監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
相続税の負担を少しでも軽くしたいと考える方にとって、不動産を活用する方法による節税は有効な選択肢の一つです。
不動産は、購入するときに使った金額よりも評価額が低くなることが多いので、適切に活用することができれば、大きな節税効果が期待できます。ただし、節税のことばかりを考えて不動産を複数購入するような行為は、大切な財産を失うリスクを生じさせてしまいます。
この記事では、不動産が相続税対策に効果的な理由や、不動産による対策のメリット・デメリット、相続税の計算における不動産の評価方法、不動産による対策の注意点等について解説します。
目次
不動産が相続税対策に効果的な理由
不動産は、現金や預貯金と比べて、相続税評価額が低くなる傾向があります。
これは、土地や建物の評価が時価ではなく、路線価や固定資産税評価額などの、時価よりも低額であることが多い基準によって算出されるためです。
例えば、1億円の資産を相続する場合、現金や預貯金であれば1億円として評価されますが、不動産であれば7000万円程度に評価が下がる可能性があります。
この評価額の違いが、不動産を購入すると相続税の節税につながることが多いと言われている理由です。
不動産を利用した相続税対策のメリット
不動産を利用した相続税対策のメリットは、不動産を購入するだけで相続税評価額を下げることが可能なことです。
さらに、購入した不動産を賃貸物件として活用する場合には、貸家として不動産の評価額が引き下げられるため、節税効果が高まります。
もちろん、相続する前にも相続後にも、家賃収入が発生するというメリットもあります。
また、小規模宅地等の特例により、一定の条件を満たせば土地の評価額を最大80%減額できるケースもあります。
高額な土地について、この制度を利用できれば節税効果が大きくなります。
結果として、相続税の負担を軽減できるので、現金や預貯金のままにしておくよりも、多くの資産を次世代に引き継ぐことが可能となります。
不動産を利用した相続税対策のデメリット
不動産による相続税対策には、注意するべきデメリットも存在します。
まず、物件の購入により現金が減ります。
相続人が、すぐに現金を必要としている場合等では、せっかく購入した不動産をすぐに売らなければならず、購入時よりも大幅に安く買い叩かれてしまうおそれがあります。
売買にかかる費用も負担しなければなりません。
また、不動産には固定資産税がかかります。
土地は手入れしなければならず、建物には修繕費がかかる等、不動産は負担になるリスクのある財産です。
景気の動向などにより、不動産の資産価値が下落して損失が出るリスクも考慮しておく必要があります。加えて、複数の相続人がいる場合、不動産は分割が難しいので、トラブルの原因になることもあります。
遺言書を作成しておく等、生前の対策が不可欠となるでしょう。
相続税の計算における不動産評価方法
土地の評価方法
土地の評価方法には、主に路線価方式と倍率方式が存在します。
これらの方式は、相続税を算出するときに、不動産の価値を評価するために用いられるものです。
路線価方式は、主に都市部や市街地など、道路に面した土地に対して適用される評価方法です。国税庁が毎年公表する「路線価」と呼ばれる基準値をもとに、土地の形状や面積、接道状況などを加味して評価額を算出します。
一方で、倍率方式は、路線価が設定されていない地域である、郊外などの土地に対して用いられる評価方法です。この方式では、自治体が算定する固定資産税評価額に、国税庁が定めた一定の倍率を掛け合わせて土地の相続税評価額を算出します。
どちらの方式であっても、土地の評価額は購入した金額よりも低くなる傾向があるため、課税対象となる財産の総額を抑えることが可能です。
建物の評価方法
建物の評価額は、基本的に固定資産税評価額を基準として算定されます。
固定資産税評価額は、市町村が独自に定める評価基準に基づいて算出されます。一般的には、購入額よりもかなり低くなる傾向があります。
そのため、建物を相続財産として保有している場合、評価額が市場価格よりも低く抑えられて、課税対象となる財産の総額を抑えることが可能です。
さらに、建物が賃貸物件として利用されている場合には、追加の評価減が認められる可能性があります。
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不動産を利用した相続税対策
不動産を購入する
不動産は、購入するだけでも相続税対策になる可能性があります。
不動産の評価額は実際の購入価格よりも低く見積もられるケースが多いので、相続税の課税対象となる財産の評価額を減らせるからです。
ただし、不動産には取引の手数料や固定資産税、建物の修繕費、手入れする手間などがかかるおそれがあります。
そのため、安易に不動産を購入すると、相続税が下がるメリットを上回るデメリットが生じることも考えられるので、必要な不動産だけを適切なタイミングで購入することが望ましいでしょう。
不動産を賃貸物件にする
不動産を賃貸物件として運用することで、評価額がさらに下がり、相続税の節税につながります。これは、借家権や借地権の影響で、不動産の評価額が減額されるためです。
なお、アパートやマンションを賃貸している場合には、実際に入居者がいなくても、賃貸用としての実態があれば評価減の対象になることがあります。
空室である期間が1ヶ月程度であれば認められる可能性がありますが、必ず認められるわけではありません。
空室率が高いと、相続税を減額する効果が下がるだけでなく、賃貸経営が立ち行かなくなるおそれがあるため、採算の取れる物件を購入するようにしましょう。
不動産を法人化する
不動産を法人名義に変更することによって、相続税の負担を軽減できる可能性があります。
これは、個人が所有している不動産を法人に移転して、その法人が不動産の管理や運用を行う形にする方法です。
法人が所有する不動産は、相続時には法人の株式として評価されることになります。
このとき、不動産の市場価格よりも低い評価額になることがあるため、相続税の課税対象となる財産の総額を抑えることが可能となります。
ただし、不動産を法人化するためには、法人の登記や定款の作成、資本金の準備といったコストがかかります。また、法人を維持して運営しなければなりません。
さらに、法人に不動産を移転するときには譲渡所得税や登録免許税といった税金が発生するケースがある等、トータルでの収支をシミュレーションしなければなりません。
個人では手に負えない場合には、専門家に相談することをおすすめします。
「小規模宅地等の特例」を利用する
小規模宅地等の特例を適用できれば、相続税を課税するときの土地の価値が大幅に下がるため、納税額をかなり抑えられる可能性があります。
小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たすことで、相続対象となる土地の330㎡までの範囲について、評価額の80%までを減額できる可能性がある制度です。
特例の対象になるのは、主に被相続人が生前に居住していた自宅の敷地や、事業を営んでいた場合の事業用地、借地とされていた土地等が挙げられます。
ただし、特例を受けるためには、相続人がその土地を一定期間継続して使用することや、相続税の申告期限までに申告を行うこと等の条件を満たす必要があります。
もしも適用の対象にならないと、相続税が高額になってしまうリスクがあるため、適用条件は慎重に確認しましょう。
不動産を生前贈与する
不動産を生前贈与すれば、その不動産は相続財産として扱われなくなるため、相続税を抑えられる可能性があります。ただし、生前贈与には贈与税が課されます。
贈与税は相続税よりも税率が高く設定されている場合があるため、かえって税負担が増加するケースもあります。
都市部で再開発を行っている地域の不動産など、将来的に資産価値の上昇が見込まれる不動産がある場合には、今すぐに生前贈与して、現時点の評価額に基づいて贈与税を支払っておくことにより、高騰した評価額に基づいて相続税が課されるリスクをなくすことができます。
どの不動産を生前贈与するかについては、贈与を行うタイミングや不動産の種類、所在地、評価方法等を検討してから決めましょう。
相続した不動産を売却する
相続した不動産を売却してしまうことによって、トータルでの税負担を抑える方法があります。
例えば、取得費加算の特例を利用することによって、相続税として支払った金額の一部を不動産の取得費に加算することができるので、譲渡所得が圧縮されて課税額が減少します。
また、相続した不動産が空き家であり、一定の条件を満たす場合には、空き家の譲渡所得の特別控除が適用されて、最大3000万円の控除により譲渡所得税の大幅な軽減が期待できます。
相続後に不動産を売却することは、相続税の納税資金を確保する手段として有効なので、使える制度は積極的に利用しましょう。
不動産で相続税対策を行う場合の注意点
明らかに相続税対策とみなされると無効になる
税務署が、明らかな相続税対策であり、過度の節税であると判断した場合には、相続税対策が否認されてしまうおそれがあります。
例えば、相続が発生する直前に高額の不動産を購入したり、資産を法人化して名義を変更したりする等の行為は、節税以外の目的がほとんどないと考えられます。
これらの行為は、形式的には合法であっても、実態が伴っていないため税務調査の対象となります。
相続税対策を講じるときには、税額を減らすことだけを考えるのではなく、長期的な経済活動を見据えた対策を検討しましょう。
購入した不動産を3年以内に売却しない
相続税対策として購入した不動産は、相続から3年程度は売却しないようにしましょう。
なぜなら、購入した不動産を短期間で売却すると、資産運用や居住の意思がなく、単に税負担を軽減するためだけに取得したと税務署に判断されるおそれがあるからです。
否認されると、不動産の評価額が下がる効果は失われ、相続税が再計算されて追加の納税を求められるリスクが生じます。節税の効果を維持するためには、相続した不動産を一定期間は保有して、活用している実態を示すことが必要となります。
例えば、賃貸運用を継続することや、居住用として使用すること等に利用することが考えられます。
不動産を活用した相続税対策でお悩みなら、ご相談ください
相続税対策として、不動産を活用することは有効な手段です。
しかし、安易に不動産を購入すると、手数料や他の税金、維持管理の費用等により、かえって損失が生じてしまうおそれがあります。また、相続人の間における、相続トラブルを引き起こすリスク等についても考えなければなりません。
不動産が原因となって生じるリスクを防ぐために、まずは弁護士に相談することをおすすめいたします。弁護士は、相続税の観点だけでなく、相続人等の間に生じる権利関係や、将来の紛争予防まで見据えたアドバイスを提供します。
相続人同士で不動産を巡る争いが起きないように、遺言書を作成しておく等の対策についても、併せてご相談ください。

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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
