監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故で受傷するケガで最も多いのが「むちうち」です。
このむちうちの治療先として、整形外科と整骨院が挙げられます。
どちらに行くべきか迷う方が多いかと思いますが、治療効果や損害賠償の観点からすると、まずは整形外科に通院したうえで、二次的に整骨院を利用することをおすすめします。
本記事では、なぜ交通事故でむちうちを負った場合は整形外科に行くべきなのか、その理由や、整骨院に通院する場合の注意点などについて解説していきます。事故でむちうちを負い、病院の通い方について悩まれている方は、ぜひご一読下さい。
交通事故後は、できるだけ早く整形外科を受診しましょう
交通事故に遭った場合は、外傷や体に違和感がなくても、できる限り早く整形外科を受診し、診察や検査を受けるようにしましょう。
神経など予期せぬ部分にケガを負っている可能性もあり、また、治療が遅れると、ケガが悪化するおそれがあるからです。整形外科であれば、CTやMRI等の精密検査を行ったうえで、最適な治療を受けることが可能です。
また、むちうちは事故後2~3日後に発症する(首の痛みや筋肉の張りが現れる)ケースが多いため、事故当日は無症状でも、万が一に備えて整形外科を受診しておくことが重要です。
事故後しばらく経ってから病院に行くと、医師よりむちうちと診断されたとしても「本当にこの交通事故でケガをしたのか?」と、加害者側の保険会社より、事故とケガとの因果関係を疑われる可能性があります。そのため、遅くとも事故後2週間以内には、整形外科を受診することが望ましいでしょう。
むちうち治療で整形外科に行くべき理由
むちうちを負った場合、整形外科と整骨院、どちらに行くべきか迷う方もいらっしゃると思いますが、まずは整形外科を受診し、医師の指示のもと通院を続けることが必要です。
整形外科に行くべき理由について、以下で解説していきます。
交通事故の損害賠償を請求するため
交通事故の被害に遭った場合に、加害者側に対して、治療費や慰謝料などの損害賠償金を請求するためには、今受けている治療が、今回の交通事故によって受傷したケガのためであるという因果関係が必要となります。これを証明するのが、医師が作成する「診断書」や「後遺障害診断書」です。
整骨院で施術を行うのは、医師ではなく柔道整復師であるため、これらの診断書を作成することはできません。
そのため、むちうちを負った場合は、まずは整形外科を受診し、継続的に通院しながら、診断書を取得する必要があります。
後遺障害等級認定を申請するため
治療を尽くしたものの、痛みやしびれなど、むちうちによる後遺症が残ってしまった場合に、自賠責保険を通じて後遺障害等級認定を受けると、むちうちであっても、高額な後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することができるようになります。
後遺障害等級認定は自動的に実施されるものではなく、認定を希望する被害者が、後遺障害診断書やMRI・レントゲン等の検査資料を自賠責保険に提出することで、審査が開始されるものです。しかし、これらの後遺障害診断書等は、いずれも病院でないと入手できません。
また、後遺障害等級認定においては、通院頻度や治療の経過も重要視されるため、継続的に病院に通院することも必要となります。
仮に整形外科に通わず、整骨院だけに通院すると、後遺障害等級認定を受けられなくなるリスクがあるため注意が必要です。
整形外科と整骨院(接骨院)を併用する際に起きやすいトラブル
むちうちでは整形外科への通院が原則ですが、整骨院(接骨院)との併用も可能です。
ただし、整骨院に通う場合は、医師の了承を得た上で、加害者側の保険会社にも事前に連絡することが必要です。これを忘れると、損害賠償請求で次のトラブルが生じるおそれがあります。
保険会社に整骨院(接骨院)への通院を連絡しなかった場合
事故によるケガの治療費は、加害者側の保険会社が病院へ直接支払うケースが多く、これを、任意一括対応といいます。これらは保険会社の義務ではなく、サービスの一環として行われるものです。
しかし、加害者側の保険会社は、整骨院(接骨院)の治療費については支払いを認めないことが少なくありません。これは、整骨院での主な施術はマッサージ等であるため、医師の医療行為とは異なり、治療行為でないと考えられているからです。
また、整形外科に通院せず、整骨院にばかり通い続けると、ケガの治療の必要性を怪しまれ、治療費の支払いを早期に打ち切られるリスクもあります。
したがって、事前に医師に整骨院に通院する許可をもらったら、整骨院に通い始める前に、加害者側の保険会社に連絡しておくようにしましょう。
整形外科の医師の許可なしに整骨院(接骨院)に通った場合
病院の治療だけでなくマッサージも受けたい、夜でも通いやすい等の理由から、整骨院(接骨院)での施術を希望する方がいるかもしれませんが、医師に無断で通院を開始することは控えるようにしましょう。必ず医師の了承を得てから通院を開始することが重要です。
整骨院での治療費やその分の慰謝料については、基本的に、加害者側の保険会社に請求することができますが、医師の了承がなく整骨院に通った場合は、整骨院に通った分の治療費や慰謝料を支払ってもらえない可能性が高くなります。これは、医師がケガの治療に有効であると判断していなければ、整骨院での施術の必要性や有効性が認められにくいからです。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
整骨院(接骨院)に通院する場合の注意点
整骨院に通院することになった場合であっても、最低でも月に1~2回程度の頻度で、整形外科にも通院を続けることが必要です。
整形外科に行くのをやめて、整骨院だけ通い続けると、加害者側の保険会社に「これ以上、ケガの治療は必要ないのでは?」と判断され、早期に治療費の支払いを打ち切られる可能性があるからです。
また、定期的に整形外科に通院すれば、主治医にケガの症状を伝え、今後の治療方法についてアドバイスをもらうことも可能です。
さらに、医師が治療経過を観察し、整骨院での施術の必要性を適宜判断していれば、整骨院での治療費や慰謝料の支払いも認められやすくなるというメリットがあります。
むちうちの治療方法
整形外科のむちうち治療
整形外科のむちうち治療では、湿布や鎮痛剤が処方されたり、以下のような治療が行われたりすることが一般的です。
- ブロック注射:局所麻酔を打ち、痛みの緩和や自然治癒力の向上を図る。
- 牽引療法:機械や手で首を引っ張り、硬くなった筋肉や関節にかかる負担を軽減させる。
- 電気療法:患部に電気パッドを装着し、微電流を流し、動作の回復や痛みの軽減を図る。
- 運動療法:運動により、動きが悪くなった関節の可動域訓練や筋肉強化を図る。
- 温熱療法:ホットパックなどで筋肉を温め、血行を良くする。
整骨院(接骨院)のむちうち治療
整骨院(接骨院)のむちうち治療では、ハンドテクニックによる施術がメインで行われます。首や肩周りのマッサージや全身マッサージによって筋肉をほぐして、血行を良くしたり、骨を正常な位置に戻す整体などが行われたりします。
また、整形外科と同様に、牽引療法や電気療法等が行われる場合もあります。
ただし、整骨院では投薬治療や精密検査ができないため、痛みやしびれなどの症状を和らげるための対症療法が基本となります。したがって、整骨院に通院する場合は、柔道整復師に自覚症状を詳細に伝え、効果的な施術を受けることが必要です。
後遺障害等級認定を見据えて検査を受けましょう
むちうちは、痛みやしびれ、頭痛やめまいなどの症状が出るケースが多いですが、明らかな外傷がなく、レントゲンやMRI検査などでも異常所見が見つからないことが多々あります。
むちうちによってこのような神経症状が後遺障害として残った場合に、適切な後遺障害等級認定を受けるためには、整形外科の医師に自覚症状や生活への支障等を詳細に伝え、後遺障害診断書に記録してもらい、さらに、必要な検査を受けることが必要です。
後遺障害認定に必要な検査とは、レントゲンやCT、MRI等の画像診断はもちろんのこと、神経学的検査(スパーリングテスト、ジャクソンテスト、知覚テスト、反射テスト等)などの検査が挙げられます。後の後遺症に備えて、できる限り早い時期にこれらの検査を受け、検査結果を記録してもらうことが重要です。
お困りのことがあったら弁護士にご相談ください
むちうちは明らかな外傷がなく、MRIなどの画像にも写りにくいため、医学的証拠を得ることが難しいケガです。そのため、相手方の保険会社との示談交渉の際に、「本当に今回の事故でむちうちになったのか?」「治療が必要だったのか?」などと、事故とケガとの関連性や治療の必要性について、もめるケースが少なくありません。
この点、交通事故に精通した弁護士に任せれば、慰謝料請求を見据えた通院の仕方や自覚症状の伝え方等のアドバイス、治療費打切りの延長交渉、後遺障害等級認定の申請サポート等をしてもらえるため、適正な賠償を受けられる可能性が高まります。
むちうちについてお悩みの場合は、ぜひ交通事故対応を得意とする弁護士法人ALGにご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)