
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交通事故の怪我で仕事ができず減収した分は、休業損害として相手方に請求できます。休業損害は会社員だけでなく、働いておらず収入がない主婦の方や無職の方も受け取れる可能性があるのがポイントです。
ただし、職業や立場によって計算方法や必要な書類が異なるため注意が必要です。
本記事で、適切な休業損害の請求方法をしっかり確認しておきましょう。
休業損害とは
休業損害とは、交通事故の怪我で仕事を休んだことによる減収分の補償をするものです。
なお、休業損害と混同されやすいものに「休業補償」があります。どちらも事故による減収分を補償するものですが、以下のような違いがあります。
休業損害:相手の自賠責保険や任意保険に請求
休業補償:業務中や通勤中の事故について、労災保険に請求
ただし、この2つを二重取りすることはできません。どちらに請求すべきかは過失割合や賠償金額によりケースバイケースのため、弁護士に相談されると良いでしょう。
休業損害の計算方法
休業損害には3つの算定基準(自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準)があります。どれを使うかで金額が変わり、弁護士基準が最も高くなるのが基本です。
それぞれの基準の計算方法について、以下で詳しくみていきましょう。なお、任意保険基準は非公開のため省略しますが、自賠責基準に少し上乗せした程度とお考えください。
また、以下でいう収入とは、「手取り」ではなく「総支給額」でお考えください。
自賠責基準での計算
自賠責基準の休業損害は、以下の計算式で求めます。
【日額6,100円※×休業日数】
なお、実収入の日額が6,100円を超えると証明できれば、その金額にもとづいて請求できる場合があります。ただし、その場合も日額の上限は1万9,000円となるため注意が必要です。
また、怪我の治療のために有給を使った場合、その日は休業日数にカウントできるのが基本です。
弁護士(裁判)基準での計算
次に、弁護士基準での計算式をご覧ください。
【1日あたりの基礎収入×休業日数】
弁護士基準の特徴は、決められた日額ではなく、自身の収入をもとに休業損害を請求できることです。
この「1日あたりの基礎収入」の求め方について、以下で詳しくご説明します。
1日あたりの基礎収入について
弁護士基準で休業損害を請求する際は、「1日あたりの基礎収入」をきちんと定めることが重要です。
例えば、給与所得者であれば「休業損害証明書」等をもとに計算します。休業損害証明書とは、被害者の給与や事故による欠勤日数を記入する書類で、会社に作成してもらいます。
もっとも、1日あたりの基礎収入は被害者の職業や立場によって計算方法が異なるため、以下でそれぞれ解説します。
給与所得者
継続して完全休業する場合の給与所得者の1日あたりの基礎収入は、
「事故前3ヶ月の給与÷90日」という式で求めます。
例として、事故前3ヶ月の給与が75万円だったケースでは、
「75万円÷90日=8,333円」が1日あたりの基礎収入になります。
ただし、歩合制など給与の変動が大きい場合、事故前6ヶ月または1年の給与をベースに計算することがあります。
自営業者
自営業者の1日あたりの基礎収入は、
「事故前年の所得額÷365日」という式で求めます。事故前年の所得は、基本的に確定申告書をもとにします。
例えば、事故前年の所得が500万円だった場合、
「500万円÷365日=1万3,698円」が1日あたりの基礎収入となります。
とはいえ、確定申告をしていない方や、過少申告した方もいらっしゃるでしょう。その場合、帳簿・領収書・預金通帳等によって実際の所得を証明できれば、休業損害が請求できることがあります。
専業主婦(夫)と兼業主婦
専業主婦(夫)の1日あたりの基礎収入は、「賃金センサス」という平均賃金の統計から求めます。
一般的に、事故年の賃金センサスをもとに「女性の学歴計・全年齢平均賃金÷365日」という式で求めます(毎年約1万円前後となっています)。
一方、兼業主婦の場合、
賃金センサスから求めた「女性の学歴計・全年齢平均賃金÷365日」の金額と、「実収入の日額」を比べて、どちらか高い方を1日あたりの基礎収入とするのが基本です。もっとも、パート勤務であれば、賃金センサスから求めた日額の方が高くなることが多いでしょう。
なお、令和元年の賃金センサスのデータは、以下のページで確認できます。
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003084009
会社役員
会社役員の場合、1日あたりの基礎収入は、「役員報酬のうち労務提供の対価分」となります。つまり、利益配当ではなく実際に働いて得た金額ということです。
労務提供の対価分がいくらになるかは、役員(被害者)の地位・給与・業務内容や、会社の規模等を考慮して判断されます。なお、労務提供の対価分が多くなるケースは、「会社の規模が小さく、役員が現場仕事をしていたケース」「役員の専門性が高く、売上げに多大な貢献していたケース」等が挙げられます。
無職(失業中)
無職や失業中の方も、場合によっては休業損害を請求できます。
まず、内定先が決まっていた場合です。その場合、1日あたりの基礎収入は、就職先の給与や賃金センサスをもとにします。
また、就職活動中など、働く意欲があると認められた場合も請求が可能です。このとき、1日あたりの基礎収入は、前職の給与や賃金センサスをもとにすることが多いです。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
休業損害の計算時に用いる稼働日数とは?
稼働日数とは、「実際に労働した日数」のことです。ポイントは、1日あたりの基礎収入の金額にかかわるということです。
1日あたりの基礎収入を計算するとき、事故前3ヶ月の給与を「暦90日」ではなくこの「稼働日数」で割ることがあります。給与所得者が就労しながら一定の頻度で通院を行っている場合に正確に休業損害を計算するためです。稼働日数で割る場合は、実際に休業した日数を掛け合わせて休業損害を計算します。
なお、有給を取得した日は、働いていなくても給与は発生しているため、稼働日数に含むとされています。
また、遅刻・早退した日も、出勤しているため稼働日数に含むのが基本です。
休業日数の算定
休業日数とは、交通事故による怪我の治療のために仕事を休んだ日数です。ただし、怪我の内容や程度・治療期間によっては、相手方保険会社と争いになることがあります。
そこで、適切な休業日数を認めてもらうためのポイントを以下で確認しましょう。
休業日数を証明するためには
休業日数を証明するには、「休業損害証明書」と提出します。基本的に、休業損害証明書の欠勤・有給・遅刻早退日数が休業日数のベースになるためです。
ただし、必ず全日が休業日数として認められるわけではありません。自宅療養をした日や、自営業の方が休業した日は、通院していないため休業損害が否定される可能性があります。その場合、自宅療養や休業が必要だとする「医師の診断書」等を提出する必要があるでしょう。
土日に通院した場合
休業初日より連続して通院した土日・祝日は、休業日数にカウントできることがあります。一方、事故後に出勤してから土日・祝日に通院しても休業日数に含まれないため、会社の理解が得られるのであれば、しっかり通院してから出勤した方が良いでしょう。
しかし、このルールを適用できるのは任意保険基準のみです。弁護士基準では、たとえ休業初日より連続して通院した土日・祝日でも、休業日数にカウントできないため注意しましょう。
有給を使用した場合
有給を使って通院した日は、基本的に休業日数にカウントできます。有給を使えば減収はしませんが、自由に使えるはずだった有給を事故のせいで失うことになるからです。
一方、「代休」を使って通院した場合、そもそも休日に通院したことになり休業日数にはカウントできませんので、ご注意ください。
休業損害の計算例
ここで、実際にいくつかの例で休業損害を計算してみましょう。業種や収入別に解説しますので、参考になさってください。
給与所得者
【例1:事故前3ヶ月の給与合計120万円、休業日数30日】
〈自賠責基準〉 休業損害額:日額6,100円×30日=18万3,000円
〈弁護士基準〉 1日あたりの基礎収入額:120万円÷90日※1=1万3,333円 休業損害額:1万3,333円×30日=39万9,990円
【例2:給与にバラつきがある場合(事故1ヶ月前=25万円、事故2ヶ月前=20万円、事故3ヶ月前=23万5,000円、休業日数45日】
〈自賠責基準〉
休業損害額:日額6,100円×45日=27万4,500円
〈弁護士基準〉
1日あたりの基礎収入額:(25万円+20万円+23万5,000円)※2÷90日※1=7,611円
休業損害額:7,611円×45日=34万2,495円
※1:就労しながら一定の頻度で通院する場合は暦90日ではなく、稼働日数を用い、実際に休業した日数を乗じて計算する場合があります。
※2:給与の変動が大きいと判断された場合、事故前6ヶ月または1年の給与を平均する場合があります。
自営業者の休業損害の計算例
【例1:前年度所得(固定費込み)※1415万円、休業日数50日】
〈自賠責基準〉
休業損害額:日額6,100円×50日=30万5,000円
〈弁護士基準〉
1日あたりの基礎収入額:415万円÷365日=1万1,369円
休業損害額:1万1,369円×50日=56万8,450円
【例2:前年度所得(固定費込み)※11,500万円、休業日数90日ただし、節税のため所得を1,000万円で確定申告していた場合】
〈自賠責基準〉
休業損害額:日額6,100円×90日=54万9,000円
〈弁護士基準〉
1日あたりの基礎収入額:1,000万円※2÷365日=2万7,397円
休業損害額:2万7,397円×90日=246万5,730円
※1:固定費は、事業を維持・存続するために必要なものであれば請求できます。
※2:過少に確定申告していても、帳簿・領収書・預金通帳等によって実収入を証明できれば、実収入(1,500万円)にもとづいて請求できる可能性がありますが、保険会社側が交渉に応じるケースは少なく、裁判所も実収入の認定にあたってはかなり厳しい取扱をします。
主婦の休業損害の計算例
【例1:兼業主婦、パート収入月8万円、週4日勤務、通院日数50日】
〈自賠責基準〉
休業損害額:日額6,100円×50日=30万5,000円
〈弁護士基準〉
1日あたりの基礎収入額:①賃金センサス:388万100円※÷365日=1万630円
②パート収入:(8万円×12ヶ月)÷365日=2,630円
①>②のため、①が基礎収入となります。
休業損害額:1万630円×50日=53万1,500円
【例2:専業主婦、通院日数60日】
〈自賠責基準〉
休業損害額:日額6,100円×60日=36万6,000円
〈弁護士基準〉
1日あたりの基礎収入額:388万100円※÷365日=1万630円
休業損害額:1万630円×60日=63万7,800円
※令和元年の賃金センサスにおける「女性の学歴計・全年齢平均賃金」をもとにしています。
アルバイトの休業損害の計算例
【例:事故前3ヶ月のアルバイト収入合計36万円、休業日数20日】
〈自賠責基準〉
休業損害額:日額6,100円×20日=12万2,000円
〈弁護士基準〉
1日あたりの基礎収入額:36万円÷90日※=4,000円
休業損害額:4,000円×20日=8万円
※就労しながら一定の頻度で通院する場合は暦90日ではなく、稼働日数を用い、実際に休業した日数を乗じて計算する場合があります。
休業損害の計算についてわからないことがあれば弁護士にご相談ください
交通事故後の生活をきちんと送るためにも、休業損害をしっかり請求する必要があります。しかし、相手方保険会社は最低限の金額しか提示してこないことがほとんどですので、安易に応じるのは危険です。
弁護士であれば、弁護士基準でより高額な休業損害を請求することができます。また、休業日数で争いになったときも、弁護士は豊富な知識と経験を活かして効果的な主張ができますので、被害者個人で交渉するよりも適切な補償を受けられるでしょう。
「休業損害はいくらもらえるのか」「相手方保険会社の提示額は妥当なのか」といったご不安がある方は、ぜひお気軽に弁護士法人ALG&Associatesへご相談ください。
交通事故に遭い人目につく部位に大きな傷跡が残ってしまったら、身体だけではなく心も深く傷ついてしまうことでしょう。また、人前に出る職業や外見が重視される職業の方の場合、仕事にも影響が出てしまいます。
こうした問題をお金で解決することはできませんが、だからといって適正な賠償を受けられなくて良いというわけではありません。適切な後遺障害等級の認定を受け、後遺症に見合った損害賠償金を受け取りましょう。
そこで今回は、後遺障害のひとつである「外貌醜状」について、特に後遺障害等級認定を受けるための条件を中心に解説していきます。
外貌醜状とは
外貌醜状とは、衣服で隠れない手足以外の部位に、人目につく傷痕が残ってしまった場合に認定される後遺障害です。
衣服で隠れない手足以外の部位というのは、顔・頭・首など、普段の生活や仕事をするうえで人目に触れる部位です。「外貌」と呼ばれることもあります。
そして、人目につく傷痕とは、一定以上の大きさや見た目のあざ、切傷の痕、手術痕、欠損、ケロイド、皮膚の変色などです。
では、具体的にどのような傷痕が外貌醜状として認められるのでしょうか?
以下、みていきましょう。
後遺障害等級認定を受けられる?
顔・頭・首などに残った傷痕がある程度人目につくものであれば、外貌醜状として後遺障害等級認定が受けられます。
しかし、傷痕の大きさ・長さの測り方や、人目につくといえるかどうかは主観に左右されてしまうので、「ここに、この程度の傷が残れば外貌醜状として認められる」と言い切るのは難しいところがあります。
とはいえ、外貌醜状として後遺障害が認められる一定の条件は設けられています。
外貌醜状の後遺障害等級が認められる条件
等級 | 障害の部位 | 傷跡の詳細 |
---|---|---|
7級12号 | 頭(頭部) | 頭部に残った手のひら大以上の瘢痕または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損 |
顔(顔面部) | 顔面部に残った鶏卵大面以上の瘢痕または10円硬貨大以上の組織陥没 | |
首(頚部) | 頚部に残った手のひら大以上の瘢痕 | |
9級16号 | 顔(顔面部) | 顔面部に残った長さ5cm以上の線状痕 |
12級14号 | 頭(頭部) | 頭部に残った鶏卵大以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損 |
顔(顔面部) | 顔面部に残った10円硬貨以上の瘢痕または長さ3cm以上の線状痕 | |
首(頚部) | 頚部に残った鶏卵大以上の瘢痕 | |
14級4号 | 腕(上肢) | 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの |
14級5号 | 足(下肢) | 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの |
隠れる部分は醜状として認められない
外貌醜状は、「人目につく程度以上のもの」であることが後遺障害として認められる要件のひとつとされています。そのため、眉毛や髪の毛等で隠れる部分に残った傷痕や、メイクでごまかせる程度の傷痕は、外貌醜状として後遺障害等級の認定を受けられない可能性が高いです。
手のひら大は被害者の手が判断基準
外貌醜状は、「人目につく部分に残った傷痕が手のひら大以上かどうか」が認定基準のひとつとなります。
手のひら大とは、指の部分を除いた、被害者の手のひらの面積を意味しています。つまり、被害者の年齢や体格によって、後遺障害等級の基準を満たす傷痕の大きさが変わることになります。
なお、手のひら大以上かどうかはあくまで傷痕の面積で判断するので、傷痕の長さが手のひらより長い場合でも後遺障害等級は認定されません。
また、複数の傷痕が残っている場合は、すべての傷痕の大きさを合計した面積が手のひら大以上かどうかを確認します。
鶏卵大の大きさはどれくらい?
鶏卵大とは、鶏の卵の大きさを指します。一般的に、傷痕の面積の合計が直径5.4センチメートル(長さは6センチメートル程度、幅は4センチメートル程度)を上回る場合に、鶏卵大以上の傷痕があると判断されます。
線状痕とは
線状痕とは、切り傷の痕や手術の縫合痕など、線状に残った傷痕をいいます。一般的に、傷痕の長さが一定以上かどうかという基準で後遺障害にあたるかどうかを判断します。
なお、近い位置に複数の線状痕が残っている場合には、面積や長さ等を合計して後遺障害等級の基準を満たすかどうか確認することになります。
欠損とは
欠損とは、身体の一部が欠けてしまっている状態のことです。
外貌醜状では、頭蓋骨の一部が失われており、その大きさが手のひら大以上の場合に、後遺障害等級が認定されます。
また、鼻の骨や耳が失われた場合には、欠損障害・機能障害として等級認定されるのが通常ですが、外貌醜状として認定される等級の方が重いときは外貌醜状の後遺障害等級が認定されます。
組織陥没とは
組織陥没とは、身体の一部がくぼんでしまっている状態をいいます。
外貌醜状の場合には、顔に10円硬貨の大きさ以上のくぼみが残ってしまったときに、後遺障害として認められます。
瘢痕とは
瘢痕とは、いわゆる傷痕のことです。あざや火傷の痕(ケロイド)といった傷痕も含まれます。
後遺障害として認められる瘢痕は、手のひらや鶏の卵、10円硬貨の大きさと比較して判断されます。
なお、近い位置に2つ以上の瘢痕が残っているケースでは、それぞれの面積を合計した大きさが基準の面積を上回るかどうかを確認します。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
等級認定には後遺障害診断書が必須です
後遺障害等級認定を申請する際には、必ず後遺障害診断書を提出しなければなりません。
後遺障害診断書とは、医師が作成する、後遺症の内容について詳しく記載した書面です。外貌醜状の場合には、主に傷痕の長さ・大きさ・状態などを記載します。
後遺障害診断書は、書面審査だけでなく、次項で説明する審査面接でも参考にされます。症状に見合った等級認定を受けるためにとても重要な書類なので、医師に作成してもらったら、誤りや不足する情報がないことをしっかり確認しましょう。
自賠責損害調査事務所の審査面接について
後遺障害等級認定は書面審査のみで行うのが基本ですが、外貌醜状に関しては、対面の面接で傷痕の大きさの計測、形状・色・状態の確認などが行われます。そのため、等級認定を申請した被害者は、後遺障害等級認定の審査を行う自賠責損害調査事務所に出向き、審査担当者の面接を受ける必要があります。
審査面接では、申請時に提出した後遺障害診断書や傷痕の画像、カルテの写しといった資料を参考に、本当に後遺障害にあたるのかが確認されます。しかし、傷痕の測り方や人目につくといえるかどうかといった判断には、どうしても審査担当者の主観が入ってしまいます。
審査担当者によっては不利な状況に陥ってしまうことがあるので、審査面接を受けるときは弁護士に同行してもらうことをおすすめします。
外貌醜状は逸失利益が問題となることが多い
外貌醜状は、基本的に運動能力などの身体機能そのものには影響しないため、逸失利益の有無が争われがちです。逸失利益とは、後遺障害の影響で減ってしまった収入・利益のことです。
この点、モデル・俳優といった人前に出る仕事やホステス等の接客業に就いている人は、外見が仕事に大きく影響するので、逸失利益が認められる可能性が高いでしょう。
一方、外見が仕事に直接影響する職業でない場合、保険会社は逸失利益を認めなかったり、認めても通常よりも少ない金額しか支払わなかったりすることがあります。
しかし、逸失利益の有無や金額は、被害者の職業だけでなく、傷痕の程度・残った部位、被害者の年齢などの様々な事情を考慮して判断されるべきです。適正な賠償を受けたいのであれば、保険会社の主張を鵜呑みにせず、資料や証拠をしっかりと準備して交渉に臨みましょう。
傷跡が残ってしまったら弁護士にご相談ください
外貌醜状が認められるか、認められた場合にどのような賠償をどれくらい受けられるのかは、判断する人の主観に大きく影響されます。さらに、医学的・法的な知識も必要なので、被害者の方おひとりでどういった賠償を受けられるのかを知ることは困難でしょう。顔や頭部などの目立つ部分に傷痕が残ってしまいお困りの方は、一度弁護士にご相談ください。
「どんな重さの後遺障害が認定され」、「どれだけの逸失利益が認められるか」は、弁護士の考えや裁量にも大きく左右されます。そのため、交通事故問題に強く、医学的知識を備えていることはもちろん「信頼できる」弁護士を選ぶことが大切です。弁護士との相性をご確認いただくためにも、まずは専任のスタッフに事情をお聞かせください。問題が解決できるまで、お心に寄り添った対応をさせていただきます。
遺留分とは
遺留分とは、簡単に言ってしまえば、一定の立場の相続人に保障される遺産の取得分のことです。
本来、遺産を誰にどの程度渡すかは亡くなった方(被相続人)の自由ですので、仲の良かった友人に渡すこともできますし、愛人にも渡すこともできます。
その一方で、遺産の処分を自由に認めると、被相続人の収入に頼って生活していた家族が困ることもあります。
そのため、被相続人の配偶者や子どもなどに遺留分を認め、遺産の一部が渡るように法律上、定められています。
遺留分の請求が認められている人
遺留分は、被相続人の財産をあてにして生活していた立場の相続人のための制度です。
そのため、被相続人の配偶者や子ども、子どもがいない場合には被相続人の父母に遺留分が認められます。
遺留分の請求が認められていない人
被相続人の財産をあてにして生活をしているとしても、遺留分が認められない場合があります。
兄弟・姉妹
法律上、被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められません。
これは、一般的に被相続人の兄弟や姉妹が、被相続人とは別に生計を立てていることが多く、遺留分を認めずとも生活が困窮するとは考えにくいからであるとされています。
相続放棄した人
相続放棄は、プラス・マイナスを問わず、被相続人の遺産の一切を放棄する行為です。
そのため、一度相続放棄をした者は、それ以降、初めから「相続人」ではなかった者として扱われます。
そして、初めに申し上げたように、遺留分は、一定の立場の相続人に保障されるものです。
「相続人」ではない以上、遺留分は保障されません。
相続欠格者にあたる人
被相続人を騙したり、脅したりして遺言を作成させた者や、故意に被相続人を殺して刑罰を受けた者を含め、相続権を当然に失う場合があります。
そのように、法定の事由があるため当然に相続権を失う者のことを相続欠格者といいます。
相続欠格者に当たった人は、相続権を失う以上、遺留分を受け取ることも認められません。
もっとも、遺留分が認められる相続人の子どもに相続権がある場合、代襲相続によってその者に遺留分が認められます。
相続廃除された人
相続人の廃除とは、相続人となりそうな者(推定相続人)から虐待や侮辱を受けたり、著しい非行があったりする場合に、被相続人の意思で相続資格を失わせる手続のことです。
廃除の結果、その者は相続人ではなくなるので、遺留分が認められることはありません。
もっとも、相続欠格者の場合と同様に、代襲相続が発生した場合、代襲相続人に遺留分が認められます。
遺留分を放棄した人
遺留分の放棄とは、相続を放棄する場合と異なり、遺産を受け取る権利をすべて失うのではなく、遺留分のみを放棄することをいいます。
遺留分を放棄した場合、その者は遺留分に基づく権利行使をすることができなくなりますが、遺産の分割に参加したりすることは可能です。
もっとも、遺留分を被相続人が亡くなる前に放棄したい場合、家庭裁判所の許可が必要とされています。
このような許可が必要とされるのは、遺留分制度を潜脱するために、被相続人や他の相続人となる者が遺留分の放棄を強要することを防ぐためです。
遺留分侵害額請求権と代襲相続
上述したように、代襲相続によって、遺留分を取得できる場合があります。
そもそも、代襲相続とは、相続人となるべき者が相続の時点で何かしらの事情で相続ができない場合に起きる相続のことを言います。
相続欠格者や廃除を受けた者の相続人は、代襲相続によって遺留分を取得する場合がありますが、相続放棄をした者の相続人は代襲相続によって遺留分を取得できません。
遺留分の割合
遺留分を取得したものが、その程度遺産を受け取れるかは、その者の遺留分割合によって決まります。
例えば、被相続人に配偶者がいて、子どもが二人いた場合を例に考えてみましょう。
まず、被相続人の遺産のうち、1/2が相続人全員の遺留分となります。
そして、その上で、その1/2にあたる遺産の1/4が配偶者によって取得される遺留分割合となります。
さらに、残った子どもたち2人それぞれが取得できる遺留分を求めるには、配偶者が取得した遺留分を除いた1/4を人数で割る必要があります。
すると、子どもたちは、それぞれ、1/8ずつの遺産について遺留分を持っていることになります。
相続人 | 全員の遺留分の合計割合 | 配偶者 | 子供 | 父母 | 兄弟 |
---|---|---|---|---|---|
配偶者のみ | 1/2 | 1/2 | × | × | × |
配偶者と子供 | 1/2 | 1/4 | 1/4÷人数 | × | × |
配偶者と父母 | 1/2 | 2/6 | × | 1/6÷人数 | × |
配偶者と兄弟 | 1/2 | 1/2 | × | × | × |
子供のみ | 1/2 | × | 1/2÷人数 | × | × |
父母のみ | 1/3 | × | × | 1/3÷人数 | × |
兄弟のみ | × | × | × | × | × |
遺留分の計算方法
実際に遺留分額を計算する場合、非常に複雑な計算が求められます。
例えば、上述の例で、以下のような事情があったとしましょう。
- 被相続人のプラスの財産は預貯金200万円のみ
- 被相続人の借金が60万円あった
- 被相続人が配偶者に生前贈与として20万渡していた
この場合、まず、基礎財産を求める必要があります。
これは、「基礎財産=積極財産+贈与財産(特別受益)の価額―消極財産」によって求められますので、
基礎財産=200万円+20万円-60万円=160万円となります。
また、各相続人の遺留分額は、「遺留分額=基礎財産×個別的遺留分」で求められます。
すると、配偶者と
配偶者の遺留分額=160万円×1/4=40万円
子ども一人の遺留分額=160万円×1/8=20万円
となります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺留分を貰うには、遺留分侵害額請求を行う
相続の結果、遺留分が侵害されている場合、遺留分侵害請求を行うことにより、自身の遺留分を渡すよう求めることができます。
ただ、遺留分侵害請求権は、相続開始および減殺すべき遺贈等があったことを知ったときから1年間しか行使しないと、時効によって消滅する性質をもった権利です。
そのため、被相続人の財産が相続人でない者の下に渡っていると気づいた段階で早期に専門家に相談することが重要となります。
遺留分を渡したくない場合にできること
相続人の遺留分を侵害してしまった場合、その相続人が遺留分侵害請求を行わない場合には、遺留分を渡す必要はありません。
もっとも、もし遺留分侵害請求をされた場合には、その相続人の主張する遺留分額を精査する必要があります。
よく見てみると、遺留分侵害請求を行っている相続人が、被相続人の財産を生前受け取っている場合があり、渡す金額を減らしたり、0にしたりできることがあります。
他にも、相続人が相続財産にある不動産等の財産の価値を高く見積もっていることもあり、その場合には鑑定書等の資料をもって不動産の適切な価値を算出することにより、支払う額を小さくできる可能性があります。
遺留分の権利者が亡くなった場合はどうなる?
遺留分の権利者が亡くなった場合、その者の相続人が遺留分権利者の地位を受け継いで遺留分侵害請求を行うことができます。
ただ、亡くなった権利者の相続人が複数人いる場合、相続の方法によって各相続人が取得する遺留分の割合が変動し、ひいては行使できる遺留分侵害請求の金額も変動することがあります。
遺留分に関するお悩みは弁護士にご相談ください
遺留分は非常に強力な権利である一方で、認知度が高くないためか、相続時に頻出するトラブルの原因です。
実際、遺留分を意識して講じた対策が、実は有効な対策となっておらず、逆に大きなトラブルを招いてしまったケースもあります。
また、遺留分の計算が非常に煩雑であるため、遺留分侵害請求に関する紛争は非常に複雑な主張が展開されることがあります。
そういった場合に、ご自身で対応すると、法的に全く意味のない主張を展開してしまう場合があるのみならず、かえってご自身に有害な主張を行ってしまう場合もあります。
そういった問題を避けるためにも、生前の相続の対策も、そして相続開始後のもめごとも、一度、弁護士にご相談ください。
ご相談の結果、ご自身では気づけなかった解決が見つかるかもしれません。
相続が始まれば、遺産分割協議をして、財産を相続人で分ける必要があります。相続人が一人ならもめることはありませんが、複数いれば、誰がどの財産を相続するかでもめることは必至でしょう。以下では、家族同士でもめやすい最大の場面と言える遺産分割について解説しますので、ぜひ参考になさってください。
遺産分割協議開始前に確認しておくこと
遺産分割前に、確認しておくことがあります。確認すべきことを確認せずに遺産分割協議を進めても、無効になる場合がありますので、確認すべきことは慎重に確認をとってから進めましょう。
相続人全員がそろっていることを確認する
遺産分割協議をする前に、相続人全員が遺産分割協議に参加していることを確認しましょう。相続人の一部を忘れたまま、遺産分割協議をすすめても、遺産分割協議が無効になりますので、相続人全員の参加を、戸籍謄本をとって確認しましょう。
相続する財産を把握できているか確認する
相続財産に何が含まれているかを確認することも必要です。相続財産は、プラスの財産だけでなく、負債などのマイナスの財産も把握しておかないと、後々莫大な借金があったときに取り返しがつかなくなる恐れがあります。また、あとでプラスの財産がたくさん出てくると、遺産分割協議をやり直す必要が出てくるかもしれません。
そこで、何が相続財産に含まれるのか、財産目録を作成して、相続財産を把握してから遺産分割協議を開始することをおすすめします。
遺産分割協議の流れ
まず、戸籍謄本等を取り寄せて、相続人を確定します。
次に、相続財産を調査して、相続財産に何が含まれ、何が含まれないかを明確にします。その際、財産目録を作成すると、その後の話し合いがスムーズに行われます。
そして、相続人全員で、遺産分割の話し合いを行います。
話合いがまとまった場合、遺産分割協議書を作成して、遺産分割を終了します。
以上のような流れで、遺産分割協議は行われていきます。
遺言書がある場合の遺産分割協議
遺言書がある場合、遺産分割協議はどのようになるでしょうか。以下では、遺言書のある場合の遺産分割協議の進行を解説していきます。
遺言書が詳細に書かれており、内容に不満がなかった場合
遺言書が詳細で、どの遺産を誰に分ければいいかが明白になっている場合、不満がなければ、遺言書の通りに分割して終了させてもよいでしょう。
遺言書の内容に不満がある場合
遺言書の内容に不満がある場合、相続人同士で話し合いを行う必要があります。
遺言書の内容は絶対に順守する必要はなく、相続人全員の合意があれば、遺言の内容と異なった遺産分割をすることもできます。
したがって、遺言の有効性を争うと言った場合以外は、基本的に話し合いで、遺言の内容を変更するようにお願いすることになります。
割合のみで具体的な内容が書かれていなかった場合
「妻に遺産の半分、子にはそれぞれ4分の1を渡す」という遺言がされたとき、どの遺産を誰に渡せばいいのかわかりません。そのため、誰が何を相続するのかについて、相続人の間で協議する必要があります。
したがって、遺言の内容に争いがなくとも、このような場合は、別途遺産分割協議をする必要があります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺産分割協議で話し合う内容
遺産分割協議では、遺産分割に関して話し合います。
例えば、前述のように誰が何を相続するのかを決める必要があるため、その点に関して遺産分割協議で詰めていきます。
また、誰に何を相続するのかを決めた後も、相続の方法について、現物をそのまま譲渡するのか、あるいは、売却して現金を相続するのか、又は、現物を共有するのか、現金にして分けるのかなど、分け方についても話し合う必要があります。
話し合いは電話やメールでも構わない
話し合いをすることは必要ですが、話し合いには直接会って話し合う方法だけでなく、電話やメール等を駆使することも可能です。
したがって、密にならないように遠隔地からZOOMなどを使って遺産分割協議をすることも可能です。
話し合いがまとまったら遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議について、相続人全員での話合いがまとまった場合、遺産分割協議書を作成しましょう。遺産分割協議書は、法律上作成が義務付けられているわけではありません。
しかし、いざ遺産分割をしようとしたとき、前言を撤回されたり、やっぱりあれはなしと言われてしまうと困ってしまいます。
そのため、遺産分割協議書を作成して遺産分割後のトラブルを防止しましょう。
遺産分割協議証明書でもOK
遺産分割協議書とは別に、遺産分割協議証明書というものがあります。
これは、遺産分割協議が整ったことと遺産分割協議の内容を証明するものです。
遺産分割協議書との違いは、署名押印する相続人が一人でいいことです。遺産分割協議書では、相続人全員の署名押印がなければ、無効となるので大きな違いと言えるでしょう。もっとも、相続登記など全員分の証明が必要な場合もありますので、その場合は、相続人全員の署名押印が必要になります。また、遺産の内容すべてを記載する必要がある遺産分割協議書とは異なり、遺産分割協議証明書は、署名押印する相続人の相続する財産のみ記載すれば有効になる点が異なります。
遺産分割協議証明書も遺産分割協議書も効力はほぼ同じです。しかし、相続登記などで全員分の署名押印が必要な場合、一人分の遺産分割協議証明書では遺産分割協議書と同じ効力が得られないので、注意が必要です。
遺産分割協議がまとまらなかった場合
遺産分割協議がまとまらない場合、そのまま協議を続けても、埒が明きません。そのため、裁判所などの調停機関に入ってもらい、協議を続けることになります。これを、遺産分割調停と言います。
また、遺言の無効確認など、遺産分割における法的な論点に関しては、裁判によって決着をつけてから、調停をすることもあります。
遺産分割協議で揉めないために、弁護士にご相談ください
遺産分割協議は、遺言の取り扱いなど、極めて法的に繊細な部分を含みます。また、遺産分割協議は、遺言があってももめることが多い場面でもあります。相続人同士によるお話合いで決着をつけることも可能ですが、後々法的に考えると不利な遺産分割協議であると気づいて、もめることも考えられます。そのため、遺産分割協議を専門家である弁護士にご依頼された方がよろしいかと存じます。
面会交流は、離れて暮らす親子の大切な交流の場です。子供の健やかな成長のためにも、離れて暮らす親から愛情を受け取れる機会を確保することは大切です。しかし、子供のことを想うからこそ、面会交流をさせたくないと考える親心もあるでしょう。
このように、面会交流について、父母の意見が対立してまとまらない場合には、「面会交流調停」を申し立てるという選択肢があります。
ここでは、面会交流調停を申し立てることをおすすめするケースや、面会交流調停の概要、手続の流れ、申立ての方法等について解説していきます。
面会交流調停とは
「面会交流調停」は、名前のとおり、面会交流(離婚した、あるいは別居しているため一緒に暮らしていない親子が交流すること)について取り決める調停手続です。そもそも面会交流を実施するかどうか、実施する場合にはいつ、どこで、どのように行うのか、日程変更の連絡はどうやって取り合うのか等、面会交流の細かい条件について、調停委員を介して親同士で話し合って取り決めます。
特に次のようなケースでは、面会交流調停を行うことをおすすめします。
- 別居中、子供と会わせてもらえない
- 離婚後に子供と暮らすことになった親が面会交流を拒否するため、子供と会えない
- 子供が虐待を受けていないか、養育環境に不安がある
- 事情が変わったため、面会交流の条件を変更したい
面会交流調停の流れ
面会交流調停は、以下のような流れで行われます。
①裁判所への申立て
まず、管轄の裁判所(相手方の住所地のある家庭裁判所、またはお互いに合意して決めた家庭裁判所)に申し立てることで、調停が始まります。
②調停期日の指定
申立て後、裁判所が日程を調整して調停を行う日時(調停期日)を指定するので、この期日に裁判所に出向いて話し合いを行います。
③-1 調停の成立
話し合いの結果、父母が合意すれば調停が成立し、合意内容に従って面会交流が実施されます(実施しないことに決まった場合は実施されません)。
③-2 調停の不成立
話し合いがうまくまとまらなかった場合、調停は不成立となって調停は自動的に審判に移行し、裁判所が面会交流に関する判断を下すことになります。
申立てに必要な書類や費用について
面会交流を申し立てるためには、下記の書類が必要です。
- 面会交流調停の申立書 3通
- 事情説明書(申立書に付随しています)1通
- 調停に関する進行照会書(申立書に付随しています)1通
- 連絡先等の届出書 1通
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)1通
また、必要な費用は次のとおりです。
- 収入印紙代:子供1人について1200円
- 郵便切手代:1000円程度(裁判所によって異なります)
申立書の書き方と書式
面会交流調停の申立書の書式は、下記の裁判所のホームページからダウンロードできます。
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazityoutei/syosiki_01_30/index.html
書式に従って記入すれば良いので、特に書き方に迷うことはないでしょう。
ただし、申立書は相手方にも送られるため、現在の住所等を知られてしまいます。相手方のDVやモラハラから逃げてきたケース等、相手方に知られたくない情報がある場合は、
- 非開示の希望に関する申出書を提出する
- 代理人である弁護士の事務所所在地を記入する
といった方法をとる必要があります。
家庭裁判所調査官の調査
調停では、裁判所が必要だと判断する場合、家庭裁判所調査官(以下、「調査官」)による調査が行われます。
家庭問題や児童問題のエキスパートである調査官は、面会交流を実施することが子供の幸せにつながるかを見極め、子供にとってより良い面会交流の方法を探るために、心理学等の知識を活用して調査を行います。具体的には、父母それぞれの収入や生活リズム等を確認するほか、子供の暮らしている家庭を訪問して、親子のコミュニケーションの様子や関係性、実際の生活環境等をチェックします。
また、家庭訪問の際に、実際に子供とコミュニケーションをとって発達具合や精神状態を確認したり、子供の年齢によっては、直接本人から両親の別居や離婚、面会交流に関する心情等を聞き取ったりします。なお、子供が同居している親の顔色をうかがって本心を隠すことを防ぐため、調査官が子供の面接を行う場に親が立ち会うことは認められないのが基本です。
面会交流調停で決められる内容
面会交流調停では、面会交流が子供の健全な成長を助けるものとなるように、子供の年齢や性別、性格、生活環境、生活リズム、子供本人の希望などを考慮したうえで、下記の内容について取り決めます。
- 面会交流を実施するかどうか
- 面会交流の具体的な方法
実施する日時、頻度、場所、時間、日時変更をする際の連絡方法、子供の送り迎えの方法など
面会交流調停を拒否したり欠席したりするとどうなるのか
面会交流調停を拒否して、調停期日に欠席することはできますが、理由を説明しないまま欠席を続け、裁判所からの連絡も無視していると、調停は不成立となり、審判に移行することになります。
審判では、当事者の主張や調査官の調査結果などを考慮したうえで、裁判所が面会交流の可否や具体的な方法について判断します。そのため、無断欠席を続けると、ご自身の意見がまったく反映されない結果になってしまいます。
また、正当な理由がないにもかかわらず欠席した場合には、5万円以下の過料が科されるリスクもあるので、調停を無断で欠席することはお勧めしません。どうしても欠席するときは、必ず理由を説明するようにしましょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
調停不成立の場合と不服申立てについて
調停が不成立になると、基本的に自動で審判に移行し、裁判所による判断が下されます。もしこの判断に不満があれば、“即時抗告”によって上級の裁判所に不服を申し立てることができます。
即時抗告は、審判書が届いた日の翌日から2週間以内に、審判を行った家庭裁判所に申し立てる必要があります。期限を過ぎてしまわないように気をつけましょう。
面会交流調停の取り下げ
面会交流調停は、申し立てた側が取り下げれば、いつでも終了させることができます。このとき、基本的に相手方の同意を得る必要はありません。所定の取下書を提出するか、調停期日に取り下げたい旨を伝えるだけで取り下げられます。ただし、電話で取り下げの連絡をしても取り下げはできません。
また、一度取り下げたからといって、再び調停を申し立てられなくなるわけではありません。
とはいえ、取下げ後、数日もたたないうちに再び申立てをするような場合、裁判所に不当な申立てだと判断されてしまい、受け付けてもらえない可能性があるので慎重に判断しましょう。
面会交流調停(審判)に関するQ&A
離婚調停と面会交流調停を同時に行うことは可能でしょうか?
可能です。同じ当事者間で、同時期に複数の調停が申し立てられている場合、併合(複数の手続をひとつにまとめること)したり、それぞれの調停期日を同じ日時に指定したりして、同時に進められるようにするのが一般的です。
ただし、離婚調停と面会交流調停が別々の裁判所で行われている場合には、どちらの裁判所で手続を進めるのか揉める可能性があります。
また、それぞれが別々の事件であることに変わりはないので、離婚調停だけが先に終了したり、面会交流調停だけが審判に移行したりする等して、同時に手続を行えなくなるケースもあります。
面会交流調停の成立にかかる回数と1回の時間はどのくらいですか?
面会交流調停は、1ヶ月~1ヶ月半に1回ほどの頻度で、1回あたり2時間程度をかけて行われます。調停は平均的に3~5回ほどで終了するので、成立するまでには半年程度かかるのが一般的です。
ただし、両親の対立が激しく、お互いに主張を譲らないような場合には、1年以上かかる場合もかなりあります。
面会交流について取り決めたルールを変更したい場合や守られなかった場合はどうしたらいいですか?
相手方が頑なにルールの変更に応じない、ルールを守らない場合には、面会交流調停を申し立て、第三者の力を借りてあらためて話し合うことをおすすめします。
子供が成長する等して、面会交流のルールを変更したくなった場合には、改めて父母で話し合う必要があります。しかし、離婚後は話し合いの場を持つことが難しくなるケースが多いですし、相手方にとってルールの変更が不利益なケースも少なくないので、なかなか合意に至らない可能性があります。
また、面会交流を実施することを約束したにもかかわらず子供に会わせてもらえない等、取り決めが守られない場合には、履行勧告(取り決めを守るよう、家庭裁判所に促してもらうこと)を申し出たり、間接強制(取り決めた内容を実行するまで一定額を支払うよう裁判所に命じてもらうこと)を申し立てたりといった対応をすることが考えられます。しかし、履行勧告に強制力はありませんし、間接強制をするためには、面会交流について相当に具体的に取り決められている必要があります。
このように、当事者だけでは問題の解決が難しい場合、面会交流調停を申し立てることで、解決の道筋が見える可能性があります。
面会交流調停について悩んだら弁護士に相談してみましょう。
「子供ともっと面会交流したい」「子供にとって悪影響なので面会交流させたくない」など、面会交流をめぐって、両親が対立することは珍しくありません。話し合いに決着がつかない場合には、調停手続を利用することをご検討ください。適切な解決が図れる可能性があります。
ご自身だけで面会交流調停に臨むことに不安や悩みがある方は、弁護士に相談されることをおすすめします。調停は、調停委員や調査官の心証に大きく左右されるので、調停委員等を味方につけられるかが重要なポイントとなります。この点、弁護士のアドバイスを受け、必要な事実を適切なタイミングで主張できるようになれば、調停委員や調査官を味方につけられる可能性が高まるでしょう。
ご相談者様のご希望を最大限叶えられるように尽力いたしますので、面会交流調停をはじめ、離婚問題に関するお悩みがある方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
「主婦は収入がないので慰謝料も減額されるのか」とご不安な方もいらっしゃるでしょう。しかし、主婦でも他の方と同じく慰謝料を請求できますし、慰謝料以外にもさまざまな賠償金を受け取ることができます。
しかし、相手方保険会社は、被害者が主婦であることを理由に賠償金の支払いを拒否してきたり、適切な金額より低く見積もってきたりすることがあるため、注意が必要です。
本記事では、交通事故に遭われた主婦の方に向け、受け取れる賠償金の種類や相場等を解説します。示談する前に、ぜひご覧ください。
交通事故の慰謝料は主婦だと金額がかわる?
「主婦だから交通事故の慰謝料が減る」ということは基本的にありません。
そもそも慰謝料とは、交通事故で怪我をした精神的苦痛の補償として支払われるものです。その金額は、主に怪我の程度・治療期間・後遺症の重さによって決まるため、実際の収入に関係なく請求することができます。よって、専業主婦でも兼業主婦でも、同じ金額の慰謝料が支払われるのが基本です。
なお、慰謝料といってもいくつか種類がありますので、以下でご説明します。
主婦が受け取れる慰謝料の種類
主婦は、3つの慰謝料を受け取れる可能性があります。
まず、怪我で入通院したことによる「入通院慰謝料」と、怪我が完治せず後遺障害が残ったことによる「後遺障害慰謝料」です。これらは入通院期間や後遺障害等級の大きさによって金額が決まるため、主婦も他の方と同じ金額の慰謝料を請求できます。
一方、被害者が死亡したことによる「死亡慰謝料」は、主婦であることが金額に影響してきます。というのも、死亡慰謝料は「被害者の家庭での立場」によって相場が決まっているからです。
基本的に、主婦の死亡慰謝料の金額は「一家の支柱」より低く、「子供」より高くなります。
慰謝料以外に主婦が請求できるもの
主婦は、慰謝料以外にも休業損害・逸失利益・治療費・通院交通費・車の修理費等を請求できます。
このうち「休業損害」と「逸失利益」は、主婦という立場が金額に影響してくるため重要です。それぞれの概要や計算方法について、以下で確認しましょう。
主婦手当(休業損害)
休業損害は、交通事故の怪我で仕事を休んだ減収分を補償するものです。主婦に収入はありませんが、家事も本来お金をもらって行うべき「労働」といえるため、休業損害が認められています。
休業損害は、「基礎収入の日額×休業日数」という式で求めます。主婦の場合、この「基礎収入の日額」がポイントです。専業主婦は基礎収入がないため、賃金センサスという統計の「女性の学歴計・全年齢平均賃金」から求めた日額を適用します。また、兼業主婦は、「女性の学歴計・全年齢平均賃金」と「実際の収入」から求めた日額のうち、どちらか高い方を適用します。
なお、「女性の学歴計・全年齢平均賃金」は毎年変わりますが、日額は約1万円前後となるのが一般的です。
また休業日数は、専業主婦・兼業主婦ともに実際の通院日数をあてはめるのが基本です。
家事代行を頼んだ場合
交通事故の怪我で家事ができず、家事代行を頼むこともあるでしょう。その場合、家事代行業者に支払った実費を休業損害として請求できます。ただし、必ず実費全額がもらえるわけではなく、必要かつ妥当な金額のみ認められます。そのため、怪我が軽かったり完治していたりするのに家事代行を頼むと、補償されない可能性があるため注意しましょう。
また、家事代行を頼んだ日は、「ご自身の休業損害」と「家事代行の利用料」のどちらかしか受け取れないことにも注意が必要です。この2つを比べて高い方を請求するのが一般的です。
逸失利益
逸失利益は、交通事故に遭わなければ将来受け取っていたであろう収入や利益のことで、後遺障害が残った場合や被害者が死亡した場合に支払われます。主婦も事故によって家事に支障が出るため、逸失利益が認められます。
逸失利益は、「基礎収入×労働能力喪失率×中間利息控除係数」という式で求めます。
基礎収入は、専業主婦であれば「女性の学歴計・全年齢平均賃金」を、兼業主婦であれば「女性の学歴計・全年齢平均賃金」と「実際の収入」のうち高い方を適用します。
なお、基礎収入以外の項目は後遺障害等級・怪我の程度・年齢等によって決まりますが、争いになりやすいため、適切な金額の検討にあたっては弁護士に相談されることをおすすめします。
主婦の交通事故慰謝料の計算
交通事故の慰謝料は、怪我の程度・治療期間・後遺障害の重さによって決まるため、職業や年齢は基本的に関係ありません。よって、主婦でも会社員でも、慰謝料の計算方法は同じです。
ただし、「どの算定基準を使って計算するか」によって金額が大きく変わることに注意が必要です。そこで、算定基準にはどんなものがあるのか、それぞれどんな違いがあるのかについて、以下でみていきましょう。
慰謝料を請求する前に知っておくべき3つの基準
慰謝料の算定基準は、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準 の3つです。
自賠責基準は、交通事故の被害者を最低限補償すべく定められた基準です。支払い金額に上限があること・増額ができないことが注意点です。
任意保険基準は各保険会社が定めた基準で、自賠責基準に少し上乗せした程度というのがほとんどです。
一方、弁護士基準は、過去の裁判例から作られた基準です。3つの基準で最も高額になるのが通常で、自賠責基準の数倍になることもあります。
ただし、弁護士基準で請求できるのは基本的に弁護士だけです。また弁護士基準で請求すれば、慰謝料だけでなく休業損害や逸失利益の増額も見込めるため、増額交渉は弁護士にお任せください。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
治療より家事・育児を優先させると慰謝料が減額する?
家事や育児に追われる主婦の方は、つい治療を疎かにしてしまうこともあるでしょう。特に「むちうち」のような軽症だと、痛みを我慢して家事や育児をする主婦の方が多いです。
しかし、慰謝料の金額は治療期間や治療日数によって決まるため、通院が不十分だと、怪我に見合った適切な慰謝料が受け取れない可能性があります。
例えば、「むちうち」を負った場合の通院慰謝料の相場をご覧ください。
通院期間 | 自賠責基準※ | 弁護士基準 |
---|---|---|
1ヶ月 | 12.9万円 | 19万円 |
3ヶ月 | 38.7万円 | 53万円 |
6ヶ月 | 77.4万円 | 89万円 |
通院期間が長くなるほど慰謝料が増額することがわかります。
なお、通院期間が少ない(月15日未満)と慰謝料の対象日数が減り、表の金額より減額する可能性があるため、通院期間だけでなく通院頻度もしっかり保つことが重要です。
※毎日通院するなどした場合には過剰な通院との評価がなされ、かえって賠償が認められにくくなる場合があります。
※※新基準の日額4300円を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準の日額4200円が適用されます。
主婦と交通事故の慰謝料に関する解決事例
ここで、弁護士法人ALG&Associatesが介入し、主婦の慰謝料や休業損害の増額に成功した数ある事例の中から2つだけご紹介します。
兼業主婦が交通事故に遭い、慰謝料の増額に成功した事例
依頼者が車で停車中、先行していた相手方の車が対向車を避けようとバックしてきて追突された交通事故です。依頼者は当時60代後半の女性・兼業主婦で、相手方保険会社と賠償金額について争いとなりました。
弊所の弁護士は、相手方保険会社が提示した慰謝料金額について、依頼者の怪我(腰椎椎体骨損傷)や通院頻度からみて低すぎると判断し、増額交渉をしました。
また、休業損害と逸失利益についても、依頼者の「基礎収入額」を賃金センサスで計算し直したり、休業日数を加算したりして、増額を主張しました。
このように粘り強く交渉した結果、慰謝料で約100万円、休業損害で約130万円の増額が認められ、全体で約238万円もの増額に成功しました。
家事や育児への影響を保険会社に丁寧に伝え、交通事故慰謝料の増額に成功した事例
依頼者が原付自転車で優先道路を走行中、わき道から飛び出してきた相手方の車と衝突した交通事故です。本事故で、依頼者は左尺骨遠位端骨折・左橈骨遠位端骨折を負い半年通院しましたが、その後の治療や示談にご不安があり、弊所に相談されました。
弊所の弁護士は、まず依頼者から自覚症状を丁寧に聞き取ったうえで相手方保険会社と交渉し、治療の延長・後遺障害等級の認定・過失割合の修正等に成功しました。
また、示談の段階では、主婦の休業損害や逸失利益、慰謝料が増額できると判断し、交渉を重ねました。その結果、休業損害・逸失利益・慰謝料それぞれで数十万円の増額が認められ、賠償金額は当初の約140万円から約260万円まで増額することに成功しました。
主婦でも交通事故の慰謝料を請求することができます。お困りのことがあれば弁護士にご相談ください
主婦の方も、交通事故で大きな苦痛を負うことに変わりありません。また、怪我で家事に支障があればご家族にも影響が出るため、しっかり補償を受けるべきです。しかし、相手方保険会社は強気に出てくることが多く、個人で交渉しても難しいのが現状です。
弁護士であれば、主婦の休業損害や逸失利益を法的根拠に基づいて請求できるため、適切な賠償金を取り逃す心配がありません。また、弁護士基準で請求するため大幅な増額が期待できる場合もあります。
さらに、保険会社との煩わしいやり取りもすべて弁護士が行いますので、家事や通院に専念することができるのもメリットです。
交通事故に遭われた主婦の方は、ストレスを減らし適切な賠償金をもらうためにも、お気軽に弊所にご相談ください。
身近な人が亡くなり、残された親族で起きる遺産を巡る争いは当事者間でうまく収めることは困難です。
そのような遺産争いを終わらせる有効な手段が遺産分割調停です。
遺産分割調停とは
遺産分割調停とは、家庭裁判所の調停委員が相続人の間に入って、各相続人の言い分を聞き、法的見地から見た公平な遺産分割を図る手続きです。
第1調停期日と最後の調停期日を除き、家庭裁判所にて、当事者が同時に調停室に入ることはなく、原則として一人一人の主張を順に調停委員が聴取し、利害の調整が進められます。
遺産分割調停の流れ
必要書類を集める
遺産分割調停の申立てをするには、「申立書」の他に状況に応じた添付書類が必要となります。
例えば、被相続人が出生してから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類や、相続人全員の戸籍謄本、不動産の登記簿謄本や預金通帳の写しといった、遺産に関する資料が代表的なものです。
そのほかにも、相続人と被相続人の関係や遺産の状況次第で必要になる書類があり亜ます。
相続人全員の住所が必要なことに注意が必要
遺産分割調停を起こす際、一部の相続人を除外することはできません。
一部の相続人だけで勝手に遺産分割を行うことが許されないからです。
そのため、申立の段階で、全相続人の住所を申立書に記載し、調停に関する書類が全相続人に届いて、参加できるようする必要があります。
未成年・認知症の相続人がいる場合は代理人が必要
相続人の中に未成年や認知症患者等、一人では自分が受け取る遺産について判断をすることが困難である人がいる場合、その人のために代理人が選任される必要があります。
遺産分割調停は、全相続人から見て公平に行われる必要があるので、このような制限があります。
管轄の家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
遺産分割調停を申し立てる際、申立先となることができる裁判所は限られています。
相続人全員で合意ができるのであれば、その合意に基づいて合意された裁判所に調停を申し立てられます。
合意がない場合、申立人以外の相続人の住所を管轄する裁判所に提起する必要があります。
申し立てにかかる費用
遺産分割調停を申し立てる際、申立人は大きく二つの費用を収める必要があります。
まず、亡くなった方一人の遺産の分割を求める場合には、1200円分の収入印紙が必要です。
他方、親族のお1人が亡くなって、その相続関係が整理されないまま相続人の一人が亡くなる等、複数の相続を同時に処理する場合には被相続人の人数毎に1200円の費用が掛かります。
また、連絡用の郵便切手を一定の価額分、納める必要があります。
必要となる郵便切手代は裁判所によって異なるため、申立先の家庭裁判所にご確認ください。
2週間程度で家庭裁判所から呼出状が届く
申立書及び添付書類に不備がない場合には、申立書や呼出状を入れた封筒が申立人以外の相続人に発送されます。
家庭裁判所の状況次第で前後することはありますが、申し立てた日から大体2週間程度で書類が届くことが多いです。
調停での話し合い
調停当日になりますと、原則として相続人が1人ずつ調停室に入り、言い分を調停委員に述べる機会が与えられます。調停委員は、各当事者が言い分を整理し、対立点を明確化し、全相続人が合意できる案がないかを模索します。
1回の調停でまとまらない場合には、複数回調停が開催され、利害の調整を行い続け、合意の成立を目指します。もっとも、合意の可能性がない、と判断される場合には調停が不成立となって終了する場合もあります。
調停成立
調停で話し合った結果、一定の合意に達することができた場合、合意内容が裁判所で調停調書という形でまとめられます。
この調停調書の内容通り、きちんと遺産が分割される場合には問題はありません。
ただ、相続人の中に合意を守らず、遺産を勝手に持ち出した者がいる場合、調停調書での合意であれば、裁判所の強制執行手続きにより、合意の内容通りの遺産分割を達成するという手段がとれる可能性があります。
成立しなければ審判に移行する
上述のように、調停委員は各相続人の言い分を聞いて、利害の調整を図りますが、毎度うまくいくわけではありません。一部もしくは全相続人の対立が激しく、合意が成立する見込みがない場合には調停が不成立となります。
その場合、調停は自動的に審判という手続きに移行します。
審判手続では、調停にあった話合いの側面がなくなり、裁判官が法的に妥当な遺産分割を定めることになります。
調停不成立と判断されるタイミング
調停が不成立となる決まった回数はありません。
もっとも、同じ争点について解決できない期間が長引くと、合意の成立の見込みが低いと判断される可能性が高まります。
その一方で、早期に審判移行をしてほしいと望む相続人がいたとしても、すぐに調停を不成立にすることもできないのです。
遺産分割調停にかかる期間
遺産分割調停は1、2カ月に1回程度のペースで行われるのが通常です。
そして、1度の調停でとれる時間も限られています。
そのため、相続人間で互いに譲歩がうまくできず、調停期日が何回も開かれることとなる場合ですと、終了まで1年以上かかるケースもあります。
遺産分割調停のメリット
遺産分割調停は、第三者である調停委員が間に入ることによって次のようなメリットがあります。
冷静に話合いを行うことができる
どうしても、揉めている相手と直接顔を合わせて話し合いをしてしまうと、互いに感情的になってしまうものです。その結果、問題の解決に意味のない時間が増えてしまいます。
調停では、同時に意向が異なる相続人を部屋に入れることが基本的にはないので、冷静に互いの言い分が主張され、解決されることが期待できます。
遺産分割を進めることができる
遺産分割協議を延々とやっても解決をしないことは珍しくありません。
調停手続きを用いれば、一定間隔で期日が入りますので解決に向け、各相続人が自身の主張を整理して準備するようになることが期待できます。
また、非協力的な相続人がいたとしても、調停不成立の際には裁判官が審判手続によって遺産を分割する審判を出すので、解決が全くされない事態は避けられます。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺産分割調停のデメリット
遺産分割調停にはメリットがありますが、同時に調停手続ならではのデメリットがあります。
希望通りの結果になるとは限らない
当事者の言い分を調停委員が聞きますが、あくまでも相続人の利害調整をした結果、合意が成立しないと遺産分割調停が成立しません。合意を成立させるには各相続人が一定の譲歩をする必要があるのが通常ですので、期待する分割方法とは異なる形の遺産分割となるかもしれません。
長期化する恐れがある
遺産分割調停が1,2カ月に1回のペースで開催されるため、早期に調停がまとまらない限り、半年、一年と多くが決まらないまま進行してしまうことがあります。
特に相続人が多かったり、遺産となる財産が多かったりする場合には合意ができずに調停が長期化することも少なくありません。
基本的に法定相続分の主張しかできない
遺産分割調停において、調停委員は、法律に従った遺産分割方法を原則としてとらえています。
そのため、法定相続分を超えるような主張を展開しても、その方向で調停委員が他の相続人を説得してくれる可能性は非常に低いです。
遺産分割調停で取り扱えないもの
被相続人の遺産を確認すると、一部の相続人が勝手に被相続人の預貯金を引き出していることがあります。これを「使途不明金」と呼びますが、遺産分割の対象となるかどうかはっきりしない使途不明金については、基本的には、調停では取り扱ってもらえません。
使途不明金について解決を望む場合には、訴訟などの別手続を検討せざるを得ないでしょう。
また、遺言の有効・無効という問題は調停では取り扱えません。
遺産分割調停はあくまでも遺産の分け方についての手続ですので、そもそも遺言の分け方を指定する遺言の有効性については調停で決定することが想定されていません。
遺言の有効性について争いたい場合には、遺言無効確認訴訟などを検討することになります。
遺産分割調停を欠席したい場合
遺産分割調停が開催される日にどうしても都合が合わない場合、欠席をすること自体はできます。ただ、相続人が一人でも欠席してしまうと、遺産分割調停を実質的に進めることができなくなり、欠席が相次ぐと、不成立となって審判手続に移行する可能性があります。
審判手続では欠席しても、裁判官が判断を下してしまうので、そうなるまでの調停段階で欠席し続けることはあまりお勧めできません。
本人が直接、出席できないとしても、弁護士を代理人に立てて、代理人に出席してもらうことは可能です。欠席を続けるよりは、代理人を立てられないか検討することが好ましいです。
遺産分割調停の呼び出しを無視する相続人がいる場合
遺産分割調停の呼出を無視して、その後も調停に参加をしない者がいる場合、調停が成立する見込みがないものとして調停が不成立となります。
その代わり、審判手続きが開始し、裁判官が遺産分割の審判を出すことになるので、ご自身の利益を守るためにも呼出状を無視することはお勧めできません。
遺産分割調停は弁護士にお任せください
遺産分割調停を開始する時点で、必要書類の収集から一苦労であることが多いです。
また、平日に毎回調停期日に出頭することも、仕事や子育ての関係で難しい場合もあるかと思われます。
弁護士に依頼し、書類収集から申立、申立以降も代理人として出頭してもらえるメリットがあります。
また、調停委員に対して話す内容を整理したり、逆に調停委員から述べられている内容が不当でないかについて助言をもらえるメリットもございます。
遺産分割調停を開始すべきか悩んでいる場合、遺産分割調停を起こされてその対応に悩んでいる場合、まずは弁護士にご相談下さい。
遺産分割に際して、遺言執行者が必要になる場合があります。遺言執行者は、被相続人の遺言書で指定されている場合もあります。
では、遺言執行者とは何者なのでしょうか。遺言執行者は、何をするのでしょうか。ここでは、このような遺言執行者に対する疑問にお答えしていきます。
遺言執行者とは
遺言執行者とは、被相続人に代わって、遺言の内容を実現する者のことです。本来、遺言に記載されている不動産の相続人への名義変更などは、被相続人本人が行うものですが、既に亡くなっている被相続人が、登記手続きをすることは不可能です。もっとも、相続人が登記を行うことももちろんできます。しかし、相続人にとって遺言の内容が不利な場合、きちんと実行してくれるかはあやしいものです。そのため、このような手続を被相続人に代わって、相続人との利害を離れて、遺言の内容に従って実行する者が必要となり、遺言執行者という制度が存在するのです。
遺言執行者がやるべきこと
相続人の確定
まずは、相続人が誰なのかを確定する必要があります。相続人が不明のまま、遺産分割を実行することは、後に遺産分割をもう一回やることになりかねません。そのため、戸籍謄本を取り寄せ、その記載をたどる方法で、相続人を確定させることが先決となります。
相続財産の調査
次に、相続財産を調査することになります。遺言に書かれているからといって、本当にその財産が存在するかどうかは分かりません。実際、銀行口座などを誤記してしまう方はいらっしゃいます。そのため、どこにどれだけの財産があり、遺言書通りに分配できるか確認するためにも、しっかり相続財産の対象と、相続財産に何が含まれているかを調査する必要があります。
財産目録の作成
調査を終了したら、財産目録を作成します。そして、作成した目録を、相続人に交付します。相続財産として何が含まれ、どれだけあるのかをきちんと目録にしておくことで、相続財産の現状と遺言執行者の権限の範囲を明らかにするためです。
その他
遺言執行者として就職した場合、直ちに遺言執行者としての任務を開始しなければなりません(民法1007条1項)。また、任務を開始したなら、相続人に遺言の内容を通知する義務が課せられます(同条2項)。
そして、遺言執行者と相続人との関係は、委任に関する規定が準用されます(1012条3項・1020条)。そのため、相続人に対して、執行の内容を報告する義務(645条)や、善管注意義務(644条)、遺言執行に関して受けとった郵便物などを引き渡す義務として、受取物の引渡し義務(646条)を負います。
一方で、遺言の執行にかかった費用は、相続人に対して請求できます(費用償還請求権 650条)。もちろん、遺言執行の報酬も請求できます(報酬請求権)。
遺言執行者の権限でできること
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(1012条1項)。
具体的には、被相続人の所有権登記がされている不動産の登記を、相続人に移すこともできます。また、相続に関する訴訟でも、当事者となる場合があります。遺言による認知がされていたときは、認知の届け出もできます。相続人の排除やその取消も、遺言執行者が家庭裁判所に申立を行うことになります。
このように、遺言の内容を実現するために、広範な権限をもっています。
遺言執行者が必要になるケース
では、どのようなときに遺言執行者が必要になるのでしょうか。まず、相続人が一人しかいないときに、その一人に前部の財産を相続させたいときには必要ないということはあきらかです。
遺言執行者が必要になるのは、遺言を残しても、それが実行されるとは限らない場合といえるでしょう。
例えば、相続人が複数おり、しかも、互いの仲が悪い場合や一部の相続人にとって遺言の内容が不利になる場合は、遺言を初めに入手した相続人の都合で遺言を無視した遺産分割がされてしまうかもしれません。
そのような場合に、中立の第三者を遺言執行者につけておけば、遺言の内容が実現されやすくなるでしょう。
遺言執行者になれるのは誰?
では、遺言執行者になれるのは誰でしょうか。これは、特別な資格が必要な職ではありませんので、ほぼ誰でもなれると言っていいでしょう。また、法律上の人であればいいので、法人も遺言執行者になれます。
もっとも、誰でもなれるからといって、適当に知っている人を指名しても意味がありません。遺言執行者は前述のように、登記手続き、訴訟追行等、専門的知識が必要な任務が多い役割です。そのため、弁護士といった専門家に依頼するのが適当でしょう。
遺言執行者になれない人
遺言執行者になれない人とは、どのような人でしょうか。
相続に利害関係を有する人が遺言執行者になると、前述のように、きちんと遺言の執行をしてくれるかどうかに疑問が生じますので、利害関係人も遺言執行者になることはできません。
未成年者は、未熟であるため選任できません。破産者は、お金がない状態であるため、お金を扱うことが多い遺言執行者に任命することは危険であるとの配慮から就任することができません。
遺言執行者の選任について
遺言執行者は、どのように選任されるのでしょうか。遺言執行者は、遺言で指名してこれを受諾することで、選任されます。もちろん、指名されたからといって遺言執行者になる義務はなく、指名を拒否することもできます。
他に、遺言執行者を選ぶ人を遺言で決めて、遺言執行者を選ぶ人が指名した人が遺言執行者となる場合があります。
さらに、相続における利害関係者が家庭裁判所に請求することで、家庭裁判所が選任する場合もあります。
遺言書に複数の遺言執行者が指名されていた場合
遺言執行者は、複数を選任することができます。その場合は、全員で好き勝手に遺言の執行をすると大変なことになります。そのため、保存行為という遺産の価値を守る行為以外は、遺言執行者の過半数でどのように遺言を執行するのかを決めることになります。
遺言執行者が二人いると、その意見が食い違うと何もできなくなります、そのため、よほどの事情がない限り、一人の遺言執行者にするべきでしょう。
家庭裁判所で遺言執行者を選任する方法
家庭裁判所で遺言執行者を選任する場合は、裁判所のホームページを見て必要な書類を集めて、申立書を書いて提出することになります。
裁判所のホームページによれば、以下の書類と、申立書が必要です。
- 遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)(申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合(検認から5年間保存)は添付不要)
- 遺言執行者候補者の住民票又は戸籍附票
- 遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し(申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合(検認から5年間保存)は添付不要)
- 利害関係を証する資料(親族の場合,戸籍謄本(全部事項証明書)等)
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺言執行者の仕事の流れ
遺言執行者は、相続開始後に遺言や、家庭裁判所の選任により選任されます。その後の流れはどうなるのでしょうか、以下では、遺言執行者の仕事の流れを説明します。
①相続開始
②遺言や家庭裁判所等による遺言執行者の指名
③指名承諾
④任務開始
⑤遺言の内容を相続人に伝える
⑥任務終了
⑦報酬の請求
簡単な流れとしては、以上のようになります。
遺言執行者の辞任
遺言執行者は、正当な事由があれば、辞任することができます。逆に言えば、正当な事由なく自由に辞任することはできません。
正当な事由にあたるのは、病気、海外への出張など長期的に遠方に出向く必要があるとき、多忙などの理由で、遺言執行が困難になる場合と考えられます。
任務を怠る遺言執行者を解任できる?
遺言執行者を解任できる場合は、その任務を怠ったときとその他正当な事由があるときです。そのため、任務を怠る遺言執行者がいれば、解任事由にあたるので解任ができます。
もっとも、解任とつたえれば、解任にできるわけではありません。利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の解任を請求し、家庭裁判所がそれに理由があると考えて、解任の審判をしたときに初めて遺言執行者は解任されます。
遺言執行者が亡くなってしまった場合、どうしたらいい?
遺言執行者が死亡しても、遺言執行者の相続人にその任務は承継されません。そのため、新たに遺言執行者を選任しなければ、遺言執行者は空白のままとなります。
もっとも、遺言執行者が有していた報酬請求権などの権利義務は遺言執行者の相続人に引き継がれます。そのため、それまでの遺言執行者の仕事への報酬は、相続人に支払う必要があります。また、相続人の側も、委任終了後の引継ぎをする義務が生じます(654条)。
遺言執行者についてお困りのことがあったら弁護士にご相談ください
これまでにお話ししたように、遺言執行者に関しては、法律的な問題がつきまといます。また、遺言執行者を選ぶ際にも、遺言執行者には高度な専門的知識を持った人を選ぶ方が、迅速に遺言の執行が終了すると考えられます。
したがって、もし、遺言執行者に関して問題が生じた場合は、弁護士などの専門家に依頼されるのが得策でしょう。弊所では、遺言執行者を含む、相続問題に詳しい弁護士が数多く在籍しておりますので、ぜひご検討のほど宜しくお願い致します。
交通事故でケガをして通院していると、突如として、相手方保険会社から、治療費の支払いを打ち切りますとの連絡がされることがあります。このようなことを言われて、戸惑った方もいらっしゃると思います。また、なぜいきなり支払いを打ち切るんだとお怒りになられた方もいらっしゃると思います。
以下では、相手方保険会社はなぜ打ち切りを迫るのか、治療費の打ち切りには、どのように対処すべきなのかを解説していきます。
治療打ち切りとは
治療打ち切りとは、一括対応の打ち切りとも言い、相手方保険会社が、治療費の支払いをすることをやめるということです。そのため、治療打ち切りを受け入れたとしても、自費での通院をやめなくてもよい場合があります。
治療費の打ち切りと症状固定の違い
治療費の打ち切りと症状固定は、まったく違います。
治療費の打ち切りは、相手方保険会社が決定することで、ご自身の判断で、自費での通院をしても構いませんし、ケガの治療状況とは無関係に言い渡されます。通院を継続することで、症状が改善する場合もあります。
症状固定は、通院先のご担当医が決定することであり、これ以上治療してもケガの状態がよくならない場合に言い渡されます。もちろん、痛みが残る場合にご自身の判断で通院を継続することもできますが、医療の専門家であるお医者様がこれ以上治らないと判断しているので、症状が改善される見込みは一般的には薄いでしょう。
保険会社が治療費の打ち切りを迫る理由
相手方保険会社が治療費の打ち切りを迫るのは、なんといっても、これ以上出費を増やしたくないからです。
治療費は、相手方保険会社持ちですから、治療費を打ち切れば、それだけコストも削減できます。
また、治療期間を短くする狙いもあると思います。治療費が出なければ、通院をすることを控える、又は、やめるという選択肢を取ることになると思います。そうすると、治療期間で決まる、通院慰謝料を抑えることができます。そうなれば、相手方保険会社としては、通院慰謝料の支払いを少なくすることができますので、コスト削減になります。
そして、通院期間が短ければ、実際は大したケガではないと自賠責が判断し、後遺障害が認定されづらくなります。また、認定されたとしても、低い等級になる可能性があります。そうなれば、後遺障害に関連する損害賠償も低く抑えることができます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
まだ痛みがあるのに治療費の打ち切りを迫られた場合の対処法
弁護士に依頼して保険会社と交渉してもらう
相手方保険会社負担で治療を継続するには、どうすればいいのでしょうか。治療打ち切りを伝えられたらもう終わりなのでしょうか。
そうではありません、弁護士に依頼して交渉することで、必要な期間、治療打ち切りを先延ばしにすることができることがあります。弁護士なら、治療打ち切りに対する交渉も慣れていますし、治療打ち切りが適当かどうかについてもよく理解しています。
そのため、弁護士に依頼して、治療費を打ち切られないように交渉することが、もっとも有効な手段だと考えます。
自身で延長交渉を行う
もっとも、ご自身で交渉することも、まったく問題ありません。しかし、保険会社もまた、弁護士と同様に交通事故での交渉に慣れています。
そのため、ご自身で交渉を行っても、相手方保険会社にうまくまるめ込まれてしまい、結局治療打ち切りとなる可能性が高いでしょう。
そのため、弁護士にご依頼されることを強くおすすめいたします。
治療打ち切りの連絡を無視したらどうなる?
治療打ち切りの連絡を無視するとどうなるのでしょうか。
こちらは被害者なのだから、被害者の同意なく、治療を打ち切られるはずはないと思っていらっしゃる方もいるかもしれません。
しかし、無視すれば、黙示の同意があったと相手方保険会社は考え、治療打ち切りをするのが通常です。
決して無視せず、少なくとも、治療打ち切りに反対する意思を示す必要があります。
打ち切り後も自費で通院を継続すべきか
治療打ち切りになってしまった場合、自費で通院すべきなのでしょうか。
治療が必要かどうかは残念ながら、医学の専門家でない我々弁護士には判断できかねます。そのため、治療打ち切り後も通院が必要かどうかは、ご担当医様とよく相談なさってください。
また、ご担当医様が治療してももう治らないと判断されている場合でも、辛い痛みが残っているときは、通院を継続なさった方がいいでしょう。通院を継続していることは、自覚症状が強く出ていることを裏付け、後遺障害認定に有利に働く場合があるからです。
治療費を立て替えるお金がない場合
まずは、自分が加入している保険会社に相談してみましょう。
それでも、対応ができないと言われた場合は、治療費を抑えるために、健康保険を使って、通院しましょう。健康保険を使う場合には、第三者行為の傷病届が必要になります。全国健康保険協会であれば、ホームページに書式が掲載されているので、ダウンロードして、提出しましょう。
交通事故の治療の打ち切りを迫られたら、弁護士に相談してみよう
交通事故の治療打ち切りを打診されたら、ご自身で対応することも可能ですが、上記のように、相手方保険会社もプロですから、プロに交渉を依頼したほうが良い結果を期待できると思います。
弊所は、交通事故を多く取り扱っており、それだけ治療打ち切り対する交渉経験が豊富な弁護士が多数在籍しており、治療打ち切りへ十分対応することができるでしょう。
「配偶者が不倫していたことがわかったので離婚を考えている」、あるいは「配偶者に不倫していたことがバレて離婚を切り出されてしまった」など、男女関係の問題で離婚に発展するケースは少なくありません。このようなケースでは、「不貞慰謝料」が問題となります。
今回は、「不貞慰謝料」とは具体的にどのようなものなのか、いわゆる「離婚慰謝料」との違いや金額の相場、請求の方法、請求されてしまった場合の対処法など、幅広く解説していきます。
不貞慰謝料とは
結婚して配偶者がいる人が、自分の意思で、配偶者ではない異性と性行為、または性行為に近い行為をして肉体関係を持つことを、「不貞行為」といいます。そして、「不貞慰謝料」とは、配偶者の不貞行為が原因でもう一方の配偶者が精神的苦痛を受けた場合に、そのつらい気持ちを慰めるために請求できるお金のことを指します。
不貞行為は、配偶者ではない異性と肉体関係を持つことを禁止する「貞操義務」に反する不法な行為なので、賠償金である慰謝料が発生することになります。
不貞慰謝料と離婚慰謝料の違い
「不貞慰謝料」と「離婚慰謝料」は、どちらも離婚に関連して生じる精神的苦痛に対する賠償金です。しかし、請求できる根拠、つまり精神的苦痛が生じた原因が違います。
それぞれ、
- 不貞慰謝料の根拠:不貞行為など、離婚の原因となる行為そのもの
- 離婚慰謝料の根拠:離婚によって夫婦関係が解消されたことそのもの
が原因で精神的苦痛が生じています。
このように請求の根拠が違えば、慰謝料の金額や時効が成立するまでの期間は異なってきます。例えば、不貞慰謝料は「不貞行為の事実と不倫相手を知った日から3年」または「最後の不貞行為の日から20年」、離婚慰謝料は「離婚した日から3年」で時効が成立します。
不貞行為に対する慰謝料の相場
相手の不法な行為が原因で発生する不貞慰謝料は、離婚慰謝料とは違い、離婚をするしないにかかわらず請求できます。とはいえ、下表のとおり、離婚や別居の有無によって金額の相場は変わってきます。
離婚の有無 | 慰謝料の相場 |
---|---|
離婚も別居もしなかった場合 | 50万~100万円 |
離婚しなかったけど別居した場合 | 100万~200万円 |
離婚した場合 | 200万~300万円 |
このように、不貞慰謝料の相場には幅があります。なぜなら、不貞慰謝料の金額は、それぞれの家庭の夫婦関係や不貞行為の詳細など、様々な事情を考慮して決められるからです。次項も併せてご確認ください。
不貞慰謝料額の判断基準
不貞慰謝料額は、主に下記のような事情を考慮して決められます。
〇夫婦関係に関する事情
- 婚姻期間の長短
- 婚姻期間と比べて同居期間や別居期間が長いか
- 子供の有無や人数
- 不貞行為が原因で離婚や別居に至っているか
〇不貞行為に関する事情
- 不貞行為の悪質度(過去に不貞行為をしていた、不倫相手が妊娠や出産をした等)
- 不貞行為の期間や頻度
〇その他の事情
- 不貞行為をした配偶者や不倫相手の収入
- 社会的制裁の有無(退職した、減給・降格処分を受けたなど)
- 発覚後の態度(素直に認めた、真摯に謝罪した等)
不貞慰謝料を請求したい方
不貞慰謝料は誰に請求できる?
不貞慰謝料は、“不貞行為を行った配偶者”と“不倫相手”に対して請求できます。誰にどのように請求するかは、不倫された配偶者が決められるので、不貞慰謝料を請求するパターンは、
①不貞行為を行った配偶者と不倫相手両方に請求する
②不貞行為を行った配偶者にだけ請求する
③不倫相手にだけ請求する
の3パターンに区別できます。
ただし、不倫相手に不貞慰謝料を請求できるのは、「既婚者だと知りながら付き合っていた」、または「注意すれば既婚者だと気づけた」場合等、故意・過失があるケースに限られます。
不貞慰謝料を請求する前に確認すべきこと
一般的な社会生活を送っている人にとって、慰謝料の請求・支払いは高額なお金のやりとりですから、慰謝料請求は、請求される側にとっても深刻な問題です。そこで、不貞慰謝料を確実に受け取るためにも、下記のポイントを事前に確認しておくと良いでしょう。
- 不貞行為の詳しい事実関係
- 不貞行為の事実を立証できる証拠の有無
- 時効が成立していないか
※不貞行為から一定の時間が経ってしまい時効が成立している場合、慰謝料を請求しても認められません。 - 夫婦関係が破綻していなかったか
※不貞行為を行った時期に既に夫婦関係が破綻していたケースでは、不貞慰謝料の請求は認められません。
- 不倫相手が既婚者との不倫であると知っていたか、または知ることができたか
- 不倫相手の資力はどれくらいか
証拠になるもの
不貞行為が実際に行われたことを証明できなければ、請求された相手方も言い逃れができてしまうので、しっかりとした証拠を集める必要があります。証拠の数が多くなるほど、また有力な証拠であるほど、説得力が増すのでより有利になります。
以下、不貞行為の証拠となり得る具体例を挙げたのでご確認ください。
【写真・動画】
性行為やそれに近い行為をしている様子が写っている写真や動画は、決定的な証拠になります。また、2人が裸でベッドにいる様子が写っているものも、有力な証拠です。
なお、ラブホテルに2人で出入りしている写真や動画は証拠となり得る一方、ビジネスホテルに出入りしているだけの写真や動画では不貞行為を証明するのは難しい場合が多いです。
【メール・SNS】
性行為の内容に関するメッセージのやりとりなど、肉体関係があったことが推測できるメールやSNS(LINE、TwitterのDM等)のメッセージも証拠となる可能性があります。日時が記録されているものや、複数回のやりとりがあったことがわかるものだと、より有力な証拠となります。
【領収書】
ラブホテルを利用した際の領収書やクレジットカードの明細書のほか、2人旅であることがわかる旅行先の領収書や、異性向けの高価なアクセサリーの明細書なども証拠となり得ます。とはいえ、一緒に利用した相手やプレゼントした相手はわからないので、他の証拠と併せて説得力を高める証拠として扱われます。
不貞慰謝料を請求する方法
不貞慰謝料の請求にあたっては、まず、請求する意思があることを相手に伝え、その後金額や支払い方法といった細かい条件について話し合います。請求する意思を伝える方法は、直接対面する方法でも、電話やメールを利用する方法でも構いません。不倫相手に請求する場合や、こちらの意思を伝えても返答がない場合には、内容証明郵便(文書の内容を郵便局に証明してもらえる郵便サービス)を利用して慰謝料請求する旨の通知書を送ると、より本気度が伝わります。
それでも相手方が話し合いに応じない、あるいは話し合いでは解決できない場合には、裁判所に調停や裁判を申し立て、第三者の力を借りて解決を図ることになります。
内容証明郵便での請求について
配偶者と別居している場合や、不倫相手と顔を合わせたくない場合、電話やメールのほか、内容証明郵便を利用して慰謝料請求の意思を伝える方法をとることができます。
文書の内容を証明してもらえる内容証明郵便で慰謝料請求すれば、いつ、誰に、どのような請求をしたかという証拠になりますし、相手に心理的なプレッシャーを与えられるので、交渉の場に引き込みやすくなります。
ただし、内容証明郵便を利用する場合には費用がかかりますし、規定の書式に併せて書面を作成しなければならないといったデメリットもあります。
内容証明郵便に記載する内容
内容証明郵便には、下記のような内容を盛り込みましょう。ただし、文字数や行数には制限があるので、要求を簡潔に書く必要があります。
・不貞行為の事実
「いつから」不倫関係が始まったのか、「どこで」不貞行為を行ったのか、「誰と」不貞行為をしたのか、相手がした不貞行為の事実をわかる範囲で記載します。
・不貞行為の違法性
「不貞行為が民法709条で規定する不法行為に当たること」を記載するとともに、「不貞行為によって婚姻関係が破綻したこと」「精神的に傷ついたこと」も書いておきましょう。
・要求内容
請求金額、支払期限、支払方法、振込先といった条件も細かく記載します。
・要求に応じてもらえない場合の法的措置
例えば、「期限までに満額を支払わない場合は、すぐに法的措置をとる」など記載しておくと、要求に応じてもらいやすくなる可能性があります。
離婚後でも慰謝料請求は可能?
たとえ離婚した後でも、時効が成立していなければ、不貞慰謝料を請求することはできます。ただし、離婚時に「慰謝料を請求しない」等の取り決めをしていた場合には、離婚した後に不貞行為の事実が判明したようなケースを除いて、請求するのは困難です。
また、離婚後に請求する場合、相手が簡単には話し合いに応じてくれないことが多く、希望する金額をスムーズに支払ってもらえないケースもあるので注意が必要です。
相手が慰謝料を支払わないときの対処法
慰謝料を支払うことを約束したにもかかわらず支払ってもらえない場合、まずは督促状を送って支払いを促しましょう。それでも支払われなければ、強制執行(相手の財産を差し押さえて、強制的に未払いの慰謝料等を回収する手続)による取り立てを検討します。
強制執行では、給与(基本的に4分の1まで)や預貯金だけでなく、自動車や不動産、貴金属・絵画等、様々な財産を差し押さえることができます。
ただし、強制執行を申し立てるためには、債務名義(慰謝料の支払いについて取り決めた判決書や調停調書、強制執行認諾文言付き公正証書といった書面)が必要です。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
不貞慰謝料を請求されている方
慰謝料を請求されたらまず確認すること
慰謝料を請求されてしまったら、まずは落ち着いて下記のポイントを確認し、本当に慰謝料を支払う必要があるのか、請求されている金額が妥当かどうか、よく考えましょう。
- ・誰から請求されているか
(配偶者本人が請求しているのか、代理人である弁護士が請求しているのか) - 相手が主張する内容に誤りはないか
- 時効が成立していないか
- 請求金額が相場より高額ではないか
内容証明郵便で請求された場合の対処法
慰謝料を請求する書面が内容証明郵便で届いたら、しっかりと対応する必要があります。無視したり、いい加減な対応をしたりすると、交渉での立場がより不利になってしまう可能性があります。
内容証明郵便の封筒には、大きな「内容証明郵便」という赤字のハンコが押されているので、すぐにわかるでしょう。
回答書を送付する
内容証明郵便で慰謝料を請求されたら、「合意」「反論」「減額の希望」など、請求に対するご自身の回答を請求者に伝えましょう。このときに謝罪の気持ちも込めると、請求者の心証が良くなり、減額につながる可能性があります。
なお、内容証明郵便で請求されたからといって、回答も内容証明郵便で送らなければならないわけではありません。メールや書面等、形に残るもので安易に回答すると、後の交渉で不利な証拠になってしまう可能性があるので、むしろ注意が必要です。
内容証明を無視することは避けるべき
内容証明郵便は、あくまでも書面の内容を公的に証明するだけのものであり、内容が真実だと保証したり、法的な効力を発生させたりする効果はありません。そのため、記載された回答期日や支払期日を無視しても、直接不利益を受けることはありません。
しかし、話し合いに応じる気がないと判断され、裁判に発展してしまうリスクがあるので、無視することは避けるべきでしょう。
代理人を通して請求されたら
第三者を通して慰謝料を請求された場合、第三者の職業によって交渉する相手が異なってきます。
まず、“弁護士”を通して慰謝料を請求されたケースでは、弁護士が請求者の代理人として活動しているので、弁護士を相手に交渉することになります。このケースでは、請求者の意思が固く、厳しい態度で慰謝料の支払いを求めてくる可能性が高いです。また、交渉を仕事にしている弁護士と対等にやりとりをするのは難しいので、弁護士に依頼して代理人になってもらうことをおすすめします。
一方、“行政書士”が作成した書面によって慰謝料を請求されたケースでは、請求者本人を相手に交渉します。なぜなら、行政書士は慰謝料を請求する書面の作成を請け負っただけで、慰謝料の交渉に関して代理人となっているわけではないからです。このケースでは、請求者は、当事者間の話し合いで解決したいと考えている可能性が高いので、こちらが現実的な妥協案を提示することで、穏便に解決できると考えられます。
請求された慰謝料を減額するには
慰謝料を減額する方法
請求された慰謝料を減額したい場合には、減額してもらいたい理由をしっかりと示したうえで、請求者と話し合うことになります。
当事者間の話し合いでは慰謝料の減額に応じてもらえないときは、調停を申し立て、調停委員を間に挟んだ話し合いを行います。それでも合意できなければ、裁判を提起し、裁判所に判断してもらうことになります。
慰謝料が減額されやすいケース
下記のような事情があると、慰謝料の減額を認めてもらいやすいでしょう。
- 請求者にも過失があった(請求者も不倫やモラハラをしていた等)
- 請求された慰謝料の金額が相場より高額である
- こちら(支払う側)の収入や財産が少ない
- 不貞行為の悪質度が低い(期間が短い、回数が少ない等)
合意後、慰謝料を支払わないとどうなる?
慰謝料の支払いについて合意したにもかかわらず、支払わない場合、様々な問題が発生します。
【公正証書で合意した場合】
“強制執行認諾文言付き公正証書”で合意内容を残していた場合、すぐにでも強制執行を申し立てられ、財産(給与、預貯金、自動車、不動産、貴金属等)を差し押さえられてしまう可能性があります。財産を差し押さえられてしまうと、生活に大きな支障が生じます。
【公正証書以外で合意した場合】
すぐに強制執行を申し立てられることはありせんが、慰謝料を請求する裁判や強制執行の許可を得るための裁判を起こされてしまう可能性があります。裁判には多くの手間や費用がかかりますし、強制執行が認められてしまうと、これまで通りの生活を送ることが難しくなってしまいます。
金銭的な問題等でどうしても慰謝料を支払うことが難しいのであれば、確実に支払える金額まで減額してもらう、分割払いにしてもらう等、きちんと対策をとる必要があります。
不貞慰謝料について悩んだら弁護士に相談してみましょう
配偶者が不倫していたことがわかった場合、慰謝料を支払ってもらいたいと考えられる方は多いでしょう。また、不貞慰謝料を請求されてしまった方も、「慰謝料を支払いたくない」「請求された金額が高すぎる」「そもそも不貞行為をした事実はない」等、様々なお悩みや困りごとを抱えていらっしゃるかと思います。
不貞慰謝料をはじめ、慰謝料の問題を希望するとおりに解決するためには、きちんとした戦略を立てることが重要です。そのためにも、ぜひ弁護士にご相談ください。ご相談者様のお悩みや困りごとに真摯に向き合い、ご希望を最大限に叶えるための戦略を考えさせていただきます。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)