監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
相手に対する不満がつのり、「もう我慢できない。離婚しよう」と決意しても、今後どのように離婚の手続きをとればいいのか、離婚について悩まれている方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
離婚の方法には、協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚と4つの方法がありますが、どの方法が適しているかは、夫婦の置かれた状況により異なります。
ここでは、日本で最も多い協議離婚にスポットをあて、協議離婚の進め方や注意点などについて、ご説明しますので、ぜひ参考になさってください。
協議離婚の進め方や流れ
協議離婚の進め方や流れは、主に以下のとおりとなりますので、ご確認ください。
相手に離婚を切り出す
離婚を切り出す前に、離婚したい理由や離婚後の生活設計を明確にしておくことが大切です。
例えば、「離婚したい理由は夫の浮気。親権は自分がとる。慰謝料は〇〇円で、養育費は月〇〇円、面会交流は1ヶ月に1回」などメモで整理しておけば、話し合いも進みやすいでしょう。
また、不貞などの離婚原因が相手にある場合、離婚を切り出したら、相手が証拠隠滅を図る可能性があるため、事前に、不倫をうかがわせるメール等の証拠資料を集めておくことが必要です。証拠資料は慰謝料請求のための大切な証拠となります。
さらに、切り出すタイミングも大切です。お互いが喧嘩中の時や子供がいる前で離婚を切り出すと、冷静な話し合いができなくなる可能性があるため、お互いが落ち着いて話し合えるタイミングを見計らって、離婚を切り出しましょう。
離婚に合意したら協議離婚で話し合うべきこと
離婚に合意したら協議離婚で話し合うべきことは、主に以下のようなものが挙げられますので、ご確認ください。
慰謝料
相手に不倫やDV、モラハラ、生活費を渡さないなどの不法行為があり、それが原因で離婚することになった場合に、慰謝料を請求することが可能です。
ただし、双方に離婚の原因があったり、性格の不一致や価値観の違いがあったりするなど、どちらの責任ともいえない場合は、慰謝料を請求することができないのが通常です。
協議離婚の場合、夫婦双方が合意すれば、慰謝料の金額はいくらでも構いません。しかし、あまりに高額だと相手が応じない可能性があり、過去の判例などを参考に、慰謝料の金額を決めるのが望ましいでしょう。
もっとも、「請求ができる」ということと「現実に支払われる」ということの間には大きな差があります。根拠となる証拠の有無や、請求先の資力、財産のありかなどの諸要素を慎重に検討し判断することが必要です。
財産分与
財産分与とは、婚姻中に夫婦で築いた共有財産を、お互いの貢献度に応じて、離婚に伴い分配することをいいます。現金や預貯金、土地、住宅、自動車、年金、婚姻中に契約した生命保険やローンなどが対象となります。財産分与の割合については、貢献度を具体的に測るのは難しいため、裁判など実務上では、基本的に、2分の1ずつとされています。
年金分割
年金分割とは、離婚する際に、夫婦の婚姻期間中に納めた保険料額に対応する厚生年金を分割し、それぞれ自分の年金とすることをいいます。具体的には、厚生年金の保険料納付記録を多い方から少ない方へと分割することになります。年金を分割する方法には、一定の要件で年金記録を1/2ずつ分割できる「3号分割」と、2人で話し合って分割割合を決定する「合意分割」があります。
年金分割には、基本的に、離婚した日の翌日から2年間という請求期限がありますので、注意が必要です。
養育費
養育費とは、未成熟子(経済的、社会的に自立していない子供)が自立するまでにかかる養育のための費用(生活費、教育費、医療費など)のことをいいます。
離婚によって親権者でなくなった親であっても、子供にとって親であることに変わりないため、養育費を支払う義務があります。子供を監護する親(監護親)は、子供と離れて暮らしている親(非監護親)から養育費を受け取ることが可能です。そのため、離婚時に養育費の金額、支払期間、支払方法や支払時期などについて取り決めておくことが必要です。
親権
親権とは、未成年の子供の養育や監護をしたり、財産を管理したりする権利及び義務です。
夫婦が婚姻中の場合は、夫婦が共同して親権を行使しますが、離婚後は共同で親権を行使できないため、離婚にあたっては、必ず、夫婦どちらか一方を親権者に指定する必要があります。
協議離婚の場合は、夫婦の話し合いにより親権者を決め、離婚届に記載しなければなりません。
離婚で親権者が決まらず争いになった場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、親権を決めるための話し合いを行います。調停不成立の場合は、離婚裁判で親権者が決定されることになります。
面会交流
面会交流とは、非監護親と子供が定期的、継続的に直接会って話をしたり、一緒に遊んだり、電話やメールなどの方法で、親子の交流をすることをいいます。
非監護親または子供が面会交流を希望した場合、基本的には、親権者が面会交流に否定的であっても、よほど合理的な理由が無ければ、面会交流が認められる傾向にあります。離婚時に面会の頻度、1回の面会時間や面会場所、面会交流の範囲などについて、取り決めておくことが大切です。
離婚協議書の作成と公正証書の作成
離婚協議書とは、離婚時に夫婦双方が合意した離婚条件などの内容を書面にしたものです。
離婚協議書に養育費や慰謝料など様々な取り決め事項を記載しておけば、離婚後の、言った、言わないのトラブルを防ぐことが可能です。
また、例えば、相手からの養育費や慰謝料の支払いが滞った場合、離婚協議書をもとに、裁判などを起こし、支払いを請求することができます。
なお、離婚協議書を作成する場合は、執行認諾文言付公正証書にしておくことをおすすめします。
相手が離婚条件を守らない場合に、この公正証書があれば、金銭債権については、裁判を行うことなく強制執行をかけることが可能です。相手の預貯金や給料などを差し押さえ、未払い金を回収できます。
離婚届けを役所に提出する
夫婦間で離婚に合意をし、離婚条件を決めたら、次に離婚届を提出します。
離婚届の提出先は、夫妻の本籍地、もしくは、夫または妻の所在地の市区町村役場です。
ただし、提出先が本籍地の役所でない場合は、離婚届と併せて、夫婦の戸籍謄本の提出も必要になります。
書式は市区町村役場の戸籍課に常備してあり、インターネットからダウンロードすることも可能です。提出方法は持参でも郵送でも、夫婦のどちらかだけ、または代理人が提出するのでもかまいません。
また、協議離婚の場合、成人の2名の証人の署名と押印が必要になります。
なお、離婚届に不備がある場合や、夫婦に未成年の子供がいる場合、離婚届に親権者が記載されていないと、不受理になってしまいますので、注意が必要です。
郵送や夜間窓口に提出した場合は、不受理になっても提出した離婚届は戻ってこないため、相手方が離婚届の作成に非協力的で、離婚届の作り直しが難しい場合には、日中に窓口で提出することをお勧めします。
離婚届を提出するタイミングに注意
今すぐにでも離婚したいというお気持ちはわかりますが、離婚条件などについてしっかり話し合わないまま、離婚届を出してしまうと、離婚後、養育費や財産分与など、金銭の支払い等についてトラブルになる可能性があります。ここは焦らず、相手と離婚条件などについてじっくり話し合い、離婚協議書を作成した後に、離婚届を出すことが望ましいでしょう。
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離婚に応じてくれない場合や協議が決裂した場合の進め方
離婚について話し合いを続けていても、一方が離婚したくない場合や、親権や養育費、慰謝料などの離婚条件について折り合いがつかない場合は、いつまで経っても協議離婚が成立しません。
離婚協議が難航した場合の対処方法を、以下でご紹介します。
別居を考える
別居をすると、お互い精神的に落ち着き、今後の離婚について冷静に考える機会を得ることができます。また、相手が離婚を拒否していた場合でも、別居されてしまったらもう仕方がないと、離婚に応じる可能性もあるでしょう。離婚の話し合いがまとまらない場合は、一度別居をしてみることをおすすめします。
なお、別居期間が一定期間続いた場合に、婚姻関係についてすでに破綻していると判断され、法定離婚事由(民法第770条1項5号)に該当し、離婚が認められる場合もあります。
調停離婚を視野に入れる
夫婦間で離婚協議をしたが合意できない場合や、相手が話し合いに応じない場合には、調停による離婚を検討すべきでしょう。家庭裁判所に夫婦関係等調整調停を申し立てると、調停がスタートします。調停委員が間に入り、夫婦双方の言い分を聴き取り、離婚の合意や離婚条件について、意見の調整を行います。ここで夫婦双方が合意に至った場合は、調停が成立し、調停調書が作成され、離婚が成立するということになります。
調停調書には法的効力があり、仮に、相手が養育費や慰謝料などの支払いをしなかった場合、調書をもとに、家庭裁判所に履行勧告または履行命令を申立て、支払いを請求することが可能です。支払いがなされない場合は、地方裁判所に強制執行の申し立てを行い、相手の財産を差し押さえることになります。
別居中やDV・モラハラがある場合の協議離婚の進め方
別居中やDV・モラハラがある場合など、当事者間で離婚の話し合いができないケースでの離婚の進め方を以下に挙げますので、ご確認ください。
別居している場合
別居していて、直接会って離婚の話し合いができない場合には、まずは、メールや電話、手紙などで、相手に「離婚したいので、話し合いがしたい」という意思を伝えましょう。相手が応じれば、離婚に向けた話し合いを進めていきます。しかし、相手が無視している、離婚を拒否している、離婚条件で折り合いがつかないような場合は、弁護士に代理交渉を依頼するか、家庭裁判所に離婚調停を申し立てましょう。離婚調停では、調停委員を介して、離婚条件などについて話し合いを行うことが可能です。
DVやモラハラを受けている場合の協議離婚の進め方
相手からDVやモラハラの被害を受けていて、相手に「離婚をしたい」などと言ったら、身の危険が及ぶ可能性がある場合は、家を出て別居するか、DVシェルターなどに避難して身の安全をはかったうえで、弁護士などの専門家に依頼して、裁判所に対して保護命令や離婚調停の申し立てを行いましょう。
保護命令が発令されると、相手が付きまといなどをした場合に懲役や罰金などが科される可能性があるため、相手は近づきにくくなります。離婚調停においても、DVのことをあらかじめ説明しておけば、調停の場で相手と直接顔を合わさないよう、配慮してもらうことが可能です。
協議離婚を進める際の注意点
協議離婚を進める際の注意点を以下に挙げますので、ご確認ください。
協議内容を録音しておく
離婚に向けての話し合いをする場合は、メモをとることはもちろんのこと、ボイスレコーダーなどで録音しておくことをおすすめします。録音しておけば、後で言った、言わないのトラブルを避けることができますし、音声記録がご自身に有利な条件で離婚を進めるための、有効な証拠となる可能性があるからです。例えば、相手から不倫やDVを認めるような発言があったり、暴言があったりした場合、この音声記録をもとに、離婚事由があることを証明したり、慰謝料請求などをすることが可能となります。なお、無断で相手との会話内容を録音していたとしても違法にはなりませんので、相手から許可を得る必要もありません。
離婚届不受理申出を提出しておく
「離婚届不受理申出」とは、相手方から離婚届が出されても受理しないよう、役所に申し出ておくことをいいます。本来なら、離婚届は夫婦双方が離婚に合意した後に作成し、届出をするものですが、相手が先走って、離婚届を偽造し、勝手に役場に届け出てしまうおそれがあります。これを防止するために、あらかじめ離婚届不受理申出を行っておくことをおすすめします。
不受理申出は、申立人の本籍地または住所地にある市区町村役場に離婚届不受理申出書を提出する方法で行います。有効期限はありません。
不貞やDV等の証拠を出すタイミング
相手方の不貞やDVなどの証拠をつかんだとしても、相手方にはなるべく隠しておくことが望ましいでしょう。証拠を集めていることが知られると、相手が証拠の隠滅をはかったり、逆切れしたり、しらを切ったりして、協議が進まなくなるおそれがあるからです。
そのため、例えば、相手の言い分をすべて聞いた後に、言い逃れができない決定的な証拠を見せるなど、最適なタイミングで証拠を出せば、相手方に不貞やDVの事実を認めさせることができ、結果として、慰謝料の増額の可能性も高まります。最適なタイミングはケースにより異なりますので、弁護士に交渉を任せるという手もあります。
協議離婚の子供への影響
夫婦で離婚の話し合いをする場合は、子どもがいない場で行うようにしましょう。両親がケンカをしている様子を子どもが見てしまうと、不安や恐怖を感じ、精神的トラウマを残すおそれもあります。
また、協議離婚をする際に、親権や子供の苗字を夫婦どちらにするのか、子どもへの影響を考えて決定する必要があります。
男性でも有利に協議離婚の進められるのか
協議離婚においても、男性は女性に比べて親権を獲得できないケースが多いのが現状です。また、一般的に男性は女性より平均的に収入が多いため、親権を取られてしまったら、養育費を支払い続けることになります。また、離婚が成立する前に別居すれば、婚姻費用を支払う必要も生じる可能性があります。面会交流の申入れをしても拒絶された場合は、面会交流の実施が難し場合があります。
そのため、夫婦間で離婚条件について話し合い、なるべくご自身にとって不利な条件を減らすことが必要でしょう。話し合いがまとまらない場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
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協議離婚に関するQ&A
協議離婚についてよくある質問をご紹介します。
協議離婚ではなくいきなり離婚調停をすることはできますか?
離婚の話し合いをせずに、いきなり家庭裁判所に離婚調停を申し立てることは可能です。特に、相手方がDVやモラハラ等を行う人物であって、話し合いが難しい場合には、直接顔を合わせることなく、調停委員を介した話し合いができるため、調停による離婚を目指すことをおすすめします。
また、相手方が離婚の話し合いに応じてくれない場合も、調停を申し立てるべきでしょう。
ただし、いきなり調停を申し立てると、相手が感情的になり、余計にこじれるおそれがありますので、まずは話し合いからスタートして、折り合いがつかない場合に、調停を申し立てるという段取りで進めるのがよいでしょう。
離婚届を提出した後に行う手続きは、どのようなものがありますか?
離婚届を提出した後に行うべき手続きは、主に以下のようなものが挙げられますので、ご確認ください。
たくさんの手続きが必要となります。
- 住民票の異動(転入、転居、転出届、世帯主変更届などを提出)
- 国民年金の変更(相手の厚生年金に加入していた場合は国民年金に加入し直します)
- 国民健康保険の加入(相手の健康保険に加入していた場合は国民健康保険に加入し直します)
- 印鑑登録の変更
- 児童手当の受給者変更
- 児童扶養手当の申請
- 年金分割
- 婚氏続称の届出(婚姻時の苗字をそのまま使う場合)
- 子の氏の変更許可の申立て(子供の苗字を自分の旧姓にする場合)
- 運転免許やパスポート、マイナンバーカードなどの書き換え
- 自宅や自動車の名義変更
- 公共料金の契約者の変更
協議離婚の証人には誰がなれるのでしょうか?
協議離婚では、成人の2名の証人の署名と押印が必要になります。令和4年4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられましたので、18歳以上の方であれば、証人になることができます。
一般的には、夫婦の親や兄弟姉妹、友人などに依頼する場合が多いようですが、まったく知らない赤の他人でも証人になれます。証人になることで受ける不利益は基本的にはありません。
離婚届の証人は、夫婦それぞれから1名ずつ出す必要はなく、どちらか一方が2名を出すことも可能です。
協議離婚を進める際、第三者の立ち合いは必要ですか?
協議離婚を進める際に、第三者の立ち合いは必要ありませんし、立ち会わせるべきではありません。第三者として、例えば、双方の両親に立ち合ってもらうことも可能ですが、当然、自分の子どもの方に有利な条件で離婚の話し合いが進むよう、肩入れすることが予想されるため、お互い感情的になり、冷静な話し合いができなくなるおそれがあります。
そのため、夫婦の親族などによる立ち合いは避け、できれば弁護士などの専門家を立ち合わせることをおすすめします。
協議離婚を適切に進められるかご不安な場合は弁護士へご相談ください
協議離婚は簡単な手続ですむ離婚方法ですが、夫婦間の話し合いによって、養育費や慰謝料、財産分与などの離婚条件を取り決める必要があります。
これら条件は法的な問題とも絡むため、夫婦間の協議だけで決めるというのは容易なことではありません。また、相手が離婚の話し合いに応じない場合は、いつまで経っても離婚が成立しません。
このように、離婚協議が難航している場合は、離婚問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士が介入すれば、法的知識に基づき、協議離婚を適切にスムーズに進めるためのサポートを受けることが可能ですし、ご自身にとって有利な離婚条件で離婚できる可能性も高まります。また、調停離婚や裁判離婚に進行した場合のサポートも受けられます。
協議離婚について悩まれている方は、ぜひ、離婚案件に豊富な相談実績をもつ、弁護士法人ALGにご相談ください。
交通事故の被害者になり、自分には何の落ち度もないと思っていたのに、相手方保険会社から「過失割合は加害者が9割で、被害者が1割なので、あなたに支払う賠償金を1割減額します」と言われるような場合があります。
過失割合とは事故当事者の責任の度合いを割合で示したもので、交通事故の賠償金額を変動させる要因となるため、重要なものです。
ここでは、過失割合が9対1になる場合の賠償金額の計算方法や具体的な事例、過失割合の修正事例などについて、ご紹介していきたいと思います。
交通事故で過失割合9対1の損害賠償金額について
交通事故における過失割合をまとめると、以下のような特徴があります。
- 事故当事者の責任(不注意、過失)を割合で示したもの
- 一般的には、実際の事故と類似した過去の裁判例を基準とし、事故状況に応じて双方の過失割合に修正を加えながら、最終的な割合を算定する
- 交通事故においては、過失割合の大きい方を「加害者」、過失割合の小さい方を「被害者」という
次に具体的な計算式でご説明します。
【例】
- 加害者の過失が9割、被害者の過失が1割
- 加害者の損害額が300万円、被害者の損害額が1,000万円
①加害者が被害者に対して請求できる損害額
300万円×(1-0.9)=30万円
②被害者が加害者に対して請求できる損害額
1,000万円×(1-0.1)=900万円
③30万円と900万円を過失相殺すると、結果として、被害者は870万円の損害賠償金を受け取ることになる
以下の表に計算例をまとめましたので、ご参照ください。
過失割合 | 9 | 1 |
---|---|---|
損害額 | 300万円 | 1,000万円 |
請求金額 | 300万円×(1-0.9) =30万円 |
1,000万円×(1-0.1) =900万円 |
実際の受取額 | 0円 | 870万円 |
過失割合9対1と10対0の比較
上記の表の例では、被害者が加害者に請求できる損害額は1,000万円×(1-0.9)=900万円となります。しかし、加害者も被害者に対して30万円の損害額請求権をもちますから、被害者が最終的に受け取れる金額は900万円-30万円=870万円となります。
それに対し、被害者に全く過失がない事故の場合、過失割合は10対0となりますので、被害者の損害額が1,000万円だとすると、加害者に請求可能な損害額は1,000万円となります。
しかし、9対1と判断されても、被害者に全く過失がなく、加害者の過失が増加する特別な事情(修正要素)があることを証明できれば、10対0に変更できる場合があります。例えば、加害者側にスピード違反やわき見運転などの事情があるような場合です。
10対0の場合は、基本的には、保険会社示談交渉サービスが使えず、被害者自身で相手方保険会社と交渉する必要があります。もっとも、相手方保険会社が交渉上全面的に自陣の非を認めることは通常考えられませんので、10対0への変更を実現することは交渉レベルでは弁護士の介入をもってしても通常は極めて困難です。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故の過失割合が9対1の賠償金額の計算方法
交通事故の具体的な賠償金の計算手順は、下記のとおりとなります。
①損害金総額を算出
計算対象となる損害金項目は、治療費、入通院慰謝料、休業損害、後遺障害認定を受けた場合に支払われる後遺障害慰謝料、逸失利益などや、物損に関する損害金などが挙げられます。
これら損害金を合算して、総額を算出します。
②過失相殺による減額
事故当事者双方に過失があるなら、損害金の総額から、過失割合分を減額し、過失相殺を行います。
③既払金を控除
示談前に相手方保険会社から治療費等の損害金の先払いを受けている場合は、最終的な損害金額から控除します。
例えば、「過失割合が9:1で、加害者の損害額が200万円、被害者の損害額が800万円、被害者に対する既払金が50万円」だった場合は、まず、損害額から過失割合分を控除し、過失相殺を行います。
加害者の損害額 200万円×(1-0.9)=20万円
被害者の損害額 800万円×(1-0.1)=720万円
720万円-20万円=700万円(過失相殺)
次に、700万円から既払金50万円を控除します。最終的に、被害者が加害者に対して請求可能な損害金額は650万円となります。
700万円-50万円=650万円(既払金控除)
9対1の場合、保険の等級にも影響があります
交通事故に遭い、被害者に1割でも過失がある場合は、被害者が加入する自動車保険を利用し、賠償金を支払うのが一般的です。ただし、保険を利用して賠償金を支払うと、翌年以降の保険の等級が下がり、保険料も上がることが想定されます。支払うべき賠償金額より、値上がりした保険料の方が高くなる場合は、保険を利用しない方がいい場合もあります。よって、支払いの前に、保険料がどの程度増えるか保険会社の担当者に確認した方がよいでしょう。
なお、保険に弁護士費用特約がついていれば、上限はありますが、弁護士費用を負担することなく、弁護士に依頼することが可能です。
弁護士特約を利用すると、翌年以降の等級が下がらず、保険料が上がらないというメリットがあります。保険会社に特約の有無を確認し、付帯していたら、利用することをおすすめします。
基本過失割合が9対1になるケース
過失割合が9対1になる事故ケースとはどのようなものなのでしょうか。
ここでは、自動車同士の事故、自動車とバイク、自動車と自転車、自動車と歩行者との事故など、事故状況別に分けて、説明していきたいと思います。
自動車同士の事故で過失割合が9対1になるケースは、下記のようなケースです。
①一方に一時停止の規制がある場合
信号機のない交差点で、一時停止の規制がない道路から減速して進入したAと、一時停止の規制があり、減速せず進入したBが衝突 ⇒ B対A=9対1
②一方が優先道路(直進車同士)
信号機のない交差点で、優先道路を直進するAと非優先道路を直進するBが衝突⇒B対A=9対1
③直進車と右折車
信号機のある交差点で、赤信号で直進するAと、青信号で進入し、赤信号で右折したBが衝突⇒B対A=9対1
④一方が優先道路(直進車と右折車)
信号機のない交差点で、優先道路を直進するAと、非優先道路から優先道路へ右折したBが衝突⇒B対A=9対1
⑤一方が優先道路(直進車と左折車)
信号機のない交差点で、優先道路を直進するAと非優先道路から優先道路に左折したBが衝突⇒B対A=9対1
⑥追越禁止の交差点(右折車と追越直進車)
追い越し禁止の交差点で、中央線または道路中央を越えた追越直進車Aと、右折車Bが衝突⇒A対B=9:1
⑦一方が優先道路(直進車と右左折車)
T字型交差点で、優先道路を直進するAと、非優先道路から優先道路に右折または左折したBが衝突⇒B対A=9対1
⑧道路外に出るため右折する場合
直進するAと、対向直進し、道路外に出るために右折するBが衝突⇒B対A=9対1
⑨追越車と追い越される車の場合
追越禁止場所で、直進するAと、Aを追い越したBが衝突⇒B対A=9対1
自動車とバイクの事故
自動車とバイクの事故で過失割合が9対1になるケースは、下記のようなケースです。
①直進車同士
信号機のある交差点で、赤信号で進入したA車と、黄色信号で進入したバイクBが衝突⇒A対B=9対1
②一方が明らかに広い道路の場合
信号機のない交差点で、狭路から減速しないで進入した直進車Aと、広路を減速しながら直進するバイクBが衝突⇒A対B=9対1
③一方に一時停止の規制がある場合
信号機のない交差点で、一時停止の規制があり、減速せずに進入した車Aと、減速しながら直進していたバイクBが衝突⇒A対B=9対1
④一方が優先道路の場合
信号機のない交差点で、非優先道路から優先道路に進入した車Aと優先道路を直進するバイクBが衝突⇒A対B=9対1
⑤車が一方通行違反の場合
信号機のない交差点で、一方通行規制に違反して、交差点に進入した車Aと直進するバイクBが衝突⇒A対B=9対1
⑥右折車と直進車
信号機のある交差点で、赤信号で進入する直進車Aと青信号で進入し、黄色信号になった後、赤信号で右折したバイクBが衝突⇒A対B=9対1
⑦右折車に一時停止の規制がある場合
信号機のない交差点で、一時停止の規制を受ける右折車Aと、直進するバイクBが衝突⇒A対B=9対1
⑧一方が優先道路の場合
信号機のない交差点で、非優先道路から優先道路に右折したA車と直進するバイクBが衝突⇒A対B=9対1
⑨左折車と直進車
信号機のない交差点で、直進するバイクBと、Bを追い抜き、左折した車Aが衝突⇒A対B=9対1
⑩路外車が道路に入る場合
道路外から道路に進入するA車と、直進するバイクBが衝突⇒A対B=9対1
⑪路外に出るために右折する場合
直進車Aと道路外に出るために右折するバイクBが衝突⇒A対B=9対1
⑫バイクに法24条違反
先行するバイクBが急ブレーキをかけたために、A車がバイクBに追突⇒A対B=9対1
⑬転回車と直進車との事故
転回するA車と、直進するバイクBが衝突⇒A対B=9対1
⑭ドア開放事故
開放されたA車のドアに直進するバイクBが追突⇒A対B=9対1
自動車と自転車の事故
自動車と自転車の事故で過失割合が9対1になるケースは、下記のようなケースです。
①車直進・自転車右折
信号機のある交差点で、赤信号で進入する直進車Aと、赤信号で進入し右折した自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
②車右折・自転車直進
信号機のない交差点で、右折車Aと、直進自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
③一方が明らかに広い道路で、車右折・自転車直進
信号機のない交差点で、狭路から広路に右折したA車と広路を直進する自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
④一方が明らかに広い道路で、車直進・自転車右折
信号機のない交差点で、狭路から広路に進入したA車と、広路から狭路に対向右折した自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
⑤車に一時停止規制がある場合で、直進車同士
信号機のない交差点において、一時停止の規制を受ける直進車Aと直進自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
⑥車に一時停止の規制がある場合で、車右折・自転車直進
信号機のない交差点で、一時停止の規制を受ける右折車Aと直進自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
⑦車に一時停止の規制がある場合で、車直進・自転車右折
信号機のない交差点で、一時停止の規制を受ける直進車Aと対向右折した自転車B が衝突⇒A対B=9対1
⑧車に一時停止の規制がある場合で、同一方向右折
信号機のない交差点で、一時停止の規制を受ける直進車Aと同一方向を右折した自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
⑨自転車が優先道路の場合で、直進車同士
信号機のない交差点で、非優先道路から優先道路に進入したA車と、優先道路を直進する自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
⑩自転車が優先道路の場合で、車右折、自転車直進
信号機のない交差点で、非優先道路から優先道路に進入し、右折したA車と優先道路を直進する自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
⑪自転車が優先道路の場合で、車直進、自転車右折
信号機のない交差点で、非優先道路から優先道路に進入したA車と優先道路を対向右折する自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
⑫自転車が優先道路の場合で、同一方向右折
信号機のない交差点で、非優先道路から優先道路に進入したA車と同一方向に右折する自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
⑬交差点での車先行左折
信号機のない交差点で、先行するA車が左折した際、同一方向を直進する自転車Bと衝突⇒A対B=9対1
⑭渋滞中の車両間の事故
信号機のない交差点で、渋滞中の自動車の間を通り、対向方向から右折しようとした、または、交差する道路を直進していた自動車Aと、渋滞中の自動車を追い越しながら直進していた自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
⑮路外出入車と直進車の事故
道路外から道路に進入したA車と、同一方向または対向方向を直進する自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
⑯車が路外に出るために右折する場合
道路外に出るために右折するA車と、同一方向または対向方向を直進する自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
⑰対向車同士の事故(車直進、自転車右側通行)
直進するA車と、道路の右側を通行していた自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
⑱車進路変更
前方を走行していたA車が、進路変更をし、左側を通行していた自転車Bに衝突⇒A対B=9対1
⑲自転車進路変更で前方に障害物あり
前方にいた自転車Bが進路変更し、同一方向を走行していた車Aに衝突⇒A対B=9対1
⑳転回車と直進車の事故
道路を転回中のA車と同一方向または対向方向を直進する自転車Bが衝突⇒A対B=9対1
自動車と歩行者の事故
自動車と歩行者の事故で過失割合が9対1になるケースは、下記のようなケースです。
①幹線道路・広狭差のある道路における広路横断
狭路から広路に右左折するA車と広路を横断する歩行者Bが衝突⇒A対B=9対1
②幹線道路・広狭差のある道路における狭路横断
狭路から広路に直進、または右左折するA車と狭路を横断する歩行者Bが衝突⇒A対B=9対1
③ 車道通行が許されている場合
歩道、車道の区別があるが、工事中等で歩道を通行できず、車道を歩いていた歩行者Bと車道を走るA車が衝突⇒A対B=9対1
④ 歩車道の区別のない道路の場合
歩道、車道の区別のない道路を同一方向または対向方向に進行する歩行者Bと直進車Aが衝突⇒A対B=9対1
自転車と歩行者の事故
自転車と歩行者の交通事故において、過失割合が9対1になるケースは主に以下の通りです。①~④の過失割合はすべて「自転車:歩行者=9対1」となります。
①信号機のある交差点で、青信号で道路を横断する歩行者と青信号で右左折する自転車が衝突した場合。
②信号機のある交差点で、青信号で道路を横断する歩行者と赤信号で直進した自転車が、横断歩道の手前で衝突した場合
③工事中等のため歩道を通行できず、車道を歩いていた歩行者と車道を走行する自転車が衝突した場合
④歩道、車道の区別がない道路で、道路の側端以外を歩いていた歩行者と車道を走行する自転車が衝突した場合
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故の過失割合9対1に関する解決事例
ここで、ALGの弁護士が介入し、過失割合を9対1に修正できた2つの事例をご紹介します。
訴訟を行い、加害者扱いから被害者へ(7対3から1対9)へ覆すことのできた事例
ここで、ALGの弁護士が介入し、過失割合を7対3から1対9に修正できた事例をご紹介します。
3車線道路の2車線を走行中の依頼者の車両が、交差点を超えたところで、3車線を走る相手方車両に後方から衝突されるという事故が発生しました。
相手方は、依頼者が車線変更をしたので、過失割合7対3の主張をし、過失割合に争いが生じたため、訴訟へと進行しました。担当弁護士は、ドライブレコーダーなどをもとに、交差点を超えた際の動静などの分析結果を主張したところ、当方の主張が裁判所より認定されました。その結果、過失割合1対9という形で和解に至り、依頼者の立場を加害者から被害者へと覆すことに成功しました。
弁護士が細かく調査し、保険会社が主張する過失割合8対2を9対1に修正することができた事例
ここで、ALGの弁護士が介入し、過失割合を8対2から9対1に修正できた事例をご紹介します。
優先道路を走行中の依頼者の車両と、一時停止を無視し狭路から交差点に進入した相手方車両が衝突し、依頼者の車両が横転する事故が発生しました。
相手方は、優先道路との交差点での車同士の衝突事故の基本過失割合は1対9だが、本件では交差点上の中央線が消失していたため、依頼者が走行していた道路は優先道路ではなく、過失割合は2対8になると主張し、譲りませんでした。
担当弁護士は現地調査、刑事記録の精査等を重ね、当方の主張の正当性を裏付ける各種証拠を紛争処理センターに提出した結果、過失割合1対9であると認められ、依頼者に有利な過失割合を得ることに成功しました。
過失割合9対1の場合、弁護士に相談することで過失割合が修正される可能性があります。ぜひご相談ください
例えば、損害賠償額1,200万円の事故の場合、過失割合10%の違いで120万円、20%の違いで240万円と、被害者の受け取れる金額が大きく変動します。それだけに、過失割合の算定は重要です。
よって、相手方保険会社から提示された過失割合を鵜呑みにせず、過失割合が適正かどうか、しっかり検討することが必要です。
しかし、事故のケースは多種多様で、これまで挙げた過失割合が9対1の事故類型にあてはまらない、特殊な事故態様も存在します。そのような中で、適正な過失割合を算定するには、事故の具体的な事情を加味した複雑な判断が必要になりますので、被害者個人で行うのは困難だと思われます。
その点、交通事故問題に詳しい弁護士に依頼すれば、過失割合の修正を裏付ける証拠を収集し、被害者にとって適切な割合を算定し、これに基づき、相手方保険会社と交渉することができる可能性があります。
相手方保険会社から提示された過失割合に納得がいかないと思われるような場合は、ぜひ交通事故問題に精通した弁護士が所属するALGにご相談ください。
被相続人が借金を残したまま死亡した場合や、相続に関して揉めそうな場合等には、相続人が「相続放棄」を選ぶことがあります。
もっとも、相続放棄の手続きをしたとしても、それだけで全ての負担から逃れられるとは限りません。相続しなくても管理が必要な財産がある等、注意すべき点があります。
以下では、相続放棄後の相続人の管理義務について説明します。
相続放棄をしても残る管理義務とは
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけると同一の注意をもってその財産の管理を継続しなければならない義務を負います。
相続放棄しても管理費用と労力はかかる
例えば、相続財産が既に誰も住んでいない空き家だった場合、そのまま放っておけば、誰かが住みついたりして、周囲の治安に影響を及ぼすおそれがあります。違法な植物の栽培や放火等の犯罪の温床となるおそれさえあります。また、放置された建物や土地は、不法投棄がされる等、周囲の環境の悪化をもたらすおそれもあります。さらに、老朽化した建物が倒壊して事故が起こる可能性もあります。
こうしたことが起こると、近隣住民等に迷惑をかけ、管理者が苦情を受けるおそれがあるだけでなく、場合によっては管理者が損害賠償請求を受ける可能性もあります。そうならないためにも、相続人は、相続放棄をしたとしても、他の相続人が管理を始められるまでは、相続財産の管理を怠らないでいる必要があります。
管理義務の対象となる遺産
- 空き家
- 空き地、農地、山林
管理って何をすればいい?管理不行き届きとされるのはどんなケース?
例えば、空き家に関しては、老朽化した建物や塀を修繕しないまま放置した結果、それらが倒壊して通行人に怪我を負わせた場合や、隣地の家屋等に被害が発生した場合は、管理不行き届きとされ、損害賠償請求されるおそれがあります。そのため、倒壊の危険を回避するための補強工事や、状況によっては瓦礫の撤去等をしておく必要があるといえるでしょう。また、建物等の状態を確認したり、他人の入り込み等を防いだりするためには、定期的な見回り等による状況把握も必要となります。
土地の場合であれば、庭木が倒れて通行人や隣地等に被害が発生するおそれがあるような状況や、雑草が生い茂って害虫が発生するような状況を放置していれば管理不行き届きとされるおそれがあり、剪定や除草、害虫駆除をする必要があると考えられます。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
管理義務は誰にいつまであるの?
現行民法は、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意義務をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と規定しています(民法940条1項)。
したがって、相続人は、たとえ相続放棄をしたとしても、次順位の相続人が相続財産の管理を始められるまでは、相続財産の管理義務を免れることができません。
もっとも、この規定の解釈上、相続人全員が相続放棄をし、次順位の相続人が存在しない場合や、相続放棄した者が不動産を占有していない場合等において、相続を放棄した者が管理義務を負うかどうかや、その義務の内容については、必ずしも明らかではありませんでした。これらの点について、改正民法(令和5年4月1日施行)では、規定の見直しが図られました。
管理を始めることができるようになるまでとは?
「次の相続人が管理できるようになるまで」とは、次順位の相続人に相続財産を引き継ぎ、その相続人が管理できる状態になるまでということです。
改正民法では、相続を放棄した者が財産管理の義務を負う終期について、「相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまで」と規定され、具体化、明確化されました。
民法改正の2023年4月1日以降は誰に管理義務があるのか明確になる
改正民法では、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九五二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」と規定されました。
相続放棄時に「現に占有」している相続放棄者であることが要件となるため、相続人が実際に占有していない相続財産については、管理義務の対象外となります。
例えば、相続財産が不動産であれば、離れて暮らしていた相続人が相続放棄をしたときは、この不動産を管理する義務はありません。
民法改正以前に起きた相続でも適用される?
改正民法の適用開始時期は、2023年(令和5年)4月1日です。施行日後に相続放棄された場合に適用されます。
管理義務のある人が未成年、または認知症などで判断能力に欠ける場合
未成年者や重度の認知症で判断能力に欠ける方は、相続放棄の手続きをご自身で行うことができず、法定代理人、後見人等が本人に代わってする必要があります。
相続放棄者の管理義務について、未成年者や重度の認知症等で判断能力に欠ける方等、現実には自身で管理を行えない者であっても、相続放棄者である以上、本人が管理義務を負うのかといったことや、その代理人が管理義務を負うかどうかについては、規定上、明確ではありません。
しかし、法定代理人等の趣旨に照らすと、代理人等の責任が肯定される可能性がありますので、損害賠償等のリスクを避けるためにも、本人に代わって管理しておく必要があるといえます。
管理義務のある人が亡くなった場合
相続放棄後は、当該財産について相続放棄者の相続人に相続されることはありません。
相続放棄後の管理義務は、「相続を放棄した者」が、次順位相続人等に対して負う保存義務ですから、相続放棄者の相続人が、管理義務だけを相続するということはありません。
ただし、相続財産である不動産を次順位相続人等に未だ引き渡さず占有しているような場合は、別途、土地工作物の占有者の責任を負う等といったことはあり得ます。そのような場合は、損害賠償責任を問われないよう管理をする必要があるといえるでしょう。
遺産の管理をしたくないなら相続財産管理人を選任しましょう
これまで述べたように、相続放棄した元相続人は、相続財産に関して損害賠償義務を負わされてしまう可能性があります。こうした負担から解放されるためには、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申立てをする必要があります。相続財産管理人に相続財産を引き渡せば、相続放棄者は相続財産の管理から解放されることになります。
相続財産管理人とは
相続財産管理人とは、被相続人の相続財産の管理をする人です。
相続人がいるのかが明らかでない場合や、すべての相続人が相続する権利を放棄して相続人がいなくなった場合等に、相続に関して利害関係がある人等の申立てによって家庭裁判所で審理されます。そして、家庭裁判所によって相続財産管理人が必要だと判断されれば、相続財産管理人が選任されます。
相続財産管理人となる人に特段の資格は必要なく、申立の際に候補者をあげることもできます。 ただし、その候補者が相続財産管理人に選任されるとは限りません。実際上は、弁護士や司法書士などの専門職に委嘱されることも多くあります。
選任に必要な費用
相続財産管理人選任を申立てる際は、収入印紙800円と連絡用の郵便切手数千円程度がかかるほか、「予納金」を支払う必要があります。
予納金は、相続財産管理人が遺産の清算を進めるのに必要な経費や相続財産管理人の報酬に充てられるお金です。予納金の額は、裁判所が事案の内容に応じて決めますが、概ね、30万円から100万円程度です。
相続財産が十分にあれば、最終的には、相続財産の中から予納金も返還されます。しかし、相続財産が少ないときは、返還される原資がないことになりますので、申立人が費用を自ら負担せざるを得ない結果となります。
選任の申立・費用の負担は誰がする?
相続人全員が相続放棄して、結果として相続する者がいなくなったときは、利害関係人または検察官の請求によって相続財産管理人を選任することができます。
相続放棄をした元相続人は「利害関係人」に当たりますので、相続放棄した者は、相続財産管理人の選任申立をすることができます。
相続財産管理人選任を申立てる際は、収入印紙800円と連絡用の郵便切手数千円程度がかかるほか、「予納金」を支払う必要があります。
相続財産管理人の選任方法
相続財産管理人を選任したいときには、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所での選任の申立てを行います。
相続財産管理人選任の申し立てがなされると、家庭裁判所は審理を行い、被相続人との関係や利害関係の有無、相続財産の内容などを考慮して、相続財産を管理するのに最も適任と認められる人を選びます。
相続財産管理人となる人に特段の資格は必要なく、申立人が候補者をあげることもできます。候補者がある場合には候補者がそのまま選ばれる場合もありますが、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることが少なくありません。
相続放棄をした財産に価値がない場合、相続財産管理人が選任されないことがある
相続財産管理人を選任した場合、その報酬等の費用がかかり、申立人がその費用及び予納金を支払います。予納金は、相続財産の中から返還されますが、相続財産が少ないときは予納金が返還される原資がないことになり、申立人が費用を自ら負担せざるを得ない結果となることから、相続放棄者が相続財産管理人の選任をしないことがあり得ます。
債権者等の利害関係人も、相続財産から弁済を受けるために相続財産管理人の選任を申し立てることができますが、そもそも、相続財産に価値がなければ、債権者は弁済を受けることができませんし、むしろ報酬等の費用がかかることになります。そのため、相続財産管理人を選任しないことがあります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
管理義務に関するQ&A
相続放棄した土地に建つ家がぼろぼろで崩れそうです。自治体からは解体を求められていますが、せっかく相続放棄したのにお金がかかるなんて…。どうしたらいいですか?
家の解体は、処分行為といって、相続を承認したとみなされて相続放棄が無効になる可能性があるため、相続放棄者において行うことは避ける必要があります。市町村等から命令を受けた場合であっても、これに従うことができない正当な理由がある場合がありますから、行政代執行にかかる空き家の解体費用などを負担しないですむ可能性があります。
また、この管理義務は、後に相続人となる者等に対する義務であって、地域住民などの第三者に対する義務ではありません。
とはいえ、空き家の倒壊や放火等により第三者に損害を与えた場合には、損害賠償責任を負うこともあり得ます。
他方で、相続財産管理人を選任した場合、既に述べたように、場合によっては100万円程度の予納金が必要となる上、相続財産の財産価値がなければ予納金の返還がなされず、実質的に申立人が負担することになります。もっとも、相続財産管理人は、定期的な管理業務というものがないことから、相続財産管理人に対する報酬は初めに納付した予納金の範囲内で認められ、追加の納付を命じられることは考え難いといえます。
以上からすると、本件のような場合、予納金については結果的に申立人が負担せざるを得ないことも承知の上で、損害賠償責任等のリスクを回避するために、相続財産管理人の選任の申立てをすることも選択肢の1つとして考えられます。
全員相続放棄しました。管理義務があるなんて誰も知らなかったのですが、この場合の管理義務は誰にあるのでしょうか?
法定相続人全員が放棄した場合は、相続放棄の時に現に相続財産を占有している者であって、最後に相続放棄した者に、相続財産管理人に対して当該財産を引き渡すまでの間、管理義務があります。
相続放棄したので管理をお願いしたいと叔父に伝えたところ、「自分も相続放棄するので管理はしない」と言われてしまいました。私が管理しなければならないのでしょうか?
このようなケースでは、現行民法では、相談者と叔父のどちらに管理義務があるのか明らかではありません。
改正民法では、相談者が相続放棄の時に相続財産を現に占有していて、その相続財産を叔父に引き渡した場合は、叔父が管理義務を負い、相談者は管理義務を免れます。
しかし、叔父が当該財産を占有しておらず、相談者からの引渡しも受けないまま相続放棄した場合は、叔父は管理義務を負わず、相談者が引き続き管理義務を負います。
相談者は、他の相続人又は相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、管理義務を負い、これらの者に引き渡せば、引き渡しのときに管理義務が終了します。
相続放棄したのに固定資産税の通知が届きました。相続しないのだから、払わなくても良いですよね?
固定資産税の課税では、課税者等を決定する期日に登記簿等に登録されていた人を土地の所有者として扱います。そのため、相続放棄をしても、課税者等を決定する期日に登記簿等に登録されていた人には、固定資産税の納税通知が届きます。
固定資産税を免れるためには、相続放棄をしたことを証明する書面を役所に提出する必要があります。
相続放棄後の管理義務についての不安は弁護士へご相談ください
相続放棄後の管理義務は、これまで述べたように、複雑な面があります。その仕組みや内容、具体的にどのような手続をすべきか等について、しっかりと把握した上で判断するためにも、法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。ご不明な点や不安なこと等、どうぞお気兼ねなくご相談ください。
遺言書を作成する目的は、本来は相続人間のトラブルを予防することにあるはずですが、遺言書における遺産の分配方法に隔たりがある場合などには、遺言書の存在が相続人間トラブルの原因となってしまうこともありえます。遺言書に関して納得できないことがある場合などにはどのように対処していくべきなのかを説明していきます。
遺言書は絶対?納得いかない遺言書でも従わなければいけないの?
遺言は相続人が残した最後の意思表示となりますので、原則として尊重されるべきといえます。もっとも、遺言書自体が無効である場合など、遺言書があったとしても、必ずしも遺言書どおりに相続をしなくてもよいケースはあります。
相続人全員の合意が得られれば従わなくて良い
自筆証書遺言でも、公正証書遺言でも、相続人全員が合意するのであれば、遺言書と異なる相続をすることは可能です。もっとも、遺言書どおりに相続しないということは、相続人や受遺者の誰かの取り分が減り、その一方で、誰かの取り分が増えることに直結することがほとんどですから、相続人全員が合意して遺言書と異なる相続を行うことができるケースは珍しいといえそうです。
合意が得られなくても、遺留分を請求できる場合がある
遺言書どおりに相続が行われる結果、法定相続分を下回る取り分になってしまう相続人がいる場合、当該相続人は遺留分を請求できることがあります。遺留分とは、相続人に認められた最低限の取り分のことを指します。遺留分侵害額請求をすることができる場合でも、請求可能なのは金銭の支払いのみであって、不動産の取得などを求めることはできないので注意を要します。
遺留分侵害額請求とは|請求の方法と注意点そもそも無効の遺言書であれば従わなくてよい
遺言は法定相続分に優先する強い効力を有する分、遺言書の作成にあたっては法律上に定められたルールを守って行う必要があります。自筆証書遺言であるにもかかわらず、遺言書本体が自筆で作成されていないとか、公正証書遺言ではあるものの、遺言者に遺言を作成するに足りる能力がない状態で作成されたといった場合には遺言書が無効になります。遺言書が無効になった場合、相続人が任意に遺言書の内容を踏まえつつ遺産分割をすることもできますが、原則としては法定相続分どおりに相続されることになります。
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遺言書の無効を主張したい場合は?
自筆証書遺言の筆跡が本人のものとは思えないなどの理由で遺言書の無効を主張したいと考える場合、相続人全員と話合いをして無効の合意を得ることが必要です。 相続人全員の合意が得られない場合には、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟を行うことになります。原則としては調停から行うことになりますが、当事者間の対立が激しい時には、調停から入らずに訴訟から始めることも可能です。なお、遺言無効確認訴訟は、あくまでも遺言書が無効かどうかを判断する手続ですので、訴訟の中で遺産の分割方法までは決まらないことから、訴訟で遺言書が無効と判断された後に遺産分割協議をしなければなりません。
納得いかない遺言書であっても偽造や破棄は違法に
遺言書の内容に納得がいかないからといって、遺言書を偽造したり、破棄したり、あるいは、隠匿してしまったりすると、当該相続人は相続人として資格を失い、相続欠格の状態となってしまいます。納得いかない遺言書があるとしても、きちんと法的手続きを踏む必要があるのです。
遺言書に納得いかない場合のQ&A
私は遺言書のとおりに分割したいのですが、納得いかないと言われてしまいました。話し合いが平行線なのですが、どうしたらいいでしょうか?
遺言書に納得いかない場合があっても、遺言書が有効であり、遺言執行者が選任されれば、遺言書に基づいて遺産を分割することができます。
そのため、相続人が遺言書に納得がいかず話し合いが平行線になった場合でも、遺産分割できないというものではありません。
ただ、遺言書に遺言執行者として誰がなるかについて記載がない場合には、遺言執行者の選任の申立てを家庭裁判所にする必要があります。
また、納得がいかないという内容が、遺留分すらも侵害しているということであれば、遺留分の侵害額相当分について支払いを行わなければならないでしょう。
愛人一人に相続させると書かれていました。相続人全員が反対しているので、当人に知らせず遺産を分けようと思いますが問題ないですよね?
相続人以外の受遺者として愛人の存在がある以上、相続人全員が同意したとしても、愛人に知らせずに遺言書と異なる遺産分割をすることは認められません。愛人が遺言書の存在すら知らない場合には事実上、遺言書と異なる遺産分割をしても問題ないまま終わることもあるかもしれませんが、事後的に愛人から遺産分割の有効性を争われる可能性が残ってしまいます。そのため、愛人が遺言書のことを知っている場合はもちろん、知らない場合でも、遺言書の内容を知らせないまま遺産分割をすることはおすすめはできません。
遺言書に納得がいかないのですが、遺留分程度の金額が指定されている場合はあきらめるしかないのでしょうか。兄は多めにもらえるため、このままでいいじゃないかと言っています。
遺留分が確保されているのであれば、遺言書が有効である以上、法的に請求できることは多くはありません。敢えて方法を挙げるとするならば、被相続人の生前の介護をしていた場合には自身の寄与分を主張したり、遺言書における受遺者が被相続人から生前贈与を受けている場合には特別受益を主張したりする余地はあるといえます。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺言書に関して納得いかないことがある場合、弁護士への相談で解決できる可能性があります!まずはご相談ください
遺言書の内容に納得がいかないとしても、実際に取るべき手段はケースによって様々です。遺留分侵害額を請求する期間は1年間と決まっていることなどから、遺言書の内容を速やかに分析して行動に移していく必要があります。遺言書の内容に納得いかない点がある場合、相続に詳しい弁護士に相談することで適切な第一歩を歩むことができるはずです。
夫婦関係が悪化し、離婚を決意したとき、「これだけ辛い目にあったのだから、慰謝料を沢山とらなければ気が済まない」と思われる方は多くいらっしゃると思います。
しかし、辛い思いをしたからといって、必ず慰謝料を請求できるわけではないのです。
離婚慰謝料を請求できるのは、相手に「有責行為」があった場合に限られます。
この記事では、相手に慰謝料を請求できる条件や請求方法などについて解説しますので、離婚慰謝料の請求を検討されている方は、ぜひ参考になさってください。
離婚慰謝料を請求できる条件
離婚慰謝料とは、配偶者の有責行為が原因となって離婚した場合に受けた、精神的苦痛に対する賠償金のことをいい、有責行為を行った配偶者(有責配偶者)から、もう一方の配偶者(無責配偶者)に支払われます。離婚慰謝料が発生する、配偶者の有責行為とは、不貞、DV、モラハラ、悪意の遺棄(正当な理由のない別居や生活費の無支給等)などが挙げられます。
離婚慰謝料は、もう少し詳しくみますと、「離婚すること自体による苦痛への慰謝料」と「婚姻関係を破綻させた原因による苦痛への慰謝料」に分けられますが、裁判など実務上では、個別に慰謝料を計算せず、2つまとめて「慰謝料〇〇円」という形で、計算されています。
ただし、夫婦双方に離婚の原因があったり、性格の不一致や価値観の違いがあるに過ぎない場合など、どちらの責任ともいえない場合は、慰謝料を請求することができないのが通常です。
性格の不一致でも慰謝料請求は可能?
単なる性格の不一致で離婚する場合、一方のみに婚姻生活を破綻させた責任があるとはいえず、相手に対して慰謝料請求はできません。
ただ、性格の不一致が原因で夫婦関係が悪化し、相手が不倫に走った等の理由があれば、慰謝料請求が認められる場合があります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚慰謝料を請求する前にすべきこと
離婚慰謝料を請求する前にするべきことを以下でご紹介しますので、ご確認ください。
時効が成立していないかを確認する
離婚慰謝料の請求は、離婚した日から3年以内に行う必要があります。この期間を超えると、基本的に、慰謝料を請求できなくなりますので、ご自身のケースで時効が成立していないか確認しておきましょう。
なお、不貞行為があった場合の時効は少し複雑で、「不貞の事実と不貞相手の氏名・住所を知った時から3年」か「不貞の事実を知らなかった場合は、不貞が始まった時から20年」のいずれかとなります。
ただし、不貞が原因で離婚した場合の慰謝料を、元配偶者に対して請求する場合の時効は3年となりますので、注意が必要です。
請求に必要な証拠を集める
離婚慰謝料を請求するためには、不法行為を証明する証拠を集めておく必要があります。
相手が不法行為を認めて、慰謝料請求に応じるなど、当事者間で解決できればいいですが、相手が不法行為を認めず、調停や裁判になった場合は、証拠の提出が不可欠になります。相手が証拠隠滅する前に、以下のような証拠を揃えておきましょう。
- 不貞行為の証拠:不倫をうかがわせるメールやSNSなどの内容の記録、探偵による調査報告書など
- モラハラ・DVの証拠:暴力や暴言の録音・録画・メモ、ケガをした際にかかった医師の診断書など
- 悪意の遺棄の証拠:生活費の不支給を証明する、振込がなされていない通帳記録など
離婚慰謝料の相場を把握する
離婚慰謝料の相場は、以下の表のとおりです。
この金額は、過去の裁判例に基づいて集計した平均額で、個々のケースにより金額が異なりますので、あくまで目安と考えて下さい。
慰謝料の金額に決まりはなく、基本的には、夫婦間の話し合いによって決めることになりますが、裁判など実務上では、不法行為の内容・期間・頻度、精神的苦痛の重さ、婚姻期間の長さ、養育が必要な子供の有り無し、夫婦の年収などを総合的に判断したうえで、計算されています。
離婚原因 | 慰謝料の相場 |
---|---|
浮気・不貞行為 | 100万円~500万円 |
悪意の遺棄 | 50万円~300万円 |
DV・モラハラ | 50万円~500万円 |
セックスレス | 0万円~100万円 |
離婚慰謝料を請求する方法
離婚慰謝料を、離婚をするのと同時に請求する場合は、まずは、夫婦間で離婚することと、慰謝料含めた離婚条件について話し合い、合意できなかった場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停委員を介して、話し合いを進めます。調停でも合意できなかった場合は、離婚裁判へと進み、裁判官の判断にゆだねることになります。詳細については、次項でご説明します。
なお、離婚後に慰謝料請求を行う場合は、相手に内容証明郵便を送り、示談交渉や慰謝料請求調停を行い、合意できなければ、地方裁判所に訴訟を提起するという流れになります。
話し合いによる協議離婚で請求
協議離婚とは、夫婦間の話し合いによって離婚する方法のことをいいます。
この方法では、慰謝料の金額など離婚条件について、自由に取り決めることが可能なため、お互いの合意さえあれば、他の請求方法に比べて高額な慰謝料を受け取れる可能性があります。
離婚協議書の作成
夫婦間の話し合いで慰謝料の金額が決まったら、その他の離婚条件と併せて、取り決めた内容を離婚協議書などの書面に残しておきましょう。口約束だけで条件を決めてしまうと、後ほどトラブルになる可能性があるからです。
なお、離婚協議書を作成する場合は、執行認諾文言付公正証書にしておくことをおすすめします。相手が慰謝料を支払わない場合に、この公正証書があれば、裁判を行うことなく、直接強制執行をかけることが可能です。
また、協議書に慰謝料について記載する際は、「誰が誰に慰謝料を支払うのか」「慰謝料の支払金額」「支払期日や支払方法」「振込手数料の負担者」「振込口座」などを明記しておくことが必要です。
話し合いで決まらない場合は離婚調停で請求
協議をしても決まらない場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。調停では、調停委員が間に入り、双方の言い分を聴き取り、離婚の合意や慰謝料等の離婚条件について、調整を行います。そして夫婦双方が合意した場合は離婚が成立することになります。
調停の延長で裁判所が審判を出すケースもある
審判離婚とは、離婚をすること自体は夫婦間で合意しているが、慰謝料の金額や養育費などについて、わずかな意見の相違があって、調停を成立させられないときに、裁判官の判断で離婚の審判を下し、慰謝料の金額などの離婚条件を決定する方法のことをいいます。2週間以内に双方から異議申し立てがなければ、審判離婚が成立します。裁判官によって、公平な審判を下してもらうことができ、また、離婚裁判をする必要がなくなるため、手間や費用がかからなくなるというメリットがあります。
それでも解決しなければ離婚裁判へ
調停が不成立となった場合は、裁判所に対して、訴訟を提起することになります。
離婚裁判となった場合、裁判所が離婚成立と離婚慰謝料の請求を認めるのは、法律で定められている「法定離婚原因」にあてはまる場合のみです。そのため、法定離婚原因を証拠によって立証できなければ、離婚も、慰謝料請求も認められないということになります。
(法定離婚原因)
①配偶者の不貞行為(不倫など)
②配偶者からの悪意の遺棄(正当な理由なく生活費を渡さない、正当な理由のない別居など)
③配偶者の生死が3年以上不明
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復困難
⑤その他、婚姻を継続しにくい重大な事由がある(DVやモラハラ、セックスレス、長期間の別居など)
内容証明郵便での請求について
内容証明郵便に法的な拘束力はありませんが、送付日時や請求内容が公的に記録されるため、慰謝料請求をした事実を証拠として残すためには有効な方法といえます。また、相手に対して、不法行為に対し責任をとってもらうという心理的プレッシャーを与えることもできます。特に別居などで配偶者と直接会うことが難しい場合や、口頭で伝えにくい場合などに有効です。
ただし、デメリットとして、文書を作成する手間がかかりますので、内容証明の作成に困った場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
内容証明郵便に記載する内容
内容証明郵便に記載する内容は、主に以下のとおりとなります。
なお、内容証明郵便には文字数や行数などに制限があり、規定通りに書かないと、郵便局で受付けてもらえませんので、注意が必要です。
- 不法行為の事実(不倫やDVなど。いつ、どこで、誰と不法行為を行ったのか)
- 不法行為の違法性(民法709条違反)
- 慰謝料を請求すること
- 慰謝料の請求金額、支払方法、支払期日、振込先など
- 慰謝料が期限内に支払われなかった場合の法的措置
相手が離婚慰謝料を支払わないときの対処法
夫婦間での協議や調停、裁判などにより、慰謝料の支払いを合意したにもかかわらず、相手から支払われない場合は、強制執行により慰謝料を回収することが可能です。
強制執行認諾文言付公正証書、調停調書、和解調書、判決正本など、慰謝料請求権を公的に証明する文書(債務名義)があれば、裁判を省いて、直接強制執行をかけ、相手の財産を差し押さえることが可能です。差し押さえの対象は相手の給与や預貯金、自動車、不動産などが挙げられます。
ただし、強制執行の手続き自体、手間や時間がかかるため、相手の支払能力を考慮したうえで、分割での支払いや、支払可能な金額で折り合いをつけることも検討するべきでしょう。
よくある質問
離婚慰謝料について、よくある質問をご紹介します。
子供がいた場合、離婚慰謝料の相場より多く請求することはできますか?
子供の有り無しや人数は、離婚慰謝料の金額を増減させる要素の一つとなります。
ケースにより異なりますが、基本的には、子供がいないよりもいた方が、また、養育の必要な子供の数が多い方が、さらに子供の年齢がより小さい方が、離婚による精神的ショックは大きくなると考えられるため、離婚慰謝料の金額が高くなる傾向にあります。
不倫の慰謝料は離婚しないと配偶者に請求できませんか?
不倫の慰謝料は、離婚せずに婚姻関係を継続した場合であっても、配偶者に請求可能です。
不倫慰謝料の請求自体、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)にあたるため、離婚するか否かに関わらず、請求可能です。ただし、離婚という損害が発生していないので、不倫で離婚した場合よりも、慰謝料の金額が低額になる傾向にあります。
モラハラを理由に離婚した場合、慰謝料の相場より高く請求する方法はありますか?
モラハラの場合、モラハラの内容・回数・期間、モラハラを受けた者の落ち度、精神的苦痛の重さ、夫婦の年収、子供の有り無しなどを総合的に判断したうえで、悪質性が高いとなれば、高額な慰謝料が認められる可能性があります。
なお、慰謝料を請求する前提として、上記の事実を証明する証拠(モラハラの録音・録画・メモ、医師の診断書など)を取り揃えておくことが必要です。
離婚の慰謝料請求の時効が迫っているのですが、時効を止める方法はありますか?
離婚慰謝料は、基本的には、離婚成立後3年以内に請求しなければいけません。
何らかの理由で手続きが遅れ、時効が迫っている場合は、以下のような方法で、時効を止める必要があります。これ以外にもいくつか方法があり、個々の事情によりとるべき方法が異なりますので、時効を止めたい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
(時効を止める方法)
相手に直接、慰謝料の支払いを請求する。
3年の時効が近づいたら、相手に連絡し、慰謝料を支払うよう請求しましょう。相手が「慰謝料を支払います」と言ったなら、債務の承認があったとされ、時効が更新され、時効が3年延長します。債務の承認は口約束だけでも成立しますが、後日のトラブルを防ぐためにも、署名、押印付きの書面に残しておきましょう。
裁判を起こす
裁判所に慰謝料請求訴訟を提起すれば、その時点で時効の完成が猶予されます。その後判決が出て確定すると、その時点から、さらに時効期間が10年延長されることになります。
なお、すぐに裁判を起こせない場合、相手に内容証明郵便を送れば、6ヶ月間、時効の完成が猶予されますので、裁判までの時間稼ぎを行うことが可能です。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚時の慰謝料請求についてわからないことがあれば弁護士に相談しましょう。
離婚慰謝料を請求する場合、そもそも、配偶者の行為が、慰謝料請求の発生原因となる「有責行為」にあたるのか?あてはまるとして、慰謝料の金額はいくらになるのか?を判断する必要がありますが、これはかなり難しい作業です。また、慰謝料の交渉は、当事者同士だと感情的になるため、話し合いが進みにくいのが一般的です。
当事者間で解決できない場合は、弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、過去の裁判例や経験的知識に基づき、適切な慰謝料額を判断できますし、離婚協議書や内容証明などの文書作成から、相手との交渉まで代行して行いますので、依頼者の負担が軽くなるというメリットもあります。
弁護士法人ALGは、離婚案件に豊富な相談実績を有しております。離婚慰謝料の請求についてお悩みの場合は、弊所にご相談ください。
交通事故の怪我により、後遺症として、手にしびれが残ってしまう場合があります。
細かい動きを必要とする手にしびれが残ると、日常生活が不自由になるため、被害者の方にとっては、大変辛いことだと思います。その分の補償をしっかり受けたいと思うのは当然のことです。
手のしびれが、自賠責保険の定める後遺障害として認定されれば、後遺障害慰謝料や逸失利益が発生し、損害賠償額が増額する可能性があります。
ここでは、手のしびれの原因と考えられる傷病、手のしびれがある場合の後遺障害等級と慰謝料の相場などについて、ご紹介します。
交通事故後に手のしびれが起こる原因
交通事故によって、手にしびれなどの症状が出てくる場合があります。これは、事故の衝撃や怪我により、末梢神経が損傷したり、圧迫を受けたりしたことが主な原因であると考えられます。
事故ごとに損傷部分が異なりますので、手のしびれが続く場合は、なるべく早めに医師による診察や検査を受け、損傷部分を特定し、最適な治療を受けることが必要となります。
以下では、手のしびれの原因となる傷病について、いくつかご紹介します。
むちうち
むちうち症とは、事故などの衝撃で首がむちのようにしなった結果、頚椎(首の骨)、頚部の筋肉、神経、血管などが損傷を受けることで生じる症状の総称です。医師の診断を受けると、「頚椎捻挫」「外傷性頚部症候群」などといった傷病名が診断書に記載されます。
首の痛みやだるさはもちろんのこと、手のしびれなどの症状も一緒に出ている場合は、神経根症状型のむちうちになっている可能性があります。
むちうちにより、頚部の脊髄から枝分かれする神経根(末梢神経の一部)が損傷、もしくは、周辺が腫れて神経根を圧迫し、神経根が伸びている手の支配領域において知覚障害などが生じ、手のしびれや握力の低下などの症状が引き起こされると考えられます。
胸郭出口症候群
胸郭出口とは、鎖骨と第一肋骨の間にある隙間のことで、その中に神経の束や血管が通っています。事故による衝撃で、胸郭出口にある手を司る神経や血管が、筋肉や骨により圧迫されたり、引っ張られたりすることで、手のしびれや握力の低下が生じます。特に、腕を上げる動作をしたときに、手にしびれが生じる場合は、胸郭出口症候群の可能性があります。
ただし、胸郭出口症候群はなで肩や筋肉質などの体格的素因や、ストレスなどが原因で生じる可能性もあり、症状の医学的な証明や説明が難しい類型であるため、胸郭出口症候群という病名での後遺障害等級認定は下りにくいという現状があります。
椎間板ヘルニア
頚椎は、ブロックの形をした7つの椎骨が積み重なってできています。椎間板ヘルニアとは、椎骨と椎骨の間にあって、クッション材の役割を担っている椎間板の一部が外に飛び出してしまった状態のことです。事故による衝撃で頚椎の椎間板が突出すると、その周辺にある、手を司る神経を圧迫するため、手のしびれなどの症状が現れるようになります。
ただし、椎間板ヘルニアは、交通事故を原因とするものであれば、かなりの強い衝撃が必要とされ、加齢によっても発症する可能性があるため、事故との因果関係で争いになるケースが多いです。
脊髄損傷
脊髄とは、脳から背中、腰にかけて通っている神経の束のことをいいます。
人が体を動かそうと思ったとき、脳からの指示が、脊髄→末梢神経→手足へと伝わります。物が触れた感覚も、末梢神経→脊髄→脳へと伝わりますので、脊髄は我々が生きていくうえで大変重要な組織であるといえます。
脊髄は頚椎の脊柱管の中を通っていて、事故による衝撃で脊髄が損傷すると、様々な症状が引き起こされます。手のしびれについては、頚部にある手を司る神経が損傷した結果、生じたものであると考えられます。脊髄の損傷がひどい場合は、半身や全身麻痺、呼吸障害、歩行障害などの重篤な症状が残ります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
手のしびれがある場合の後遺障害等級と慰謝料
事故により、手にしびれが残ってしまった場合、後遺障害等級認定を受けると、後遺障害慰謝料や逸失利益などが発生し、損害賠償額が増額する可能性があります。
目安として、6ヶ月間治療を尽くしても、手のしびれが残っている場合は、後遺障害等級認定の申請を検討するべきでしょう。
手にしびれが残った場合に認定されやすい後遺障害等級は12級13号と、14級9号です。それぞれの級について説明します。
①12級13号 「局部に頑固な神経症状を残すもの」
手のしびれについて、MRI検査等の画像により神経の圧迫が認められたり、筋電図検査等で陽性が出たりするなど、他覚的所見があり、「局部に頑固な神経症状」が残っていることが医学的に証明された場合に、12級13号に認定されます。
②14級9号 「局部に神経症状を残すもの」
手のしびれについて、MRI検査等の画像で症状が確認できなくても、事故状況や治療の経過などから、「局部に神経症状」が残っていることが医学的に説明可能であると判断されれば、14級9号に認定されます。
例えば、事故直後から一貫して手のしびれの症状の訴えがあり、6ヶ月以上治療しても、手にしびれが残っているような場合に、認定される可能性があります。
下記表のとおり、後遺障害等級に応じ、後遺障害慰謝料の金額が定められていますが、自賠責基準よりも、弁護士基準の方が高額になることが確認できます。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級13号 | 93万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
手のしびれで後遺障害が認められた裁判例
手のしびれが後遺障害として認められた裁判例をご紹介したいと思います。
下記判決において、事故により負った手のしびれは、後遺障害等級14級9号に該当するとの判断が下されています。
特に、裁判所が画像所見等の客観的資料ではなく、事故直後からの症状の一貫性などに基づき、後遺障害を認定したという点に着目するべきでしょう。
【東京地方裁判所 令和2年2月28日判決】
(事案)加害者の運転する車両が、信号待ちで停止中の被害者の車両に後方から追突。被害者は頚椎捻挫等の傷害を負い、約10ヶ月の通院治療を受けたが、症状固定後も、右手のしびれが残っている。
(争点)本件事故により負った後遺症(手のしびれ)は、後遺障害として認定できるか。
(結論)被害者の頚椎捻挫に関しては、神経圧迫などの画像所見がなく、目立った神経学的所見もないため、他覚的所見があるとはいえない。しかし、被害者は首の痛みや手のしびれを受傷時より一貫して訴えており、約10ヶ月の治療を経ても、いまだ手のしびれが残存していることから、本件事故により負った頚椎捻挫により、手のしびれが残ったことは医学的に説明可能である。よって、被害者の手のしびれは、局部に神経症状を残すものとして、後遺障害14級9号に該当するものと認められる。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故後の手のしびれは弁護士にご相談ください
事故による手のしびれは、明らかな外傷がないケースがほとんどです。また、レントゲンやMRIなどの画像所見が出ないことも多く、後遺障害等級認定を受けるのが難しい類型になります。
そのため、適正な後遺障害等級認定や慰謝料などの賠償金を得るためには、交通事故および医学的知識に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、症状に見合った後遺障害等級に認定されやすくするための、適切な治療や検査の受け方などのアドバイスを受けることが可能です。また、後遺障害等級認定の申請や保険会社との示談交渉も代行して行いますので、被害者の方の負担も軽くなります。
「手のしびれが残っているが、今後どのように対応すればよいのかわからない」
「後遺障害等級認定の申請を専門家にお任せしたい」と思われるような場合は、ぜひ弁護士法人ALGにご相談ください。
相続に関する手続きの中には、期限内に行う必要があるものがあります。期限内に必要な手続きを行っておかないと、後になって損害を被ったり、予定通りの相続相続を行うことができない場合もあるので注意が必要です。
相続手続きの期限について
期限のある手続き | 相続の単純承認・限定承認・相続放棄(民法915条1項本文) 相続の承認・放棄の取り消し(民法919条3項) 相続財産の財産分離(民法941条1項) 遺留分侵害額の請求(民法1048条) 相続分の取戻権(民法905条2項) 相続回復請求権(民法884条) 準確定申告 相続税の申告・納税・還付請求 生命保険金の請求 |
---|---|
期限のない手続き | 遺産分割 相続分の譲渡 |
相続放棄は3ヶ月以内に手続きが必要
相続放棄とは、被相続人の財産や負債について、相続することを放棄するための手続です。申立てが受理されれば、初めから相続人ではなかったことになります。
相続放棄は、『自己のために相続の開始があったことを知った時』から3か月以内に、家庭裁判所での手続をしなければなりません。ただし、家庭裁判所に申し立てることで、期間を延長することもできます。また、期間を過ぎた後に想定外の負債が見つかった場合など、例外的な場合には、3か月の期間を過ぎていても相続放棄が認められることもあります。
準確定申告は4ヶ月以内
準確定申告とは、亡くなった被相続人が行うはずだった生前の所得についての確定申告を、相続人全員(包括受遺者を含みます)が共同で行うものです。
準確定申告の期限は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内となっています。準確定申告が必要であるにもかかわらず期限内に行わなかった場合、延滞税や加算税などのペナルティが発生することがあります。
相続税の申告・納税期限は10か月以内
相続税の申告及び納税は、相続人が、被相続人の死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。
もっとも、10カ月の期限内に遺産分割が完了できないことも少なくありません。そのような場合、法定相続分で申告・納税したうえで、遺産分割完了後に更正の請求(税額が減少する場合)又は修正申告(税額が増加する場合)することで対応することになります。
相続税には、死亡保険金の非課税控除、小規模宅地等の特例、配偶者、未成年者の税額免除等の各種の特例があることから、期限内に適切な相続税の申告をするために税理士に依頼することをお勧めします。
土地の遺産相続登記の期限
現時点では、相続登記に期限はなく、なるべく早く行う方が望ましいという運用になっています。
しかし、令和3年の法改正により、相続登記の申請が義務化されることになり、所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、その相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記の申請をしなければなりません。この法改正は、令和6年4月1日から施行されることになりますので注意が必要です。
遺留分減殺請求の期限は1年以内
法定相続人(被相続人の兄弟姉妹は含みません)には、法律上、最低限保障された遺産の取り分というものがあり、これを遺留分と呼んでいます。遺言に沿った相続分の指定や贈与、遺贈がこの遺留分を侵害する場合、その侵害額相当分の金銭の支払いを請求できることになっています。
遺留分侵害額請求には、相続の発生と贈与や遺贈などがあったことを知ったときから1年、または相続開始の時から10年という期間制限があり、特に、相続の開始、贈与、遺贈を知った時から1年という短い期間制限となっている点、注意が必要です。
生命保険金は3年以内に請求
保険金請求権は、保険金の支払事由が発生したときから3年間という期間制限があります。この期間制限は、保険法95条1項で定められた消滅時効であって、民法上の消滅時効期間(5年)の例外となっています。
もっとも、期間内に保険金を請求できなかった事情次第では、保険会社が支払いに対応してくれるケースもあることから、期間が過ぎたからといってすぐに諦めずに保険会社に連絡してみるとよいでしょう。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺産分割協議は10年経過していても行うことができる
現時点では遺産分割に期間制限はなく、いつでも行うことができますが、相続税の申告の期限があることなどからすれば、なるべく早く行うのが望ましいといえます。
そして、令和3年の法改正により、具体的相続分(特別受益や寄与分を考慮した相続分)による遺産分割は、原則として、相続開始後10年を経過した後はすることができないという制限が設けられることとなりました。この法改正は、令和5年4月1日から施行されることになりますので注意が必要です。
遺産分割のやり直し期限
一度遺産分割を行った以上は、当然、原則としてやり直すことができません。もっとも、当事者全員の合意がある場合には遺産分割をやり直すことは可能であって、当事者全員の合意によってやり直しをすることについて期間制限はありません。
一方で、遺産分割における意思表示の瑕疵(錯誤や強迫等)があることを理由として遺産分割の取り消しをしたことによる遺産分割のやり直しの場合、取消権について5年間の消滅時効という期間制限があります。
遺産分割の期限について詳しくは弁護士にご相談ください
相続手続きは、被相続人との別れという被相続人にとって大きな出来事となりますが、そのような中でも期間制限に従って必要な手続きを行わないと、不利益を被ったり、ペナルティーを受けることになりかねません。
期間制限の中で、適切な選択を行い、最適な相続を実現するためには、自分だけで対応するのではなく、相続手続きの専門知識を持った弁護士に依頼することが有用です。
是非一度弁護士に相談することをご検討ください。
一度遺産分割を行った後、何かしらの事情で、遺産分割をやり直したいと考えることがあります。
では、遺産分割のやり直しをすることはできるのでしょうか。できるとしたら、いつまでやり直すことができるのでしょうか。
今回は、遺産分割のやり直しについて、説明していきます。
遺産分割はやり直しができるのか
遺産分割を一度行っている以上、基本的には、遺産分割のやり直しができません。
その上で、いくつかの場合には、遺産分割をやり直すということが認められています。以下、再度の遺産分割協議ができる場合を記載します。
ただし、以下の記載があるものでも、必ず遺産分割協議のやり直しができるということではなく、再協議できる可能性があるに過ぎないということは注意しましょう。
- 分割協議の意思表示に瑕疵がある場合(心裡留保、虚偽表示、錯誤、詐欺・強迫等)
- 一部の相続人が参加していない場合
- 相続人でない者が参加している場合
- 遺産の一部が脱漏していた場合
- 相続人全員が既に行った遺産分割を合意解除し、遺産分割のやり直しを希望する場合
遺産分割後に他の財産が見つかった場合
遺産分割後に、新たに遺産が見つかる場合があります。
この場合には、基本的に、新たに見つかった遺産のみを対象とする遺産分割を行えばよく、既に行っていた遺産分割を無効とする必要はないと考えられています。
もっとも、漏れていた財産が非常に重要なものであり、その財産があることが分かっていれば、先のような遺産分割はしなかったというような場合には、先の遺産分割も無効となる可能性があります。その場合には、再度全体で遺産分割協議をすることになります。
遺産分割のやり直しを行う場合に期限や時効はある?
民法上、遺産分割自体には期限や時効はありません。したがって、遺産分割をやり直すというような場合でも、期限や時効はありません。何年後でも、遺産分割のやり直しをすることは可能です。ただし、以下に記載するような注意点があります。
取消権には時効があるので注意が必要
例えば、民法上の詐欺(96条1項)に該当する行為によって遺産分割を取り消すというような場合、いつまでも取り消しができるということはありません。取消権には消滅時効が定められており、追認できるときから5年間、行為のときから20年が経過したときには、取消権が時効により消滅してしまいますので注意が必要です。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺産分割をやり直した場合の注意点
遺産分割をやり直す場合でも、既に一旦遺産分割をしてしまっていることから、いくつか注意が必要な点があります。遺産分割のやり直しを考えるときには、事前に、以下の点について確認しておくことをお勧めいたします。
やり直し前に第三者へ譲渡していた場合
例えば、民法上の詐欺により遺産分割が成立し、Aが不動産を取得したとします。Aは、第三者にその不動産を譲渡していたとします。この遺産分割が取り消された場合、不動産は遺産共有状態に戻るべきですが、第三者が既に不動産を取得しているため、不動産を遺産共有状態に戻すということは、基本的にはできません。ただし、上記第三者が、詐欺により遺産分割が成立していること等について認識している場合には、遺産共有状態に戻すことができる可能性があります(民法96条3項)。
不動産の名義が変わった場合
例えば、一度成立した遺産分割で、Aが不動産を取得した場合、Aは不動産の所有権移転登記をすることになります。その後、遺産分割をやり直し、不動産をBが取得した場合、Bは不動産の名義をAからBに変更する必要があります。
その場合には、Aの所有権移転登記を抹消し、Bが相続により取得したという登記をすることになります。
抹消登記及び新たな相続登記の際は、登録免許税がかかりますので、注意が必要です。
課税対象となる場合がある
遺産分割をやり直した場合、1度目の遺産分割のみならず、2度目の遺産分割にも課税されることがあります。これは、1度目の遺産分割が、法律上無効なものではないというような場合に、2度目の遺産分割について、新たに贈与、譲渡、交換があったものと捉えるためです。1度目の遺産分割が当初から無効であったかどうかについては、民法の規律により判断することになりますが、課税段階では、税務署が判断することになります。
遺産分割をやり直す際の期限について弁護士にご相談ください
遺産分割をやり直したいという場合にも、事実上期限があるというようには考えた方がよいです。当時の相続人全員が存命である方がよいですし、第三者に遺産が渡っている可能性もあります。取消権の消滅時効もありますので、なるべく早い段階で遺産分割のやり直しを進める必要があります。遺産分割から長期間経過してしまったような場合でも、遺産分割のやり直しが可能な場合もありますので、遺産分割のやり直しを希望される場合には、一度、弁護士に相談されることをお勧めします。
配偶者から心無い暴言を吐かれる、無視される、過度に束縛される・・・これらの行為は全て、家庭内におけるモラハラ(モラル・ハラスメント)の可能性があります。
モラハラは精神的暴力とも言われており、立派な離婚原因となり得ます。モラハラを原因として裁判で離婚を認めてもらったり、慰謝料を請求したりするためには、モラハラの事実を客観的に証明しなければなりません。しかしモラハラは目に見えない分、証拠を揃えるのが難しいのです。
本記事では、モラハラの証拠集めの方法や注意点などについて、詳しく解説いたします。モラハラ被害に悩む方の解決の一助となれば幸いです。
モラハラが原因で離婚する場合は証拠が重要
日本で離婚するためには、以下の3つの方法があります。
①協議離婚(夫婦の話し合い)
②離婚調停(家庭裁判所での調停)
③離婚裁判
このうち、①協議離婚と②離婚調停は「夫婦の話し合い」であり、夫婦の合意さえあれば離婚が成立するため、モラハラの証拠は、必ずしも必要になるわけではありません。
しかし、③離婚裁判は、裁判官が、「この夫婦の離婚を認めても良いか、認めるべきではないか」を判断します。モラハラは「目に見えない」言動であることがほとんどですが、モラハラを原因として裁判で離婚を争う場合、モラハラ行為が法定離婚事由である「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し、夫婦関係が破綻したことを、「誰が見てもわかるように」客観的に証明しなければなりません。
いくら酷いモラハラを受けていても、もし裁判で主張立証が不十分だった場合は、離婚が認められない可能性が高くなります。
モラハラの証拠になるもの
例えば、以下のものが、モラハラを裏付ける証拠となり得ます。
- モラハラの内容を記録した日記やメモ
- モラハラ現場の録音・録画データ
- メールやLINE、SNSの内容
- 医療機関への通院履歴や診断書
- 第三者からの証言
- 警察や公的機関への相談歴
これらの証拠は、普段から意識してなるべくたくさん集めておきましょう。
以下、それぞれの内容について、詳しく説明していきます。
モラハラの内容を記載した日記やメモ
モラハラの内容を具体的に記録した日記やメモは、モラハラの証拠となり得るため、意識して残しておくようにしましょう。
日記は、手書き以外でも、パソコンやスマホ、アプリなどで残しておくこともできます。しかし、これらのデータは後から書き直しやすいという点で、どうしても手書きの日記よりは証拠としての信用度は落ちてしまいます。できれば、改ざんの疑いの余地をなくすためにも、消えないボールペンを使用し、手書きで記録しておくことをお勧めします。
書き方に気を付けるべきことはある?
日記をつける際は、モラハラ被害を受けた都度、日にちと時間、言われたことやされたこと、相手の態度を具体的に記録しておきましょう。そのときのシチュエーションや、モラハラ以外にその日にあった出来事も添えておくと、証拠としての信憑性がより高まります。また、相手に日記が見つかった時に備えて、日記の画像をデータとして保存しておくなどすると、より安心です。
なお、後から日記の内容を修正したりすると、証拠としての価値が下がることは言うまでもありませんので、加筆修正は控えましょう。
モラハラの現場を録音・録画したデータ
モラハラの現場を録音・録画したデータは、モラハラの事実を証明するとても有効な証拠となります。
録画データで、角度の問題などで暴言を吐いている本人が映っていなくても、会話の内容次第では、十分証拠となり得ます。
また、録音する際、瞬間的なワンフレーズだけを切り取った音声データでは、相手に前後の事実を捻じ曲げられたり、「自分の不利な内容に編集されている」など、言い逃れされたりしかねません。どのような流れで暴言を吐かれたのか、そのとき被害者はどのような反応をしたのかなど、一部始終の会話の内容が分かるように、時間をかけて録音しておきましょう。
なお、モラハラの証拠を掴むための無断録音・録画は、その方法が相手の権利を侵害するようなものではなく常識的なものであれば、基本的にはプライバシーの侵害や盗聴・盗撮の問題は生じず、裁判でも有効な証拠として取り扱われます。
モラハラ夫(妻)から届いたメールやSNS
人格を否定する、独自のルール・こだわりを強要する、行動を制限する、親族や友人をバカにするなど、配偶者から送られてきたモラハラな内容のメールやLINE、SNSの投稿も、証拠となります。メールは保存し、LINEやSNSは送信歴や投稿が取り消される前に、日時が分かる状態でスクリーンショットし、データを残しておきましょう。
また、1日のスケジュールを細かく決めその通りの行動を強要する、何かを命令するなど、過度に相手の行動を強制・束縛する内容のメモや指示書なども、同様にモラハラの証拠となります。現物は捨てずに保管し、念のため画像も保存しておくと良いです。
さらに、例えば「毎日1時間ごとに電話しろ」「自分から着信があったら●分以内に掛け直せ」など、被害者の行動を制限・監視・確認する目的で行われた頻繁な電話連絡も、モラハラとなり得ます。発着信履歴の画面をスクリーンショットで残しておきましょう。
精神科への通院履歴や医師の診断書
モラハラは、ときに、不眠症やパニック障害、うつ病などの様々な精神疾患を引き起こす原因となります。
心の不調を感じたら、なるべく早めに医療機関の精神科や心療内科を受診してください。医師による診断書や通院履歴は立派なモラハラの証拠となります。なお、通院の際は、必ず配偶者からモラハラを受けてるいことを医師に伝え、診断書やカルテにもモラハラが原因であることを記載してもらってください。
この点、過去に受けた診断書で、精神疾患の原因がモラハラである旨の明記がない場合でも、日記や音声データなど、その他の証拠を組み合わせることで、モラハラを裏付ける証拠となる可能性があります。
子供や友人などによるモラハラの証言
実際にモラハラを受けている現場に居合わせたり、モラハラの悩みを相談したりした親族や友人がいる場合は、これらの人物の証言や陳述書も、証拠として役に立ちます。協力してもらえないか打診しておきましょう。
夫婦にある程度の年齢に達している子供がいる場合は、子供からの証言も証拠になり得ます。しかし、子供の年齢が幼いと、どうしてもその分証言の信用性は低くなってしまいます。また、子供にも大きな精神的負担をかけてしまう可能性があるため、注意が必要です。
警察・公的機関への相談履歴
警察や公的な相談機関へモラハラの相談をしていた場合、これらの相談履歴も、モラハラがあったことを裏付ける証拠となり得ます。警察や公的な相談機関では、相談のあった日時や内容が記録されており、裁判などで必要となった場合には、書面で取り寄せることができます。
これらの相談内容の記録を、日記や録音・録画データなど、他の証拠と組み合わせることで、よりモラハラがあった事実や、行われた内容の信憑性を高めることができます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
モラハラの証拠が集めにくい理由
モラハラは、目に見えない言葉や態度により行われる「精神的暴力」であり、受ける被害も、目に見えない「心の傷」です。そのため、どうしても、身体的暴力を受けたときの傷やアザ、浮気現場の写真のように、直接目に見える証拠は残りにくいのです。
また、モラハラ被害者自身が、モラハラを受けているという自覚がなく、被害を自覚するまでに時間がかかり、証拠を掴む機会を逃してしまうこともあります。さらに、モラハラをしているという自覚がなく、「自分が正しい」と信じて疑わない加害者が、証拠を破棄したり、証拠集めを妨害したりするケースも、珍しくありません。
証拠を集める上での注意点
モラハラの加害者は、思わぬタイミングや何気ない言動で急に怒りのスイッチが入ったり、前触れがなく突然怒り出したりします。証拠となる怒号やモラハラ発言を録音するタイミングを見計らうのは、非常に難しいものです。
普段からボイスレコーダーをポケットに忍ばせておく、スマホの録音アプリを起動しておくなど、いつその瞬間がきても対応できるよう、意識して準備しておきましょう。最も酷い発言自体が録音できてなくても、会話の途中からでも証拠となり得ます。
なお、相手に録音していることがバレたり、スマホが壊れたりしたときに備え、証拠となるデータは随時クラウド上に保存したり、バックアップを取っておくなどしておきましょう。
モラハラの証拠がない場合の対処法
モラハラの加害者の中には、外面が良くしたたかで、証拠が残らない巧妙なやり方でモラハラを行うタイプもいます。また、怒鳴ったり、長時間説教したりして自分の気が済んだ後は、急に優しくなり、被害者に、「これはモラハラじゃなくて一時的に機嫌が悪かっただけ」などと思わせ、被害者をマインドコントロールするタイプも少なくありません。このようなタイプが相手だと、モラハラの客観的な証拠を集めるのは難しいでしょう。
確かに協議や調停で合意できれば、モラハラの証拠がなくても離婚は成立します。しかし、モラハラの加害者は、世間体を気にしたり、自分の行為が愛情表現であると本気で思い込んでいたりするタイプが多く見受けられます。そのような相手が、話し合いですんなりと離婚を受容れる可能性は低いでしょう。やはり、裁判に発展したときを見据え、ときには弁護士やプロの探偵など第三者の力を借りて有力な証拠を収集しておくべきです。
モラハラの証拠があれば、慰謝料も請求できるのか
慰謝料は、相手の行為により受けた、精神的な苦痛に対する賠償金です。モラハラが原因で精神的苦痛を受けていれば、もちろん、加害者に対して慰謝料を請求することができます。しかし、そのためにはモラハラを受けた事実とその内容を具体的・客観的に証明しなくてはなりません。
モラハラの慰謝料の一般的な相場は数十万円程度といわれていますが、婚姻期間の長さやモラハラの内容、被害者の精神疾患の発症状況等に応じて、より高額な慰謝料が認められる可能性があります。
モラハラ離婚の証拠に関するQ&A
子供が配偶者からモラハラを受けていた場合、離婚するには証拠が必要ですか?
親から受ける理不尽なモラハラは子供にとって心理的虐待であり、子供の人格形成や健全な情緒の発達にとても大きく影響します。モラハラが原因でうつ病を発症したり非行に走ったりなど、子供の人生にとって非常に有害な行為であることは、いうまでもありません。
子供に対するモラハラが原因で離婚する場合も、当然、裁判ではモラハラ行為の客観的な証拠が必要になります。しかし、証拠集めに時間がかかり過ぎる場合や話し合いで解決できそうにない場合は、なるべく早めに子供を連れて、配偶者との別居を検討しましょう。子供を護るために、子供をモラハラ加害者から物理的に引き離し、子供が心身ともに安心して過ごせる環境を確保してあげてください。モラハラから子供を護るためにした別居には正当な理由があるため、裁判で不利になることはありません。また、数年間の別居の実績を作ることで、裁判でも離婚が認められやすくなるというメリットもあります。
配偶者とのLINEの内容が削除されていても、友人などにモラハラの内容が書かれたLINEを転送していた場合はモラハラの証拠になりますか?
LINEは、「送信取消」という機能によって、24時間以内に送信したメッセージであれば、自分と相手双方のトークルームから削除することができます。モラハラ加害者の中には、モラハラな内容を含むメッセージを送っても、適宜、送信取消をしていき、自分の保身のために証拠隠滅を図ろうとするタイプもいます。
この点、相手が送信取消をする前に、相手とのトーク履歴を友人や親族などの第三者に転送し、モラハラの相談をしている場合、その転送されたトーク履歴もモラハラの証拠となります。
しかし、日常的にLINEのトーク履歴を転送する行為は、転送される相手の迷惑にもなりかねません。トーク履歴をモラハラの証拠として確保するという目的であれば、自分のメールアドレスに送信したりクラウドサービスに保存したりすることも可能ですので、これらの手段も検討しましょう。
日記や録音データなどの証拠は、長期間集めるべきですか?
日記や録音データなどの証拠は、なるべく長期間にわたり、数もたくさん集めておくことが望ましいです。
そうすることで、モラハラ行為の継続性や頻度などの悪質性を、より具体的・客観的に示すことができます。
この点、短期間の日記や録音データが証拠とならないわけではありません。しかし、長期間にわたる証拠と比べると、やはり、「こんなのただの夫婦喧嘩だ」など、相手の反論の余地が生まれてしまいます。
短期間の証拠の場合は、「頻度」を意識して、数を多く集めるよう意識しましょう。例えば、毎日のように「バカ」「死ね」など、同じような言葉で、侮辱したり人格を否定したりするような言葉を浴びせられている場合は、同じ言葉でも毎日のように相手の発言を録音する、記録するなどして、証拠の数を積み重ねるとよいでしょう。
離婚の際に必要なモラハラの証拠について、経験豊富な弁護士がアドバイスいたします。
モラハラは目に見えない精神的な暴力である分、目に見える証拠を集めるのは難しいものです。また、モラハラ被害者の方の多くは、家庭内で弱い立場に置かれており、加害者と直接対峙して話し合うことは難しいことかと思います。
ですが、裁判に発展した場合、誰が見てもわかるようなモラハラの証拠を揃え、十分な主張立証を尽くさなければ、慰謝料を請求できなかったり、離婚自体が認められなかったりする可能性があります。
自分で頑張ってもなかなか証拠が集められない、離婚したいのにどうしたら良いのかわからない・・・などお悩みの方は、ぜひお気軽に弁護士法人ALGにご相談ください。経験豊富な弁護士が、依頼者の身の安全を第一に考え、心に寄り添いつつ、裁判で有効な証拠の集め方や離婚に向けた戦略など総合的にアドバイスいたします。
「信号待ちしていたら、後ろの車から追突された。事故以後、首の痛みに悩まされている。」このような方はいらっしゃいませんか?
自動車の追突事故などにあった際、首を痛めるケースは非常に多いです。
また、事故直後は異常がなくても、しばらく経ってから痛みが発生したり、首の痛みが発端となり、頭痛やめまいなどの全身症状が現れたりするような場合もあります。
このように、首を負傷し、後遺症に悩まされている方は、後遺障害等級認定を受ける必要があります。等級認定を受ければ、後遺障害慰謝料や逸失利益などの賠償金を加害者側に請求することが可能になります。
ただし、後遺障害等級認定を受けるためには、単に首が痛いだけでは足りず、等級認定の要件を充たす必要があります。
ここでは、事故による首の痛みが後遺障害として認められるための要件、首の痛みに関連する後遺障害、首の痛みへの対処方法などについて、説明していきたいと思います。
首が痛いだけでは後遺障害とは認められない
単に首が痛いというだけでは、交通事故で残った後遺障害として認定されませんので注意が必要です。首の痛みが後遺障害として認定されるためには、主に下記の要件を充たすことが必要です。
①事故状況や治療状況等により、交通事故が原因で負った後遺症であることを証明できること
②将来においても回復困難である(症状固定)と医師が判断したこと
③MRIやレントゲンの画像、各種検査により、後遺症の存在や程度を医学的に説明もしくは証明できること
④通院が途切れず、適切な通院頻度を保つなど、負傷した後から症状固定に至るまで、症状が一貫して継続的に続いていることが証明できること
⑤後遺症の症状が自賠責保険の定める後遺障害等級に該当すること
加害者側の自賠責保険会社を通じて、審査機関(損害保険料算出機構)に対し、後遺障害診断書や必要資料を提出し、上記要件を充たすと判断されれば、後遺障害等級認定が受けられます。そして、認定された等級に応じた後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益などの賠償金を得ることが可能になります。
後遺障害と認められるには検査が必要
首の痛みが後遺障害として認められるためには、症状を客観的に示す検査結果が必要になります。首の痛みは画像に現れない可能性がありますので、MRIやレントゲンの画像検査だけでなく、体をたたいて反射を見る深部腱反射テスト、患部に刺激を与えることで痛みやしびれの症状を調べるジャクソンテストやスパーリングテストなどの神経学的検査を医師より受け、その結果を後遺障害診断書に記載してもらいましょう。何らかの異常所見が後遺障害診断書に記載されれば、後遺障害として認定される可能性が高まります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
首の痛みの原因と関係のある後遺障害
交通事故によって首を負傷した場合、どのような疾患になる可能性があるのでしょうか。
以下、考えられる疾患について、説明していきたいと思います。
むちうち
交通事故によって首を負傷した場合、むちうちになることが最も多いとされています。
むちうちとは、交通事故などによる衝撃で、首の骨の頸椎がむちのようにしなる動きをすることで、首の筋肉、靭帯、椎間板、神経などに起こる損傷のことを言います。
事故直後は痛みがなくても、しばらく経ってから、痛みが発生する場合もあります。
頸椎がむちのようにしなるため、一般的に、むちうちと呼ばれていますが、これは正式の傷病名ではありません。医師の診断を受けると、「頸椎捻挫」「頸椎椎間関節症」「頸部挫傷」「外傷性頸部症候群」「脊柱管狭窄症」などの傷病名が診断書に記載されます。
脳脊髄液減少症
脳脊髄液減少症とは、事故による頭部への強い衝撃などにより、脳脊髄腔に穴が開き、脳脊髄液が漏れ続け、首の痛みなど様々な症状を引き起こす疾患のことをいいます。
脳脊髄液減少症の症状は首の痛み以外にも、起立性頭痛、めまい、吐き気、耳鳴りなど人によって様々です。一見関係のないような症状でも、脳脊髄液減少症が原因でなっている可能性があります。
もし、事故後、上記の症状、特に寝起きすると頭痛が悪化するような症状が出ている場合は、脳脊髄液減少症の疑いがありますので、医師の診断を受け、MRIやCT検査を受けることが必要です。
脳脊髄液減少症は立証が難しい症状のため、後遺障害等級認定を受けることが難しく、認められたとしても14級というケースが殆どです。適正な等級認定を得るためには、医学的知見のある弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故後に首が痛い(首の痛みが続く)ときにやるべきこと
事故後に首が痛くなった場合は、まずは整形外科に行き、医師の診察を受けましょう。自動車のエネルギーは想像以上に大きいため、事故直後は軽傷だと思っていても次第に症状が悪化することがあります。
事故直後の急性期は、炎症をおさえるために湿布やアイシングなどで患部を冷やしたり、コルセットなどで首を固定し、患部になるべく負担がかからないようにしたりすると良いようです。その後、炎症が治まり痛みが軽減されてきたら、首を温める温熱療法や、首のストレッチやマッサージなどのリハビリが行われることが多いでしょう。
治療方法や治療期間、整骨院への通院の必要性などに関しては、自己判断ではなく、医師の指示に基づき、判断するようにしてください。なお、むちうちの場合、医師の指示にもよりますが、週2~3回、1ヶ月に10日程度、6ヶ月以上通院するのが望ましいでしょう。
首が痛い場合にやってはいけないこと
首が痛い場合は、つい首を動かして音をぽきぽき鳴らしたくなってしまうかと思いますが、事故後はなるべく首を安静にしておくことが必要です。
無駄な動きをしたり、無理に刺激を与えたりすると、症状が悪化する可能性があります。座っているときも、立ち上がるときも、なるべくまっすぐ前を向き、首が体幹に対してねじれないような姿勢を保ち、激しい運動も控えましょう。
首の痛みと交通事故の因果関係が認められた裁判例
首の痛みと交通事故との因果関係が認められた裁判例をご紹介します。
以下の裁判例では、追突被害事故により負った首の損傷による痛みと交通事故との因果関係が認められ、後遺障害等級14級に該当するとの判断が下されています。
【京都地方裁判所 令和2年12月9日判決】
(事案)
赤信号で停車中の原告車に被告車が後方から追突。原告は頸部に傷害を負い、通院治療を受けた(通院期間7ヶ月、通院実日数123日)が、症状固定後も首の鈍痛が続いている。
(争点)
本件事故によって負った後遺症(頸部の鈍痛)は後遺障害として認定できるか。
(結論)
原告は、本件事故により首に傷害(頸椎椎間関節症等)を負い、約7ヶ月にわたり通院治療を受けたものの、症状固定後も頸部に鈍痛があり、週1回程度の神経ブロック注射及び鎮痛剤の内服による治療を受けており、本件事故によって生じた傷害の後遺障害として、頸部の鈍痛が残存しているものと認められる。よって、原告の後遺症は、後遺障害等級14級9号に該当するとものと認められる。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故後の首の痛みに困りなら弁護士にご相談ください
交通事故に遭い、首の痛みにお困りの場合は、交通事故に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
特にむちうちに関しては、明らかな外傷が見えず、レントゲンやMRIなどの画像所見が出ないことも多く、後遺障害等級認定を受けるのが難しい類型になります。
そのため、適正な後遺障害等級認定や慰謝料などの賠償金を得るためには、医学的知識や交通事故に関する法的知識が必要となります。
弁護士法人ALGでは、医学博士弁護士が在籍する医療事故チームと交通事故チームが連携し、事件解決にあたっているため、適正な賠償金を求めて専門性の高い主張、立証をすることが可能です。
「事故により首の痛みに悩まされているが、今後どのように対応すればいいのかわからない」「後遺障害等級認定の申請をしたい」と思われるような場合は、ぜひ、一人で悩まず弁護士法人ALGにご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)