監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
「性格の不一致」を理由に離婚するご夫婦は、数多くいます。一緒に暮らしていくなかで、合わないと感じる場面が増えれば、次第にストレスが溜まってしまうでしょう。その結果、別れを決意する方もいるのです。
しかし、性格の不一致は、夫婦のどちらが悪いといえるものではありません。そのため、相手が離婚に応じてくれない場合、離婚理由として認められないこともありえます。
このページでは、【性格の不一致での離婚】をテーマに、離婚することはできるのか、離婚の進め方、慰謝料請求できるのか、といったことについてご説明していきます。
性格の不一致で離婚することはできるのか
夫婦間で話し合って合意できれば、性格の不一致を理由に離婚することができます。 また、夫婦同士の話し合いは難しくとも、家庭裁判所の「離婚調停」という手続きを利用し、調停委員会を通して話し合うことで合意に至り、離婚できるケースもあります。
一方で、夫婦間の話し合いでも調停でも合意できず、「裁判」に発展した場合、性格の不一致のみを理由とした離婚を認めてもらうことができない場合もあります。その理由は後ほどご紹介します。
性格の不一致とは
そもそも性格の不一致とは何なのかというと、性格やものの考え方、価値観などが合わないことを指します。具体例は次のとおりです。
- 子供への教育方針の違い
- マナーに対する考え方の違い
- 金銭感覚のズレ
- 両親や親族との付き合い方の違い
性格の不一致は、離婚理由として挙げられることの多いものです。裁判所の統計データ(※令和2年度)によれば、離婚調停を申し立てた理由の第1位が、「性格が合わない(性格の不一致)」となっています。
特にはっきりとした理由がない場合などに、「性格の不一致」はとても使いやすい言葉です。こうしたことも、多くの人が離婚理由に挙げる背景にはあるのでしょう。
法律が定める離婚原因とは?
裁判で離婚が認められるには、民法で定められた5つの離婚理由(法定離婚事由)のどれかに当てはまる事情が必要です。
①配偶者に不貞行為があったとき
②配偶者から悪意の遺棄をされたとき
③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
性格の不一致が原因で夫婦関係に不和が生じた結果、夫婦関係や破綻していたて修復不可能と判断できるような場合には、性格の不一致の存在が上記⑤である婚姻関係を継続し難い重大な事由に当てはまるとして、離婚が認められる可能性があります。
夫婦関係が破綻した証拠を集める
ただ単に主張するだけでは、夫婦関係の破綻を認めてもらうのは難しいでしょう。客観的に見てわかる証拠を集めて提示することが必要不可欠です。証拠になり得るものとしては、例えば次のようなものがあります。
- 次第に夫婦仲が悪くなっていったことを記録した日記やメモ
- 夫婦喧嘩の様子を録音・録画したデータ
- 不仲であることがわかるメールやLINEのやりとり
- 寝室が別であったり、家事や家計が別々になっていることを裏付ける写真や録画
なお、日記やメモは、スマホのアプリや手書きでも可能ですが、後から書き換えたと反論されないように作成した日がきちんと分かるようにしておくことが重要です。
長期間の別居
長期間の別居という事実によって、夫婦関係の破綻が認められる場合もあります。必要な別居期間は、一般的に3~5年程度といわれています。ただ、婚姻年数や同居期間の長さ、離婚理由として主張される性格の不一致の内容など、夫婦それぞれの事情に応じて判断されるので、あくまでも目安だと理解しておきましょう。
なお、別居の事実を証明するためには、次のようなものが証拠に使えます。
- 別居先のアパートを借りたときの契約書
- 別居にあたって異動した住民票
- 別居先で支払っている公共料金の領収書
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
性格の不一致での離婚の進め方
離婚理由が性格の不一致の場合も、離婚の進め方はほかの場合と変わらず、【当事者同士での話し合い(協議)→離婚調停→離婚裁判】という順序で進めていくのが一般的です。
ただ、離婚理由が性格の不一致というだけでは、裁判で離婚を認めてもらうことができない場合もありますので、話し合いで解決できるかどうかが重要になってきます。
離婚の切り出し方やタイミング
話し合いで離婚を成立させるためには、出だしが肝心です。離婚の切り出し方と、そのタイミングには十分に気をつけましょう。ここを見誤ると、交渉がスムーズに進まなくなるおそれもあります。
切り出すときは、「離婚したいこと」と「なぜ離婚したいと思うのか」を、落ち着いて伝えるようにしてください。これまでの不満から怒りが込み上げてきたとしても、相手を責め立てるような態度をとることは避けるべきです。言い争いになってしまい、相手の同意を得るのは難しくなることが予想されます。
また、切り出すタイミングは、家庭の状況や相手の様子を踏まえて、慎重に判断しましょう。性格の不一致を理由に離婚する場合、一般的には、子供が自立した時や配偶者が定年退職した時など、人生の節目といえるタイミングで切り出すことが多いようです。
性格の不一致と離婚後の子供の親権について
未成年の子供がいる場合は、離婚する際に親権について話し合い、どちらが離婚後の子供の面倒をみるのかを決める必要があります。話し合いで決まらないときは、最終的に裁判所の判断で決められますが、どちらが親権者となるべきかと離婚原因とは分けて検討されることになります。そのため、離婚原因が性格の不一致だからといって、親権の判断に直接影響を及ぼすとは限りませんが、性格の不一致の内容が子供に関するものである場合には、その内容が親権の判断に一定の影響を与える可能性もあります。
親権を望む方のなかには、子供を連れて別居しようと考える方もいるでしょう。子供を連れて別居をすることは、状況によっては「違法な子の連れ去り」だとして、かえって不利に働く可能性もありますので注意が必要です。DVを受けている、子供が虐待を受けているなどの場合を除いては、相手の承諾を得てから連れて行く方が望ましいです。
性格の不一致での慰謝料請求について
性格の不一致を理由にした離婚では、慰謝料を請求することは基本的にできません。離婚の慰謝料は、相手に離婚の責任がある場合に請求できるものです。性格が合わないのは、どの夫婦にでも起こることであり、どちらが悪いとはいえません。そのため、慰謝料請求したとしても、裁判所が認めることはほとんどないでしょう。
ただし、性格の不一致のほかに、相手が不貞行為やDVをしていたなどの離婚原因があった場合には、離婚の責任は相手にあるものとして、慰謝料請求が認められる可能性があります。
また、話し合って相手の同意が得られれば、離婚理由は何であれ、慰謝料をもらうことが可能です。その際、“解決金”という名目でなら支払ってもいい、と言ってくれる場合もあります。“慰謝料”だと、悪いことをした人物だと受け取られやすいからでしょう。
よくある質問
性格の不一致で離婚しても財産分与を受けることは可能ですか?
性格の不一致で離婚しても、財産分与を受けることは可能です。財産分与の中心となる目的は、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産(共有財産)を公平に分け合って、清算することにあります。そのため、離婚原因は関係しません。仮に相手が浮気していたとしても、基本的に2分の1の割合で財産分与することになります。
ただ、夫婦間で合意できているのであれば、どのように財産分与しても構いません。一方に多く財産を渡すのでも、片方がすべての財産を受け取るのでも、分け方は自由です。
離婚裁判で相手が離婚を拒否し続けた場合、離婚は認められないのでしょうか?
離婚原因が性格の不一致のみである場合、離婚裁判で相手が離婚を拒否し続けているなら、離婚が認められないこともあります。
ただし、性格の不一致をきっかけに夫婦関係が破綻している状況にあるなら、法定離婚事由のうち「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして、離婚を認めてもらえる可能性があります。特に、別居が継続している場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断されやすいです。
また、相手が不貞行為をしている、相手から暴力を振るわれている、相手が生活費をまったく渡してくれない、といった性格の不一致以外のことも離婚の一因となっていた場合には、夫婦間の事情を総合的に考慮して離婚できる可能性がありますので、今一度ご自身の状況を振り返ってみましょう。
性格の不一致で離婚した場合のデメリットはありますか?
性格の不一致による離婚では、基本的に慰謝料はもらえないというデメリットがあります。なかでも専業主婦(主夫)の方やパートをしていた方の場合、慰謝料がもらえないことで離婚時に受け取れるお金が減ってしまい、離婚後の生活が苦しくなるおそれも考えられます。
また、性格の不一致というあいまいな理由では、相手がなかなか離婚に納得してくれず、話し合いが長引く可能性もあるでしょう。その場合、相手に離婚に応じてもらうための手段として、解決金を支払う必要が生じることもあります。
性格の不一致で離婚したい場合は弁護士にご相談ください
性格の不一致から離婚を考えたとき、話し合いで相手が同意してくれれば離婚できます。しかし、相手が離婚したくないと拒否したりして裁判にまで発展した場合、性格の不一致のみを理由に離婚を求めても、裁判所に認めてもらうことは簡単ではありません。
性格の不一致で離婚したい場合には、弁護士に相談してみてください。弁護士のアドバイスを受けることで、話し合いがスムーズに進む可能性があります。また、弁護士が代わりに交渉にあたることも可能ですし、裁判を行うことになった際は適切にサポートいたします。
弁護士法人ALGでは、離婚問題に詳しい弁護士がお待ちしています。性格の不一致での離婚についてお悩みのときは、おひとりで抱え込むのではなく、まずは弊所に相談してみてはいかがでしょうか。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)