怪我の経緯(どのように攻撃され、どこを負傷したのか)を伝えることです。医師は「ケガをした結果」を診断できても、その原因までは特定できません。しかし、患者からの申告内容として、怪我の原因がDVであったと記載してもらえる可能性はあります。ためらいはあるかもしれませんが、「配偶者からのDVによって怪我をした」という事実を伝えることが大切です。
また、大きな怪我だけではなく、小さな傷などもきちんと診てもらい、診断書に記載してもらってください。
そのほか、診断書に記載してもらう主な内容は、次のとおりです。
- 傷病名
- 初診日
- 怪我の程度
- 治療期間 など
診断書は、あくまでも怪我の証明をするものですから、それだけでDVの証明ができるわけではありません。ただ、DVを裏付ける証拠の一つとして有効なものとなり得ますので、上記のポイントをしっかりと押さえておきましょう。
怪我をした部位や症状によって、何科を受診すべきかは異なります。例えば、骨折や打撲をしたのであれば「整形外科」を、アザなら「形成外科」や「皮膚科」を受診するのが一般的です。
ただ、“DV”と一口に言っても、暴力には様々な種類があります。モラハラなどの精神的暴力を受けている場合、目には見えない心の傷を負うこともあるでしょう。そのようなときは、「心療内科」や「精神科」などを受診します。また、性的暴力を受けている場合には、「婦人科」や「産婦人科」などを受診することも考えられます。
DVの診断書があると離婚のときに有利になること
DV加害者と離婚する方法は、「話し合い」か「裁判」の大きく分けて2択です。話し合いでの解決が難しいときは、裁判をして裁判所に判断してもらうことになりますが、このとき、DVの診断書をはじめとした証拠があると、裁判所にDVの事実があったとして離婚を認めてもらいやすくなります。また、離婚の条件を決めるうえで有利になることもあります。以降で詳しく確認していきましょう。
慰謝料の増額
慰謝料の金額は、受けた精神的苦痛の大きさに応じて決められます。例えば、DVによる怪我の程度は軽いより重い方が、慰謝料は増額されやすくなるでしょう。この点、診断書は、DVによる怪我の程度や状態を証明する有効な証拠になります。そのため、DVを理由に離婚の慰謝料を請求する際、診断書があることで、慰謝料の増額に繋がるケースもあるのです。
子供の親権
裁判所は、子供の親権と夫婦の問題は分けて考えますので、DVを理由に離婚するのだから、DV加害者に親権がわたることは絶対にない、とは言い切れません。
ただし、家庭内でDVを目の当たりにしていたことで、子供の心身に悪影響を与えている場合には、DVの被害者側が親権獲得に有利になるでしょう。そのためには、診断書などで、DV被害を受けていたという事実を証明することが重要になってきます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
DVの診断書の提出先
離婚調停を申し立てたとき
DV加害者と離婚したいと思っても、当事者間で直接話し合うのは難しいケースが多いでしょう。そのような場合に行うのが、家庭裁判所の調停委員会を通して話し合う、「離婚調停」です。
調停の申立時や、調停を進めていくなかで、診断書などをDVの証拠として裁判所に提出します。そうすると、実際に話し合いの進行役となる調停委員にこちらの意見を理解してもらいやすくなるので、調停を有利に進めやすくなる可能性があります。
警察に行くとき
DV被害に遭ったとき、警察に行って被害届を出すこともあるかと思います。被害届を出す際は、診断書をはじめとしたDVの証拠になり得るものも併せて、警察(生活安全課)に提出するようにしましょう。DV被害を客観的に証明するための証拠がないと、被害届を受理してもらえない場合もあるからです。
なお、被害届が受理されれば、その記録が警察に残るので、離婚する際にDVの証拠として使えます。
DVの診断書の有効期限
診断書自体に有効期限はありませんので、いつ取得した診断書でも、DVの証拠として使うことは可能です。
ただし、DVを受けて怪我をした時期と、診断書に記載されている診断日までの期間が、あまりに空きすぎていると、「本当にDVによって受けた怪我の診断書なのか?」という疑いを持たれてしまうかもしれません。そのため、DVによって怪我をしたらなるべく早期に病院を受診し、診断書をもらうようにした方がいいでしょう。
離婚のときに提出するDVの診断書についてのQ&A
DV加害者の弁護士からDVの診断書の提出を求められたのですがコピーしたものでもいいですか?
DV加害者の弁護士から診断書を提出するよう求められたとしても、原本を渡す必要はなく、コピーしたものを渡せば十分です。病院に診断書の作成を頼むと、1通ごとに相応の費用がかかりますし、原本はあとで離婚調停や離婚裁判の手続きに移った場合に提出が求められることがありますので、手元に保管しておきましょう。
また、DV被害に遭われている方は、相手から身を隠して生活している方もいるかと思います。診断書には、ご自身の住所が記載されていますので、相手方に提出するときは、住所の欄を見えないように黒塗りするなどしておくよう、ご注意ください。
DVによって擦り傷ができたときも病院で診断書をもらっておくべきですか?
擦り傷など、軽い怪我だったとしても、きちんと病院に行って診てもらい、診断書をもらっておくべきです。DVの行為を裏付ける、証拠の一つとなり得るからです。離婚自体を認めてもらうためにはもちろん、離婚する際の慰謝料請求においても、怪我の内容を証明する診断書は、とても重要な資料になります。
病院で診てもらうときには、「DVのせいでできた擦り傷である」ことを医師に伝えると、その旨を診断書に書き入れてもらえる可能性があります。
DVの診断書がない場合は離婚が難しいですか?
DVの診断書がなくても、怪我の写真や日記、DV被害の様子を撮影した動画といった、そのほかの証拠からDVの事実が認められ、離婚できる可能性はあります。もちろん、診断書があった方が、離婚の手続きは有利に進めやすくなりますが、なければ離婚できないというものではありません。
以上は「裁判」に進んだ場合を想定した説明です。夫婦間の話し合いや離婚調停の手続きでは、通常、お互いが離婚に合意しているなら、診断書などのDVの証拠がなくとも離婚はできます。
DV加害者と離婚をする際に診断書があると有利になることがあります。詳しくは弁護士にご相談ください。
DV加害者と離婚するためには、DVの証拠をいかに集められるかが重要になってきます。特に医師によって作成される「診断書」は、客観的な証拠として価値あるものと扱われる可能性があります。そのため、診断書はないよりもあった方が、離婚の手続きを有利に進めやすくなることが期待できます。
ただ、診断書の記載内容には注意が必要であり、受診する際には気をつけてほしいポイントがあります。弁護士にご相談いただければ、ご状況に合わせた的確なアドバイスができますので、ご不安があるときはお気軽にお尋ねください。もちろん、診断書のほかの証拠集めや、離婚の手続きもサポートできます。
DV被害で苦しんでいるなか、証拠を集めて、離婚を求めていくというのは、決して簡単なことではないでしょう。おひとりで抱え込まず、まずは弁護士にご状況をお聴かせください。あなたの味方となって、精一杯お力添えいたします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)