
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
結婚の約束をしていた相手から突然別れを切り出されてしまったら、大変なショックを受けることでしょう。心の傷はお金で癒えるものではありませんが、このような一方的な婚約破棄については、慰謝料を請求できる可能性があります。
今回は、婚約破棄による苦しみや悩みを抱えていらっしゃる方へ向けて、慰謝料を請求できる条件やその方法、相場、慰謝料以外に請求できる賠償金等について解説していきます。
婚約破棄で慰謝料は発生するのか
不当に婚約を破棄された場合、慰謝料を請求することができます。
ただし、その大前提として、
①正式に婚約が成立していること
②婚約破棄をする正当な理由がないこと
という条件を満たしている必要があります。
婚約成立と見なされる条件
結婚を約束する契約である「婚約」は、当人同士が合意すれば成立します。しかし、不当に婚約破棄された場合に慰謝料の請求を認めてもらうためには、「婚約が成立していたこと」を証明できなければなりません。
例えば、第三者にも婚約が成立していたことがわかる下記のような事情があれば、婚約が成立したと認められる可能性が高いでしょう。
- 結納金または結納品の受け渡し
- 婚約指輪を贈った、贈られた
- 両家の顔合わせ(親族への紹介等)が済んだ
- 結婚後の新居へ引っ越した
- 結婚式や披露宴の予約をした
- 新婚旅行を申し込んだ
婚約破棄の正当な理由
婚約を破棄することに正当な理由があれば、慰謝料の請求は認められません。例えば、下記のようなケースでは正当な理由があると評価される傾向にあります。
- 婚約相手が浮気した
- 婚約相手から暴力を振るわれた、またはひどい侮辱を受けた
- 結婚に関する重要な取り決め(両親との同居の有無、結婚後の居住地など)を一方的に変更された
- 婚約相手が重大な事実(多額の借金や重大な犯罪歴など)を隠していた
- 婚約相手が事故や病気で大きな後遺症を負ってしまった
- 婚約相手が失業する等して経済状況が悪化した
不当な婚約破棄の理由
逆に下記のような理由や事情で婚約を破棄されたケースは、不当な婚約破棄として慰謝料請求が認められる可能性が高いでしょう。
- 単純な心変わり(他に好きな人ができた、何となく結婚したくなくなったなど)
- 性格の不一致
- 不当な差別
- 親の反対
- 他の異性と交際または結婚したい
婚約破棄の慰謝料相場
婚約破棄による慰謝料の相場は、30万~300万円程度です。
婚約破棄の場合、破棄されるまでの交際期間、婚約破棄の原因・時期・経緯、いわゆる寿退社や妊娠・堕胎・出産の有無など、様々な事情を考慮して慰謝料の金額を決めるため、相場にはかなりの幅があります。
慰謝料の増額要素
慰謝料は、婚約破棄されたことで受ける精神的な苦痛が大きいと考えられるほど高額になります。下記のような事情がある場合には、婚約破棄による精神的なダメージが大きいと評価され、慰謝料が増額する可能性が高いでしょう。
- 交際期間が長い
- 周囲の人が婚約の事実を知っており、被害者が別人と交際すること等が難しくなっている
- 婚約破棄の理由が身勝手なものである(何となく結婚したくなくなった、他に好きな人ができた等)
- 結婚に対する期待が高まる結婚式直前に婚約破棄した
- いわゆる寿退社をしたなど、キャリアを諦めた
- 妊娠している、または出産した
- 婚約相手の収入が高い
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
婚約破棄の慰謝料を請求する方法
婚約破棄の慰謝料を請求する場合、まずは婚約相手に「慰謝料を請求すること」と「請求する金額」を伝えて、話し合いを始めます。このとき、郵便局に書面の内容を証明してもらえる“内容証明郵便”を利用して慰謝料を請求すると、相手にこちらの本気度を示せるほか、請求を行ったという事実の証拠にもなります。
婚約相手が話し合いに応じない、または話し合いがまとまらない場合には、慰謝料請求調停を申し立てましょう。それでも合意できなければ、裁判で争うことになります。
婚約破棄の慰謝料請求に時効はあるか
婚約破棄の慰謝料を請求する権利には時効があるので、一定期間が経過すると請求できなくなってしまいます。
なお、時効が成立するまでの期間は、婚約破棄が「不法行為」または「債務不履行」のどちらに当たるかによって異なります。
【不法行為に当たるケース】
時効期間:婚約破棄から3年
例:他の人と肉体関係をもってしまい、その人と交際・結婚するために婚約破棄したケース
【債務不履行に当たるケース】
時効期間:婚約破棄から10年
例:好きな異性ができてしまったため婚約破棄したケース、自分の親が反対していることを理由に婚約破棄したケース
慰謝料以外に請求できるもの
慰謝料以外にも、婚約破棄により被った損害の賠償を請求できます。
例えば、
- 支払った結納金
- 婚約指輪の代金
- 式場や披露宴のキャンセル料
- 新婚旅行のキャンセル料
- 結婚後の新居の購入代金
- 結婚に先立ち退職していた場合、退職していなければ得られたと考えられる給与
などの損害があれば、賠償金を請求できるでしょう。
婚約破棄の慰謝料についてのお悩みは弁護士にご相談ください
突然の婚約破棄により幸せな結婚生活の夢が壊されてしまった場合、慰謝料を請求したいと思われる方は多いでしょう。しかし、婚約を破棄してきた相手との交渉は、精神的にも時間的にも大変なご負担となりますし、婚約したかどうかの基準はあいまいで、証明には手間がかかります。
婚約破棄によりつらいお気持ちやお悩みを抱えていらっしゃる方は、お気兼ねなく弁護士にご相談ください。お心の傷を少しでも癒せるよう、慰謝料請求の交渉をはじめ、様々なお手伝いをさせていただきます。
車の性能がどれだけ進化しても、残念ながら、交通事故による死亡事故が絶えません。
死亡事故に遭われた本人の無念のみならず、突然、大切な家族を奪われた遺族の悲しみや怒りは言葉を尽くしても表現できないことが通常です。
しかし、交通賠償実務を見ていますと、残念ながら、ご遺族の中には適切な金銭賠償を保険会社から受けられていないことがあります。
このページでは、ご遺族の方々が、適正な慰謝料を受け取ることができるよう、死亡慰謝料について解説していきます。
死亡事故の慰謝料と請求できる慰謝料の種類
被害者本人の慰謝料
慰謝料は、精神的苦痛を慰藉するために支払われるものです。
そして、精神的苦痛という観点だけで見ると、交通事故に遭って死亡した被害者本人の苦痛は計り知れません。
そのため、被害者本人が慰謝料を請求できる立場にあるはずなのですが、死亡している以上、この立場は相続人に受け継がれます。
遺族の慰謝料(近親者の慰謝料)
死亡事故によって、被害者の遺族も精神的苦痛を負いますので、一部の遺族にも固有の死亡慰謝料請求が法律上、認められています。
民法711条は、慰謝料を請求することができる遺族として「被害者の父母、配偶者及び子」しか挙げていませんが、解釈上、被害者の兄弟姉妹や祖父母、内縁関係にある妻や夫も、被害者との関係性が強い場合には認められることがあります。
死亡事故慰謝料の計算方法
死亡慰謝料は、特定の計算方法によるのではなく、一定の金額が基準として設定されえています。
弁護士が請求する場合(裁判基準)、家庭の中での被害者の立場によって金額が決まります。
これは、被害者家族の収入源となっていた者が亡くなってしまう場合と、その他の者が亡くなった場合とで精神的苦痛が違うからではありません。
むしろ、死亡慰謝料には、残された家族が経済的に困るからという扶養的な側面があるからです。
死亡事故の慰謝料相場
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
一家の支柱 | 400万円 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 2500万円 | |
その他 | 2000万~2500万円 |
死亡慰謝料については、上の表のとおりです。
自賠責基準だと、弁護士の基準と異なり、被害者が家の中でどういった立ち場であったかにかかわらず、一律400万円となっております。
もっとも、この後説明するように、自賠責の基準では400万円に加えて、被害者の家族構成に従い、近親者の慰謝料が支給される可能性があります。
近親者の慰謝料について
請求者1人 | 550万円 |
---|---|
請求者2人 | 650万円 |
請求者3人以上 | 750万円 |
扶養家族がいる場合 | 上記+200万円 |
自賠責基準では、被害者の家族構成次第で、この表に従った近親者の慰謝料が支払われます。
例えば、亡くなった一家の大黒柱である被害者に配偶者がおり、3人の未成年の子どもを育てていた場合、「請求者が3人以上」及び「扶養家族がいる場合」にあたります。
そのため、保険金としては、①被害者本人の慰謝料 400万円、②「請求者が3人以上」いる場合の保険金 750万円、そして、③「扶養家族がいる場合」の保険金 200万円の合計である1350万円が死亡慰謝料としてしはらわれることになります。
ただ、ご注意いただきたいのは、自賠責保険において、死亡事故によって支給される保険金の上限が3000万円となっており、3000万円を超える金額が支給されないことです。
慰謝料の算定額に影響する3つの基準の違い
自賠責基準の場合の例を弁護士基準に当てはめると、一家の大黒柱である被害者が亡くなったことによって、その家族は死亡慰謝料として2800万円を受け取れることになります。
この金額だけで、自賠責基準を大幅に上回ります。
また、自賠責保険において、死亡事故によって支給される保険金の上限が3000万円となっており、3000万円を超える金額が支給されません。
そのため、損害額が大きい場合、自賠責基準では十分に賠償を受けられない可能性があります。
他方で、弁護士基準においては、そのような上限はございませんので、適正な賠償額が3000万円を超える場合であっても、超えた部分が切り捨てられることはありません。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
死亡慰謝料が増減する要素
慰謝料の増額事由
死亡慰謝料が増額する場合として、よく挙げられるのは、加害者の悪性が強い場合です。
例えば、加害者が飲酒運転や無免許運転であった場合や、事故を起こした際に信号無視をしていた場合、事故直後に逃走したひき逃げの場合のように、加害者が事故時もしくは事故の前後で悪質な運転態度が認められるときには増額されることがあります。
慰謝料の減額事由
死亡慰謝料が減額されている事例の大半は、死亡慰謝料そのものが減額されている場合よりも、過失相殺などその他の要因によって減額されているケースです。
一部、高齢者の場合に減額をする、という裁判例もありますが、それらも高齢である一事をもって減額を認めているわけではなく、事故前の健康状態等を考慮して最終的に妥当な金額を定めているのであり、減額事由であるとは考えるべきではありません。
死亡事故の慰謝料に相続税などの税金はかかる?
死亡事故によって支払われる慰謝料は原則として、非課税です。
相続税などの税金は基本的にかかりません。
これは、慰謝料が、事故によって生じた精神的苦痛というマイナスを、ゼロに戻すための性質を持つからであり、何ら事故によって財産上プラスの利益が生じていないからです。
もっとも、死亡事故によって生じる慰謝料以外の一部の給付(搭乗者傷害保険の死亡保険金など)については、課税される可能性がありますので、課税対象であるか否かは税理士等、税務の専門家にご相談ください。
内縁関係や婚約者でも死亡慰謝料は認められる?
被害者本人の慰謝料を内縁関係にある方や、婚約者が受け取ることはできません。
これは、民法上、相続権がないからです。
他方、遺族としての慰謝料を請求できる可能性があります。
すでに述べましたように、被害者との関係性が強い場合には民法711条には挙げられていない者であっても請求ができるかもしれません。
最近の裁判例の傾向ですと、内縁の配偶者は比較的認められやすい傾向がありますが、裁判所は各事例毎に同居関係などの生活状況などを見ていますので、一概に認められるものではないことは注意が必要です。
慰謝料のほかに受け取れるもの
死亡逸失利益
死亡逸失利益は、被害者が将来得られたはずの収入を補償するものとなります。
細かい計算式は省略しますが、被害者が67歳まで働くと考えて、事故発生時から労働できる期間に得られたであろう収入から、被害者の生活費と中間利息を差し引いた金額が賠償対象となります。
葬儀関係費用
葬儀関係費用も、通常、慰謝料とは別に受け取れます。
不当な慰謝料額にしないために、弁護士にご相談ください
交通事故によって近しい親族が亡くなってしまうと、精神的にも経済的にも、元の生活が戻ってこないという声をよく聞きます。
しかし、加害者や加害者側の保険会社が初めから適正な賠償額を提示してくれないこともあります。
さらには、刑事事件として事故が扱われる場合、そちらの対応にも追われることになってしまい、負担は一人の人間では抱えきれない場合もあります。
そのため、一度は弁護士にご相談ください。
ご負担を少しでも軽くするお手伝いをさせていただければ幸いです。
専業主婦だから休業損害は認められないと思っていませんか。専業主婦も家事労働を行う仕事です。事故により家事労働ができなくなった場合には、休業損害が認められることがあります。本ページでは、主婦の休業損害とは何か、その算定の方法等を解説していきます。
主婦でも休業損害は認められるのか
専業主婦は、家族のために家事労働を行っています。この家事労働は、家政婦や代行サービス等を利用すれば、報酬の支払いが必要となるように、本来であれば対価が発生するものですが、家族間での労働であるため、具体的な金銭が発生していないだけなのです。そのため、交通事故により、家事労働ができなくなった場合には、他の給与所得者のように休業損害を請求することができるのです。
そして、家族のために家事労働を行っていることが休業損害を請求する根拠ですので、家事労働を男性が行っている場合には、主夫休損が認められます。
仕事を休業していない兼業主婦の場合
家事には支障が出ている場合には、家事労働を休業しているわけですから、休業損害が認められるとも思えます。しかし、パート等の仕事はできていたということだと、その仕事の内容にもよりますが、家事への支障がそこまで多くないのではないかと推測されてしまうため、休業損害が認められない可能性があります。
専業主婦の休業損害計算方法
休業損害は、一日当たりの収入額に休業した日数をかけて算定します。
専業主婦の場合、実際には給与をもらっているわけではないので、一日当たりの収入額をいくらとして考えるのかが問題となります。また、休業した日数についても、会社に勤務している場合と異なり、休業した日を特定することができないので、どのように休業した日を認定するのかが問題となります。
基礎収入
自賠責保険では、休業損害の一日の基礎収入を6100円と定めているため、専業主婦の基礎収入も6100円となります。
弁護士が専業主婦の休業損害を請求する場合、専業主婦の基礎収入は、全女性の賃金の平均賃金を基礎収入として考え、一日当たりの収入を算定します。具体的には、厚生労働省が毎年行っている賃金調査の結果である賃金センサスのうち、事故前年度の全女性、全年齢、全学歴の収入の総額を用い、これを365日で割った金額を基礎収入とします。
休業日
専業主婦の場合の休業日数は、いくつか考え方があります。
実務上、基準が明確であるとの考えから、事故日から治癒又は症状固定日までの間で、実際に入院や通院をした日を休業日として算定することが多いです。
その他の方法として、事故で受傷した傷害の程度、通院の頻度、医師の指示等を勘案し、事故日から治癒又は症状固定日までの期間を、一定の期間ごとに区切り、家事ができなかった程度に応じて基礎収入に割合をかけて算出することもあります。
兼業主婦の休業損害計算方法
兼業主婦の場合、家事労働だけではなくパート等の仕事をしている分の収入も得ているため、専業主婦と同様に収入を認定するのか、パート等の仕事の収入を収入として考えるのかが問題となります。
基礎収入
兼業主婦の場合の収入は、家事労働の収入(賃金センサス)とパート等の収入を比較し、高い方を収入として考えます。
そのため、賃金センサスの全女性の平均賃金とパート等の収入を比較し、賃金センサスの金額の方が高ければ、専業主婦と同様に収入を認定しますし、パート等の収入の方が高ければ会社員と同様にパート等の収入で収入を認定することになります。
休業日数
家事労働の収入とパート等の収入を比較し、家事労働の収入の方が高い場合には専業主婦と同様に実際に入通院をした日事故日から治癒又は症状固定日までの期間を期間ごとに分けて家事ができなかった割合をかけて算定します。
パート等の収入の方が高い場合には、実際に仕事を休業した日数を休業日数として算定します。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
主婦の休業損害請求方法
休業損害を請求する場合には、通常、勤務先の会社に休業損害証明書を作成してもらい請求を行います。しかし、専業主婦の場合には、会社が休業について証明してくれるわけではないので、休業損害証明書はなくても家事労働への休業損害を請求することができます。
必要書類
専業主婦の場合には、会社が発行する休業損害証明書がない代わりに、家族と同居して家事労働を行っていることを示すために住民票や非課税証明書が必要となります。
また、兼業主婦の場合には、休業損害証明書と、家事労働の休業損害またはパート等の収入の休業損害のどちらを請求するかを判断するため、パート等の収入を示す事故前年の源泉徴収票が必要となります。
主婦の状況別休業損害
家事が出来ない間家政婦を雇った場合
家事労働ができず家政婦を雇った場合には、その家政婦を雇ったことにより費用を請求することができる可能性があります。もっとも、損害として認められるのは、家政婦を雇う必要がありかつ合理的な金額の範囲内ですので、家政婦を雇った金額のすべてが支払われるわけではありません。
そのため、家政婦を雇う場合には、事前に加害者の保険会社に事情を説明し、費用の支払いについて調整をしておく方が、後々のトラブルを減らすことができます。
2世帯で暮らしている場合
専業主婦の休業損害が認められているのは、専業主婦が家事労働を担っていることが前提となっています。そのため、二世帯住宅で、家庭の中に家事労働を行う人がいて、自分が主に家事労働を行っていない場合には、休業の程度が小さいとみなされる可能性があり、休業損害が減額となる可能性があります。
二世帯住宅の場合には、生活環境や家事の分担状況等を積極的に主張していく必要が出てきます。
主婦の休業損害は複雑なことが多いので弁護士に相談することをおすすめします
家事労働に対する休業損害は、家事労働者の収入をどのように認定するか、兼業主婦の場合度の収入で基礎収入を認定するか、休業日数をどのように考えるか等を検討しながら請求をする必要があります。しかし、保険会社からは、そもそも家事労働の休業損害が認められていなかったり低額な金額での提案がされていたりします。
家事労働への支障は家族への影響もある重大な損害です。弁護士であれば、適切な損害の賠償をしてもらうために交渉をすることができますので、一度ご相談ください。
友人の車に乗っているときに、事故に遭ってしまい、ケガをしてしまった。そんなとき、いったい誰に、損害賠償請求をすればいいのでしょうか。事故を起こした相手のドライバーでしょうか。それとも、友人に対して損害賠償をするのでしょうか。また、そのような請求をする際に、注意することはあるのでしょうか。以下では、他人の車に乗っていて事故に遭遇してしまったとき、どのようにすべきかを述べていきます。
同乗中に事故に遭ったら、だれに慰謝料を請求すればいい?
事故を起こしたのは、相手のドライバーと、あなたが乗っている車のドライバーなので、そのどちらか、又は、その両方に損害賠償を請求できます。この違いは、誰に事故の過失があるかで異なってきます。
運転者に過失がない場合
運転者に過失がなければ、運転者に責任はないので、相手のドライバーに請求することになります。これは、ある意味当然といえば当然の結論と言えるでしょう。
運転者と加害者双方に過失がある場合
運転者と加害者に過失がある場合、その両方に請求することができます。過失割合というのもありますが、共同不法行為となるので、同乗者としては、どちらかに全額の損害賠償を請求できます。過失割合は、運転者と加害者の間で、求償という形で調整することになります。
単独事故、または相手に過失がない場合
単独事故、又は、相手方に過失がないときは、運転者以外に過失がある人がいませんから、運転者にのみ損害賠償請求できます。
家族が運転する車への乗車や好意同乗の場合でも慰謝料を請求できる?
家族の運転する車への乗車や、運転者の好意あるいは無償で乗車を許されていた場合(好意同乗)、車に乗っているという利益を享受しているとして、慰謝料を減額するという考え方が、かつては取られていました。その背景には、車が貴重品であり、車に乗れること自体が、高価な利益になるという事情がありました。しかし、今の状況を考えると、車が貴重品であり、乗車すること自体が高価な利益とは誰も思わないでしょう。そのため、現在では、単に好意・無償で同乗していた場合では、慰謝料は減額せず、後述のように、同乗者にも事故の責任の一端があると認められるような場合に慰謝料を減額するという運用をしています。
同乗者が子供でも慰謝料はもらえる?
同乗者が、まだ子どもであっても、慰謝料はもらえます。子どもがまだ幼くて、痛みをうまく伝えられない場合であっても、慰謝料は請求できます。そして、子どもであることを理由に、慰謝料の金額を減額されることもありません。
もっとも、未成年者は、制限行為能力者ですので、単独で慰謝料請求することができません。そのため、慰謝料の請求は、未成年者の親、未成年者後見人が行うことになります。
同乗者の慰謝料相場
慰謝料の算定は、運転者か同乗者かで変わることはありません。同乗者も運転者と同じ方法で、慰謝料を算定します。そのため、同乗者の慰謝料相場も、運転者と同じで、変わることはありません。
過失により慰謝料が減額されることもある
事故の原因が、同乗者にあるとき、同乗者にも責任を取ってもらうことになります。以下のようなことを同乗者がしていたときは、その分同乗者が請求できる慰謝料が低くなります。
運転者が飲酒運転だと知っていた
ご存じの通り、現行法では、飲酒運転を勧めた者や依頼同乗者に、刑事罰が科せられるようになっております。そのため、そのような犯罪行為に手を染めていたときは、最悪100%の減額となり、慰謝料請求できないのは、言うまでもありません。
しかし、単に飲酒運転であることを知っていただけの場合はどうでしょうか。
運転者とともに飲酒して、運転者が相当酔っていたことを知っていながら同乗
したときには、20%程度の減額をしています(東京地判平成7年6月21日交通民集28巻3号910頁)。
飲酒運転自体犯罪ですし、そのような行為をしていることを知って同乗した以上は、リスクを負うのもやむを得ないといえるでしょう。
運転者が無免許だと知っていた
無免許運転も、違法行為なのは知っての通りです。したがって、飲酒運転だと知っていたときと同様の結果になるのは当然です。
運転者が無免許であることを知っていながら、間接的に運転を促した事案で、30%の減額を肯定した事例もあります(鳥取地裁昭和50年2月26日判タ324号290頁)。
無免許運転自体危険行為ですから、そのような危険を知りながら乗っている以上、過失が認められるのは当然といえるでしょう。
危険な運転を止めなかった・煽った
飲酒運転・無免許運転だけが危険な運転ではありません。裁判例は、制限速度を30キロもオーバーして追い越した直後に急ブレーキをかけて追突された事案で、運転者の交際相手の同乗者は、このような危険な運転を容認していたことを理由の一つとして、40%もの減額を認めた事例があります(神戸地裁平成26年12月19日交民47巻6号1569頁)。
運転者が危険な運転を始めたら、すぐに止めるか、そもそもそのような危険な運転をする傾向のある運転者の車には乗らないようにしましょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
同乗者も弁護士費用特約を使える?
これに関しては、ご自身、ドライバーの加入する保険の特約によるとしか言えません。ご自身の保険会社は、同乗していた場合でも弁護士特約を使える場合が多いと思います。
一方で、ドライバーの場合、同乗者まで、弁護士特約を付けている場合は、なかなかないのではないでしょうか。
ご自身やドライバーの保険に弁護士特約があるかどうか不安なときは、加入する保険会社に問い合わせるのが確実でしょう。
同乗者の慰謝料に関する判例
同乗者の慰謝料が減額された判例
前述のように、危険行為をした場合は、大幅な減額がされています。しかし、シートベルトを締め忘れたときはどうでしょうか。
名古屋地裁一宮支部令和2年5月28日判決(ウェストロー2020WLJPCA05286001)は、シートベルト不着用と損害に因果関係があることを前提に、過失割合を10%としています。これは、シートベルトの着用義務は、同乗者のものも、運転者に課せられた義務であること、シートベルトを装着していても、ある程度のケガ自体は避けることはできなかったことなどの事情があったためです。
シートベルトの着用により、命が守られることもありますし、着用しない理由は、妊娠中の場合等のほかは、ほとんどないと思います。ご自身の身を守るためにも、車を運転しないときであっても、十分安全に気を付けて車に乗る必要があります。
同乗者の慰謝料が減額されずに済んだ判例
運転者が、最高約180キロ、事故直前には約144キロもスピードを出して、単独事故を起こし、同乗者が死傷した事案で、同乗者は運転者の無謀運転を止めることはしていませんでした。しかし、同乗者は、スピードを出すことを特段求めていたわけではなく、ほとんど運転者と話もせず、寝ていたために、好意同乗者としての減額を認めませんでした。また、この事案では、死亡した同乗者はシートベルトをしていませんでしたが、このような無謀な運転による事故であること、運転者がシートベルト着用を求めていないことから、減額はされませんでした(京都地裁平成29年7月28日交民50巻4号1001頁)。
止めようとしなかったのではなく、寝ていて止めることができなかったのだから、過失はないとされたのだと思います。また、シートベルトをしていても、同じ結果になるような酷い事故のときは、シートベルトをしていなくとも減額されないようです。
このような酷い事故に遭うことはまれですが、シートベルトをしておけば、死の結果発生の可能性を低減できますし、過失割合でも不利な認定をされることはありませんので、同乗する際にはシートベルトを忘れずにしてください。
同乗者の事故は揉めやすいので弁護士にご相談ください
運転者と同乗者、そして加害者と、当事者が複雑に絡み合い、しかも、誰に責任があるのかで、非常にもめやすい案件と言えます。そのため、同乗者がいるとき、事故車に同乗したときは、早めに弁護士などの専門家に相談するのが得策ではないかと思います。
相続が発生すると、相続税の申告などいろいろすることがあり、故人を惜しむ暇すらありません。その中でも、相続人の調査は、必須と言ってもよいでしょう。これをしていないと、後々のトラブルにつながり、故人も浮かばれない、なんて事態になりかねません。では、相続人調査は、どのようにすればいいのでしょうか。ここでは、相続人調査のやり方と注意点を解説していきたいと思います。
相続人調査の重要性
ここでは、相続人調査をすべき理由を解説していきます。
相続人調査をすると、新たな相続人がいることが判明することがあります。隠し子だったり、ご兄弟が既に死亡していて、代襲相続が生じていたりします。また、故人自身も知らない、兄弟がいる可能性だってあります。
相続人が欠けた状態で、遺産分割協議をすると、協議をやり直すことになります。せっかく相続人で長い間話し合って合意に至っても、すべてご破算です。そのため、事前にしっかりと、誰が相続人なのか調査しておく必要があります。
遺産分割協議が終わらなければ、財産を取得することもできません。そのため、遺産分割協議の前提として、相続人調査をしっかりとする必要があります。
相続人調査の方法
では、どのように相続人調査をすべきでしょうか。
まず、被相続人、相続人の戸籍を取ります。そして、戸籍をチェックして、相続相関図を作成していきます。戸籍の取得と、チェック、関係図への書き込みを繰り返し、最終的にすべての相続人の相関図が完成したら、終了となります。
相続人調査に必要になる戸籍の種類
戸籍、といっても、謄本だけではなく、除籍謄本など、いろいろなものがあります。すべて、必要になることもあれば、戸籍謄本だけで十分な場合もあります。以下では、その種類と、どのようなときに必要になるかを解説します。
戸籍謄本
戸籍謄本とは、戸籍の内容すべてを写した書面を言います。これに対し、戸籍抄本は、一部のみを写した書面をいいます。
相続人調査の目的は、知らない相続人を探すところにあるのですから、抄本ではだめで、謄本を用意する必要があります。
被相続人が、戸籍の最後の一人ではないときは、戸籍謄本を取ることになります。例えば、夫婦の一方のみが先に亡くなったときは、戸籍謄本を取ることになります。
また、相続人は、基本生存しているので、除籍はされておらず、戸籍謄本はどこかで必ず入手することになるでしょう。
除籍謄本
除籍謄本とは、戸籍から誰もいなくなったことを証明する書面です。
被相続人が戸籍に乗っている最後の人であれば、除籍謄本を取る必要があります。
また、相続人が既に亡くなって、代襲相続人がいないか探す際にも、除籍謄本を手掛かりにすることがあります。
相続人を探す際には、除籍された戸籍も調べるので、ほぼ必ず必要になるでしょう。
改製原戸籍
戸籍法の改正により、戸籍の様式が変更されるため、戸籍法を改正したときに、従前の戸籍から新しい戸籍に書き換えることがあります。この書き換える前の戸籍を、改製原戸籍と言います。
改製原戸籍は、だいぶ古いものですので、被相続人が高齢の場合、必ず必要になるといえるでしょう。
相続人調査に必要な戸籍は1つだけではない
上記の通り、いろいろな種類の戸籍を入手する必要があります。そして、すべての相続人を調査するには、1つの戸籍を取れば解決するものではありません。以下では、どのような戸籍が、どれだけ必要かを解説します。
生まれてから死亡するまでの戸籍すべてが必要
基本的に、被相続人が、生まれてから、死亡するまでの戸籍が必要です。
まず、生まれた当初は、両親と同じ戸籍にいますが、結婚することで、その戸籍から除籍されています。そうすると、両親が誰か、存命なのか、兄弟姉妹はいるのかを知るために、生まれた後の戸籍が必要です。
また、結婚して、子どもが生まれていたとしても、その子どもが、結婚すると、同じように戸籍から離脱します。さらに、養子縁組を相続税対策でしているかもしれません。そのため、死亡するまでの戸籍も必要になります。
亡くなった人に子がいた場合
被相続人の子どもがいるとき、子どもの戸籍謄本を取っておきましょう。その子どもが既に亡くなっていたとしても、代襲相続が発生している場合があります。そのときは、さらにその子の子どもの戸籍もとる必要があります。これは、再代襲相続も生じている可能性があるからです。
そして、これらの戸籍は、生まれてから死亡までのものを用意すべきでしょう。なぜなら、前述のように、戸籍から離脱した人がいる可能性があるからです。
亡くなった人に子がいなかった場合
子どもがいなければ、配偶者と両親などの直系尊属が相続することになります。直系尊属がいなければ、兄弟姉妹に相続権が移ります。そして、兄弟姉妹に関しては、代襲相続も生じえます。そのため、直系尊属が死亡したことが分かる戸籍、直系尊属がすべて亡くなっているのであれば、兄弟姉妹が生まれてから死亡するまでの戸籍が必要になります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
抜け漏れなく戸籍を取得する方法
戸籍に抜けや漏れがあっては、相続人を見落としてしまいかねません。そこで、以下の方法によって、抜け漏れなく戸籍を収集しましょう。
- ①:死亡したときの戸籍謄本(除籍謄本)を取得する
- ②:①の戸籍の中から「1つ前の本籍地」が記載されている箇所を見つける
- ③:見つけ出した「1つ前の本籍地」の戸籍謄本を取得する
- ④:②と③を繰り返す
戸籍を取得出来たら記載内容を確認する
戸籍を取得したら、その内容を確認しましょう。戸籍が作成された原因や、日時は確認すべきです。なぜなら、改製により戸籍が作成されているときは、その前の記録が分からないからです。
また、戸籍が除籍された日と理由も見ておきましょう。場合によっては、その後にも別の戸籍が続いている可能性があります。
古い戸籍は確認が困難なことも
古い戸籍を見た人は分かると思いますが、信じられないほど達筆で、しかも、毛筆で書かれているため、何が書いてあるのかわからないことがあります。そのときは、無理にご自分で解読しようとせず、専門家に依頼するのも一つの手段です。
相続関係相関図を作成したら相続人調査完了
戸籍を集めて、解読したら、相続関係図を作ります。相続関係図は、家系図のようなもので、これで相続人の関係が判明し、誰が法定相続人なのかが一目で分かるようになります。いちいちわかりにくい戸籍を見直す必要がないので、作成することをお勧めします。
相続人調査をしっかり行うことで後々のトラブル回避にもつながります。弁護士へご相談下さい
相続人が多くなれば、戸籍の枚数も膨大になってきます。それを一つ一つ確認してく必要がありますが、万一漏れがあれば、前述のように、遺産分割が無駄になってしまいます。また、古い戸籍は読むのも一苦労です。やはり、相続人調査はご自分でなさるよりも、弁護士などの専門家に依頼されることをお勧めします。
相続が発生した場合、相続財産の中身が分からなければどのように手続きを進めていくべきかどうかを正確に判断することができず、結果として、予期せぬ不利益を被ってしまう可能性もあります。そのため、相続が発生した場合、被相続人の財産を調査し、被相続人の財産状況について正確に把握する必要があります。以下では、相続財産ごとの相続財産調査の方法を紹介し、相続財産調査の必要性について解説してきます。
相続財産調査の重要性
相続が発生した場合、相続財産の内容が分からなければ相続人間で遺産分割を進めることはできませんし、相続財産を把握していなければ、相続人が相続財産の受取りに必要な手続きを行うこともできません。
また、相続税の面からも相続財産の把握は必要となりますし、相続放棄の判断のためには、マイナスの財産の存在も把握が必要となってきます。そのため、被相続人が、生前に相続財産を自ら整理し、遺言書を残しているような場合を除き、被相続人の財産を把握するために、速やかな相続財産調査を行うことが必要となります。
相続財産にあたるもの
プラスの財産の種類
プラスの財産としては、以下のようなものが挙げられます。
- 現金・預貯金
- 不動産(土地、建物)
- 借地権・地上権
- 有価証券(株式、公社債、投資信託等)
- 自動車
- 宝石・貴金属
- 著作権・特許権・商標権
- ゴルフ会員権
マイナスの財産の種類
マイナスの財産としては、以下のようなものが挙げられます。
- 消費者金融から借り入れ
- 銀行から借り入れ
- リボ払いの残債務
- 住宅ローン
- 公租公課(税金等)の未払い
- 病院などの施設利用費の未払い
相続財産調査の流れ
相続財産の主な流れとしては、預貯金などのプラスの財産の調査を行い、同時並行で、消費者金融からの借り入れなどのマイナスの財産の調査を行っていきます。
調査を行うといっても、比較的簡単に調査が可能な相続財産もあれば、手続きが煩雑な相続財産もありますので、場合によっては、相続財産調査には相当な負担を要することもあります。相続財産調査が完了したら、調査結果を財産目録として整理し、相続財産の中身を一覧にしておくことになります。
財産調査に期限はある?
相続財産調査は、法律上、期限があるわけではありません。しかし、原則として、相続開始後、3か月以内に終わらせる方がよいといえます。
なぜならば、相続放棄をするかを判断する熟慮期間は、相続の開始を知った日(通常、被相続人の死亡の日)から3か月以内とされており、被相続人に多額の借金があるなど、相続放棄をするべきケースかを期限内に判断するためには、3か月という期限内に相続財産調査を終えておく必要があるからです。
預貯金の調査方法
預貯金の相続財産調査の基本となるのは、被相続人名義の通帳の確認です。被相続人名義の通帳の記帳を確認すれば、預貯金の残高は確認できますが、残高を明確に示すものとして、被相続人が亡くなった日付で残高証明書を発行してもらうことも有効です。また、生前贈与がなされていたかを確認したいなど、被相続人名義の財産の動きまで調査したいときには、取引証明書を取得することになります。
このように、被相続人がどこの銀行のどこの支店に口座を開設しているかが判明している場合には、通帳を確認したり、残高証明書を取得したりすれば、相続財産の調査が可能です。一方で、被相続人が、どこの銀行のどこの支店に口座を開設しているか判明していない場合には、金融機関に対して、全店照会という方法を用いることで、被相続人が対象とした金融機関に口座を開設しているかを確認することができます。
もっとも、全店照会は、金融機関ごとに行う必要があるので、実際には、すべての金融機関に全店照会をすることは現実的ではなく、被相続人が口座を開設している可能性の高い金融機関を対象とすることになります。
相続人に気付かれなかった口座はどうなるか
被相続人が、金融機関に預けている預貯金は、法律上、預貯金債権と位置付けられ、預貯金債権には消滅時効が定められており、預貯金債権が成立した時期によって、時効期間が異なる可能性がありますが(2020年4月1日に民放が改正されたため)、長くとも10年間とされています。
そのため、相続人が、被相続人の銀行口座を長期間放置してしまうと、消滅時効が完成してしまい、預貯金債権が消滅し、預貯金の引き出しができなくなってしまう恐れがあります。もっとも、実際には、金融機関側が、預貯金債権に関する消滅時効を主張することは多くはないようです。
万が一のためにも、預貯金の相続財産調査を漏れなく行うことが重要といえます。
不動産調査の方法
不動産の相続財産調査を行う上で重要なことは、不動産の地番や家屋番号を特定することです。
不動産の相続財産調査をするうえで参考になる資料としては、不動産を購入した際の契約書、登記をした際の登記済権利証、税金の支払いのために送付される固定資産税の納税通知書などが挙げられます。また、登記済権利証などを見つけることができたもの以外にも不動産を所有している可能性がある際には、役所に対して、名寄帳を発行してもらうことで、請求先の役所に被相続人が所有している不動産を確認することができます。
もっとも、名寄帳は、役所ごとに発行してもらうことになるので、複数の場所に不動産を取得している場合には、その都度、名寄帳の取得が必要となります。なお、名寄帳を取得する場合、固定資産評価証明書を一緒に取得しておくと、相続手続きがスムーズになるといえます。
株式の探し方
株式については、株券が保管されていれば、調査は比較的容易といえますが、現在は、電子化されているケースも多く、株式を発行している株式会社からの被相続人宛ての連絡内容(株式総会の通知、株主優待券の送付など)から、株式の有無を確認していくことが必要となります。
また、株式を取得する場合、証券口座を開設することも多いことから、証券口座を開設した金融機関から書面などから、株式の相続財産調査を進めることができる場合もあります。その他、株式、公社債、投資信託等の有価証券については、証券保管振替機構に問い合わせをすることで被相続人の証券口座の有無を確認することで、相続財産調査を進める場合もあります。
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借金の調査方法
相続財産調査は、プラスの財産のみならず、マイナスの財産についても行う必要があります。
マイナスの財産の調査方法としては、まず、被相続人の自宅から、金融機関や消費者金融の請求書面や督促書面、借入の契約書がないかを確認します。また、被相続人名義の通帳の履歴で定期的な引き落としがないかどうかも確認する必要があります。
被相続人が、借入に関する書類を破棄してしまっている可能性もありますので、信用情報機関(JICC、CIC、全銀協)に照会をかけることも重要です。信用情報機関は、消費者金融等から得た個人の信用情報を管理しており、返済状況や延滞情報を把握していることから、信用情報期間に照会をかけることで被相続人のマイナスの財産を調査することができます。
連帯保証人になっていないか調査する方法
法律上、相続が発生した場合、連帯保証人の地位は、相続人に引き継がれることになります。そのため、被相続人が、連帯保証人となって、マイナスの財産を負っていないかを確認する必要があります。
連帯保証に関する契約書が保管されていれば、被相続人の連帯保証の内容を確認することができますし、奨学金など信用情報機関に登録されている種類の債務については、信用情報機関への照会で連帯保証の有無を確認することができます。
しかし、連帯保証は、個人間で行われることも多く、地道に調べるほか方法がない点もあり、当然、相続財産調査にも限界があります。そのため、被相続人が連帯保証人になっている可能性がある場合には、相続人の地位を放棄する相続放棄や被相続人のプラスの財産の範囲でのみマイナスの財産を引き受ける限定承認といった手続きをしておくことが選択肢となります。
住宅ローンがある場合
住宅ローンの借り入れを行う場合には、ほとんどの方が団体信用生命保険に加入しています。団体信用生命保険に加入している場合、契約者が返済の途中で死亡したとしても、住宅ローンの残債務は保険金から支払われることになり、マイナスの財産が残ることはありません。そのため、被相続人の住宅ローンの借り入れを行っていた場合、団体信用生命保険の加入状況を確認することが重要です。
被相続人の自宅に団体生命信用保険について書類がない場合には、借入先の金融機関に問い合わせてみることで加入状況を確認できることがあります。
借金が多く、プラスの財産がない場合
相続財産を調査した結果、プラスの財産より、マイナスの財産の方が多いことが判明することも少なくありません。もっとも、相続人は、マイナスの財産も相続することになるため、マイナスの財産の方がプラスの財産よりも多い場合、被相続人の負債を背負うことになってしまいます。
このような事態を回避するためには、相続放棄の手続きを行い、相続人の地位を放棄することが必要です。相続放棄を行った場合、当該相続人は、相続開始時から相続人でなかったことになり、プラスの財産を受け取ることもできなくなりますが、マイナスの財産を引き受ける必要もなくなります。相続放棄には、相続開始を知った時から3か月という期間制限がありますので、相続財産調査は速やかに行う必要があります。
財産目録の作成について
相続財産調査が終わったときは、調査の結果を財産目録として形にすることになります。財産目録とは、被相続人の相続財産を一覧表にしたものであり、遺産分割協議で使用したり、相続税の申告の際に参照したりします。
財産目録の作成方法について、特定の決まりがあるわけではないですが、相続財産の所在を明確にし、相続財産の数量が一目でわかるようにすることが重要といえます。例えば、預貯金については、単に残高を記載するだけではなく、金融機関名、支店名、口座番号、種別なども一緒に記載します。不動産についても、土地と建物と記載するだけでなく、登記簿謄本の記載に従い、地番や家屋番号なども記載します。また、預貯金であれば、残高を記載すればよいので、金額は明確となりますが、金額の評価が必要な財産(不動産、美術品、貴金属など)については、いつの時点を評価の基準とするかを検討する必要もあります。
相続財産調査は弁護士へお任せください
相続財産調査は、生前の被相続人が、相続人のためにきちんと準備をしておいてくれたような場合には、ご自身で対応することも難しくないケースもあります。しかし、多くの場合、被相続人の財産について十分整理されていないまま、相続が開始されることになり、相続人が手間をかけて相続財産調査をしなければなりません。特に、被相続人にマイナスの財産がある場合には、相続放棄との関係で、迅速かつ正確な相続財産調査を行う必要があります。
相続財産調査を弁護士に依頼した場合、自身の手間を省いたうえで、弁護士によるスムーズな調査によって、預貯金などのプラスの財産、消費者金融からの借り入れなどのマイナスの財産のいずれについても、正確に把握し、弁護士が作成した財産目録によって、財産の状況を一目で確認することができるようになります。相続手続きにお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
たとえ離婚して子供と離れて暮らすことになったとしても、親である事実が変わることはありません。子供と一緒に暮らしていない親は、子供が健やかに暮らせるように養育費を支払う義務があります。
そこで今回は、養育費について、どのように取り決めるべきか、いったん取り決めた内容を変更することはできるのか等、養育費を請求する方と支払う方のどちらにも役立つ情報をお伝えします。
養育費とは
養育費とは、子供と離れて暮らしている親が支払わなければならない、子供が経済的・社会的に自立するまでの子育てに必要な費用のことです。
なぜ子供と離れて暮らしている親が養育費を支払わなければいけないのかというと、養育費は親の扶養義務が根拠とされているところ、父母である両親が離婚しても親子関係はなくならないからです。親子関係がなくならない以上、子供を養わなければならないという親の責任(扶養義務)もなくなりません。
また、誤解されがちですが、養育費の請求権は、子供を実際に育てる親の権利ではなく子供の権利とされています。
養育費に含まれるもの
養育費は、子供が自立するまでの子育てに必要な費用ですから、一般的に、衣食住にかかる費用や教育費、医療費等が含まれると考えられています。また、習い事の費用、小遣い、学費等も含まれるでしょう。
とはいえ、何が養育費に含まれて何が含まれないのかを区別する、はっきりとした基準があるわけではないので、実際にはそれぞれの親子の生活環境や水準、収入等を考慮して判断することになると考えられます。
養育費の相場は?養育費算定表による支払額の決め方
話し合いで養育費を決める際には、家庭裁判所が養育費を決めるときに参考にしている「養育費算定表」がひとつの資料とされる場合が多いです。つまり、養育費算定表から計算される金額が養育費の相場に近いといえるでしょう。
もっとも、「養育費算定表」は、子供の状況や父母の収入等から考えて、子育てに必要だと思われる最低限の金額に基づいて作られたものです。子供の学校でいえば、より費用のかかる私立校ではなく、公立校への進学を前提として養育費を計算しているということです。しかし、子供と暮らしていない親は、自分と同じレベルの生活を子供も送れるようにする義務(生活保持義務)があるので、その親の生活レベルや学歴(大卒かどうか等)によっては、養育費算定表から計算した金額を増減してバランスを取ることもあります。
後々のトラブルを防ぐためにも、算定表の金額は参考するだけに留めて、夫婦でしっかりと話し合って決めることが大切でしょう。
養育費の支払期間はいつからいつまで?
養育費の支払期間を決めている法律はないので、夫婦の話し合いで決めることができます。基本的には、請求を始めた時から成人となる20歳まで(2023年4月以降は18歳まで)とすることが多いようです。家庭裁判所が養育費について決める場合も同様です。
もっとも、そもそも養育費は子供が経済的・社会的に自立するまでにかかる子育ての費用ですから、親からの扶養が必要な状態だと判断されている間は支払う義務があると考えられます。
例えば、下記のようなケースでは、たとえ成人していても、養育費を支払う義務があると考えられるでしょう。
① 子供が病気や障害のために働くことができないケース
② 大学等に通っており経済的な生活力がないケース
逆に、下記のようなケースでは、養育費を支払う義務まではないと判断される可能性があります。
③ 高校卒業後進学せずに就職した等、たとえ未成年であっても経済的に十分に自立して生活できているケース
養育費の請求・支払いに時効はある?
養育費の請求権は、不払いが発生してから長期間、請求等をしなければ時効にかかります。
養育費の取り決め・変更の流れ
養育費は、次のような流れで取り決めることになります。また、養育費の金額や条件を変更したい場合も、基本的には同じ流れで進めていきます。次項以下をご覧ください。
まずは話し合いを試みる
まずは夫婦で話し合い、双方が納得できる内容で取り決めましょう。このとき、金額だけでなく、支払時期やその方法、支払いを続ける期間等、細かい条件まで念入りに取り決めておくことが重要です。
話し合いを拒否された場合、通知書(内容証明郵便)を送る
内容証明郵便は、日本郵便が提供する、送付した書面の内容を5年間証明してもらえるサービスです。いつ、誰が誰に対して、どのような内容の文章を送ったのかという証拠になりますし、受取人にこちらの本気度を示して行動を促す効果もあるので、慰謝料や養育費等の請求をはじめとした法的な手続でよく利用されます。
養育費に関する話し合いを拒否されたり無視されたりしてしまったら、この内容証明郵便のサービスを利用して、養育費について話し合いたいことを伝える通知書を送りましょう。このとき、返事を要求する等、相手に何かしらの反応を促す内容にしておくことが重要です。
話し合いで決まらなかったら調停へ
内容証明を送っても相手が話し合いに応じない、または話し合いはできたものの合意できなかった場合には、管轄の家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てて、調停委員を介した話し合いをすることになります。
調停では、養育費がいくらかかりそうか、または現在どのくらいかかっているのか、父母の収入はどのくらいあるのかといった一切の事情を、調停委員が父母それぞれから聞き取ります。そして双方の事情をよく把握してから、落としどころの提案や合意に至るためにアドバイスを行い、話し合いを進めていきながら合意を目指します。
調停でも合意できず不調になった場合には、審判手続に移行します。審判では、裁判官が一切の事情を考慮したうえで養育費について取り決めます。
養育費に関する合意書は公正証書で残しておく
後々トラブルにならないように、合意した内容を書面で残しておくことをおすすめします。このとき、法的に拘束力のない離婚協議書に養育費に関する合意内容をまとめるのではなく、公正証書にまとめると良いでしょう。
公証役場へ出向く手間はありますが、公正証書に「養育費の支払いが滞った場合は強制執行されても構わない」という強制執行認諾文言を明記しておけば、万が一養育費が支払われなくなった際に、強制執行(差押え)をすることができるようになります。
養育費を請求する方(権利者)
ここまで、養育費の取り決めの方法や条件を変更する方法について説明してきました。そこで、次項からは、養育費を請求する方(以下、「権利者」とします)が悩まれることが多い問題について解説していきたいと思います。
公正証書もあるのに、相手が養育費を払わない・払ってくれなくなった
強制執行認諾文言が明記された公正証書があるケースや、調停調書・審判書等の書面で養育費の支払いについて取り決められているケースでは、強制執行により、養育費の義務者の財産を差し押さえて強制的に支払わせることができます。
ただし、地方裁判所に強制執行の申立てをするためには、差し押さえをする相手の「勤務先・口座情報(金融機関名・支店・口座番号)・現住所」が特定する必要があります。
こうした情報を特定できず、強制執行ができない方は、弁護士にご相談ください。弁護士は、弁護士照会という制度を利用してこれらの情報を調査することができますし、特定作業だけでなく、強制執行を申し立てる手続もお任せいただけます。
一括で請求はできる?
養育費は、毎月・定額を支払うように取り決めるのが一般的ですが、支払われなくなるリスクがあるため、一括して請求したいと思う方もいらっしゃるでしょう。この点、父母双方が同意すれば、一括して支払ってもらうことができます。
また、養育費を一括で受け取った場合でも、子供が大怪我をしたり難病を患ったりする等、あらかじめ想定することが難しい事情が発生して、特別な費用が必要になったときには、追加で請求することができます。ただし、追加分をすんなりと支払ってもらうことは難しく、養育費請求調停を申し立てるといった手段をとらざるを得ないのが現実です。
さらに、養育費を一括して受け取る場合には、養育費として通常必要と認められる金額(非課税とされる金額)を上回ることになるため、贈与税が課税されてしまうおそれがあるので注意しましょう。
きちんと払ってもらえるか不安なので連帯保証人をつけたい
前提として、養育費の支払義務は親であるからこそ負うものである以上、他の誰かが肩代わりすることはできません。ですから、公証役場や家庭裁判所は、養育費に連帯保証人をつけることに否定的です。しかし、禁止されているわけではないので、連帯保証人となる方の同意があれば、連帯保証人をつけられます。
養育費に連帯保証人をつけるときは、公正証書等の書面に「連帯保証契約を結ぶこと」「養育費(債務)の支払条件」「連帯保証の極度額(限度額)」等を明記して契約することになります。
金額を決めた当初と事情が変わったので増額してもらいたい
養育費の支払義務者の同意が得られれば、養育費を増額することは可能です。
また、調停等で金額の調整をする場合でも、下記のように、これまで受け取っていた金額のままでは子供を十分に育てることができないと認められる特別な事情や支払義務者の生活レベルが上がるような事情があれば、養育費の増額が認められるでしょう。
① 養育費の権利者が休職・失業するなどして経済状況が悪化した
② 子供が怪我や大病を患って高額な治療費が必要になったといった
③ 養育費の支払義務者の年収が増えた
養育費を減額してほしいと言われた
子供が成長していくなか、生活環境や状況が大きく変わり、取り決めた養育費の条件が適切でなくなることも考えられます。そこで、養育費の支払義務者から減額を相談されたら、無視することなくきちんと向き合う必要があります。話し合いが平行線を辿るようなら、調停を申し立てて裁判所に判断を委ねるべきでしょう。
一般的に、下記のような事情がある場合には、養育費が減額される可能性が高いです。
養育費の支払義務者が、
① 減収した
② 休職・失業した
③ 怪我や病気で大きな出費があった
④ 再婚して扶養しなければならない人数が増えた
また、逆に養育費の権利者が、
⑤ 養育費の権利者の収入が増えた
⑥ 再婚相手と子供を養子縁組させた
妊娠中の離婚でも養育費を受け取れる?
たとえ妊娠中に離婚した場合でも、生まれた子供と元夫との間に法律上の父子関係があれば養育費を支払ってもらうことができます。
平均的な妊娠期間を考えると、妊娠中に離婚した場合、多くの方が離婚してから300日以内に出産されるでしょう。このように父母が離婚してから300日以内に生まれた子供は、元夫の嫡出子であると推定されるため、法律上の父子関係が認められます。したがって、養育費をもらうことができます。
他方、離婚後300日を過ぎてから子供が生まれた場合や、そもそも父母が結婚していなかった場合には、父親と子供に法律上の父子関係が自動的に成立することはありません。しかし、元夫に子供を認知してもらえれば、法律上の父子関係が成立するので、養育費をもらうことができるようになります。
なお、父親が認知に応じてくれない場合には、審判認知や強制認知等、裁判所の手続を利用することになります。
養育費を受け取りながら生活保護を受けることはできる?
たとえ養育費を受け取っていても、養育費と母子手当やアルバイト・パート代等の収入を合わせた金額では十分に生活できないと認められる場合には、生活保護を受けることができます。
ただし、毎月もらう養育費は「収入」と認定されるため、支給される生活保護費からこの金額分が差し引かれます(ただし、地域・子供の年齢からみて一般的に必要とされる学習費等の金額は、収入から除外されます)。なお、養育費をもらっていることを申告せずに生活保護を受けた場合には、不正受給と判断されて受給額の返還を求められてしまうおそれがあります。必ず申告するようにしましょう。
養育費はいらないので子供を会わせたくない
子供と、離れて暮らす養育費の義務者が交流する「面会交流」は、養育費を支払った見返りとして義務者に許されているわけではありません。そもそもの前提として、面会交流は子供が親の愛情を感じて健やかに成長するために設けられた制度であって、面会交流をする権利は、養育費の義務者と子供の両方にあります。また、そもそも養育費は子供の権利であり、親は代わりに受け取っているだけにすぎません。
したがって、子供の本心も確認せず、勝手に「養育費を受け取らない代わりに面会交流を認めない」と拒否することは認められません。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費を払う方(義務者)
続いて、養育費を払う方(以下、「義務者」とします)に多いお悩みについても解説していきたいと思います。養育費の義務者の方でお悩みのある方は、ぜひ次項以下をご覧いただき、問題の解決にお役立ていただければ幸いです。
増額請求をされたが、応じなければならない?
必ずしも応じなければならないわけではありません。一度決めた養育費の金額は、当事者が合意するか、または審判で裁判所が変更の必要性を認めなければ増減されません。
増額に応じたくない場合は、養育費の権利者からの請求を無視せずしっかりと話し合いに応じて、調停や審判に発展するのを防ぐことが大切です。
自分の生活が大変なので減額したい
養育費の義務者の経済的な余裕がなくなり生活レベルが低下したような場合や、養育費の権利者の収入が上がったり再婚して経済的に余裕が出たりしたような場合には、減額される可能性があります。
下記のようなケースでは、養育費の義務者の生活レベルが低下したと判断される見込みがあります。
養育費の義務者が、
①減収した
②休業した
③失業した
④怪我等の突発的な事情で大幅な出費をした
⑤再婚や再婚相手との子供の誕生等により扶養しなければならない者の人数が増えた
養育費を払わず(払えず)にいたら強制執行をされた
養育費は、親が子供に対する責任を果たすために支払うものですから、子供を思うのであればきちんと支払うべきです。もっとも、経済的な事情等から支払うことが困難な場合もあるでしょう。
そのような場合は、養育費の権利者である相手方に対して、自身の現状や経済状況等をしっかりと説明し、支払うことができない事情を十分に理解してもらい、強制執行を取り下げてもらうよう働きかけましょう。
また、家庭裁判所に養育費調停を申し立て、養育費を減額または免除してもらうという方法もあります。ただし、養育費を減免するべき正当な事情があることを裁判所に証明できなければ、減額・免除は認められません。
離婚した相手が生活保護を受けているので、養育費を減額してほしい
生活保護を受けるにあたって、養育費は「収入」と認定され、その金額の分生活保護費が控除されます。つまり、養育費に上乗せして生活保護費を受け取ることができるわけではありません。
そのため、生活保護を受けている養育費の権利者が、養育費を受け取っていることをきちんと申告している場合には、「生活保護を受けている」という理由だけで養育費の減額を認めてもらうことは難しいでしょう。
養育費は扶養控除できる?
養育費を毎月支払っているのであれば、扶養控除を受けられる可能性があります。ただし、1人の扶養親族を2人以上の納税者の扶養控除の対象とすることはできないので、元夫または元妻やその再婚相手が子供を被扶養者としている場合には、子供を対象とした扶養控除を受けられません。
自己破産したら養育費を支払わなくてもいいですか?
養育費は、自己破産をしても支払いが免除されない「非免責債権」です。そのため、自己破産をしたとしても、養育費は支払い続ける必要があります。
もっとも、失業して無収入になってしまっている等、養育費の支払いすら困難な場合には、養育費の減額が認められることもあるため、相手方との話し合いや調停の申し立てを検討してみても良いでしょう。
養育費について困ったことがあったら、弁護士への相談がおすすめ
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まずはお気軽にお電話で事情をお聴かせください。専門の受付スタッフが対応させていただきます。
離婚時、夫婦は基本的に共有財産を半分に分け合って財産分与を行いますが、車はその対象に含まれるのでしょうか?もし対象になるとしても、実際に車を半分に切って分けることはできません。そこで、財産分与の方法が問題になります。
このページでは、車を財産分与する方法に加えて、どういった車が財産分与の対象になるのか、実際に財産分与をしたらどのようなことに気をつけるべきなのかといった点についてご説明します。
車を財産分与する方法
物理的には分けられない車を財産分与する主な方法は、以下の2つのものがあります。
① 売却してその代金を分ける方法
② 夫婦の一方がもう一方に代償金を支払って車に乗り続ける方法
それぞれの方法について解説していきます。
売却する
車を売却して現金化し、代金を半分ずつ分ける方法です。公平に財産を分けることができるので、次項で説明する車を処分しない方法と比べて、トラブルが起きるリスクが小さいと考えられます。
ただし、ローンが残っている場合には、夫婦ではなくローン会社やカーディーラー等が車の所有者になっているケースが多いので注意が必要です。この場合、売却するには、ローン会社等に連絡をして、いわゆる「所有権解除」の手続をしなければなりません。また、たとえ所有者が夫婦のどちらかであるケースでも、ローンが残っている以上勝手に売却できないので、事前にローン会社等に相談する必要があります。
車の評価額の半分を支払い、片方が乗り続ける
夫婦の一方が車をもらう代わりに、車の評価額の半分を代償金としてもう一方に支払う方法です。ただし、車の評価額の計算方法等で夫婦の意見が対立し、トラブルに発展するリスクがあるので注意が必要です。
代償金は、必ずしも現金で支払う必要はありません。例えば宝石や美術品、株式、有価証券といった現金以外の財産であっても、代償金の支払いに充てることができます。
具体例で考えてみましょう。夫が評価額500万円の車をもらう場合、現金150万円と合わせて80万円相当の宝石と20万円相当の株式(合計250万円)を妻に渡せば、公平に車を財産分与したことになります。
車の評価額は何を参考にすればいい?
車の評価額は、時価からローン残額を差し引いて計算します。では、車の時価はどのように算定するのかというと、以下のどちらかを参考にして決められます。
・オートガイド自動車価格月報(レッドブック)に掲載されている中古販売価格
所有している車の車種、年式、型式、メーカー名、走行距離等を調べて、レッドブックに掲載されている同じグレードの車の中古販売価格と照らし合わせて時価を決めます。
・中古車買取業者の査定価格
中古車買取業者の見積もりサービスを利用したり、インターネットのサイト上に掲載されている中古車の取引価格の平均値を参考にしたりする等して、時価を決めます。
財産分与の対象にならない車もある
共有財産に当たらない場合、夫婦が所有する車だとしても財産分与の対象には含まれません。なぜなら、財産分与は、結婚生活の間に夫婦が協力して集めた共有財産を分けるものだからです。
例えば、次のような車は特有財産なので、財産分与の対象には含められないでしょう。
- 結婚する前から夫または妻が所有していた車
- 夫または妻が親族から相続した車
- 一方の親が購入資金のすべてを出した車
- 別居生活中に購入した車
さらに、共有財産に当たる場合でも、次のような車は対象に含まれません。
- 購入してからかなり時間が経っていて査定額がつかない車
- ローンの残額が車の時価を上回っていて財産的な価値がないと判断された車
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
財産分与の対象になるのはどんな車?
夫婦の共有財産に当たる車は、財産分与の対象となります。
例を挙げると、婚姻中にそれぞれが稼いだお金(共有財産)を購入資金に充てた車は、夫婦の協力で作り上げた財産だといえるので、財産分与の対象に含まれます。さらに、購入したのは別居後だとしても、夫婦の共有財産を購入資金に充てた車も財産分与の対象に含めることができます。
共有財産であれば名義は関係ない
たとえ名義が夫または妻のどちらかのものでも、共有財産に当たれば財産分与の対象になります。
例えば、結婚生活中に貯めた預貯金で購入した車の名義を夫単独にしていた場合でも、妻が自身の収入や家事労働等で家計を支えていたときには、実質的に夫婦の協力で築いた財産に当たるので、財産分与することができます。
特有財産であっても、車の維持費の出どころ次第では財産分与の対象に
結婚する前から持っていた車や親から相続した車等、元々は特有財産だったものでも、その後の取り扱いによっては共有財産となる場合があります。
例えば、車検代やメンテナンス費用等の維持費を共有財産から支払っていた車は、夫婦の協力により価値が維持されたり高められたりしたと考えられるため、共有財産になり、財産分与の対象とされることがあります。
財産分与で車をもらったら、名義変更は必ずやりましょう
財産分与で車をもらった後に絶対に確認しなければならないのは、「車の名義人が誰なのか」です。ご自身が名義人となっていれば問題ありませんが、元パートナーが名義人である場合には、必ず名義変更手続を行わなければなりません。
名義変更をしないままだと、任意保険に加入することができませんし、納税通知書が届かないので自動車税を納付しそびれてしまうリスクがあります。期日までに自動車税を納付できなければ、遅延金を支払わなければならなくなりますし、差し押さえを受けるおそれもあります。なにより、車検を受けられないので、車に乗ることができなくなってしまいます。
普通自動車を名義変更する場合
普通自動車の名義変更は、譲渡証明書等の必要書類を準備した後、管轄の運輸支局で申請します。運輸支局の窓口では、自動車税・自動車取得税申告書といった書類を作成し、持参した必要書類と併せて提出します。このとき、登録手数料として、500円分の印紙を手数料納付書に張り付け、窓口に提出するのを忘れないようにしましょう。
申請が受理されると車検証が交付されます。この新しい車検証を受け取ることで、名義変更の手続は終了します。
軽自動車の場合
軽自動車の名義変更は、普通自動車の手続とほぼ同様の流れで行います。ただし、軽自動車の場合の申請先は、管轄の軽自動車協会の事務所・支所となります。
軽自動車検査協会へ出向いたら、自動車検査証記入申請書や軽自動車税申告書等を作成し、持参した必要書類と一緒に窓口へ提出します。申請が通れば新しい車検証が交付され、名義変更が完了します。
自動車保険の名義変更は?
自動車保険のひとつである自賠責保険は、車自体にかけられる保険なので、車検期間中はずっと補償を受けられます。しかし、万が一事故に遭った際に手続に問題が起こらないようにするためにも、車を名義変更するタイミングで自賠責保険も名義変更しましょう。
また、任意保険については、新規に加入するか車両入替手続をとる必要がありますが、そのためには新しい車検証に記載された情報が必要です。そこで、車の名義変更をしたらすぐに任意保険の手続を行うことになります。
なお、財産分与で車をもらった場合は、名義変更をすることで任意保険の等級を引き継ぐこともできます。引き継ぐかどうかは選択できるので、等級を引き継がない場合の保険料と比べて検討してみることをおすすめします。
車の財産分与で分からないことがあったらご相談ください
財産分与の対象となる財産のなかでも、車は特に評価額が争われることが多いといわれています。なぜなら、評価額を算定する明確な基準がないため、査定をする業者によって金額が変わってしまうのが普通だからです。車は安い財産ではありませんし、評価額によっては財産分与の問題が激化してしまい、円滑に財産分与することができなくなるおそれがあります。
そこで、交渉のプロである弁護士への依頼をご検討ください。弁護士に交渉を任せれば、専門知識に基づいてご依頼者様の意見を論理的に主張・立証してくれるので、ご依頼者様に有利な条件の財産分与が認められる可能性が高まります。ほかにも煩雑な離婚関連の手続を任せることができるので、ぜひ弁護士にご依頼ください。
近年、同居期間が25年を超える夫婦が離婚する件数が増えています。このように長い時間をパートナーとして過ごした夫婦が離婚することを、“熟年離婚”といいます。夫が定年退職を迎えるタイミング、子供が就職や結婚をして独立するタイミング等、人生の節目をきっかけに妻が離婚を切り出し、熟年離婚をすることになるケースが多いようです。
なぜ、長年連れ添った配偶者との別れを選ぶのでしょうか?熟年離婚の原因や、実際に熟年離婚をする際に気をつけるべき点等を中心に解説していきます。
熟年離婚の原因
夫婦仲を悪化させる要因には様々なものがあります。そこで、何がきっかけで長年のパートナーに愛想を尽かせてしまうのか、熟年離婚の原因として特に考えられる要因を以下に挙げてみました。
相手の顔を見ることがストレス
定年退職を迎え、夫婦で過ごす時間が増えると、それまで気にならなかったお互いの嫌な部分が目につくようになることがあります。そして、相手の顔を見ることがだんだんとストレスになっていき、結婚生活を続けることが困難になってしまうケースがあります。
また、それまで表面上は喧嘩もせずに夫婦生活を続けてきた場合でも、どちらかが強く我慢していたために生活が成り立っていたということもあります。しかし、配偶者の定年退職等で一緒にいる時間が増えた結果、我慢の限界に達してしまい、熟年離婚を決めるケースもあります。
価値観の違い、性格の不一致
“価値観の違い”や“性格の不一致”は、熟年離婚以外の離婚でもよく挙げられる要因です。結婚当初から「金銭感覚が違う」「趣味に対する理解がない」「なんとなく性格が合わない」といった不満を抱えながら一緒に生活していたものの、配偶者の定年退職や子供の独立等で一緒に過ごす時間が増えたことでついに限界を迎えてしまい、「これ以上相手に合わせるのは嫌だ」と離婚を切り出す方も少なくありません。
また、離婚に対する世間のイメージが変わり、ハードルが低くなってきたことも影響して、結婚当初から価値観の違い等の不満を抱えていた方が離婚に踏み切るケースも増えているようです。
夫婦の会話がない
仲の良い夫婦でいるために、必ずしも会話を弾ませる必要はないのかもしれません。ほとんど会話がなくとも、お互いにその空気を心地よく思っているのであれば問題ないでしょう。しかし、どちらかが会話がないことに孤独を感じていたり、不満に思っていたりする場合には、夫婦生活を続けていくことに耐えきれなくなり熟年離婚を決意するケースがあります。
子供の自立
“仮面夫婦”という言葉もあるとおり、夫婦間の愛情はないものの、表面上は共同生活を続けている夫婦もいます。これは、子供が幼い、または自立していない等、まだ両親を必要とする年齢であるため、表面上だけでも夫婦生活を続ける必要があると考えているからであることが多いです。このようなケースでは、お互いに「子供が独立したら離婚する」と気持ちを固めているため、条件面等について大きく揉めることもなく、冷静に離婚の手続が進められることが多いようです。
借金、浪費癖
配偶者に借金や浪費癖がある等、お金の管理に問題がある場合にも、熟年離婚に至ることがあります。
こうした問題が一向に改善せず、長年続いてしまうと、家計は非常に苦しくなってしまいます。そのため、夫婦生活を続けていくことを困難だと感じて熟年離婚を決意する方もいらっしゃいます。
介護問題
熟年離婚をする夫婦の年代では、両親の介護問題が出てくるケースが多いです。ご自身の親の介護ですら大変なのに、配偶者の親の介護まで任されてしまっては、その苦労はより大きなものとなるでしょう。特にこの年代では、「義両親の介護は妻の仕事」という考えを強く持っている人も少なくなく、妻一人に負担が集中してしまっているケースが多くみられます。その結果、介護の疲れが限界を超えてしまい、熟年離婚を切り出す女性が多いのです。
熟年離婚に必要な準備
熟年離婚では、離婚後の生活設計をきちんとしておくことが特に重要です。なぜなら、熟年離婚をした場合、夫も妻も経済的に不安定な状況に陥ってしまうケースが多いからです。
こうした事態を防ぐためにも、熟年離婚をするときには、離婚後の老後資金をどのように確保するかをしっかり検討し、入念に準備しておく必要があります。
就職活動を行う
特に熟年離婚世代の女性の場合、結婚や出産・子育てをきっかけに仕事から離れてしまっていることが多く、収入がなかったり、あったとしてもパート代やアルバイト代程度で離婚後の生活資金には足りなかったりするケースが多いです。そこで、年金を受け取ることができるようになるまでの間の生活費をまかなう必要があります。離婚後、生活に困らないためにも、できればあらかじめ就職先を見つけておけると良いでしょう。
しかし、しっかりとした職歴がない場合、十分な収入を得られるだけの新たな就職先を見つけるのは難しいという現実があります。このような場合には、離婚条件として財産を多くもらえるように働きかける等、対応を考えなければなりません。
味方を作る
あらかじめ味方を作っておくことも大切です。
熟年離婚をした後、「強い孤独感」を感じる方が多くいらっしゃいます。そこで、離婚する前から子供や親戚、友人や知人と交流する機会を増やしておき、熟年離婚をした後の自分の居場所を作っておきましょう。
また、周囲の方と良好な関係を築いていれば、困ったときに相談したり頼ったりすることができるので、気持ちの面でも健康面でも安心することができます。
住居を確保する
熟年離婚をするにあたっては、離婚後の住居の算段をつけておきましょう。
まず、結婚中に家を購入した等、夫婦の共有財産として家がある場合には、財産分与で家を受け取って離婚後も住み続けることができます。ただし、ローンが残っている場合等には話が複雑になります。
また、
①実家で暮らす
②独立している子供と同居する
③賃貸物件を借りる
といった選択肢もあります。もっとも、賃貸物件を借りようとしても、就職先が決まっていない、預貯金額が少ない、高齢すぎるといった場合には、入居審査に通らないおそれが大きいです。こうした場合には、家賃補助を受けられる高齢者向けの優良賃貸住宅等を探すことになるでしょう。
財産分与について調べる
夫婦の共有財産は、離婚する際に、財産分与として2分の1ずつ分け合うのが原則です。ただし、離婚後に夫婦の一方(現実的には妻であることが多いです)が生活できるだけの収入を得られる見込みがなく、財産分与でもらえる財産も十分ではない場合には、“扶養的財産分与”が行われることがあります。“扶養的財産分与”とは、元配偶者が、生活に困窮してしまう他方の配偶者のために一定期間定額を支払う、財産分与の種類のひとつです。
熟年離婚の場合には、扶養的財産を行うことがよくみられます。収入に不安のある方は、離婚するにあたってこうした条件をつけることも検討してみてください。
専業主婦(専業主夫)の場合は年金分割制度について調べておく
熟年離婚をする夫婦では、妻が専業主婦である等、第3号被保険者に当たるケースが多いです。このようなケースでは、“3号分割”という年金分割の方法をとることができます。
年金分割とは、結婚生活中に夫婦が納めた厚生年金の記録を、多い方から少ない方へ分け与える制度です。3号分割を利用すれば、相手の同意を得ずに2分の1の割合で年金分割を受けることができます。
年金分割を利用できれば年金の受給額が増えるので、生活費に充てることができます。ご自身のケースでは利用できるのかどうか、ぜひ年金事務所にてお調べください。
退職金について把握しておく
熟年離婚の場合、定年退職を迎えるまでの期間がわずかであるケースも多いので、退職金が支払われる可能性が高いときは、一般的に退職金も財産分与の対象にします。
退職金は基本的に高額である場合が多いので、財産分与の対象になるかどうかは非常なポイントとなります。そこで、定年退職時に退職金が支払われる可能性の有無、予想される金額等を把握しておき、財産分与の対象になるのかどうか、検討をつけておくことをおすすめします。
熟年離婚の手続
熟年離婚の手続と通常の離婚手続に違いはありません。まず、夫婦で話し合い、双方の合意のうえで離婚することを目指します(協議離婚)。話し合いが難しい、または夫婦だけでの話し合いでは合意に至らない場合には、家庭裁判所に調停を申し立て、調停で離婚条件等の調整を図ります(離婚調停)。それでも合意に至らず、調停が不調に終わった場合には、離婚の成否やその条件についての判断を裁判所に委ねるという選択肢があります(離婚裁判)。
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熟年離婚で慰謝料はもらえるのか
熟年離婚の場合も通常の離婚の場合と同様、離婚することになった原因が一方の配偶者にあるときには、もう一方の配偶者は、精神的苦痛を強いられたとして慰謝料を請求することができます。例えば、夫婦間にDVやモラハラ、セックスレスの事実がある場合や一方の配偶者が不貞行為をしていた場合、正当な理由がないのに勝手に別居していたり生活費を入れなかったりした場合には、慰謝料の支払義務が認められる可能性があります。
なお、慰謝料の金額は、配偶者のした行為の内容や程度、子供の有無や年齢、婚姻期間等によって異なってきますが、熟年離婚のように婚姻期間が長い場合には高額になる傾向があります。
退職金は必ず財産分与できるわけではない
退職金が財産分与の対象になれば、離婚時にもらえる、あるいは渡す財産の金額が跳ね上がるため、夫・妻のどちらにとっても気になる事柄のひとつではないでしょうか。
この点、退職金には“給与の後払い”という性質があるので、夫婦が協力して作り上げた財産として、財産分与の対象となる可能性があります。もっとも、たとえ財産分与の対象に含まれる場合でも、婚姻期間に相当する退職金として支払われる分以外は財産分与の対象にはなりません。なぜなら、婚姻期間に相当する分以外は、夫婦が協力して作り上げた財産とはいえないからです。
退職金が既に支払われている場合
財産分与の時点でもう退職金が支払われている場合、退職金のうち、婚姻期間に相当する分は、財産分与することができます。なお、婚姻期間に相当する退職金の額は、退職金の支給にかかる勤務年数と実質的な婚姻期間を考慮して決定します。
ただし、離婚時に退職金が残っていなければ財産分与できないため、注意しましょう。もっとも、退職金が残っていない原因が一方の浪費であるようなケースでは、他の財産を分与する際に考慮してもらえる可能性があるでしょう。
退職金がまだ支払われていない場合
退職金がまだ支払われていない場合には、「支給されることがほぼ確実である」といえなければ、退職金を財産分与の対象とすることはできません。
支給が確実であるかどうかは、下記のような事情を踏まえて判断されます。
①就業規則等に退職金に関する定めがあるか
②退職金の計算方法が明示されているか
③会社の規模
④定年退職までの期間
⑤これまでの勤務状況・成績
なお、配偶者が定年間近であるケースや、勤務先が倒産するおそれが小さい公務員であるケース等では、退職金が支給される確実性が高いと判断される傾向にあります。
熟年離婚したいと思ったら弁護士にご相談ください
ずっと円満な夫婦生活を送れるのが何よりですが、結婚生活が長くなれば、お互いの良い面も悪い面もよく見えるようになるかと思います。そして、 “離婚”という選択肢をとるしかなくなるほど追い詰められてしまう方もいらっしゃるでしょう。しかし、何も準備しないままに熟年離婚をしてしまうと、夫側も妻側もいろいろな面で苦しい状況に置かれてしまうおそれがあります。離婚後の生活について、あらかじめしっかりと準備してから離婚を切り出すことが重要です。
何を、どのように準備すれば良いのか、疑問やご不安のある方は、弁護士へ相談されることをおすすめします。ご相談者様の状況に応じたアドバイスをさせていただきますので、後悔のない離婚を迎えるためにも、熟年離婚を検討している方はぜひ弁護士にご相談ください。
“離婚”について解説するサイトや書籍等を見ていると、「有責配偶者」という言葉を目にすることがあるかと思います。有責配偶者とは、いったいどのような配偶者を指しているのでしょうか?夫婦のどちらか(または両方)が有責配偶者の場合には、そもそも離婚請求はできるか、慰謝料請求は認められるかといった問題が出てくるので、有責配偶者について知ることはとても大切です。
今回は、有責配偶者が何を指すのかを説明したうえで、有責配偶者との離婚を考えるうえで役立つ情報をお伝えします。
有責配偶者とは
「有責配偶者」とは、夫婦関係が壊れる原因を作った配偶者のことです。つまり、離婚の原因を作り出した夫または妻が有責配偶者となります。
とはいえ、離婚の原因にはさまざまなものがあるので、実際にどのような行為をすると有責配偶者にあたるのかが気になるところだと思います。この点、民法で定められた離婚原因に該当する行為をすると、有責配偶者だと判断される傾向にあります。
有責配偶者となるケース
民法770条で定める離婚原因(法定離婚事由)の内、1号、2号、3号、5号に該当する行為をした場合、有責配偶者になります。以下、具体的な有責配偶者の例を挙げてみました。
- 不貞行為をした配偶者
いわゆる浮気や不倫をした配偶者です - 悪意の遺棄をした配偶者
正当な理由がないのに、勝手に別居したり、生活費を入れなかったりする等、結婚生活を送るうえで必要な協力をしない場合、悪意の遺棄をしたと判断されます - 3年以上生死がわからない配偶者
生きているか死んでいるかもわからない場合に該当するので、生きていることはわかっているものの、単純に住所がわからないというような場合は当てはまりません。意図して生死不明の状況を作っているような場合、有責配偶者といえます。 - その他、結婚生活の継続を困難にした配偶者
DV加害者である配偶者や、ギャンブル依存や浪費癖のある配偶者等が当てはまります
有責性を証明するための証拠
有責配偶者がどのような行為をしたかによって、有責性を証明するために必要な証拠は変わってきます。そこで、以下のとおり、代表的な有責行為を証明するために必要な証拠をご紹介します。
〇不貞行為
必要な証拠:肉体関係があることを確認できる、または推測できる証拠
具体例:性行為や類似の行為をしている動画・写真、ラブホテルに出入りしている動画・写真、肉体関係がある事実を認めた会話の録音データ、不貞相手とのメールやLINE等のうち肉体関係を匂わせる内容のものなど
〇DV(身体的・精神的・性的な暴力行為)
必要な証拠:暴力行為があることを確認できる、または推測できる証拠
具体例:DVによる怪我の診断書、実際の怪我の写真、暴力行為をしている動画・写真、暴言の録音データ、暴言が記録されたメールやLINE等の内容など
ただし、盗聴・盗撮等、著しく反社会的な方法で証拠を集めた場合、裁判所が証拠として認めないリスクがあるため、注意しましょう。
有責配偶者からの離婚請求は原則認められていない
基本的に、有責配偶者から離婚を請求することはできません。なぜなら、自分で夫婦関係を壊しておきながら離婚まで切り出せるとなると、有責配偶者にとってあまりに都合が良すぎるからです。有責配偶者の勝手な振る舞いから相手方の配偶者を守るためにも、こうしたルールとなっています。
ただし、次項で解説するように例外もあります。
有責配偶者からの離婚が認められるケース
下記の3つの条件を満たす場合には、たとえ有責配偶者から請求した離婚であっても、例外的に認められます。
① 夫婦の年齢や同居期間からみて、別居期間が相当長い
② 経済的に自立できない子供がいない
③ 離婚しても、相手方の配偶者が精神的・社会的・経済的に大きなダメージを受けない
勝手な離婚を防ぐには、離婚届の不受理申出制度を利用する
有責配偶者からの離婚請求は認められないのが基本です。しかし、役所は提出された離婚届が形式を満たしていれば受理して離婚を成立させるので、たとえ有責配偶者が勝手に離婚届を提出したとしても、形式さえ整っていれば離婚が成立してしまうおそれがあります。
親権や養育費、慰謝料などの詳細な条件を決める前に離婚が成立してしまうと、手続が煩雑になるので、泣き寝入りする結果にもなりかねません。離婚届が勝手に提出される危険がある場合には、 “離婚届の不受理申出制度”を利用することをおすすめします。
離婚届の不受理申出制度とは、制度の利用手続をした本人以外が離婚届を提出した場合に届出を受理しないようにさせる制度です。本人が直接本籍地の役所に出向かなければならないという手間はかかりますが、とても有用な制度だといえるでしょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
有責性に時効はあるか
夫(妻)が有責配偶者である場合、妻(夫)は夫(妻)の行為の有責性を理由に離婚を請求できます。この有責性には時効という概念はないので、離婚を請求できる期間に制限はありません。
もっとも、不貞行為等の有責行為が発覚した後も長い間同居を続けていたケースなどでは、裁判を起こして離婚を請求しても、既に夫婦関係は修復していると判断されてしまい、離婚が認められない可能性があります。
これに対して、有責配偶者に慰謝料を請求する権利は、離婚の成立から3年、または有責行為が行われた時点から20年で時効にかかります(有責行為自体の慰謝料を請求する権利は、有責行為があったことを知ってから3年)。
どちらにも有責性がある場合の判断は?
夫にも妻にも有責性がある場合には、より有責性が大きい方が有責配偶者として扱われます。
つまり、有責性の大きい配偶者が小さい配偶者に一方的に離婚を請求することは、有責配偶者からの離婚請求が認められる3つの条件を満たさない限り許されません。逆にいえば、たとえ有責性があってもそれが相手よりも小さければ、一方的に離婚を請求することができます。
なお、それぞれの有責性が同程度の場合には、お互い様だとみなされるのでどちらも有責配偶者としては扱われません。そのため、通常どおり、有責性のない配偶者間で離婚を請求した場合と同じように取り扱われます。
別居中の婚姻費用について
別居している有責配偶者が婚姻費用の分担を請求しても、免除または減額される可能性が高いです。
確かに、たとえ別居中でも、夫婦である以上助け合う義務があるので婚姻費用を分担しなければならないのが基本ですが、別居や夫婦関係の破綻の原因を作っておきながら婚姻費用まで請求できるとなると、有責配偶者にとってあまりに都合が良すぎるからです。
ただし、別居している有責配偶者が、経済的に自立できない子供の面倒を見ている場合には、養育費に相当する分の婚姻費用は支払わなければなりません。なぜなら、夫婦仲の悪化に関して責任のない子供に、両親の別居による不利益を負わせるべきではないからです。
有責配偶者に慰謝料請求する場合の相場は?
有責配偶者に請求できる慰謝料の金額は、“有責行為の内容”、“同居期間の長さ”、“有責配偶者の資力”、“離婚したかどうか”といった事情を総合的に考慮して決められるので、相場を一概に言うことはできません。特に裁判で慰謝料を請求する場合には、裁判所が金額を決定するので、どれだけ自分の主張を裏づけられる説得力のある証拠を用意できるかでも金額は変わってきます。
とはいえ、一般的に100万~300万円の金額で話がつく場合が多いようです。
有責配偶者との離婚は弁護士に依頼したほうがスムーズにすすみます
相手方が有責配偶者の場合、話し合いや調停による離婚では、ご自身が頷かない限り離婚が成立することはないので、離婚の条件を決めるうえでとても有利な立場にいらっしゃるといえます。とはいえ、有責配偶者からの離婚請求が認められる例外的なケースもありますし、安心しきることはできません。
この点、離婚問題に強い弁護士を選べば、ご相談者様にとって最良の結果となるように離婚の条件を突き詰めたうえで、どのように交渉を進めていけば良いのかを考えてもらえます。また、交渉そのものを弁護士に任せることもできますし、法的に有効な書面を作成して離婚条件をまとめてくれるので、慰謝料や養育費の不払いのリスク等を下げられるというメリットもあります。
有責配偶者との離婚をお考えの方は、ぜひ一度弁護士に相談されてみることをおすすめします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)