監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
たとえ離婚して子供と離れて暮らすことになったとしても、親である事実が変わることはありません。子供と一緒に暮らしていない親は、子供が健やかに暮らせるように養育費を支払う義務があります。
そこで今回は、養育費について、どのように取り決めるべきか、いったん取り決めた内容を変更することはできるのか等、養育費を請求する方と支払う方のどちらにも役立つ情報をお伝えします。
養育費とは
養育費とは、子供と離れて暮らしている親が支払わなければならない、子供が経済的・社会的に自立するまでの子育てに必要な費用のことです。
なぜ子供と離れて暮らしている親が養育費を支払わなければいけないのかというと、養育費は親の扶養義務が根拠とされているところ、父母である両親が離婚しても親子関係はなくならないからです。親子関係がなくならない以上、子供を養わなければならないという親の責任(扶養義務)もなくなりません。
また、誤解されがちですが、養育費の請求権は、子供を実際に育てる親の権利ではなく子供の権利とされています。
養育費に含まれるもの
養育費は、子供が自立するまでの子育てに必要な費用ですから、一般的に、衣食住にかかる費用や教育費、医療費等が含まれると考えられています。また、習い事の費用、小遣い、学費等も含まれるでしょう。
とはいえ、何が養育費に含まれて何が含まれないのかを区別する、はっきりとした基準があるわけではないので、実際にはそれぞれの親子の生活環境や水準、収入等を考慮して判断することになると考えられます。
養育費の相場は?養育費算定表による支払額の決め方
話し合いで養育費を決める際には、家庭裁判所が養育費を決めるときに参考にしている「養育費算定表」がひとつの資料とされる場合が多いです。つまり、養育費算定表から計算される金額が養育費の相場に近いといえるでしょう。
もっとも、「養育費算定表」は、子供の状況や父母の収入等から考えて、子育てに必要だと思われる最低限の金額に基づいて作られたものです。子供の学校でいえば、より費用のかかる私立校ではなく、公立校への進学を前提として養育費を計算しているということです。しかし、子供と暮らしていない親は、自分と同じレベルの生活を子供も送れるようにする義務(生活保持義務)があるので、その親の生活レベルや学歴(大卒かどうか等)によっては、養育費算定表から計算した金額を増減してバランスを取ることもあります。
後々のトラブルを防ぐためにも、算定表の金額は参考するだけに留めて、夫婦でしっかりと話し合って決めることが大切でしょう。
養育費の支払期間はいつからいつまで?
養育費の支払期間を決めている法律はないので、夫婦の話し合いで決めることができます。基本的には、請求を始めた時から成人となる20歳まで(2023年4月以降は18歳まで)とすることが多いようです。家庭裁判所が養育費について決める場合も同様です。
もっとも、そもそも養育費は子供が経済的・社会的に自立するまでにかかる子育ての費用ですから、親からの扶養が必要な状態だと判断されている間は支払う義務があると考えられます。
例えば、下記のようなケースでは、たとえ成人していても、養育費を支払う義務があると考えられるでしょう。
① 子供が病気や障害のために働くことができないケース
② 大学等に通っており経済的な生活力がないケース
逆に、下記のようなケースでは、養育費を支払う義務まではないと判断される可能性があります。
③ 高校卒業後進学せずに就職した等、たとえ未成年であっても経済的に十分に自立して生活できているケース
養育費の請求・支払いに時効はある?
養育費の請求権は、不払いが発生してから長期間、請求等をしなければ時効にかかります。
養育費の取り決め・変更の流れ
養育費は、次のような流れで取り決めることになります。また、養育費の金額や条件を変更したい場合も、基本的には同じ流れで進めていきます。次項以下をご覧ください。
まずは話し合いを試みる
まずは夫婦で話し合い、双方が納得できる内容で取り決めましょう。このとき、金額だけでなく、支払時期やその方法、支払いを続ける期間等、細かい条件まで念入りに取り決めておくことが重要です。
話し合いを拒否された場合、通知書(内容証明郵便)を送る
内容証明郵便は、日本郵便が提供する、送付した書面の内容を5年間証明してもらえるサービスです。いつ、誰が誰に対して、どのような内容の文章を送ったのかという証拠になりますし、受取人にこちらの本気度を示して行動を促す効果もあるので、慰謝料や養育費等の請求をはじめとした法的な手続でよく利用されます。
養育費に関する話し合いを拒否されたり無視されたりしてしまったら、この内容証明郵便のサービスを利用して、養育費について話し合いたいことを伝える通知書を送りましょう。このとき、返事を要求する等、相手に何かしらの反応を促す内容にしておくことが重要です。
話し合いで決まらなかったら調停へ
内容証明を送っても相手が話し合いに応じない、または話し合いはできたものの合意できなかった場合には、管轄の家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てて、調停委員を介した話し合いをすることになります。
調停では、養育費がいくらかかりそうか、または現在どのくらいかかっているのか、父母の収入はどのくらいあるのかといった一切の事情を、調停委員が父母それぞれから聞き取ります。そして双方の事情をよく把握してから、落としどころの提案や合意に至るためにアドバイスを行い、話し合いを進めていきながら合意を目指します。
調停でも合意できず不調になった場合には、審判手続に移行します。審判では、裁判官が一切の事情を考慮したうえで養育費について取り決めます。
養育費に関する合意書は公正証書で残しておく
後々トラブルにならないように、合意した内容を書面で残しておくことをおすすめします。このとき、法的に拘束力のない離婚協議書に養育費に関する合意内容をまとめるのではなく、公正証書にまとめると良いでしょう。
公証役場へ出向く手間はありますが、公正証書に「養育費の支払いが滞った場合は強制執行されても構わない」という強制執行認諾文言を明記しておけば、万が一養育費が支払われなくなった際に、強制執行(差押え)をすることができるようになります。
養育費を請求する方(権利者)
ここまで、養育費の取り決めの方法や条件を変更する方法について説明してきました。そこで、次項からは、養育費を請求する方(以下、「権利者」とします)が悩まれることが多い問題について解説していきたいと思います。
公正証書もあるのに、相手が養育費を払わない・払ってくれなくなった
強制執行認諾文言が明記された公正証書があるケースや、調停調書・審判書等の書面で養育費の支払いについて取り決められているケースでは、強制執行により、養育費の義務者の財産を差し押さえて強制的に支払わせることができます。
ただし、地方裁判所に強制執行の申立てをするためには、差し押さえをする相手の「勤務先・口座情報(金融機関名・支店・口座番号)・現住所」が特定する必要があります。
こうした情報を特定できず、強制執行ができない方は、弁護士にご相談ください。弁護士は、弁護士照会という制度を利用してこれらの情報を調査することができますし、特定作業だけでなく、強制執行を申し立てる手続もお任せいただけます。
一括で請求はできる?
養育費は、毎月・定額を支払うように取り決めるのが一般的ですが、支払われなくなるリスクがあるため、一括して請求したいと思う方もいらっしゃるでしょう。この点、父母双方が同意すれば、一括して支払ってもらうことができます。
また、養育費を一括で受け取った場合でも、子供が大怪我をしたり難病を患ったりする等、あらかじめ想定することが難しい事情が発生して、特別な費用が必要になったときには、追加で請求することができます。ただし、追加分をすんなりと支払ってもらうことは難しく、養育費請求調停を申し立てるといった手段をとらざるを得ないのが現実です。
さらに、養育費を一括して受け取る場合には、養育費として通常必要と認められる金額(非課税とされる金額)を上回ることになるため、贈与税が課税されてしまうおそれがあるので注意しましょう。
きちんと払ってもらえるか不安なので連帯保証人をつけたい
前提として、養育費の支払義務は親であるからこそ負うものである以上、他の誰かが肩代わりすることはできません。ですから、公証役場や家庭裁判所は、養育費に連帯保証人をつけることに否定的です。しかし、禁止されているわけではないので、連帯保証人となる方の同意があれば、連帯保証人をつけられます。
養育費に連帯保証人をつけるときは、公正証書等の書面に「連帯保証契約を結ぶこと」「養育費(債務)の支払条件」「連帯保証の極度額(限度額)」等を明記して契約することになります。
金額を決めた当初と事情が変わったので増額してもらいたい
養育費の支払義務者の同意が得られれば、養育費を増額することは可能です。
また、調停等で金額の調整をする場合でも、下記のように、これまで受け取っていた金額のままでは子供を十分に育てることができないと認められる特別な事情や支払義務者の生活レベルが上がるような事情があれば、養育費の増額が認められるでしょう。
① 養育費の権利者が休職・失業するなどして経済状況が悪化した
② 子供が怪我や大病を患って高額な治療費が必要になったといった
③ 養育費の支払義務者の年収が増えた
養育費を減額してほしいと言われた
子供が成長していくなか、生活環境や状況が大きく変わり、取り決めた養育費の条件が適切でなくなることも考えられます。そこで、養育費の支払義務者から減額を相談されたら、無視することなくきちんと向き合う必要があります。話し合いが平行線を辿るようなら、調停を申し立てて裁判所に判断を委ねるべきでしょう。
一般的に、下記のような事情がある場合には、養育費が減額される可能性が高いです。
養育費の支払義務者が、
① 減収した
② 休職・失業した
③ 怪我や病気で大きな出費があった
④ 再婚して扶養しなければならない人数が増えた
また、逆に養育費の権利者が、
⑤ 養育費の権利者の収入が増えた
⑥ 再婚相手と子供を養子縁組させた
妊娠中の離婚でも養育費を受け取れる?
たとえ妊娠中に離婚した場合でも、生まれた子供と元夫との間に法律上の父子関係があれば養育費を支払ってもらうことができます。
平均的な妊娠期間を考えると、妊娠中に離婚した場合、多くの方が離婚してから300日以内に出産されるでしょう。このように父母が離婚してから300日以内に生まれた子供は、元夫の嫡出子であると推定されるため、法律上の父子関係が認められます。したがって、養育費をもらうことができます。
他方、離婚後300日を過ぎてから子供が生まれた場合や、そもそも父母が結婚していなかった場合には、父親と子供に法律上の父子関係が自動的に成立することはありません。しかし、元夫に子供を認知してもらえれば、法律上の父子関係が成立するので、養育費をもらうことができるようになります。
なお、父親が認知に応じてくれない場合には、審判認知や強制認知等、裁判所の手続を利用することになります。
養育費を受け取りながら生活保護を受けることはできる?
たとえ養育費を受け取っていても、養育費と母子手当やアルバイト・パート代等の収入を合わせた金額では十分に生活できないと認められる場合には、生活保護を受けることができます。
ただし、毎月もらう養育費は「収入」と認定されるため、支給される生活保護費からこの金額分が差し引かれます(ただし、地域・子供の年齢からみて一般的に必要とされる学習費等の金額は、収入から除外されます)。なお、養育費をもらっていることを申告せずに生活保護を受けた場合には、不正受給と判断されて受給額の返還を求められてしまうおそれがあります。必ず申告するようにしましょう。
養育費はいらないので子供を会わせたくない
子供と、離れて暮らす養育費の義務者が交流する「面会交流」は、養育費を支払った見返りとして義務者に許されているわけではありません。そもそもの前提として、面会交流は子供が親の愛情を感じて健やかに成長するために設けられた制度であって、面会交流をする権利は、養育費の義務者と子供の両方にあります。また、そもそも養育費は子供の権利であり、親は代わりに受け取っているだけにすぎません。
したがって、子供の本心も確認せず、勝手に「養育費を受け取らない代わりに面会交流を認めない」と拒否することは認められません。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費を払う方(義務者)
続いて、養育費を払う方(以下、「義務者」とします)に多いお悩みについても解説していきたいと思います。養育費の義務者の方でお悩みのある方は、ぜひ次項以下をご覧いただき、問題の解決にお役立ていただければ幸いです。
増額請求をされたが、応じなければならない?
必ずしも応じなければならないわけではありません。一度決めた養育費の金額は、当事者が合意するか、または審判で裁判所が変更の必要性を認めなければ増減されません。
増額に応じたくない場合は、養育費の権利者からの請求を無視せずしっかりと話し合いに応じて、調停や審判に発展するのを防ぐことが大切です。
自分の生活が大変なので減額したい
養育費の義務者の経済的な余裕がなくなり生活レベルが低下したような場合や、養育費の権利者の収入が上がったり再婚して経済的に余裕が出たりしたような場合には、減額される可能性があります。
下記のようなケースでは、養育費の義務者の生活レベルが低下したと判断される見込みがあります。
養育費の義務者が、
①減収した
②休業した
③失業した
④怪我等の突発的な事情で大幅な出費をした
⑤再婚や再婚相手との子供の誕生等により扶養しなければならない者の人数が増えた
養育費を払わず(払えず)にいたら強制執行をされた
養育費は、親が子供に対する責任を果たすために支払うものですから、子供を思うのであればきちんと支払うべきです。もっとも、経済的な事情等から支払うことが困難な場合もあるでしょう。
そのような場合は、養育費の権利者である相手方に対して、自身の現状や経済状況等をしっかりと説明し、支払うことができない事情を十分に理解してもらい、強制執行を取り下げてもらうよう働きかけましょう。
また、家庭裁判所に養育費調停を申し立て、養育費を減額または免除してもらうという方法もあります。ただし、養育費を減免するべき正当な事情があることを裁判所に証明できなければ、減額・免除は認められません。
離婚した相手が生活保護を受けているので、養育費を減額してほしい
生活保護を受けるにあたって、養育費は「収入」と認定され、その金額の分生活保護費が控除されます。つまり、養育費に上乗せして生活保護費を受け取ることができるわけではありません。
そのため、生活保護を受けている養育費の権利者が、養育費を受け取っていることをきちんと申告している場合には、「生活保護を受けている」という理由だけで養育費の減額を認めてもらうことは難しいでしょう。
養育費は扶養控除できる?
養育費を毎月支払っているのであれば、扶養控除を受けられる可能性があります。ただし、1人の扶養親族を2人以上の納税者の扶養控除の対象とすることはできないので、元夫または元妻やその再婚相手が子供を被扶養者としている場合には、子供を対象とした扶養控除を受けられません。
自己破産したら養育費を支払わなくてもいいですか?
養育費は、自己破産をしても支払いが免除されない「非免責債権」です。そのため、自己破産をしたとしても、養育費は支払い続ける必要があります。
もっとも、失業して無収入になってしまっている等、養育費の支払いすら困難な場合には、養育費の減額が認められることもあるため、相手方との話し合いや調停の申し立てを検討してみても良いでしょう。
養育費について困ったことがあったら、弁護士への相談がおすすめ
養育費についてお悩みの方は、行き詰ってしまう前にぜひ弁護士にご相談ください。
弁護士法人ALGには、離婚問題をはじめ、様々な専門分野に精通した弁護士が在籍しております。また、女性弁護士もおりますので、男性弁護士への相談に抵抗のある女性の方も安心してご相談いただけます。
さらに、横浜駅から徒歩7分の場所にある事務所にはキッズスペースもご用意しているので、お仕事等でお忙しい方も気軽にお越しいただけますし、お子様をお連れしてのご相談も可能です。
まずはお気軽にお電話で事情をお聴かせください。専門の受付スタッフが対応させていただきます。
離婚時、夫婦は基本的に共有財産を半分に分け合って財産分与を行いますが、車はその対象に含まれるのでしょうか?もし対象になるとしても、実際に車を半分に切って分けることはできません。そこで、財産分与の方法が問題になります。
このページでは、車を財産分与する方法に加えて、どういった車が財産分与の対象になるのか、実際に財産分与をしたらどのようなことに気をつけるべきなのかといった点についてご説明します。
車を財産分与する方法
物理的には分けられない車を財産分与する主な方法は、以下の2つのものがあります。
① 売却してその代金を分ける方法
② 夫婦の一方がもう一方に代償金を支払って車に乗り続ける方法
それぞれの方法について解説していきます。
売却する
車を売却して現金化し、代金を半分ずつ分ける方法です。公平に財産を分けることができるので、次項で説明する車を処分しない方法と比べて、トラブルが起きるリスクが小さいと考えられます。
ただし、ローンが残っている場合には、夫婦ではなくローン会社やカーディーラー等が車の所有者になっているケースが多いので注意が必要です。この場合、売却するには、ローン会社等に連絡をして、いわゆる「所有権解除」の手続をしなければなりません。また、たとえ所有者が夫婦のどちらかであるケースでも、ローンが残っている以上勝手に売却できないので、事前にローン会社等に相談する必要があります。
車の評価額の半分を支払い、片方が乗り続ける
夫婦の一方が車をもらう代わりに、車の評価額の半分を代償金としてもう一方に支払う方法です。ただし、車の評価額の計算方法等で夫婦の意見が対立し、トラブルに発展するリスクがあるので注意が必要です。
代償金は、必ずしも現金で支払う必要はありません。例えば宝石や美術品、株式、有価証券といった現金以外の財産であっても、代償金の支払いに充てることができます。
具体例で考えてみましょう。夫が評価額500万円の車をもらう場合、現金150万円と合わせて80万円相当の宝石と20万円相当の株式(合計250万円)を妻に渡せば、公平に車を財産分与したことになります。
車の評価額は何を参考にすればいい?
車の評価額は、時価からローン残額を差し引いて計算します。では、車の時価はどのように算定するのかというと、以下のどちらかを参考にして決められます。
・オートガイド自動車価格月報(レッドブック)に掲載されている中古販売価格
所有している車の車種、年式、型式、メーカー名、走行距離等を調べて、レッドブックに掲載されている同じグレードの車の中古販売価格と照らし合わせて時価を決めます。
・中古車買取業者の査定価格
中古車買取業者の見積もりサービスを利用したり、インターネットのサイト上に掲載されている中古車の取引価格の平均値を参考にしたりする等して、時価を決めます。
財産分与の対象にならない車もある
共有財産に当たらない場合、夫婦が所有する車だとしても財産分与の対象には含まれません。なぜなら、財産分与は、結婚生活の間に夫婦が協力して集めた共有財産を分けるものだからです。
例えば、次のような車は特有財産なので、財産分与の対象には含められないでしょう。
- 結婚する前から夫または妻が所有していた車
- 夫または妻が親族から相続した車
- 一方の親が購入資金のすべてを出した車
- 別居生活中に購入した車
さらに、共有財産に当たる場合でも、次のような車は対象に含まれません。
- 購入してからかなり時間が経っていて査定額がつかない車
- ローンの残額が車の時価を上回っていて財産的な価値がないと判断された車
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
財産分与の対象になるのはどんな車?
夫婦の共有財産に当たる車は、財産分与の対象となります。
例を挙げると、婚姻中にそれぞれが稼いだお金(共有財産)を購入資金に充てた車は、夫婦の協力で作り上げた財産だといえるので、財産分与の対象に含まれます。さらに、購入したのは別居後だとしても、夫婦の共有財産を購入資金に充てた車も財産分与の対象に含めることができます。
共有財産であれば名義は関係ない
たとえ名義が夫または妻のどちらかのものでも、共有財産に当たれば財産分与の対象になります。
例えば、結婚生活中に貯めた預貯金で購入した車の名義を夫単独にしていた場合でも、妻が自身の収入や家事労働等で家計を支えていたときには、実質的に夫婦の協力で築いた財産に当たるので、財産分与することができます。
特有財産であっても、車の維持費の出どころ次第では財産分与の対象に
結婚する前から持っていた車や親から相続した車等、元々は特有財産だったものでも、その後の取り扱いによっては共有財産となる場合があります。
例えば、車検代やメンテナンス費用等の維持費を共有財産から支払っていた車は、夫婦の協力により価値が維持されたり高められたりしたと考えられるため、共有財産になり、財産分与の対象とされることがあります。
財産分与で車をもらったら、名義変更は必ずやりましょう
財産分与で車をもらった後に絶対に確認しなければならないのは、「車の名義人が誰なのか」です。ご自身が名義人となっていれば問題ありませんが、元パートナーが名義人である場合には、必ず名義変更手続を行わなければなりません。
名義変更をしないままだと、任意保険に加入することができませんし、納税通知書が届かないので自動車税を納付しそびれてしまうリスクがあります。期日までに自動車税を納付できなければ、遅延金を支払わなければならなくなりますし、差し押さえを受けるおそれもあります。なにより、車検を受けられないので、車に乗ることができなくなってしまいます。
普通自動車を名義変更する場合
普通自動車の名義変更は、譲渡証明書等の必要書類を準備した後、管轄の運輸支局で申請します。運輸支局の窓口では、自動車税・自動車取得税申告書といった書類を作成し、持参した必要書類と併せて提出します。このとき、登録手数料として、500円分の印紙を手数料納付書に張り付け、窓口に提出するのを忘れないようにしましょう。
申請が受理されると車検証が交付されます。この新しい車検証を受け取ることで、名義変更の手続は終了します。
軽自動車の場合
軽自動車の名義変更は、普通自動車の手続とほぼ同様の流れで行います。ただし、軽自動車の場合の申請先は、管轄の軽自動車協会の事務所・支所となります。
軽自動車検査協会へ出向いたら、自動車検査証記入申請書や軽自動車税申告書等を作成し、持参した必要書類と一緒に窓口へ提出します。申請が通れば新しい車検証が交付され、名義変更が完了します。
自動車保険の名義変更は?
自動車保険のひとつである自賠責保険は、車自体にかけられる保険なので、車検期間中はずっと補償を受けられます。しかし、万が一事故に遭った際に手続に問題が起こらないようにするためにも、車を名義変更するタイミングで自賠責保険も名義変更しましょう。
また、任意保険については、新規に加入するか車両入替手続をとる必要がありますが、そのためには新しい車検証に記載された情報が必要です。そこで、車の名義変更をしたらすぐに任意保険の手続を行うことになります。
なお、財産分与で車をもらった場合は、名義変更をすることで任意保険の等級を引き継ぐこともできます。引き継ぐかどうかは選択できるので、等級を引き継がない場合の保険料と比べて検討してみることをおすすめします。
車の財産分与で分からないことがあったらご相談ください
財産分与の対象となる財産のなかでも、車は特に評価額が争われることが多いといわれています。なぜなら、評価額を算定する明確な基準がないため、査定をする業者によって金額が変わってしまうのが普通だからです。車は安い財産ではありませんし、評価額によっては財産分与の問題が激化してしまい、円滑に財産分与することができなくなるおそれがあります。
そこで、交渉のプロである弁護士への依頼をご検討ください。弁護士に交渉を任せれば、専門知識に基づいてご依頼者様の意見を論理的に主張・立証してくれるので、ご依頼者様に有利な条件の財産分与が認められる可能性が高まります。ほかにも煩雑な離婚関連の手続を任せることができるので、ぜひ弁護士にご依頼ください。
近年、同居期間が25年を超える夫婦が離婚する件数が増えています。このように長い時間をパートナーとして過ごした夫婦が離婚することを、“熟年離婚”といいます。夫が定年退職を迎えるタイミング、子供が就職や結婚をして独立するタイミング等、人生の節目をきっかけに妻が離婚を切り出し、熟年離婚をすることになるケースが多いようです。
なぜ、長年連れ添った配偶者との別れを選ぶのでしょうか?熟年離婚の原因や、実際に熟年離婚をする際に気をつけるべき点等を中心に解説していきます。
熟年離婚の原因
夫婦仲を悪化させる要因には様々なものがあります。そこで、何がきっかけで長年のパートナーに愛想を尽かせてしまうのか、熟年離婚の原因として特に考えられる要因を以下に挙げてみました。
相手の顔を見ることがストレス
定年退職を迎え、夫婦で過ごす時間が増えると、それまで気にならなかったお互いの嫌な部分が目につくようになることがあります。そして、相手の顔を見ることがだんだんとストレスになっていき、結婚生活を続けることが困難になってしまうケースがあります。
また、それまで表面上は喧嘩もせずに夫婦生活を続けてきた場合でも、どちらかが強く我慢していたために生活が成り立っていたということもあります。しかし、配偶者の定年退職等で一緒にいる時間が増えた結果、我慢の限界に達してしまい、熟年離婚を決めるケースもあります。
価値観の違い、性格の不一致
“価値観の違い”や“性格の不一致”は、熟年離婚以外の離婚でもよく挙げられる要因です。結婚当初から「金銭感覚が違う」「趣味に対する理解がない」「なんとなく性格が合わない」といった不満を抱えながら一緒に生活していたものの、配偶者の定年退職や子供の独立等で一緒に過ごす時間が増えたことでついに限界を迎えてしまい、「これ以上相手に合わせるのは嫌だ」と離婚を切り出す方も少なくありません。
また、離婚に対する世間のイメージが変わり、ハードルが低くなってきたことも影響して、結婚当初から価値観の違い等の不満を抱えていた方が離婚に踏み切るケースも増えているようです。
夫婦の会話がない
仲の良い夫婦でいるために、必ずしも会話を弾ませる必要はないのかもしれません。ほとんど会話がなくとも、お互いにその空気を心地よく思っているのであれば問題ないでしょう。しかし、どちらかが会話がないことに孤独を感じていたり、不満に思っていたりする場合には、夫婦生活を続けていくことに耐えきれなくなり熟年離婚を決意するケースがあります。
子供の自立
“仮面夫婦”という言葉もあるとおり、夫婦間の愛情はないものの、表面上は共同生活を続けている夫婦もいます。これは、子供が幼い、または自立していない等、まだ両親を必要とする年齢であるため、表面上だけでも夫婦生活を続ける必要があると考えているからであることが多いです。このようなケースでは、お互いに「子供が独立したら離婚する」と気持ちを固めているため、条件面等について大きく揉めることもなく、冷静に離婚の手続が進められることが多いようです。
借金、浪費癖
配偶者に借金や浪費癖がある等、お金の管理に問題がある場合にも、熟年離婚に至ることがあります。
こうした問題が一向に改善せず、長年続いてしまうと、家計は非常に苦しくなってしまいます。そのため、夫婦生活を続けていくことを困難だと感じて熟年離婚を決意する方もいらっしゃいます。
介護問題
熟年離婚をする夫婦の年代では、両親の介護問題が出てくるケースが多いです。ご自身の親の介護ですら大変なのに、配偶者の親の介護まで任されてしまっては、その苦労はより大きなものとなるでしょう。特にこの年代では、「義両親の介護は妻の仕事」という考えを強く持っている人も少なくなく、妻一人に負担が集中してしまっているケースが多くみられます。その結果、介護の疲れが限界を超えてしまい、熟年離婚を切り出す女性が多いのです。
熟年離婚に必要な準備
熟年離婚では、離婚後の生活設計をきちんとしておくことが特に重要です。なぜなら、熟年離婚をした場合、夫も妻も経済的に不安定な状況に陥ってしまうケースが多いからです。
こうした事態を防ぐためにも、熟年離婚をするときには、離婚後の老後資金をどのように確保するかをしっかり検討し、入念に準備しておく必要があります。
就職活動を行う
特に熟年離婚世代の女性の場合、結婚や出産・子育てをきっかけに仕事から離れてしまっていることが多く、収入がなかったり、あったとしてもパート代やアルバイト代程度で離婚後の生活資金には足りなかったりするケースが多いです。そこで、年金を受け取ることができるようになるまでの間の生活費をまかなう必要があります。離婚後、生活に困らないためにも、できればあらかじめ就職先を見つけておけると良いでしょう。
しかし、しっかりとした職歴がない場合、十分な収入を得られるだけの新たな就職先を見つけるのは難しいという現実があります。このような場合には、離婚条件として財産を多くもらえるように働きかける等、対応を考えなければなりません。
味方を作る
あらかじめ味方を作っておくことも大切です。
熟年離婚をした後、「強い孤独感」を感じる方が多くいらっしゃいます。そこで、離婚する前から子供や親戚、友人や知人と交流する機会を増やしておき、熟年離婚をした後の自分の居場所を作っておきましょう。
また、周囲の方と良好な関係を築いていれば、困ったときに相談したり頼ったりすることができるので、気持ちの面でも健康面でも安心することができます。
住居を確保する
熟年離婚をするにあたっては、離婚後の住居の算段をつけておきましょう。
まず、結婚中に家を購入した等、夫婦の共有財産として家がある場合には、財産分与で家を受け取って離婚後も住み続けることができます。ただし、ローンが残っている場合等には話が複雑になります。
また、
①実家で暮らす
②独立している子供と同居する
③賃貸物件を借りる
といった選択肢もあります。もっとも、賃貸物件を借りようとしても、就職先が決まっていない、預貯金額が少ない、高齢すぎるといった場合には、入居審査に通らないおそれが大きいです。こうした場合には、家賃補助を受けられる高齢者向けの優良賃貸住宅等を探すことになるでしょう。
財産分与について調べる
夫婦の共有財産は、離婚する際に、財産分与として2分の1ずつ分け合うのが原則です。ただし、離婚後に夫婦の一方(現実的には妻であることが多いです)が生活できるだけの収入を得られる見込みがなく、財産分与でもらえる財産も十分ではない場合には、“扶養的財産分与”が行われることがあります。“扶養的財産分与”とは、元配偶者が、生活に困窮してしまう他方の配偶者のために一定期間定額を支払う、財産分与の種類のひとつです。
熟年離婚の場合には、扶養的財産を行うことがよくみられます。収入に不安のある方は、離婚するにあたってこうした条件をつけることも検討してみてください。
専業主婦(専業主夫)の場合は年金分割制度について調べておく
熟年離婚をする夫婦では、妻が専業主婦である等、第3号被保険者に当たるケースが多いです。このようなケースでは、“3号分割”という年金分割の方法をとることができます。
年金分割とは、結婚生活中に夫婦が納めた厚生年金の記録を、多い方から少ない方へ分け与える制度です。3号分割を利用すれば、相手の同意を得ずに2分の1の割合で年金分割を受けることができます。
年金分割を利用できれば年金の受給額が増えるので、生活費に充てることができます。ご自身のケースでは利用できるのかどうか、ぜひ年金事務所にてお調べください。
退職金について把握しておく
熟年離婚の場合、定年退職を迎えるまでの期間がわずかであるケースも多いので、退職金が支払われる可能性が高いときは、一般的に退職金も財産分与の対象にします。
退職金は基本的に高額である場合が多いので、財産分与の対象になるかどうかは非常なポイントとなります。そこで、定年退職時に退職金が支払われる可能性の有無、予想される金額等を把握しておき、財産分与の対象になるのかどうか、検討をつけておくことをおすすめします。
熟年離婚の手続
熟年離婚の手続と通常の離婚手続に違いはありません。まず、夫婦で話し合い、双方の合意のうえで離婚することを目指します(協議離婚)。話し合いが難しい、または夫婦だけでの話し合いでは合意に至らない場合には、家庭裁判所に調停を申し立て、調停で離婚条件等の調整を図ります(離婚調停)。それでも合意に至らず、調停が不調に終わった場合には、離婚の成否やその条件についての判断を裁判所に委ねるという選択肢があります(離婚裁判)。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
熟年離婚で慰謝料はもらえるのか
熟年離婚の場合も通常の離婚の場合と同様、離婚することになった原因が一方の配偶者にあるときには、もう一方の配偶者は、精神的苦痛を強いられたとして慰謝料を請求することができます。例えば、夫婦間にDVやモラハラ、セックスレスの事実がある場合や一方の配偶者が不貞行為をしていた場合、正当な理由がないのに勝手に別居していたり生活費を入れなかったりした場合には、慰謝料の支払義務が認められる可能性があります。
なお、慰謝料の金額は、配偶者のした行為の内容や程度、子供の有無や年齢、婚姻期間等によって異なってきますが、熟年離婚のように婚姻期間が長い場合には高額になる傾向があります。
退職金は必ず財産分与できるわけではない
退職金が財産分与の対象になれば、離婚時にもらえる、あるいは渡す財産の金額が跳ね上がるため、夫・妻のどちらにとっても気になる事柄のひとつではないでしょうか。
この点、退職金には“給与の後払い”という性質があるので、夫婦が協力して作り上げた財産として、財産分与の対象となる可能性があります。もっとも、たとえ財産分与の対象に含まれる場合でも、婚姻期間に相当する退職金として支払われる分以外は財産分与の対象にはなりません。なぜなら、婚姻期間に相当する分以外は、夫婦が協力して作り上げた財産とはいえないからです。
退職金が既に支払われている場合
財産分与の時点でもう退職金が支払われている場合、退職金のうち、婚姻期間に相当する分は、財産分与することができます。なお、婚姻期間に相当する退職金の額は、退職金の支給にかかる勤務年数と実質的な婚姻期間を考慮して決定します。
ただし、離婚時に退職金が残っていなければ財産分与できないため、注意しましょう。もっとも、退職金が残っていない原因が一方の浪費であるようなケースでは、他の財産を分与する際に考慮してもらえる可能性があるでしょう。
退職金がまだ支払われていない場合
退職金がまだ支払われていない場合には、「支給されることがほぼ確実である」といえなければ、退職金を財産分与の対象とすることはできません。
支給が確実であるかどうかは、下記のような事情を踏まえて判断されます。
①就業規則等に退職金に関する定めがあるか
②退職金の計算方法が明示されているか
③会社の規模
④定年退職までの期間
⑤これまでの勤務状況・成績
なお、配偶者が定年間近であるケースや、勤務先が倒産するおそれが小さい公務員であるケース等では、退職金が支給される確実性が高いと判断される傾向にあります。
熟年離婚したいと思ったら弁護士にご相談ください
ずっと円満な夫婦生活を送れるのが何よりですが、結婚生活が長くなれば、お互いの良い面も悪い面もよく見えるようになるかと思います。そして、 “離婚”という選択肢をとるしかなくなるほど追い詰められてしまう方もいらっしゃるでしょう。しかし、何も準備しないままに熟年離婚をしてしまうと、夫側も妻側もいろいろな面で苦しい状況に置かれてしまうおそれがあります。離婚後の生活について、あらかじめしっかりと準備してから離婚を切り出すことが重要です。
何を、どのように準備すれば良いのか、疑問やご不安のある方は、弁護士へ相談されることをおすすめします。ご相談者様の状況に応じたアドバイスをさせていただきますので、後悔のない離婚を迎えるためにも、熟年離婚を検討している方はぜひ弁護士にご相談ください。
“離婚”について解説するサイトや書籍等を見ていると、「有責配偶者」という言葉を目にすることがあるかと思います。有責配偶者とは、いったいどのような配偶者を指しているのでしょうか?夫婦のどちらか(または両方)が有責配偶者の場合には、そもそも離婚請求はできるか、慰謝料請求は認められるかといった問題が出てくるので、有責配偶者について知ることはとても大切です。
今回は、有責配偶者が何を指すのかを説明したうえで、有責配偶者との離婚を考えるうえで役立つ情報をお伝えします。
有責配偶者とは
「有責配偶者」とは、夫婦関係が壊れる原因を作った配偶者のことです。つまり、離婚の原因を作り出した夫または妻が有責配偶者となります。
とはいえ、離婚の原因にはさまざまなものがあるので、実際にどのような行為をすると有責配偶者にあたるのかが気になるところだと思います。この点、民法で定められた離婚原因に該当する行為をすると、有責配偶者だと判断される傾向にあります。
有責配偶者となるケース
民法770条で定める離婚原因(法定離婚事由)の内、1号、2号、3号、5号に該当する行為をした場合、有責配偶者になります。以下、具体的な有責配偶者の例を挙げてみました。
- 不貞行為をした配偶者
いわゆる浮気や不倫をした配偶者です - 悪意の遺棄をした配偶者
正当な理由がないのに、勝手に別居したり、生活費を入れなかったりする等、結婚生活を送るうえで必要な協力をしない場合、悪意の遺棄をしたと判断されます - 3年以上生死がわからない配偶者
生きているか死んでいるかもわからない場合に該当するので、生きていることはわかっているものの、単純に住所がわからないというような場合は当てはまりません。意図して生死不明の状況を作っているような場合、有責配偶者といえます。 - その他、結婚生活の継続を困難にした配偶者
DV加害者である配偶者や、ギャンブル依存や浪費癖のある配偶者等が当てはまります
有責性を証明するための証拠
有責配偶者がどのような行為をしたかによって、有責性を証明するために必要な証拠は変わってきます。そこで、以下のとおり、代表的な有責行為を証明するために必要な証拠をご紹介します。
〇不貞行為
必要な証拠:肉体関係があることを確認できる、または推測できる証拠
具体例:性行為や類似の行為をしている動画・写真、ラブホテルに出入りしている動画・写真、肉体関係がある事実を認めた会話の録音データ、不貞相手とのメールやLINE等のうち肉体関係を匂わせる内容のものなど
〇DV(身体的・精神的・性的な暴力行為)
必要な証拠:暴力行為があることを確認できる、または推測できる証拠
具体例:DVによる怪我の診断書、実際の怪我の写真、暴力行為をしている動画・写真、暴言の録音データ、暴言が記録されたメールやLINE等の内容など
ただし、盗聴・盗撮等、著しく反社会的な方法で証拠を集めた場合、裁判所が証拠として認めないリスクがあるため、注意しましょう。
有責配偶者からの離婚請求は原則認められていない
基本的に、有責配偶者から離婚を請求することはできません。なぜなら、自分で夫婦関係を壊しておきながら離婚まで切り出せるとなると、有責配偶者にとってあまりに都合が良すぎるからです。有責配偶者の勝手な振る舞いから相手方の配偶者を守るためにも、こうしたルールとなっています。
ただし、次項で解説するように例外もあります。
有責配偶者からの離婚が認められるケース
下記の3つの条件を満たす場合には、たとえ有責配偶者から請求した離婚であっても、例外的に認められます。
① 夫婦の年齢や同居期間からみて、別居期間が相当長い
② 経済的に自立できない子供がいない
③ 離婚しても、相手方の配偶者が精神的・社会的・経済的に大きなダメージを受けない
勝手な離婚を防ぐには、離婚届の不受理申出制度を利用する
有責配偶者からの離婚請求は認められないのが基本です。しかし、役所は提出された離婚届が形式を満たしていれば受理して離婚を成立させるので、たとえ有責配偶者が勝手に離婚届を提出したとしても、形式さえ整っていれば離婚が成立してしまうおそれがあります。
親権や養育費、慰謝料などの詳細な条件を決める前に離婚が成立してしまうと、手続が煩雑になるので、泣き寝入りする結果にもなりかねません。離婚届が勝手に提出される危険がある場合には、 “離婚届の不受理申出制度”を利用することをおすすめします。
離婚届の不受理申出制度とは、制度の利用手続をした本人以外が離婚届を提出した場合に届出を受理しないようにさせる制度です。本人が直接本籍地の役所に出向かなければならないという手間はかかりますが、とても有用な制度だといえるでしょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
有責性に時効はあるか
夫(妻)が有責配偶者である場合、妻(夫)は夫(妻)の行為の有責性を理由に離婚を請求できます。この有責性には時効という概念はないので、離婚を請求できる期間に制限はありません。
もっとも、不貞行為等の有責行為が発覚した後も長い間同居を続けていたケースなどでは、裁判を起こして離婚を請求しても、既に夫婦関係は修復していると判断されてしまい、離婚が認められない可能性があります。
これに対して、有責配偶者に慰謝料を請求する権利は、離婚の成立から3年、または有責行為が行われた時点から20年で時効にかかります(有責行為自体の慰謝料を請求する権利は、有責行為があったことを知ってから3年)。
どちらにも有責性がある場合の判断は?
夫にも妻にも有責性がある場合には、より有責性が大きい方が有責配偶者として扱われます。
つまり、有責性の大きい配偶者が小さい配偶者に一方的に離婚を請求することは、有責配偶者からの離婚請求が認められる3つの条件を満たさない限り許されません。逆にいえば、たとえ有責性があってもそれが相手よりも小さければ、一方的に離婚を請求することができます。
なお、それぞれの有責性が同程度の場合には、お互い様だとみなされるのでどちらも有責配偶者としては扱われません。そのため、通常どおり、有責性のない配偶者間で離婚を請求した場合と同じように取り扱われます。
別居中の婚姻費用について
別居している有責配偶者が婚姻費用の分担を請求しても、免除または減額される可能性が高いです。
確かに、たとえ別居中でも、夫婦である以上助け合う義務があるので婚姻費用を分担しなければならないのが基本ですが、別居や夫婦関係の破綻の原因を作っておきながら婚姻費用まで請求できるとなると、有責配偶者にとってあまりに都合が良すぎるからです。
ただし、別居している有責配偶者が、経済的に自立できない子供の面倒を見ている場合には、養育費に相当する分の婚姻費用は支払わなければなりません。なぜなら、夫婦仲の悪化に関して責任のない子供に、両親の別居による不利益を負わせるべきではないからです。
有責配偶者に慰謝料請求する場合の相場は?
有責配偶者に請求できる慰謝料の金額は、“有責行為の内容”、“同居期間の長さ”、“有責配偶者の資力”、“離婚したかどうか”といった事情を総合的に考慮して決められるので、相場を一概に言うことはできません。特に裁判で慰謝料を請求する場合には、裁判所が金額を決定するので、どれだけ自分の主張を裏づけられる説得力のある証拠を用意できるかでも金額は変わってきます。
とはいえ、一般的に100万~300万円の金額で話がつく場合が多いようです。
有責配偶者との離婚は弁護士に依頼したほうがスムーズにすすみます
相手方が有責配偶者の場合、話し合いや調停による離婚では、ご自身が頷かない限り離婚が成立することはないので、離婚の条件を決めるうえでとても有利な立場にいらっしゃるといえます。とはいえ、有責配偶者からの離婚請求が認められる例外的なケースもありますし、安心しきることはできません。
この点、離婚問題に強い弁護士を選べば、ご相談者様にとって最良の結果となるように離婚の条件を突き詰めたうえで、どのように交渉を進めていけば良いのかを考えてもらえます。また、交渉そのものを弁護士に任せることもできますし、法的に有効な書面を作成して離婚条件をまとめてくれるので、慰謝料や養育費の不払いのリスク等を下げられるというメリットもあります。
有責配偶者との離婚をお考えの方は、ぜひ一度弁護士に相談されてみることをおすすめします。
交通事故のけがを治療していると、「症状固定」というなんだか聞きなれない単語を耳にすると思います。そしてその単語は、お医者様や保険会社様から、聞くことになると思われます。この「症状固定」という言葉を保険会社から言われたときは注意が必要です。以下でその理由を解説していきます。
症状固定とは
そもそも「症状固定」というのは、「療養をもってしても、その効果が期待しえない状態で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したとき」をいいます。ここでいう「療養」とは、「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法」を言います。
なんだか難しい単語が並びましたが、平たく言えば、「これ以上治療してもよくならない状態」のことを、「症状固定」といいます。
症状固定を決めるのは医師
「症状固定」となったかどうかは、被害者様でも、保険会社でも、我々弁護士でもありません。これを決めるのは、「医師」です。
そのため、保険会社から「症状固定ではないか」などと打診されても、それに対して回答する必要はありません。保険会社も営利企業ですから、自分に有利な症状固定日を主張してきます。
あくまで、ご担当医さまから「症状固定です」と言われたときにだけ症状固定となるので、保険会社の話を鵜呑みにしてはいけません。
症状固定と言われたが痛みがある場合は通院してよいのか
ご担当医様が、「症状固定です」とおっしゃっても、まだ痛みが残っている場合があります。そうなった場合、その後に治療を受けても、原則として治療費として賠償請求することはできません(もっとも、重篤な後遺症が残っている場合など、その必要性・相当性が認められるときは、将来の治療費として賠償請求することができる場合があります)。したがって、治療に行っても治療費は賠償によって取り戻すことはできず、自費で健康保険などを活用して通院することになります。
もっとも、まったくの無駄ではありません。もし後遺症が辛いならば、我慢しないで通院を続けた方がいいでしょう。通院を続けておくと、後遺障害等級が認定されなかった場合に異議申し立てをする際に有利に考慮される場合があるからです。
症状固定時期は賠償額に大きく影響する
一般的に、治療費については、交通事故によって受けた傷の程度などに照らし、症状固定までに行われた必要かつ相当な治療行為の費用であるならば、事故との因果関係がある損害としてその賠償が認められています。
したがって、保険会社に言われるがまま症状固定すると、本来貰えるはずだった治療費がもらえなくなる場合があります。また、症状固定までの期間が短すぎると、むち打ち症などの他覚所見がない後遺症の場合、実際の痛みはたいしたことないのではないかと思われて、後遺症と認められない場合があります。
もっとも、長くのばせばいいというものではありません。例えば、後遺症を傷の大きさで判断する外貌醜状については、時が経てば少しずつ傷が薄くなっていきますので、早めに症状固定したほうがいいでしょう。
症状固定の前後で支払われる慰謝料が異なる
・症状固定前の慰謝料
症状固定までは、前述した治療費(付添監護費)、休業損害、そして慰謝料といった損害があります。このうち慰謝料については、傷害慰謝料(入通院慰謝料)と呼ばれています。これについては、入通院期間をもとにいわゆる赤い本の別表に基づき算定されます。
症状固定後については、後遺障害慰謝料というものがあります。これは、後遺障害等級認定がされた後に、その等級認定に沿った慰謝料が認められます。
等級に対応した慰謝料は以下の通りです。
1級 | 2800万円 | 2級 | 2370万円 | 3級 | 1990万円 |
---|---|---|---|---|---|
4級 | 1670万円 | 5級 | 1400万円 | 6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 | 8級 | 830万円 | 9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 | 11級 | 420万円 | 12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 | 14級 | 110万円 |
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
症状固定後の流れ
症状固定となった場合は、さっそく医師に後遺障害診断書を作成してもらい、後遺障害等級認定申請を行いましょう。申請をしなければ、後遺障害等級は認定されませんし、等級に沿った慰謝料ももらえません。申請の方法については、事前認定と被害者請求の方法があります。
症状固定についてのお悩みは弁護士にご相談ください
前述のように、症状固定についての判断は専門家である医師が行います。したがって、我々には何もすることはできません。しかし、症状固定の判断をどう扱うかに関しては、我々弁護士の方が専門家でしょう。また、保険会社との交渉についても、医師は対応してはくれませんから、弁護士にお任せいただいた方がよいでしょう。そして、保険会社との交渉が面倒だったり、辛かったりする場合でも、我々にお任せいただければと思います。
交通事故の被害にあった場合、その被害により生じた損害に対して、加害者から賠償をしてもらう必要があります。そのためには、加害者との間で損害の内容、損額の額、過失割合などについて交渉をしていくことになります。そして、交渉した結果、加害者との間で合意ができれば、示談が成立し、賠償金の支払いを得ることができます。交渉が長引けば、それだけ損害の補填は遅れますし、示談が成立しなければ、訴訟をせざるを得なくなり、解決までに長い時間と手間がかかります。つまり、交通事故の被害にあった場合、納得した内容で示談をまとめることができるかが重要となるのです。
交通事故における示談とは
交通事故が発生した場合、被害者と加害者との間では、賠償するべき金額を巡って様々な争点が生じますが、当事者間の交渉の結果、賠償額を合意して、交通事故に関する紛争を解決することを示談といいます。つまり、示談とは、訴訟手続によらずに法的紛争を解決すること意味し、民法上の和解契約の一つとして位置づけられます。なお、加害者と交渉するとはいっても、現在、自動車やバイクを運転する人のほとんどは、自動車保険(任意保険)に加入していることから、実際には、保険会社の担当者と示談交渉することになることが多いといえます。保険会社との間で示談が成立すると、免責証書、示談書といった書面を取り交わし、賠償金の支払いを受けることになります。
示談金に含まれているもの
交通事故の被害によって発生する損害には、大きく分けて、修理代、代車費用、携行品の損害といった物損と治療費、慰謝料、休業損害といった人損があります。示談金には、物損も人損も含まれることになり、同じタイミングで示談をすることになりますが、物損の方が先に損害額が確定することも少なくないことから、治療継続中に物損だけ先行して示談することもあります。また、治療の結果、後遺障害が認定された場合には、後遺障害に関する損害も示談金に含まれてきます。
交通事故の示談金に相場はある?
交通事故は、定型的に処理される部分はあるものの、事故によって発生する損害の内容や金額は千差万別ですから、示談金の相場というものを一概に定めることは難しいといえます。しかし、例えば、慰謝料については、治療期間に基づいて算定することから、治療期間の見込みが分かれば、示談金も見当が付きますし、後遺障害についても、認定された等級によって、損害額を見通すことが可能といえます。そのため、損害の費目ごとでは、示談時に受領するべき金額の相場をある程度は判断することができるので、保険会社との示談交渉では、そのような相場を見越しながら、合意する金額を検討していくことになります。
示談交渉の流れ
交通事故の損害は、物損と人損に分けることができますので、示談をする場合、それぞれ損害の算定をして金額の合意をすることになります。物損と人損は同時に示談をすることもありますが、先に損害額が確定する物損を先行して示談することもあります。
物損の示談においては、修理費やレッカー費用、代車費用は、被害者ではなく、業者に保険会社が支払うことにするなど、被害者への最終的な支払額以外の部分を話し合うこともありますし、修理費は、修理業者と保険会社の調査員が修理金額の協定を結ぶ形で決定することも多いです。
人損の示談においては、治療終了後に示談交渉する場合と、後遺障害認定申請後に示談交渉をする場合があります。前者は、治療によって、治癒に至った時、治癒とまではいかなくてもほとんど症状がなくなった時の示談交渉の流れであり、後者は、治療を継続したにもかかわらず、痛みやしびれが残ってしまった時の示談交渉の流れとなります。なお、いずれの場合でも、治療をいつまで続けるかなど、示談交渉に先立っての交渉が必要となるケースは少なくありません。
示談にかかる期間
示談にかかる期間を明確に定めることは非常に困難です。なぜなら、損害額はわずかであっても、過失割合で大きな対立があれば、示談交渉は長期化しますし、損害額がかなり大きくても、争点の少ない事故の場合、示談交渉がすぐに終わることもあるからです。そのため、以下に記載するのは、あくまで目安程度だと考えてください。
まず、物損の場合、事故後、1~2か月程度で示談することが多いといえます。もっとも、対立の大きな争点がある場合には、示談まで3か月以上かかったり、そもそも示談に至らないこともあります。
次に、人損の場合、治療終了、または、後遺障害認定申請の結果が出てから1~3か月程度で示談に至ることが多いといえます。人損の方が、損害額が大きくなる傾向もあり、その分だけ示談に時間を要することになります。人損のうち、死亡事故の場合、特に損害額は大きくなることから、示談にはそれなりの時間を要することになりますが、事故時に亡くなってしまった場合などでは、治療自体に長期間必要となる事故と比べると、死亡事故の方が事故時から示談まではかえって時間がかからないということもあります。
示談交渉が進まない場合の対処法
示談交渉がなかなか進まない理由はいくつかあります。
まず、示談をするためには損害を確定させる必要がありますので、治療が長期化する、後遺障害認定申請の結果が返ってこない状態では示談交渉を進めることはできません。この場合には、損害額が確定する時点までは待つほかないというのは実情です。
次に、損害額が決まっても、過失割合に争いがある場合には、なかなか示談交渉は進まず、結果的に訴訟を選択することになるケースもあります。また、過失割合も決まり、示談交渉を進めることができる状態になっても、保険会社の担当者の対応が遅いとか、相場以下の回答しか出してこないといった場合にも示談交渉は進みませんし、逆に、被害者の方が、被害者感情の高さ故に損害額にこだわり過ぎてしまう場合などでも示談交渉は進みません。この場合には、弁護士に相談するなど、第三者の意見を取り入れてみたり、保険会社の担当者の変更を申し入れるなどすることで示談交渉が進むことがあります。
加害者が無保険だった場合の示談交渉
交通事故における無保険とは、任意保険未加入と自賠責保険未加入の2つを意味しています。自賠責保険未加入は違法行為ですので、当然に問題ですが、事故を起こしたときに賠償金を用意する経済力もないのに任意保険未加入のまま自動車を運転する行為も極めて問題です。
このような無保険の相手方との事故にあってしまった場合、賠償金の獲得に苦労することが多いです。
まず、任意保険未加入の場合、自賠責から最低限の賠償金を受領したうえで、加害者本人と示談交渉を行い、加害者の財産がどの程度あるか検討しながら、解決を図ることになります。
次に、自賠責すら未加入の場合、加害者本人から賠償金の獲得が困難と見込まれることが多いことから、政府保障事業を利用して損害の補填を試みることになり、実質的には示談交渉をしないようなケースもありえます。なお、政府保障事業の利用にあたっては注意点もあることから、利用する場合には、利用のためのルールをよく確認する必要があります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故の示談交渉で注意すべきこと
示談交渉は「人身事故」でおこないましょう
交通事故にあった場合、怪我をして通院をしているにもかかわらず、事故直後はあまり痛くなかったので、物損事故にしてそのままにしてしまった、加害者から人身事故扱いにしないで欲しいと頼まれて物損事故にしてしまったということがあります。もちろん、その後の手続きにおいて一切もめることがないのであれば、物損事故のままだったとしても、保険会社から賠償金を得ることできれば問題ないこともあります。
しかし、怪我をしているにもかかわらず、物損事故というのはその時点で矛盾しているわけですから、交渉段階において争点がある場合には、物損事故のままにしていることが被害者に不利な事情として働くことがあります。
そのため、交通事故でけがをした場合には、必ず人身事故届を提出してください。
示談してしまうと撤回できません
示談交渉は、和解契約の一種でもあり、一度、示談を成立させた後、事後的に示談交渉をやり直すことはできません。理論上は、示談の前提になる事実を誤解していた場合などには、錯誤を主張して示談をやり直す余地はありますが、保険会社、加害者がやり直しに応じるとは考え難く、訴訟が必須と見込まれます。
示談交渉後にさらに損害の請求ができる例外的ケースとしては、将来的な後遺障害の発生が予想される場合があります。そのような場合には、示談をする際に、将来、事故による後遺障害が発生した時には再協議することを盛り込んでおくなどしておく必要があります。
示談をする大前提として、自らに発生した損害項目に漏れがないか、損害額は妥当かどうかなどを慎重に検討する必要があるのです。
示談を相手任せにしたり、焦ったりすると不利な結果となる場合があります
保険会社は、被害者に対して、加害者本人だけでは到底負担できない額であっても、損害賠償してくれる相手であって、被害者保護に有益な存在です。しかし、保険会社の担当者は、必ずしも被害者の利益に最大限配慮してくれるわけではありません。焦って示談したり、知識のないまま示談すると、不利な結果になることもあるので注意が必要です。
例えば、交通事故で車を買い替えた場合、買い替え諸費用を請求できる余地がありますが、多くの保険会社は時価額の賠償を持ちかけるだけで、買い替え諸費用の賠償ができることを保険会社の方から提案してくることはありません。そのため、被害者に十分な知識がないまま示談すると損をすることがあるのです。また、保険会社は、任意保険の基準で慰謝料を算定しますが、本来、被害者は裁判基準に基づいて慰謝料請求できます。そうすると、任意保険基準と裁判基準の差額が生じることになるわけですが、保険会社は、本来支払う必要のある裁判基準の慰謝料しか提示していないにもかかわらず、任意保険基準と裁判基準の差額の範囲で、あたかも被害者に譲歩しているかのような交渉を持ちかけてくることもあります。
損害賠償請求権には時効があります
交通事故の損害賠償の請求には5年間の時効があり、時効期間を経過させてしまうと請求自体ができなくなることから注意が必要です。もっとも、加害者が任意保険会社に加入している場合、保険会社は、被害者保護という社会的責任を担っていることもあり、よほどのことがない限り、時効を主張してくることないため、実際には大きな不安を持つ必要はないとはいえます。もっとも、人損ではなく、物損については、保険会社であっても時効を主張してくるケースもあることから、時効期間への注意を怠っていいわけではありません。
なお、令和2年4月1日以前の事故については、民法が改正される前の事故となり、時効期間は3年となっています。
成立前の示談書チェックポイント
示談交渉が無事にまとまり、示談が成立した場合に作成するのが示談書や免責証書と呼ばれる合意書面となります。この書面にサインをすれば、示談が成立し、事後に撤回はできませんから、内容をよく確認する必要があります。
まず、何より重要なポイントは示談書に記載された金額に間違いがないかという点です。示談書の作成に移行している時点で、損害額に争いはなくなっているのが通常ですが、示談金額が適正かどうかも今一度確認しておくことが無難です。
また、損害額の部分に注意がいきがちですが、事故の日付、当事者の名前など事故の内容に関する部分に誤りがないかも確認が必要です。誤記があった場合には、示談書や免責証書の有効性が問われかねないですし、単純に書き直しの手間が生じることもあります。
交通事故の示談交渉で、不安に思うことがあれば示談成立前に一度ご相談下さい
交通事故の示談交渉をする場合、過失割合が適正か、算定されている賠償額は妥当か、訴訟をするか示談をするかどちらが有利かなど、様々なことを考慮したうえで、合意するかどうかを決める必要があります。被害者が、交通事故に関する知識を持っていることはまれであって、保険会社の担当者の説明のままで示談することになってしまう恐れもあります。
交通事故の被害にあってしまった以上、適切な賠償を得て、損害を回復する必要はあるわけですから、示談交渉をする場合には、交通事故に関する専門的な知識を駆使しながら進めていくことが重要です。示談交渉にあたって不安に思うことがある方は是非お早めに弁護士に相談してみてください。弁護士に依頼をした場合、忙しい仕事の合間などに保険会社とやり取りする煩わしさからも解放されます。
交通事故に遭った結果生じる代表的なケガの一つとして、いわゆる「むちうち」というものが挙げられます。
しかし、よくあるケガであるにもかかわらず、適切な賠償を受けることが非常に困難な症状の一つでもあります。
このページでは、交通事故の結果、むちうちとなってしまった場合に適切な賠償を受けるための情報を掲載しています。
むちうちに対する保険会社の対応や、むちうちに対する賠償額算定の仕組み等を確認し、適切な賠償額を受け取れるようにしましょう。
むちうちとは?
むちうちとは、交通事故などによって体が衝撃を受けた際、頭部が急にゆさぶられた結果、首の筋肉や神経等が傷ついた状態をいいます。もっとも、「むちうち」は正式な傷病名ではないので、医師の診断としては、「頸椎捻挫」や「外傷性頸部症候群」などと記載されることが一般的です。
むちうちの主な症状
代表的なむちうちの症状として、首の痛みが挙げられます。
しかし、むちうちの症状は首以外の部位でも発生します。
肩、背中や腕の痛み、しびれ、めまい、頭痛、吐き気、耳鳴りなど、体の様々な部位にむちうちの症状が現れることもあります。
また、上述したような症状が、事故当日にはなく、事故から数日後に発生する方もいます。
むちうちの症状に気づいた際には、病院で医師に診てもらいましょう。
むちうちの主な治療方法
むちうちの治療を受ける際に、整形外科に通院するか、整骨院(接骨院)に通院するかの選択肢があります。
整形外科に通院する場合、治療の担当をするのは医師です。
整形外科における事故後の初期段階での治療は、頸椎の固定のためのカラー、鎮痛剤の投与・処方などが行われます。
また、炎症がおさまってきた際には、温熱治療なども行われるようになります。
他方、整骨院の場合、施術を担当するのは柔道整復師です。
柔道整復師は医師ではない以上、診察、検査や手術を行うことができません。
整骨院で受けられる施術としては、手技療法(手や指で体を擦る、押す、揉む、叩く、震わす等して刺激を与える方法)、物理療法(電気、光、温熱、冷却、超音波等の物理的エネルギーを使って)などが挙げられます。
むちうちで認定される可能性のある後遺障害等級と認定基準
後遺障害等級 | 認定基準 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
むちうちの症状に対する治療を行ったものの、症状が残存してしまった場合、後遺障害等級の認定を受けられる可能性があります。
具体的には12級13号もしくは14級9号の認定を受けることができるかもしれません。
12級13号に該当するには、むちうちの症状について医学的に証明ができる必要があります。
症状が医学的に証明できると言えるのは、レントゲン等の画像検査や神経学的検査などで異常が発見でき、それが交通事故と因果関係のあるものであり、自覚症状の原因とも一致すること、そして今後も完治の見込みは厳しいこと等を医師が証明した場合です。
仮に、証明が難しくとも、症状が医学的に説明可能であれば14級9号の認定を受けられる可能性があります。
14級の認定を受けるには、事故後、発生している症状について適切な治療を行い、症状が連続・一貫していることを通院時に医師に残してもらうことが重要です。
むちうちで請求できる慰謝料と慰謝料相場
同じむちうちの症状を訴える被害者でも、後遺障害等級認定を受けるかどうかによって、受け取ることができる慰謝料の金額が大きく異なります。
これは、後遺障害等級認定を受けた場合に、入通院慰謝料に加え、後遺障害慰謝料が発生するからです。
さらに、入通院慰謝料も後遺障害慰謝料も、弁護士が介入するかどうかによって、慰謝料の金額が大きく変動します。
それでは、それぞれの慰謝料が、弁護士が間に入ることによってどれぐらい金額が変わるのか見てみましょう。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、傷害慰謝料とも呼ばれることもあり、事故によってケガをしたことや、入通院をしなければならない苦痛(精神的損害)を受けたことに対する賠償です。
自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|
77万4000円 | 89万円 |
自賠責基準では、通院期間と実通院日数の2倍の小さい方に日額4300円(令和2年4月1日より前に発生した事故は日額4200円)をかけることで賠償額が求められます。
今回の例ですと、通院期間180日(6か月)と実通院日数90日の2倍のいずれも同じ180日ですので、これに4300円をかけます。その結果77万4000円の賠償額を算出できます。
他方、弁護士基準では、原則として、通院期間に応じて計算がされます。
通院期間6カ月に対応する入通院慰謝料は89万円ですので、これが賠償額となります。
今回の例では、実通院日数が確保できているので自賠責基準でもそれなりの賠償額が算出できます。
もっとも、6カ月で実通院日数90日というのは、週3,4回の高頻度での通院となり、あまり現実的ではありません。
実際は、大幅に自賠責基準の方が低い賠償額となるケースの方が多いでしょう。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、事故によって受けた症状に対する治療を行ったものの、後遺障害が残存してしまった場合に、被害者の精神的苦痛を慰藉するためのものです。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
入通院慰謝料とは異なり、後遺障害慰謝料は認定された後遺障害等級に応じて、慰謝料の金額が定められていますので、煩雑な計算は不要となります。
もっとも、自賠責基準では弁護士基準で受けられる賠償額の3分の1にも満たない賠償額となっています。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
むちうちで適正な等級認定・慰謝料請求するためのポイント
通院頻度を適切に保つ
被害者の方は、仕事をしていたり、家事・育児に時間がとられたり、多忙な方も少なくありません。
しかし、あまりにも通院日の間隔があいてしまうと、治療費の対応を保険会社から打ち切られてしまう可能性が高まります。
これは、通院が減ったのは、むちうちの痛み等の症状が緩和されたからだろう、と保険会社が考えるからです。
重要なのは、症状の程度に応じた治療を受けることです。
したがって、ほぼ毎日通院することもお勧めできません。
過剰な通院は、保険会社に対し、必要がないのに通院している可能性を強く疑わせ、治療費を打ち切られる要因となりかねないからです。
必ず整形外科を受診する
むちうちを治療するとき、整形外科ではなく、整骨院(接骨院)に通院される方がいます。
その方たちに聞くと、整骨院の方が、患部に対して施術の効果を実感できたり、営業時間が長かったりするため、通院されているそうです。
しかしながら、整形外科と異なり、整骨院の施術を担当する柔道整復師は医師ではありません。
そのため、整骨院の施術については、保険会社側から整骨院における治療の必要性が激しく争われることが多いです。
整骨院に通院したい場合であっても、必ず整形外科の許可もしくは指示に基づいて通院するようにしましょう。医師がその必要性を認めるのであれば、保険会社も治療の必要性を認めやすくなるからです。
通院中に保険会社からむちうちの治療費を打ち切られそうになったら
むちうちの場合、被害者がいくら痛いと感じていても、レントゲンやMRI画像を見ても明らかな異常が現れないことも珍しくありません。
画像上の異常が発見できない場合、被害者の訴える症状が、事故前からあった症状であったり、心因性の症状であったりすることを疑われやすい傾向があります。
また、保険会社の運用として、むちうちについては〇カ月、という運用を決めている会社もあるようです。
まだ通院を続けたいのに、保険会社から打ち切りを予告された場合、さらに治療期間が必要であることを保険会社に対して主張する必要があります。
それでもなお、打ち切られてしまった場合、通院をやめてはいけません。
症状がいつ治ったか決めるのは保険会社ではありません。
担当の医師が、被害者に対する治療が必要であると判断する限り、国民健康保険等を利用して、通院を続けることが重要です。
交通事故でむちうちになったら弁護士へご相談下さい
むちうちは、被害者にとって深刻な症状です。
しかしながら、多くのむちうちの症状を訴える交通事故被害者が、適切に賠償を受けられていなかったり、治療費を打ち切られて受けるべき治療をあきらめてしまったりしています。
もし、保険会社の対応に疑問を感じたり、適切な賠償を提示されていないと感じたりした場合には、ぜひ、弊所にご相談ください。
むちうち事案を多数取り扱う弁護士が、あなたが受けるべき適切な賠償額がどの程度かといった見通しのみならず、様々な点で依頼者一人一人の状況に応じたサポートを提供いたします。
被相続人との関係が、残念ながら生前悪かったため、相続人には一切の財産をやらないという趣旨の遺言を残されてしまう場合もあると思います。また、被相続人が愛人に「ぞっこん」で、死ぬ前に自分の子や妻にではなく愛人に財産全てを贈与してしまったなんて場合もあるかもしれません。そのような場合に役立つのが、遺留分侵害額請求です。
遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、わかりやすく言えば、被相続人が処分した財産の一部を取りもどす制度です。
被相続人には、生前はもちろん死後に至っても、自らの財産を自由に処分する権利があります。生前は贈与など、死後は遺言、遺贈や死因贈与といった方法が考えられます。
一方で、被相続人がすべての財産を勝手に処分できるようになってしまうと、遺された家族は生活していけなくなってしまう危険もあります。
そこで、遺留分という制度を設け、遺留分を侵害するほどの財産の処分を制限し、遺された相続人に一定の財産を残せるようにしたのが、遺留分侵害額請求という制度です。
遺留分侵害額請求の方法
では、遺留分侵害額請求とは、具体的にはどのようにすればいいのでしょうか。以下では遺留分侵害額請求をする方法とその後の流れを解説していきたいと思います。
相手方に遺留分侵害額請求の意思表示を行う
遺留分侵害額請求の方法は、相続放棄とは異なり、裁判所に出向かなくても、口頭で遺留分を侵害している相手方、すなわち、被相続人から財産を渡された相手に対して言えば効力が生じます。
しかし、口頭では、後々言った言わないの水かけ論に発展することも予想されることや、遺留分侵害額請求は時間が経つと消滅してしまうことから、以下のように内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示をしましょう。
内容証明郵便について
内容証明郵便で意思表示を行うことにより、その内容で郵便を相手方に出したことが分かります。また、配達証明オプションをつけることにより、いつ相手に届いたかが分かります。そうすると、相手は、そんな内容の意思表示は知らない、受け取っていないなどと言えなくなり、確実に遺留分侵害額請求ができます。また、上記のように、遺留分侵害額請求は時間制限があるので、いつ届いたかが分かれば、時間制限内に遺留分侵害額請求を行使したことがわかります。
内容証明郵便の出し方は、下記の郵便局のHPをご覧ください。
https://www.post.japanpost.jp/service/fuka_service/syomei/相手方と話し合う(協議)
内容証明郵便を発送し、遺留分侵害額請求権を行使したら、次はいよいよ相手方との交渉に入ります。
まずは相手方に任意で侵害額を支払うように交渉します。そして、その際には、請求側であればできる限りもらえる額が大きくなるように、遺贈された土地の価格が高価で、侵害額も大きいと主張したりします。
合意できたら和解書を作成し、遺留分を受け取る
何とか相手方が任意に支払ってくれるようになれば、和解をして、和解書を作成します。その際には、相手が約束を反故にしても大丈夫なように、強制執行ができるような文章の体裁にしておいた方がいいでしょう(公正証書で作成する場合ならなおさらです。)。また、後で作成したものであり、自分はそんな文書知らないなどと言われないためにも、公正証書として残しておくのも手ではあります。
合意できなかったら調停を行う
合意に至らなければ、調停を行うことになります。
調停の申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所か、当事者が合意で定める家庭裁判所です。
調停では、調停官という第三者を交えて、相手方と交渉していくことになります。第三者が入るので、直接の交渉よりも相手を説得しやすい面もありますが、当然費用も掛かりますし、請求する側も請求される側も一方的に有利な合意はできないでしょう。
調停でも合意できなかったら訴訟する
調停でも合意が形成されない場合、訴訟という最後の手段に出ることができます。合意なんて形成できないから最初から訴訟をしたいという方もいるかもしれません。しかし、調停前置主義により、調停を挟まないと訴訟というステージに至れません。
訴訟では、もちろん裁判官の判断である判決を貰うという手もありますが、途中で和解するという形で終わることもあります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
特別受益・生前贈与がある場合の遺留分侵害額請求の注意点
まず、特別受益とは、被相続人から共同相続人に対して、「遺贈」された財産、及び、婚姻や養子縁組のため、若しくは生計の資本として「贈与」された財産のことを言います。
生前贈与とは、主に相続対策で行われる、被相続人が亡くなる前に特定の者に、財産を贈与することです。
この、特別受益、生前贈与がされている場合、注意が必要です。なぜかというと、遺留分は前述のように、遺された相続人の生活を守ることが目的です。そうだとすれば、特別受益や生前贈与で財産を得ていたときは、遺産を事前に受け取っていたと判断され、遺留分が無くても大丈夫ということになります。そのため、特別受益や生前贈与を受け取っていると、遺留分が減額、最悪の場合なくなってしまうかもしれません。
複数の人に対して遺贈や生前贈与を行っている場合
まず、遺贈を受けた者と生前贈与を受けた者に関しては、遺贈を受けた者に先に遺留分侵害額請求をします。そして、それでも遺留分を侵害されているときに、生前贈与を受けた者に対して遺留分侵害額請求をします。これは、遺贈が相続財産から支出されるのに対し、生前贈与は、相続財産になる前に生前の時点で支出されているので、侵害の程度が遺贈の方が大きいと考えられているからです。
そして、遺贈を受けた者、又は、生前贈与を受けた者が複数いるときは、遺贈、生前贈与の金額に応じた割合で負担します。
税金がかかるケース
まず、遺留分侵害額請求によって金銭を得ることになった相続人には、相続税がかかります。もし、すでに相続税の申告を遺留分侵害額請求の前にしていた場合、修正申告することになります。
逆に金銭を失った側の相続人は、相続税の負担が軽くなります。すでに申告済みであるときは、更正の請求をしてください。
また、遺留分侵害額請求を受けて、お金に代えて資産の移転を行った者は、譲渡所得税を負担することとなります。
逆に、資産の移転を受けた者に関しては、お金の額と同額で資産を取得したことになり、取得費として税務上計算されます。
請求には時効がある
前述のように、遺留分侵害額請求には、時間制限、すなわち、時効があります。具体的には、相続が始まったこと及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ってから1年間遺留分侵害額請求を行使しないときは、遺留分侵害額請求をすることはできません。また、相続が開始したことを知らなくても、相続開始から10年経過したときも、遺留分侵害額請求をすることはできません。
もっとも、この時効は、遺留分侵害額請求の意思表示をするまでの期間であり、遺留分侵害額請求をして、遺留分を受け取るまで1年で済ませなければならないわけではありません。そのため、前述した内容証明郵便を速やかに送付するのが適切です。
遺留分侵害額請求のお悩みは弁護士にご相談ください
以上に述べたように、遺留分侵害額請求は、1年の時効という短い期間で遺留分侵害額があるかどうか判断し、遺留分侵害請求の意思表示をしなければ、相続が始まったからすぐに遺留分侵害額請求をしても、空振りをする恐れがあるばかりか、かえって、他の相続人などとの争いを加熱させる危険もあります。
そこで、遺留分侵害額請求については弁護士などの専門家に任せるのが安全と言えるでしょう。
弁護士は、遺留分侵害額請求の専門家で、交渉、調停、訴訟も任せることができます。
人が死亡すると、相続が発生します。亡くなった人(被相続人)の財産は、相続人が遺産分割協議をして分けることになりますが、必ずしも被相続人が生前希望していた内容で遺産が分けられるとは限りません。そこで利用できるのが、遺言書です。被相続人が遺言書を作成しておくことで、遺産の分け方を被相続人が決めることができます。また、遺言書を作成することで、相続人同士の争いを防止することも期待できます。ここでは、遺言書の法的な効力や注意点等を説明していきます。
遺言書とは
遺言書とは、被相続人が、自分の死後、遺産をどのように分けるか等を記載した文書です。きちんと作成された遺言書であれば、法的な効力が認められるため、相続人が協議をしなくても、遺言書の記載通りに遺産が分けられることになります。他にも遺言書に記載することで法的な効力が認められるものがあります(認知や祭祀に関する権利承継者の指定等)が、基本的には、遺産についてどのように分配するかを決めるものだと考えてよいでしょう。
遺書、エンディングノートとの違い
遺言書というのは、法律のルールに沿って記載されたものです。
この点が遺書やエンディングノートとは異なります。遺書やエンディングノートは、何を書くのかも自由ですし、決まった形式もありません。
この違いが、法的な効力の有無に影響します。遺書やエンディングノートの中に、例えば、全ての遺産を妻に相続させるという趣旨のことが記載されていても、それには何ら法律的な効力は認められません。したがって、遺書やエンディングノートを根拠に、財産を取得することはできません。
一方、法律のルールに沿って作成された遺言書であれば、その記載に法律的な効力が認められ、遺言書を根拠に、遺産を取得することができます。
遺言書の種類
遺言には、普通方式遺言と、特別方式遺言があります。一般的に用いるのは普通方式遺言です。普通方式遺言には、法律上3種類のものが定められています。①自筆証書遺言(遺言書が遺言書の全文、日付及び氏名を自書し、押印して作成するもの)、②公正証書遺言(遺言者が遺言内容を公証人に伝え、公証人が作成するもの)、③秘密証書遺言(遺言者が遺言内容を秘密にして遺言書を作成したうえで、公証人の関与のもと、封印をした遺言書の存在を明らかにするもの)3つです。いずれの遺言書でもあっても、法律上の効力に違いはありませんが、相続人は遺言の種類の違いには注意しておかなければなりません。
遺言書の保管場所
まず、自筆証書遺言と秘密証書遺言は、被相続人が自由に遺言書を保管する場所を設定できます。自宅の金庫内、机の引き出しの中、銀行の貸金庫など、様々なケースがあります。
なお、自筆証書遺言については、今般、法律が整備され、法務局に自筆証書遺言を保管できるようになりました。
公正証書遺言は、公証人が保管することになっているため、公証役場に保管されています。どこの公証役場で保管されているものかわからなくても、昭和64年1月1日以降に作成された公正証書遺言であれば、全国の公証役場で検索をかけてもらうことができます。
遺言書はその場で開封しないようにしましょう
遺言書は勝手に開封してはいけません。必ず、家庭裁判所において開封の手続きを行うようにしましょう(基本的には、検認手続きの中で開封することになります。)。この手続きを踏まなければ、様々な不利益を被ることになります。
まず、勝手に開封をしてしまうと、5万円以下の過料に科されることがあります。
また、勝手に開封してしまうと、他の相続人から、遺言書が偽造、変造された等と疑いをもたれ、紛争に発展していく可能性もあります。
他にも、遺言書を勝手に開封し、検認の手続きも行っていない場合には、遺言書をもとに、不動産の相続登記や預金の払い戻しをすることもできません。
開封には検認の申立てが必要
遺言書に封がされている場合には、裁判所の検認手続きの中で、開封をすることになります。
検認手続きとは、遺言書の状態(遺言書に何が書いてあるか等)を裁判所が確認する手続きです。これにより、遺言書の偽造や滅失等を防ぐことができます。
公正証書遺言及び法務局保管の自筆証書遺言以外の遺言書では、家庭裁判所で開封し、検認手続きを経る必要があります。
公正証書遺言及び法務局保管の自筆証書遺言は検認手続きが不要ですが、これは、偽造等の危険性が低いと考えられているためです。
「勝手に開封すると効果がなくなる」は本当か?
遺言書を、検認手続きを経ずに開封してしまった場合、遺言書の法的な効力はなくなってしまうのでしょうか。実は、そうではありません。勝手に開封してしまったかどうか、検認手続きを踏んでいるかどうかという問題と、遺言書の効力の有無の問題とは、全く無関係です。
検認手続きを踏んでいても、方式不備等で無効な遺言書の効力が、有効になるわけではありません。一方、きちんと作成された遺言書について、検認手続きを経ずに、相続人が勝手に開封してしまっても、その遺言の効力は有効なままです。
しかし、勝手に開封し、検認手続きを経なければ、他の相続人と紛争になる可能性が高まりますし、法務局や銀行で各種手続を経ることもできません。
知らずに開けてしまった場合の対処法
法律を知らずに遺言書を勝手に開封してしまったり、遺言書だと気づかずに開封してしまったりするケースは散見されるため、注意が必要です。
このような場合でも、裁判所にその旨を説明したうえで、検認手続きを経るようにしてください。
それでも、勝手に開封してしまったことで、一定のリスクを背負うことにはなります。典型的なのは、他の相続人から、「開封してから検認手続きを経るまでの間に遺言書の偽造がなされた」等と争われ、訴訟に発展していくことです。不要な紛争を回避するためにも、遺言書は必ず、検認手続きの中で開封をするようにしましょう。
遺言書の内容は何よりも優先されるのか
相続財産をどのように分配するかについては、被相続人の意思である遺言書が優先されます。そのため、一部の相続人が遺言書の内容に不服であったとしても、有効な遺言書である限り、遺言書の内容が実現されることになります。
遺言書の内容に相続人全員が反対している場合
遺言書の記載に、相続人全員が不服である場合があります。そのような場合にまで、遺言書の記載通りに遺産を分ける必要があるのでしょうか。
遺言書で遺産を分配されているのが、相続人だけであり、その分け方について、相続人全員が不服であるというような場合があります。この場合には、相続人全員の同意があれば、遺言書の内容と異なる遺産分割協議を行うことは可能です。
一方で、遺産を寄付したい・愛人に譲りたい等、相続人以外の第三者が遺産を譲り受けるというような内容になっている場合には、その第三者の同意もなければ、遺言書と異なる内容で遺産を分配するということはできません。
遺言書に遺産分割協議を禁止すると書かれていたら
遺言書には、遺産の全部または一部について、「その分割を相続開始の時から5年間禁止する」というように記載されることがあります。これは、遺言者が、すぐに相続人間で遺産分割協議をしてしまうと不都合があると考えるときに用いられる文言です。
遺産分割の禁止を遺言で定める場合には、最大5年間禁止することができ、基本的に、相続人は、この期間は、遺産分割をすることができません。
遺産分割の禁止について、相続人全員が反対である場合や、期限前に遺産分割協議ができるかどうかについては、遺言者が遺産分割を一定期間禁止した理由との関係で、個別に判断する必要があります。迷った場合には弁護士に相談しましょう。
遺言書の内容に納得できない場合
遺言書の内容が、一部の相続人に有利な内容で、納得ができないという場合があります。ただ、遺言書が有効であれば、遺言書の内容通りに遺産が分配されてしまうことになってしまいます。
もっとも、それが、特定の相続人の遺留分を侵害する場合には、遺留分侵害額請求をすることができます。遺留分というのは、最低限もらえる遺産というようなイメージでよいです。
遺留分侵害額請求を正しく行うには、様々な法律のルール等を正確に理解する必要がありますので、弁護士に相談することをお勧めいたします。
遺言書の通りに分割したいけれど、反対する相続人がいる場合
遺言書の記載通りに手続きを進めたいのに、遺言書の内容に反対する相続人がいる場合があります。
遺言書の記載内容次第では、遺言書通りの内容を実現するために、反対する相続人の協力が必要なケースがあります(典型例は、遺贈による不動産登記)。こういったケースでも、「遺言執行者」がいれば、遺言執行者の権限として、不動産登記等を進めることができますので、手続きを円滑に進めることができます。遺言執行者を遺言書で指定しておくか、相続人が遺言執行者の選任を裁判所に申し立てるのがよいでしょう。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺言書で指定された財産を受け取りたくない場合
遺言書で指定された遺産を取得したくないというケースがあります。例えば、倒壊しかけている建物や売却できる見込みのない土地等です。
このように、遺言書で指定された遺産を取得したくない場合、相続人全員と協議をして、遺言書とは違う内容で遺産分割できればよいですが、それが難しい場合には、相続放棄をするよりありません(家庭裁判所で期限内に手続きをする必要があります。)。
相続放棄は全ての遺産の取得を放棄するということです。価値の高い遺産だけを取得し、価値の低い資産は取得しないということはできないため、注意が必要です。
遺言書が2通出てきた場合
遺言書が2通発見されるということがあります。この場合、どちらの遺言書が有効なのでしょうか。
民法上、遺言者はいつでも遺言を撤回できます。そして、遺言の撤回の方法の一つとして、前に作成した遺言書とは矛盾する内容の遺言書を新しく作成するというものがあります。
したがって、遺言書が2通出てきた場合で、古い遺言書の記載内容と、新しく作成された遺言書の記載内容が抵触する場合には、新しい遺言書が有効と判断されることになります。
遺言書にない財産が後から出てきた場合
遺言書に従って遺産を分配したものの、後日、遺言書に記載されていない遺産が発見されることがあります。遺言者がその存在を忘れていた場合や、遺言を作成した後に取得した財産であるため、遺言書には記載されなかった場合等です。このような遺産は、未だ分配されていないため、別途、全ての相続人で、遺産分割協議が必要ということになります。
このようなことを避けるためにも、遺言書には「その他一切の財産は●●に取得させる」といった記載をしておくことをお勧めします。
遺産分割協議の後に遺言書が出てきた場合、どうしたらいい?
遺産分割協議を行った段階では、遺言書の存在をしらなかったものの、遺産分割成立後に、遺言書が発見されるケースがあります。こういったケースでは、「遺産分割協議は錯誤に基づき成立したものであるから取り消す」ということが認められる場合があります。取り消しができるかどうかは、遺言書の存在を知らなかったことについての重過失の有無、遺言と遺産分割の乖離の大きさなどによって、個別に判断されることになります。
後日の紛争を防止するために、遺産分割協議前に、遺言書が存在するかどうかについて、きちんと調査するのがよいでしょう。
遺言書が無効になるケース
遺言書は一定の場合に無効となる場合があります。実務的にも、遺言書の有効性を争う訴訟は多数見受けられます。
遺言書は、それが遺言者の真意であることを確証できるよう、厳格な要件があります。例えば、自筆証書遺言では、遺言書の全文、日付及び氏名を全て自書し、押印する必要があります。プリンターで印刷したもの、作成日の記載がないもの、押印がないもの等、一つでも要件を欠けば、全て無効です。
また、遺言作成時に、遺言能力がなかった場合にも、無効ということになります。民法上は、15歳に達した者は遺言をすることができると定めていますが、実務で問題となることが多いのは、認知症等により、判断能力がなかったというような場合です。
遺言書に関するトラブルは弁護士にご相談ください
相続や遺言書に関するトラブルは大変多いです。しかし、相続や遺言書の分野は非常に専門的であり、複雑な法律上のルールがあったり、個別的に判断しなければならないものばかりです。弊所は、相続分野の実績が豊富であり、遺産分割協議、遺留分減殺請求、使途不明金訴訟等、多数の事件を取り扱っています。遺言書についても、作成依頼から遺言書無効確認訴訟等まで手掛けています。これから遺言書を作成したいという方も、遺言書に関するトラブルが生じてしまっている方も、ぜひ一度ご相談ください。
相続は、被相続人(相続される側の人)の死亡によって開始します(民法882条)。相続の効力は、相続開始と同時に当然に発生し、本人でなければ認められないもの(使用貸借における借主の地位など)を除く全てが相続人に承継されることになります(民法896条)。
もっとも、相続人は相続方法を選択する意思が尊重されるべきです。
相続の選択肢として、①単純承認②限定承認③相続放棄の3つが存在します。
単純承認とは
単純承認とは、被相続人の権利義務が無限定に相続人に受け継がれるものであり、相続の効果がそのまま相続した人に発生するものです(民法920条)。
単純承認については、単純承認をしますという明確な意思表示がなされる場合に限りません。一定の期間内に限定承認や相続放棄の意思表示がされなかったこと等によって自動的に単純承認とされることがあります(民法921条2号)。
単純承認のメリット
単純承認のメリットは、特別な手続が不要という点にあります。相続人は、相続を知った時から3か月以内に、相続について、限定承認や相続放棄をする意思表示がされなければ、自動的に単純承認とされます(民法915条)。
例えば、限定承認の場合には、相続人の全員が共同で限定承認しなければならず、限定承認よりも手続的負担がないというメリットがあります(民法923条)。
単純承認のデメリット
単純承認をすると、プラスとマイナス含め、被相続人の相続財産の全てを相続することになります。また、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について限定承認や相続放棄をする意思表示がされなければ単純承認したとされます(民法915条)。
そのため、マイナスの財産がプラスの財産よりも大きい場合には、相続人が大きなマイナスの財産を引き継いで債権者に債務を支払わなければならないというデメリットがあります。
単純承認と見なされるケース(法定単純承認)
法定単純承認は、以下の3つの場合において、単純承認がなされたと法律上みなすものです。
具体的には、
①相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき(民法921条1号)
②相続人が相続の開始を知った時から3か月以内に限定承認や相続放棄をするという意思表示がなされなかった場合(民法921条2号)
③相続人が債権者を害することを知りながら相続財産を隠匿または消費等する場合(民法921条3号)
です。
相続財産の全部または一部を処分した場合
遺産の不動産を売却する等、相続人が自身の相続財産として認めた意思表示をしたといえる場合には、相続財産の全部または一部を処分したものとして、単純承認したとみなされます。
ただし、現状を維持する保存行為や民法602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、法定単純承認にあたりません(民法921条1号)。
不動産の名義変更を行った場合
不動産の名義変更という行為は、当該不動産という財産の所有権を自身に移すという処分行為にあたります。
したがって、不動産の名義変更を行った場合には、相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合という法定単純承認の要件に該当することになり、単純承認をしたとみなされます(民法921条1号)。
熟慮期間内に何も行わなかった場合
熟慮期間は、相続人が相続の開始を知った場合、相続人において、限定承認をするか相続放棄をするかについて慎重に考える期間のことをいいます。
相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に何も行わなかった場合、熟慮期間を経過したとして、単純承認がなされたものとみなされます(民法921条2号)。なお、熟慮期間は、相続人らの請求によって伸ばせますが、一度目以降は簡単に認められない傾向にあります(民法915条1項ただし書)。
相続放棄や限定承認後に財産の隠匿・消費などがあった場合
限定承認や相続放棄がなされた後、相続財産の全部または一部を隠した、内密に消費した、悪意で財産目録に記載しなかった場合には、単純承認をしたとみなされます(民法921条3号)。
相続財産の隠匿や消費は、限定承認や相続放棄がなされたという相続債権者や他の相続人の信頼を害する行為であるため、相続財産の隠匿や消費を行った相続人に対するペナルティとして、単純承認したものとみなされてしまうので注意が必要です。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
単純承認にならないケース
単純承認にあたりそうなケースにおいても、相続財産からの費用の支払いが社会通念上相当の範囲内といえる場合や現状維持の保存行為にあたる場合等には、単純承認にあたらないケースが存在します。単純承認にならないケースは、個別の事案に応じて判断されます。
葬儀費用を相続財産から出した場合
被相続人の葬儀費用の支払いは、社会通念上相当と認められる程度のものならば、処分行為にはあたらず、法定単純承認には該当しません。
葬式費用や通夜費用、火葬費用等は、通常社会的に支払うべき葬儀費用とされますが、墓石や仏壇の購入費用等の葬儀とは別個に支出される費用については含まれません。
生前の入院費を相続財産から支払った場合
被相続人の生前の入院費を相続財産から支払うことは、入院に伴う代価として通常支払うべき債務の支払いをするものです。
したがって、生前の入院費を相続財産から支払うことは、債務の弁済という現状を維持する行為として保存行為にあたるため、単純承認とみなされません(民法921条1号ただし書)。
形見分けは単純承認となるかどうか判断が分かれる
形見分けが単純承認となるかどうかの判断は、形見分けをしたものの経済的価値が認められるかどうかによって判断されます。
まず、机や椅子等の家財道具や相続財産の主要部分を占めるような価値を有するものを形見分けすれば、経済的に価値を有する財産を処分したものとして単純承認とみなされます。
一方、使い古した古着など、経済的価値がないといえるものを形見分けしたとしても、処分行為にあたらず、単純承認にはあたりません。
単純承認するかどうかはどうやって決める?
単純承認するかどうかは、プラスの財産とマイナスの財産を比較することが重要な基準となります。負債や相続税がプラスの財産を明らかに超える場合には、単純承認するよりも、限定承認ないし、相続放棄を選択した方がよいといえます。
もっとも、プラスの財産が多かったとしても、保証人等の相続人の義務・地位も考慮し、相続人にとって大きな負担となるおそれがある場合には、単純承認をするべきではありません。
単純承認したくない場合
限定承認は、プラスの財産がマイナスの財産よりも多い場合、プラスの財産を相続する方法です(民法922条)。しかし、限定承認は、共同相続人全員が共同で行わなければならず非常に手間がかかります(民法923条)。
相続放棄は、家庭裁判所へ相続放棄の申し出をすることで、プラスの財産及びマイナスの財産全ての相続を否定するものです(民法938条)。
しかし、相続放棄と限定承認は、熟慮期間という期間制限があり、期間の伸長も容易にできないという欠点があります(民法915条1項、同921条2号)。
単純承認についてお悩みの方は弁護士へご相談下さい
相続の方法としては、①単純承認②限定承認③相続放棄の3つが存在します。しかし、一度相続方法を決定してしまうと、基本的に撤回することができません。また、相続人の方が予想外のマイナス財産を相続してしまう等、相続人にとって大きな不利益となります。
弁護士に依頼すれば、相続財産の範囲を適切に確定し、相続人の方にとってどの相続方法が一番ベストになるかについて決定することができるため、単純承認でお悩みでしたら弁護士への相談をご検討ください。
-
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)