監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
夫婦の話し合いでは離婚について合意できない場合は、一般的に、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停委員を間に挟んで改めて話し合いをすることになります。
離婚調停は主に調停委員が進行させます。その際、調停委員は夫婦にいくつか質問をして、調停の進行に必要な情報を聴き取ります。
では、具体的にどのような質問をされるのでしょうか?
ここでは、離婚調停の申立てを検討されている方や実際に期日を間近に控えている方へ向けて、離婚調停で質問されることが多い事項について解説します。
申立人が離婚調停で聞かれること
まず、離婚調停を申し立てた人が聞かれる事柄を説明します。次項以下をご覧ください。
結婚した経緯
離婚調停を行うことになった理由や過程を把握するため、結婚した経緯については特によく聞かれます。
具体的には、どのようにして夫婦が知り合ったのか、元々の関係性や出会い・結婚に至ったきっかけなど、結婚するまでの一連の経緯を説明することになります。
なお、あくまで離婚へ向けた話し合いに必要な事情を聴き取るための質問なので、それまでの思い出を長く語る必要はありません。
離婚を決意した理由
離婚調停の核心となる、“離婚を決意した理由”も必ず聞かれます。
これは離婚調停の申立書にも記載しておく事項ですが、夫婦間の問題を解決するために、今回の離婚調停をどのように進めていくべきか、調停委員が判断する際にかなり重要視するポイントとなります。そのため、詳しい聴き取りが行われることが多いです。
答えるときは、冷静に、要点を押さえて話すことを心がけ、事情をよく理解してもらえるように努めましょう。
現在の夫婦関係の状況について
夫婦が同居中なのか、既に別居しているのか、生活費は誰がどのように負担しているのかなど、現在夫婦が送っている具体的な生活の状況についても聞かれます。
このときに大切なのは、要点を押さえたうえで、嘘をつくことなく、事実をそのまま伝えることです。恥ずかしいからといって嘘をつくと、その後の離婚調停が見当違いな方向に向かってしまいかねませんし、嘘がばれた時に調停委員に悪い印象を与えることになります。
なお、過去に別居していたものの現在は同居しているといった事情がある場合なども、伝え忘れないように注意しましょう。
子供に関すること
子供に関する様々なことも調停で聞かれます。子供が未成年である場合は、どちらが親権者となるかを決めなければなりませんし、“親権”や“面会交流”、“養育費”などの子供に関する考えを聞かれる可能性も高いでしょう。
特に離婚後の親権について争いがあるときは、現在子供の面倒を、誰が、どのようにみているのか、養育費はどちらがどれだけ負担しているのか、これまで夫婦それぞれがどのように子育てに関わってきたかといった詳しい事情を細かく質問されることになると考えられます。
夫婦関係が修復できる可能性について
離婚調停では、夫婦の関係を修復できる可能性についても質問されることがあります。離婚調停はあくまで夫婦の関係を調整する話し合いであって、必ずしも離婚だけを前提に進めるわけではないので、調停委員は夫婦双方の意向を確認する必要があるからです。
この質問への回答によっては、離婚を望む感情は一時のものだと判断されてしまい、夫婦関係を修復する方向で離婚調停を進められてしまう可能性があるので注意しましょう。
本当に離婚したいと考えているのであれば、“夫婦関係を修復しようとする努力はしたものの、これ以上結婚生活を続けることはできないと思った”ことをはっきりと伝え、離婚に対する強い決意を見せることが大切です。
離婚条件について(養育費、財産分与、慰謝料)
離婚調停では、離婚をするかどうかだけではなく、離婚に伴う様々な条件についても話し合って決めることが可能です。
特にお金に関わる離婚条件は揉めることが多いので、調停委員からも、養育費や財産分与、慰謝料といった離婚に伴う条件に関する考えを尋ねられることが多いです。
なお、相手方に請求することを考えている場合は、具体的にいくら請求したいのか、どのような請求の根拠があるのかをはっきり説明できるようにしておく必要があります。
離婚後の生活について
離婚後の生活設計についてもよく質問されます。
例えば、専業主婦(主夫)の方の場合には、離婚後どこに住むのか、どのような仕事で生計を立てていくのかといった質問をされることが予想できます。
離婚後の生活についてしっかりと考え、準備していることを伝えられれば、真剣に離婚を望んでいることを調停委員に印象づけられるので、その後の調停が有利に進む可能性があります。
相手方が聞かれること
離婚調停を申し立てられた相手は、まずは「離婚に応じる気があるかどうか」が聞かれます。
相手方が離婚に応じる気はないと答えた場合、結婚生活を続けたい理由などを聞かれる可能性が高いでしょう。また、離婚に応じない意思が固く、話し合いを行う余地がなければ、その時点で離婚調停は不成立となります。
一方、相手方に離婚に応じる気があれば、主に離婚の条件を中心に話し合いが進むことになるので、相手方が希望する離婚条件に関する質問が行われます。
1回あたりの所要時間の目安と調停の流れ
一般的に、離婚調停は何回か期日を設けて進められます。期日1回あたりにかかる時間の目安は、2時間程度です。
離婚調停は、調停委員が待機している調停室に夫婦が交互に入り、調停委員の進行に従って相手方に対する主張や反論を行うことを繰り返します。そのため、基本的に当事者が顔を合わせることはありません。
なお、一方の当事者が調停室で調停委員と話す時間は1回につき大体30分程度で、これをそれぞれが2回ずつ行うのが通常です。
また、一方が調停室に入っている時間、もう一方は裁判所内の待合室で待機します。短時間であれば待合室から出ても問題ありませんが、ある程度の時間待合室を離れる場合は、裁判所の担当職員に伝えてからにするべきでしょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚調停で落ち着いて答えるための事前準備
余裕をもって到着できるよう、裁判所へのアクセスを確認
落ち着いて離婚調停に臨むためにも、開始時刻ぎりぎりに到着するようなことは避けるべきです。
また、裁判所によっては手荷物検査を実施しているところもあります。時間に余裕をもって到着できるよう、事前に裁判所の最寄り駅やルートなど、アクセス方法をよく確認しておくことが大切です。
聞かれる内容を予想し、話す内容をまとめる
調停委員からの質問や、離婚調停でポイントとなる論点はだいたい予想できるので、事前に回答の中身や話す内容をまとめておくことをおすすめします。
相手の出方を予想し、対処法を考えておく
直接話し合うことはないものの、離婚調停は、相手方配偶者と自分の意見を調整して合意を目指す場です。したがって、離婚調停を円滑に進めるためにも、相手の出方や反論を予想し、自分がどう対応するかをシミュレーションしておくことが重要です。
また、相手の出方などを予想するのと同時に、最終的にどういった条件で折り合いをつけられそうか目安をつけておくことで、離婚調停を乗り切る道筋が見えてくる可能性があります。
調停委員からの質問に答える際の注意点
離婚調停は、調停委員が進行しますので、調停委員に悪い印象を与えると不利な立場になってしまうおそれがあります。
常識的に接していれば不利になることはありませんが、できれば良い印象を与えたいものです。そのためにも、調停委員との質疑応答の際には、次項以下で挙げるようなポイントに注意する必要があります。
落ち着いて端的に話しましょう
離婚調停に発展している以上、相手に対して少なからず不満を感じている場合が多いでしょう。しかし、相手に対するマイナスの感情を爆発させてしまうと、調停委員の心証を損なって不利な立場になりかねません。
感情的になりすぎないように落ち着いて、離婚調停を解決するために必要な事実や要望を簡潔に伝えるように努めましょう。
調停委員との価値観の違いに注意
調停委員といっても違う人生を送ってきた人ですし、ご自身と世代が違う場合も少なくありませんから、価値観が違ったり意見が合わなかったりすることがあって当然です。
しかし、調停委員にこちらの訴えを理解してもらい、味方になってもらうに越したことはありません。価値観や意見の合わない人にも理解してもらいやすい主張の仕方を考えるようにしましょう。
嘘はつかず誠実に答える
離婚という夫婦間の問題の話し合いに関わる以上、調停委員からプライベートに切り込む質問をされることもあります。
しかし、恥ずかしいから、自分に不利な内容だからといって嘘をつくことは避けましょう。後になって嘘をついたことが発覚した時に、調停委員の心証が悪くなってしまうからです。
聞かれていないことを自ら話さない
離婚調停では、聞かれたことだけに答えるようにしましょう。
相手に対する不満や愚痴などを話したくなるお気持ちはわかりますが、聞かれていないことまで話すと、話が脱線してかえって主張が伝わりにくくなったり、調停の進行を妨げてしまい調停委員に悪い印象を与えてしまったりする可能性があるからです。
長文の陳述書は書かない
陳述書は、主張やその根拠が伝わりやすいように簡潔にはっきりと書くことが大切です。したがって、必要以上に長文にするべきではありません。
陳述書があまりに長文だと、何を一番に主張したいのかがわかりにくくなり、調停委員にこちらの意見をきちんと伝えられない可能性があります。また、陳述書は基本的に相手に開示されるので、相手に対する不平や不満を書きすぎるとさらなる感情的な対立を招くことになり、解決までの期間が長引いてしまうリスクもあります。
離婚条件にこだわり過ぎない
離婚条件にこだわりすぎると、うまい落とし所を見つけられず、離婚が成立するまでに時間がかかってしまったり、より時間と費用がかかる離婚裁判に発展してしまったりしかねません。
離婚調停という話し合いによる解決を目指す以上、相手の主張や提案に妥協しすぎる必要はありませんが、ある程度の譲歩は必要です。
そこで、自分がどのような条件に対してどこまで妥協できるのかを掘り下げ、どうしても譲れない条件が何なのか、あらかじめ確認しておきましょう。
調停で話し合ったことはメモしておく
離婚調停は、基本的に1回の期日で成立することはないので、次回期日へ向けた準備が必要になります。そのためにも、その期日に話し合った内容をメモしておくことは大切です。
また、調停委員から、次回期日までに検討しておくべき事項や、用意しておくべき書類・資料などを指示されるので、これらについても忘れないようにメモを取っておくと良いでしょう。
離婚調停2回目以降に聞かれること
2回目以降の離婚調停の期日では、前回の期日で話し合った内容を踏まえて、調停委員がアドバイスや解決案を提示するので、当事者はそれに対する意見を述べていくことになります。
調停委員を介して当事者双方がお互いの意見を伝え合ったら、調停委員はさらに意見の調整を図り、合意が成立する見込みがあれば、また次回期日で話し合いが行われます。
3回目以降の期日も、基本的に同じ流れで進められます。
期日を繰り返していき、調停委員が「これ以上続けても合意が成立する見込みはない」と判断した段階で、離婚調停は不成立となり終了します。
離婚調停のお悩みは弁護士にご相談ください
離婚調停で調停委員から聞かれることは大体決まっています。調停を有利に進めるためにも、事前に自分の主張や要望をまとめておき、しっかり伝えられるように準備しておくことが重要です。
とはいえ、実際にどのように話せば調停委員や相手を納得させられるのか、なかなかわからないのではないでしょうか?誰かにアドバイスしてほしいものの、友人や親戚にはプライベートな事情を話したくないという方もいらっしゃるでしょう。
このように離婚調停に関してお悩みのある方は、弁護士に相談されてはいかがでしょうか。
質問への答え方や自分の意見の伝え方について、具体的なアドバイスをさせていただきます。また、弁護士は調停に同席し、ご依頼者様に代わって主張を伝えることもできます。
弁護士に相談・依頼することでいろいろなメリットを得られますので、ぜひ弁護士への相談をご検討ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)