監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
「財産を受け取ってしまったら、相続放棄はできない」と言われることがあります。
しかし、これは不正確な内容で、財産を受け取ったとしても、相続放棄ができる場合があります。
抽象的な説明だけでは分かりにくいところですので、どのような場合には相続放棄ができて、どのような場合には相続放棄ができないのか、個別のケースごとに、以下説明して行きます。
相続財産にならないものなら受け取っていても相続放棄できる
まず、「相続財産」でない財産は、受け取ったとしても、相続放棄ができます。
また、相続放棄をした後でも、そのような財産は受け取ることができます。
そもそも相続放棄は、「相続財産」を受け取ることができなくなるという制度であり、「相続財産」以外の財産を受け取ったかどうかは、相続放棄には関係ないためです。
では、実務上よく見られる「相続財産」ではない財産とは、どういったものでしょうか。以下で説明します。
受け取っても相続放棄に影響しないもの
ここでは、「相続財産」ではない財産であるため、受け取っても相続放棄ができる(相続放棄と関係ない)ものについて、説明をしていきます。以下に記載のあるものは、受け取っても問題なく、相続放棄が可能です。
香典・御霊前
受け取っても相続放棄に影響しない財産として、香典・ご霊前があります。
香典・ご霊前は、一般に、故人への供養の意味合いがありますが、法的には、「故人の受け取った金銭」とは扱いません。あくまで、葬儀等を主宰する「喪主」に対する「贈与」であると考えられています。
したがって、香典・ご霊前はそもそも、被相続人が死亡時に有していた「相続財産」ではありません。
そのため、香典・ご霊前を受け取ったとしても、相続放棄には影響しません。
仏壇やお墓
仏壇やお墓等の受け取りも、原則として、相続放棄に影響せず、相続放棄は可能です。 これらは、祭祀財産といいます。民法は、祭祀財産と、相続によって承継される相続財産とを切り離して規定しています。 そのため、祭祀財産は、相続財産ではないため、祭祀財産を受け取っても、相続放棄には影響しないということになります。 祭祀財産と相続財産を切り離して規定しているのは、祖先の祭祀を尊重する習俗や国民感情に配慮した法の建付けになっているためです。
生命保険金(元相続人が受取人に指定されている場合)
生命保険金は、一般に、被保険者(被相続人)の死亡により生じる、受取人固有の権利だと理解されています。すなわち、被相続人が死亡した時点で有していた財産ではなく、自身が受取人として指定されている生命保険金を受け取ったとしても、相続放棄には影響しません。
他方、相続税との関係では注意が必要です。生命保険金は、相続税との関係では、相続財産であると考えます。そして、相続人が生命保険金を受け取った場合には、非課税枠(相続税の優遇措置)が使用できますが、相続放棄をした人は、非課税枠は適用されません。
遺族年金
遺族年金は、世帯の生計の担い手が死亡した場合に、その者によって生計を維持されていた遺族の生活が困難にならないようにするという趣旨の制度です。また、受給権者の範囲・順位が規定によって決まっており、相続人の順位等に関する民法の規定と必ずしも一致しません。
そのため、遺族年金は相続により承継される相続財産とは扱わず、受給者固有の権利だと考えるのが通例です。
遺族年金を受給しても、相続放棄には影響せず、相続放棄は可能と考えられています。
未支給年金
未支給年金についても、相続放棄には影響せず、受け取っても相続放棄が可能であると考えられています。
未支給年金は、被相続人が死亡するまでの間にもらうべきであった年金のうち、支払日の関係で未支給になっていたものですので、被相続人が死亡時に有していた財産とも考えられそうです。
他方、未支給年金については、生計を一にしていた人の生活保障に役立てるべきとの考えから、被相続人と生計を一にしていた人に請求権が認められています。この点を重視して、実務上は、未支給年金は請求権者固有の権利だと考えています。
受け取りが相続放棄に影響するもの
以上で、財産の受け取りが相続放棄に影響しないものを説明してきましたが、受け取りが相続放棄に影響するものも整理しておく必要があります。
現金や預金、家、車、株式等を相続したら、法定単純承認に該当し、相続放棄ができなくなるというのは、わかりやすいと思います。
他方、受け取っても問題ないという誤解の生じやすいものもありますので、以下説明します。
受取人が被相続人本人になっている生命保険
受取人が、被相続人本人と指定されている生命保険金については、「相続財産」に含まれると考えられています(最高裁の判例はなく、学説上の争いはあるところですが、実務上はそのように処理されていると考えられます。)。
受取人が被相続人である以上、生命保険金は被相続人の財産であり、それを取得するのは、相続財産の取得に他ならないためです。したがって、このような生命保険金を取得してしまうと、相続放棄できなくなる可能性があります。
生命保険金であれば受け取っても問題ないと早合点しないようにしましょう。
所得税等の還付金
所得税等の還付金が、相続発生後に支払われることがあります。しかし、これは、支払われたのが相続発生後というだけであり、生死に関係なく、本来還付されるべき金銭です。したがって、被相続人が、死亡時に、還付金を受ける権利を有していたのであり、還付金は相続財産に含まれます。
したがって、還付金を取得してしまうと、法定単純承認となり、相続放棄できなくなる可能性があります。
未払いの給与
被相続人が死亡直前まで稼働していたような場合、未払いの給与があることがあります。これも、還付金と同様、生死にかかわらず、本来払われるべきものです。したがって、被相続人は、死亡時、給与を請求できる権利を有しており、未払い給与は相続財産に含まれます。 したがって、未払い給与を取得してしまうと、法定単純承認となり、相続放棄できなくなる可能性があります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続放棄できるかどうか、判断が分かれるもの
財産の中には、相続放棄できる・できないという判断が分かれるものがあります。
基本的には、そういった財産の受け取りの前に、専門家に相談すべきですが、以下、一例を紹介します。
死亡退職金
死亡退職金を受け取った場合、相続放棄できる場合と、できない場合があります。
死亡退職金の支給に関して、民法の規律とは異なる範囲や順位を定める法令や内部規律がある場合には、受給権者固有の権利だと考えられており、受け取ったとしても、相続放棄は可能と考えられます。
死亡退職金の規定に「遺族」に支払うとだけ定められている場合も、当該死亡退職金が遺族の生活保障を目的としていると考えられることから、受給権者固有の権利であると判断された事例もあります。
他方、遺族の生活保障の目的ではなく、もっぱら、民法の規律を潜脱するためのものであると判断された場合には、死亡退職金が相続財産に含まれ、受け取ることにより相続放棄できなくなる可能性はあります。
高額療養費の還付金
高額療養費の還付金についても、受け取ったことにより想像放棄できなくなる場合と、相続放棄ができる場合があります。
高額療養費の制度は、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻されるというものです。
還付金は、世帯主や被保険者に支払われるものであるため、これらの人が被相続人の場合には、被相続人が死亡時に有していた相続財産ということになります。したがって、受け取ってしまうと、相続放棄ができなくなる可能性があります。
他方、世帯主や被保険者以外の人が被相続人であれば、被相続人の相続財産ではないため、受け取っても相続放棄は可能です。
受け取っただけならまだ大丈夫、相続放棄したいなら保管しましょう
以上では、受け取りによって相続放棄に影響する・しないという話をしてきました。
その上で、既に相続放棄ができなくなる財産を受け取ってしまったという場合でも、「保管」しているだけであれば、未だ自己のものとして取得しているわけではないので、相続放棄できる可能性があります。
例えば、未払い給与や自宅の現金、預金を、現金で自己の財産と完全に分離して保管しているのであれば、未だ自己のものとして取得したわけではありません。裁判所に丁寧に事情を説明すれば、相続放棄の申述が受理される可能はあります。
財産を受け取ってしまった場合の相続放棄に関するQ&A
受け取った保険金で被相続人の借金を返済しました。あとからもっと多くの借金が判明したのですが、相続放棄できますか?
一度相続の単純承認をしてしまうと、後日、相続放棄をするということは、原則できません。
その保険金が、被相続人を受取人とする生命保険金の場合、相続財産ですから、同生命保険金を受け取り、その金員で相続債務の弁済をしてしまうと単純承認となり、後日の相続放棄はできないと思われます。
他方、相続人が受取人と指定されている保険金を受け取り、相続債務の弁済をすることは、相続人自身の財産から代わりに債務を弁済しただけですので、相続放棄は可能と考えられます。
衛星放送の受信料を払いすぎていたので返金したいと連絡がありました。相続放棄するつもりなのですが、受け取っても問題ないでしょうか?
受信料過払による返還金は、被相続人の生死にかかわらず、払われるべきものです。そのため、被相続人は、死亡時において、過払いの返還金を請求できる権利があり、返還金は相続財産に含まれると考えられます。したがって、返還金を「保管」しておくだけならまだしも、受領し、費消してしまうと、法定単純承認に該当し、相続放棄はできなくなると考えられます。
相続放棄したいのに財産を受け取ってしまった場合は弁護士にご相談ください
受領しても相続放棄ができる財産かどうかは、個々の財産事に個別に判断をしていくことになります。ものによっては、相当程度専門的な知識が要求される財産も有ります。そのため、受領する前に、必ず、専門家に相談されることをお勧めします。
仮に、一般的には受領すると相続放棄できなくなるという財産を受領してしまった場合でも、あきらめるのではなく、ぜひ専門家にご相談ください。
そのような場合でも、適切に事情を裁判所に説明し、説得力のある主張を行うことで、相続放棄の申述が受理される可能性があります。
相続放棄の申述事件を多数扱ってきた弁護士法人ALG&Associatesであれば、お悩みの事実関係と類似する過去の実績も見つかる可能性があります。ぜひご相談ください。
故人に多額の債務があった場合、視野に入れなければならない制度ですが、いつでもできるというわけではなく期間に制限があります。
相続放棄の期限はいつから3ヶ月?期間の数え方
相続放棄の期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月間(これを、熟慮期間といいます。)とされ、この期間内に家庭裁判所に対して相続放棄の申し立てをする必要があります。
そして、相続は、被相続人が亡くなった日から開始しますので、熟慮期間の起算点となる、自己のために相続の開始があったことを知ったときとは、具体的には自身が相続人となったことを知った時=被相続人の死亡を知ったときになります。
期限が迫っているからと、焦って手続をすると後悔する場合も…
相続放棄とは、被相続人の財産を全て放棄することを言います。この財産には、プラスの財産もマイナスの財産も含まれます。そして、相続放棄は、一度申述を受理されると取り消すことができません。
そのため、熟慮期間の期限が迫っているからといって、きちんと被相続人の財産を調査せずに相続放棄をしてしまうと、のちのち被相続人に多額の財産があることが判明してもその財産を相続することができなくなり、損をしてしまう可能性があります。
理由があれば相続放棄の期限は延長可能、ただし必ず認められるわけではありません
相続の開始を知ってから3か月の熟慮期間内に、相続放棄をすべきか否かを判断する必要がありますが、その判断をするためには、被相続人の財産がどのくらいあるのか、債務があるのかなど相続財産の調査をする必要があります。しかし、この3か月以内に調査が完了できないなど、相続放棄をすべきか判断できない場合には、例外的に熟慮期間の延長を求めることができます。
そして、熟慮期間の延長は、裁判所が各相続人の事情を踏まえて判断するので一概にはいえませんが、基本的には一度限りで、大体1か月から3か月程度延長することが多いです。
相続放棄の期限を延長する方法
相続放棄の熟慮期間は、家庭裁判所が判断するので、まず、熟慮期間内に、相続人が、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書類を送付します。
申立てに必要な書類は、申立書と戸籍等です。また、印紙代800円(相続人一人につき)や裁判所からの連絡のための郵便切手が必要となります。
具体的な申立書類や費用は、家庭裁判所のホームページに記載されているので、申立てをする前に確認が必要です。
そして、熟慮期間の延長が必要か否かは、相続人ごとに判断されるので、期限を延ばしたいと考える相続人の一人一人が申請をする必要があります。
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3ヶ月の期限を過ぎてしまったらどうなる?
相続放棄は、3か月の熟慮期間内に申述する必要がありますので、熟慮期間が徒過した場合には相続放棄はできず、全部相続(単純承認)をするのが原則です。つまり故人の借金は無制限に引き継ぐこととなります。
3ヶ月が過ぎても相続放棄が認められるケース
相続放棄は熟慮期間内に申述をしなければならないのが原則です。
しかし、熟慮期間中に遺産は存在しないと信じていて、その信じていたことについてやむを得ない事情があるなど、熟慮期間内に相続放棄をしなかったことに関し特段の理由がある場合には、その旨の説明をきちんとすることで相続放棄が認められる可能性があります。
相続放棄が認められないケース
熟慮期間を徒過した後でも、相続放棄の申述が認められるケースは存在します。
しかし、相続放棄という制度自体について知らなかった(例えば、相続放棄という手続き自体を知らなかったとか、相続放棄という手続きは知っていても熟慮期間があることを知らなかったなど)場合は熟慮期間内に相続放棄の申述をしなかったことについて相当な理由はないと判断され、相続放棄は認められません。
また、被相続人の預貯金の払い戻しをしていたり、不動産の名義変更をしていたりするなど、相続人として行動している場合(法定単純承認)には、相続放棄は認められません。
3ヶ月経過していたら弁護士にご相談ください
熟慮期間を徒過した後でも例外的に相続放棄が認められる可能性はあります。
しかし、裁判所への説明の仕方、証拠の提出の仕方などについて専門的な判断が必要となってきます。熟慮期間が徒過した後でも相続放棄ができないかお悩みの方は、弁護士に一刻も早く相談をしてみてください。
相続放棄の期限に関するQ&A
相続放棄の期限内に手続き完了(裁判所の判断を得る)までいかないといけないのでしょうか?
相続放棄は、熟慮期間内に裁判所に申立て書類を提出する必要がありますが、熟慮期間内に相続放棄の申述の申立てに対する判断を得る必要はありません。
相続後に借金が判明しました。まだ3ヶ月経っていないのですが、相続放棄可能ですか?
熟慮期間内に相続をしている場合には、熟慮期間内に債務が判明したとしても、相続放棄をすることはできません。
亡くなってから4か月後に借金の督促が来ました。借金を知らなかったのですが、相続放棄できないでしょうか?
単純承認(法定単純承認を含む)をしていない場合で、借金の存在を知らなかったことに相当な理由がある場合には、相続放棄ができる可能性があります。
先日相続人であることが判明したのですが、知った日の証明なんてどうしたらいいんでしょうか?相続放棄したいのですが、すでに半年経過しているんです…。
役所からの通知書や税金の督促状などの資料で知った日を証明していきます。
ほかにも様々な情報を駆使して証明可能か試みますので、一度弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
相続放棄の3ヶ月まで、残り10日ほどしかありません。消印が3ヶ月以内なら間に合うでしょうか?それともその日までに裁判所に到着していなければならないでしょうか。
管轄の家庭裁判所が遠方の場合に、郵送での申立てをすることもできます。
この場合、安全性を優先して裁判所での受付を基準として考えるべきでしょう。
相続放棄をする場合には、余裕をもって申立てをすることをお勧めします。
相続放棄の期限は3ヶ月と聞きましたが、第2順位の人の期限は、第1順位の人が放棄後3ヶ月で合っていますか?
第2順位の人の熟慮期間は、相続人となったことを知った日から進行しますので、第1順位の人の相続放棄の申述が家庭裁判所でみとめられたことを【第2順位の人が】知った日から3か月間となります。
相続放棄の期限に関するお悩みは弁護士にご相談ください
相続放棄は、熟慮期間という期間制限がありますし、相続放棄を後から撤回することができないので、相続放棄の申述をすべきか否かは慎重に判断する必要があります。
また、熟慮期間を徒過した場合でも、相当な理由があれば相続放棄の申述が認められることもありますが、その際には、裁判所への説明の仕方も重要となります。
弁護士には、相続放棄についてのこれまでの裁判所の判断情報やこれまでの経験から、アドバイスやサポートをすることができますので、相続放棄をするべきか否か、熟慮期間を徒過してしまったが相続放棄できるのか否かなど、相続放棄の期限に関して悩みがある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
離婚問題について、夫婦の話し合いや、裁判所を仲介した話し合いである調停の手続きを経ても解決に至らない場合、最終的には、裁判で争うことになります。
離婚裁判では、協議や調停とは異なり、離婚を求める理由が法律で定めた事由(法定離婚事由)に該当していることを証明しないと、裁判所から離婚を認めてもらえません。
裁判で「離婚を認めてもらう/相手の訴えを退ける」ためには、高度な法的知識を駆使した主張・立証が必要不可欠なため、弁護士に代理人を依頼するのが一般的です。
今回は、離婚裁判についての基礎知識や、全体の流れ、注意点などについて、詳しく解説していきます。
離婚裁判の流れ
一般的に、離婚裁判から離婚の成立までは、
①離婚調停の不成立
②離婚裁判の提起
③口頭弁論
④尋問
⑤口頭弁論終結、判決言い渡し
⑥離婚届の提出
という流れで進行します。
次の項目で、各段階の内容について詳しく解説していきます。
離婚裁判を提起する前に
離婚裁判を提起する前に、理解しておくべきポイントを解説します。
【調停前置主義】
離婚問題をいきなり裁判で争うことはできません。
離婚問題は、特段の理由がない限り、まずは裁判所を介した話し合いの場である離婚調停の手続きを行った後でないと、裁判を起こすことができないという決まりがあります。これを調停前置主義といいます。
【法定離婚事由】
協議離婚や調停離婚では、当事者の合意さえあれば離婚は成立し、離婚の理由が問われることはありません。しかし、離婚裁判で離婚が認められるためには、離婚したい理由が、民法で定める“法定離婚事由”に該当していることを証明しなければなりません。
【有責配偶者からの離婚請求】
不倫をした側やDV加害者側など、離婚の原因を作った当事者のことを“有責配偶者”といいます。有責配偶者から離婚を請求することは、基本的には認められていません。例外的に認められるかどうかは、別居期間、未成熟子の有無、相手方配偶者が置かれる状態等の具体的な事情を総合的に考慮して判断されます。
家庭裁判所に訴状を提出する
離婚裁判を起こすためには、まず管轄の家庭裁判所に対し、訴状等を提出します。訴状等の提出先は、基本的には夫婦どちらかの住所地を受け持つ家庭裁判所です。別居して相手方が遠方に住んでいる場合でも、自分の住所地を受け持つ裁判所に提起して構いません。そのほか、調停を行った家庭裁判所が引き続き裁判を担当する場合もあります。
訴状と一緒に提出が必要な書類や費用については、次の項で解説します。
訴状提出の際に必要な書類と費用
訴訟提起の際に提出が必要な書類や費用については、以下のとおりです。
- 訴状(裁判所用と相手方に送る用の計2通)
(自分用の控えも、別途用意しておきましょう) - 夫婦の戸籍謄本(原本と写しの計2通)
- 収入印紙(訴えの内容により金額が異なるため、管轄の裁判所に確認しましょう)
- 郵便切手(裁判所により金額や内訳が異なるため、管轄の裁判所に確認しましょう)
その他、個別の内容によって、証拠書類や証拠説明書、年金分割のための情報通知書、源泉徴収票などの各種資料が必要になります。
訴状の定型書式は、裁判所のホームページから入手可能です。以下のリンクをご参照ください。
第1回口頭弁論期日の通知が届く
原告(訴訟を提起した側)または原告の代理人弁護士が訴状を提出すると、裁判所によって訴状審査がなされ、内容や形式に不備がないか、補正が必要かといった点について判断されます。不備がなければ正式に事件が受理され、事件番号が付けられます。その後、原告と日程を調整したうえで、裁判所により、第1回目の口頭弁論期日が決定されます。
第1回目の口頭弁論期日が決定したら、裁判所から被告(訴訟を提起された側)に対し、裁判期日への通知(呼出状)と一緒に、原告が提出した訴状や証拠等が届けられます。
被告が答弁書を提出
訴状等を受け取った被告側は、訴状等に書いてある原告の主張に対する反論や自分の言い分を「答弁書」という書面にまとめ、呼出状に書いてある期限までに裁判所に提出します。
口頭弁論を行う
口頭弁論とは、裁判官の面前で、訴訟の当事者又はその代理人が、自分の主張の正しさを論じ合い、証拠を出して事実を証明し、裁判官が事実関係を審理していく手続きです。多くの方は「裁判」と聞くと、この口頭弁論をイメージされるのではないでしょうか。
1回目の口頭弁論は、訴状が受理されてから1ヶ月~1ヶ月半後くらいに設定されることが多いようです。その後、必要に応じ、2回目以降の期日が1ヶ月に1度程度の間隔で開催されます。
具体的な審理の流れは次項で解説いたします。
審理の流れ
離婚裁判では、まず、裁判官が、原告と被告両者の主張・立証内容から、裁判中でどのようなことを争っているのか、その核の部分を絞り込みます。そして、その争点となっている事柄の真偽を証明するためには、誰からどのような証拠を出してもらう必要があるのか、どのような方法で調べるのが適当かなどを、裁判官や原告・被告及びその代理人弁護士が一体となって検証していきます。これを「争点整理」といいます。
そして、裁判官は、原告・被告から出された証拠や主張内容を総合的に考慮し、最終的な法的判断(判決)を下すために必要な事実の認定を行っていきます。
この「事実の認定」の詳細については、次項で解説いたします。
離婚裁判における事実の認定
離婚裁判で離婚が認められるためには、「離婚原因が法定離婚事由に該当していること」が必要です。
例えば、「被告が不倫をしたから離婚をしたい」という内容の離婚裁判であれば、原告側は、被告が不倫をしたという証拠(ラブホテルへ出入りする写真や探偵会社からの報告書など)を提出し、不倫をしたという事実を裁判官に認めてもらわなければなりません。
裁判官は、これらの証拠や主張を元に、「被告が不倫をした事実があったか/なかったか」を判断し、最終的な判決の内容を決定していきます。
この事実関係の主張立証が不十分だと、原告の主張は認められず、最終的には裁判で離婚が認められないという可能性もあります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
証拠調べ
離婚裁判において、口頭弁論で和解に至らなかった場合、証拠調べの手続きが行われます。
離婚裁判における証拠調べでは、裁判官が、当事者から出された物的証拠を検証するほか、当事者本人や本人以外の証人から事実関係を問い尋ね、質問に答えさせる方法(尋問)で、事実関係を認定していきます。
「尋問」の流れについては、次項で解説いたします。
本人尋問や証人尋問
【本人尋問】…訴訟の当事者(原告及び被告)に対する尋問。
① 原告本人尋問
主尋問(原告代理人弁護士から原告に対する質問)
↓
反対尋問(被告代理人弁護士から原告に対する質問)
↓
裁判官から原告に対する質問
② 被告本人尋問
主尋問(被告代理人弁護士から被告に対する質問)
↓
反対尋問(原告代理人弁護士から被告に対する質問)
↓
裁判官から被告に対する質問
【証人尋問】…事件の証人に対する尋問。
主尋問(証人を呼んだ側の弁護士による質問)
↓
反対尋問(証人を呼んでいない側の弁護士による質問)
↓
裁判官からの質問
※証人の方は、本人尋問を法廷でみることは基本的にできません。
離婚裁判の判決
裁判官が事実を認定するために必要な原告・被告からの「主張」「立証」及び「証拠調べ」が尽くされたら、口頭弁論は終結し、判決が言い渡されます。
口頭弁論が終結してから判決が言い渡されるまでには、およそ1ヶ月~2ヶ月ほどかかります。
判決書は、裁判所から原告・被告の双方に郵送されますが、希望すれば裁判所の窓口で受領することも可能です。
離婚裁判が終了するパターンとしては、この「判決言い渡し」の他にも、「和解」「取下げ」があります。それぞれのパターンについては、以下で解説していきます。
和解を提案されることもある
離婚裁判では、裁判官から、和解による解決を勧められることがあります。裁判官からの和解勧告は、必ずしも受け入れる必要はなく、拒否することも可能です。しかし、両者が歩み寄り、話し合いがまとまり、和解案の内容に合意できれば、その時点で和解が成立し、「和解離婚」となります。
裁判に発展するほど拗れた事案であっても、実際は、離婚裁判の半分以上が和解により終了しています(人口動態調査 10-4 統計コード00450011)。和解で解決するケースは多いのです。
なお、一度和解勧告を拒否したとしても、裁判の期日中であれば、両者が合意する限り、いつでも和解することができます。
訴えの取下げにより裁判終了
裁判を提起した原告は、その訴えを取下げることにより、裁判を終了させることができます。被告が取下げることはできません。
また、一度口頭弁論期日が開かれた裁判を取下げるためには、原告は、被告から取下げることについて同意を得なければなりません。
判決に対して控訴できる
原告・被告ともに、裁判所から出された判決の内容に納得できない場合は、上級の裁判所に不服を申し立て、さらなる審理を求めることができます。これを「控訴」といいます。
控訴は、判決書が送達された日の翌日から数えて14日以内に行わなければなりません。
判決後の流れ
裁判所から離婚を認める判決が出され、被告が期限内に控訴しなかった場合、その判決は確定します。判決の確定日をもって、晴れて離婚成立です。
なお、離婚が成立したことを戸籍に反映させる必要があるため、判決確定日を含めて10日以内に、離婚届に判決書の謄本と確定証明書を添えて、役所で手続きを行う必要があります。
離婚裁判にかかる期間
離婚裁判にかかる期間は、事案の内容によって大きく異なるため、一概には言えません。強いて言うなら、短くて半年、長くて2年以上かかる可能性があると見積もっておくと良いでしょう。
よくある質問
離婚届を提出した後に必要な手続きにはどのようなものがありますか?
離婚が成立したら離婚届を提出する必要がありますが、場合によっては戸籍の手続きも行わなければなりません。
【自分の戸籍について】
婚姻時に戸籍の筆頭者でなかった方は、離婚後に婚姻前の戸籍に戻るか(復籍)、新しい戸籍を作るかを選択し、必要に応じて手続きをしなければなりません。
【子供の戸籍と氏について】
離婚後に夫の戸籍から抜ける妻が子供を引き取り親権者となる場合でも、何もしなければ、子供は夫の戸籍に入ったままです。親権者だからといって、自動的に子供の戸籍が妻の方に移り、妻の氏に変更されるわけではありません。
そのため、妻としては、離婚により婚姻前の姓(旧姓)に戻り、子供の氏も自分と同じ旧姓にしたい場合は、
- 自分が筆頭者となる新しい戸籍を作る
- 裁判所に「子の氏の変更許可」を申し立てる
- 子供の氏の変更が認められたら、役所で、子供の戸籍を夫から自分の戸籍に変更する
という一連の手続きが必要になります。
離婚に合意しており養育費のみ争う場合はどのような流れで離婚裁判は進みますか?
原告と被告双方が、それぞれの収入状況を証明できるもの(源泉徴収票や給与明細、確定申告書など)や、養育費の請求額の根拠となる書類(生活費や学費、医療費に関するもの)を証拠として提出し、互いに主張立証を尽くします。その上で、最終的には、裁判所が養育費の額を判断することになります。
なお、養育費には相場の金額が存在するというのが実情です。裁判実務では、養育費の金額は、裁判所が公表する【標準算定方式】という計算方式で計算されます。その計算を簡略化した【養育費算定表】に基づいて、夫婦の収入状況や子供の数、年齢に応じて、機械的に決められるパターンも多いです。
離婚裁判が不成立になってしまったら離婚は諦めるしかありませんか?
必ずしも諦める必要はありません。
基本的には、一度「離婚は認めない」という判決の内容が確定してしまうと、全く同じ内容の裁判を、再び蒸し返して争うことはできません。
しかし、判決確定後に、前回の裁判の時と比べて夫婦を取り巻く状況に変化があった場合は、前回の裁判とは異なる「新たな離婚事件」として、離婚を求めて争うことができます。例えば、
- 配偶者が新たな不倫をした
- 配偶者がモラハラやDVを行うようになった
- 離婚裁判終了後に、5~10年程度の別居の実績ができた
このような事情の変化があれば、前回とは違う新たな係争として、再び離婚を求めることが可能であると考えます。
離婚裁判の流れをケース別で知りたい場合は弁護士にご相談ください
率直に申し上げて、離婚裁判を一般の方が自力で行うのはあまり得策ではないでしょう。
離婚裁判で提出する書面の体裁や内容、期限、それぞれの手続きの流れなどは、全て厳格なルールのもと執り行われています。また、離婚裁判では、感情的に訴えるのではなく、法的な根拠に基づく主張・立証をしなければなりません。
一般の方が、付け焼刃の知識でこれらの離婚裁判の流れを全て理解し、自分の力だけで裁判を有利に進めるのは、現実的には難しいと考えます。
離婚裁判は、「離婚できるか/できないか」また、離婚の条件を決める、最後のチャンスでもあります。
後悔しないためにも、離婚裁判に発展した場合は、お早めに専門家である弁護士にご相談ください。
交通事故に遭い、損害を受けた被害者は、その損害を賠償してもらうために、加害者側の保険会社と示談交渉を行うことになります。
「保険会社からそろそろ治療を打ち切りましょうと言われたが、聞き入れた方がいいの?」「保険会社から示談書が送られてきたが、このままサインしてもいいの?」と疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。
基本的には、一度示談が成立すると、示談で定めた額以上の賠償金を請求できなくなってしまいます。よって、保険会社より提示された示談案に簡単にサインをしてはいけません。
ここでは、交通事故発生から示談成立までの流れ、示談交渉の具体的内容や注意点などについて、説明していきたいと思います。
交通事故後から示談までの流れ
交通事故発生後から示談成立までの一連の流れは下記のとおりとなります。
①交通事故発生
②警察への通報
③加害者の身元、事故状況の確認
④被害者、加害者双方の保険会社への報告
⑤ケガの治療、通院、入院開始
⑥治療終了または後遺障害等級の認定(損害額確定)
⑦示談交渉開始
⑧示談交渉成立(交渉決裂の場合は、民事調停または訴訟へ)
交通事故発生直後にすべきことは?
交通事故発生直後にするべきことは、主に下記のとおりとなります。
①救護措置、危険防止措置|
ケガ人がいるなら、救急車を呼び、ケガ人の救護を行います。また、後続車に事故を知らせるなどして危険防止措置をとります。
②警察への通報
人身事故・物損事故いずれの場合でも、警察への交通事故の報告は道路交通法上の義務となっています。警察に通報しないと、賠償金請求に必要な交通事故証明書を入手することができません。
また、どんなに軽傷でもケガをしているなら、必ず人身事故として警察に届け出てください。人身事故として報告しないと、過失割合などの重要な証拠となる実況見分調書が作成されないため、示談交渉で不利になる場合があります。当日は異常がなくても、後日体に痛みが現れるケースもあります。その時に、保険会社に治療費などを請求したとしても、人身事故での届け出が無いと支払えないと対応されるおそれがあります。
③加害者の身元、事故状況の確認
加害者の氏名、連絡先、車のナンバー、保険会社名などを確認し、控えておきます。また、車の破損状況や事故現場も撮影しておきます。目撃者がいる場合は、名前と連絡先を確認しておいてください。
また、加害者から「ここで口頭で示談してしまいましょう」と言われても、応じるべきではないでしょう。口頭でも示談は成立しますので、適正な賠償金が請求できなくなる可能性があるからです。
④病院での診察
事故が起こったとき少しでも違和感があれば病院に行き、医師の診察を受けるようにしてください。
当日に明らかな異常がなかったとしても、後日痛みが現れる場合があります。しばらく経った後に病院を受診し、「やはりケガをしていた」と主張しても、事故とケガとの因果関係は薄いと判断され、賠償金が請求できなくなるおそれがあるので注意が必要です。
⑤保険会社への報告
警察への報告など、事故現場での措置が一通り終了したら、自分の加入している保険会社に連絡し、事故報告を行います。
治療、通院(入院)開始 ~ 加害者側の保険会社とのやりとり
交通事故に遭ったら、事故後すみやかに、医師のいる外科または整形外科病院の診察を受けてください。整骨院のみの通院となると、医師しか診断書を作成することができないため、賠償金の請求時にケガの内容や程度を説明できず、加害者側の保険会社から十分な補償を得られなくなるおそれがあります。
また、当日に外傷や痛みがなかったとしても、後日痛みが出てくる場合もあります。特に、むちうちの場合は、怪我をしたこと自体が分かりにくく、通院を後回しにしがちです。体に違和感が生じた場合は、すぐに病院に行き、医師に診察してもらうようにしましょう。事故日から受診日までの期間があまりに離れてしまうと、「やはりケガをしていた」と主張しても、事故とケガとの因果関係は薄いと判断され、賠償金が請求できなくなる可能性があるためです。なお、事故から1週間を経過して初めて通院する場合には、治療費について争いになることがよくあります。
保険会社とのやりとりの流れ
事故により負ったケガの治療費は、基本的には、加害者側の任意保険会社が病院に直接支払ってくれます。これを「任意一括対応」といいます。ただし、保険会社や事故状況によっては、任意一括対応してくれない場合がありますので、その際は、被害者がいったん治療費を立て替え、後日、立て替えた分を保険会社に請求することになります。
なお、加害者が任意保険に入っていなかった場合は、加害者側の自賠責保険会社に治療費を請求することが可能です。ただし、金額の上限が定められており、治療費や休業損害、入通院慰謝料などを合計して120万円までとされています。
症状固定
交通事故によってケガを負い、治療を続けた結果、これ以上改善の見込みのない状態になることを「症状固定」といいます。ケガの治療開始時から症状固定時までは、治療費、休業損害、入通院慰謝料などが支払われますが、症状固定になった段階でこれらの支払いは打ち切られます。そして、症状固定時に残った後遺症については、後遺障害等級認定を受ければ、後遺障害慰謝料、逸失利益を請求することができるようになります。
ただ、治療を受けている段階で、加害者側の任意保険会社から「もうそろそろ症状固定なので、治療を打ち切りませんか?」と連絡が入ることがあります。治療が長引くと、それだけ治療費や入通院慰謝料などの金額が上がりますので、保険会社は治療の打ち切りを迫ってきます。しかし、症状固定を決めるのは保険会社ではなくあくまで医師ですので、治療が必要であれば医師と相談のうえ、治療を続けることが望ましいでしょう。
後遺障害等級認定
ケガの治療が終わり、医師から「症状固定=これ以上治療しても改善の見込みのない状態」と判断された時点で、通常のケガ⇒後遺障害の損害賠償のステージに移ります。
「症状固定」と言われたら、まずは、医師に後遺障害診断書を作成してもらい、必要書類を準備し、加害者側の保険会社に提出し、後遺障害等級認定を受けることになります。
後遺障害等級認定を受けなければ、基本的には、後遺障害慰謝料や逸失利益などの賠償金を加害者側に対して請求することができません。
等級認定の審査は後遺障害診断書をもとに行われますので、その内容に記入漏れがないかどうか弁護士などに確認してもらうことをおすすめします。
等級認定申請後、審査機関より認定結果通知書が届きます。通知書と審査に使用した書類は、後遺障害慰謝料や逸失利益などの賠償金の請求の際に必要となるため、保管するようにしてください。
後遺障害の等級が認定されなかったら?
後遺障害等級認定の申請後、審査機関(損害保険料算出機構)より認定結果の通知書が届きます。
その際、例えば、「むちうちで首の痛みが今も治らないのに後遺障害等級に非該当だった」「自分の後遺症は12級だと思っていたのに14級だった」など、目標とする等級が得られない場合があります。
このように、等級認定結果に不服がある場合は、審査機関に対して異議申し立てをすることが可能です。
認定結果をくつがえすためには、改善した後遺障害診断書や主治医の意見書など、初回の申請時に提出した資料より有利なものを提出する必要があります。
なお、異議申し立ての結果が返ってくるまでの期間はおよそ2~6ヶ月程度で内容により幅があります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
示談交渉開始
加害者側の保険会社との示談交渉は、交通事故による損害額が確定した時点で開始することが可能になります。
損害が確定するのは、「ケガが完治した時点」もしくは「後遺障害等級認定申請をした場合には、後遺障害等級認定の結果が出た時点」となります。
早く解決したいというお気持ちは理解できますが、損害が確定しない段階では、保険会社も対応しきれないため、示談交渉が進みません。
ただ、後遺障害等級認定の申請をする場合には、ケガの傷害部分だけ先行して示談を行うということも中にはあります。
また、交通事故で被害者が死亡してしまった場合は、49日法要後に示談交渉がスタートするのが一般的です。
示談の期間はどれぐらいかかる?
交通事故の場合、示談交渉から示談成立までの期間は1~3ヶ月程度になるのが一般的です。
ただ、事案によっては、示談交渉が長期化することがあります。示談交渉が長引く原因としては、「被害者の治療期間が長引く場合」「後遺障害等級認定自体が遅れたり、異議申し立てをしたりした場合」「過失割合や賠償金額などに関して被害者と加害者で意見が対立する場合」が考えられます。
早期に示談成立をさせたい場合は、交渉の専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。
示談書が届くまでの期間
被害者が加害者側の保険会社に対して、ケガが完治または症状固定になったことを報告すると、約1ヶ月程度で保険会社より示談案(損害賠償案)が届きます。
被害者が示談案(損害賠償案)に同意すれば、保険会社から示談書や免責証書(被害者が無過失の場合)が届きます。
ただし、後遺障害等級認定を申請中でまだ認定結果が出ていない場合や、加害者が示談案の内容に納得していないなどの場合は、示談書の到着までにさらに時間がかかることが想定されます。
示談案や示談書の到着があまりに遅い場合は、保険会社に連絡をし、問い合わせをしてみましょう。
交通事故の示談交渉で何が請求できるか?
示談交渉開始後、基本的には、まず、加害者側の保険会社から損害賠償金額の提示がなされます。
提示された損害賠償金の費目や金額、過失割合、既払い金(すでに保険会社から支払いを受けている治療費など)などに間違いがないか、確認することが必要です。
交通事故でケガをしたときに請求できる損害賠償金の費目は主に下記のとおりです。
(通常請求できる損害賠償金)
①治療関係費:治療費、入院費、接骨院などの施術代など
②入通院交通費:通院や入院の際に必要となった交通費
③付添看護費:通院や入院の際に付き添い看護をした人に対する日当
④入院雑費:入院で必要となった日用品雑貨費や通信費など
⑤入通院慰謝料:事故のケガによって入通院を強いられた精神的苦痛に対する慰謝料
⑥休業損害:事故のケガによって仕事を休んだ間の収入の減少分。無収入の主婦や子供なども請求できる場合があります。
⑦物損に関する賠償金:事故により壊れた車や所持品などに対する賠償金
(後遺障害認定を受けた場合に請求できる損害賠償金)
①後遺障害慰謝料:事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する慰謝料
②後遺障害逸失利益:事故によって後遺障害が残ってしまったことにより失われた将来の収入分
(死亡した場合に請求できる損害賠償金)
①死亡慰謝料:交通事故により死亡させられた精神的苦痛に対する慰謝料。
②葬祭関係費:葬儀や法要、仏具購入などにかかった費用
③死亡逸失利益:事故によって死亡したことにより失われた将来の収入分
損害賠償金の計算は複雑な判断を必要としますので、一人で示談書の内容を確認するのは難しいと思われる方は、弁護士に相談することをおすすめいたします。
死亡事故の示談交渉について
死亡事故の場合は、被害者が亡くなられたと同時に損害額がほぼ確定しますが、死亡事故の示談交渉は、49日法要の終了後に開始されるのが一般的です。
また、被害者が亡くなられた場合は、ご遺族が保険会社と交渉することになりますので、ご遺族の方のお気持ちや体調を優先し、準備ができた段階で示談交渉を開始するというケースもあります。
示談交渉を自分で(被害者が)行う場合の注意点
示談交渉を行う際に必要なことは、加害者側の保険会社の提示を鵜呑みにしないということです。
保険会社は賠償金を支払う立場です。支払いを抑えるため様々な説明をして賠償金の減額をはかってくるはずです。保険会社の意見に惑わされず、常に冷静に「保険会社の言うことは正しいのか?」「賠.償金の項目や計算はあっているのか?」と検討することが必要です。
基本的には、一度示談が成立すると、示談で決めた金額以上の賠償金を請求できなくなってしまいます。よって、提示された示談案に不満がある場合は、決して署名をしてはいけません。
保険会社より提示された示談金額が正しいか検討するには、賠償金に関する専門的知識が必要ですので、被害者が一人で判断するのは難しいと思われます。
示談交渉を行うことに不安があるという方は、弁護士に相談することをおすすめします。
示談交渉成立
一度示談が成立すると、基本的には、示談の内容を覆すことはできず、示談で定めた額以上の損害賠償金を請求できません。
よって、加害者側の保険会社より提示された示談案に納得がいかない場合は、署名せず、専門家にご相談ください。「勘違いしていた」「無理やり示談させられた」等の主張は、実務上ほぼ認められません。示談内容に納得してから、示談書に署名するようしてください。
示談から支払いまでの期間
示談交渉成立から示談金が支払われるまでの期間は、およそ1か月程度と言われています。
示談成立後は下記のようなスケジュールで進行します。
①示談成立
②保険会社から示談書が送付される。
③示談書に署名、捺印して、返送する。
④示談金が振り込まれる。
示談金が1か月経っても振り込まれない場合は、保険会社に連絡して問い合わせをしてみましょう。
交通事故の示談交渉についてお困りの方は弁護士にご相談ください
交通事故の被害に遭い、怪我を負った場合は、事故後なるべく早い段階で、弁護士に相談することをおすすめします。
治療中の段階で弁護士に依頼すれば、慰謝料等の請求に必要な通院頻度、後遺障害等級認定申請に必要な検査や資料などのアドバイスが受けられるため、安心して治療に専念できるというメリットがあります。
また、弁護士が介入すれば、示談に必要な書類の作成や資料収集などを代行して行いますので、被害者の負担が軽減されます。何より、交渉のプロである弁護士が示談交渉しますので、賠償金の増額が認められる可能性も高まります。
「今後の治療や保険会社との示談交渉について不安がある」「保険会社から提示された示談金額に納得がいかない」というような場合は、ぜひ、交通事故に精通した弁護士が所属する弁護士法人ALGにご相談ください。
相続放棄の期限はどれくらい?
相続放棄は、原則として、相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」にする必要があります(民法915条第1項)。この期間を、熟慮期間といいます。
起算日はいつから?
熟慮期間の起算点は、自己のために相続の開始があったことを知った時です。これは、一般的には、被相続人が死亡したという事実に加えて、それによって自分が相続人となったことを知った時をいいます。熟慮期間は、上記の事実を知った翌日から計算します。
相続放棄の期限は延長できることもある
相続人は、熟慮期間内に、単純承認、限定承認又は相続放棄をしなければなりません。この熟慮期間内に相続人が相続財産の状況を調査してもなお、単純承認、限定承認又は相続放棄のいずれをするかを決定できない場合には、家庭裁判所は、申立てにより、この3か月の熟慮期間を伸長することができます。
申立てが認められる場合、延長される期間は個々の事情によりますが、概ね3ヶ月程度延長されることが多いといえます。
期限を延長する方法
熟慮期間は、相続開始地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所において伸長することができます。その申立ては、熟慮期間が経過しない間になされる必要があります。
期間伸長の申立てには、⑴申立書のほか、⑵①被相続人の住民票除票又は戸籍附票、② 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(親族の場合,戸籍謄本等)、③ 伸長を求める相続人の戸籍謄本が必要です。審理のために必要な場合は、さらに追加書類の提出を求められることがあります。
申立てにかかる費用は、収入印紙800円分(相続人1人につき)及び連絡用の郵便切手(申立てる裁判所ごとに異なるため確認が必要)となります。
相続放棄は相続人個々の意思表示ですので、期間伸長の申立てをしたい相続人が複数いる場合、各自が手続きを行う必要があります(複数の相続人の手続きをまとめて行うことは可能です)。
再延長はできる?
事情によっては、再度の伸長の申立てをすることができます。この場合も、伸長が認められた期間内に申立てをする必要があります。
熟慮期間の伸長が必ず認められるわけではありません
熟慮期間の伸長は、相続財産の調査考慮をするために特に3か月以上の期間が必要となる場合に、その調査考慮に必要な期間に限って認められるとされています。
相続人が複数いる場合、相続人ごとに事情を考慮して判断されますので、期間伸長の申立ては、各共同相続人について個別に認められます。1人について期間伸長が認められたとしても、他の相続人の熟慮期間には影響しません。
弁護士なら、ポイントを押さえた申立てを行うことが可能です
期間伸長の申立ては、熟慮期間中に行わなければなりません。また、家庭裁判所に対して「熟慮期間内に相続手続の方法を選択できないのはやむを得なかった」と認められるように説得することが必要となります。
相続財産を調査して期間伸長が必要となった場合、期限前にポイントを押さえた申立てを行うためには、一度弁護士に相談されることをお勧めします。
相続放棄の期限を過ぎてしまったらどうなる?
相続人が相続放棄をしようとするときは、熟慮期間内にその旨を家庭裁判所に申述し、これが受理されなければなりません。相続人が限定承認又は相続放棄の申述をせずに熟慮期間を経過すると単純承認をしたものとみなされます。
理由によっては熟慮期間後の相続放棄が認められる場合も
相続人が自己のために相続の開始があったことを知った場合であっても、相続人が、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じていたために、相続放棄の申述をしないまま熟慮期間を徒過した場合、このように信じることについて相当な理由があると認められるときには、相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識可能な時から熟慮期間を起算することができるとされています。
例えば、何十年も被相続人と疎遠にしていて、その間交際が全くない状態が継続していたために相続財産の状況を把握する機会がなかったような場合は、「相当な理由」があると認められやすいといえます。
こんな場合は相続放棄が認められません
熟慮期間を経過すると、単純承認したとみなされ、相続放棄ができなくなります。相続人が法律を知らず、相続放棄という仕組みや相続放棄に期限があることを知らなかったとしても、その結論は変わりません。
また、他の相続人に家庭裁判所を経由せずに相続放棄の意思表示をしていたとしても、熟慮期間中に家庭裁判所に相続放棄の申述をしない限り、相続放棄は認められません。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続した後に多額の借金が発覚したら
熟慮期間が経過してしまった場合には、もはや相続放棄はできないのが原則です。
もっとも、先に述べたように、熟慮期間中に相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであって、相続人がこのように信じることについて相当な理由があると認められる場合には、例外的に、借金が判明した時点を熟慮期間の開始とできる可能性があります。
熟慮期間後の相続放棄が認められた事例
依頼者は、疎遠だった被相続人の死亡の事実を死亡から半年後に知り、裁判所に相続放棄の申し立てをしたそうですが、裁判所から取り下げ勧告を受け、相続放棄をすることができませんでした。依頼者は、その約1年後に初めて被相続人に多額の負債があることを知りました。
弊所では、徹底的な事例分析や依頼者から聞きとった事情をもとに、裁判所に対して、相続放棄を受理すべき事情があることの書面を作成し、再度、裁判所に相続放棄の受理申立を行いました。その結果、無事、相続放棄の申述は受理され、依頼者は相続放棄をすることができました。
相続放棄の期限に関するQ&A
相続放棄の期限内に全ての手続きを完了しないといけないのでしょうか?
相続人が、相続放棄をしようとするときは、熟慮期間内にその旨を家庭裁判所に申述し、これが受理されなければなりません。熟慮期間が経過する前に申述書を提出し、家庭裁判所にて受付されれば、その後の手続きが熟慮期間内に完了する必要はありません。
相続順位が第2位、第3位の場合でも、相続放棄の期限は亡くなってから3ヶ月なのでしょうか?
熟慮期間の起算点は、自己のために相続の開始があったことを知った時です。これは、被相続人が死亡したという事実に加えて、それによって自己が相続人となったことを知った時をいいます。
相続順位が第2位、第3位の場合、被相続人の死亡の事実を知っただけでは、自分が相続人になることは分かりません。そのため、先順位の相続人が相続放棄をした場合であれば、その事実も知らない限りは次順位の相続人に関する相続放棄の熟慮期間はスタートしません。この場合、先順位の相続人の相続放棄が完了したことにより次順位の自分が相続人となったことを知った時から3か月の期限となります。
相続放棄の期限に関する疑問・お悩みは弁護士にご相談ください
お身内がお亡くなりになって間もないうちに、相続に関する判断をすることは様々な意味で負担が大きいことと思います。また、被相続人と疎遠だった場合などは、事情の把握も困難なことがあるかもしれません。しかし、相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3箇月以内」に行わなければならないため、早急に対応しなければなりません。その上、その判断は慎重に行われる必要があります。
そうした中で、相続放棄の期限に関して疑問やお悩みがある場合は、弁護士にご相談いただければ少しでもお力になれるかと存じます。まずは、お気軽にお問い合わせください。
遺言が存在するからといって、必ずしも遺言が有効であるとは限りません。
遺言の全部または一部が無効となり、遺産を遺言通りに分ける必要がなくなることがあります。
ただ、遺言の有効・無効について当事者間で話し合いしようにも、もらえる遺産に直結する話なので、激しい紛争の火種となることが多く、解決が困難であることが珍しくありません。
そのため、裁判所の手続きとして、遺言の有効性を確定させる遺言無効確認訴訟という手段が用意されています。
このページでは、遺言無効確認訴訟がどういうものであるかを解説します。
遺言無効確認訴訟(遺言無効確認の訴え)とは
遺言無効確認訴訟は、判決によって遺言が無効であることを確認してもらう手続きです。
重要な手続き上の特色として、判決が訴訟の当事者にしか及ばない点が挙げられます。
当事者が二人いてお金の貸し借りについて揉めているようなケースであれば、当事者の間でのみ判決が有効であっても問題はありません。
ただ、遺言の有効性は、相続人の間のみならず、遺言者の債権者のような第三者との関係で問題となることも珍しくありません。
そのため、問題となる全当事者を巻き込む形で訴訟を提起する必要があります。
遺言無効確認訴訟にかかる期間
遺言無効確認訴訟は遺言に関係する当事者が多くなった場合に紛糾してしまうことが多く、審理期間が1年以上かかることもあります。
特に、生前の遺言者の様子等について、過去の長期にわたる事実関係が問題となることが多く、当事者間で主張の整理だけでも長期間必要となることも珍しくありません。
そのため、訴訟の提起から少なくとも1年以上は審理が続くことの想定をしておく必要があります。
遺言無効確認訴訟の時効
遺言無効確認訴訟は遺言の効力が問題となる限り、いつでも提起できます。
いわゆる「時効」がないので、じっくりと準備をして提起をすればいい訴訟のように思えます。
しかし、遺言の無効の確認を求めたい場合、悠長に構えることは得策ではありません。
時間がたてば物事の記憶が薄れるように、重要な証拠も散逸してしまいます。
また、遺言によって財産が他者の手に渡る場合、同時に遺留分侵害額請求という請求を行うことが有力な手として考えられます。
この遺留分侵害額請求は、遺言が有効であることを前提とする請求なのですが、遺留分が侵害されていることを知った日から1年という非常に短い時効が設けられています。
敗訴した場合に備えた有力な選択肢を残すためにも、早い段階で遺言無効確認訴訟を起こすかを検討すべきです。
遺言無効確認訴訟の準備~訴訟終了までの流れ
遺言無効確認訴訟を起こすには、調停前置という前提条件があります。
つまり、遺言無効確認調停、という手続きを先に行っていないと、遺言無効確認訴訟は提起できません。
遺言無効確認調停が不成立となったことを受けて、離婚無効確認訴訟が起こせるようになります。
証拠を準備する
訴訟は、証拠をもって事実を認定する手続きです。
遺言が無効であることをひたすらに述べても、裁判所は無効と判断はしてくれません。
そのため、調停を起こす前の段階から、遺言が無効であると言えるだけの証拠を収集しておく必要があります。
よく使用される証拠の類型としては、遺言者の判断能力が低下していた内容の医師の診断書や、遺言者の筆跡と異なることを証する遺言者の手書きのメモや日記が挙げられます。
遺言無効確認訴訟を提起する
先ほども述べたように、遺言無効確認訴訟は調停を先行させる必要があります。
そして、調停は、申し立てる本人以外の当事者(相手方)の住所を管轄する裁判所に起こす必要があります。
これと異なり、訴訟は申し立てる本人の住所を管轄する裁判所に提起することが可能です。
さらに、冒頭でも述べたように、判決は訴訟当事者の間でのみ効力がありますので、判決効を及ぼす必要がある相手は訴訟の相手になるべくする必要があります。
勝訴した場合は、相続人で遺産分割協議
遺言無効確認訴訟にて、遺言が無効であることが判決で確認されると、遺産をわけるための指針となる遺言が存在しない状態となります。
そのため、遺産をどのように分けるかを相続人の間で決定する必要があります。
この手続きを遺産分割協議と呼びます。その詳細については以下のリンクをご確認ください。
遺言無効確認訴訟で敗訴した場合
遺言無効確認訴訟で遺言が有効であると判断されると、遺言によって法律上、保障されている遺産の取り分(遺留分)を侵害されている相続人は遺留分侵害額請求を行うことができます。
この請求は上述したように期間制限があるので、遺言無効確認訴訟に敗訴した場合に備えて遺留分侵害額請求を行っておくことが重要となります。
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遺言が無効だと主張されやすいケース
遺言はどのような場合にでも無効となるとは言えません。
定型的に裁判所が遺言の無効を認めやすい類型があり、その場合には遺言の有効・無効が争われやすくなります。
認知症等で遺言能力がない(遺言能力の欠如)
遺言を有効に行うには、遺言を作成した時点で遺言者に遺言能力があったと認められる必要があります。
この遺言能力は、遺言者が自身の財産や身分関係について十分に理解し、遺言を作成する意味を十分に理解できている状態にある場合に認められます。
ところが、一般的に遺言を作成する時点で遺言者が高齢であることが多く、認知症をはじめとする判断能力が低下する症状を抱えていることも珍しくありません。
そのため、認知症を抱えていた遺言者の遺言能力が問題視されて、遺言の有効性が争われてしまうことがよく見られます。
もっとも、認知症とは一言で言っても、全ての患者の判断能力が常時低下しているわけではありませんので、認知症患者の遺言が無効となるとは限らないことは注意する必要があります。
遺言書の様式に違反している(方式違背)
遺言は、遺言者の現世における最後の意思表示であり、法律上も非常に重要な位置づけがされています。
遺言の重要性から、法は遺言書に形式上も厳格な制約を課しています。遺言が法に定められた方法に違反して作成された場合には、その違反した部分もしくは遺言全体が無効となる扱いがされます。
例えば、自筆証書遺言と言われる形式の遺言の場合、「自筆」という名称のとおり、一部を除き遺言者の手書きで作成されることが求められています。
手書きかどうかで大げさに感じる方もいるかもしれませんが、複数の遺言が出てきた場合には揉める原因となります。パソコンなどで作成して印刷した遺言はあくまでも内容の推敲のために作成した物であり、手書きの遺言が真の遺言として扱われます。
相続人に強迫された、または騙されて書いた遺言書(詐欺・強迫による遺言)
遺言のような意思表示については、遺言者の真意が現れていない場合、有効と扱うべきではありません。
そのため、詐欺や脅迫によって作成されたと認められる遺言については無効となります。
もっとも、「詐欺」や「脅迫」があったとは裁判所も容易に認めません。
しっかりと、第三者の目から見て「詐欺」や「脅迫」の存在を認められるだけの証拠を準備しておくことが重要です。
遺言者が勘違いをしていた(錯誤による無効・要素の錯誤)
遺言者の真意が現れていない遺言の一つの類型として、遺言者が遺言の内容について勘違いをしていた場合があります。
この勘違いが、遺言の重要な部分に関するものであり、その勘違いがなければ遺言をしなかったと認められる場合、遺言が無効となり得ます。
この場合、遺言者の意思を、遺言者のいない状態で残された証拠を元に推測する必要があります。
遺言者の真意が何であったかの証拠が足りない場合、遺言の体裁に問題がないことを前提に、遺言の記載内容が遺言者の真意であったと認められることとなります。
共同遺言
民法は、二人以上の者が同一の遺言書で遺言を残すことを禁止しています(民法975条)。
このルールに反した遺言は遺言書全体が無効となると判断した裁判例があります。
何度も述べているように、遺言は非常に重要な意思表示です。
そのため、遺言者の真意が何であったかは遺言に現れていないと問題があるのは明白です。
複数人が相続に関して全く同一の意見であることは通常、考え難く、場合によっては遺言者同士の力関係を利用して特定の遺言者の意思に反する遺言すらされるおそれがあります。
また、遺言は遺言者が自由に作成・撤回してよい性質のものです。
複数人で作成した遺言が存在すると、撤回が困難となるおそれもあります。
このように類型的に遺言者の真意が現れないおそれが大きい共同遺言は、法律上禁止されており、実際にも相続人間の紛争の火種となります。
公序良俗・強行法規に反する場合
遺言の内容は遺言者の生前の最後の意思表示なので、なるべく尊重されるべきです。
しかしながら、遺言の内容が到底社会的に許容されないような場合には公序良俗に反するものとして無効と扱われることもあります(民法90条)。
例として不倫相手に対して財産を渡すことを内容とする遺言がよく挙げられます。
この場合、当事者間の感情的な対立も激しいので遺言無効の主張が出やすい場面となります。
もっとも、本来、遺産を家族以外の者の第三者に残すこと自体、遺言者に認められた権利です。
そのような遺言者の権利とのバランスから、裁判所はケースバイケースでそのような遺言も有効とすることもありますので、単純に不倫相手へ財産を渡す遺言が無効と考えてはいけません。
遺言の「撤回の撤回」
遺言者は既に作成した遺言を、その遺言と内容が抵触する遺言を作成することで撤回することができます。
たとえば、遺言者が唯一の財産を長男に渡す旨の遺言を残していた場合を想像してみましょう。
後日、同じ財産を長女に渡す遺言が作成されていた場合、長男に財産を渡す旨の遺言は撤回したものと扱われます。
この撤回の効果は原則として不可逆であり、「撤回」を「撤回」することはできません。
複数遺言が発見された場合に問題となる類型であり、どの遺言が有効であるのかが悩ましいです。
ただ、「令和○年〇月〇日付の遺言のうち、~の部分の効力を復活させる」というような遺言者の真意が何であったかが明確となる場合には、撤回の撤回も有効となる余地があります。
但し、結局は詐欺、脅迫によって撤回を撤回したという主張が現れる温床となるので遺言の書き方としてはあまり好ましくありません。
偽造の遺言書
遺言の全部または一部が遺言者ではない者によって作成された場合、その内容を尊重する理由がありません。
そのため、遺言の内容に疑義がある場合に無効を主張するため、偽造を主張する場合があります。
ただ、偽造の可能性があるだけでは遺言が無効となりません。
通常人から見て、遺言者でない者が偽造したことに疑義を差し挟まない程度に真実性が認められる必要があります。
遺言が無効だと認められた裁判例
遺言が訴訟において頻繁に無効となるとは言えませんが、実際に遺言が無効となっている裁判例を見ると、豊富な証拠や丁寧な主張・立証があったがために無効という判断につながっているケースが多くみられます。
実際、令和3年3月31日東京地方裁判所判決では、遺言者がただ単にアルツハイマー型認知症に罹患していることを指摘するだけではなく、その症状の進行の程度を細かく認定しています。
例えば、徒歩数分の距離にある場所への行き来が困難になっていたり、ファクシミリの送信ができない様子、直前の訪問客や電話相手が誰であったかを思い出せないことまで具体的に判決書に記載されています。
あらゆる生活上の状況から、遺言作成時の状況まで細やかに見て、裁判所は遺言者が作成した遺言によってどういう結果が生まれるかを理解できなかったものと判断しており、遺言能力に欠けた状態で作成された遺言として無効と結論付けています。
遺言無効確認訴訟に関するQ&A
遺言書を無効として争う場合の管轄裁判所はどこになりますか?
遺言無効確認訴訟の管轄は、被告の住所地又は相続開始時における被相続人の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所になります。
ただ、訴訟となる場合、遺産がある程度の規模で残されていることが多いので、地方裁判所が管轄となることが多いと思われます。
弁護士なら、遺言無効確認訴訟から遺産分割協議まで相続に幅広く対応できます
遺言無効確認訴訟に勝訴したとしても、その後、遺産をどのように分けるかはまた別の問題です。
そのため、遺言の無効に関する手続きのみならず、遺産分割の協議まで含めて、全体としてどのように相続を終わらせるかを常に念頭に置いておく必要があります。
そのため、遺言無効確認訴訟を検討する時点で、常に手続きの状況に応じて最善の手を打ち続ける高度な判断が要求されていると言えます。
そのような厳しい状況に悩む場合、是非弁護士に相談し、解決への第一歩を踏み出しましょう。
養育費は、離婚後の子供の健やかな成長に欠かせない大切なお金であり、その支払いは親の義務です。しかし、「話し合いが平行線でまとまらない」「約束どおりに払ってくれない」「金額を減らして欲しい」など、非常にトラブルになり易いテーマでもあります。
このような養育費に関するトラブルについて、夫婦2人だけの力では解決できない場合、裁判所の手続きである「養育費請求調停」を利用して、解決を目指すことができます。
今回は、この養育費請求調停とはそもそもどのような手続きなのか、また、その流れや注意点などを解説します。
養育費請求調停でできること
そもそも、養育費の支払いは法律に定められた義務です。親であれば、必ず子供のために負担しなければならないお金です。離婚して親権者でなくなったとしても、一緒に暮らしていなくても、子供の親である限り、養育費の支払義務は無くなりません。
しかし、そうは言っても、現実は、養育費の支払いをめぐるトラブルは後を絶ちません。
養育費請求調停は、離婚成立後に生じた養育費についての問題を解決するための手続きです。裁判官と「調停委員」という有識者を介して、養育費の
①請求
②増額
③減額
これらの3つを求め、話し合うことができます。
養育費の請求
養育費に関する取り決めをしないまま離婚が成立した場合や、離婚前に約束したはずの養育費を支払ってもらえない場合は、養育費請求調停を申し立て、支払いを求めることができます。
養育費請求調停では、調停委員を仲介役とし、両親の仕事や経済状況、子供の人数・年齢などを総合的に考慮しながら、
- 養育費の金額
- 支払方法(口座振り込みにするのか、その場合の振込先、いつまでに支払うか)
- 支払期間(子供が何歳になるまで支払うか)
について話し合いを重ね、取り決めを行い、双方が納得のいく解決を目指していきます。
養育費の増額
離婚成立前に養育費について取り決めを交わしていても、その後、不測の事態が生じて親子を取り巻く環境に変化があれば、取り決めた養育費では足らず、生活が苦しくなることもあるでしょう。そのような場合は、養育費の増額請求調停を申し立てることができます。
しかし、一般的には、養育費の増額が認められるためには、
- 子供が大病を患い、高額な治療費が必要になった
- 子供が大学に進学した
- 親権者が失業した
- 養育費の支払義務者の収入が増大し、親権者との間で大きな生活格差が生じている
など、一定の理由が必要になります。
養育費の減額
離婚後に生じた不測の事態によって、養育費の支払義務者の生活環境や資力に変化があり、これまでどおりの養育費の支払いが難しくなることもあるでしょう。その場合、親権者に対し、養育費の減額請求調停を申し立てることができます。
例えば、
- リストラされた
- 再婚し、再婚相手との子供が産まれた
- 親権者の収入が離婚時より増大している
このような、「養育費を減額してもやむを得ない」と認めるに足る事情があれば、養育費の減額が認められる可能性があります。
養育費請求調停の申し立てに必要な書類
養育費請求調停の申し立てに必要な書類は、以下のとおりです。
なお、個別の事案や申立先の家庭裁判所によっては、必要に応じて追加の書類の提出が求められる可能性もありますので、あらかじめ確認しておきましょう。
- 申立書とその写し…各1通
- 子供の戸籍謄本(3ヶ月以内に発行されたもの)…1通
- 自分の収入を証明できる資料(源泉徴収票写し、給与明細写し、確定申告書写し、非課税証明書写し など)…1通
その他、手続きの概要や申立書の書式、記入例を参考にされたい方は、裁判所のホームページも併せてご覧ください。
養育費請求調停(裁判所)養育費請求調停にかかる費用
養育費請求調停の申し立てにかかる費用は、以下のとおりです。
- 養育費の対象となる子供1人につき、収入印紙1200円
- 郵便切手
(概ね合計1000円分前後ですが、金額や内訳は裁判所によって異なります。詳細は申立先の家庭裁判所に確認しましょう。)
調停の流れ
養育費請求調停の主な流れは、
①家庭裁判所への申し立て ②第1回目調停期日 ③第2回目以降の調停期日 ④調停終了(成立、不成立、取り下げ)
となります。以下、各段階の内容などについて、解説していきます。
家庭裁判所へ調停を申し立てる
養育費請求調停の申し立て先は、基本的には、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。そのほか、夫婦が合意した家庭裁判所への申し立ても可能ですが、その場合は、夫婦双方が合意していることを示す「管轄合意書」などの書面の提出が必要になります。
裁判所の窓口への持参のほか、郵送による申し立ても可能です。
申し立て後、記載内容や提出書類に不備がなければ、通常2週間ほどで、裁判所から第1回目の調停期日への呼出状が当事者双方へ送られます。
第1回目の調停期日は、多くの場合、申し立て日から1ヶ月~2ヶ月後に設定されています。
第1回目養育費請求調停に出席
調停では、裁判官と調停委員(裁判所が任命した有識者で、男女1名ずつの合計2名で構成されています)が夫婦の間に入り、2人の意見を擦り合わせていきます。基本的には、夫婦は別々の待合室で待機し、交代で調停委員と協議を行うため、顔を合わせることはありません。自分の番がきたら調停室に入室し、約15分から30分程度、調停委員からの質問に答えたり、自分の意見を言ったり、相手の意見を伝え聞いたりします。1回の調停で、この流れを2~3回繰り返します。
1回目の期日で解決できない場合は、2回目以降の期日が開かれることになります。
第2回目以降の調停
第1回目の期日で両者が納得のいく結論がでなかった場合、その後も、約1ヶ月に1回のペースで2回目以降の調停期日が開催されます。
全体的な調停の流れ自体は、2回目以降の期日も、1回目の期日と同様です。夫婦が交代で、調停委員を介して、前回期日の内容を踏まえた意見を主張したり、相手の主張を伝え聞いたり、調停委員からのアドバイスを受けたりなどして、双方の意見を擦り合わせていきます。
調停の終了
調停の終了には、3つのパターンあります。
①成立
調停で話し合った内容にお互いが納得し、合意できれば、その調停は成立の形で終了します。合意内容は、裁判所により「調停調書」という書面にまとめられます。調停調書は、確定判決と同一の効力を有します。
②取り下げ
調停を申し立てた人は、いつでも、どんな理由でも、調停を取り下げて終了させることができます。取り下げられた調停は、最初から無かったものとして扱われます。
③不成立
いくら話し合っても合意に至らない場合、調停は不成立に終わります。不成立後の流れについては、後述します。
不成立になった時はどうなる?
調停で話し合っても夫婦の意見がまとまらない場合、残念ながら、その調停は不成立の形で終了します。そして、その後は自動的に「審判」という手続きに移行します。審判では、裁判官が、調停で話し合われた内容や、提出された資料など総合的に考慮して、養育費の内容についての最終的な判断(審判)を下します。
裁判官が下した審判の内容に納得できなければ、高等裁判所に不服申し立てをし、更に争うことができます。しかし、不服申し立てをしない場合や、不服申し立てが退けられた場合は、審判が確定します。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費請求調停を有利に進めるポイント
調停でやみくもに自分の主張を押しとおすだけでは、建設的な話し合いにはなりません。養育費請求調停を自分に有利に進めるためには、まず自分自身が養育費のことについてよく理解し、必要なポイントを押さえておかなければなりません。以下、養育費請求調停を有利に進めるために、抑えておくべきポイントを解説します。
養育費の相場
まず、養育費の相場感を把握しておきましょう。
養育費の金額は、法律で定められているわけではありません。しかし、養育費の額が調停や裁判などで争いになった場合は、裁判所が公表している【養育費算定表】の基準に基づき、決められているというのが実情です。
この表によると、例えば、子供が1人(0歳~14歳)、親権者の年収が150万円、支払義務者の年収が500万円(共に給与所得者)の場合、養育費の相場は月額4万円~6万円となります。
いくら子供のためとはいえ、相場と比べてあまりにも高額な養育費を請求しても、請求が認められないばかりか、「がめつい人だ」など、調停委員からの心証を悪くしかねませんので、注意しましょう。
調停委員を味方につける
「いかに調停委員に自分の味方になってもらうか」が、調停を有利にすすめるための最大のポイントであると言っても、過言ではありません。
調停委員は、建前上は中立的な立場であり、夫婦どちらかの味方ということはありません。
しかし、そうはいっても、「この人の言うことはもっともだ」と調停委員からの共感を得られ、心情的にも寄り添ってもらうことができれば、あなたの意向に沿った内容で相手を説得してくれる可能性もあります。冷静・論理的に正当性のある主張をすることは勿論ですが、調停委員に良い印象を持ってもらえるよう、身だしなみや立ち振る舞い、言葉遣いにも十分気を配りましょう。
養育費の請求が正当であることの証明
「子供のために1円でも多く養育費を払ってほしい」「生活が苦しいからなるべく払いたくない」このような心情は、もっともなことかもしれません。しかし、だからといって、必要以上に高額な支払いを要求したり、大幅な減額を要求したりしても、相手や調停委員からの納得は得られません。
調停では、感情論に終始せず、論理的な説明で、調停委員から、「この人の言うことはもっとだし、そのような事情ならこの請求金額も納得できる」と、自分の主張の正当性を理解してもらうことが重要です。そのためにも、
- 給与明細や源泉徴収票など、自分や相手方の収入状況がわかる資料
- 子供にかかった医療費の領収書
- 学費に関する資料
このような客観的な証拠を積極的に提出し、説得力のある主張を心がけましょう。
審判を申し立てることを検討しておく
離婚そのものについて争う場合、まずは調停の手続きを経なければなりませんが(調停前置主義)、養育費に関する問題は、このような決まりはありません。そのため、最初から審判を申し立てることが可能です。
相手が調停に出席する見込みがなかったり、調停をしても良い結果が得られないことが明らかだったりする場合は、手間や時間を省くため、最初から審判を申し立てることも、選択肢の1つといえるでしょう。
しかし、事案の内容によっては、裁判所の職権で、「先に調停を申し立てなさい」といわれ、調停の手続きに回されてしまう可能性があるため、注意が必要です。
弁護士に依頼する
調停を自分の有利に進め、納得のいく結論を導くためには、調停委員に対し、客観的・論理的に自身の主張の正当性を説き、理解してもらわなければなりません。しかし、慣れない法律の手続きに戸惑ったり、判断に迷ったり、プレゼンテーションが苦手な方は、上手く自分の意見が伝えられなかったりもするでしょう。
この点、弁護士に相談すれば、法律の知識と経験に基づく効果的なアドバイスを受けることができますし、代理人として、ご自身の代わりに調停に出席してもらうことも可能です。
加えて、弁護士に依頼することで、相手や調停委員や相手方に対し、自分の本気度を示す効果も期待できます。
養育費請求調停に関するQ&A
養育費請求調停に相手が来ない場合はどうなりますか?
仕事の都合や体調により調停に出席できないなど、欠席するにあたり正当な理由があり、裁判所にもきちんと事前に連絡している場合は、調停の期日は別日に変更されます。
しかし、相手が正当な理由がなく調停に相手が出席しない場合や無断欠席を繰り返す場合は、話し合いができないため、その調停は不成立として終了します。
不成立として終了した調停は、自動的に審判の手続きに移行します。審判では、裁判官が調停の内容を考慮し、判断を下します。そのため、「子供の養育費の話し合いである調停という大事な場に無断欠席した」という事実は、審判の内容に対し、相手にとってはマイナスな判断材料に、ご自身にとってはプラスの判断材料に働く可能性があります。
養育費請求調停で決めた金額を払わない場合は、なにか罰則などはありますか?
調停で決めた養育費を支払わない場合、罰金や罰則などが課されることはありません。
この場合、親権者側としては、裁判所に対し、相手に支払いを促してもらう「履行勧告」や、支払いを命じてもらう「履行命令」の申し立てをすることができます。しかし、いずれも勧告・命令に過ぎず、支払い自体を強制することはできません。(なお、履行命令に違反した場合は10万円以下の過料が科される可能性があります。)
この点、調停で話し合われた合意内容をまとめた「調停調書」は、確定判決と同一の効果を有します。そのため、調停で決めた養育費が支払われない場合は、最終的には、「強制執行」を申し立てることで、差し押さえた相手の財産(預貯金、給与、不動産など)から支払いを受けることができます。
養育費の調停について弁護士にご相談ください
養育費を支払ってほしい方、増額を希望する方、減額を希望する方…いずれの場合も、養育費の調停では、まずは自分自身が養育費に関する十分な知識を得たうえで、裁判官や調停委員を相手に、いかに自分の主張に合理性があるかを冷静・論理的に主張していかなければなりません。そのためには、専門的知識だけでなく、プレゼン能力、交渉力、先を見通す力など、様々な能力が必要になってきます。
弁護士法人ALGには、離婚や親権、養育費に関するトラブルに精通した弁護士が多数在籍しております。養育費に関してトラブルを抱えている方は、ぜひ一度、弁護士法人ALGまでご相談ください。問題の早期解決に向け、経験豊富な弁護士が尽力いたします。
意図しない事故に遭ったのですから、「正当な慰謝料を受け取りたい!」と思われるのは当然です。
通常、事故被害者は慰謝料を受け取ることができますが、受取金額に注意しなければなりません。なぜなら、用いられる算定基準によっては本来受け取れる金額よりもはるかに少なくなっている可能性があるからです。
その背景には、慰謝料を計算する算定基準が3つあることが大きく関係しています。
本ページでは、【慰謝料の算定基準】を取り上げ、概要や相場などについて解説していきますので、正当な慰謝料を受け取るためにもぜひ最後までご一読ください。
交通事故の慰謝料の算定基準とは?
交通事故の慰謝料の算定基準とは、慰謝料の金額を計算するためのツールのことです。1つであればすぐに完結するのですが、3つあることが混乱を引き起こす原因ともいえます。なぜなら、それぞれに計算式や指標があり、算定結果の金額が異なるからです。
また、算定基準が影響してくる慰謝料には、次の3種類があります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
もう少し掘り下げていきます。
そもそも、なぜ算定基準が必要なの?
警視庁の統計※によりますと、令和3年度の交通事故発生件数は、30万5424件にのぼります。
これだけの数の慰謝料を一人一人の事情を考慮しながら決定していくのは、相当な時間がかかるうえに、同じような事故でも金額にバラつきが出てしまい、現実的ではありません。
このような状況を避けるため、算定基準は、解決までの時間短縮や、金額のばらつきといった不公平性をなくすことを目的として設けられています。
※https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/toukeihyo.html
3つの算定基準の違い
ではここで肝心の“3つある算定基準”について、それぞれの概要や特徴を比べていきます。
ポイントは、それぞれの基準で算定した結果、基本的には【自賠責基準<任意保険基準<弁護士基準】の順に高額となるところにあります。
自賠責基準について
「自賠責基準=最低限度の補償=基本的に最も低額となる」ことを念頭に置きましょう。
本基準は、自賠責保険という強制加入保険が補償するために用いる指標です。被害者への補償を国が保障しているので、確実性が高い一方あくまでも怪我に対するものでかつ、最低限度に留まるのが最大の特徴です。
例えば、傷害部分の補償限度額は120万円までなど、あくまでも保険金の限度内で補償されることになります。
任意保険基準について
「任意保険基準=非公開=自賠責基準と同等または少し上乗せした程度の金額」が特徴です。
本基準は、保険会社という一企業が独自に設定している指標に過ぎません。基本的に社外秘扱いなので、詳細は伏せられています。とはいえ、営利目的の企業が定める指標なので、できるだけ自社の利益を追求した内容になっており、最低限度補償の自賠責に多少上乗せした程度の結果となることが多いです。
なお、最終的な支払いは、自賠責分も併せて任意保険会社から受け取るのが通常ですので、自賠責分とは別に二重取りできるわけではない点にご注意ください。
弁護士基準について
「弁護士基準=裁判所や弁護士が使用=最も高額かつ正当な金額」と押さえておきましょう。
本基準は、過去の裁判の実例をもとに設けられた指標です。3つの中で基本的に最も高額となるのが特徴といえます。(が、実際の裁判内容をもとにしていることからもわかるとおり、裁判をした際に認定される金額に近い基準です。)注意点としては、保険会社との交渉時には弁護士が用いないと通用しないことがあげられます。弁護士が裁判をも辞さない強気な姿勢で持ち掛けることで、裁判への発展を避けたい保険会社が渋々弁護士基準に近い金額での解決に応じるようになるのです。
赤本と青本とは?
交通事故でいう“赤本”、“青本”とは、裁判例や弁護士基準の具体的な内容が記載されている書籍のことです。
ちなみに主に関西地方で用いられる“緑本”もありますが、いずれも背表紙の色で表現しています。
それぞれの違いは、地域性と指標の具体性です。
基準とする裁判例について、赤本は首都圏、青本は全国、緑本は関西圏をまとめているので、自ずと内容が変わってきます。また、赤本は指標金額が決まっているのに対し、青本は上下の幅を持たせているのが特徴です。
なお、実務上は赤本をベースにすることが多いです。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故慰謝料の相場比較
ここからは、3種類ある交通事故慰謝料について、それぞれの相場を算定基準ごとに比較していきます。
より基準ごとの金額差が明らかになりますので、ぜひ算定結果にご注目ください。
入通院慰謝料の相場
まずは、入院・通院を強いられることで生じる精神的苦痛に対する入通院慰謝料の相場をみていきます。
入院が不要な怪我の場合、通院のみのケースでも請求できますのでご安心ください。
入通院慰謝料の算定には、入通院期間や実際の通院日数のほか、通院頻度、怪我の内容などが考慮されることになります。
同じ条件で算定基準別に比較していきますので、金額の開きにご着目ください。
※なお、任意保険基準については非公開のため省略させていただきます。
通院期間が2ヶ月、実通院日数が15日の場合の慰謝料の相場
自賠責基準の入通院慰謝料 | 弁護士基準の入通院慰謝料 |
---|---|
12万9000円 | 52万円 |
<自賠責基準>
入通院慰謝料=日額4300円×対象日数
上記が自賠責基準の計算式になります。
ポイントは“対象日数”で、以下のいずれか少ないほうを採用します。
①入院+通院期間
②(入院期間+実通院日数)×2
これらを例の条件にあてはめると、
①30日×2ヶ月=60日
②15日×2=30日
①と②を比較すると、②の方が少ないので、
入通院慰謝料=4300円×30日=12万9000円
<弁護士基準>
入通院慰謝料の別表Ⅰ、Ⅱを参照します。
今回のケースは、通常の怪我(別表Ⅰ)を想定しますので、「通院2ヶ月」の該当箇所を下表で確認すると、52万円となります。
入院1ヶ月、通院期間6ヶ月、実通院日数70日だった場合の慰謝料の相場
自賠責基準の入通院慰謝料 | 弁護士基準の入通院慰謝料 |
---|---|
86万円 | 149万円 |
<自賠責基準>
同じく計算式にあてはめて求めていきます。
② 30日+30日×6ヶ月=210日
② (30日+70日)×2=200日
入通院慰謝料=4300円×200日=86万円
<弁護士基準>
今回のケースは、通常の怪我(別表Ⅰ)を想定しますので、「入院1ヶ月、通院6ヶ月」の該当箇所を下表で確認すると、149万円となります。
むちうちで、通院期間5ヶ月、実通院日数70日だった場合の慰謝料の相場
自賠責基準の入通院慰謝料 | 弁護士基準の入通院慰謝料 |
---|---|
60万2000円 | 79万円 |
<自賠責基準>
同じく計算式にあてはめて求めていきます。
② 30日×5ヶ月=150日
③ 70日×2=140日
入通院慰謝料=4300円×140日=60万2000円
<弁護士基準>
むちうちなど軽傷の場合は、別表Ⅱを参照します。
「通院5ヶ月」の該当箇所を下表で確認すると、79万円となります。
後遺障害慰謝料の相場
まず、後遺障害慰謝料は、治りきらなかった後遺症について後遺障害等級の認定がされたら請求できるようになるとを押さえておきましょう。
下表のように、症状の内容、程度などに応じて1~14級までの等級ごとに慰謝料金額が決まっています。
算定基準別の差額にもご着目ください。
※なお、任意保険基準については非公開のため省略させていただきます。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級 | 1150万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
死亡慰謝料の相場
死亡慰謝料は、亡くなった被害者本人と遺族に対して支払われます。正確には、被害者は亡くなっていますので、被害者の請求権は相続人に受け継がれることになります。
自賠責基準と弁護士基準では、以下のように指標が異なります。
<自賠責基準>
被害者本人分は、年齢・性別などにかかわらず一律400万円です。
遺族分については、遺族(被害者の配偶者、父母、子)の人数によって異なり、さらに被害者に被扶養者がいた場合には200万円追加されることになります。
<弁護士基準>
被害者本人分と遺族分を分けて算出する概念がありません。
被害者の属性、家族の中での役割に応じて指標が決まっており、その他個別具体的な事情が考慮され調整されることもあります。
例えば、一家の大黒柱であれば2800万円、配偶者であれば2500万円などです。
弁護士に依頼しないと、弁護士基準での慰謝料獲得は難しい?
被害者としては、ぜひとも高額水準の弁護士基準で請求したいところですが、保険会社を相手に被害者自身で交渉を試みてもまず応じてもらえないでしょう。
相手方となる保険会社は、幾度となく交通事故事案の示談交渉を経験してきたいわば“示談交渉のプロ”です。自社の損失をなるべく抑えたい保険会社に対して、被害者本人が慰謝料の増額を持ち掛けても、歯が立たないと予想できます。
しかし、そこに弁護士が介入すると事態がかわる可能性があります。
弁護士が入ると裁判での解決も視野に入るため、裁判への発展を控えたい保険会社は弁護士基準での交渉に応じやすくなります。
弁護士の介入によって弁護士基準に近い金額まで増額できた解決事例
ここで、弁護士法人ALGが解決に導いた実際の事例をご紹介します。
本件は、青信号で交差点進入時、赤信号無視の相手方車両が追突してきたという事故態様でした。この事故で、依頼者は開放骨折という重傷を負ったうえに、PTSDを発症し長期間の治療を余儀なくされ、後遺障害等級も12級に認定されていました。相手方保険会社からは、すでに約600万円の示談金が提示された状態でご依頼を受けました。
受任後、早速精査したところ、事故の大きさや怪我・後遺障害の程度などを総合的にみても、提示額は極めて低いと判断しました。
そこで、事故の悪質性も考慮し、通常の弁護士基準よりさらに上乗せした金額で交渉に臨みました。
譲らない姿勢かつ強い態度で交渉を続けた結果、約1700万円もの賠償金を取り付けることに成功しました。通常の弁護士基準で予想される金額よりも高い水準での解決に、依頼者にも大変ご満足いただけた事案です。
交通事故慰謝料を適正な算定基準で計算するためにもまずは弁護士にご相談ください
不運にも交通事故に遭い、背負わされた精神的苦痛に対する慰謝料は、きちんと適正額を受け取るべきです。それを叶えるには、適正な算定基準である弁護士基準で請求するために、弁護士に依頼する必要があります。
「弁護士への相談はハードルが高い」、「弁護士費用がかかりそうで気が引ける」と、二の足を踏む方もいらっしゃると思います。
この点、弁護士法人ALGは、最初のお問い合わせを受付職員が行わせていただくことで、気軽にご相談いただける体制を整えています。交通事故専門の受付ですので、不安に思われることをお気軽にお伝えください。
また、弁護士費用特約を利用することで、基本的には弁護士費用の負担なくご依頼いただけます。ぜひご自身が加入している保険契約内容をご確認ください。
弁護士への依頼は、適正な慰謝料獲得だけでなく、“納得のいく解決”を目指すためにも非常に有用です。弁護士法人ALGは、万全の体制でお待ちしています。
相続に際して、遺言がある場合は、その遺言に従って遺産を分けることが多いです。
もっとも、遺言がない場合、複数の相続人がどのように遺産を分けるかを協議して決める必要があります。ただ、さまざまな種類の財産をどのように分けるか、各相続人の抱える事情も相まって、一筋縄では決められないことも珍しくありません。
本記事では、遺産分割の方法としてよく用いられる4つの方法を紹介していきます。
遺産分割の方法は複数ある
遺産が現金のみであれば、1円単位でその相続人がどの程度の金額を相続するか決めることができます。ただ、遺産には不動産や動産、金銭と様々な種類の財産が含まれることがあります。それらの財産をすべて、各相続人の法定相続分に従って分配することが原則ではあるのですが、例えば遺産となった一軒家などは相続人全員で切り分けて相続することはできません。
そういった場合には、以下の4つの方法をとれないかを検討してみるとよいでしょう。
分割方法1:現物分割とは
現物分割とは、遺産に含まれる財産をそのままの姿で分配する方法です。
例を挙げれば、自宅は妻、銀行口座のお金は長男、骨董品は次男、宝飾品は長女といった形で分配する方法です。
現物分割のメリット
例を見れば明らかなように、現物分割は非常に単純な分け方ですので、誰がどの遺産をもらうかが一番わかりやすい方法となります。
また、他の方法と違って、遺産を売却するなどの手間をかけずに遺産分割を終えられるので、各相続人の手続きの負担も少なくて済みます。
現物分割のデメリット
他方で、現物分割をしてしまうと、ある相続人が高価な遺産を取得して、別の相続人が価値の低い遺産を取得することになってしまうことが多いです。
遺産に含まれる財産の内容次第では、相続人間で大きな不公平が生まれてしまう可能性がある分割方法です。
分割方法2:換価分割とは
換価分割とは、不動産等の金銭ではない財産を売却し、その結果得た現金を分配する方法です。
換価分割のメリット
換価分割は遺産を現金化するので、現金の性質上、公平に分配をする調整が可能となります。
また、相続人全員が不要だと考えている財産の引き取り手を決めない点や、不動産の維持・管理に伴う負担も発生しない点で、事後的な問題が起きにくい分割方法と言えます。
換価分割のデメリット
他方で、財産の現金化には時間がかかることがあります。
不動産であれば買い手が現れるまでは売却手続きが完了しませんし、売却にかかる費用や税金の負担の問題もあります。
また、故人の口座を利用し続けることは通常できないので、売却代金を遺産分割手続が終わるまで、誰が管理するのか、という点で紛争が発生することもあります。
分割方法3:代償分割とは
代償分割とは、不動産などの分割しがたい財産を、一定の相続人に取得させたうえで、その他の相続人に対しては代償金を支払う方法です。
1000万円の価値がある実家を4人の兄弟で分ける場合を例に見てみましょう。
本来であれば法定相続分は兄弟全員平等(4分の1ずつ)ですが、長男が単独で実家を引継いだとします。この場合、長男以外の兄弟が遺産をもらえていないので、長男から残りの兄弟3人それぞれに対し、実家の価値の4分の1ずつ(250万円)を代償金として支払えば、理屈上は公平に分割が可能となります。
代償分割のメリット
このように、理屈上は相続人全員が同じ程度の遺産を受け取ることができる意味では、優れた分割方法でしょう。
また、不動産などの財産を売却等処分しないので、実家を残したい希望があるなど、遺産を残すことに意味があるときには一つの選択肢となります。
代償分割のデメリット
代償分割について協議を進めると、分ける財産の価値をどの程度として評価をするかについて揉めることが珍しくありません。
実際、複数の相続人がそれぞれ取得してきた不動産の評価額が異なることがあり、各々が自らの主張にこだわって代償金を決められないこともあります。
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分割方法4:共有分割とは
共有分割とは、分割しにくい不動産等の遺産を、複数の相続人で、各相続人の相続分に応じて共同で所有するという方法です。
例えば、実家を複数の相続人全員で共有状態にするような場合のことを共有分割と言います。
共有分割のメリット
代償分割の場合と同様に、遺産を処分しませんので、遺産を残すことが可能となります。
また、相続人全員が相続分に従って共有分割をすれば、各相続人が理屈上はもらえるべき遺産の取り分を取得しているので、公平な分割方法と言えます。
共有分割のデメリット
法律上、共有状態は例外的なものという立て付けになっているので、一度共有分割をしてしまうと、後日問題が発生することが多いです。
共有状態となった不動産については、売却をするのに共有者全員の許可が必要となりますし、不動産を賃貸したい場合も共有者持ち分の過半数の同意が必要となります。
また、固定資産税の負担等、不動産管理費の分担について争いが生じることもあります。
遺言書に遺産分割方法が書かれている場合は従わなければならない?
遺言は被相続人の最後の意思表示ですので、原則として、遺言に記載された分割方法を尊重し、遺産の分配を進めることとなります。
もっとも、相続人全員が遺言とは別の方法で分けることに合意をした場合、遺言の内容に反して遺産の分配を行うことは認められます。
また、法定相続人の一部には遺留分という権利が認められる場合があります。遺留分は、遺産についての最低限の取り分であり、遺言によっても侵害することができません。
遺言の中で、遺留分を持っている相続人に一切遺産を渡さない旨を記載しても、遺留分侵害額請求権の行使により一定の遺産がその相続人にわたってしまうことを避けられません。
遺言書がない場合の遺産分割方法
遺言書がない場合、残された財産をどのように分けるかは相続人間で話し合って決めるほかありません。
合意に至らない場合、裁判所にて遺産分割調停を行い、相続人全員が合意できる分割方法を模索することになります。
それでもなお、皆が合意できる分割方法を決められない場合、最終的には遺産分割審判という手続きを利用して裁判所の判断に基づいて分割をすることになります。
遺産分割の方法でお困りのことがあったら、弁護士にご相談ください
遺産を分ける場面では、各相続人の感情等が邪魔をして穏やかに話し合いができないことも珍しくありません。その結果、何年にもおよび遺産争いに発展してしまうケースも見受けられます。
分割について争いが生じることを防ぐため、また、争いが生じてしまっても長引くことを防ぐためには、弁護士に相談・依頼するという方法があります。合意ができない、揉めている原因となっている事情をお話しいただければ、法的視点のみならず、紛争の解決に向けて何が一番良いのか、という視点で助言が得られるでしょう。
また、相手方との交渉や裁判所との手続を弁護士に依頼することで、負担感を軽減することも考えられます。
弁護士法人ALG&Associatesでは、相続事件を多く取り扱っており、その経験の多さから適切な助言をすることができます。遺産分割についてお悩みの場合はぜひ、弊所にご相談ください。
遺言書には、公証役場で作成する公正証書遺言のほかに、遺言者自らが作成する自筆証書遺言があります。時や場所を選ばずに自分ひとりで作成することができ、手続きとしては簡易なものになりますが、法律で定めた遺言書作成のための要件を充たさないと遺言書が無効になるなどのトラブルが生じる可能性があります。自筆証書遺言の作成について、以下に解説していきますので、本記事を参考にしていただければ幸いです。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、文字どおり、遺言者が自分で手書きして作成する遺言書のことです。紙と筆記用具、印鑑と朱肉などの道具さえあれば特に費用もかからず、自分ひとりでいつでもどこでも作成できるメリットがあります。公正証書遺言や秘密証書遺言などほかの遺言書の作成方法と比べると、作成手続が非常に簡易であるといえます。もっとも、原則、全文手書きであることを要するなど、有効な遺言書として作成するために厳格な要件があり、要件を充たさないと無効になってしまうことがあります。また、自筆証書遺言の場合、相続開始時に家庭裁判所の検認という手続を要する点も特徴の一つです。
自筆証書遺言が有効になるための4つの条件
自筆証書遺言が有効となるために要件は、①遺言者の自筆で書かれていること、②特定できる日付が作成日として自筆で書かれていること(例:「末日」との記載で日付が特定できる場合は問題ありませんが、「吉日」は不可となります。)、③自筆で署名されていること、④捺印されていることの4つです。4つの要件のうち、1つでも守られていない場合には遺言書が無効になるので注意が必要となります。また、遺言書の訂正や文章の削除などを行う場合にも修正方法などの形式を遵守しないと、訂正部分が無効とされてしまうことがあるので注意が必要です。
パソコンで作成してもOKなもの
2019年の民法改正により、遺言書の内容を補足する財産目録については、パソコンで作成したものや、登記全部事項証明書、通帳の写し等を添付する方法を用いることも可能となりました。 ただし、財産目録をパソコンで作成する場合、遺言者が各ページに署名して、押印しなければなりませんので、遺言書本体を含め、原則として手書きを要することを意識することが重要です。
自筆証書遺言の書き方
自身の財産を、誰に、どのように相続させるかを定める重要な書面(遺言)を、自ら作成する手続きが自筆証書遺言制度です。財産の全体像を把握し、作成方法をきちんと確認しながら適切に作成する必要があります。
まずは全財産の情報をまとめましょう
遺言書は、遺産の一部のみを対象にすることもできますし、遺産の全部を対象に作成することもできます。遺産には、預貯金はもちろん、株や不動産等の財産についても含まれますし、負債(借金)も含まれることになります。遺産の情報を財産目録に一元化することが遺言書を適切に作成するうえで重要であり、遺言書を読むことになる相続人のためにもなります。なお、財産目録をパソコンで作成する場合には、各ページに署名、押印をする必要があるので注意を要します。
誰に何を渡すのか決めます
遺言書を作成する主な目的は、遺産のうち、誰に何を相続させるのかを明確にして、相続にあたって遺言者の意思を反映させることにあります。そのため、不動産は長男に、株式は二男に、といったように誰に何を相続させるのかを具体的に決めて遺言書に作成する必要があります。
誰に何を相続させるのかを検討する過程でメモなど作成する場合には、パソコンを使用することは問題ありません。
縦書き・横書きを選ぶ
遺言書というと、縦書きの印象もあるかもしれませんが、縦書き、横書きに法律上の制限があるわけではありません。そのため、縦書きにこだわる必要はなく、遺言者自身が書きやすい方で書くのがよいといえます。
代筆不可、すべて自筆しましょう
自筆証書遺言は、「自筆」という名のとおり、自署で作成しなければならず、代筆をすることは認められません。遺言書の作成を希望する者が字の書けない状態であれば、自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言の作成を検討することになります。
なお、財産目録については、パソコンで作成することが認められており、パソコンで作成してプリントアウトをしたものを遺言書に添付することができます。この場合、各ページに署名押印が必要となります。
遺言書の用紙に決まりはある?
遺言を記載する用紙に特に制限や指定があるわけではありません。そのため、コピー用紙や便箋を使用しても問題ありませんし、要件さえみたしていれば、チラシの裏側に記載することも可能です。もっとも、重要な書類になるわけですから、破れにくいきちんとした紙を使用するのがおすすめです。文具メーカーから遺言書用のキットも販売されているので、不安のある方は検討されてみるとよいと思います。
筆記具に決まりはある?
トラブルを防ぐなら、書き始めから書き終わりまで同じペンを使うと良いです。
遺言書を作成する筆記具には特に制限や指定があるわけではありません。しかし、事後のトラブルを回避するためには鉛筆や消せるタイプのボールペンの使用は避けた方が賢明です。
また、誰かが書き換えた可能性を疑われやすいことから、最初から最後まで同じ筆記具を使用するのがおすすめです。
誰にどの財産を渡すのか書く
誰にどの財産を渡すかを記載する部分は、遺言書の最も重要な部分といえますので、遺言者の意向を明確にして記載する必要があります。特定の人にすべての遺産を相続させる場合には分かりやすいですが、複数の相続人に相続させる場合には、妻に不動産、長男に預貯金、長女に株式といった形で誰に何を相続させるかを明確にしておくべきです。
日付を忘れずに書く
遺言書には作成した日付を忘れずに記載する必要があります。○年○月○日と明確に記載するのが基本ですが、○月末日や○歳の誕生日のように特定できる日付であれば問題ありません。しかし、○月吉日のような特定できない日付は認められませんし、日付が特定できても、ゴム印など自著でない場合も認められません。
署名・捺印をする
遺言書の最後には、遺言者の署名、押印をする必要があります。押印については実印が望ましいですが、シャチハタも認められています。また、署名については、本名を記載するのが原則ですが、遺言者との同一性が認められるのであれば、芸名や通称名による署名も有効とされており、必ずしも、戸籍上の氏名と同一でなくても構いません。
遺言書と書かれた封筒に入れて封をする
遺言書は封筒に入れることが必須ではありません。しかし、封筒に入れて分かりやすく保管しておかないと、発見されないままとなってしまうことや、発見者が誤って捨ててしまうリスクもありますので、遺言書と記載した封筒にいれるのがおすすめです。また、遺言書を誤って開封してしまう事態を防ぐために、封筒に「開封禁止」と明記しておいたり、封筒を二重にして、一つ目の封筒と一緒に開封しないように記載したメモを入れるなどの工夫をした方がよいといえます。
自宅、もしくは法務局で保管する
自筆証書遺言については、これまでは遺言者自らが自宅等に保管する方法が一般的でした。しかし、自宅に保管しておくと、発見されないままになったりする可能性もあります。
そこで、2020年7月から、自筆証書遺言を法務局に保管してもらうこともできるようになりました。手続の負担はありますが、偽造、変造や紛失、破棄のリスクを回避することができ、関係相続人への通知をしてくれるなどのメリットがあります。
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自筆証書遺言の注意点
自筆証書遺言は、遺言者一人で作成できる簡易な手続きである分、将来の相続や遺言書作成後を見越した注意点がいくつかあります。
遺留分に注意・誰がどれくらい相続できるのかを知っておきましょう
相続制度には遺留分という相続人の最低限の取り分に関する定めがあります。そのため、遺言書作成時に遺留分に一切配慮しないようにしてしまうと、将来の相続時に相続人間でトラブルが生じる原因となってしまいます。特定の相続人に全ての遺産を相続させる遺言書を作成する場合などには、なぜ当該相続人にすべての遺産を相続させるのか理由も記載しておくとよいでしょう。
訂正する場合は決められた方法で行うこと
遺言書は、全文自筆で作成することが原則となる書類ですが、当然、事後になって内容の一部を削除したり、訂正したりする場合もありえます。また、作成中に修正の必要が生じることもありえます。そして、遺言書の文章の削除や訂正等をする場合には、遺言者自身が二重線で消した上で訂正部分に押印し、さらに変更箇所について指示し、これを変更した旨を記載した上で署名しなければなりません。正しい方法で修正をしないと遺言全体が無効になってしまう可能性もあります。そのため、面倒であっても、遺言書を最初から書き直してしまう方が分かりやすい場合もあるといえます。
自筆証書遺言の疑問点は弁護士にお任せください
自筆証書遺言には、作成する上の要件が厳密に定められているほか、法律上気を付けるべき点が複数あります。せっかく作成した遺言書が原因で法律トラブルが生じてはもったいないことですので、適切な方法で、遺言者の意思を反映した遺言書を作成するためにも、是非一度当法人にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)