
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
相続税対策として、養子を迎えるという方法があります。養子を迎えて法定相続人が増えると、相続税の金額が下がる可能性があるからです。
しかし、養子は法律上の子であるため、相続税のことだけを考えて養子縁組すると、思いもよらないトラブルが発生してしまうリスクもあります。この記事では、養子を迎えることによる相続税対策について、メリットや注意点、方法等を解説します。
目次
養子は相続税対策になる?
養子縁組によって子が増えると、法定相続人が増えて、相続税の基礎控除額が増えるので、相続税対策になる可能性があります。ただし、これは確実なことではありません。
養子縁組によって法定相続人が減ってしまうケースや、相続税が2割加算されてしまうケース等では、相続税の負担が増えてしまうおそれがあります。
また、養子との関係が悪化してトラブルに発展する等、リスクが伴うことにも注意する必要があるので、養子縁組については慎重に検討しましょう。
相続税対策として行われる養子縁組にはどんなものがある?
孫と養子縁組
相続税対策として養子縁組する場合であっても、赤の他人と養子縁組するのはレアケースであり、血縁のある孫と養子縁組することが考えられます。
孫と養子縁組するケースとして、孫に財産を相続させたい場合や、財産が多いために少しでも相続税を減らしたい場合等が挙げられます。
ただし、孫を養子にすると、孫が支払う相続税が2割加算されるおそれがあるため、納める税金の総額が増えるリスクもあることに注意しましょう。
嫁と養子縁組
本来、息子の配偶者のことを「嫁」と呼ぶといわれています。嫁と養子縁組したいと考えるきっかけとして、介護をしてもらった恩を返すこと等が挙げられます。もちろん、娘の配偶者に介護してもらったり、後継ぎとして指名したりして、養子縁組することも考えられます。
ただし、被相続人の子が年上の配偶者と結婚している場合、被相続人よりも先に亡くなってしまうおそれがあります。また、養子にした配偶者が再婚であり、前の配偶者との間に子がいると、その子に自分の財産が渡ってしまうリスクがあることにも注意しましょう。
相続税対策に養子縁組することのメリット
相続税対策として孫や嫁と養子縁組することで、相続税の金額を抑えられる可能性があります。その理由の1つとして、相続税を計算するときに、法定相続人の数に応じた基礎控除があることが挙げられます。相続税の基礎控除額は、次の式によって計算できます。
相続税の基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
また、生命保険の死亡保険金や、死亡退職金についても非課税枠があります。非課税枠は、以下のような式で計算できます。
非課税枠の金額=500万円×法定相続人の数
これらの式により、養子縁組をして法定相続人が増えると、基礎控除額が増えることで、相続税を抑えられることになります。
ただし、法定相続人が被相続人の兄弟姉妹であった場合等では、養子縁組によって子ができると、法定相続人の数が減ってしまうケースもあります。このようなケースでは、養子縁組によって相続税が増額されてしまうおそれがあります。
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相続税対策のために養子縁組することの注意点
他の相続人とトラブルになることがある
養子縁組をして養子が増えると、実子の法定相続分が減るためトラブルになるおそれがあります。特に、養子が自身の取り分を主張したときに、節税のためだけに養子縁組すると思っていた親族等と激しく対立するおそれがあります。
真の目的が節税であったとしても、養子には法定相続分があり、相続放棄を強制することはできません。養子縁組するときには、法定相続人である親族等と話し合い、相続のことを慎重に検討する必要があるでしょう。
基礎控除の枠として有効な養子の数には制限がある
養子縁組による基礎控除や非課税枠の増額には制限があります。これは、相続税の基礎控除などに反映される養子の人数を制限しないと、常識では考えられないような人数と養子縁組して、相続税を不当に減額しようとする者が現れるおそれがあるからです。
基礎控除等に反映される養子の人数は、以下のように制限されています。
- 実子がいる:1人まで
- 実子がいない:2人まで
なお、特別養子縁組や、配偶者の連れ子との養子縁組については悪用されるリスクが低いため、この制限の対象外とされています。
相続税が2割加算されるケースもある
相続税の2割加算とは、被相続人の兄弟や養子となった孫など、遺産を相続する可能性が低かった者等が遺産を受け取った場合に、相続税の金額を2割加算する制度です。
相続税の2割加算の対象にならないのは、被相続人の配偶者と子、両親、代襲相続した孫です。これらの者ではない者が相続すると、基本的に相続税の2割加算の対象となります。
相続税が加算される理由として、相続する可能性が低かった者は、偶然の要素が大きく生活を保障する必要性もあまりないため、より多くの負担を求めても問題ないと考えられることが挙げられます。
また、被相続人の養子は、基本的に子として扱われるため2割加算の対象外ですが、被相続人の孫を養子にした場合には2割加算の対象となります。これは、本来であれば相続税を納める機会が2回あるはずであったのに、養子縁組によって1回に減ることから、なるべく公平に課税することを目的としています。
節税目的の養子縁組は否認されることがある
節税を目的として養子縁組したと税務署に判断されると、相続税の計算上、養子縁組の効果を認めてもらえず、相続税が減額されないおそれがあります。
節税のためだけに養子縁組したと判断されるリスクが高いのは、主に以下のような場合です。
- 被相続人が亡くなる直前に養子縁組した
- 養子が相続財産をまったく相続しなかった
なお、相続について養子縁組の効果が否認されても、養子縁組そのものが取り消されるわけではありません。そのため、養子が相続することは可能です。
相続税対策として養子縁組する方法
相続税対策として養子縁組をする場合には、ほとんどのケースでは、普通養子縁組を行うことになります。
普通養子縁組では、未成年者を養子にするときには、基本的に家庭裁判所の許可が必要となります。しかし、成人を養子にする場合、養子縁組届を提出して受理されることによって成立します。
なお、普通養子縁組以外にも、特別養子縁組という制度があります。特別養子縁組をすると、実の両親との法的な親子関係が終了し、養子と養親との間に新たな親子関係が作られます。
しかし、特別養子縁組は、実の親による監護が著しく困難または不適当であるために、法律上の親子関係を終わらせて養子縁組をする制度です。あくまでも子供の福祉のための制度であり、相続税の節税等を目的として使うことはできないと考えるべきでしょう。
相続についてのお悩みは弁護士にご相談ください
相続税について心配している方は、養子縁組だけでなく、様々な節税方法が考えられます。しかし、どのような方法を用いたとしても、リスクやデメリットは伴ってしまいます。
そこで、相続税対策でお悩みの方は、弁護士にご相談ください。相談していただいた方について、どのような相続税対策が有効だと考えられるのかをアドバイスいたします。また、トラブルになりにくい遺言書の作成等、税金以外の相続に関するお悩みも、併せてご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)