監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
離婚を決意する原因には様々なものがありますが、高齢化社会が進む昨今では、家族の介護のストレスがきっかけになることも多いです。これを「介護離婚」といいます。
介護離婚をする際には、誰を介護しているかによって、夫婦で話し合うべき問題も変わってきます。
そこで今回は、義両親、実親、配偶者本人、障害のある子供など、介護の対象となる人ごとにケースを分けて、それぞれをめぐる問題について解説します。
介護離婚とは
介護離婚とは、家族の介護のストレスが原因で離婚することをいいます。
特に、義両親の介護をひとりで担うことに耐え切れなくなった妻が介護離婚を切り出す場合が多いです。また、実親や障害のある子供の介護をめぐって配偶者と諍(いさか)いになり、介護離婚を決意するといった場合もあります。
介護は心身ともに大きな負担となるものですが、どうして離婚にまで発展してしまうのでしょうか?
次項より、介護離婚のケース別に、離婚に発展してしまう要因や、離婚するにあたって話し合うべき問題点などを説明していきます。
義両親の介護を理由に離婚するケース
ただでさえ介護は心身への負担が大きいものですが、自分とは血のつながりのない義両親の介護によるストレスは特に大きくなりがちです。
また、介護を受けている高齢世代の方の中には「義両親の介護は嫁がするもの」といった価値観を強く持っている方も多く、義両親の介護の負担が妻ひとりに集中してしまっているご家庭も少なくありません。
しかし、通常、義両親の介護は妻の義務ではありません。介護を受けている義両親や夫、その他の親族などが妻への感謝の気持ちを持たず、当たり前のこととして受け止めていれば、いつか妻が我慢の限界を迎えた時に離婚を決意してしまうことも何ら不思議ではないでしょう。
介護した義両親の遺産は離婚時にもらえるのか
たとえ妻が献身的に介護していても、配偶者が相続した義両親の遺産を財産分与などでもらうことはできません。
介護してきた義両親の遺産を妻がもらうためには、事前に下記のような対応をしておく必要があります。
- 実子の配偶者(ここでいう妻)に遺産を遺す旨の遺言を遺してもらう
- 義両親と養子縁組する
- 生命保険金の受取人となる
- 生前贈与してもらう
また、実子の配偶者には相続権がないため、義両親が亡くなった場合にも、特別な手続きをしていない限り遺産を受け取ることはできません。
ただし、妻が介護することでヘルパー代などが浮き、義両親の財産が減らなかったと認められるような場合には、介護に貢献した分のお金を相続の際にもらえる可能性があります。この時にもらえるお金を「特別寄与料」といいます。
義両親の介護をしなければならないのは誰?
法律上、介護義務があるのは、血のつながった子供や孫、兄弟姉妹です。つまり、実子の配偶者には、義両親の介護をしなければならない義務は基本的にありません。
とはいえ、家父長制が長年続いてきた日本では、「義両親の介護は長男の妻の役目」という価値観が強く根づいていました。現在でも、夫自身がするべき親孝行の役割を強いられている妻も少なくないでしょう。
確かに夫婦には互いに助け合う義務があるので、実子の妻(あるいは夫)は、実子が行う義両親の介護をある程度サポートする義務があると考えられます。
しかし、義両親の介護を主体的に行うべきなのは、実子や孫など、あくまでも血のつながった親族です。
介護の方法や費用の負担などについて親族間でよく話し合ったうえで、親族が中心となって協力し合いながら介護を行うべきでしょう。
実親の介護を理由に離婚するケース
血のつながった親に介護が必要になった場合、これまでの愛情や恩から、できる限りのことをしたいと考える方も多いかと思います。
しかし、配偶者が理解や配慮をしなかったり、無神経な言葉をかけてきたりするなど、「親孝行をしたい」という気持ちを尊重してくれなければ、配偶者に対する愛情が冷めてしまうこともあるでしょう。そして、離婚という選択につながるケースも珍しくありません。
夫(妻)の介護を理由に離婚するケース
事故や病気が原因で、夫婦の一方が介護の必要な状態になってしまうこともあります。
介護は負担の大きいものですから、たとえ元々は仲の良かった夫婦でも、ストレスから些細なことで喧嘩を繰り返すようになったり、うつ病や認知症などが原因で攻撃的になった配偶者の言動に傷つけられて精神的なダメージを受けたりすれば、離婚を視野に入れることもあるでしょう。
配偶者に介護が必要になる前から夫婦仲が悪かった場合はなおさらです。
介護を放棄した場合の財産分与はどうなる?
配偶者の介護を理由に離婚しても、財産分与が受けられなくなるということはありません。
財産分与は、それまで夫婦が協力して作り上げてきた財産を分け合う制度なので、“財産を築くのに協力した”という事実がある限りは、離婚の理由に関係なく行われるべきだからです。
ただし、介護を放棄した理由、放棄するまでの経緯、それまでしてきた介護の内容などを考慮した結果、介護の放棄が不法な行為だと判断された場合は、慰謝料を請求されるか、慰謝料の代わりに財産分与の割合などが修正される可能性があります。
夫(妻)が認知症の場合
認知症の夫(妻)と離婚する場合、夫(妻)に離婚について正常に判断できるだけの判断能力があるかどうかで、必要な手続きが変わってきます。
認知症を患っていても、離婚の意味や効果を理解して判断ができるのであれば、通常どおりの手続きで離婚することが可能です。
一方、夫(妻)の認知症が重度で判断能力がないときは、夫(妻)は「離婚」という重大な決定をすることができないので、そのままでは離婚手続きを進めることはできません。
このようなケースでは、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てて「成年後見人」を選任してもらい、成年後見人を相手に裁判での離婚を目指すことになります。なお、ご自身が既に認知症の夫(妻)の成年後見人になっている場合は、家庭裁判所に成年後見監督人を選任してもらい、この成年後見監督人を相手に手続きを進める必要があります。
離婚裁判で、「夫(妻)の認知症は婚姻を継続し難い重大な事由にあたる」など、法律上の離婚原因があると判断されれば、離婚の成立が認められます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
障害児の介護を理由に離婚するケース
子供に障害があって介護が必要な場合、周囲の理解や十分なサポートを得られず、夫婦それぞれが大きなストレスを抱えてしまうことがあります。その結果、些細なきっかけで夫婦喧嘩を繰り返すようになったり、子育てや介護の方針で対立したりして、お互いに対する愛情が冷めてしまうこともあるでしょう。
また、夫婦の一方が子供の介護に専念していたところ、夫婦間のコミュニケーション不足に不満を抱いたもう一方が不倫に走ってしまうといったケースもあります。
このように、子供の介護がきっかけで夫婦関係にヒビが入ってしまい、離婚につながる可能性があります。
養育費は増額される?
養育費は、基本的に夫婦それぞれの収入を基準に決められます。そのため、子供に障害があるからといって無条件で相場よりも増額されるわけではありません。
養育費を相場よりも増額してもらうには、子供の介護のために相場以上の養育費が必要であることを、客観的な証拠を用意して主張・立証する必要があります。
具体的には、下記のようなポイントから証明していくことになるでしょう。
- 特別な医療費や生活費、教育費などがかかる
- 専門のヘルパーを雇う必要がある
- 介護の負担が大きく働くことが不可能である
親権はどちらになる?
親権は、親である夫婦の希望に加えて、“夫婦のどちらが親権を持つ方が子供の健全な成長にとって良いか”という「子供の福祉」を考慮して決める必要があります。
つまり、個別の状況によって判断が異なるので、夫婦のどちらが親権者となるかを言い切ることはできません。
介護が必要な子供の親権者は、下記のような事情を考慮して決めるべきでしょう。
〇親側の事情
- 子育てに対する意欲
- 虐待の有無
- 子供の介護のために十分な時間を作れるか
- ヘルパーなど、外部の支援を受けられるだけの経済力があるか
- 外部からの支援体制が充実しているか
(住居近くに支援施設がどれだけあるか、親族から援助を受けられる可能性はあるかなど)
〇子供側の事情
- 年齢
- 性別
- 必要な介護の程度
- 引っ越しなど、環境の変化に適応できるかどうか
介護離婚のときに慰謝料はもらえるのか
介護を受けている人や配偶者、その他の親族などの言動が不法行為と認められる程度のモラハラに該当する場合、慰謝料を請求できる可能性があります。
慰謝料の請求を認めてもらうためには、モラハラを受けていた事実やその実態を証明しなければなりません。そこで、介護離婚の際にモラハラを理由に慰謝料請求することを検討されている方は、次のような点を日記に記録するなどして証拠を残しておくことをおすすめします。
- モラハラにあたる言動が行われた日時
- 具体的な言動の内容
- 言動によって受けた精神的なダメージの詳細
(モラハラによってうつ病などを発症した場合)
- 具体的な症状
- 通院した日時
※その他、医師の診断書なども用意できると良いでしょう。
介護離婚を考えたら弁護士にご相談ください
介護によるストレスで心身ともに追い詰められてしまったとき、おひとりで正常な判断を行うのは難しいものです。
介護によるストレスが原因で離婚したいと考えられている方は、どのような選択肢があるのかを確認するためにも、一度立ち止まって弁護士に相談されてみてはいかがでしょうか。ご相談いただければ、弁護士が後悔のない選択ができるようにお手伝いさせていただきます。
弁護士に依頼すれば、介護離婚に伴う各種手続きを一括して任せることができますし、余計なストレスを受けることがありません。
お辛い状況から抜け出すうえで必要な手段や具体的な方法を模索するためにも、ぜひ一度弁護士にご状況をお聞かせください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)