
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
過失割合とは、発生した交通事故に対する当事者の責任の大きさを割合にしたものです。そのため、9対1、8対2、7対3のように、加害者と被害者の過失割合を合わせると10割になるのが基本です。しかし、過失割合が9対0のケースなど、それぞれの過失割合を合計しても10割にならないことがあります。
今回は、過失割合9対0という例外的なケースについて詳しく解説していきます。
この考え方を理解することで、受け取れる賠償金を増額させたり、示談交渉を早期に終わらせたりできる可能性があるので、ぜひご確認ください。
交通事故の過失割合9対0ってどういうこと?
【過失割合9対0】と目にすると、一見、「加害者の過失が9割、被害者の過失がない」と受け取れますが、決してそうではありません。過失割合は、お互いの過失を合わせて【10割】となるのが基本ですので、加害者の責任はあくまでも9割であり、残りの1割は、被害者に課せられた過失です。
そのため、加害者に対する賠償請求は、被害者の損害の9割に留まります。
ただし、ここでポイントとなるのが、9対0の場合、本来加害者に対して支払わなければならない損害賠償金が免除されるという点です。このため、1割の賠償金を支払わなければならない9対1のケースと比べて、受け取れる損害賠償金は増額することとなります。
このように、事故の当事者双方に過失がある場合でも一方だけが賠償金を支払うことを「片側賠償」といいます。片側賠償には、9対0のケースだけでなく、8対0や7対0といったケースもあります。
9対0(片側賠償)になる仕組み
片側賠償は、過失割合について被害者と加害者がなかなか合意できないときに妥協策として提案されることがあります。
例えば、被害者が10対0を主張しているところ、加害者が9対1や8対2の主張を譲らず交渉が進まないような場合に、それぞれの折り合いをつけるための案として9対0の過失割合が提案されます。
この場合、被害者は過失割合で支払う賠償金がない分、受け取ることのできる損害賠償金が増えますし、加害者も支払わなければならない損害賠償金を減らすことができるというメリットがあるので、お互いに譲歩しやすくなります。
交通事故の過失割合9対0の計算例
片側賠償について、文字で説明するだけではなかなかイメージがつかないと思うので、実際に、過失割合が9対0の場合に被害者が受け取れる賠償金を計算してみましょう。
【例】損害額:加害者500万円、被害者800万円の場合
被害者には1割の過失があるので、損害額から1割を差し引いた残額が、損害賠償金として請求できる金額となります
「請求できる金額=800万円×(10割-1割)=720万円」
一方、被害者は加害者への賠償金の支払いが免除されるので、
「支払う金額=0円」
したがって、最終的な請求金額は720万円となります。
これを加害者が支払うべき賠償金と併せてまとめると、下記の表のようになります。
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 9 | 0 |
損害額 | 500万円 | 800万円 |
請求できる金額 | 0円 | 720万円 |
支払う金額 | 720万円 | 0円 |
最終的な請求金額 | 0円 | 720万円 |
また、過失割合が10対0のケース・9対1のケースとも比較してみましょう。
【10対0のケース】
被害者に過失がありませんので、被害者は損害額の満額を賠償金として請求できますし、加害者に対して賠償金を支払う必要がありません。
最終的な被害者の請求金額は800万円となります。
9対0のケースと比べて、損害賠償金が80万円増額することになります。
【9対1のケース】
9対0のケースと同様に被害者の過失は1割なので、被害者が請求できる金額は次のとおりです。
「請求できる金額=720万円」
しかし、賠償金の支払義務は免除されないため、加害者の損害額の1割を支払わなければなりません。
「支払う金額=50万円」
したがって、最終的に請求できる金額は、
「720万円-50万円=670万円」
となるので、9対0のケースと比べて50万円減額してしまうことになります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
過失割合9対0のメリット・デメリット
メリット
過失割合を9対0にするメリットには、下記のとおり様々なものがあります。
- 最終的にもらえる賠償金が増える
過失相殺(過失割合に相当する金額を損害賠償金から差し引くこと)はされてしまいますが、加害者に損害賠償金を支払う義務がないので、最終的にもらえる損害賠償金は増額します。 - 保険の等級が下がらない
また、加害者の損害を賠償しなくて済むので、基本的に自分の保険を使用する必要がありません。そのため翌年度の保険等級が下がりません。 - 早期解決しやすくなる
被害者と加害者の主張の折衷案にあたるので、お互いの譲歩を引き出しやすく、裁判で争う場合と比べて早期に解決できる可能性が高いです。 - 保険会社に示談内容の調整をお願いすることができる
被害者に完全に過失がない10対0の場合、被害者側の保険会社は保険金を支払う義務がありません。つまり、その事故について利害関係がないので、保険会社は被害者に代わって示談交渉を行うことができません。
一方、被害者に過失がある9対0のケースでは保険会社は利害関係があるので、被害者は保険会社に相手方との示談内容の調整を依頼することができます。
デメリット
9対1のケースと比べてもらえる金額が増えるといっても、請求できる損害賠償金は満額ではなくそのうちの9割です。つまり、完全に過失のない10対0のケースでもらえる損害賠償金よりは、どうしても低額になってしまいます。この点はデメリットといえるでしょう。
交通事故の過失割合を9対0に修正できた解決事例
弁護士法人ALGの介入により、過失割合を9対0に修正できた実際の事例を2件ほどご紹介します。
粘り強い交渉によって8対2から9対0に修正することができた事例
一時停止を無視した加害車両が、優先道路を走行していた依頼者に衝突してきた交通事故で、過失割合は8対2だと主張して譲らない保険会社と争った事例です。
交渉は難航しましたが、弁護士が過去の裁判例を引き合いに、事故の態様からみて相手方の過失が大きく、保険会社の主張は不当であることを粘り強く主張した結果、過失割合を9対0に修正することに成功しました。
加えて、車両価値の低下に対する賠償として修理費の1割相当の金額を支払ってもらうほか、慰謝料も引き上げる内容で示談を成立させることができました。
過失割合5対5の駐車場内の事故を9対0へ修正することができた事例
スーパーの駐車場内で、前方からバックしてきた加害車両が依頼者の乗っている車に衝突してきた交通事故の事例です。加害者が車の損害調査を拒否し、加害者側の保険会社も過失割合を5対5と主張するばかりで交渉を拒んだため、個人での交渉に限界を感じて弊所にご相談くださることになりました。
受任後すぐに、ドライブレコーダーの映像や依頼者側の保険会社から提供された資料を調査したところ、過失割合は9.5対0.5が妥当だと思われたため、その旨を主張して交渉を開始しました。
長期に渡る交渉の後、加害者側保険会社から、「合意書を作成しないなら95対5で合意する」という条件が提示されました。しかし、この条件は依頼者にとってかなりのリスクが高く受け入れられないものでした。そこで保険会社の担当者の上席と交渉したところ、上席名義の示談書面を作成したうえで過失割合を9対0とすることに成功しました。
弁護士が介入することで、依頼者の負担を軽減しつつ、納得できる過失割合での示談を導くことができた事例です。
交通事故の過失割合を9対0にするためには弁護士にご相談ください
少しでも過失割合があると、過失相殺により、こちらから請求できる金額が減るだけでなく相手の損害も賠償しなければならなくなるので、もらえる賠償金が減ってしまいます。また、相手方の損害額によっては、こちらの過失割合の方が小さくても、支払わなければならない賠償金がもらえる賠償金を上回ってしまうこともあります。納得できる賠償を受けるためにも、過失割合で妥協しないことが重要です。
とはいえ、相手方や保険会社の主張に対抗するためには、対等以上に交渉する必要があります。
この点、交通事故事案を数多く取り扱った経験のある弁護士なら、事故状況を正確に把握して交渉に臨めるので、片側賠償の主張を認めさせられる可能性が高まります。さらに、妥協案である9対0ではなく、10対0で着地できる可能性も大幅に高まります。
今後の交渉の方針等についてアドバイスさせていただきますので、ぜひ弁護士への相談をご検討ください。
交通事故に関する争いの解決を目指す方法としては、協議や調停、訴訟手続など、様々なものが挙げられます。そのうちのひとつに「交通事故紛争処理センター」を利用する方法があります。しかし、これがどのような機関なのか、よく知らない方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで今回は、交通事故に関する争いを公平に解決することを目的としている「交通事故紛争処理センター」について、その概要や利用する際の流れなどを解説していきます。
交通事故紛争処理センターとは
交通事故紛争処理センターとは、ADRを専門的に行う機関のひとつで、交通事故の被害者と加害者(または加害者が加入する保険会社)の争いを解決するために公正・中立な立場からサポートを行っています。具体的には、交通事故問題に関する法律相談、和解あっせん、審査などを無料で行っています。
本部は東京に置かれていますが、さらに7つの支部と3つの相談室が全国に展開されています。
なお、ADR(裁判外紛争解決手続)とは、公正な第三者に介入してもらうことによって、裁判手続に頼らずに争いを解決しようとする手続をいいます。
交通事故紛争処理センターの業務のうち、和解・あっせん業務がADRにあたります。
交通事故紛争処理センターでできること
交通事故紛争処理センターで受けられるサポートについて、簡単にみてみましょう。
和解あっせん
交通事故紛争処理センターが行う和解あっせんとは、センターでの相談を担当している公正・中立な立場にある弁護士が、事故の当事者双方から事情を聴き取ったうえで、和解するためのあっせん案(解決方法)を提示するものです。資料が揃っていれば、3~5回程度の和解あっせんで9割以上は和解が成立します。
審査
和解あっせんが成立しなかった場合、当事者は法律の専門家による審査を申し立てることができます。
審査を行うのは、法学者・裁判官経験者・弁護士などで構成される審査会です。審査では、審査会が当事者からそれぞれの主張や事情を聴き取った後、事故の状況や争いとなっている問題点について、過去の裁判例などを参考に検討し、最終的な損害額を決定します。そして、決定した内容を裁定という形で当事者に告知します。
弁護士の無料紹介
交通事故紛争処理センターでは、法律相談やその後の和解あっせんなどの業務を、センターから委託されている弁護士が行います。そのため、初回の法律相談の際に、相談を担当する弁護士(相談担当弁護士)を無料で紹介してもらえます。
なお、紹介された相談担当弁護士を途中で変更することは基本的にできないので、注意が必要です。
交通事故の示談交渉についての無料相談
交通事故紛争処理センターを利用する場合、まずは、和解あっせんに進むことを前提とした法律相談を受けることになります。
法律相談では、センターから紹介された相談担当弁護士が事情を聴き取り、申立人が提出した資料を確認したうえで、問題点を整理したり解決に向けたアドバイスを行ったりします。
なお、センターは交通事故の示談に関する争いを解決する機関なので、示談交渉を始められない段階での相談は受け付けていません。つまり、事故直後や治療途中、後遺障害等級認定申請中は、センターを利用することはできないので気をつけましょう。
交通事故紛争処理センター利用のメリット・デメリット
交通事故紛争処理センターの利用を検討するにあたって、メリットとデメリットを比較する必要があります。そこで、次項以下でメリットとデメリットについて、それぞれ説明していきます。
メリット
申立費用が無料
交通事故紛争処理センターで受けられる、弁護士の法律相談や和解あっせん、審査手続などはすべて無料です。裁判所の手続のように申立費用がかかることはありません。
加害者側に通知を出すための通信費用やセンターへ出向くのにかかる交通費、各種資料や証明書の取得料金などの費用はかかりますが、こうした最低限の費用を支払うだけで、交通事故の専門家のサポートを受けることができます。
期間が短い
交通事故紛争処理センターの手続は、申立てから大体2~3ヶ月で終了するのが一般的で、センターに出向く回数も数回程度で済むことが多いです。これに対して、裁判手続は短くとも1年程度はかかるので、その分出向く手間も増えます。
このように、センターを利用する場合は裁判を申し立てる場合と比べて、少ない労力で早期解決を図ることができます。
公平公正な機関で信頼性が高い
交通事故紛争処理センターで当事者双方の仲裁をするのは、交通事故問題に精通し、豊富な実績を持つ弁護士です。専門家である弁護士のサポートを受けながら和解を進めることができるので、公平な解決をすることができる可能性が高いです。
弁護士基準ベースの高額の賠償額が見込める
交通事故紛争処理センターを利用すると、一般的な保険会社との示談交渉で提示される賠償金と比べて、高額の賠償金を獲得できる可能性が高いです。なぜなら、通常弁護士や裁判所が損害賠償金を計算する際に利用する算定基準を利用できるようになるからです。
交通事故の損害賠償額は、計算に利用する算定基準によって大幅に変わります。保険会社との示談交渉では、通常最も低額の基準かそれに少し上乗せした基準で計算した賠償金を提示されることが多いです。
しかし、交通事故紛争処理センターでは知識の豊富な弁護士の力を借りられるため、高額の賠償金を計算できる算定基準を利用することができます。
デメリット
依頼できるケースが限られる
交通事故のケースによっては、交通事故紛争処理センターを利用できないことがあります。
下記にセンターを利用できないケースを挙げたので、ご自身があてはまらないかどうか、ぜひ一度ご確認ください。
- 自転車対歩行者、または自転車同士の交通事故のケース
- 被害者が自分の加入する保険会社と争っているケース
- 後遺障害等級認定について争っているケース
- (和解あっせんを予約する時点で)既に裁判や調停が行われているケース
- 既に他のADR手続などを進めているケース
- 怪我の治療、後遺障害等級認定の申請、異議申立てがまだ終わっていないケース
- 加害者が任意保険に加入していないケース(加害者が同意した場合には、利用できる可能性があります)
遅延損害金を請求できない
交通事故紛争処理センターで示談する場合、遅延損害賠償金を請求できないこともデメリットのひとつといえます。
裁判で損害賠償を請求する場合には、事故日から賠償金が支払われるまでの遅延損害金も併せて請求できるのが通常です。しかし、センターが行う和解あっせんや審査は裁判手続の一環ではないので、遅延損害金は請求できません。
そのため、裁判を行う場合と比べて、もらえる賠償金の総額が少なくなってしまう可能性があります。
弁護士を変えることができない
交通事故紛争処理センターでは、相談を担当してくれる弁護士を自分で選ぶことはできません。また、相性が悪い、知識や経験が不足していると感じたとしても、手続の途中で変更することはできません。
加えて、個人で依頼する弁護士とは違い相談担当弁護士は公平中立の立場であるので、必ずしも被害者の利益を最優先に考えて対応してくれるわけではない点にも注意が必要です。
何回も出向く必要がある
交通事故紛争処理センターで法律相談や和解あっせんを受ける際には、基本的に被害者自身が期日に出席する必要があります。しかし、センターは本部・支部・相談室を合わせて全国に11箇所しかなく、また、平日の午前9時から午後5時までしか受け付けていないので、人によっては交通費の負担が重かったり、仕事を休まなければならなかったりします。
すべての手続が終了するまでに何回も出向かなければならないので、その点はデメリットといえるでしょう。
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交通事故紛争処理センターを利用した解決までの流れ
交通事故紛争処理センターを利用して示談を目指す場合、以下のような流れで手続を進めることになります。
➀和解あっせんの申込書提出
交通事故紛争処理センターを利用する場合には、必ず事前に電話などで予約をする必要があります。
電話で初回の法律相談の日程を決めたら、センターでの法律相談や和解あっせんの申込みに必要な書類に関する説明資料が送られてくるので、当日に備えて提出書類を準備します。
そして、相談日当日になったらセンターへ出向き、受付窓口に利用申込書や関係資料等を提出することで、センターの利用手続を完了します。
➁初回相談
交通事故紛争処理センターの法律相談は、基本的に和解あっせんすることを前提として行われます。そのため、相談担当弁護士は、まずセンターの利用を申し込んだ申立人の主張を聴き取ったり、提出資料を確認したりして、和解あっせんの可否を判断したうえで、問題点の整理や解決に向けたアドバイスなどを行います。
相談内容によっては、裁判所の手続の利用を提案したり、センター以外の相談機関を紹介したりすることがあるので、相談だけで手続が終了することもあります。
➂相談担当弁護士による和解あっせん
申立人が和解あっせんを希望し、相談担当弁護士も和解あっせんの必要性を認めた場合に、和解あっせん手続が始まります。
和解あっせんは、1回あたり1時間以内を目安に、大体2週間~1ヶ月程度の間隔で繰り返し行われます。相談担当弁護士は、期日ごとに、当事者にとって公正な損害額となるように調整して解決策(あっせん案)を提示します。
➃あっせん案合意
相談担当弁護士から提示されたあっせん案について、当事者双方が同意すると、あっせん案の内容で和解が成立することになります。一般的に、3回目までの和解あっせんで7割、5回目までで9割以上は和解が成立します。
なお、あっせん案には「本事故について、今回請求した損害以外には何も請求しません」という約束(清算条項)が含まれており、同意すると、改めて裁判等で争うことができなくなるので注意が必要です。
あっせんが不合意になった場合は審査申立
あっせん案で合意できず、和解あっせんが不調に終わった場合には、当事者双方に対してその旨が通知されます。
通知を受けた当事者は、14日以内に交通事故紛争処理センターに申し立てることで、第三者である審査会の判断を仰ぐ審査を受けることができます。
審査会による審査
審査会による審査では、和解あっせんの際に当事者から提出された証拠・資料に基づき、改めて当事者それぞれの主張の聴き取りが行われます。そして、最終的な損害額について、裁定という形で判断が下されます。つまり、審査は和解あっせんなどとは異なり、当事者が協議を行う場ではありません。
裁定が告知されたら、申立人は、同意するかしないかを14日以内に交通事故紛争処理センターに回答します。期間内に回答しなければ同意しなかったものとみなされ、センターでの手続はすべて終了することになります。
なお、保険会社は裁定を拒否することができないので、必ず同意したものとして扱われます。
裁定でも決まらない場合は
審査会の裁定によっても示談できなかった場合は、交通事故紛争処理センターでの手続がすべて終了するため、裁判などの他の手段で問題を解決することになります。
センターでの手続が終了した後、同じ交通事故について再びセンターを利用することはできないので注意が必要です。
物損事故の場合にも交通事故紛争処理センター(ADR)は使えるのか?
交通事故紛争処理センターの利用は人身事故に限りません。物損事故でも利用可能です。
物損事故の場合、和解あっせん手続の取り扱いは、2回で終了するのが通常です。
また、審査会による審査も申し立てることができますが、一定の条件を満たさない場合には審査が行われないこともあります。
紛争処理センターを利用し、過失割合や賠償額共に有利にすすめられた解決事例
ここで、弁護士法人ALGがご依頼を受け、紛争処理センターを活用して有利な結果へと導くことができた実際の事例をご紹介します。
依頼者が車で優先道路を走行中、一時停止せずに交差道路から進入してきた加害者の車に衝突されて車両ごと横転し、左手首の関節に後遺障害が残ってしまった事例です。
当初、保険会社は依頼者に不利な過失割合を主張していたので、弊所は現地調査や刑事記録の精査を重ねたうえで、各種証拠を交通事故紛争処理センターに提出して適正な過失割合を主張しました。
また、保険会社から提示されていた損害賠償額も最低限の金額だったため、弊所で計算し直して改めてセンターに提示しました。
こうした活動の結果、損害賠償金を当初の提示額である約275万円から約725万円増額させることに成功し、最終的に約1000万円を支払ってもらう内容で示談を成立させることができました。
交通事故紛争処理センターを利用するときでも弁護士にご相談ください
交通事故紛争処理センターを利用すると様々なメリットを受けられますが、利用できるケースは限られています。また、センターは当事者のどちらにも味方しない公正・中立の機関であるため、センターから紹介される相談担当弁護士も、被害者の完全な味方になってくれるわけではありません。
そのため、弁護士に自分と同じ立場になって一緒に戦ってもらいたいという方は、ご自身で弁護士に依頼したうえでセンターを利用することをおすすめします。
弁護士に依頼したからといってセンターを利用できなくなるということはありませんし、頼もしい味方とともに手続を進めることができるので、むしろメリットになります。弁護士費用特約という保険の特約に加入していれば、自己負担なく弁護士に相談・依頼できるので、まずはお気軽にお電話ください。
ある財産が、被相続人の相続財産に含まれるかどうかは、相続人にとっては、自身の相続財産の取り分に影響を及ぼすことがあります。そのため、相続財産にどの財産が含まれるのかは非常に重要な問題であり、相続財産の範囲が争いになることは少なくありません。
相続財産の範囲を決めるうえでは、相続人間で協議をするのが基本になってきますが、協議だけでは解決できないこともあり、遺産確認の訴えを提起して、裁判所の判断で解決することも一つの選択肢となります。
遺産確認の訴えとは(遺産確認訴訟)
遺産確認の訴えとは、遺産確認訴訟と呼ばれることもあります。遺産確認の訴えは、被相続人の財産のうち、相続財産に含まれるものがどれであるかを判断し、相続財産の範囲、つまり、遺産の範囲を確定させるために行うものです。
訴訟の結果には、事後の裁判において、当該訴訟の判決と矛盾する判断してはならないという裁判所への拘束力である既判力という効力が認められます。そのため、遺産確認の訴えにおいて、遺産の範囲を確定させておけば、後々になって遺産の範囲で揉める心配はなくなることになります。
遺産確認の訴えで認められた財産は誰のもの?
遺産確認の訴えは、あくまでも、ある財産が被相続人の相続財産に含まれることを判断するだけであることから、遺産確認の訴えで勝訴しても、ある財産について、訴えを提起した者の財産であると認められるわけではないということには注意が必要です。
ある財産が相続財産に含まれることが確定した時点では、誰のものとも決まってはいませんので、相続人間で遺産分割協議を行う必要があります。
どんな時に遺産確認の訴えを利用すると良い?
遺産の範囲に争いがある場合・相続財産に含まれるかどうか曖昧な場合
遺産確認の訴えの提起を検討する場面として、相続財産の範囲に争いのある場合があります。具体的には、被相続人が亡くなる直前に、被相続人から特定の相続人に名義変更された不動産、あるいは、被相続人が特定の相続人名義で積み立てていた預貯金などがあるときには、形式的には、被相続人以外の所有となっている財産について、実質的には被相続人の財産と判断できるのかが問題となり、相続財産の範囲が争いになることが多いといえます。また、被相続人と口約束で財産を受け取ることを約束していた相続人がいるときにも、口約束の内容の証明は容易ではなく、相続財産の範囲が争いになることは少なくなりません。
相続財産がどれくらいあるか不明な場合
遺産確認の訴えの提起を検討する場面として、相続財産の全体像は不明確な場合があります。ある相続人からすると、別の相続人が、被相続人の財産を隠している疑いを持っているケース、被相続人の財産のうち、発見されていないものがまだあるはずと考えているケースなどでは、自分以外の相続人を相手方として、遺産確認の訴えを提起し、裁判所を通じて、被相続人の財産の全体像を確定させていくことになります。
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遺産確認の訴えを起こす方法
遺産確認の訴えを提起するために、自身の主張を記載した訴状を作成し、裁判所に提出する必要があります。訴状を作成するうえでは、相続関係を証明するための戸籍謄本や住民票、相続財産の中身を証明するための不動産登記簿、通帳、被相続人が遺言書を作成している場合には遺言書など、相続財産の範囲を判断するうえで必要となる証拠を一緒に提出する必要があります。
遺産確認の訴えは、固有必要的共同訴訟と呼ばれる類型の訴訟になるため、相続財産の範囲を争っている相続人だけでなく、相続人全員を相手方として訴えを提起する必要があります。訴えを提起する先の裁判所は、被相続人の最後の住所を管轄する裁判所とすることが多いと思われますが、法律上、管轄が認められる裁判所であれば(例:被告の住所地)、どこにでも訴えを提起することができます。
遺産確認の訴えにかかる費用
遺産確認の訴えを提起する場合、確認の対象となる被相続人の財産の価額に応じて、裁判所に手数料を支払う必要があります。手数料は、印紙で支払うことになるところ、相続財産の規模が小さい場合、印紙代は数万円程度にとどまりますが、1億円を超えるような規模の相続財産がある場合、遺産確認の訴えを提起するだけでも印紙代が数十万円かかります。
遺産確認の訴えの提起を検討するでは、訴訟をすることの手間だけでなく、裁判所に支払う手数料のことも念頭に入れる必要があります。
遺産分割訴訟でも財産は確定できる
遺産の範囲を確定させたい場合、遺産確認の訴えを提起する以外に、遺産分割訴訟を提起するという方法もあります。
遺産分割という言葉から混乱が生じるかもしれませんが、遺産分割自体は、調停及び審判という裁判所の手続で解決することになるため、遺産分割自体を争う訴訟はありません。
ここでいう遺産分割訴訟というのは、①ある財産が、自身の固有の財産であることの判断を求める所有権確認訴訟、②ある財産は、相続人からの共有財産であることの判断を求める共有持分確認訴訟であり、遺産分割の前提となる相続財産の範囲を争うことになる点では、遺産確認の訴えを類似する点もあります。
遺産確認の訴えと異なるのは、遺産分割訴訟で勝訴した場合、①の訴訟であれば、特定の財産が特定の人の所有であることが確定しますし、②の訴訟であれば、特定の財産が特定の人たちの共有であることが確定する点で、相続財産の範囲を確定するのにとどまらないということです。
遺産確認の訴えに関する判例
遺産確認の訴えは、遺産の範囲を争いたい意向があれば、誰でも提起できるものではなく、法律上、遺産確認の訴えを提起することができると認められる当事者適格が必要となります。
当事者適格に関する判例として、平成2月14日最高裁第二小法廷判決があります。この判例は、被相続人の死後、かなり長期間が経過した後に遺産の範囲が問題となった事案において、ある相続人が、被相続人の死亡後、遺産の確認の訴えまでの間に自らの相続分を他の相続人に譲渡した場合、相続分を譲渡した相続人は、遺産確認の訴えの当事者適格を有しないと判断したものです。
つまり、かつては相続人であっても、相続分を譲渡した場合には、遺産確認の訴えの当事者となることはできないということになります。
遺産確認でお困りなら弁護士にご相談ください
相続財産の範囲に関する争いは、相続において頻繁に起こる争いですが、相続財産の範囲を決めないことには遺産分割協議を進めることはできず、いつまでも相続の問題を解決することはできません。ある財産が相続財産に含まれるかどうかは、遺言書の解釈や証拠の分析など法的な視点からの検討を要することも多いといえます。相続財産の範囲をきちんと整理し、適切な遺産分割協議に臨むためにも、相続財産の範囲でお悩みを抱えている方は、ぜひ一度弁護士に相談されてみてください。
通常、被相続人が死亡時に有していた財産が、遺産分割をする際の対象となります。もっとも、税法上は、民法上の相続財産の他にも相続財産としてみなされ、課税の対象となることがあります。相続において、この相続財産(いわば「本来の相続財産」)と「みなし相続財産」の違いを知ることは重要となります。
みなし相続財産とは
民法上は、被相続人が生前有していた財産ではないため相続財産にはあたらないものの、被相続人の死亡をきっかけとして得る点で、民法上の相続財産と性質が類似していることから、その財産も相続財産としてみなされる財産があります。この税法上、相続財産として課税の対象となる財産を、みなし相続財産といいます。
みなし相続財産になるのはどんなものか
では、どのような財産がみなし相続財産となるのか、以下で解説します。
生命保険金
生命保険金は、保険会社との保険契約において、受取人と指定された人が受領するものです。被相続人が保険会社と締結していた保険契約の内容に基づいて、保険金の受取人の立場で受領しているものですので、民法上の相続財産には含まれません。しかし、被相続人の死亡によって財産を受領する点で、相続財産と類似しているため、税法上は、相続財産としてみなし、課税の対象となります。
死亡退職金
死亡退職金は、退職金規定により、被相続人の死亡によって受領するものですので、退職金規定に基づいて、退職金の受領権利者の立場で受領するものですので、民法上の相続財産には含まれません。なお、退職金規定がない場合であっても、死亡退職金が、遺族の生活保障という目的で支払われる点は同一なので、退職金規定がある場合と同様相続財産にはなりません。もっとも、被相続人の死亡をきっかけとして退職金を受領できる点で、相続財産と類似しているため、税法上はみなし相続財産として対象となります。
借金の返済が免除、または減額された場合(債務免除益)
相続人が被相続人から1000万円を借りていたとします。そして遺言により、その返済が免除された場合、相続人は1000万円の「債務免除益」を得ることとなり、遺贈により取得したものとみなされ相続税の課税対象となります。
特別縁故者への分与財産
特別縁故者とは、被相続人の生前に、被相続人と特別な関係にあった人であり、かつ、家庭裁判所から認定を受けた人をいいます。典型例としては内縁の妻や内縁の夫が家庭裁判所に対し、特別縁故者の申立てをした結果、認められたというケースが挙げられます。このような特別縁故者に対する相続財産の分与は、遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります。
定期金に関する権利
定期金に関する権利は、
①相続開始の時までに定期金給付事由が発生していない定期金給付契約(生命保険契約を除く。)に基づくものであり、
②被相続人が掛金の全部又は一部を負担し、かつ、
③被相続人以外の者が契約者である場合に
相続開始によってその契約者は、契約に関する権利のうち、被相続人が負担した掛金の額に対応する部分を、相続又は遺贈により取得したものとみなされ、課税がなされます。
信託受益権
適正な対価の負担なく、信託の効力の発生や終了、受益者の変更、受益者の不存在等で利益を受けた場合、みなし相続財産として課税されます。
公益法人等から受ける利益
公益法人に対し、遺言で寄付がなされた場合で、当該法人から特別の利益を受けるとき、当該利益はみなし相続財産として課税がなされます。
遺言による経済的利益
遺言により著しく低い価格で財産を譲り受けた場合や、さらに遺言でその他経済的利益を得た場合も、みなし相続財産として課税されます。
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相続放棄してもみなし相続財産は受取可能
みなし相続財産は、民法上の相続財産ではありませんので、相続放棄をしても、受け取ることが可能です。
契約内容次第で受け取れなくなるもの
生命保険金
次の場合には、相続放棄した相続人は受け取れなくなります。
①被保険者が相続人 かつ
②保険金の受取人が被相続人である場合
死亡退職金
死亡時の受取人が被相続人本人であると決められている場合は、通常の相続財産となり、相続放棄した相続人は受け取ることができせん。
みなし相続財産は課税対象になる
みなし相続財産は、本来であれば相続財産ではないものを相続財産とみなし、課税の対象とする財産ですので、相続税の課税の対象となります。
非課税枠について
みなし相続財産が課税の対象となるものの、遺族の生活保障という観点から一定の額までは非課税となることがあります。具体的には、500万円×法定相続人の人数の金額です。
もっとも、相続放棄をした場合には、相続人ではなくなるため、非課税枠の適用はありません。
申告し忘れてしまった場合のリスク
みなし相続財産を入れずに納税申告書を提出した等の場合には、納付すべき税額に不足額があることとなりますので、修正申告書の提出が必要となることがあります。
また、法定申告期限を経過する場合には、申告納税方式による国税に対する加算税が発生することがあります。
みなし相続財産についての不安は弁護士にご相談ください
みなし相続財産は難解かつ税務リスクのある危険な問題ですので、弁護士または税理士に相談ください。
結婚生活を送るなか、ローンを組んで家や車を購入することもあるでしょう。離婚する際に、夫婦は「財産分与」によって共有財産を分け合いますが、住宅ローンや自動車ローンが残っている場合にはどのように対応すれば良いのでしょうか?
今回は、財産分与上のローンの扱い方やローンが残っている場合にとるべき対応等について、わかりやすく解説していきます。
ローンは財産分与の対象になる?
財産分与は、夫婦で協力して作り上げた財産をそれぞれの貢献度に応じて分け合うことです。そうなると、マイナスの財産を財産分与の対象にすることはできません。
そして、住宅ローンや自動車ローンはマイナスの財産にあたる以上、財産分与の対象になりません。
ただし、夫婦の生活のために組んだローンであれば、財産分与を行ううえで考慮することができます。詳しくは次項以下をご確認ください。
ローンが残っている家や車を財産分与する方法
ローン自体は財産分与の対象にならなくとも、ローンで購入した家や車は財産分与の対象になります。ただし、財産分与をする際に、残っているローンについて考慮する必要があります。
具体的にどのように考えるのかは、ローンと財産の価値を比べて赤字になっているか(オーバーローン)、いないか(アンダーローン)で異なります。
アンダーローン:財産の評価額のほうが高い場合
アンダーローンとは、残ったローンよりも家や車などの財産の価値のほうが高く、財産を売った代金でローンを返しても赤字にならない状態のことをいいます。
アンダーローンの場合には、財産の評価額からローン残額を引いた残りの金額が財産分与の対象となります。
そのため、家や車を売った代金でローンを完済し、残った現金を分け合うのが一般的です。アンダーローンのケースで財産を売って分け合う場合、特に問題が起こることはないでしょう。
オーバーローン:ローン残高のほうが高い場合
オーバーローンとは、残ったローンのほうが財産の価値よりも高額で、財産を売ってローンを返すと赤字になってしまう状態のことをいいます。
オーバーローンの場合、財産を売って返済する方法はあまりとられません。売るにはローンを組んでいる金融機関の許可を得なければなりませんし、売った代金ではローンを完済できないので、財産を手放した後もローン名義人は返済を続けなければならないからです。
不動産会社が買い手を探し、債権者の同意を得て売却する「任意売却」という方法がとられることもあります。ただし、どちらの場合でも、基本的にローン名義人がローンの残額を支払い続けなければならない点に注意が必要です。
ローンの残高や財産の評価額を知る方法
財産分与について考えるうえで、ローンの残高(残額)と財産の評価額を知る必要があります。
ローン残額については、借り入れ先の金融機関などに問い合わせることで確認することができます。
また、財産の評価額を調べる方法はいろいろあります。例えば、
〇家の場合
- 固定資産税の納税通知書を確認する
- 不動産業者に見積もりを出してもらう
- 不動産鑑定士に査定を依頼する
〇車の場合
- 買取業者や中古車販売店に見積もりを出してもらう
- ウェブの一括査定サイトを利用する
- オークションサイトをチェックする
- オートガイド自動車価格月報(通称レッドブック)を参考にする
といったことが考えられます。
住宅ローンが残っている家の名義変更について
住宅ローンが残っている場合、家やローンが「夫名義」「妻名義」「夫婦共有名義」のどれかになっているケースが多いです。 離婚後、単独で名義人になっている配偶者がそのまま家に住み続ける場合は問題ありませんが、名義人である配偶者(または共有名義人の片方)が引っ越して別の場所に住む場合、名義をそのままにしているとトラブルになりかねません。後々のトラブルを回避するためにも、名義変更することをおすすめします。
所有名義人の変更
所有名義人とは、登記簿にその物の持ち主だと登録されている人のことです。 ローンが残っている家の所有名義人を変更するには、住宅ローンを組んでいる金融機関の許可が必要です。住宅ローンは基本的にローンの対象である家を担保にしているため、家の所有名義が勝手に変えられてしまっては、返済が滞ったときに差し押さえができなくなってしまうからです。 なお、所有名義人を変更する許可をとる際に、残りのローンを一括で返済するよう請求される可能性もあるので注意しましょう。
金融機関の許可が得られたら、登記申請書や登記識別情報、印鑑証明書、住民票といった必要書類を法務局に提出し、夫婦で財産分与登記を申請することで所有名義人を変更します。
ローン名義人の変更
ローン名義人とは、ローンを組む際に名義欄に名前を記載した本人のことで、ローンの返済義務を負う人を指します。
ローン名義人を変更するには、ローンを組んでいる金融機関の審査を受け、許可を得なければなりません。しかし、新たに名義人となる配偶者に十分な返済能力がなければ、基本的に名義変更の許可が出ません。
もし名義変更が許可されないようでしたら、次の手段を講じることをご検討ください。
・住宅ローンの借り換え
名義変更の代わりに、既存のローンを一括返済できるだけのローンを配偶者名義で組み直せば、既存のローンを名義変更したのと同じ効果が得られます。これを住宅ローンの借り換えといいます。
・連帯債務者や連帯保証人の交代
金融機関がローン名義人の変更を許可しないのは、返済能力の低下をおそれるからです。しかし、資力のある人に連帯債務者や連帯保証人になってもらえれば、金融機関が「返済能力は低下しない」と判断し、名義変更を許可する可能性が高まります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
自動車ローンが残っている車も名義変更できるのか?
ローンが残っている車の名義変更をするには、まずは車検証の所有者欄を見て、現在の所有者(所有名義人)が誰なのかを確認する必要があります。車の所有者によって、名義変更に必要な手続が変わってくるからです。
車の所有者が配偶者の場合
車の所有者が配偶者の場合でも、名義変更を行うためには、ローンを組んでいる金融機関の許可が必要です。
なぜなら、一般的に、金融機関は「ローンが残っている間は名義変更しない」ことを条件にローンを組んでおり、このような場合に勝手に名義を変更すると、契約に違反したとしてローンの一括返済を求められてしまう可能性があるからです。
金融機関の許可が得られたら、管轄の運輸支局に出向いて名義変更の申請手続をします。具体的には、必要書類と手数料を窓口に提出し、車検証の交付を受けた後に自動車税等の申告を行います。
なお、軽自動車の名義変更をするケースでも基本的な流れは変わりません。手続をする場所が軽自動車検査協会になるだけです。
車の所有者がディーラーやローン会社の場合
ディーラーが車の所有者である場合、車の名義を変更するためには原則としてローンを完済しなければなりません。
オーバーローンの状態の場合、相手にローンを負担してもらうことは可能か
オーバーローンの状態で、たとえローン名義人に相手の名前がなくても、“①相手方の同意を得ること、②ローン債権者(貸し付けている側)が許可すること”の2点を満たせば、相手にローンを負担してもらうことも可能です。ただし、現実的とはいえないでしょう。
そもそもマイナスの財産は財産分与の対象ではないので、ローン名義人でない相手はローンを負担する必要がありません。夫婦の生活のために組んだローンでも、基本的にローン名義人だけが返済義務を負います。加えて、ローンを負担する人間の変更には、債権者の許可が必要です。金員を貸し付ける者は、通常、債務者の支払い能力を審査した上で金員の貸付をしているからです。
したがって、話し合いによってローン残額の一部を負担してもらうことはできますが、同意が得られない場合にまで負担させることは難しいでしょう。
連帯債務者、または連帯保証人だった場合は?
ローンの連帯債務者または連帯保証人だった場合、離婚したからといって、それらの義務を負わなくなるわけではありません。
相手がローンの連帯債務者である場合、2人でローンを返済する義務を負っていることになります。そのため、当然ローンを負担するよう求めることができますし、相手は、ローンを組んでいる金融機関からも返済を求められることになります。
また、連帯保証人である場合には、ローン名義人が支払えなくなったときに代わりに返済する義務を負っているということです。したがって、ご自身の返済能力がなくなった、返済が滞っているといった事情があれば、ローンの負担を求めることができます。
お互いに資金不足でローンを完済できない場合にはローンに紐づいている物件が債権者に引き上げられる可能性がでてきます。
ローンの財産分与は弁護士にご相談ください
財産分与の対象となる財産にローンが残っている場合、財産分与の考え方が複雑になります。また、ローンの名義人やローンで購入した財産の名義人は誰なのか、ローンはいくら残っているのか、財産の価値はどのくらいかなど、調べることも多いです。
とはいえ、ローン名義人でない配偶者は基本的に返済義務を負いません。しかし、ローン名義人となっている配偶者としては、返済に協力してもらいたいのが本音でしょう。話し合いで財産分与やローンの負担について合意できれば良いのですが、できなければ裁判を起こす必要もあるかもしれません。
ローンが残っている財産があり財産分与で揉めている方は、ぜひ弁護士にご相談ください。財産分与を請求できる期間には限りがありますし、離婚が決まったら早いうちにローンの扱いについて決めることが重要です。
納得のいく財産分与ができるようにお手伝いしますので、ぜひ弁護士への相談をご検討ください。
離婚の際に揉めやすい問題のひとつに、子供に関する決め事があります。特に面会交流は、親権や養育費と並んで特に争いになることが多い問題でしょう。後々大きなトラブルに発展することを避けるためにも、面会交流についてはあらかじめしっかり取り決めておくことが重要です。
そこで今回は、離婚するにあたって決めておくべき面会交流のルールについて、取り決める際の流れやルールが守られなかった場合の対処法、取り決め後に事情が変わった場合の対応など、詳しく解説していきます。
面会交流とは
面会交流とは、別居・離婚などを理由に子供と離れて暮らしている親が子供と交流することをいいます。直接会って話をしたり遊んだりすることはもちろん、電話や手紙のやりとりなどで交流する方法もあります。
面会交流は、子供が両親から愛情を受けて健やかに成長できるようにすることを目的としているので、基本的に子供のための制度といえます。そこで、面会交流を行う際には、子供の気持ちやスケジュール、生活リズムを尊重するなど、子供の利益を一番に考える必要があります。
そのため、子供が面会交流で身体的に暴力を受ける危険や、精神的な虐待がなされる可能性が高い場合など、面会交流が子供の利益にならない場合には行うべきではありません。
面会交流ができるのは何歳まで?
面会交流は、一般的に、親の監護権が及んでいる間、つまり成人する20歳(成人年齢が引き下がる2022年4月以降は18歳)まで行うことができます。
ただし、子供が大体10歳以上になると、家庭裁判所は子供の意思を重視して面会交流の可否を決定するようになる傾向にあるので、親の一存では面会交流が実現しない可能性があります。また、親の影響を受けずに自分の意見をしっかりと表せる年齢(大体15歳以上)になったときに、子供がはっきりと拒否している場合には、面会交流が認められない可能性が高いでしょう。
別居中でも面会交流はできるのか
面会交流は、離れて暮らしている親子が交流するものであり、離婚しているかどうかは問いません。そのため、離婚調停中など、夫婦が別居しておりどちらかが子供と一緒に暮らしていない状態であれば行うことができます。
ただし、離婚後の面会交流と同様に子供の利益を第一に考えなければならないので、ある程度以上の年齢の子供が明らかに拒否しているケースや、面会交流を行うことで子供に危害がおよぶケースなどでは面会交流はできません。
面会交流について決めるべきルールとは
面会交流を安心して行うためにも、離婚時に細かいルールを取り決めておくことが重要です。具体的には、以下の事項について取り決めておくと良いでしょう。
面会頻度
文字どおり、面会交流を行う頻度です。確実に面会交流を行うためにも、しっかりと決めておきましょう。
月に1回、2週に1回など自由に決められますが、子供の年齢や成長度合いを考慮して、負担にならない間隔にすることが大切です。
面会時間
スムーズに面会交流を行うためにも、一回あたりの面会交流の長さや、面会交流の開始・終了時刻を取り決めると良いでしょう。
面会場所
必ずしも面会交流の場所を決める必要はありませんが、トラブルを防ぐためにも、事前に面会場所を決めておいたり、場所の決め方を取り決めておいたりすると良いでしょう。
一般的に、公園やレストラン、遊園地、自宅などが面会場所とされるケースが多いです。
当日の待ち合わせ方法
面会交流の当日に子供と合流する方法は、必ず取り決めましょう。離れて暮らす親が直接家まで迎えに来る、時間を決めて面会場所の最寄り駅などで待ち合わせる、子供を監護している親(監護親)に面会場所まで送ってもらうなど、いろいろな方法が考えられます。
連絡方法
面会交流の日程調整や詳細について打ち合わせができるように、SNSやメール、電話など、面会交流に関する連絡をとるための方法を決めておくことも大切です。
なお、面会交流に関する連絡は、基本的に父母でやりとりすることが想定されています。とはいえ感情的になってしまうなど、父母同士ではやりとりが難しい場合は、親族や弁護士といった第三者に仲介してもらうことをおすすめします。
学校行事への参加
入学式や授業参観、運動会、文化祭といった子供の学校行事に参加できるかどうか、参加できる場合には詳細なルールについて決めておくことで、後々のトラブルを回避できます。
プレゼントやお小遣い
プレゼントやお小遣いを渡して良いか、渡す時期や金額の目安などについて決めておくことも重要です。
高額なプレゼントを頻繁に受け取るのは、子供の成長にとってプラスになるとは言い切れません。そこで、通常の面会交流ではプレゼントやお小遣いを渡すことを禁止するものの、誕生日やクリスマスなどの節目の時期には認めるなど、ルールを設けておくべきでしょう。
対面以外の交流方法
直接会って交流することが難しい場合には、SNSのメッセージや手紙、写真のやりとり、電話やテレビ電話での通話といった間接的な方法で交流するよう取り決めることもできます。
宿泊について
「子供と離れられない」といった理由で、面会交流中に突然子供を宿泊させたりすると、監護親の心情を害して大きなトラブルに発展しかねません。
こうしたトラブルを回避するためにも、宿泊を伴う面会交流の可否やその時期、日程や宿泊場所の調整方法などのルールについて、しっかりと取り決めておく必要があります。
祖父母の面会交流
面会交流を行う権利は基本的に子供のものですし、面会交流の相手は離れて暮らす親に限られています。つまり、祖父母には面会交流をする権利は認められていません。
しかし、祖父母が面会交流の場に立ち会うことや、面会交流の際に子供と一緒に祖父母の家に行くことはできるので、面会交流の機会に祖父母も子供(孫)と交流を図ることは可能です。
とはいえ、監護親に知らせずに子供を祖父母に会わせると、トラブルになってしまう可能性もあるので、あらかじめ祖父母の立ち会いについて話し合っておくと良いでしょう。
面会交流を決める際の流れ
面会交流について取り決める際には、まず夫婦で話し合って合意を目指します。
話し合いで解決できそうになければ、家庭裁判所に面会交流調停を申し立て、裁判所の助言を受けながらさらに話し合います。
それでもまとまらず、調停が不成立になったら自動的に面会交流審判に移行し、裁判所が面会交流の可否やルールについて取り決めることになります。
面会交流のルールが取り決められたら、子供との関係性などによっては支援団体の仲介を受けつつ、面会交流が行われます。
まずは夫婦間での話し合い(協議)
面会交流のルールは、離婚時に夫婦間での話し合い(協議)によって決めるのが基本です。
二人の間で面会交流のルールを自由に決められる代わりに、客観的な第三者がいないので、揉め始めるとなかなか合意するのが難しいという問題があります。
また、口約束しただけ、合意内容をメモに書き留めただけでは、後で「言った・言わない」のトラブルになる可能性があります。
話し合いで面会交流のルールが決まったら、夫婦で公証役場へ行き、合意内容を公正証書に残しておくことをおすすめします。
話し合いで決まらない場合は面会交流調停へ
夫婦間の話し合いでは合意できず、面会交流のルールが決まらない場合は、家庭裁判所の面会交流調停を利用しましょう。なお、調停は離婚前でも離婚後でも利用することができます。
面会交流調停は、家庭裁判所の調停委員が話し合いを仲介して、面会交流の詳細について夫婦が合意できるように調整していきます。場合によっては、心理学・社会学などの人文諸科学の専門家である家庭裁判所調査官が両親や子供と面談したり、試験的な面会交流に立ち会ったりすることもあります。
調停委員は一般的に調査官の調査報告を重視するので、調査官作成の報告書に基づく内容で調停が成立することが多いです。
とはいえあくまで調停は合意で成否が決まるので、どうしても夫婦で合意できない場合は、面会交流審判に移行して裁判所の判断に委ねることになります。
面会交流を拒否する正当な理由がないのに取り決めどおりに面会交流が行われない場合には、履行勧告の申出や間接強制の申立てをして、約束の遵守を相手に求めることになります。
なお、面会交流を拒否する正当な理由としては、次のようなものがあります。
- 面会交流によって、子供が精神的な虐待や暴力にさらされる危険がかなり高い。
- ある程度以上の年齢の子供(10歳以上)がはっきりと拒否しており、拒否の理由に寄り添った十二分な配慮をしても拒否が維持されている。
※履行勧告…調停や審判で取り決めた内容を守らない相手に対して、取り決めを守るように家庭裁判所から相手方に働きかけてもらう制度
家庭裁判所に申し出ることで、家庭裁判所の担当者が面会交流を拒否する相手方に書面や電話で連絡し、事情を聴き取ったうえで面会交流が実施できるように調整してくれます。ただし、法的な強制力はありません。
※間接強制…調停や審判で取り決めた内容を守らない相手に対して、取り決めを守るまで一定額を支払うよう命じて心理的なプレッシャーを与え、取り決めを実行するように促す制度
面会交流に関する調停調書や審判書など、法的な強制力がある書類で面会交流について取り決めている場合、裁判所に間接強制を申し立てることができます。ただし、面会交流のルールについて、かなり詳細に取り決めている必要があります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
取り決めた面会交流を拒否したい場合
面会交流は子供の健やかな成長のために欠かせないものですし、子供の権利なので、親が一方的に拒否することはできません。ただし、面会交流をすることで逆に子供の健やかな成長が害される場合には、例外的に面会交流を拒否することができます。 具体的には、以下のようなケースです。
- ある程度以上の年齢の子供が、自分の意思ではっきりと面会交流を拒否している
※このパターンの場合は、単に「子供が嫌といっている」とだけ伝えれば面会交流を拒絶できるというものではありません。「なぜその子が面会交流を嫌がっているのか」の理由部分に踏み込み、子が面会交流に前向きになれるように同居親の方で、配慮と対応をすることが求められます。 - 面会交流時に虐待される危険が相当程度ある
- 面会交流の際に子供が連れ去られる危険がかなり高い
なお、上記のようなケースでも、相手からの連絡を無視するなど一方的に面会交流を拒否するべきではありません。まずは相手ときちんと話し合い、面会交流を実施しない旨の同意を得るようにしましょう。
夫婦同士の話し合いでは解決が難しいようなら、弁護士に話し合いに立ち会ってもらったり、家庭裁判所の面会交流調停(審判)を利用したりといった対応をご検討ください。
面会交流と養育費の関係
面会交流と養育費は、法的な根拠や制度の目的がまったく異なるものです。そのため、「養育費が支払われないなら面会交流は行わない」「面会交流が行われないなら養育費は支払わない」というように、それぞれを交換材料とすることは認められません。
面会交流は、基本的に子供のための制度ですから、親の一存で実施する・しないを決めるべきではありません。当然のことながら、「養育費を支払いたくないから面会交流を実施しなくていい」といった主張も通りません。
再婚した場合の面会交流
親が再婚しても、親子という関係は変わりません。また、子供の健やかな成長のためには、両親との愛情ある交流が必要なことにも変わりありません。したがって、監護親や離れて暮らす親(非監護親)が再婚した後も、再婚を理由に面会交流を止める必要はありません。
たとえ再婚相手が面会交流に反対したとしても、子供のためを考えて面会交流を続けるべきでしょう。
ただし、子供の意思を何より尊重すべきなので、子供が本心から面会交流を拒んでいる場合は面会交流を止めるべきです。
再婚相手が面会交流に同席することを希望した場合も、まずは子供の意思を確認することが重要でしょう。
再婚後の面会交流については、面会交流が本来誰のための制度であるのかを忘れずに、冷静に対応する必要があります。
面会交流で不安なことがあれば弁護士に依頼してみましょう
面会交流は子供の大切な権利であり、子供の利益を第一に考えてルールを決めるべきですが、夫婦の感情と完全に切り離して考えることも難しい問題です。
離婚や別居することになった事情によっては、「面会交流させたくない」と思うこともあるでしょう。また、逆に「どうしても子供に会いたい」と思う方もいらっしゃるでしょう。
しかし、自分の感情だけに流されずに、「何が子供にとって最善なのか」を考えて冷静に話し合うことが重要です。
面会交流について少しでもご不安がある方は、ぜひ弁護士にご相談ください。お子様とご相談者様にとって、最善の未来へと続く道を探すお手伝いをさせていただきます。
交通事故で被害がでたら、賠償を受けるために示談交渉(話し合い)を行うことになります。示談交渉は、加害者が加入している保険会社の担当者と行うのが一般的です。
しかし、保険会社の担当者は示談交渉のプロです。十分な知識がない状態で交渉に臨むと、保険会社にとって都合のいいように進められてしまう可能性があります。損することなく納得できる示談を成立させるためには、どのように交渉を進めれば良いのかしっかりと理解しておかなければなりません。
そこで今回は、示談交渉を進めるうえでの注意点を詳しく解説します。
その場で示談は行わない
保険会社から提示された示談案を安易に受け入れ、示談を成立させてしまうことは避けましょう。
一度成立した示談は、基本的に撤回できません。つまり、「請求し忘れ」や損害があることや示談金(損害賠償金)の計算間違いがあることなど、後になって気づいたとしても、示談交渉をやり直すことはほぼできません。示談を成立させるかどうかは、慎重に検討するべきです。
事故状況や加害者の連絡先を控えておく
事故に遭ったら、まずは加害者の連絡先を確認するとともに、現場や車の状態を撮影して動画や写真などに残します。
加害者の連絡先がわからなければ、示談交渉を進めることは困難ですし、事故の責任を逃れる隙を与えかねません。
また、事故状況は過失割合を決める際などに争いになりやすいので、証拠となり得る写真や動画を残しておくことが大切です。
交通事故の処理は人身事故にする
交通事故に遭い、少しでも怪我をしたり痛みがみられたりする場合は、人身事故として届け出るべきです。
物損事故として届け出てしまうと、過失割合の認定などに役立つ実況見分調書(事故状況に関する調査結果をまとめた警察の書類)が作成されません。また、人損(人の生命や身体に関する損害)が発生していないものと扱われるため、慰謝料や治療費を受け取れません。
一方、人身事故では実況見分調書が作成されますし、慰謝料や治療費といった人損に対する賠償金も受け取ることができます。
通院頻度を確認する
適切な示談金を受け取るためには、適切な頻度・期間の通院を心がける必要があります。通院の状況は、慰謝料の金額に大きく影響するからです。
一般的に、通院期間が長引けばその分慰謝料も高額になる傾向にありますが、通院頻度が過剰あるいは少なすぎると、治療の妥当性や必要性を疑われて慰謝料が減額されてしまう可能性があります。
痛みがある場合は医師に必ず伝える
後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級に応じて金額が決まります。そして、後遺障害等級認定は医師が作成する後遺障害診断書の内容を重視して行われるのが基本です。つまり、後遺障害診断書の内容に誤りがあると、適正な等級認定が受けられない可能性があります。
そこで、正確な後遺障害診断書を作成してもらうためにも、痛みなどがある場合は、必ず医師に自覚症状について具体的に伝えなければなりません。
もし治療費を打ち切られても通院をやめないこと
治療を続けていると、保険会社から治療費の打ち切りを打診されたり、実際に打ち切られてしまったりすることもあります。しかし、そもそも治療費は治療の必要性が認められる間は支払ってもらえるものですし、治療の必要性の有無を判断するのは保険会社ではなく医師です。症状が残っていて、医師も治療の必要性があると判断している間は、たとえ治療費を打ち切られても通院を続けましょう。
健康保険などを利用して通院を続ければ、通院中の経済的な負担を軽減できますし、打ち切り後に立て替えた治療費は示談交渉でまとめて請求でき、回収できる可能性もあります。
領収書などはすべて保管しておく
示談交渉で損害の賠償を請求するためには、損害額、つまり事故による怪我の治療、車の修理、通院、診断書の作成などにいくらかかったのかを証明できなければなりません。そのためにも、領収書やレシートなどはきちんとすべて保管しておきましょう。
症状固定の時期は医師に見極めてもらう
治療費の打ち切りとも重なりますが、保険会社は自社の出費を最小限にするために、治療の途中で「そろそろ症状固定としませんか」と打診してくることがあります。症状固定とは、それ以上治療を続けても症状に悪化・改善といった変化がみられない状態のことです。
しかし、症状固定に至ったのか、それともまだ治療の必要性があるのかは医師が判断するものであって、保険会社が決定できるものではありません。
症状固定の時期について保険会社から提案されたとしても、医師に相談せずに安易に返事をすることは避けましょう。
後遺障害診断書の内容を確認する
後遺障害等級認定の審査では、後遺障害診断書の内容がかなり重視されるので、医師に作成してもらったら、内容に誤りがないか、記載事項に抜け漏れがないかなどをしっかりと確認しましょう。後遺障害診断書が適切に書かれていないと、誤った情報や不足した情報のまま審査されてしまうので、適正な等級が認定されない可能性が高いからです。
特に自覚症状の欄は、医師と認識が食い違っていると正確に記載されないので、注意が必要です。
示談交渉を焦らない・相手任せにしない
基本的に示談交渉が終わらないと示談金はもらえないので、経済的な不安などから示談交渉を早く終わらせたいと焦ってしまう方もいらっしゃるかと思います。
また、やりとりが手間だからと相手任せにしたくなるお気持ちもわかります。
しかし、一度した示談は撤回できないのが基本です。焦って交渉したり、相手任せにしたりして言われるがままに示談を成立させてしまうと、後で損をしたことに気づいても取り返しがつかなくなってしまう場合があるので気をつけましょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
過失割合をきちんと決めること
過失割合(事故に対する責任の割合を数値にしたもの)が1割でもあると、その責任の重さに応じて示談金が減額されてしまいます。例えば、2割の過失割合があると判断された場合、本来であればもらえたはずの示談金100万円から20万円が減額され、80万円しかもらえなくなってしまうことになります。
このように、過失割合によって、受け取れる示談金は大きく変わってきます。適正な示談金を獲得するためにも、実態に見合った過失割合を決めることが重要です。
交渉が長引くようなら時効についても気にしておく
交通事故による示談金は、いつまでも請求できるわけではありません。通常、以下のとおりの期間で時効が成立し、損害賠償金(いわゆる示談金)を請求できる権利はなくなります。
- 物損事故:事故の翌日から3年
- 人身事故:事故の翌日から5年
時効が成立して権利がなくなった後でも損害賠償金を請求することはできますが、相手が支払ってくれる可能性は限りなく低くなってしまうので、なるべく時効が成立する前に請求しておきましょう。
また、裁判などで損害賠償金を請求すると、時効が成立するまでの期間を延ばすことができます。他にも時効期間を延長できる手続があるので、交渉が長引くことが予想されるようなら、こうした手続の利用を検討すると良いでしょう。
弁護士に依頼する場合は、交通事故に詳しい弁護士へ依頼する
弁護士が取り扱う分野は幅広いので、人によって分野の得意不得意があります。例えば、離婚問題を中心に扱っている弁護士に交通事故の示談交渉を任せても、なかなかスムーズに進まないかもしれません。
交通事故問題についてサポートが欲しいときは、交通事故事案を取り扱った経験が豊富な弁護士にご相談することをおすすめします。また、後遺障害等級認定の申請などをお考えの方は、交通事故だけでなく医療分野にも詳しい弁護士を選ばれると良いでしょう。
示談金の計算は正しくされていますか?
示談金が正しく計算されているか、本来もらえるはずの金額より低く見積もられていないかを確認することも大切です。
示談金を計算する算定基準は3種類ありますが、保険会社は基本的に最も低額になる基準で計算してくるか、またはそれに少し上乗せした金額を提示してくることが多いです。
弁護士に依頼すれば、最も高額になる基準で計算した金額での主張をしますので、示談金を増額できる可能性が高まります。そのためにも、提示された金額をしっかりとチェックすることが重要です。
示談書は正しく書けていますか?
示談書には、示談内容(示談金の額、内訳、支払方法、期限など)をすべてまとめます。そのため、万が一示談書の内容の誤りに気づかずに示談を成立させてしまうと、損してしまう可能性があります。
そこで、示談書に署名・押印して加害者側に返送する前に、請求項目や条件といった示談書の内容に誤りや漏れがないことを十分に確認しましょう。
示談条件が不利になっていないか確認する
示談書の内容を確認する際には、特に示談条件が不利なものになっていないかを確認しましょう。
例えば、示談条件に「示談書に記載のない損害の賠償は一切請求しない」といった文言がある場合、示談後に請求漏れに気づいたとしても新たに請求することはできません。
逆に、「示談後に後遺症が発覚した場合には改めて請求できる」といった先を見越した文言を入れておくなど、ご自身に有利な内容になるように示談書の内容をよく検討することが大切です。
公正証書だとなお良い
相手方が保険会社でなく一個人といった場合には、示談書は「公正証書」で作成すると良いでしょう。
公正証書とは、公証役場で公証人によって作成される公文書です。示談書を公正証書で作成すると、示談内容について明確な証拠を残すことができます。また、加害者に後から改ざんされる心配もありませんし、裁判でも有力な証拠として扱われます。
示談書を公正証書にする一番のメリットは、強制執行認諾文言(支払いが滞った場合に強制執行されることを認める文言)を入れておけば、加害者が支払わなかったときにすぐに財産を差し押さえて回収できることです。
少し手間と費用がかかるというデメリットはありますが、メリットの方が大きいでしょう。
すべての注意点に気をつけて示談を成立させるのは難しい
ここまで示談交渉の注意点について説明してきましたが、いざご自身でこれらのポイントに気をつけながら交渉を進めようとしても、仕事をしながら片手間に交渉することは実際には難しいのではないでしょうか。ご自身がどれだけ気をつけて交渉に臨んでも、相手が示談交渉のプロである場合には限界があります。
そこで、交通事故や示談交渉に精通した弁護士の手を借りることをぜひご検討ください。
納得のいく示談成立を目指すなら、弁護士へご相談ください
被害者の方だけで交通事故の示談交渉を進める場合、どうしても交渉に慣れている保険会社の方が優位になりがちです。しかし、適正な示談金を獲得するためには、対等以上にやりとりができなければなりません。
この点、法律の専門家で交渉のプロでもある弁護士が介入すれば、保険会社も強気な態度をとりにくくなるので、対等以上の交渉が期待できます。また、最も高額になる算定基準で計算した示談金を主張したり、適切な過失割合を調べて主張したりすることもできるので、示談金を増額できる可能性があります。さらに、示談交渉を代理してもらえば、保険会社などとのやりとりで生じるストレスを大幅に減らすことができます。
納得できる示談を目指したい方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
交通事故の損害賠償金を減額する要素としては、過失割合が有名ですが、それ以外にも「素因減額」というものがあります。
「素因減額」とは一体どのようなもので、どういった事情がある場合に行われるのでしょうか?
このような疑問にお答えするために、今回は「素因減額」について詳しく解説します。
素因減額とは
素因減額とは、交通事故に遭う前から被害者が持っていた素因が影響して、損害が発生・拡大した場合に、素因による影響の大きさに見合う金額を損害賠償金から差し引くことをいいます。
素因とは、簡単にいうと、事故前から被害者にあった既往症や身体的な特徴・体質、心因的な要因などです。
大まかに「心因的要因」と「身体的要因」の2種類に分けられるので、次項以下で詳しくみていきます。
心因的要因について
心因的要因とは、性格、ストレス耐性、うつ病やPTSDなどの精神疾患といった、被害者の心理的・精神的な問題点をいいます。
誰でも、交通事故に遭ったことをきっかけに後ろ向きな心理的反応が現れる可能性があります。しかし、後ろ向きな反応が一般的に予想される範疇を超えており、そのために損害が発生・拡大したといえるときは、心因的要因を根拠として素因減額が行われる可能性があります。
例えば、事故により頭や腰を挫傷した被害者が、事故後に不眠症や失声症などを発症して自殺してしまった事案では、心因的要因を根拠に損害賠償金の7割が減額されました。
なお、性格やストレス耐性などは人によってかなり異なりますので、一般的に予想される心理的反応の幅も広いです。そのため、少し神経質な性格だからといって簡単に素因減額が認められることはないでしょう。
身体的要因について
身体的要因とは、既往症や体質的な疾患をいいます。ただし、事故前から持っていた持病がすべて素因となり減額されてしまうわけではありません。
例えば、事故前から椎間板ヘルニアの持病があったケースでも、年齢相応の症状に留まるような場合には身体的要因とは認められない可能性が高いでしょう。椎間板ヘルニアなどは、加齢によって発症・悪化していくことが多いからです。
また、少し平均的な体格・体質から外れた身体的特徴があっても、疾患といえない程度であれば素因減額すべきでないと考えられています。
例えば、平均より少し首が長く頚椎が不安定な人や、平均よりも肥満気味な人は、事故によって怪我を負いやすいかもしれませんが、疾患といえるほど平均から外れた特徴でない限り、身体的要因とは認められないでしょう。
保険会社から素因減額が主張されやすいケース
例えば、「うつ病やヘルニアなどの既往症がある場合」「事故の規模に見合わない、長期間の治療を続けている場合」「被害者が高齢で加齢による影響がみられる場合」などには、加害者や保険会社から素因減額を主張されるケースが多くなる傾向にあります。
しかし、主張のすべてを受け入れる必要はありません。特に高齢の方の場合、年齢相応の老化現象を根拠に素因減額を主張されることも多いので、しっかりと検査を受けて医学的根拠に基づいた反論ができるようにしましょう。
素因減額の立証について
立証するのは誰?
被害者に素因があり、素因減額できるという事実は、素因減額を主張する加害者や加害者側の保険会社が立証しなければなりません。
なぜなら、素因減額をすることでメリットが得られるのは加害者側だからです。基本的に、証明することで利益を受ける側が立証責任を負うものとされています。
立証する内容は?
素因減額の主張が認められるには、
- 被害者の素因が、単なる特徴や特性ではなく「疾患」といえること
- 「交通事故」と「素因」が相まって損害が発生・拡大したこと
- 素因減額をしなければ公平に反すること
を立証する必要があります。
さらに、素因減額の割合を決める際に検討すべき事情なども併せて主張します。
これに対して、被害者側は、こうした主張の信頼性を揺るがす事情を主張して争っていくことになります。
損害賠償請求時の素因減額を争う場合の判断基準
素因減額を含む損害賠償金について話し合いで合意できない場合には、調停や裁判といった、裁判手続を利用して解決を図ることになります。その際、裁判所は次のような事情を考慮して、素因減額の可否や減額の割合を決定します。
〇交通事故の態様・程度、事故による車両の損害状況
事故の規模が大きく、車両の損害がひどいほど、交通事故によって大きな衝撃や損害を受けたと判断されやすいです。
〇既往症の有無・内容・程度
特に事故による怪我への影響が大きいと考えられる既往症であれば、損害の発生・拡大に寄与したと判断され、素因減額の割合が大きくなる傾向にあります。
〇交通事故の態様と事故による怪我の治療にかかった期間が見合うか
事故による怪我の治療にかかる平均的な期間を超えるほど、素因が影響していると考えられる場合が多いです。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
素因減額と過失相殺の順序
素因減額と過失相殺の両方が適用される事案では、素因減額の後に過失相殺をするのが一般的です。
しかし、素因が原因で事故の規模に見合わず治療が長引いたものの、後遺障害には影響していない場合には、「傷害部分の損害」だけが素因減額の対象となります。また、逆に素因が後遺障害にのみ影響した場合には、「後遺障害部分の傷害」だけを素因減額すべきことになりますが、こうした場合には例外的な対応がとられます。
素因減額と過失相殺の計算式
素因減額と過失相殺の両方が適用される場合には、以下のような計算を行い、最終的な損害賠償金を算出します。
例:損害額200万円、素因減額3割、過失割合2割
まずは素因減額から行います。損害額(=損害賠償金額)から素因の影響に相当する金額を差し引くために、次の計算をします。
「200万円×(10割-3割)=140万円」
そして、素因減額後の金額から過失割合に相当する金額を差し引きます。
「140万円×(10割-2割)=112万円」
したがって、例のケースでもらえる最終的な損害賠償金は112万円ということなります。
素因減額についての裁判例
ここで、実際に素因減額について争われた裁判例をみてみましょう。
【素因減額が認められた裁判例】
大阪地方裁判所 令和2年2月28日判決
自転車に乗っていた原告が信号待ちをしていたところ、他の車両と衝突事故を起こして滑ってきた被告の二輪車に跳ね飛ばされ、打撲の診断を受けた事案です。
事故による原告の怪我の主な症状は、右足を中心とした打撲や腫れで、長期間の治療の末に痛みや右肩の可動域制限などの後遺障害が残りました。
この点、裁判所は
- 当初の症状に見合わず治療が長期化していること
- 事故後の怪我や症状に、原告の既往症である骨挫傷が影響している可能性があること
- 原告の心因的要因によって症状が長引いている可能性があること
から、3割の素因減額をすべきだと判断しました。
【素因減額が認められなかった裁判例】
東京地方裁判所 令和2年9月23日判決
信号待ちをしていた原告の車に被告の車が追突し、原告がむちうちや挫傷、後縦靭帯骨化症の悪化、右肩腱板断裂といった怪我を負った事案です。
こうした原告の怪我について、被告は、頚部脊柱管狭窄症や事故前からあった右肩腱板断裂が大きく影響していると主張し、素因減額するよう求めました。
しかし、裁判所は、
- 事故前から本当に右肩腱板が断裂していたかわからないこと
- 原告が事故前に首の痛みを訴えて通院した事実がないこと
- 本件事故による車両の損害状況を見る限り、損傷は軽いものではなく、一定期間の治療が必要となり得ること
からすると、原告の脊柱管の狭窄が事故と相まって損害を発生させたとまでは認められないとして、被告の素因減額に関する主張を退けました。
素因減額についてお困りの場合は弁護士にご相談ください
加害者側の保険会社は、自社からの支払いを1円でも少なくするために、被害者に素因になりそうな事情があると強引に素因減額を主張してくることがあります。しかし、素因があれば必ず減額しなければならないわけではありません。しっかりと準備して反論すれば、素因減額を回避できる可能性があるケースも十分にあります。
とはいえ、加害者側の素因減額の主張が妥当か、妥当だとしてどれくらい減額されるべきなのかを判断するためには、医療と法律に関する専門的な知識が必要です。医学論争に発展することも多いので、素因減額について加害者や保険会社と争いたい場合は、法的知識と医学的知識を兼ね備えている弁護士のアドバイスを受けると良いでしょう。
ご相談者様に最善の結果となるよう、これまで培ってきた知識や経験を駆使して尽力しますので、ぜひ弁護士への相談をご検討ください。
相続というものは、奥が深く、いろいろな形の相続があります。そのうち、共同相続というものは、解消していないとトラブルのもとになるなど、厄介な状況を引き起こします。そこで、以下で、共同相続とは何か、そして共同相続となってしまった場合にどのように対処すべきかをご案内します。
共同相続とは
共同相続は、特殊な相続の形態ではありません。単に、複数の相続人が生じる相続の形態を指します。例えば、夫婦と子ども一人の家族で、夫が死亡した場合、妻と子どもで「共同相続」となります。
共有財産とは
共有財産とは、被相続人の財産で、遺産分割の対象になるものです。共同相続人の間で、共有になることから共有財産といいます。
共有ですので、民法の共有に関する規定が適用されます。具体的には共有されている財産は、勝手に処分できなくなるなど、さまざまな制限がかかります。
共同相続人と法定相続人の違い
共同相続人は、被相続人の遺産を共同で相続する者です。これには、相続放棄した者などは含まれません。法定相続人とは、法律で決まっている相続人をいいます。そのため、相続放棄した者であっても、相続分を譲渡した者であっても、法律で相続人となると決められている以上、法定相続人であることは変わりません。
例えば、夫婦と子ども二人の家族で、夫が死亡したときは、妻と子ども二人が法定相続人です。しかし、妻が相続放棄すれば、子ども二人だけで共同相続人になります。
共同相続人ができること
単独でできる行為
共同相続人は、相続財産を共有することになり、他の共同相続人の同意なく処分したりすることはできません。しかし、単独でできる行為もあります。
例えば、持ち分に応じた使用は、共有権限内の行為なので、単独で行えます。また、相続財産の価値を保つための保存行為も、他の共同相続人にとって不利益にはならないので、単独ですることができます。さらに、相続の持ち分に応じた登記もできます。
全員の同意書が必要な行為
遺産を共有しているということは、他の人の権利が混ざった状態ということになります。そのため、被相続人が所有していた不動産をまるごと売却することはできません。売却できるのは共有持分だけです。
また、原形をとどめない形にしてしまう、「変更」は、元の相続財産の価値を失わせる恐れがあるため、することができません。
さらに、勝手に預金の払い戻しを受けることもできません。他の共有者の権利もあるため、いわば他人の預金を引き出しているような状態になるためです。
もっとも、仮払い制度を利用して引き出すことができる場合があります。
共同相続人を辞退する方法
共同相続人を辞退する方法としては、相続放棄があります。これについては、家庭裁判所に必要な書類を提出し、家庭裁判所が相続放棄を認める手続きをして初めて認められます。この手続きをすると、財産も負債も受け継がれなくなります。なぜなら、初めから相続人でなかったことになるからです。しかし、一度してしまうと撤回はできませんので、よく考えた上でする必要があります。
遺産分割協議をしないと共同相続状態が解消できない
では、相続放棄以外で、共同相続状態を解消するにはどうすればいいのでしょうか。ここで、遺産分割協議という手段があります。遺産分割協議をして、遺産分割をすることで、共同相続人との共有状態は解除されます。
もっとも、遺産分割協議をするということは、読んで字のごとく、協議が必要になります。そのため、話合いがまとまらなければ、いつまでも協議することになったり、法的な手段に訴えることになったりします。
お早めに弁護士等の専門家に相談すべきでしょう。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
限定承認したい場合は共同相続人全員の同意が必要
限定承認とは、簡単に言えば、負の遺産の限度で、正の遺産を相続するという相続の方法です。
限定承認は、非常に厳格かつ困難な手続きです。
例えば、共同相続人のうち一人でも単純承認してしまうと、限定承認をすることはできません。
また手続自体、極めて煩雑です。
したがって、よほど限定承認をしなければならない事情がない限り、熟慮期間の延長申請をしつつ、相続財産の調査をして、単純承認か相続放棄をするのが無難でしょう。
共同相続した家に住み続けることはできるのか
共同相続した家は、共同相続人との共有になります。共有は、共有持ち分に応じた使用ができる状態です。ここで、共有持ち分に応じた使用とは、共有している家を、相続人で物理的に分割して使用するということではありません。家のすべてについて、持ち分に応じた利用ができます。そのため、住み続けることも不可能ではありません。しかし、それによって自分の所有になるわけではありません。いつまでも共有となるので、一部については借家のような状態になっています。そのため、早期の遺産分割をする必要があります。
共同相続人が不動産を売ってしまった場合
共同相続人が勝手に不動産を処分した場合、持ち分を超える部分については、無効となりますが、持ち分については有効となります。この場合、どのような手段があるでしょうか。
まず、相続分取戻権というものがあります。これは、取戻権を行使した時価を売却された相手方に支払うことで、不動産を取り戻すことができるものです。
これは、裁判手続きでする必要はありませんが、譲渡の時から1か月以内に行使する必要がありますので、行使する旨の内容証明郵便を早急に相手方に送る必要があります。
共同相続はトラブルになりやすい
共同相続は、必然的に複数の人間がかかわるため、意見が異なれば、当然もめることもあります。また、相続の場面自体大金が絡む可能性が高く、トラブルの度合いはしばしば深刻化します。さらに、共有財産は、先述のように、勝手に処分できないため、その処分方法でもめる可能性もあります。
このように、共同相続はトラブルになりやすいのです。
共同相続は早めに解消を。弁護士にご相談ください。
共同相続がトラブルになりやすい以上、専門家である弁護士等にお早めに依頼したほうが、早期解決につながります。弊所では、相続問題に詳しい弁護士が多数在籍しておりますので、共同相続でお悩みの場合、まずは弊所へご相談ください。
相続が発生した際には、様々な書類が必要となります。財産目録もそのうちの一つです。相続税の申告をするにも、遺産分割協議を行うにも、遺留分侵害額請求をするにも、基本的に財産目録が必要となります。そのため、税務署や裁判所からは財産目録の作成を求められます。ここでは、相続の際必ず必要となる財産目録について解説していきます。
財産目録とは
財産目録とは、被相続人の遺産を一覧にまとめたものです。現金、預金、有価証券、不動産、自動車等に分けて記載することになります。遺産目録においては、単にその存在を記載するだけではなく、その評価額を記載することも多いです。例えば、不動産でも、それを金銭的に評価して記載することがあるということです。また、財産目録では、プラスの財産のみならず、被相続人の負債についても記載することがあります。
財産目録を作成できるのは誰?
財産目録は様々な場面で作成されます。例えば、被相続人が生前に遺言書及び財産目録を作成する場合には、被相続人自身が財産目録を作成するでしょう。遺言の実現のために遺言執行者が選任された場合には、遺言執行者は財産目録を作成することになります。遺産分割協議を行う場合には、相続人が財産目録を作成することになります。作成場面に応じて、作成者は異なります。
財産目録を作成するメリット
生前贈与等の相続税対策ができる
相続対策といえば、相続税対策と、遺産分割等に備えた相続の対策があります。相続税対策については、税理士等の専門家に相談をしたうえで行うことをお勧めしますが、財産目録を作っておけば、相続税対策もスムーズに進めることができます。財産目録を作成したうえで税理士等に相談すれば、例えば、生前贈与をした方が相続税対策になる場合がある等、スムーズに案内してもらえるでしょう。
相続税申告の際に便利
実際に相続税の申告をする際は、財産目録を作成します。先に財産目録を作成しておけば、スムーズに相続税の申告を進めることができるでしょう。税理士に依頼するにしても、ある程度財産目録としてまとまっていると、速やかに相続税の申告をしてくれるはずです。また、財産目録を作成しておけば、相続税がいくらかかるかについて、予め試算をすることも可能となります。
遺産分割協議がスムーズになる
遺産分割を行う際、基本的にはどの相続人も、一回の遺産分割で全て解決したいと考えます。そのため、遺産を全て明らかにして、それを財産目録で一覧にしておけば、全ての相続人が安心して遺産分割協議に臨むことができます。何度も遺産分割を行う必要もなくなります。また、財産目録にしておけば、誰が、いくら分の価値を取得したか等もわかりやすくなるため、公平な遺産分割をしやすくなるでしょう。相続トラブルを防げる
財産目録を作成せずに遺産分割協議等をするような場合は、きちんと遺産について調査されていないことが多いと考えられます。その結果、遺産分割等が終了してから、他にも遺産があることが判明したり、実は借金があるということが判明したりすることがあります。そのような場合、再度遺産分割等を行わなければならなかったり、既に行った遺産分割等とどのように調整を図るか等の複雑な問題が生じてしまったりします。こういった相続トラブルを防ぐためにも、財産目録の作成は有用です。
相続放棄の検討材料にもなる
相続が発生した際、一般的には、単純承認するか、相続放棄をするかを検討することになります。マイナスの財産が多いような場合には、相続放棄する場合も多いと考えられます。プラスの財産の方が多いのか、マイナスの財産の方が多いのか、財産目録を作れば整理しやすくなります。財産目録を作成するのにも資料の収集等で時間を要しますので、早めに作成に取り掛かることをお勧めします。
財産目録の作成方法
財産目録の書き方
財産目録に特定の書式はありません(裁判所等で勧められる書式はあります。)。手書きでもパソコンでも問題ありません。基本的には、財産を預貯金や不動産等の種類ごとに記載して作成します。それぞれ、その財産がきちんと特定できるように、特定の為の情報も記載します。具体的には次のとおりです。
記載する内容
預貯金
預貯金を財産目録に記載する場合、特定できるように、金融機関名、支店名、預金の種別、口座番号、相続発生時の残高等を記載します。相続人であれば、被相続人の口座情報を金融機関に照会をかけることができます。財産目録には、同じ金融機関の口座であっても、一つ一つの口座ごとに分けて記載することになります。残高は、相続発生時と、遺産目録作成時の残高の両方を調べておいた方が良いでしょう。
不動産
不動産がある場合、土地と建物に分けて記載することになります。土地であれば、所在、地番、地目、地積を記載することになります。建物であれば、所在、家屋番号、種類、構造、床面積を記載します。マンション等の場合には表記が若干複雑ですので、専門家等に確認するのがよいでしょう。評価額も記載することになりますが、評価方法には複数あります。
有価証券
投資信託や株式がある場合には、証券会社の名称、株式の銘柄等、種別、数量(口数、株数等)、評価額等を記載することになります。これも、銘柄や商品ごとに分けて記載することになります。他の財産についても、添付資料をつけることになりますが、有価証券の場合には、証券のコピーや取引明細書等を添付することになります。
自動車等の動産
抽象的には、被相続人の所有していた動産も全て遺産ではありますが、財産目録に全ての動産を記載することは不可能ですし、財産的価値がないものがほとんどですので、記載しても意味がありません。財産目録に記載するのは、財産的価値のあると思われる一部の動産のみです。例えば、高価な宝石や自動車等は財産目録に記載することになります。自動車であれば、登録番号や自動車の種別、車名、車台番号等で特定することになります。
借金やローン等の負債
財産目録には、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産(負債)も記載します。負債も記載することで、財産全体でプラスかマイナスかを判断することができます。マイナスの財産の典型例は借金ですが、その他にも、病院の治療費の未払分や、税金の未納分等がよくでてきます。負債の欄には、債権者名(支払先・返済先)、種別、残額、借入金額等を記載することになります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
財産目録はいつまでに作成すればいい?
財産目録の作成には、法律で定められた期限というものは存在しません。相続税の申告をするのであれば、それまでに作成する必要があるでしょうし、相続放棄するかどうかを検討するために財産目録を作成するのであれば、熟慮期間内に作成する必要があるでしょう。いずれにしても、相続財産の全体像は早めに把握しておくに越したことはありません。可能な限り早期に財産目録は作成するべきでしょう。
財産目録が信用できない・不安がある場合
例えば、遺産分割協議の際、相続人の一人が財産目録を作成してきたとします。正確なものなら問題ありませんが、財産の隠匿(現金や既に引き出してしまった預金等)がなされていたり、評価額について、不当な金額で計上されていたりする場合には、その財産目録をそのまま使用することはできません。その場合には、財産調査をしなおしたり、家庭裁判所の遺産分割調停の中できちんと修正したりすること考えられます。
円滑な相続は財産目録の作成が大切です。弁護士へご相談ください
財産目録の作成は、それぞれの手続きに必要となりますし、早期に作成しておくことで、相続問題全体をスムーズに進めていくことができます。もっとも、財産目録の作成のためには、金融機関への照会や、名寄帳の取得、特定情報の正確な記載、評価額の考え方等、必ずしも作成は容易ではありません。財産目録をきちんと作成するためにも、弁護士に一度相談されることをお勧めします。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)