監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
交際相手の配偶者から、ある日突然、不貞慰謝料を請求された場合、驚かれると思います。
多くの場合、内容証明郵便が自宅に届き、1週間以内に300万~500万円の慰謝料を支払わなければ、法的措置を取るなどと書かれており、急いで慰謝料を支払わなければ、大変なことになってしまうと考えるかもしれません。
この記事では、交際相手の配偶者から不貞慰謝料を請求された際の対応について解説していきます。
不貞慰謝料を請求されたら確認すること
不貞慰謝料を請求された場合、まず、不貞慰謝料の原因となる不貞行為があったのかを確認しましょう。
いきなり内容証明や弁護士からの受任通知が届くと、不貞行為がなかったにもかかわらず、勢いで不貞行為を認めてしまうことがあります。自分から不利な証拠を作ってしまわないように、届いた書面をよく読み、誰が、誰との関係に対して、慰謝料を請求しているのかを確認しましょう。
慰謝料の支払いが必要ないケース
不貞慰謝料を請求されていても、慰謝料を支払わなくても良いケースがあります。自分が慰謝料を支払わなくてもよいケースに該当しないか、確認をしてみてください。
不貞の事実がない
まず、不貞の事実がない場合には、当然ながら、慰謝料を支払う義務はありません。慰謝料の原因となる不貞(法的には、「不貞行為」といいます。)とは、性交渉を伴う肉体関係を指すというのが一般的な理解です。そのため、肉体関係がなく、メールのやり取りをしていただけ、何回か食事に行ったことがあるだけという場合には、慰謝料を支払う義務はありません。
ただ、性交渉を行っていない場合でも、キスやハグ、高頻度の接触など、平穏な夫婦関係を破綻させるような行為を繰り返している場合は、性交渉がある不貞行為と同視されるとして慰謝料が認められ可能性はあります。
夫婦関係が破綻していた
不貞慰謝料は、不貞行為によって平穏な夫婦関係という法的な権利を侵害したことに対して発生するものです。そのため、不貞行為が行われた時点で、夫婦関係が破綻していたのであれば、法的な権利が侵害されておらず、慰謝料の請求も認められません。
ただし、ここでいう夫婦関係の破綻とは、会話が減っていた、夫婦喧嘩が増えていたというだけでは足りず、不貞行為時点ですでに長期間にわたる別居をしていたり、離婚調停を行っていたりするなどの客観的な事情が必要になります。
慰謝料請求の時効を過ぎている
慰謝料を請求できる期間を過ぎている、つまり消滅時効が完成している場合も、法的には慰謝料を支払う必要はありません。
不貞に対する慰謝料は、正確にいうと、不法行為(民法709条)に対する慰謝料であり、不貞行為及び加害者を知った時から3年を経過した場合は、消滅時効を主張(援用)することによって、慰謝料の支払いを免れることができます。
相手が既婚者だと知らなかった
交際相手が既婚者であると知らなかった場合も、慰謝料を支払う必要がありません。
すでに説明したように、不貞行為は、法的には不法行為(709条)というもので、不法行為に基づく賠償請求が認められるためには、権利侵害に対する故意又は過失が必要です。不貞行為による慰謝料は、不貞行為によって平穏な夫婦関係という法的な権利を侵害したことに対して発生するものですから、交際相手が既婚者であると知っていた、又は注意をすれば既婚者であると気づけたということが必要となります。
そのため、相手が既婚者であることを巧妙に隠していたため、既婚者であると知らなかった、又は細心の注意を払っても既婚者であると気がつかなかった場合は、慰謝料を支払う必要はありません。
不貞慰謝料を請求された際にやってはいけないこと
請求を無視する
不貞行為がない、又はどうしたらいいか分からない場合でも、相手からの請求を無視することはやめましょう。
請求に対して何もリアクションがない場合、交渉を続ける意味がないと判断して、相手が訴訟提起をする可能性があります。
訴訟となった場合、膨大な費用や時間がかかるだけでなく、態度が不誠実であるとして、慰謝料が増額される可能性があります。
開き直る・逆切れする
不貞行為が事実であるなら、開き直ったり、逆ギレをしたりしても、意味はありません。
慰謝料の支払いを避けられない状況であるにもかかわらず、相手の感情を逆撫でしてしまい、減額や分割などの相手との交渉が困難となってしまいます。
また、裁判となった場合は、態度が不誠実であるとして、慰謝料が増額される可能性があります。
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不貞慰謝料が高くなるのはどんな時?
自分から誘った場合
交際相手が既婚者であることを知りながら積極的に不貞関係を持ち掛けた場合、慰謝料が増額されることがあります。自分から誘うことは、平穏な夫婦関係を破綻させたことに対する責任の度合いが高くなるからです。
反省していない場合
相手からの請求を無視する、逆ギレをする、不貞行為はないとしらを切るなど、不貞行為をしたことに対して反省がない場合も、慰謝料が増額されることがあります。
請求された後の行動も慰謝料に影響する可能性があります。
それまで夫婦円満だった場合
不貞行為が発覚するまでは、相手の夫婦関係が円満だった場合、平穏な夫婦関係を破壊したことに対する影響が大きいため、慰謝料が増額されることがあります。
妊娠・出産した場合
不貞行為によって、子どもを妊娠・出産した場合、慰謝料が増額されることがあります。
不貞相手が妊娠・出産した場合、配偶者の精神的苦痛は、当事者間で不貞行為のみが行われたことに比べて極めて大きくなりますし、平穏な夫婦関係に与える影響も大きくなります。
また、精神的苦痛だけでなく、養育費や相続など、将来にわたって、金銭面での影響が生じることもあり、慰謝料の増額事由になります。
不貞が原因で離婚した場合
不貞が原因で夫婦が離婚した場合、不貞が平穏な夫婦関係に与えた損害が極めて大きいものであると評価できます。それまで、婚姻関係が円満だったにもかかわらず、不貞が原因で離婚に至った場合は、慰謝料が増額になる傾向があります。
請求された金額が払えない場合の対処法
不貞慰謝料として、高額の慰謝料が請求されることが多く、支払いが困難となることも多いです。
以下では、請求された慰謝料の金額が支払えない場合の対応を説明します。
減額交渉する
最初の請求時点では、相手も感情的になっていることもあるため、求められる金額が高額になることも多いです。そのため、まずは、請求金額が裁判例と比較すると請求額が過大であるとして、減額を求める余地があります。
また、交際期間が短い、不貞行為の回数が少ない、婚姻期間が短いなどの減額事由を説明して、減額の交渉をします。
分割払いの交渉をする
減額をしても一括での支払いが困難である場合は、分割払いを提案するという方法もあります。不貞行為に対する償いとして、できる限り多く慰謝料を支払ってほしいという相手であれば、支払う金額を多くする代わりに、分割で慰謝料を支払うことを提案することが考えられます。
分割払いでは、途中で支払いが止まってしまうのではないかということを危惧して、分割払いには難色を示されることもあるので、支払回数や期間は、弁護士に交渉を任せると良いでしょう。
請求された不貞慰謝料の減額事例
弊所では、不貞慰謝料の請求をされた方からご依頼を受け、請求額からの大幅な減額に成功した事例も数多くあります。
依頼者は、当初、交際相手の配偶者から300万円の慰謝料を請求されており、相手の弁護士からは減額には応じないと強硬な態度を取られていました。相手の夫婦は、不貞行為の発覚により、離婚しており、不貞の影響が小さいとは言えない事案でしたが、不貞行為が行われた時点で夫婦関係が悪化していたことや、すでに夫から多額の慰謝料が支払われていることなどを主張して、200万円以上の減額に成功しました。
不貞慰謝料を請求されたら弁護士にご相談ください
不貞の慰謝料を請求されると、突然のことでどうすればいいか分からず、不安な気持ちになると思います。誰にも相談できず、1人で解決しようとすると、気づかないうちに自分に不利なことを言ってしまったり、支払う義務のない慰謝料を支払ったりしてしまうことがあります。
弁護士であれば、ご依頼者様の代わりに交渉をして、適切な結果へ話合いを進めることができます。
弁護士法人ALG&Associates横浜法律事務所では、男女問題を数多く扱った弁護士が多数在籍しておりますので、お困りの際はぜひ一度ご相談ください。
離婚を決意した際、まずは同居しながら配偶者と離婚の話をすることが多いと考えられますが、合意に至らない場合や、話し合い自体が難しいという場合には、離婚前に別居をすることがあります。
別居することで、日々の生活のストレスが軽減されたり、冷静に離婚協議したりすることができることもありますが、経済的理由等から別居をすることができないこともあります。
今回はすぐに別居ができない家庭内別居のケースで、離婚がどのように進んでいくのかなどについて解説していきます。
家庭内別居で離婚することはできるのか
家庭内別居をしている場合でも、正式に離婚協議をした上で、双方が離婚に合意できれば、協議離婚をすることが可能です。当事者だけで協議するのではなく、裁判所で話し合いをする調停手続きを利用することも可能です。
仮に、当事者間で話し合いで離婚が成立しない場合には、離婚訴訟を提起することになります。ただし、純粋な別居よりも、家庭内別居の方が、離婚請求が認容されるためのハードルは高くなると考えられます。
家庭内別居を選ぶ理由
子供への負担が小さい
子供がいる場合、子供と一緒に別居する場合でも、子供を残して片方の親が別居する場合でも、別居が与える子供への負担は相当程度大きなものにならざるを得ません。特に子供と一緒に別居する場合には、慣れ親しんだ家から離れることになりますし、場合によっては転校しなければならないこともあります。
他方で、家庭内別居であれば、純粋な別居と比較して、子供にとっては影響・負担が小さいものと考えられます。このような理由から、別居ではなく家庭内別居を選択するケースもあります。
経済的な負担が少ない
経済的理由から家庭内別居を選択する場合もあります。
別居先が実家等の場合には経済的負担は小さいですが、新たに賃貸物件を借りなければならない場合、別途賃料や光熱費等がかかるため、経済的負担が大きいものになりがちです。
他方、家庭内別居であれば、追加で住居費等がかかるわけではないため、経済的には負担が小さいことになります。このような理由から家庭内別居を選択するケースもあります。
世間体を守れる
実際に別居した場合には、夫婦の一方の出入りがなくなるため、近隣住民に別居を知られてしまうことがあります。そのため、噂されること等を嫌って別居や離婚の事実を世間に知られたくないという人は、敢えて、家庭内別居の形を選択することがあります。実際に離婚が成立するまでは家庭内別居を継続し、世間体を守るということができます。
面倒な手続きをせずに済む
実際に別居をする場合には、転居先の賃貸物件の契約や引っ越しの手配、水道光熱費やインターネット等のライフライン関係の契約、役所への届け出等、様々な手続きを行う必要があります。これらは非常に面倒な手続きのため、慣れていない人にとってはとても負担が大きいでしょう。家庭内別居であればこれらの面倒な手続きを行う必要はないため、負担はとても小さくて済みます。このような観点から家庭内別居を選択する場合もあります。
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家庭内別居のデメリット
同じ家にいるだけでストレスを感じる
しかし、家庭内別居にはデメリットもあります。
離婚をしたいと決意するほどの相手と同じ建物内で生活するだけで大きなストレスを感じることがあるでしょう。なるべく接触がないようにしても、意図せず顔を合わせてしまうこともあるかもしれません。相手と接触しないように相手を避けながら生活することになるため、リラックスして生活することは難しくなります。
家庭内別居を理由に離婚を認めてもらうことは難しい
話し合いで離婚が成立せず、離婚訴訟を提起せざるを得ない場合、やはり実際に別居をしている方が離婚は認められやすいと考えられます。家庭内別居の場合には、一応同じ建物内に居住できているため、婚姻関係の破綻が認められにくいためです。また、家庭内別居といってもグラデーションがあり、例えば洗濯は相手の分も行っているというような場合は、夫婦としての協力関係が一定程度認められるとして離婚が認められにくくなる可能性があります。
家庭内別居から完全別居する場合の注意事項
従前、家庭内別居が継続しており、どこかのタイミングで完全別居をする場合には、いくつか注意点があります。例えば、仮に家庭内別居が数年間続いていたとしても、裁判官は、完全別居をした日から別居が成立していると認定する可能性があります。完全別居からまださほど期間が経過していない場合には、裁判官は別居期間が不足しているとして、離婚請求を認めない可能性があります。
家庭内別居と離婚に関するQ&A
家庭内別居をしていた場合、財産分与の対象になるのはいつまでですか?
財産分与の基準時は、夫婦協力関係が終了した時点とされています。
完全別居の場合、多くのケースでは、財産分与の基準時は完全別居開始時ということになります。他方、家庭内別居の場合には、基準時がいつになるか不明瞭な場合が多いです。そのため、家庭内別居が開始されたとき、正式に離婚の申し入れをしたとき、離婚調停の申立てをしたとき等、いくつか基準時候補がある場合もあります。離婚訴訟においては最終的に裁判官が基準時を判断することになりますが、協議や調停では基準時について合意を試みるということになります。
夫婦で会話なし、無視が続く状態は「婚姻関係が破綻している」とみなされますか?
離婚訴訟において、婚姻関係が破綻していると認定された場合には、離婚請求が認容されることになります。そして、完全別居をした上で一定期間が経過すると、婚姻関係が破綻していると認定される可能性が高くなりますが、家庭内別居の場合には、完全別居よりも婚姻関係の破綻が認定されるハードルは高くなると考えられます。単に会話がなかったり、無視が続いたりするだけの場合には、家庭内別居と評価されない可能性もあり、その場合には一層婚姻関係の破綻が認定されるハードルは高くなると考えられます。
家庭内別居中の婚姻費用は請求できますか?
婚姻費用は、通常は、完全別居をした上で請求をすることが多いですが、完全別居でなければ請求できないというわけではありません。家庭内別居の場合であっても、現実に生活費が支払われていなかったり、僅少な金額しか支払われていなかったりする場合には、婚姻費用の請求が認められる可能性があります。家庭内別居の場合の婚姻費用の計算についても、基本的には婚姻費用算定表の基礎となる考え方が妥当します。
家庭内別居から離婚をお考えの方は、早めに弁護士にご相談ください。
家庭内別居の場合には、離婚訴訟において離婚請求が認められにくかったり、婚姻費用の請求も複雑になったり、財産分与の基準時が曖昧になったりする等、完全別居と比較して気を付けなければならない点が多いです。
そのような中で離婚手続きを進める場合には、専門家である弁護士のアドバイスのもと進めることが非常に重要であると考えられます。早めのご相談頂くことをお勧めいたします。
相続人に認知症の人がいると、相続の手続き等が思うように進められなくなるおそれがあります。相続が開始された後では、成年後見制度を利用することによって解決できる場合もありますが、デメリットもあるので、認知症になる前や相続が開始される前に対策しておくことが重要となります。
この記事では、相続人が認知症になると起こることや、相続に影響を及ぼす認知症の程度、成年後見制度の利用等について解説します。また、事前に行うべき対策についても解説していきます。
相続人が認知症になったらどうなる?
相続人が認知症になると、相続手続きを進めるときに支障が生じてしまいます。
支障が生じるのは、主に以下のような手続きです。
- 遺産分割協議
- 相続放棄
これらの手続きについて、次項より解説します。
遺産分割協議ができなくなる
相続人の1人が認知症になると、基本的に遺産分割協議ができなくなります。なぜなら、重度の認知症を患った方は、意思能力を欠いているため法律行為ができないと考えられるからです。
また、軽度の認知症であっても、相続の結果に満足していない相続人から無効を主張される理由になるおそれがあるため、医師の診断書を受け取っておく等の対応が必要となります。
なお、認知症になった相続人を協議から除外できる規定はないので、当該相続人が参加しなかった協議は無効となります。
認知症になった相続人は相続放棄ができなくなる
認知症になった相続人は、基本的に相続放棄ができません。なぜなら、認知症によって意思能力を失った人は、相続放棄のような法律行為を行うことができないからです。
認知症の相続人が相続放棄する必要がある場合、成年後見人を選任してもらう必要があります。ただし、相続財産が多額の借金だけである場合等、明らかに相続人に不利な状況でなければ後見人による相続放棄は認められないので注意しましょう。
相続できなくなる認知症の程度はどれくらい?
認知症の程度は、「長谷川式認知症スケール」と呼ばれる数値によって、ある程度の判断が可能です。長谷川式認知症スケールとは、認知症の疑いの診断に用いられる検査であり、短時間で、9種類の質問に答えることによって検査します。
検査の結果、点数が20点以上であれば意思能力があるとされる可能性が高く、点数が15点以上であれば意思能力があるとされる可能性があります。それよりも点数が低いと、意思能力がないと判断されるおそれがあります。
ただし、長谷川式認知症スケールの点数は絶対的な指標ではありません。そのため、点数が高めであったとしても、遺産分割協議の内容などが複雑で難しかった場合等では、協議を無効とされるリスクがあります。
軽い認知症だったら相続手続きできる?
相続人の認知症が軽度である場合には、相続手続きは認められる可能性が高いでしょう。本人の意思能力がある状態ならば、成年後見人の選任を申し立てる必要はないと考えられます。
ただし、相続に不満のある人による蒸し返しを防ぐために、意思能力があったことの証明として、医師の診断書を発行してもらう等の対応をしておくことが望ましいといえます。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
認知症の相続人がいる場合は成年後見制度を利用して相続手続きを行う
相続人が認知症により意思能力を失っている場合には、成年後見制度を利用する方法が考えられます。
成年後見制度とは、認知症等によって判断能力が低下した人のために成年後見人などを選任する制度です。成年後見人が選任されていれば、相続人本人を代理して相続手続きが可能となります。
ただし、選任された成年後見人は、基本的に相続人が亡くなるまで職務を継続します。その間は、成年後見人に対する報酬が発生し続けることになります。
また、成年後見人は本人の財産を守ることを目指しているので、遺産分割協議では法定相続分を確保しようとします。また、相続税を減らすための生前贈与等を行うこともないと考えられるため、柔軟性に欠けるといえます。
これらの事情により、現状では、成年後見人の選任は敬遠されるケースが多いです。
成年後見制度について、詳しくは以下のページをご覧ください。
成年後見制度とは認知症の人がいる場合の相続手続きに関するQ&A
認知症であることを隠して相続したらバレますか?
相続人が認知症である場合において、その事実を隠したままで相続手続きを進めようとすれば、金融機関における手続き等の場面で発覚して、大変な事態に陥るリスクが極めて高いといえます。
認知症によって意思能力を失っている人による法律行為は基本的に無効となるため、遺産分割協議などが無効となって、それを前提として進めていた相続手続きも無効となります。
本人が書いたと偽って書類を偽造すると、最悪の場合には私文書偽造等の犯罪に該当するリスクも考えられるので、認知症を隠して相続するべきではありません。
唯一の相続人が認知症になってしまった場合、相続手続きはどうなるのでしょうか?
唯一の相続人が認知症になってしまうと、相続手続きが進められなくなるおそれがあります。なぜなら、相続人が1人であれば遺産分割協議の必要はありませんが、相続した不動産の相続登記や、金融機関での口座の名義変更、口座の解約等の手続きは意思能力がなければできないからです。
認知症の相続人は、相続手続きを親族や専門家等に依頼することもできないので、誰かが代わりに手続きを行うことも困難だといえます。
相続手続きを進めるためには、成年後見制度の利用等で対応する必要があります。
認知症の方がいる場合の相続はご相談ください
相続人に認知症の人がいると、相続手続きを進めることが難しくなります。しかし、成年後見制度は、現状では利用をためらってしまう状況です。
とはいえ、相続手続きを行わずに放置すると、その間は事実上、相続財産を使えなくなるのでおすすめできません。さらに、相続登記の期限である3年を超えると、10万円以下の過料を科されてしまうおそれもあります。
そこで、相続人に認知症の人がいる場合には、弁護士にご相談することをおすすめします。また、自分や家族が認知症になる前に、遺言書の作成等の対策をしたいと考えている方は、ぜひ早めにご相談ください。
交通事故では、怪我や車の破損など様々な損害が発生します。こうして発生した損害の補償については、相手方保険会社と示談交渉をしていくのが一般的です。
しかし、被害者にとって急に事故に遭い、さらに、示談交渉をしなければならないのは、あまりに精神的負担が大きく、難しいことでしょう。
この記事では、被害者が示談交渉を自分で行う際のメリットとデメリットや注意点などについて解説していきます。
自分で交通事故の示談交渉をするメリットとデメリット
メリット
被害者自身で相手方保険会社と示談交渉するメリットは以下のとおりです。
- 弁護士費用がかからない
ご自身で交渉をすれば、弁護士費用がかからず示談金を全て受け取ることができます。
ただし、弁護士費用特約があれば一定額まで弁護士費用を負担してもらえるため、弁護士費用の負担なく弁護士に依頼できる場合もあります。
- 弁護士が介入した場合より早く示談が成立する可能性がある
事故に遭った当事者である被害者ご自身が直接交渉することにより、弁護士が介入した場合より早く話を進められ、示談が成立する可能性があります。
しかしながら、被害者ご自身で交渉した場合の示談金は、任意保険基準が前提となる可能性が高いため、弁護士基準で計算した金額よりも低額な示談金となる場合もあります。
デメリット
次に、被害者ご自身で相手方保険会社と示談交渉するデメリットを確認していきましょう。
- 交渉が不利になりやすい
相手方保険会社は交渉のプロであり、被害者を交通事故や交渉の素人として接します。専門用語を使い分かりにくく説明したり、被害者の主張を「根拠に乏しい」と聞き入れてくれない場合もあり、不利な交渉となってしまうおそれがあります。
- 提示額が適正であるかの判断が難しい
相手方保険会社が提示する金額が適正であるかの判断は、交通事故の知識や交渉のノウハウが必要です。計算方法などに慣れていない被害者にその判断を行うことは難しいでしょう。
- 保険会社とのやり取りが大変
保険会社とのやり取りは、日中の決められた時間でしか連絡が取れなかったり、そもそも連絡が返ってこなかったりと被害者に少なからずストレスを与えるでしょう。また、高圧的な態度を取られる場合もあります。
自力で示談交渉したい場合のポイントと注意点
被害者がご自身で示談交渉をすることは、メリットもありますが、デメリットも多くあります。
しかし、それでも自分で示談交渉を行いたいという場合は、以下の点に注意しましょう。
- 示談交渉は損害額が確定してから行う
すべての損害額が確定しなければ示談金の計算はできません。相手方保険会社は少しでも示談金を少なくするため、治療中の段階から示談交渉を開始しようと言ってくることもありますが、惑わされず、完治または後遺障害等級が認定されてから行いましょう。
- 示談案は詳しく検討する
相手方保険会社が提示する示談案は、任意保険基準で計算されており、本来受け取れる金額よりも低額となっている場合があります。示談は一度成立したら基本的にやり直しはできません。示談案の金額や項目に漏れがないか確認しましょう。
- 感情的にならない
相手方保険会社が高圧的な態度を取ってきたり、専門用語ばかり使っていれば、つい感情的になってしまうでしょう。しかし、感情的になれば話し合いは進みません。分からない用語などは尋ねたり、自分で調べる時間を確保し、落ちついて交渉しましょう。
保険会社の示談交渉サービスはどうなの?
保険会社の示談交渉サービスとは、任意で加入する自動車保険に付帯する、被害者や加害者に代わって保険会社が示談交渉を行うサービスのことをいいます。
ただし、示談交渉サービスは、被害者に全く過失がない事故では、弁護士法に違反してしまうため、使用することができません。
また、保険会社の示談交渉サービスを使用できたとしても、示談金の計算は任意保険基準で行われますし、保険会社は早期解決を目指すため、必ずしも被害者に寄り添った対応を取ってもらえるとは限りません。
一方、弁護士は弁護士基準で示談金を計算することができますし、被害者の方が納得できるまで交渉していきますので、示談交渉は弁護士に依頼することをおすすめしています。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
示談交渉を弁護士に依頼すると費用はどれくらいかかる?
示談交渉を弁護士へ依頼した場合の費用は、弁護士費用特約の有無によって変動します。
もし、弁護士費用特約が使えるのであれば、基本的に弁護士相談料10万円まで、弁護士費用300万円までを保険会社が負担してくれます。そのため、ご自身で弁護士費用を支払う必要はまず無いでしょう。
一方、弁護士費用特約がない場合は、相談料や着手金、報酬金などの費用を支払う必要があります。
費用については事務所ごとに異なるため、まずは無料相談などを活用し、料金体系を確認してみましょう。
また、私たち弁護士法人ALGは、ご相談の段階で費用倒れになりそうな場合はお伝えしています。
ぜひ安心してご相談ください。
弁護士費用特約について、詳しくは以下のページをご覧ください。
弁護士費用特約とは弁護士に示談交渉を代わってもらうメリット
弁護士に示談交渉を代わってもらう主なメリットは以下のとおりです。
- 保険会社とのやり取りを任せられる
弁護士に示談交渉を依頼すると、代理人として保険会社とのやり取りを行います。そのため、被害者の方が保険会社と直接やり取りすることはなくなります。保険会社とのやり取り自体がストレスとなる場合もありますので、大きなメリットでしょう。
- 適正な示談金を受け取れる
弁護士は、「弁護士基準」を使用し、示談金を計算したうえで交渉していきます。弁護士基準は裁判でも使われる基準で、被害者の方が本来受け取るべき基準です。そのため、最終的に受け取れる示談金が増額する可能性が高まります。
- 示談交渉だけでなく、解決までのサポートを受けられる
交通事故の示談は、多くの専門知識を必要とし、複雑な手続きが必要となる場合が少なくありません。交通事故の経験豊富な弁護士に依頼することで、こうした手続きについてもサポートしてもらえます。
示談交渉は弁護士にお任せください
交通事故の示談交渉は、被害者の方ご自身でも行うことができますが、相手方保険会社とのやり取りに精神的負担がかかったり、適切ではない示談金で合意してしまうおそれもあります。
そのため、交通事故の示談交渉は私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
私たちは交通事故の経験豊富な弁護士が多数在籍しております。ご相談者様の事故や怪我の状況、お悩みなどを丁寧にヒアリングし、最善を尽くした示談交渉を行うことが可能です。
弁護士は基本的に「弁護士基準」で計算し直した金額で交渉していくため、当初の提示額より示談金が高額となる可能性が高まります。
また、保険会社とのやり取りを弁護士に任せられることも大きなメリットでしょう。
交通事故の示談交渉でお悩みの場合は、まずは一度私たちにご相談ください。
モラハラは、殴られたり蹴られたりするという身体的暴力と異なり、暴言を浴びせられ、心が傷つけられる精神的暴力です。
モラハラに耐えられなくなって、離婚を決意する方はたくさんいらっしゃいますが、モラハラを原因として裁判で離婚を認めてもらったり、慰謝料を請求したりするためには、モラハラの事実を客観的に証明しなければなりません。
しかし、モラハラは目に見えない分、証拠を揃えることが難しいことも多いといえます。そこで、モラハラの存在を証明するための証拠収集の際のポイントについて本記事で説明していきます。
モラハラが原因で離婚する場合は証拠が重要
離婚の制度上、協議離婚・調停離婚という話し合いの方法と裁判離婚という裁判官の判断をもらう方法がありますが、話し合いの中で相手方に言い逃れがさせないためにも、裁判官に主張を認めてもらうためにも、モラハラがあったことを裏付ける証拠が重要となります。
モラハラの証拠になるもの
モラハラの証拠として提示されることが多いものとして、以下のようなものがあります。それぞれについて補足説明を記載していきますので、証拠集めの参考にしてください。
モラハラの内容を記載した日記やメモ
相手方から受けたモラハラを記録した日記やメモは証拠の1つになります。手書きで作成するか、パソコンやスマートフォンなどのデータで作成するか、方式が決まっているわけではないですが、後から振り返ったときにどのようなことがあったのか分かりやすい形で記載しておく必要があります。
書き方に気を付けるべきことはある?
証拠として重要なのは、何があったかどうかなので、モラハラを受けた状況(日時、場所、相手方の言動など)を具体的に記載しておくことが重要となります。他方で、自分の感情面など書き連ねたとしてもモラハラの証拠としての価値は乏しいといえます。
また、後から書き加えた、編集したといった反論がされにくいように、消えないペンを使って、なるべく毎日作成しておくことも重要です。
モラハラの現場を録音・録画したデータ
モラハラの現場を録音・録画したデータは、客観的な証拠として残る点で、モラハラの証明するうえで重要性の高い証拠といえます。
断片的な会話では、夫婦喧嘩の一部分を切り取ったものに過ぎないと反論されることがあるので、録音や録画の際には、なるべく会話の一部始終が確認できるようにしておくべきです。
また、証拠として実際に利用する際には反訳をする必要がある場合も多いので、長時間の録音・録画については、どのあたりに重要な会話が記録されているかをピックアップしておく方がよいです。
なお、相手方に無断で行う録音・録画は、相手方のプライバシーを過度に侵害するものでなければ、基本的には裁判などでも有効な証拠として扱われています。
モラハラ夫(妻)から届いたメールやSNS
メール、LINEやSNS等で、配偶者の人格を否定している発言などがあれば、モラハラの証拠となり得ます。相手方とのメールやLINEは相手方自身の発言であることが事後的に裏付けやすい点で、メールやLINEの中にモラハラと評価できる発言があれば重要な証拠になるといえます。
なお、メールやLINEはデータを誤って消去してしまったり、スマートフォンの機種変更時にデータを引き継げないこともありますので、定期的にバックアップを取っておくことが重要です。
精神科への通院履歴や医師の診断書
精神的な暴力の1つであるモラハラを受けた場合、適応障害や不眠症などの精神疾患の原因となることがあります。体調の異変を感じた場合、早めに精神科や心療内科を受診して、診断書を作成してもらうとともに、定期的に通院をして投薬などを受けておくことをおすすめします。
診断書や通院履歴は心のケアだけではなくモラハラの証拠ともなるものです。通院の際は、配偶者からモラハラを受けてるいことを医師に伝えておき、必要に応じて、診断書やカルテにも症状の原因モラハラであることを記載してもらってください。
子供や友人などによるモラハラの証言
モラハラを受けた際に、親族や友人などに相談をしているケースも少なくありません。親族や友人などのモラハラの被害を証言してくれるのであれば、証拠の1つにはなります。
しかし、証言は主観的な証拠ではあって、記憶の正確性などの問題もあることから、基本的には証拠価値は低く、ほかの証拠はないのであれば、証言だけでモラハラを証明することは難しくなることが見込まれます。
警察・公的機関への相談履歴
警察や公的な相談機関にモラハラを受けたことを相談している場合、相談履歴がモラハラの証拠の1つとなることがあります。
警察や公的な相談機関では、相談のあった日時や内容が記録されていることが多いことから、相談履歴を開示してもらうことでモラハラの被害を裏付けていくことができます。
しかし、相談内容は当事者の主観といえますので、ほかに客観的な証拠がないと裏付けとして乏しくなってしまう場合も少なくありません。
モラハラの証拠が集めにくい理由
モラハラは、目に見えない言葉や態度でなされるものであり、身体的暴力のように目に見える傷も残らないことから証拠が集めにくいといえます。また、モラハラは家庭内という密室でなされることが多い点でも証拠が集めにくくなっているといえます。
さらに、モラハラの特徴として、モラハラを受けた側が自分が悪いから否定されるのだと思い込んでしまい、、モラハラを受けたことを自覚するまで時間を要することがあり、モラハラだと認識した時点ではすでに証拠を集めることができない状況となっているということもあります。
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証拠を集める上での注意点
モラハラの被害は、日々の生活の中で発生するものであり、前触れや予兆が決まっているわけではないことから、前もって証拠集めの準備をしておくことは難しいといえます。
モラハラがあった際になるべく逃さすに証拠を確保するためには、普段からボイスレコーダーやスマホの録音アプリを手元に準備し、操作方法をきちんと確認しておいて、モラハラがあった際に速やかに起動できるようにしておくことが必要となってきます。
また、せっかく確保できた証拠がなくなってしまうことを避けるために、データはバックアップしたり、紙媒体の物はコピーを取っておくなどの工夫も重要といえます。
モラハラの証拠がない場合の対処法
自分で用意できた証拠が手元にない場合には、弁護士に相談して、証拠集めについてアドバイスを得ることが重要となります。証拠がないことに焦ってしまい、状況を悪化させてしまう可能性もありますので、専門家のアドバイスを受けてから、できる範囲で証拠集めをしていくことをお勧めします。
証拠がない状態から弁護士が介入したとしても、弁護士が相手方とやり取りしていく中で、相手方が自らが意図せずモラハラを認めるケースもありますので、諦めずに対応しておくべきといえます。
モラハラの証拠があれば、慰謝料も請求できるのか
モラハラについて証拠を用意して、モラハラの存在が立証できれば、不貞行為や暴力行為と同様に慰謝料請求が可能です。
しかし、モラハラは抽象的な概念であることもあり、慰謝料が認められるとしても、不貞行為などと比較すると、慰謝料は低額になる傾向があります。
また、証拠があっても、モラハラの立証まで至らない場合には慰謝料の請求自体が認められないこともありえます。
モラハラ離婚の証拠に関するQ&A
子供が配偶者からモラハラを受けていた場合、離婚するには証拠が必要ですか?
親からのモラハラは子供に対する精神的虐待といえるものであり、子供の健全な成長に悪影響を及ぼすものです。
子供に対するモラハラが原因で離婚したり、慰謝料請求したりする場合でも、配偶者に対するものと同様に、モラハラを立証するためには証拠の存在が重要となります。
他方で、子供への悪影響を考慮すれば、証拠集めのために時間がかかっている間に子供がどんどん悪い状況に陥ってしまうことが懸念されます。
そのため、証拠集めも重要ではありますが、子供をモラハラの悪影響を受けない環境に置いてあげることも重要となります。子供を守るためには子供を連れて別居をすることを検討しなければならない場合もあります。
配偶者とのLINEの内容が削除されていても、友人などにモラハラの内容が書かれたLINEを転送していた場合はモラハラの証拠になりますか?
モラハラに該当するLINEの内容を友人等に転送しておくこともモラハラの証拠を確保するという観点で意味があります。スマートフォンのデータが消えてしまった場合やモラハラ加害者から強引にデータを削除されてしまった場合など、手元にある証拠がなくなってしまっても、第三者のところでデータが残っていれば、モラハラを立証できる可能性が残ります。
日記や録音データなどの証拠は、長期間集めるべきですか?
日記や録音データなどの証拠は、なるべく長期間にわたって集めておくことが望ましいといえます。長期にわたって繰り返されていることが客観的に残っていれば、モラハラの内容をより具体的に示すことができますし、単発の証拠よりも信用性も高まるといえます。
また、日記については、単に長期間作成するのではなく、なるべく毎日記録しておくことも重要といえます。
離婚の際に必要なモラハラの証拠について、経験豊富な弁護士がアドバイスさせていただきます。
モラハラは、言葉や態度など記録に残りにくい形で、しかも家庭内という密室でなされることも多いことから証拠を集めることが難しい傾向にあります。
モラハラの被害について主張していきたい場合には、ぜひ一度離婚事件の取り扱いの多い弁護士に相談をしてみてください。証拠集めの方法や今ある証拠でできることなど具体的なアドバイスを受けることができ、離婚に向けた準備を進めやすくなるはずです。
相続人の全員が集まって、各自の相続分や相続方法等を話し合い、合意した内容についてまとめた書面を「遺産分割協議書」といいます。
遺産分割協議書は、相続財産が少ないケース等では相続人が作成することも可能です。しかし、相続財産が増えると作成が難しくなり、特に多数の不動産が含まれる場合にはミスをしたときの影響が大きくなりがちです。加えて、相続人が多くなる場合等ではトラブルのリスクが上がるので、なるべく専門家に相談するべきでしょう。
この記事では、遺産分割協議書の概要や必要となる場面、作成できる人、必要書類、作成の流れ、提出先等について解説します。また、ケース別の記載例についても掲載しています。
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、相続財産の分配方法等について合意したことをまとめて記載し、相続人全員が署名押印した書面です。主に、遺言書が存在しない場合や、遺言書によって相続人が指定されていない相続財産がある場合等に作成されます。
遺産分割協議書を作成する義務は定められていません。しかし、合意した内容を証明できることや、相続手続きに使えることから、なるべく作成するべき書面だといえます。
遺産分割協議については以下のページもあわせてご覧ください。
遺産分割協議について詳しく見る遺産分割協議書は必要か
遺産分割協議書は、相続人が複数であれば、ほとんどのケースで必要となります。特に以下のような場合には、ほぼ確実に必要となります。
- 法定相続分や遺言書通りに相続しない場合
- 相続税の申告をする場合
- 名義変更が必要な相続財産がある場合
これらの場合について、次項より解説します。
法定相続分や遺言書通りに相続しない場合は必要
法定相続分や遺言書に従って相続しない場合、各相続人がどのような財産を相続したのかを証明するために遺産分割協議書が必要となります。
遺産分割協議書によって、相続人の間で取り分を証明できるだけでなく、対外的にも証明できるようになります。
相続税の申告をする場合は必要
相続税の申告が必要となる場合には、各相続人が受け取った相続財産の金額を明らかにするために遺産分割協議書が必要となります。
相続税の申告は、相続財産の金額が基礎控除額以下であれば必要ありません。基礎控除額は、以下の式によって計算できます。
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
なお、相続財産の金額が基礎控除額を上回っていたとしても、税額控除等によって相続税がかからなくなる場合があります。
主に以下のような税額控除等を適用してもらうためには、遺産分割協議書を作成する必要があります。
- 配偶者の相続税額控除
- 小規模宅地等の特例
名義変更が必要な相続財産がある場合も必要
不動産や自動車等が相続財産に含まれている場合には、基本的に遺産分割協議書を作成する必要があります。なぜなら、所有権移転や名義変更の手続きにおいて、遺産分割協議書が必要書類として要求されているからです。
「やっぱりやり直したい」「合意していない」といったトラブルを防止できる
遺産分割協議書を作成しないと、後になって遺産分割をやり直したい等の要求を受けるおそれが高くなります。また、遺産分割協議が成立した事実を否定されるリスクもあります。
相続争いが予想される場合には、必ず遺産分割協議書を作成しましょう。また、家族関係が良好で、相続争いが起こる心配がないと思っている場合であっても、相続人の気が変わることもあるので書面を作成しておけば保険になります。
遺産分割協議書が不要なケース
遺産分割協議書が不要なケースとして、以下のようなものが挙げられます。
- 相続人が1人しかいないケース
- 遺言書によってすべての財産の取得者が指定されており、その内容に従うケース
- 相続財産が現金や動産等だけであり、名義変更や相続税申告の必要がないケース
ただし、相続人が2人以上いる場合には、トラブルを防止するために遺産分割協議書を作成するのが望ましいでしょう。
遺産分割協議書はどこでもらえるの?
遺産分割協議は、役所等でもらえる書類ではないため、自分で作成するか、専門家に作成を依頼する必要があります。
自分で作成する場合、特定の書式が指定されているわけではありませんが、テンプレートは存在するので参考にしながら作成することは可能です。
ただし、相続財産が多種多様である場合や高額である場合等では、テンプレートをどのように変えれば問題が生じにくいかは専門家でなければ判断が難しいです。相続登記等で使えない書類になってしまうことを防止するためにも、なるべく専門家に依頼することをおすすめします。
遺産分割協議書を作成できる人
遺産分割協議書を作成できる人として、以下のような人が挙げられます。
- 相続人
- 弁護士
- 司法書士
- 行政書士
- 税理士(相続税の申告がある場合のみ)
ただし、遺産分割協議書は相続手続きで用いるため、明確で間違いのない書面にしなければなりません。なるべく弁護士に作成を依頼するべきでしょう。
遺産分割協議書は自分で作成できる?
遺産分割協議書を自分で作成することは可能です。ただし、不備があると以下のようなリスクが生じます。
- 相続争いが蒸し返されるリスク
- 相続手続きのための書類として認められないリスク
自分で作成するのが難しいと感じたら、弁護士に相談することをおすすめします。
遺産分割協議書の作成を専門家に頼むと作成費用はいくらかかる?
遺産分割協議書を作成する必要がある場合には、弁護士や司法書士、行政書士、税理士といった専門家に作成を依頼できます。
ただし、行政書士以外の専門家は、遺産分割協議書の作成だけの依頼はできないケースが多いので、他の依頼を併せて行うのが一般的です。
遺産分割協議書の作成を依頼した場合の費用の相場は、おおむね以下のとおりです。
弁護士:依頼人が受け取る経済的利益の10%程度(交渉等を含む)
司法書士:3万~12万円程度(相続登記等を含む)
行政書士:3万~5万円程度
税理士:相続財産の金額の0.5%~1%程度(相続税申告等を含む)
弁護士に遺産分割協議書の作成を依頼する場合には、遺産分割交渉等を併せて依頼するケースが多いです。代理人として交渉する依頼は、基本的に弁護士にしかできないので、相続争いが発生した場合には弁護士への依頼が必要となるでしょう。
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遺産分割協議書はいつまでに作成すればいい?期限はある?
遺産分割協議書の作成には期限がありません。ただし、相続税の申告期限は、自己のために相続が開始されたことを知ってから10ヶ月以内とされています。
相続税の申告が遅れると無申告加算税や延滞税を支払うことになるため、納税期限までに遺産分割協議を終わらせて、遺産分割協議書を作成するべきでしょう。
相続財産が相続税のかからない金額に収まるケースであっても、相続財産に不動産が含まれている場合には、不動産を取得してから3年以内に相続登記を行う義務があるので注意しましょう。
なお、作成した遺産分割協議書には有効期限がありません。そのため、なんらかの理由で手続きが遅れてしまっても、遺産分割協議書の効力には影響しません。
遺産分割協議書の作成に必要な書類
遺産分割協議書を作成するときに必要な書類として、主に以下のようなものが挙げられます。
- 被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
相続人全員が遺産分割協議に参加したことを証明するために、相続人調査を行う必要があります。相続人調査は、被相続人の戸籍謄本を調べることによって行われます。
相続人調査について詳しくは以下のページをご覧ください。
相続人調査について詳しく見る遺産分割協議書の作成方法と流れ
遺産分割協議書に特定の書式はなく、形式は決まっていません。用紙のサイズ等も自由ですが、改ざん等を疑われないように作成する必要があります。
遺産分割協議書の作成方法やその流れについて、次項より解説します。
遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議書の見本を掲載します。
書面が1枚では収まらなかった場合には、契印や割印によって複数枚に及ぶことが分かるようにしましょう。
遺産分割協議書の綴じ方
【契印の方法(ホチキス止め)】
ホチキス止めされた遺産分割協議書に契印を押す場合には、全てのページの見開きに、両方のページにまたがるように押印します。
【契印の方法(製本)】
遺産分割協議書が製本されている場合、製本テープと用紙にまたがるように契印を押します。
【割印の方法】
遺産分割協議書は、基本的に相続人の人数分だけ作成するので、その全てにまたがるように割印を押します。
作成時には相続人全員の実印と印鑑証明が必要
実印とは、市区町村役場で印鑑登録を行った印鑑のことです。印鑑登録ができるのは、破損しづらい素材でできた印鑑なので、100円ショップで売っているような印鑑は登録できないことが多いです。また、たとえ登録が可能であったとしても、悪用されるリスクが高まることになるので、容易に入手できる印鑑は登録しないようにしましょう。
銀行に届け出ているのと同じ印鑑であっても、印鑑登録が可能なケースもありますが、やはり悪用の懸念が高まるので他の印鑑を登録することをおすすめします。
印鑑登録を行っていると、役場の窓口やコンビニで印鑑証明書を発行してもらうことができます。発行手数料は窓口で300円程度かかります。また、コンビニで発行すると200円程度としている自治体もあるようです。
遺産分割協議書を相続人の人数分作成し、相続人全員の印鑑証明を添付して保管する
遺産分割協議書を相続手続きに用いるときには、原本を提出しなければならない場面が多いです。そのため、相続人の全員分を印刷して押印しましょう。押印した書類をコピーしても、原本としては扱われないので注意しなければなりません。
また、印鑑証明書も原本を提出しなければならないので、全員が人数分の印鑑証明書を用意して、各々が所有する遺産分割協議書に1枚ずつ添付しましょう。
遺産分割協議書と印鑑証明書の保管は、すべての相続人が自身の責任で行います。相続手続きを行うときに、保管している書類を用いる場合には、原本還付の手続きを併せて行う必要があります。
遺産分割協議書の訂正が必要になったら
遺産分割協議書を訂正する場合には、なるべく作り直すのが望ましいといえます。しかし、軽微なミスであれば、二重線による削除と正しい文言の記入、そして相続人全員の押印によって訂正することが可能です。
また、前もって捨て印を押しておくことによって、相続人の1人だけで訂正が可能となります。ただし、捨て印は大幅な書き換えには使えません。
なお、捨て印で書き換えられる範囲に厳密な定めはないので、重要な部分の書き換えが認められるリスクがないわけではありません。そのため、遺産分割協議書の改ざんのリスクを高めることに注意しましょう。
遺産分割協議書のテンプレート(文例集)
共通して必要になる項目
遺産分割協議書で必要となる項目は、主に以下のとおりです。
- 遺産分割協議書であることが分かるタイトル
- 被相続人の表記(氏名、生年月日、死亡年月日、本籍地、最後の住所地)
- 前書き
- 本文(遺産の分け方の記載)
- 後日発見された財産の取扱い
- 後書き
- 作成した日付、相続人全員の署名押印
預貯金がある場合
相続財産に預貯金がある場合には、遺産分割協議書の「共通して必要になる項目」に、以下の内容を追加します。
【銀行預金の場合】
- 銀行名
- 支店名
- 種別(普通預金/定期預金/当座預金)
- 口座番号
- 名義人
【ゆうちょ銀行の貯金の場合】
- 種別(通常貯金、通常貯蓄貯金など)
- 記号
- 番号
- 名義人
相続放棄した人がいる場合
相続放棄をした人がいる場合、その人を除いた相続人全員で遺産分割協議書を作成すれば良く、相続放棄をした人のことまで書く必要はありません。
ただし、相続人のうちの誰かが相続財産を受け取らないことにした場合には、遺産分割協議書に財産を受け取らない相続人の署名押印が必要となります。相続財産を受け取らないことを「相続分の放棄」といいます。
相続分の放棄をした人がいても、その旨を明記する必要はなく、他の相続人が相続財産をすべて相続する内容になっていれば問題ありません。
なお、相続分の放棄をした人に対して、被相続人の債権者が請求を行うことは可能です。そのため、相続分の放棄をしても、相続財産に含まれる借金等を支払うことになるリスクがあります。
相続財産に高額な借金等が含まれている場合には、家庭裁判所で相続放棄の手続きを行うことを検討しましょう。
マンションがある場合
相続財産にマンションがある場合には、遺産分割協議書の「共通して必要になる項目」に、以下の内容を追加します。
【一棟の建物の表示】
- 所在
【敷地権の目的である土地の表示】
- 土地の符号
- 所在及び地番
- 地目
- 地積
【専有部分の建物の表示】
- 家屋番号
- 建物の名称
- 種類
- 構造
- 床面積
【借地権の表示】
- 土地の符号
- 借地権の種類
- 敷地権の割合
相続人に未成年者や認知症の人がいる場合
遺産分割協議をするときに、相続人に未成年者がいる場合、その未成年者には代理人が必要です。親が法定代理人になれる場合は問題が起こりにくいと考えられますが、親も相続人であるケース等では特別代理人の選任が必要となるおそれがあります。
特別代理人がいる場合には、どの相続人の特別代理人であるかを遺産分割協議書に明記する形で、代理人が署名押印します。
また、遺産分割協議をするときに、相続人に認知症等によって意思能力を失っている人がいる場合、その人のために成年後見人を選任してもらう必要があります。
成年後見人がいる場合にも、どの相続人の後見人であるかを遺産分割協議書に明記して、後見人が署名押印します。
一人が全て相続する場合
例えば、被相続人の子供の全員が相続財産は不要だと言っており、被相続人の妻がすべての財産を相続するケースでは、以下のような事項を記載します。
- 遺産分割協議書であることが分かるタイトル
- 被相続人の氏名、生年月日、死亡日、本籍地、最後の住所地
- 相続人全員が合意した旨
- 被相続人の妻がすべての財産を相続する旨
- 債権および債務も妻がすべて相続し、他の相続人が請求された債務は求償できる旨
- 遺留分侵害額請求権を放棄する等の清算条項
- 遺産分割協議書の作成日
- 相続人全員の署名押印
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遺産分割協議書の提出先
遺産分割協議書の主な提出先を表にまとめたのでご覧ください。
相続財産 | 提出先 | その他必要な手続き |
---|---|---|
預貯金 | 各金融機関 | ・預金の払戻し ・口座の名義変更 |
不動産 | 法務局 | 相続登記 |
株式 | 証券会社か株式の発行元の会社 | 名義変更 |
自動車 | 運輸支局※軽自動車でなく、査定額が100万円を超える自動車の場合のみ | 名義変更 |
なお、査定額が100万円以下の自動車の名義変更については、代わりに「遺産分割協議成立申立書」という書類を提出できます。また、遺産分割協議書を提出することもできます。
遺産分割協議書の作成後に新たな遺産が判明した場合
遺産分割協議書を作成した後で、新たな相続財産を発見した場合には、その財産についてのみ記載した遺産分割協議書を作成すれば対応できます。これによって、遺産分割協議書が2枚以上になっても法的な問題はありません。
ただし、最初の遺産分割について不満を抱いていた相続人がいる場合、新たな相続財産について激しく主張されてしまうおそれがあります。そのため、最初の遺産分割のときに、新たな相続財産が見つかったときの相続人を指定しておくと良いでしょう。
なお、発見された相続財産が高額であり、その存在を知っていれば当初の遺産分割に応じなかったと考えられるケースでは、当初の遺産分割が錯誤により取り消されることもあります。
遺産分割協議書に関するQ&A
遺産分割協議書は手書きじゃなきゃダメですか?
遺産分割協議書は、全文を手書きする必要がないので、パソコン等によって作成することも可能です。
ただし、証拠としての価値を高めるために、相続人の住所と氏名は手書きする必要があります。また、押印は実印によって行い、印鑑証明書を添付しましょう。
遺産分割協議証明書って何ですか?遺産分割協議書とは別に作る必要がありますか?
遺産分割協議証明書とは、遺産の分配方法等について合意した内容を証明するための書面です。遺産分割協議書と同じような効力がありますが、1枚の書面に署名押印するのが、相続人のうちの1人だけである点が異なります。
遺産分割協議書であれば、同一の書面にすべての相続人が署名押印しなければなりません。そのため、相続人の多くが遠方に住んでいるようなケースでは、郵送等の方法によって順番に回していくことになり、紛失のリスクが生じてしまいます。また、相続人が多忙である等の理由で放置されるリスクもあります。
一方で、遺産分割協議証明書は、相続人が1人ずつ、自分のための書面に署名押印することによって成立します。そのため、各々に書面を送付して、個別に署名押印してもらうことが可能となります。
遺産分割協議書なしでも預金の相続はできますか?
遺産分割協議書がなくても、預貯金を相続することはできます。ただし、金融機関で相続手続きを行うときに手間がかかるおそれがあります。
預貯金の相続手続きでは、遺産分割協議書を作成していると、金融機関から提出を求められる場合が多いです。しかし、作成していなければ、相続人全員の署名押印によって相続手続きが可能となります。
預貯金口座が相続財産に多数含まれているケースでは、それらのすべての手続きにおいて、相続人全員の署名押印を求められることになるので、大変な手間がかかります。そのため、遺産分割協議書を作成しておくことによって負担を減らすのが望ましいでしょう。
他にも財産がある状態で不動産のみ記載された遺産分割協議書を作成しても有効になりますか?
不動産のみについて記載した遺産分割協議書を作成しても、相続登記のための提出書類としては有効です。
不動産の記載は、どの不動産であるかを特定できるように、登記事項証明書に記載されている所在や地番、地目、面積等を記載しましょう。
また、不動産以外にも相続財産には、各相続人の取り分や相続方法等を明らかにする必要があるので、別の遺産分割協議書を作成しておくのが望ましいでしょう。
遺産分割協議書の捨印は何に使うのですか?押しても大丈夫ですか?
遺産分割協議書の捨て印とは、遺産分割協議書の上部または下部等の欄外に相続人全員が実印による押印を行うことによって、訂正を行いやすくするものです。
通常の訂正方法は、訂正箇所を二重線で消して、近くに正しい記述を行い、その部分に相続人全員による訂正印を押すというものです。しかし、この方法は手間がかかるため、なるべく使わない方が望ましいといえます。
そこで、あらかじめ捨て印を押しておく方法により、軽微なミスを簡単に修正できるようにしておく必要があるのです。
捨て印による訂正方法は、訂正箇所を二重線で消して、近くに正しい記述を行い、捨印が押された場所の近くに、消した文字数と修正のために記載した文字数を「3文字削除、5文字追加」などと記入します。
ただし、捨て印による修正は、相続分を変更するような大幅な修正には使えません。なぜなら、相続人の1人によって、遺産分割協議書を改ざんできることになってしまうからです。
相続人の中に海外在住者がいます。署名や実印、印鑑証明はどうしたら良いですか?
海外に在住している相続人がいる場合、その相続人は印鑑証明書を発行してもらうことができないので、実印や印鑑証明書の代わりに、領事の面前でのサインを行って「サイン証明書」を発行してもらいます。
サイン証明書は、相続人が住んでいる国の日本大使館または領事館で発行してもらいます。発行手数料は、日本円で1700円相当の現地通貨です。
なお、日本国籍を有する相続人が特定の国に3ヶ月以上在住しており、その相続人が不動産を相続するケースでは、住民票の代わりの書類として「在留証明書」も必要となるため併せて発行してもらいましょう。
遺産分割協議書を無効にするにはどうしたら良いですか?
有効に成立した遺産分割協議は、基本的に無効にすることはできません。協議をやり直すためには、相続人全員の合意が必要です。
なお、遺産分割協議が無効なケースや取り消せるケースがあります。それぞれ、以下のような場合です。
【無効な場合】
- 遺産分割協議に参加しなかった相続人がいた場合
- 認知症等により意思能力を欠いている相続人がいた場合
- 未成年者と、その法定代理人である両親等が相続人であり、協議して合意した場合
- 犯罪が行われることを前提としている等、遺産分割の内容が公序良俗に反する場合
【取り消せる場合】
- 重要な勘違いによって合意した場合
- 他の相続人に騙されて同意した場合
- 他の相続人から脅されて同意した場合
遺産分割協議書についてお困りの場合には、弁護士にご相談ください
遺産分割協議書は、相続人の相続分を証明するだけでなく、相続手続きに使う大切な書類です。しかし、書き方を間違えると相続争いが蒸し返されたり、手続きに使えなくなったりするおそれがあります。
そこで、遺産分割協議書を作成するときには弁護士にご相談ください。弁護士であれば、遺産分割協議書を作成するときの注意点などについて、相続財産の内容等に応じたアドバイスができます。
書面の作成以外についても、相続に伴って心配していることがある方は、遠慮なく併せてご相談ください。
交通事故に遭った場合、相手方保険会社との交渉や慰謝料の増額など、弁護士に依頼するとたくさんのメリットを受けられます。しかし、弁護士への依頼は費用がかかるため、費用を気にされて依頼をためらってしまう方もいらっしゃるでしょう。
しかし、弁護士費用は、「弁護士費用特約」を使用することで補償の範囲を超えない限り、費用を気にする必要はなくなります。
問題となるのは、交通事故に遭った際に弁護士費用特約がない場合です。
この記事では、弁護士費用特約がない場合の対処法や特約がない場合の弁護士費用などについて解説していきます。
弁護士費用特約なしの場合の対処法
弁護士費用特約は、通常、自動車任意保険や火災保険に付帯させることができます。しかし、ご自身の保険に弁護士費用特約がついていなかったとしても諦める必要はありません。
まずは、以下で紹介する2つの方法を試してみましょう。
自動車保険以外の保険を確認する
弁護士費用特約は、自動車保険以外にもついている可能性があります。まずは、以下の保険などを確認してみましょう。
- 火災保険
- 生命保険
- 医療保険
- バイク保険
- 自転車保険
- クレジットカード など
「弁護士費用特約をつけたことを忘れていた」という場合もありますので、まずは契約内容を確認してみましょう。このとき、弁護士費用特約の補償上限についても確認しておくと安心です。
家族や同乗者の保険を確認する
弁護士費用特約は、加入者の家族も補償対象となっているケースもあります。
つまり、自分の保険には弁護士費用特約がついていなくても、家族の保険についていれば使えることがあるのです。
一般的な弁護士費用特約が適用される範囲は以下のとおりです。
- 保険の契約者本人(記名被保険者)
- 契約者の配偶者
- 契約者または配偶者の同居の親族
- 契約者または配偶者の別居の未婚の子
- 契約の車に搭乗中の者
- ①~④の者が運転する自動車またはバイクに同乗していた者
特約がない場合、弁護士費用はどれくらいかかる?
調べてみた結果、弁護士費用特約がついていなかったというケースもあるでしょう。
弁護士への依頼は弁護士費用特約がなくても可能です。しかし、費用が気がかりになるでしょう。
では、必要な弁護士費用にはどのようなものがあるのか詳しく見ていきましょう。
相談料
相談料とは、弁護士と委任契約を結ぶ前に行う法律相談にかかる費用のことです。
相場は30分5000円~1万円程度ですが、事務所によっては無料相談を行っているところもあります。
弁護士との法律相談では、不安に感じていることや困りごとを弁護士に相談したり、依頼した場合に見込める金額などを試算してもらうことができます。
弁護士に相談をしたからといって、必ず契約を結ばなければならないわけではありません。別の弁護士に相談に行くことも可能です。
着手金
着手金は、弁護士と委任契約を結び、弁護士が事件に着手する際に支払う費用です。
着手金の金額については弁護士事務所によって様々ですが、多くの事務所で「経済的利益に応じた料金+固定料金」という形で設定されており、数十万程度を見ておきましょう。
実費
事件の事務処理を進めるにあたって発生する諸費用のことです。弁護士は事件を進めるなかで依頼者や相手方、相手方保険会社などと様々なやり取りを行います。
実費の具体的な内容について見ていきましょう。
- 各種書類を送付する費用
郵便切手代 など
- 各種書類入手のための費用
治療状況を医療機関に確認するための医療照会費用、事故状況を確認するための実況見分調書の取得費用 など
- 交通費
警察や病院、事故現場、その他の交通事故関係機関に赴く際の費用 など
- 手数料
訴訟提起の際の手数料(収入印紙・予納郵券代) など
成功報酬
成功報酬とは、事件が解決した際に、その解決に対する対価として支払う費用のことで、弁護士事務所によって相場が大きく異なります。
目安としては、経済的利益の20%前後であることが多いかと思いますが、事前に契約を結ぶ前に確認しておくと良いでしょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
弁護士費用特約がなくても弁護士に依頼すべき?
弁護士費用特約がない場合、ご自身で弁護士費用を支払う必要があります。そのため、事件が解決したとしても手元に残るお金は少ないのでは?と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。
はたして、弁護士費用特約がなくても、交通事故は弁護士に依頼すべきなのでしょうか。
ここからは、物損事故のケースと人身事故のケースに分けて、弁護士費用特約がなくても弁護士に依頼すべきかについて解説していきます。
物損の場合
物損事故とは、自動車や建物など物に対する損害は発生したものの、人がなくなったり怪我をしたりすることがなかった事故のことをいいます。
車両等が少し損傷したような軽微な事故の場合では、弁護士に依頼しても費用倒れとなってしまう可能性もあり、弁護士に依頼する必要はないかもしれません。
しかし、自動車や建物の損傷が大きな物損事故の場合では、弁護士への依頼を検討すべきケースといえるでしょう。
大きな事故になれば、過失割合に納得できなかったり、修理費が高額になったりするため、弁護士に交渉して解決してもらうと安心でしょう。
人身事故の場合
事故により怪我をしたり、死亡に至ったような人身事故の場合でも、弁護士費用特約がない場合は、ケースバイケースといえます。
例えば、怪我はしたものの、擦り傷程度で通院も1日で終わるような場合では、弁護士に依頼することで費用倒れとなる可能性もあります。
しかし、軽微ではない怪我のケースでは、弁護士に依頼することで、示談金が増額する可能性が高く、弁護士費用を払っても示談金が手元に残る可能性が高まります。
人身事故の場合は、まずは一度弁護士に相談してみましょう。
費用倒れのリスクがないかは確認してもらえる
弁護士費用特約がない場合、費用倒れになるかどうかは気になる問題だと思います。
弁護士法人ALGでは、電話相談の段階でご相談者様の事故状況や弁護士費用特約の有無を丁寧にヒアリングし、費用倒れになりそうな場合はお伝えさせていただいています。
無理な契約などは一切ございませんので、お気軽にお問い合わせください。
特約なしの交通事故の解決事例
(事案の概要)
依頼者は、交通事故による治療中に2度目の事故に遭ってしまいました。
1事故目の示談成立後に2事故目の賠償額提示があったのですが、1事故目の賠償により損害の一部が既に補填されているとして低額の賠償にとどまっていたため、当事務所に依頼されました。
(担当弁護士の活動)
担当弁護士は、1事故目と2事故目とでは、受傷部位が全く異なることから、別個独立の交通事故と評価すべきと主張し、慰謝料についても1事故目を理由に減額されることは許されない旨を主張しました。
(結果)
担当弁護士の粘り強い交渉の結果、弁護士に依頼する前は約70万円の提示でしたが、約250万円で示談が成立しました。依頼者は弁護士費用特約に入っていませんでしたが、弁護士費用を差し引いても十分な増額幅となりました。
弁護士費用特約に加入していなくても、まずはご相談ください
交通事故に遭い、弁護士に相談しようと思った場合に、弁護士費用特約がなければ、「弁護士費用が支払えるか心配だな」とご不安になるでしょう。
しかし、交通事故では、弁護士費用特約がなくても弁護士に依頼することで受けられるメリットがたくさんあります。
交通事故でお悩みの際は、まずは私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
私たちは、ご相談者様のお悩みや、事故や怪我の状況、弁護士費用特約の有無など詳しくヒアリングし、受けられるメリットや費用倒れになる可能性など、ご不安な部分をしっかりとお伝えしていきます。
また、ご相談者様の利益優先で尽力いたします。
少しでも不安が残る方は、まずは一度私たちにお話をお聞かせください。
「内縁関係」とは、法律上定義されたものではありませんが、婚姻届は提出していないものの、お互いに婚姻の意思があり、実質的には結婚している夫婦と同様の状態にある関係をいいます。
内縁関係にある場合、婚姻に準ずる関係として、法律婚と同様の法的保護を受けられる場合があり、そうしたときに内縁関係の証明が必要となります。
以下では、内縁関係をどのように証明していけばいいか、必要な書類や方法について詳しく説明していきます。
内縁関係の証明が必要となるのはどんな時?
内縁関係は、「婚姻に準ずる関係」と認められており、結婚している夫婦と同様に、法的に保護されているものがあります。例えば、次のようなものです。
- 内縁関係にある相手方が不貞行為をした場合の慰謝料請求
- 正当な理由がない一方的な内縁関係の解消があった場合の慰謝料請求
- 内縁関係を解消する場合の財産分与請求
このように、夫婦であれば当然発生するような権利を主張する際に、内縁の相手方が内縁関係を否定する場合には、権利を主張する側が内縁関係を証明する必要があります。
内縁関係を証明するには?書類や方法について
内縁関係にあるかどうかは、①双方に婚姻の意思があるか、②夫婦としての共同生活を送っているかどうかによって判断されます。
法律婚であれば、戸籍謄本から夫婦であることを簡単に証明することができますが、内縁関係の場合、こうした決定的な証拠はありません。そのため、以下のような書類や事実関係から、内縁関係にあることを証明していくことになります。
住民票
内縁関係を証明する書類として、まず、住民票が挙げられます。住民票上の世帯を同一にしておけば、2人が同居していたことや同居期間の長さ等の事実を証明することができます。
さらに、住民票の続柄の欄に、「妻(未届)」ないし「夫(未届)」と記載されていれば、当事者双方に婚姻の意思があることがより認められやすくなります。
このように、住民票は、同居の事実や婚姻の意思の有無に関する事実を示すことができる公的な書類であることから、内縁関係を証明する証拠として、特に重要なものといえます。
賃貸借契約書
同居する際に作成された賃貸借契約書も、内縁関係を証明するものとなり得ます。
例えば、賃貸借契約書の同居人の欄に、内縁の相手方の氏名が記載され、続柄に「内縁の妻」「内縁の夫」といった表記がされていれば、同居の事実や婚姻の意思があったことの証明に繋がるといえます。
健康保険証
内縁配偶者の「被扶養者」として記載された健康保険証も、内縁関係を証明する証拠の一つとなると考えられます。
健康保険証の「被扶養者」には、主として被保険者によって生計を維持している事実上の配偶者も含まれます。
例えば、内縁の妻(夫)が健康保険法上の被扶養者の条件を満たし、内縁の夫(妻)の被扶養者として認定され、内縁の夫(妻)の勤務先から健康保険証の交付を受けている場合には、その保険証も、2人の内縁関係を証明する1つの材料となり得ます。
遺族年金証書
「遺族年金証書」も、内縁関係を証明するための証拠になり得ます。
遺族年金とは、国民年金または厚生年金の保険に加入していた者が亡くなったとき、その者に生計を維持されてきた遺族(配偶者や子供など)が受け取る年金のことをいいます。
上述の健康保険と同様に、遺族年金の受給者とされている配偶者にも事実婚状態にある者が含まれているため、内縁関係であっても、受給要件を満たしていれば遺族年金を請求できます。
請求が認められると、遺族年金証書が送られます。遺族年金を支給する際には、内縁関係であることを確認してから支給することになりますので、遺族年金証書は内縁関係を証明する証拠となるといえます。
給与明細
勤務先からの給与明細も、内容によっては内縁関係を証明する証拠の1つとなり得ます。
例えば、内縁関係の相手が勤務先に対し、内縁の相手を被扶養者として申告し、勤務先もこれを認めていた場合、勤務先によっては、「家族手当」や「扶養手当」、「住宅手当」等の諸手当が支給されることがあります。
このように、勤務先が内縁の相手を被扶養者として認め、内縁の相手にかかる諸手当を支給している場合には、その給与明細も、内縁関係にあることを証明する証拠になるといえます。
民生委員が作成する内縁関係の証明書
民生委員が作成する「内縁関係の証明書」も、内縁関係を証明する際の証拠になり得ます。
民生委員とは、住民の立場に立って相談を受けて必要な援助を行うなど、社会福祉の増進に努める非常勤の地方公務員のことをいいます。民生委員に依頼すれば、「内縁関係の証明書」を作成してもらえることがあり、内縁関係の証明に役立つ可能性があります。
もっとも、民生委員は、社会福祉の増進に努める地方公務員ですので、内縁関係の証明書についても、福祉サービスを利用するための支援としてでなければ作成してもらえず、また、法律に触れるような問題であったり法的証拠として取り扱われたりするものについては作成してもらえないことにご留意ください。
長期間の同居
夫婦同然の共同生活をしていた同居期間の長さは、内縁関係の成立の判断で考慮される事情の一つです。
同居期間は長ければ長い方が、内縁関係にあることを証明しやすくなります。
内縁関係の成立が認められるためには、一般的には3年程度の同居期間が必要だといわれていますが、実際には個別の様々な事情から内縁関係の成立の有無が判断されるため、3年というのもあくまで目安にすぎません。
親族や友人たちから夫婦として扱われている
親族や友人など周囲の人たちから、夫婦としての扱いを受けているといたという事実は、内縁関係を証明する事実の一つとなります。
例えば、「親族の冠婚葬祭に夫婦として呼ばれている」「お互いの友人に夫婦だと紹介している」というような場合は、お互いに婚姻の意思があり、かつ、夫婦として共同生活を送っていると認められやすくなりますので、内縁関係を証明する上で重要な事実といえます。
結婚式や披露宴を挙げたことがわかる書類や写真
結婚式や披露宴を挙げたことがわかる書類や写真は、内縁関係の証明となる可能性があります。
婚姻届を提出していないとしても、結婚式や披露宴を挙げていた場合には、双方に婚姻意思があることが読み取れますので、それらの写真等は、内縁関係があったと証明する証拠となり得ます。
また、結婚式や披露宴を挙げているということは、お互いの親族や友人からは夫婦であると扱われている可能性が高いので、上述の事実関係と相まって、内縁関係を証明する上で重要な事実といえます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
内縁関係の証明に関するQ&A
半同居生活を送っていた場合でも内縁関係を証明することはできますか?
内縁関係を証明するためには、お互いに婚姻の意思があり、かつ、夫婦としての共同生活を送っていることを立証する必要がありますので、基本的には、同居をして共同生活を送っていることが前提となると考えられます。
もちろん、最終的には様々な個別的事情を考慮して判断されるため、半同居生活であることから直ちに内縁関係が否定されるとはいえません。
半同居であったとしても、家計を同一にしていた等の事情があれば、夫婦同然の共同生活を送っていたものとして、内縁関係を証明できる可能性はありますが、完全に同居していた場合に比べると、証明は難しくなることが予想されます。
自分で作成した契約書は内縁関係を証明する証拠になりますか?
自分たちで作成した契約書も、内容次第では内縁関係を証明する証拠になります。
例えば、双方に婚姻意思があることを証明するため、「お互いに婚姻の意思があることを確認し、夫婦として共同生活を始める」といった内容で契約書にしておくと、同契約書を根拠に内縁関係があったことを主張しやすくなります。
また、作成した契約書を公証役場で「公正証書」にすれば、さらに、契約書の証拠価値が高まります。
自動車保険は内縁関係を証明する証拠になりますか?
一般的に、自動車保険では、内縁関係にある者も配偶者として取り扱うとされています。
内縁関係を配偶者とする場合、通常、保険会社が内縁関係にあることの確認をした上で契約を締結することになりますので、自動車保険の契約内容から内縁関係を証明することが可能となります。
例えば、自動車保険の内容が、内縁の妻(夫)を配偶者として補償を受ける対象としている場合など、内縁関係にある者が配偶者と同等の扱いを受けていれば、その自動車保険の契約書等が内縁関係を証明する証拠になるといえます。
内縁関係を証明できれば浮気相手から慰謝料をもらうことができますか?
内縁関係であっても、法律婚における夫婦と同様、お互いに貞操義務を負っていると考えられますので、内縁関係にある者以外の者と性的関係をもつことは不貞行為にあたるといえます。
したがって、内縁関係を証明できれば、不貞行為を行った内縁関係の相手方及び不貞相手に対して慰謝料を請求できる可能性があります。
なお、慰謝料を獲得するためには、内縁関係の証明だけではなく、内縁関係の相手方が不貞相手との間で不貞行為があったという事実を証明することも必要となります。
また、浮気相手が「単なる同居人だと聞いていた。内縁関係にあるとは知らなかった」などと反論してくる可能性もあります。
そうした主張をされたときは、浮気相手が内縁関係にあると知っていた、または知り得る状況にあったということを証明する必要があります。
内縁関係を証明できるか不安なときは弁護士にご相談ください
以上、内縁関係を証明するために必要な書類や事実関係等について説明してきましたが、これらの証拠や事実関係は、どれか1つがあれば、直ちに内縁関係が認められるものではありません。
法律婚と違って、戸籍謄本によって簡単に証明することができるわけではないため、様々な事情を組み合わせて証明していく必要があります。
内縁関係の成立の有無によって法的な保護を受けられるかどうかが変わってきますので、内縁関係の証明に関してご不安な場合には、お早めに弁護士に相談されることをお勧めします。
配偶者がアルコール依存症である場合、アルコール依存症であることを理由に離婚は認められるでしょうか。アルコール依存症の患者数には日本国内で80万人以上にものぼるといわれています。
人によっては家族に対して暴力を振るってしまったり、暴言を吐いてしまったりすることがあるため、アルコール依存症の配偶者との離婚を希望する事例は珍しくないでしょう。アルコール依存症との配偶者の離婚について、以下解説していきます。
アルコール依存症を理由に離婚できるのか
合意できればもちろん離婚できる
離婚は大きく分けると、合意により離婚する場合と、裁判官の判断により離婚する場合に分類できます。
離婚に合意して離婚届を役所に提出することにより離婚が成立する協議離婚と、家庭裁判所の離婚調停という手続きの中で合意して離婚が成立する調停離婚の場合は、双方が同意すれば離婚できます。
そのため、合意が成立すれば、アルコール依存症の配偶者とも離婚することができます。
合意できず裁判まで発展した場合は…
他方、合意による離婚ができなかった場合には、離婚訴訟を提起して裁判所に強制的に離婚を認めてもらうしかありません。離婚訴訟において、裁判官が離婚を認めるためには、民法770条第1項第1号から第5号に定める離婚事由の存在が認められる必要があります。
このうち、アルコール依存症の配偶者を被告として離婚請求する場合には、多くの事案では、第5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」として主張を展開することになることが多いです。
訴訟における主張の中で、配偶者のアルコール依存症により被った被害等について詳細に主張し、裁判官の判断を仰ぐことになります。
離婚の同意が得られなければ別居してみる
「婚姻を継続し難い重大な事由」としてアルコール依存症による被害等を主張していくことになりますが、他方で、そのような配偶者と同居したままの状態でいると、「同居可能なわけであるから、婚姻関係が破綻しているとは評価できず、婚姻を継続し難い重大な事由は認められない」という判断に傾く可能性があります。
そのため、多くの事案では、別居をした上で離婚請求をすることが多いです。離婚について合意が得られず離婚訴訟も含む法的手続きを視野に入れなければならない場合には、離婚前に別居を開始することを検討した方がよいでしょう。
アルコール依存症を理由にした離婚で慰謝料請求できる?
アルコール依存症というだけでは慰謝料は認められにくい
離婚訴訟の中で離婚慰謝料を請求する場合、配偶者がアルコール依存症であるというだけでは、裁判官が離婚慰謝料の支払いを認める可能性は高くないと考えられます。
請求自体は可能ですが、裁判官が離婚慰謝料を認めるハードルは高いものと考えられます。アルコール依存症であるということだけでなく、その結果として暴力行為等があったなどの事情が必要となることが多いです。
モラハラやDVを受けているなら請求できるけど証拠が必要
アルコール依存症の配偶者からモラハラやDVを受けるというケースもあります。モラハラやDVという形で被害を受けている場合に、離婚慰謝料を請求することが考えられます。
モラハラやDVにより裁判官が離婚慰謝料を認めるケースはあると考えられますが、継続的に被害を受けているということがわかる詳細かつ客観的な証拠が必要です。写真や日記、診断書といった証拠の収集を心がけましょう。
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アルコール依存症の配偶者に離婚慰謝料を請求する流れ
アルコール依存症の配偶者に離婚慰謝料請求をする場合、他のケースでも基本的には同様ですが、まずは協議や調停の場で離婚慰謝料の請求をしてみましょう。
これらの手続きでは合意さえ成立すれば、相手方が離婚慰謝料の支払いをしてくれます。合意が成立せず、離婚訴訟に至った場合には、離婚慰謝料の請求を正式に裁判所に申し立てる必要があります。
そして、裁判官が、提出された証拠をもとに慰謝料を認めるか否か、認めるとして金額を判断します。
アルコール依存症が理由の離婚に関するQ&A
アルコール依存症の妻でも、離婚時に親権を獲得する可能性はありますか?
離婚訴訟において、親権者の指定について合意が成立しない場合には、裁判官が親権者を定めることになります。このとき、アルコール依存症の妻でも親権を獲得する可能性はあります。他方、症状の程度や生活能力、従前の監護に携わってきた程度等次第では、妻を親権者として指定せず、夫を親権者として指定するということも十分に考えられます。
アルコール依存症の配偶者からの暴力で離婚し、慰謝料を請求しましたが支払ってもらえません。義両親に支払ってもらうことはできますか?
離婚訴訟において当事者となれるのは、あくまで夫と妻だけです。したがって、アルコール依存症の配偶者からの暴力について、裁判官が離婚慰謝料を認めた場合には、あくまでその配偶者の財産に対して強制執行ができるのみで、配偶者の両親の財産に強制執行ができるわけではありません。 他方、離婚協議をするにあたり、任意に配偶者の両親が、自身らの子の暴力について慰謝料を支払うということで合意をしたのであれば、配偶者の両親から慰謝料を支払ってもらうことが可能です。
アルコール依存症の配偶者とスムーズに離婚するためには、弁護士にご相談ください
アルコール依存症の配偶者の場合、ケースによっては、協議をすること自体困難なこともあります。
そのようなケースでも離婚手続きを進めることは可能ですが、調停や訴訟等の法的手続きが必要になってきます。裁判所を利用したことのある人は稀でしょうから、スムーズに離婚を実現させるためにも、裁判所手続きに精通した弁護士に相談をすることをお勧めいたします。
家族が亡くなって遺言書を発見したら、内容を確認したくなる人が多いでしょう。しかし、遺言書が封筒に入っている場合、勝手に開けてはいけないと聞いたことのある人がいるかもしれません。
実は、遺言書には、勝手に開けることが禁止されているものがあります。そのような遺言書については、家庭裁判所において「検認」という手続きを行わなければなりません。
この記事では、遺言書の検認手続きが必要となるケースや、検認手続きの流れ等について解説します。
遺言書の検認とは
遺言書の検認とは、以下のようなことを目的とした手続きです。
- 相続人に遺言書の存在や内容を知らせること
- 遺言書の内容を明らかにして偽造や変造を防止すること
検認は、遺言書の現状を保全する効力のある手続きです。つまり、遺言書の書き換え等を防止するための手続きなので、検認は遺言書の有効性とは無関係です。
有効性を判断されるものではない
検認は、あくまでも遺言書の現状を保全するための手続きなので、遺言書に効力があること等の確認はしません。そのため、検認の手続きを行った遺言書であっても、無効となることはあり得ます。遺言書が無効となるのは、主に以下のようなケースです。
- 遺言書に形式的な不備があるケース
- 前の遺言書が撤回されて新たな遺言書が作成されていたケース
- 遺言書を作成したときに認知症等によって意思能力が失われていたケース
- 誰かに騙されたり、遺言の内容について勘違いをしたまま遺言を作成したケース
遺言書の検認が必要になるケース
遺言書の検認は、次のケースで必要となります。
- 自筆証書遺言が作成されて、法務局で保管されていないケース
- 秘密証書遺言が作成されたケース
一方で、次のケースにおいては、検認は不要です。
- 自筆証書遺言が作成されて、法務局で保管されているケース
- 公正証書遺言が作成されたケース
検認せずに遺言書を開封してしまったらどうなる?
検認が必要な遺言書を、検認を受ける前に開封してしまうと5万円以下の過料に処せられるおそれがあります。また、他の相続人から改ざん等を疑われる原因になるおそれもあります。
しかし、検認しないままで開封した遺言書であっても無効となるわけではありません。そのため、開封した状態で検認を受けることになります。
遺言書の検認に期限はある?
遺言書の検認に、明確な期限は設けられていません。しかし、検認が必要な遺言書を発見した場合、相続放棄や相続税の申告の兼ね合いもありますので、なるべく早く検認手続きを行う必要があります。
まず、相続放棄とは、相続人としての立場を放棄して、権利や義務を相続しないようにするための手続きです。
相続放棄の期限は、自己のために相続が開始されたことを知ってから3ヶ月以内とされていることから、遺言書を発見した後、検認手続きをしないまま3か月が経過してしまうと、遺言書の内容を知らなくても相続放棄ができなくなる可能性があります。
また、相続税の申告や納税についても、自己のために相続が開始されたことを知ってから10ヶ月以内とされています。遺言書の内容が分からなければ正しく納税できないので、早く検認を受けて遺言書の内容を把握する必要があります。
遺言書の検認手続きの流れ
遺言書の検認手続きは、主に以下のような流れで行われます。
- 申立書を作成する
- 検認を申し立てる
- 期日が決まったら家庭裁判所から連絡が来る
- 期日に家庭裁判所に行く
- 検認済証明書の申請をする
申立書は、裁判所が公開している「家事審判申立書」の書式を用いて作成できます。申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所から期日の連絡が来たら、申立人は当日に遺言書を持参しなければなりません。申立人が欠席してしまうと、検認手続きは行われないので必ず出席しましょう。
検認が終わると、遺言書には「検認済証明書」が添付されます。検認済証明書の発行には150円分の収入印紙と申立人の印鑑が必要となるので、忘れずに持参しましょう。
手続きをする人(申立人)
遺言書の検認を申し立てるのは、以下のいずれかの人です。
- 遺言書の保管者
- 遺言書を発見した相続人
必要書類
遺言書の検認申立ての必要書類として、主に以下のようなものが挙げられます。
- 申立書
- 当事者目録
- 被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
なお、相続人になる予定だった人が被相続人よりも先に亡くなっているケース等では、追加で必要になる書類があります。
必要書類をそろえるためには相続人調査が必要となります。相続人調査については以下のページをご確認ください。
相続人調査について詳しく見る申立先
遺言書の検認の申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。 管轄裁判所を調べたい方は、以下の裁判所のサイトでご確認ください。
裁判所の管轄区域|裁判所について検認手続きにかかる費用
検認手続きにかかる費用は、主に以下のとおりです。
- 遺言書1通あたり800円分の収入印紙
- 連絡用の郵便切手代(相続人の人数によって金額が変動するため、裁判所の事件受付係へお問い合わせください)
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
遺言書の検認が終わった後の流れ
遺言書の検認が終わったら、検認済証明書を発行してもらい、遺言書の原本に添付してもらいます。 有効な遺言書があれば、遺産分割協議を行う必要がないケースもあります。しかし、主に以下のような場合については、遺産分割協議を行うことになります。
- 遺言書に相続分などが指定されているが、具体的な遺産分割方法が明記されていない場合
- 相続人全員が遺産分割協議を行うことに同意している場合
- 遺言書で分配方法が書かれていない相続財産がある場合
- 遺言書に形式的なミスがある場合
遺産分割協議について、詳しくは以下のページをご確認ください。
遺産分割協議について詳しく見る遺言書の検認に関するQ&A
遺言書の検認に行けない場合、何かペナルティはありますか?
遺言書の検認期日は、欠席してもペナルティはありません。ただし、申立人は遺言書を持参して提出しなければならないため、出席が義務づけられています。
検認が行われる裁判所が遠くて行けない場合や、体調を崩してしまった場合等であっても、相続することは可能であり、罰せられることはありません。
また、裁判所への欠席連絡も不要です。ただし、検認期日に出席しないと、遺言書の内容を知るのが遅れてしまいます。不安な方は、弁護士等の代理人に出席を依頼する方法があります。
検認できない遺言書はありますか?
検認できない遺言書は、検認の必要のない遺言書を除けば基本的にないので、封印されていない遺言書や、誤って開封してしまった遺言書等であっても検認を受けることができます。 検認の必要のない遺言書は、以下のようなものです。
- 公正証書遺言
- 法務局で保管されている自筆証書遺言
遺言書の検認を弁護士に頼んだら、費用はどれくらいになりますか?
遺言書の検認を弁護士に依頼した場合、10万~15万円程度かかる場合が多いです。
弁護士法人ALGでは、依頼料として「手数料11万円+諸経費3.3万円(税込)」がかかります。また、相談料や実費等は別途かかるケースもあります。
弁護士費用を抑えたい場合には、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本を自分で収集すれば、費用が抑えられる可能性があります。
ただし、被相続人が何度も転居していた場合等、自分で収集するのが難しいケースも少なくないため、手に負えないと感じたら弁護士を頼ることをおすすめします。
検認せずに開けてしまった遺言書は無効になりますか?
遺言書の検認を行わずに開けてしまっても、遺言書は無効になりません。開封してしまった場合には、そのままの状態で検認を受ける必要があります。
間違って開封してしまっても、遺言書を捨ててしまうと「相続欠格」に該当して、相続権を失うおそれがあるので注意しましょう。
相続欠格とは、相続によって不正に利益を得ようとした人について、相続権を自動的に失わせる制度です。相続欠格に該当するのは以下のような人です。
- 故意に被相続人等を殺害した人(未遂も含む)
- 被相続人が殺害されたのを知って告発や告訴を行わなかった人
- 詐欺や脅迫によって、被相続人の遺言を取り消す等させた人
- 詐欺や脅迫によって、被相続人が遺言を取り消すこと等を妨害した人
- 被相続人の遺言書を破棄する等した人
遺言書の検認手続きは専門家にお任せください
遺言書の検認手続きを行わなければ、封印された遺言書の内容を確認できず、相続登記等の手続きを遺言書によって進めることもできません。そのため、遺言書を発見したら、すぐに検認手続きを進める必要があります。
しかし、慣れない人にとっては、検認手続きに必要な書類を作成したり、集めたりするだけでも大変なことです。そこで、遺言書を発見したら弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、必要書類の作成や収集についてアドバイスできます。また、検認手続きが終わった後のことについても、前もって相談しておくことが可能です。
相続人に関係の悪い人がいるケース等、相続や遺言書に関連する相談についても併せて対応できますので、不安のある方はお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)