遺産分割協議はやり直しできる?

遺産分割協議はやり直しできる?

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織

監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士

相続人全員で遺産分割協議を成立させた後でも、遺産の内容を誤解していた、他の相続人に騙されていた、など、遺産分割協議をやり直す必要がある場合があります。
しかし、すでに遺産分割協議が成立し、相続が発生したにもかかわらず、これをひっくり返すことはできるのでしょうか。
今回は、そもそも遺産分割協議をやり直すことはできるのか、また、どのような場合に遺産分割協議をやり直すことができるのかについて、ご説明いたします。

遺産分割協議がやり直せるケース

遺産分割協議をやり直せるケースというのは、大きく分けて、①相続人全員の合意で遺産分割協議をやり直す場合、②詐欺など遺産分割協議の無効や取消しの原因となる事情がある場合、に分けられます。

全員がやり直しに合意した

遺産分割協議が、調停や審判を経ずに当事者の話合いで成立した場合は、相続人全員が同意すれば、遺産分割協議をやり直すことができます。
ただし、誰かひとりでもやり直しに反対した場合は、他の全員が賛成してもやり直すことはできません。

遺産分割協議後に騙されたと気づいた・勘違いしていた

例えば、他の相続人から重要な財産の価値について嘘の説明をされていた、あるいは、そもそも財産がないと嘘をつかれたことで不利益な内容の遺産分割に合意してしまった、というような場合、詐欺(民法96条)として、法律上は取り消すことができます。
また、騙されていなかったとしても、財産の価値や存在について誤解していた場合は、錯誤(民法95条)として、これも取消しの原因となります。
ただし、こうした理由で取り消す場合は、取消す原因があることを知ってから5年、知らなかったとしても遺産分割協議から20年が経過すると、遺産分割協議を取り消すことはできなくなってしまいます。

遺産分割協議が無効になるケース(やり直しが必須になるケース)

上記に挙げたのは、当事者の合意や、取消しの意思表示によって遺産分割協議をやり直すケースですが、遺産分割協議に無効原因がある場合は、やり直しの合意や取消しを主張するまでもなく、協議は無効です。

参加していない相続人がいる、新たに相続人が現れた

遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。
生前の被相続人と仲が悪かった相続人でも、法定相続人である限り、そうした相続人も参加していなければ、遺産分割協議は有効に成立したとは言えず、無効です。
また、生前没交渉だったことから、遺産分割協議に呼ばれなかった相続人がいた場合も、全ての相続人が揃って有効に成立したとは言えないため、遺産分割協議は無効です。

認知症等、意思能力のない人が参加していた

相続人の中に、認知症などで、意思能力がない相続人がいた場合にも、遺産分割協議は無効になります。そのため、意思能力がない相続人を参加させて、形だけ遺産分割協議を成立させても無意味ということになります。
このような場合は、成年後見人を付けるなどして、遺産分割協議を行うことになります。

遺産分割協議後に新たに遺産が見つかった場合は?

遺産分割協議後に新たな遺産が見つかった場合、有効に成立した遺産分割協議は、当然には無効とならず、新たな遺産についてのみ、分割協議を行います。
ただし、新たに見つかった遺産の価値や重要性という点から、その遺産があることが判明していれば、遺産分割協議を行わなかったであろうという事情がある場合には、すでに成立した遺産分割協議も合わせて、取消しの対象となる可能性があります。

やり直したいけど相続人の中に亡くなった人がいる場合

遺産分割協議後に亡くなってしまった相続人がいる場合、合意による遺産分割のやり直しを行うためには、その方の相続人全員を集めて、遺産分割協議をやり直す必要があります。

遺産分割協議のやり直しはいつまで?時効はある?

相続人全員の合意で遺産分割協議をやり直す場合は、期間制限はありません。
錯誤や詐欺を理由に取り消す場合は、上記で述べたように、取消しの原因を知った時から5年、知らなかった場合でも20年が過ぎた場合は、取り消すことはできなくなります。
相続人に漏れがあった場合など、無効原因がある場合は、遺産分割協議そのものが無効ですので、無効を主張することに期間の制限はありません。

遺産分割協議をやり直す場合の注意点

遺産分割協議をやり直せる場合でも、いくつか気を付けなければならない点があります。
例えば、遺産分割協議のやり直しに伴って課される税金に注意しなければなりません。

遺産分割のやり直しには贈与税がかかる

遺産分割協議をやり直す場合、税務上、それは遺産分割ではなく、相続人間で財産の譲渡・取得が行われたと評価されます。
そのため、やり直しがなければ、相続税の負担だけで良かったのに、遺産分割協議をやり直すことで、高額の譲渡所得税や贈与税が課されるリスクがあります。

不動産がある場合は不動産取得税や登録免許税が発生する

遺産分割協議をやり直し、不動産の取得者を変更する場合、新たな取得者には不動産取得税がかかります。
また、新たな登記をするに際して、登録免許税が発生します。

やり直しができないケースはある?

上記で説明したように、相続人間の合意で遺産分割協議をやり直すためには、相続人全員の同意が必要になります。
そのため、ひとりでもやり直しに反対している人がいる場合には、やり直すことはできません。
また、詐欺や錯誤などを理由に遺産分割協議を取り消す場合は、5年または20年という期間制限があるため、気づいた時には取消しができなくなっていたという事態もありえます。

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遺産分割協議のやり直しについては弁護士にご相談ください

遺産分割をやり直したい場合には、まずやり直しの理由があるのか検討しなければなりません。
また、やり直しができる見込みがあったとしても、税務上の問題点など、考慮しなければならない要素は多岐にわたります。
そのため、遺産分割のやり直しを検討された際は、まずは弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

離婚調停において合意がなされた場合、最終的に「調停調書」が作成されます。
調停調書は、調停における合意内容を確約する重大な書面です。調停調書には、確定判決と同じ効力があり、原則として、後から調停調書の内容を変更することはできません。そのため、調停調書に記載される合意内容(調停条項)はきちんと確認する必要があります。

そこで、合意内容を確認する際に、どのようなことに注意したら良いのかについて、ご案内いたします。
本記事では、調停調書の効力や注意点、記載すべき事項等を詳しく解説していきます。調停成立後の手続きについてもご説明しますので、ぜひご覧ください。

調停調書とは

離婚調停における調停調書とは、離婚について調停で取り決めた内容が記載された書面です。裁判所書記官が調書を作成し、裁判官が当事者と調停委員の前で読み上げ、異論が出なければ確定し、調停が成立します。

調停調書の効力

調停調書は、確定判決と同じ効力を有する書面であり、確定判決と同様に「債務名義」となります。
債務名義とは、債務者の給付義務などを強制的に履行させる手続き(これを「強制執行」といいます。)を行う際に、その前提として必要となる公的機関が作成した文書のことをいいます。
そのため、調停調書の内容が守られない場合には、訴訟手続きを踏まずに強制執行をすることができます。
なお、調停成立は当事者の合意が前提ですので、調停成立の不服申し立ては、基本的に認められません。

公正証書との違い

調停調書と混同しやすいものに、「公正証書」があります。公正証書は、公証役場で公証人に作成してもらう公的な文書です。調停調書とは、作成場所と作成者が異なります。
また、調停調書と公正証書では、離婚において用いられる方法が異なります。夫婦間で話し合って合意したうえ、離婚届を提出して受理されれば、協議離婚というかたちで離婚が成立します。この際、夫婦間で取り決めた内容を書面にしたものを「離婚協議書」といい、これを公正証書にすることもできます。
対して、調停調書は、離婚調停において夫婦が離婚について合意した場合に作成されるものです。

和解調書との違い

調停調書と混同しやすいものとしては、「和解調書」というものも挙げられます。調停調書と和解調書は、裁判所によって作成される、という点は共通するものの、前提となる手続が違います。
離婚に関する和解調書は、調停不成立となり審判や訴訟に移行した後、当事者が合意(和解)できた場合に作成される書面です。調停手続においては和解調書が作成されることはありません。
和解調書も、調停調書と同等の効力があるため、強制執行が可能です。

調停調書の内容を確認する際のポイント

調停調書は、離婚調停が成立した際に、裁判官が合意内容を読み上げ、誤りがないかを当事者双方が確認した上で作成されます。
調停成立後は、基本的に調停調書の記載内容を変更・撤回することができません。
そのため、調停調書に記載された内容の確認は、慎重に行う必要があります。 以下で、特に注意すべきポイントをいくつかご紹介します。

離婚成立の形態

離婚調停を経た場合の離婚成立の形態としては、「調停離婚」と「離婚届提出」の2つがあります。
「調停離婚」は、調停が成立した時点で離婚が成立する場合です。この場合、調停調書には「申立人と相手方は、本日、調停離婚をする」といった合意内容が記載されます。その後、当事者が役所に離婚の報告(戸籍上の手続き)を行うことで完了します。

一方、「離婚届提出」は、調停の場で離婚届を作成し、役所に提出する場合です。この場合、調停期日において直ちに離婚が成立するわけではなく、離婚届が受理された時点で初めて、協議離婚としての離婚が成立します。そのため、戸籍には“調停で離婚した”という記録が残りません。

離婚届出義務者

離婚の形態を「離婚届提出」にした場合、申立人と相手方のどちらが離婚届出義務者となるかを、調停調書に記載しなければなりません。義務者が届出をして受理されない限り、離婚は成立しないので、あらかじめ注意して確認する必要があります。

一般的には、“氏の変更”や“離婚後の戸籍”を選ぶ側(婚姻時に相手の戸籍に入った側)を離婚届出義務者とすることが多いです。本人が手続きした方が効率的ですし、誤りも防げるからです。

財産分与

離婚調停で財産分与について取り決めた場合、後に取り決めた金額が支払われないときに強制執行するケースに備え、財産分与の金額や支払方法等をきちんと確認し、調停調書に記載しておく必要があります。

また、金銭としてではなく、不動産や自動車等の財産そのものを受け取る場合、ご自身の財産とするには名義変更(登記)が必要になります。通常は、調停調書があれば単独で名義変更することができます。しかし、調停調書の内容によっては、相手の協力がなければ名義変更できない場合もありますので、合意内容を確認する際には注意が必要です。

慰謝料

離婚調停では、離婚と併せて慰謝料について取り決める場合もあります。
慰謝料は、受けた精神的苦痛を賠償してもらうお金ですから、相手には誠意をもって支払ってもらわなければなりません。
そこで、慰謝料の金額や支払方法、支払期限などを、調停調書において明確に定めておく必要があります。また、遅延損害金などの罰則を設けることで、未払いの防止にもつながります。

養育費

養育費については、毎月の支払額や支払日、支払方法、支払期間等を定めます。 特に支払期間については、いつまでとするのか等を具体的に取り決めておくことが必要となります。
養育費は、子のためのお金ですが、未払いが多いのが現実です。そのため、調停調書に必要事項を漏れなく記載して、強制執行できるよう備えておくことも重要です。

親権、面会交流

未成年の子供を持つ夫婦が離婚する際には、子供の親権について定めなければならず、調停調書に必ず記載されることになります。後から親権者を変更することは非常に難しいため、夫婦のどちらを親権者とするのか、取り決めた内容が調停調書に正確に記載されるよう、注意して確認する必要があります。

また、親権者とはならず、さらには子と離れて暮らすことになった非監護親について、子との面会交流を取り決める場合があります。このように面会交流を併せて取り決めた場合も、合意内容の確認は慎重に行う必要があります。
取り決めたとおりに面会交流が実施されない等のトラブルが生じた場合、間接強制という対処法をとることも考えられますが、そのためには、面会交流の日時や頻度、1回あたりの時間、子の引渡しの方法等、詳細を明確にし、調停調書に記載しておく必要があります。

調停によって離婚が成立した場合の離婚届提出までの流れ

調停離婚の場合、調停の成立と同時に離婚も成立しますが、戸籍の記載は手続をしなければ変わらないため、離婚調停の成立後10日以内に、役所に離婚届を提出する必要があります。
以下で具体的な流れを説明します。

調停調書の謄本を交付してもらう

離婚届を提出する際には、調停調書の謄本(または省略謄本)も併せて提出しなければなりません。調停調書謄本は、調停を行った家庭裁判所に対して申請し、交付してもらいます。
調停調書の申請方法には、郵送申請と、直接裁判所に行って申請する来庁申請があります。郵送申請の場合、調停調書謄本が手元に届くまでには日数がかかるので、急ぎの場合には来庁申請を行うとよいでしょう。
どちらの申請方法でも、調停調書謄本1枚につき150円分の収入印紙代がかかります。郵送申請の場合は、さらに郵便切手代(※金額は、届け先や申請する調停調書謄本の枚数によって異なります。)が必要になります。

離婚届を役所に提出する

調停成立後は、10日以内に役所へ離婚届を提出します。
提出先は、「夫婦の本籍地の市区町村役場」が基本です。本籍地以外でも届出は可能ですが、その場合、夫婦の戸籍謄本も添付する必要が生じます。戸籍謄本の取寄せにも数日かかるため、早めに手配しましょう。
なお、期限を守らないと5万円以下の過料に処せられる可能性があるため、注意が必要です。

調停調書の謄本が届かない場合は

調停調書の謄本は、通常、郵送申請をしてから数日~1週間程度で届きます。1週間以上経っても届かない場合は、送付先の家庭裁判所に問い合わせるようにしましょう。

調停調書の記載内容を相手が守らないときは

調停調書の記載内容を相手方が守らないときは、権利者が相手方に履行をさせるために、「履行勧告」の届出、「履行命令」、「強制執行」の申立てという方法をとることができます。
「履行勧告」とは、裁判所が相手方に書面で義務の履行を勧告する制度です。履行勧告に従わない場合であっても、強制することはできませんが、裁判所から書面が届くことにより、任意の履行を期待できるという効果があります。
「履行命令」とは、調停調書の記載内容が金銭などの債権である場合に、裁判所が相手方対して履行するよう命ずる制度です。この履行命令に正当な理由がなく従わない場合には、10万円以下の過料に処される可能性があるという意味で、履行勧告よりも効力が強いといえます。

「強制執行」とは、相手方に対し調停調書の記載内容を強制的に履行させる制度です。相手方の給料や財産を差し押さえて、強制的に回収するという方法が代表的な例といえます。強制執行を申し立てるためには、調停調書の正本が必要です。謄本しか手元にない場合は、離婚調停を行った家庭裁判所に対して正本の交付申請をしなければならないので、ご注意ください。
なお、履行勧告や履行命令を経ずに、最初から強制執行を申し立てることも可能です。

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調停調書に関するQ&A

手元に届いた調停調書を確認しましたが、内容の変更や追加は可能ですか?

調停調書は、「計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤りがあるとき」に限り、家庭裁判所の更正決定によって変更してもらうことができます(家事事件手続法269条1項)。このように、調停調書の内容を事後に変更してもらうことは非常に困難ですので、合意の内容を事前によく確認し、意に沿わない調停調書が作成されることがないように、十分気を付ける必要があります。
なお、家庭裁判所に更正決定をしてもらうことができる期間の制限はありません。

相手からのDVが心配で調停調書に現在の住所を載せたくない場合、何か方法はありますか?

相手に知られたくない情報がある場合、裁判所に「秘匿申出」を行うことができます。手続きとしては、裁判所に「秘匿申出書」を提出するだけで完了します。 秘匿申出書には、どの情報を隠したいか(住所・勤務先・電話番号など)とその理由を記載します。
ただし、秘匿申出をしても必ず秘匿措置がとられるされるわけではありません。開示するリスクが低い場合や、どうしても開示が必要な場合、秘匿措置がとられない可能性もあります。
また、裁判所に提出した書類は相手も自由に閲覧・謄写できます。そのため、知られたくない情報は黒塗りしたり、代理人弁護士の所在地を記載したりと、ご自身の対策も必要です。

裁判所での調停調書の保管期間はどれくらいですか?

法律上の明確な規定はありませんが、現在の家庭裁判所における運用によると、調停調書の保管期間は30年です。 そして、調停調書以外の記録の保管期間は5年です。
ただし、今後、法律が改正されたり、家庭裁判所の運用が変更されたりする可能性はありますので、ご注意ください。

調停調書を役所に提出しなければいけないのはなぜですか?

離婚調停の成立によって、離婚(調停離婚)は成立しますが、戸籍の記載が自動的に変更されるわけではありません。
法律上、役所に戸籍の届出を行う必要があり、その届出の際に調停調書謄本の提出が必要となります(戸籍法77条、63条1項)。この届出は、既に発生した事実又は法律関係についての届出であり、「報告的届出」といいます。報告的届出も法律上の義務であり、これを怠った場合は過料に処される可能性がありますので、注意が必要です。

調停調書は再発行してもらえますか?

調停において合意が成立した場合、その合意を記載した調書の正本、謄本又は抄本は、裁判所書記官に対して交付を請求することができますので、再発行してもらえます。
また、調停が不成立だった場合、その事件が終了した旨を記載した調書の正本、謄本又は抄本についても同様です。
なお、取下げにより終了した事件の場合、記録の閲覧又は謄写、その正本、謄本又は抄本の交付については、家庭裁判所の許可を得る必要があります。

調停調書に、子の親権は私と書かれています。私の扶養に入ったことになりますか?

「扶養に入る」という言葉は、①所得税の扶養親族、②住民税の扶養親族、③社会保険の扶養親族を指すことが多いようです。また、④勤務先から扶養手当を支給される場合もあります。
①から④は、それぞれ子の年齢、収入、生計維持状況等に応じて要件に該当するか否かが異なりますし、それぞれ申告や申請を行うなどの手続が必要です。 そのため、調停調書に親権者の記載があるからといって、自動的に「扶養に入る」わけではありません。
また、子の年齢、収入、生計維持状況等によっては「扶養に入る」ことができない場合もありますので、注意が必要です。

調停調書に関する疑問や不安は、弁護士に相談しましょう

調停調書は、離婚調停で合意した内容が記載され、確定判決と同じ効力があるという重要な書類です。
しかし、夫婦の合意内容と調停調書の記載内容に齟齬がないか等について、一般的には判断がつかない場合も少なくありません。そのため、離婚調停の期日において合意内容を確認する際には、その内容に間違いがないか注意深く確認しなければなりません。さらに、調停調書謄本の交付を受けた際も、その記載内容に誤りがないかをきちんと確認する必要があります。
以上を踏まえ、ご自身だけで確認することが心配な方は、ぜひ弁護士にご相談・ご依頼ください。

交通事故に遭ったものの、自分にも相手方にも非があるような場合、お互いに「過失」があるものとされます。そして、いずれがどれだけ注意義務に違反かしたかを双方の比率で表すことを「過失割合」といいます。
この過失割合は、事故の態様により異なりますが、今回は、計算方法を説明しやすくするため、当事者の過失割合を6対4として、以下で解説していきます。

交通事故の過失割合6対4の慰謝料について

加害者 被害者
過失割合
損害額 1000万円 2000万円
請求金額 1000万×60%=600万円
1000円-600円=400万円
2000万×40%=800万円
2000万-800万=1200万円
実際にもらえる金額 0円 1200万-400万=800万円

過失割合が6対4になるケース

過失割合が6対4になるケースは、様々です。自動車同士か、片方が歩行者またはバイク・自転車かというように、乗り物によっても過失割合は変わってきます。
交通事故の事例を集めた「判例タイムズ」という事例集に、各事故の過失割合が定められています。

自動車同士の事故

過失割合が6対4となる、自動車同士の事故のケースです。

①信号のない交差点ですが、Aの走行する道路もBの走行する道路も幅はほぼ同じです。直進してきたBと、Bの左方から直進してきたAが衝突した場合、左方優先の法則から、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

②信号機のない交差点で、一方が明らかに広い道路の場合、見通しのきかない交差点であっても、広い道路の方から減速せずに交差点に進入したAと狭い方の道路から減速して進入したBが衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

③一方に一時停止規制があり、信号機のない交差点の場合、Bが一時停止したものの、左右を確認のうえAの動向に気付いたが、Aとの距離感やAのスピードを把握しきれないまま交差点に進入し、Aと衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

④Aが信号を黄色と認めたまま交差点に進入し直進しようとしたが、Bも黄信号の状況で交差点に進入し、右折しようとしたためAと衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑤道路幅はA側もB側もほぼ同じ交差点であるが、交差点を直進していたAに対し、左方から右折してきたBが衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑥一方が明らかに広い道路であるが、Aが狭い道路から交差点を直進しようとしてきたときに、Bが広い道路から狭い道路へ進入するため右折してAと衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

⑦道路幅はA側もB側もほぼ同じ交差点であるが、AとBがともに右折しようとして衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

⑧一方に一時停止規制がある交差点で、一時停止規制のある交差点から直進しようとしたAと一時停止規制のない道路から交差点に進入し、右折しようとしたBが衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。
Bが道路状況などにより、あらかじめ左端側に寄れない場合に、左折しようとしたところ後続直進車Aと衝突したケース。Bが衝突した場合、過失割合は、Bが6、Aが4になります。

⑨Bにおいて、あらかじめ左端側に寄ることが困難な状況で、左折しようとした際に後続の直進車であるAと衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑩左折しようとするBが道路条件などによりあらかじめ車線の中央に寄って右折できない場合に、直進後続車Aと衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑪T字路で、合流する道路の幅が共に同じ状況において、AとBがどちらも右折しようとして衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑫交差点において、赤信号で直進し進入した自動車(A)と、同様に赤信号で直進したバイク(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

自動車とバイクの事故

①信号がない交差点において双方の道路幅がほぼ同じ、減速せずに直進したバイク(A)と、バイクの左方から減速しつつ直進した自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

②信号のない交差点において、一方が明らかに広い道路の場合、狭い道路からバイク(A)が進入し、広い道路から自動車(B)がそれぞれ交差点を直進しようとして衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

③交差点において、青信号で直進した自動車(A)と、同じく青信号で対向方向から右折したバイク(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

④双方が赤信号で交差点に進入し、右折しようとする自動車(A)と、直進しようとするバイク(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

⑤交差点において、双方が赤信号で交差点に進入し、右折しようとするバイク(A)と、直進しようとする自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑥信号機のない交差点で右折しようとするバイク(A)と、対向車で直進しようとする自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

⑦信号機のない交差点で右折しようとするバイク(A)と、対向車で直進しようとする自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

⑧一方が明らかに広い道路からなる交差点において、狭い道路から進入し、右折しようとするバイク(A)と、広い道路を直進する自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

⑨一方が明らかに広い道路からなる交差点で、広い道路から進入し、右折しようとするバイク(A)と、狭い道路を直進する自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑩一方が明らかに広い道路からなる交差点で、狭い道路から進入し、直進しようとするバイク(A)と、広い道路から交差点に進入し右折しようとした自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

⑪一方が優先道路からなる交差点の場合、優先道路から交差点に進入し右折しようとする自動車(A)と、非優先道路から交差点を直進しようとするバイク(B)が 衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑫交差点で先を走るバイク(A)が左折しようとしたところ、直進後続車(B)に衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

⑬先を走るバイク(A)が進路変更しようとしたところ、後続直進車(B)と衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

⑭バイク(A)が道路上で転回し終わった後、後方から走行してきた自動車(B)と衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

自動車と自転車の事故

①青信号で交差点に進入し、黄信号で右折しようとした自動車(A)と、黄信号で交差点に進入し、直進しようとした自転車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

②黄信号で右折しようとした自転車(A)と同じく黄信号で直進しようとした自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

③青信号で交差点に進入し、赤信号で右折しようとした自動車(A)と、赤信号で交差点に進入し、直進しようとした自転車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

④黄信号で交差点に進入し、赤信号で右折しようとした自動車(A)と、赤信号で交差点に進入し、直進しようとした自転車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

⑤信号のない交差点において、右折しようとした自転車(A)と、直進しようとした自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑥一方に一時停止規制のある交差点で、一時停止規制のある道路から交差点に進入し、直進しようとした自転車(A)と、一時停止規制のない道路を直進し交差点に進入しようとした自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑦一方に一時停止規制のある交差点で、一時停止規制のある交差点から右折しようとした自転車(A)と、一時停止規制のない道路を直進し交差点に進入しようとした自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑧一方に一時停止規制のある交差点で、一時停止規制のある交差点から直進しようとした自転車(A)と、右折するために交差道路の左方から交差点に進入してきた自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑨一方に一時停止規制のある交差点で、一時停止規制のある交差点から直進しようとした自転車(A)と、右折するために交差道路の右方から進入してきた自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑩一方が優先道路からなる交差点で、直進するために非優先道路から交差点に進入してきた自転車(A)と同じく直進するために優先道路から交差点に進入してきた自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑪一方が優先道路からなる交差点で、右折するために非優先道路から優先道路に進入してきた自転車(A)と、優先道路を直進し、交差点に進入してきた自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑫一方が優先道路からなる交差点で、直進するために非優先道路から交差点に進入した自転車(A)と右折するために優先道路の右方から交差点に進入した自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑬一方が優先道路からなる交差点で、直進するために非優先道路から交差点に進入した自転車(A)と右折するために優先道路の左方から交差点に進入した自動車(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

⑭路外から道路内に進入した自転車(A)が、道路内を直進する自動車(B)と衝突した場合、過失割合は、Aが4、Bが6になります。

自動車と歩行者の事故

①安全地帯が設けられている道路で、青信号で交差点に進入した自動車(A)が、黄信号で横断歩道を歩行し始め、安全地帯の手前または直後に黄信号から赤信号になったにも関わらず、安全地帯の先まで進んだ歩行者(B)と衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

②黄信号で交差点を右左折した自動車(A)と、赤信号で横断歩道の直近(幹線道路であれば15~20m、それ以外であれば10~15mほどの地点)を横断した歩行者(B)が衝突した場合、過失割合は、Aが6、Bが4になります。

自転車と歩行者の事故

歩行者が自転車と衝突する交通事故では、どうしても歩行者の方が重傷になりやすく、自転車は凶器のような扱いを受けることも少なくありません。
そのため、自転車は歩行者以上に重い注意義務を課されており、基本の過失割合は自転車の方が重くなると考えられています。しかし、事故によっては過失割合が歩行者:6、自転車:4となるケースもあります。下記のような場合は、それにあたります。

  • 赤信号で横断歩道を渡っていた歩行者と、青信号で前方または後方より右左折してきた自転車が衝突した場合
  • 信号で横断歩道を渡っていた歩行者と、黄信号で交差道路より直進してきた自転車がぶつかった場合

交通事故の被害者に過失があった場合、自己負担を少しでも減らすには?

被害者だと思っていても、自分にも過失があると認められることはままあります。その場合、健康保険を利用して治療を継続する方法があります。
仮に、過失割合が6対4で、自身に4の過失が認められた場合、治療費も4割は負担しなければなりません。しかし、その自身が負担すべき4割の治療費のうち、健康保険を適用すればその3割の負担ですみます。また、任意保険と異なり、保険の適用により保険料が上がることもありません。
そのため、健康保険を適用できるかどうかはまず確認して、適用は積極的にすることをおすすめします。

相手(加害者側)が過失割合に納得しない場合の対処法

加害者は、そう簡単に過失割合を受け入れてはくれません。こちら(被害者)が小さい過失を主張しても、過失はあるものとして、強く主張されるでしょう。
交通事故の過失割合には、弁護士による判例解釈が必要になるケースも多いので、この場合には、まず弁護士に相談しましょう。

過失割合6対4から修正することに成功した解決事例

参考資料が足りない中、弁護士の介入によって過失割合の修正に成功した事

被害者は、自転車を運転して交差点に差し掛かったところ、交差道路左方から、時速50~60kmで直進してきた相手方車両に跳ね飛ばされるという事故態様でした。
当初の過失割合は、当方:相手方は4:6を主張されてきましたが、弁護士が既存の資料を収集し、2対8にまで修正することができました。

過去の判例を用いて過失割合をより有利に修正できた事例

事故態様は、歩車道の区別のない道路において、依頼者が道路の右側を通行していたところ、正面から走行してきた自転車と衝突したという事案です。
被害者の素因(もともとの特性等)が影響したとされ、被害者に4割の過失があるとされたところ、弁護士が過去の裁判例をあたり、被害者の過失を3割まで減らすことに成功しました。

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過失割合が6対4でも弁護士費用特約を使うことができます!まずは弁護士にご相談ください!

過失割合といっても、自分の経験した事故がどのくらいの過失割合かわからないことも多いでしょう。
少しでも事故のことを知り、わからないので過失割合を検討したい場合、ぜひ弁護士にご相談ください。
また、過失割合6対4では被害者の示談金は4割減額されてしまうので、そんなはずはないと戦いたい場合、きちんと相手方当事者にその主張をしていくことが大切です。
保険会社に弁護士特約に加入していれば、弁護士費用もほとんどかからずに示談することができます。交通事故の際、ずは、お気軽に弁護士にご相談ください。

相続が発生した際、相続する人はどの範囲までの人なのでしょうか。
以下で解説していきます。

相続人の範囲 (法定相続人)

端的に言うと、被相続人(亡くなった方)を基準に、戸籍上の配偶者は必ず相続人となり、
それ以外は、子(第1順位)⇒父母(第2順位)⇒兄弟姉妹(第3順位)の順で相続人となります。
どこかの順位でひっかかれば、その数字の少ない順位どまりで相続人となります。
例えば子が相続人となれば、父母や兄弟姉妹が存命であっても父母や兄弟姉妹は相続人となりません。
そもそも子がおらず、父母も亡くなっていて、兄弟姉妹が存命であれば、兄弟姉妹のみが相続人となります。
図表でお示しすると以下のとおりです。

相続順位 相続人 相続人が亡くなっている場合
必ず相続人になる 配偶者 (2分の1)
第1順位 子 (直系卑属)
子全員で(2分の1)
第2順位 父母 (直系尊属)
父母全員で(3分の1)
祖父母
第3順位 兄弟姉妹 (傍系血族)
兄弟姉妹全員で(4分の1)
甥姪

配偶者は必ず相続人

配偶者がいる場合は、必ず相続人となります。
「ポイントは戸籍」としておさえておくとよいです。
相続発生時点で配偶者である必要があり、離婚した後に相続が発生した場合は、配偶者は相続人となりません。
離婚協議の最中や別居中であっても、配偶者は相続人となる一方、内縁関係では相続人となることはできません。

第1順位は子

配偶者以外の相続人で優先して相続人となるのは被相続人の子です。
子が既に亡くなっていたとしても、孫⇒ひ孫……と遡っていき、相続人となります。
養子もここでいう「子」に該当します。

第2順位は親

故人に子がいない場合は、親が法定相続人となります。

第3順位は兄弟姉妹

故人に子も親もいない場合は、兄弟姉妹のみが法定相続人となります。

相続人が亡くなっている場合の代襲相続について

例えば、子が亡くなっているものの、孫が存命であった場合には、 代襲相続が発生して、孫が第1順位として相続人となります。

相続人になれない人

以上が基本的な相続人の範囲についての考え方ですが、相続人の範囲に含まれているとしても相続人になれないケースがあります。

相続放棄をした相続人の子

相続人である子によって相続放棄がなされた場合、その相続人である子は、その相続において初めからいなかったものとして扱われます。
相続放棄がなされた場合は代襲相続も発生しないので、孫も相続人となることができません。

相続欠格になった人

例えば、意図的に被相続人や自分以外の相続人を死亡させたり、死亡させようとして刑に処せられた方等は、相続欠格事由があるとされ、法律上当然に相続人でなくなります。

相続廃除された人

相続人の廃除という仕組みがあります。 一言でいうと、推定相続人から虐待されたり、重大な侮辱を受けた場合等に、予め家庭裁判所で手続きしたり、遺言書で、相続の対象から外す仕組みのことです。
もっとも、かなり極端な内容ですので、家庭裁判所で認められることはあまりありません。
なお、相続欠格との主な違いは、廃除が被相続人によるアクションが必要となるのに対し、欠格の方が法に抵触することでいわば自動的に相続人になることができなくなる点にあります。

相続人が誰もいない場合はどうなるのか

相続人が誰もいない場合で、被相続人にて何もしていない場合、被相続人が保有していた財産は国の財産となります。

相続財産の範囲

亡くなる方が生前に持っていた財産の内、お墓等の祭祀財産やその方固有の権利義務(生活保護の受給権等)を除いたものを相続財産といいます。

プラスの財産

不動産、預貯金、有価証券や貸付金等、多岐にわたります。

マイナスの財産

相続財産は「プラス」のものに限りません。「マイナス」のものもあります。典型的には借入金で、ローンや、クレジットの残債務等が含まれます。
支払わなければならない公租公課もマイナスの財産として相続されます。

対象とならないもの

1 祭祀財産
 一言で言えば、祖先を祀るために必要な財産です。家系図、位牌、仏壇、墓地等で、相続とは別系統で整理がなされるため相続財産とはなりません。

2 一身専属権
 例えば雇用契約上の地位のように、「その人でないと意味がない権利・義務」をイメージしてもらえればよいでしょう。

相続する割合 (法定相続分)

法定相続分を整理すると以下のとおりです。

相続人 相続する割合
配偶者のみ 配偶者 全て
配偶者と子 配偶者 1/2、子(全員で) 1/2
子のみ 子(全員で) 全て
配偶者と親 配偶者 2/3、親(全員で) 1/3
親のみ 親(全員で) 全て
配偶者と兄弟姉妹 配偶者 3/4、兄弟姉妹(全員で) 1/4
兄弟姉妹のみ 兄弟姉妹(全員で) 全て

遺言者の内容が優先されることに注意

確定など豊富な経験と知識でサポートいたします

以上の説明は、民法の定めによるものであり、遺言がない場合によるものです。
もし遺言がある場合には原則として遺言の内容が優先されますのでご注意ください。

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遺産相続でお困りならば弁護士にご相談ください。相続人や相続遺産の確定など豊富な経験と知識でサポートいたします

相続人の範囲や相続の対象となる財産の範囲は、いずれも極めて重要な問題です。遺言や相続でお困りならば是非相談いただき、疑問を解消いただくとよいでしょう。

相続トラブルに直面した時、「遺留分」という言葉を見かけたことはありませんか。 よく、「相続人の最低限の取り分」などと説明がなされていますが、具体的に、 誰が、何を、いくら、どのように受け取ることができるのでしょうか。以下で解説していきます。

「遺留分」は放棄できるのか?

遺留分については、相続が始まった後であれば、制限なく放棄ができます。 相続がはじまる前にも放棄はできますが、その場合は、家庭裁判所の許可が必要となります。 これは、他の相続人から遺留分の放棄を強制されることを防ぐためです。

そもそも遺留分とは

一定の範囲の親族が取得できる、遺産の最低限の割合のことをいいます。
親族であればだれでも取得できるわけではなく、兄弟姉妹を除く相続人が取得可能です。
最低限の「割合」ですので、具体的に、「金○○万円」と固定で決まっているわけではありません。

遺留分放棄とは

自身の持つ遺留分については、相続が開始する前であれば、家庭裁判所の許可を求め、認められれば放棄できます。
相続を開始した後であれば、特に家庭裁判所の許可なく、遺留分を放棄できます。
相続放棄とは異なり、相続権そのものを手放すわけではないため、相続をする場面というのはまだあり得るということとなります。

遺留分放棄のメリット・デメリット

メリット

遺言書の内容がそのまま実現しやすくなると言えます。
遺留分がある状態ですと、遺言の内容によっては、遺留分を侵害することがあり得るため、後日トラブルが発生しやすくなります。
その可能性を0にできる点で遺留分の放棄には遺言を残す人にとってメリットがあります。

デメリット

遺留分の放棄を一度してしまうと、原則として撤回できないため、慎重に検討をする必要があります。
なお、相続開始前の遺留分の放棄の場合には、基本的に代償が必要と言われており、手続が少し複雑化することもデメリットと言えばデメリットでしょう。

相続開始前(生前)に遺留分放棄する方法

まず、家庭裁判所に遺留分放棄の申立てをし、家庭裁判所から示される審問期日に家庭裁判所で審問を受ける必要があります。審問とは、裁判官が申立人に事情を聞く手続と考えればよいかと思います。
後日、家庭裁判所から遺留分放棄の許可がおりた場合には申立人に通知されます。

遺留分放棄の手続きの流れ

相続開始前に遺留分の放棄をする場合は、家庭裁判所の許可が必要ですが、 相続開始後であれば家庭裁判所の許可は不要です。

家庭裁判所が遺留分放棄の許可を出す要件

家庭裁判所は、権利者の自由意思、放棄理由の合理性・必要性、放棄と引き換えの代償の有無などを考慮し総合的に判断をします。

①本人の自由な意思に基づいているか

遺留分の放棄は、本人(遺留分の権利を持っている人)の自由な意思に基づいて行われていることが必要です。
被相続人や兄弟から威圧を受けたり、脅されたりして放棄を強要されていた場合には、本人の自由な意思による放棄とは言えないため、放棄は認められません。

②遺留分放棄をする合理的な理由があるか

相続開始前の遺留分の放棄にあたっては、合理的な理由が必要となります。単なる好悪の感情だけでは認められません。
例えば、
●遺留分権利者がもともと、被相続人から経済的援助を受けていた場合
●遺留分権利者の生活が安定しており、遺留分が紛争の火種となることを遺留分権利者が回避したいと考えているような場合

③放棄する遺留分と同等の代償があるか

遺留分の放棄にあたっては、放棄と引き換えに同等の財産を得ていることが必要となります。
この「同等の財産」というものは過去に受けたものでも差支えありません。

生前に書いた遺留分放棄の念書は有効か?

生前の書いていたとしても、生前に家庭裁判所の許可がなければ遺留分放棄の念書は有効にはなりません。

遺留分放棄を撤回することはできるか?

原則として認められません。
もっとも、遺留分放棄の前提として、放棄が詐欺や強迫などによって認められる場合は取消できる可能性があります。この場合には、家庭裁判所に対して、遺留分許可の取り消しの申立てを行い、裁判所により職権で許可を取り消してもらう必要があります。

相続開始後(死後)に遺留分放棄する方法

相続開始後に遺留分放棄をする場合には、相続開始前とは違い家庭裁判所の関与を必要としません。
もっとも、金銭にかかわることですから、紛争を予防する観点から書面で放棄の意思表示については明確にしておいた方がよいでしょう。
遺留分放棄の場合には、相続放棄と異なり、遺留分を除いた相続財産に対する相続権が残ってしまいますから、一切の相続権を放棄したいということであれば相続放棄の手続きを家庭裁判所で行う必要があります。

遺留分放棄に期限はあるのか?

相続開始後の遺留分放棄は、家庭裁判所への申立て等の手続きは必要なく、放棄の期限は設けられていません。
もっとも、遺留分を主張するための遺留分侵害額請求そのものには、期限が定められているため注意が必要です。

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「遺留分放棄」と「相続放棄」の違い

遺留分放棄では、放棄するのは遺留分だけですので、相続人としての地位は残っている状況となります。
したがって、遺留分を超える分については未だに相続することができるという結論となります。
相続放棄では、相続人としての地位を放棄することとなり、初めから相続人ではなかったこととして扱われます。

遺留分放棄すべきかどうかで判断に迷ったら、まずは弁護士にご相談下さい。

遺留分の放棄にあたっては、そもそも何の為にするか、どのタイミングでするかによって、手続きが変わってきます。
遺留分放棄が問題となる場面は通常、相続トラブルが発生する可能性のある難しい局面です。迷ったら、まずは弁護士に相談ください。

ある程度年齢を重ねると、相続の準備として遺言書の作成を検討される方も多いかと思います。
今回は公正証書遺言という、手間がかかる一方で確実に残せる方式の遺言をご紹介します。

公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、公証役場において、証人、本人、公証人立ち合いのもと作成される遺言書です。
公証人は元裁判官等といった人であるため、遺言書が不備により無効となることはありません。また、厳重に保管されますので、偽造や改ざんのおそれがありません。

公正証書遺言のメリット

公正証書遺言には他の遺言と比較してどんな長所があるのでしょうか。

紛失、偽造、変造のおそれがない

まず、公正証書遺言は作成後、厳重に保管されるため、第三者による紛失、偽造、変造のおそれがありません。

遺言書開封時の検認手続きが不要

公正証書遺言は作成にあたり公証人のチェックを受けるため、家庭裁判所での検認手続が不要というメリットがあります。

自筆できない人でも作成できる

公正証書遺言の内容は事前に文案を公証役場に提出しチェックを受けた上で、作成当日は確認のみが基本です。 したがって、自筆ができない人でも遺言書を作成できるというメリットがあります。

公正証書遺言のデメリット

作成に時間や費用がかかる

公正証書遺言を作成するにあたっては、公証役場に、文案を提出し、公証人のチェックを経なければなりません。
そしてチェックをパスしたとしても、本人や証人、公証人が一同に会する日の日程調整をしなければなりませんので、実際の作成日はどうしても数か月先ということになりやすいです。

2名以上の証人が必要となる

公正証書遺言の作成にあたっては2名以上の証人が必要となりますので、この証人たちの手配と、公証役場に集まる日程を調整しなければなりません。
少なくとも、本人、公証人、証人2人の合計4人の日程を調整するため、大変です。

公正証書遺言を作成する流れ

①証人2人の手配
②必要書類を整える(戸籍謄本や、印鑑証明、財産に関する書類等)
③遺言をする人(遺言者)と証人とで公証役場へ出向き打合せをする。
④公正証書遺言を公証人に作成してもらう。
⑤間違いがないことを確認し、遺言者、証人、公証人にて署名押印する。
⑥手数料を公証人に支払う

遺言書に書きたい内容のメモを作成する

まず、公証人と打合せをするために、どんな内容の遺言としたいか、メモを作成してまとめておきましょう。

必要書類を集める

公正証書の作成にあたり、以下のような書類が必要となります。
詳細は公証役場にご確認ください。

内容 必要書類
遺言者本人を証明するもの ・遺言者本人の印鑑登録証明書や運転免許証、マイナンバーカード等写真付証明書
・遺言者本人の実印
相続人との続柄が分かるもの 戸籍謄本、受遺者の住民票
証人の確認書類 住民票の写し、職業がわかる資料
不動産がある場合 登記簿謄本、固定資産税納税通知書等
預貯金がある場合 預貯金通帳のコピー
有価証券等がある場合 有価証券等のコピー

2人以上の証人を探す

公正証書遺言の作成には証人が2名必要です。

証人になれない人

証人は誰でもよいわけではなく一定の条件があります。
以下の①~③いずれかに該当する方は証人になれません。

①未成年者
 遺言の内容を理解する力がないためです。

②推定相続人等
 遺言そのものに利害関係があり、証人として相応しくないためです。

③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人
 公証人の関係者が証人となってしまうと、公証人が万一不正をしようとした場合に防ぐことができません。

証人と一緒に公証役場に行き、遺言書を作成する

いよいよ証人と一緒に公証役場に出向き、遺言を作成します。
どんなことに気を付けたらよいでしょうか。

遺言書を作成する公証役場はどこ?

公証役場であれば、どこでも作成できます。
もっとも、遺言をする方は高齢である場合が多く、可能な限りお住いから近いところで遺言書の作成をなさった方がよいでしょう。

公正証書遺言の作成が困難なケースと対処法

言語機能や聴覚に障害がある場合

公正証書遺言の作成には、原則として、遺言の内容を遺言者から公証人に「口述」すること、
そして、公証人は遺言の内容を遺言者に「読み聞かせ」で確認することが必要です。
しかし、遺言者に言語機能や聴覚の障害がある場合には、以下の対応が可能です。
「口述」 ⇒代わりに、遺言の内容を通訳人が手話又は筆談で公証人に伝える 「読み聞かせ」 ⇒代わりに、通訳人が手話で通訳することで遺言の内容を確認

署名できない場合

遺言者が病気や高齢のため、自分で署名ができない場合、公証人がその旨遺言書に付記することで署名にかえることができます。

公証役場に行けない場合

遺言者が病気や高齢のため、公証役場に行けない場合はどうすればよいでしょうか。
この場合は公証人が遺言者のもとに出張し、公正証書遺言を作成することができます。

公正証書遺言の作成を弁護士に依頼するメリット

遺言内容の相談ができる

遺言書の作成にあたっては、法的な観点からその内容をしっかり吟味しなければなりません。
公証人のチェックは方式(書式)のミスで遺言が無効になることを防ぐ観点から行われるものであり、
遺言者の希望を実現するためにはどうすればいいかといった、遺言の中身についての実質的な相談には応じてくれません。
加えて自分で法律について都度調べて遺言書を作成するとなると膨大なリサーチの時間と手間がかかってしまいます。
弁護士に依頼することで、早い段階から内容を練って万全の状態で遺言の作成ができるでしょう。

書類準備などの手間が省ける

特に戸籍謄本等は弁護士にて効率的に取り付けることができ、書類準備の手間が一部省ける場合があります。
もっとも、財産に関係する書類は弁護士に依頼するよりもご自身で取り付けた方が基本的には早く安く集めることができます。

遺言執行者として選任できる

依頼した弁護士を遺言執行者として選任できます。
遺言執行者とは、「遺言に記載されているとおり」に相続が実現できるよう、相続人のために動き回る人です。遺言の内容によっては、遺言執行者の選任により、遺言の実行可能性を高めることができる場合があります。

任意後見契約を結ぶことができる

任意後見契約とは、被後見人が後見人としたい人を事前に選び、被後見人が後見を必要とする事態となった場合に、後見人に面倒をみてもらうという契約です。
この任意後見契約を締結するにあたっては公正証書によることが必要です。

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公正証書遺言に関するQ&A

公正証書遺言にすれば確実に効力がありますか?

方式(書式)の不備が理由となって遺言が無効となることは考えにくいです。
その意味で他の遺言をする方法より確実と言えます。
しかし、公証人は中身に踏み込んでまでチェックをしてくれるわけではなく、内容まで保証してくれるわけではありません。
このような理由から、確実に効力があるとは言い切れません。

一度作成した公正証書遺言の内容を変更することはできますか?

作成した公正証書遺言は、いつでも、何度でも内容の変更が可能です。
この場合は基本的には最後に作成したものが優先します。
もっとも、最初に作成した時と同様、書類や手数料、証人を都合する必要があります。

公正証書遺言があることは死亡後通知されますか?

亡くなったことに紐づけて公証役場の方から通知がなされるわけではありません。

遺言書を見せてもらえません。公証役場で開示請求はできますか?

前提として、公証役場で(又は公証人の出張先で)遺言書が作成されていることが必要です。
その上で、相続人等、法律上の利害関係がある方は、公証役場に対して遺言の開示を求めることができます。
公正証書遺言の有無については、公証役場全体で検索することができるため、少なくとも遺言があるかないかについて確認するにあたって、どこの公証役場にすべきかを気にする必要はありません。

公正証書遺言に関する不安、不明点は弁護士にご相談ください

公正証書遺言は、普段馴染みのない、公証役場も絡んでの作成となるため、いざ作成をしようと思っても躊躇される方が多いのではないでしょうか。 加えて公証人がチェックするのは方式(書式)であり、遺言の中身まで公証人が相談にのってくれるわけではありません。 公正証書遺言の作成を検討されている方は是非弁護士にご相談ください。

浮気・不倫されてしまった時、どうすればいいのでしょうか。
浮気・不倫をされた際に慰謝料を請求するとなった場合、何が必要なのでしょうか。
以下で解説していきます。

浮気・不倫で慰謝料を請求するには証拠が必要!

裁判で、浮気・不倫で慰謝料を請求するには証拠が必要となります。
裁判所を使わず、交渉で解決を目指す場合でも、主張の根拠となる証拠があれば、交渉の内容が充実していきます。

LINE(ライン)にトーク履歴は浮気の証拠になる?

LINEのトーク履歴であっても、「不貞」(配偶者以外と肉体関係があったこと)を推認させる文章があれば、慰謝料請求の際の証拠となります。写真や動画、音声以外でも、文章の内容によっては証拠となるという点がポイントです。

浮気の証拠として有効になるやりとりとは?

いわゆる不貞(配偶者以外と肉体関係があったこと)を理由に慰謝料請求をするためには、肉体関係があったことを読み取れる文章が必要です。
単純に「仲がよさそう」といった内容だと肉体関係は読み取れないので、裁判で不貞慰謝料請求が認められることはないでしょう。

浮気の証拠がLINEのみだと慰謝料請求は難しい?

INEのメッセージだから証拠にならないということはありません。
あくまでその内容が重要で、不貞(配偶者以外と肉体関係があったこと)が読み取れる内容か否かが重要です。

LINE以外で浮気の証拠になるものとは?

LINE以外で不貞(配偶者以外と肉体関係があったこと)の証拠となるものは無数に考えられます。
ポイントは「肉体関係があったこと」が読み取れるかどうかですので、典型的には、動画、音声、写真、目撃者の証言(不貞をされた方や、ご友人)、不貞配偶者が不貞を認めた念書等があります。

LINEを裁判で使える証拠にする方法

LINEを裁判で使える証拠にするためには、端末のままではいけません。
印刷して紙として裁判所には提出するのが原則です。
動画や音声であれば、何か媒体に入れてデータを提出しつつ、
必要に応じて反訳も提出します。

LINEの画面を写真撮影する

裁判所に証拠として提出するためにLINEのやりとり中、必要な画面をスクリーンショット機能で撮影する等、提出するための準備を行いましょう。

LINE画面を撮影するときのポイント

そのメッセージが何月何日に送信されたものであるかがわかるように日付部分も含めてつなげて画面をスクリーンショットする等、工夫して撮影するようにしてください。

LINEのトーク履歴をバックアップする

LINEのトーク履歴のバックアップ機能を使って自分の携帯に送っておくのも有効な手段です。
編集が簡単にできるものですので、受信したら、すぐ記録媒体に記録してしまいましょう。事後的に編集できないような媒体がおすすめです。

相手を説得してLINEを見せてもらう

不貞した配偶者を説得してLINEを見せてもらうという方法もあります。
不貞した配偶者はうしろめたさから応じるケースは意外とあります。

LINEで浮気の証拠を掴むときの注意点

不貞(肉体関係)の慰謝料請求の際に、証拠の有無は非常に重要ではありますが、
証拠の収集に熱心になりすぎて「やりすぎてしまう」場合があります。
この場合は、不貞(肉体関係)とは別の問題としてむしろこちらが損害賠償をしないといけないことになりかねませんので注意が必要です。

相手のLINEを勝手に見ることは違法?

他人のIDやパスワードを勝手に使う場合等を除き、相手のLINEを勝手にみること自体がすぐに違法性を帯びるわけではありません。
なお、不貞(肉体関係)が認められるようなLINEのやりとりがあって、それを勝手にみたからといって証拠となることはありません。

ID・パスワードを勝手に使うと不正アクセス禁止法違反

IDやパスワードを入力しないと使用できないスマホ等について、本人の了解なくID・パスワードを入力することは、不正アクセス禁止法違反として刑事罰の対象となる可能性があります。

相手が浮気を認めたら「不貞の自認書」の作成を!

いつ、どこで、何回、肉体関係をもったのか自認書の作成を求めましょう。
ただし、暴力や脅しによって、無理やり作成させた場合には、証拠としての価値自体が争われることとなりますので注意してください。

よくある質問

浮気相手とはLINEだけの関係で、不貞行為がない場合でも慰謝料請求できますか?

問題の本質はLINEだけなのかどうかではなく、LINEで「どんなメッセージのやりとりがあったのか」という内容です。
実際に不貞行為(肉体関係)がなかったとしてもLINE上で肉体関係が推認できるようなやりとりがあった場合には慰謝料請求が認められる可能性があります。

LINEの証拠をもとに、浮気相手へ慰謝料を請求することは可能ですか?

可能ではありますが、浮気相手が既婚者であり、当方側が離婚を予定していないというような場合には、浮気相手から不貞配偶者にあてて慰謝料請求がなされ、事実上金銭のやり取りが発生せず和解が成立する可能性があります。

浮気の証拠を掴むために、LINEのトーク履歴を開示請求できますか?

任意での開示を拒絶された際、LINEのトーク履歴の強制的な開示請求は認められないのが現状です。そのため、LINEのやりとりを証拠として使いたい場合は、自力で集める必要があります。

浮気を匂わせるようなLINEを発見したら、まずは弁護士にご相談下さい。

浮気を疑わせるようなLINEやメールが確認できたらすぐ対応しましょう。
まずは弁護士に相談ください。

交通事故にあった際、過失割合が問題となるということは、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
過失割合は、受け取る賠償金の金額に大きな影響を与える要素です。
ではそのような重要な過失割合はどうやって決まっていくのでしょうか。

交通事故の過失割合を決めるのは誰?

結論から言えば、交通事故の過失割合を決めるのは、裁判では、裁判官が決めます。
交渉では、事故の当事者が基準となる書籍(後述)をもとに協議して定めます。

過失割合はどのように決まる?

交通事故の年間発生件数は、現状、平均して年間30万件程です。これだけの数の事故が毎年発生するわけですから、裁判になる事件もたくさんあります。
過失割合についての裁判所の判断もかなりの件数があります。それをまとめたのが別冊判例タイムズNo38という書籍です。通常は、この書籍を参考に過失割合を定めます。

まずは基本過失割合を確認する

まず基本の過失割合を確認しましょう。別冊判例タイムズNo38の目次から確認すると目当ての事故類型を調べやすいです。
道路の形状、信号機の有無、車、バイク、歩行者等の別から、ご自身の事故のパターンにもっとも近い事故類型を確認しましょう。

過失割合の修正要素を考慮する

世の中で発生している交通事故には様々なパターンがあります。
基本の過失割合そのものが当てはまらない場合であっても、基本過失割合の修正要素を踏まえれば、ご自身の事故にマッチする場合があります。

過失割合に納得できない!決まった過失割合は修正できないの?

示談が成立した後であれば、基本的に過失割合を修正することはできません。
交渉段階で過失割合を争う際には、まず上述の基本過失割合を踏まえた上で、事故状況がわかる証拠をとにかく集めていきましょう。
 その証拠を踏まえて、過失割合の修正に使える事実がないか確認しましょう。

過失割合を修正した事例

交渉で、相手方保険会社が基本過失割合の30:70を主張(当方側が30)し続け、止む無く訴訟提起をして、10:90の過失割合に修正することができた事例があります。
この事例では弊所の担当弁護士がドライブレコーダーの画像を示し、ほぼ並走している状態で進路変更をした事実を証明、その事実が修正要素となることを説明し、上述の修正を前提に和解が成立しました。

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過失割合は賠償金額に大きく影響するため、相手方保険会社も激しく争ってきます。
お困りでしたら是非弁護士にご相談ください。

交通事故の過失割合が7対3の場合の慰謝料額

加害者 被害者
過失割合 7 3
損害額 800万円 2,200万円
請求金額 800万円×0.3=240万円 2,200万円×0.7 =1540万円
実際にもらえる金額 0円 1540万円-240万円=1300万円

注被害者の請求金額は、損害額から過失割合分を減額したものです。

注意すべき点は、請求金額=現実に受け取れる金額ではない、ということです。
過失割合とは、平たく言えば「悪さの割合」なので、現実に受け取れる金額を考えるにあたっては、受け取る人の「悪さ」も考慮しなければなりません。
表の例で言えば、被害者の請求金額から加害者の請求金額を減額する必要があります。

過失割合7対3の修理代について

交通事故の物損もケガと同様、過失相殺の対象となります。
例えば、加害者7:被害者3の過失割合で、
加害者の損害210万円:被害者90万円の物損の損害があった場合、
加害者の請求額は210万円×0.3=63万円
被害者の請求額は 90万円×0.7=63万円
被害者が実際にもらえる金額は、63万円‐63万円=0万円となります。

基本過失割合が7対3になるケース

自動車同士の事故

自動車同士の事故で7:3となるのは以下のケースです。

交差点で、青信号で直進したAと信号残り車(青信号で進入はしたが赤信号になるまでに通過できなかった車)Bが衝突したケースでは、Bの方が過失は重くなります。
Bは黄色信号による警告を受けた上で敢えて侵入してる点Aより「悪い」と言えるからです。
一方で、Aは黄色信号でも進入してきたBについて確認できたともいえ、衝突前に調整の余地なしとは言えないため過失がつきます。
A:B=3:7となります。

信号のない交差点で、広い道を直進してきた自動車と、狭い道を直進してきた自動車とが衝突したケース。
A:B=3:7となります。

信号のある交差点で、直進車Aが黄色信号で交差点に進入し、右折車Bが青色信号で交差点に進入し、黄色信号で右折し衝突したケース。
A:B=7:3

信号のない交差点で、一時停止規制がある側の道路からの直進車Bと、そうでない直進車Aとが衝突した場合です。
Aが減速せず、Bが減速した場合であればA:B=3:7となります。

信号のある交差点で、直進車Aが赤信号で進入、右折車Bが黄色信号で進入した上で、赤信号で右折し衝突したケース。
このケースでは、A:B=7:3となります。

信号のない交差点で、ほぼ同じ幅の道路を直進するAと、右折する対向車Bとが衝突したケース。
このケースではA:B=3:7となります。

信号機のないほぼ同じ幅の道路の交差点で、直進車Aと右折する右方車Bとが衝突したケース。
このケースでは、A:B=3:7です。

信号のない交差点で、直進車A側に一時停止の規制があり、右折車Bが左方車で衝突したケース。
このケースでは、A:B=7:3となります。

信号のない交差点で、Aが非優先道路を直進しており、Bが優先道路から非優先道路へ同一方向右折をして衝突したケース。
このケースでは、A:B=7:3となります。

信号のない交差点で、Aが広い道を直進、Bが狭い道から左折して衝突したケースです。
このケースではA:B=3:7となります。

信号のない交差点で、Aが広い道から右折し、Bが狭い道から右折して衝突したケースです。
このケースでは、A:B=3:7となります。

信号のない交差点で、左折するAと、対向右折車のBとの衝突事故です。
このケースでは、A:B=3:7となります。

T字型交差点の事故で、右折車同士の事故です。
このケースで、Aが広い道、Bが狭い道の場合、A:B=3:7となります。

進路変更車と後続直進車との事故です。 Aがゼブラゾーンを走行していないことを前提にすると、このケースでは基本的に、A:B=3:7となります。

Bの転回終了後に、直進したAとが衝突したことケースです。 このケースでは、A:B=3:7となります。

自動車とバイクの事故

信号機のある交差点で、自動車とバイク、それぞれ直進車同士の衝突のケースです。
バイク側が赤信号で、自動車側が黄色信号であれば、バイク:自動車=7:3の過失割合となります。

バイクと車が同じ速度帯の場合を前提として、双方直進で衝突したケースです。
過失割合は、バイク:四輪車=3:7

一方が明らかに広い、信号のない交差点で、狭路を車が直進、広い道をバイクが直進して衝突したケース。

自動車が優先道路を直進し、直進するバイクと衝突したケース。

信号機のない交差点で、バイクが一方通行規制に違反し直進して、同じく直進する車と衝突したケース。

信号機のある交差点で、黄色信号で直進するバイクと、黄色信号で右折する車とが衝突するケース。

信号機のある交差点で、直進するバイクが赤信号で、右折車が青信号で進入したものの赤信号で右折して衝突したケース。

信号機のない交差点で、直進するバイクと右折する車とが衝突したケース。

信号機のない交差点で、狭路を直進する自動車と、広路から右折するバイクとが衝突したケース。

信号機のない交差点で、自動車が優先道路を直進している際に、右折したバイクと衝突したケースです。
このケースでは、バイク7:自動車3の過失割合です。

信号機のない交差点で、直進する自動車と、優先道路から右折するバイクとが衝突したケースです。
このケースでは、バイク3:自動車7の過失割合となります。

信渋滞中の車両間の事故で、信号機のない交差点、大型トラックの陰になる等して、自動車からの見通し必ずしもよくない場合で、バイク3:自動車7の過失割合となります。

路外から道路に進入したバイクと、道路を直進する自動車とが衝突したケース。

道路を直進する自動車と、右折して路外に出ようとするバイクが衝突したケース。

追越禁止でない場所で、道路を直進する自動車を、バイクが追い越そうとして衝突したケース

直進する自動車と転回したバイクが衝突したケース。
このケースでは、バイク7:自動車3の過失割合となります。

自動車と自転車の事故

交差点で、赤信号で直進した自転車と赤信号で右折した自動車が衝突したケースです。

交差点で、赤信号で直進した自動車と、赤信号で右折した自転車が衝突したケースです。

信号のない交差点で、自動車側が広い道を直進し、自転車側が狭い道を直進して衝突したケース。

信号のない交差点で、自動車側が広い道から狭い道に右折し、自転車側が同一方向に狭い道を直進して衝突するケース。

信号のない交差点で、自動車側が広い道を直進し、自転車側が狭い道から右折して衝突するケース。

狭い道を直進してきた自転車と、広い道から対向右折した自動車とが衝突したケース。

センターラインオーバーした自転車が自動車と衝突したケース。

道路を直進する車と、転回した自転車が衝突したケース。

道路を直進する自動車と、歩道から道路に出た自転車が衝突したケース。

自動車と歩行者の事故

自動車と歩行者の事故で過失割合が7:3となるパターンをご紹介します。
自動車が7、歩行者が3です。
自動車と歩行者とでは、当然ながら、歩行者の方がケガをしやすいです。
それでも、以下パターンですと、歩行者の基本過失割合は3と高めになっています。

道路を走行する自動車と道路を歩行している歩行者の事故です。
歩道が存在しているにも関わらず、敢えて道路を歩いているため、歩行者といえども過失は高めの30%となります。

自動車と、路上で寝ている人との事故ですら、人側の基本過失割合は30%です。
一見とすると、路上で寝そべる等といった行動をとるなど、車側で予測が難しいと思えますが、それでも基本の過失割合は車の方が高いのです。

自転車と歩行者の事故

自転車は歩行者より、怪我をさせやすいですから、自転車側が基本的には事故に対してより大きな責任を負います。そのため、過失割合は自転車側の方が大きくなりやすいです。
基本過失割合「7(自転車):3(歩行者)」になるケースとしては、赤信号で横断歩道付近の道路を渡った歩行者と、赤信号で交差点を右左折した自転車とが衝突したケース等です。
歩行者は信号無視などをすると、過失割合が大きくなってしまいます。

交通事故の過失割合7対3に納得がいかない場合

保険会社が提示する過失割合については、そもそも基本過失割合自体が間違っていたり、修正要素によって被害者側に有利に修正できたりする場合があります。
もっとも、被害者だけでは限界がありますから、弁護士に依頼をするなどして、事故の状況をより詳しく証明できる証拠を収集していきましょう。

過失割合を7対3から修正することに成功した解決事例

保険会社とのやりとりを弁護士が行うことで依頼者の負担を減らし、7対3の過失割合をより有利に変更することができた事例

自転車とバイクの事故です。自転車にのって直進していた依頼者のお父様が、後方から直進進行してきた相手方のバイクに衝突されました。
担当弁護士からお父様がご高齢であったことや、類似事故の態様について裁判例を示すなどし、交渉の結果、過失割合については、3⇒2に修正することに成功、当初の相手方保険会社提示金額の約2倍での解決となりました。

弁護士が介入し、意見書を作成することで7対3の過失割合を大幅に変更できた事例

専業主婦のご依頼者様の案件です。幹線道路を横断中に、中央分離帯の切れ目の部分で転回しようと進入してきた普通乗用自動車に接触されて転倒し、頸椎捻挫等のお怪我を被ったという事例です。
この事例では、相手方保険会社は、3:7を当初から主張し、約15万円を支払うとの交渉態度でした。3がご依頼者、7が相手方保険会社です。
担当弁護士が、ご依頼者様の過失割合についてゼロとする意見書を作成、相手方保険会社に送付し、金額についても弁護士基準に基づく計算の上で増額を求めたところ、結果として過失割合を15:85に修正でき、ご相談前と比べて約100万円以上の増額を実現できました。

まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

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交通事故の過失割合が7対3となった場合はまずは弁護士にご相談ください

過失割合が7:3と示されたとしても、修正の余地がある場合がありますから、すぐに承諾すべきではありません。過失割合は受け取れる賠償金額に影響する要素ですから、慎重に検討するためにも弁護士に相談しましょう。

お子さんが交通事故にあった際、通院にあたって付添が必要となる場合があります。
そのような場合には、いつ、どのような交通機関で付添をしたのか記録や証拠をしっかり残しておいてください。付添に関連した損害賠償請求ができるかもしれません。以下で詳しく解説していきます。

付添費とは

付添費とは、医師の指示があった場合や、重い怪我によって付添の必要性が認められる場合、被害者が年少者である場合などに、付き添いをした際認められる補償です。被害者本人の損害として計上されます。

付添費が認められる条件

付添費の請求が認められる場合は、医師から付添について特段の指示がある場合や、症状が重篤で受傷の部位・程度によって付添の必要性が認められる場合、年少者である場合などです。
保険会社側が積極的に払ってくるケースはほぼありません。

子供に付き添う場合は条件が緩和されている

自賠責では12歳以下の子供の場合に付添費の請求が認められています。このことから、目安として12歳以下の子で子供であれば、付添費が認められやすいと考えられます。

付添費の内訳と相場

一言で付添費といっても、様々なものがあります。以下で詳しく見ていきます。

入院付添費

入院している場面で付添が必要な時に認められる補償です。
入院の際には、看護態勢が整っていることが多いので、基本的に認められない前提で考えておいた方がよいでしょう。
被害者の年齢や傷害の内容及び程度、治療状況、日常生活への支障の有無が考慮され認められる場合があります。

入院付添費の相場

⑴ 自賠責基準
日額4100円
⑵ 弁護士基準
日額6500円

通院付添費

通院時に付き添いが発生した場合に請求できる補償です。被害者が高齢や幼児である場合や、足を骨折している場合などで認められることがあります。
通院「交通費」とは別に請求できます。

通院付添費の相場

自賠責基準:1日2050円
弁護士基準:1日3300円

自宅付添費

自宅での療養中の付き添いに対する補償です。お怪我の内容によって、自宅でも付き添いが必要と認められた場合のみ支払われます。
対象となる期間は、症状固定日までの自宅療養期間である点に注意が必要で、症状固定日以降は将来介護費として請求する場合があります。

自宅付添費の相場

自賠責基準:日額2100円
弁護士基準:事案によって変動
※弁護士基準については、付添人の負担の大きさによって変動します。

将来介護費

被害者が交通事故により、症状固定後も寝たきりとなったり、自分一人で食事や移動等ができない場合には、介護が必要であり、将来の介護費が損害として認められる場合があります。
要介護の後遺障害徴求が認定された場合には、基本的に将来介護費の請求は認められます。
介護を必要としない等級であってもお怪我の状況によっては認められる場合があります。

将来介護費の相場

常時介護の必要性がある場合には、1日につき、8000円~9000円程度が認められることがあります。介護の必要性や内容によっては、この金額より増減があります。

通学付添費

被害者が児童で、通学の際に付き添いが必要と認められた場合に支払われるものです。
付き添いの必要については、受傷部位やその程度、被害者の年齢、通学距離等から判断されます。

通学付添費の相場

明確な相場はなく、事案ごとに個別に判断されます。
日額1000円程度が認められた例があります。

仕事を休んで付き添いをした場合は付添看護費と休業損害と比較する

職業付添人に依頼する費用よりも、付き添いをする方の1日あたりの収入が高い場合は職業付添人の費用分までしか認められない可能性があります。職業付添人に依頼すればよいと考えられるためです。

プロに付き添ってもらった場合の付添費は実費精算

いわゆる職業付添人を付した場合、実費の請求が認められる可能性が出てきますが、必要かつ相当な範囲でしか認められません。交渉段階で相手方保険会社が支払いを拒絶してくるケースもありますので、職業付添人をつける場合は慎重に検討しましょう。

交通事故の付き添いに関するQ&A

子供が通院を嫌がり暴れたため、夫婦で仕事を休んで付き添いました。付添費は二人分請求できますか?

付き添いが認められるのは1人だけです。現実に2人が付き添いをしたとしても基本的にはもらえるのは1人分のみとなりますので注意しましょう。

子供の付添看護料は12歳以下しか支払われないと聞きましたが本当ですか?

自賠責の基準にて原則として12歳以下の場合にしか認められていません。
入院してまもなく13歳になった場合には、入院期間が連続しており、かつ13歳の期間中であることを前提に近親者が付き添った場合に付添看護料が認められます。
13歳以上の場合でも、医師の「要看護証明」があり、近親者が付き添った場合に付添看護料が認められる可能性がありますが、医療機関の実情や傷害の態様等からやむを得ない理由がある場合に限り認める扱いとなっており、子どもについては、事実上13歳以上で付添看護料が認められるケースは殆んどありません。

姉に子供の通院付き添いをお願いしました。通院付添費は支払われますか?

お子さんが12歳以下であれば支払われます。
自賠責にて通院付添費の支払い対象となっているのは「3親等以内の親族」(被害者の親、祖父母、兄弟等)だからです。

両親が入院している病院まで来てくれました。駆けつけ費用は請求できますか?

近親者の通院付添費は、付添人に生じた交通費、雑費、その他付添看護に必要な諸経費を含むものとして扱われているため、原則として付添人に生じた交通費を別途請求することはできません。
ただし、被害者の方が重症を負うことで遠隔地に居住している近親者が看護のために赴く場合は、被害者のお怪我の内容や、その方が看護にあたる必要性等の諸般の事情からみて相当な範囲で損害として認められる場合があります。

交通事故の付き添いに関して、お困りでしたら弁護士にご相談ください

交通事故の付き添いについては、必要性と相当性について、保険会社側が激しく争ってくるケースが多く見受けられます。そんな時、なぜ付き添いが必要となるのか、根拠を示しながら根気強く説得する必要があります。お困りでしたら弁護士に相談ください。

横浜法律事務所 所長 弁護士 伊東 香織
監修:弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
神奈川県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。