検査義務

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

検査義務が問題になるケース

患者としては早く検査を行っておけば運命が変わっていたのではないかと感じることはあると思います。実際に、検査義務は様々な医療事件において争点になっています。例えば、ERCP後膵炎の発生を確かめるために血液検査をするべき義務、腹痛で搬送されてきた患者にイレウスを疑って必要な画像検査をするべき義務、壊死性筋膜炎を疑ってCT・MRI等を行うべき義務、脳梗塞を疑ってMRIを施行するべき義務、感染性心内膜炎を疑って心エコーを行うべき義務等は、検査を懈怠すると重大な結果につながるため紛争になることが比較的多い印象があります。しかし、当然ながら何でも検査することが医師に期待されているわけではないため、証拠に照らして検査義務が認められるべき事案を区別することが必要になります。

検査の必要性を認める根拠

裁判所が検査義務を認めるためには、検査の必要性を認める根拠が重要になります。典型的な所見に関する医学的知見と実際の経過が整合的であれば、当該傷病を予見して検査するべきであると判断される可能性が高まります。逆に根拠がない場合には検査義務は認められません。このため医療側が何も確認していない事案の方が検査義務を認められにくいという現象が生じます。

また、検査義務に関する医療訴訟では、過失と因果関係の認定の容易さがトレードオフの関係になることがあります。

CT検査を行うべき義務を認めた裁判例

以上の内容は分かりにくいと思いますので、頭痛、嘔吐等の症状で救急搬送された患者に頭蓋内圧亢進を疑ってCT検査等を実施すべき義務が認められた裁判例の事案をもとに説明致します(東京高判平成30年3月28日判例時報2400号5頁、上告は棄却されて確定済)。

この事例では、患者は嘔吐や頭痛により4か月前から何度か他の病院を受診していました。死亡の約2か月前には、患者は頭痛が二日間続く症状に見舞われた上、悪心嘔吐があり、光がまぶしく感じられる状態でした。事件当日の深夜に患者は複数回嘔吐し、頭痛を訴えて救急搬送されました。搬送時の患者は、JCS-0、呼吸18回/分、脈拍50回/分、血圧161/78、SPO2-98%、瞳孔3/3、対光反射正常という状態でした。患者は診察時には頭痛について「痛くない」と述べていました。診察から約2時間後に患者は帰宅させられましたが、数時間後に心肺停止となり死亡が確認されました。死亡後のCT検査により、患者の左側脳室内に直径9cm程度の内部に出血を伴う嚢胞が生じており、脳幹圧迫により脳ヘルニアが生じていたことが判明しました。

東京高等裁判所は、上記の事案について、診察の時点で頭蓋内圧亢進症状の「三主徴である①頭痛、②嘔吐、③視力障害がいずれも発現したと考えることができる」こと、「頭痛と嘔吐の症状があったが、嘔吐が終わると頭痛が寛解したとすれば、頭蓋内圧亢進を疑うべきであった」ことを主要な理由として診察を担当した医師にCT検査を行うべき義務を認めました。このように、特定の病気の典型的な所見に複数合致している場合には検査義務が認められる可能性が高まります。

他方で、この事案において仮に救急搬送時に既に意識障害が生じていたとすると、検査義務が認められやすくなります。しかし、その場合には、嚢胞内出血等が既に生じていた可能性があると判断され、因果関係の認定はより困難になります。このように検査義務を認めるべき時期に特徴的な所見が揃っている事案では、過失は認めやすくなりますが、因果関係の認定が難しくなる傾向があります。

なお、当職としては、上記の東京高等裁判所の事案は、視力障害の事実が担当医に伝わっていたか否かが不明であり、検査義務を認めるべきか否かについては意見の分かれるケースであると思います。

検査義務に関する争点の設定は難しい問題であること

上記のような事情があるため、患者側は協力医の意見を参考にして主要な争点を設定しつつも、複数の時点に関する検査義務の主張を行うことが多いです。専門的な経験に基づく判断が必要になるため、検査義務が問題になる事案では、特に医療訴訟の経験が豊富な弁護士に相談されると良いと思います。

この記事の執筆弁護士

プロフェッショナルパートナー 弁護士 髙橋 旦長
弁護士法人ALG&Associates プロフェッショナルパートナー弁護士 髙橋 旦長
大阪弁護士会所属
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監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)
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