
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
相続登記とは
相続登記とは、被相続人が不動産を所有していた場合に、不動産の登記名義を相続人へ変更をするための手続きをいいます。 不動産には登記制度があり、登記制度に基づき、所有者などの情報が法務局で管理されています。被相続人が亡くなり、相続が開始したからと言って、自動的に不動産の登記名義が変更になるわけではないですし、相続人間で遺産分割協議が成立したとしても、登記名義は変更されるわけではありません。相続によって不動産を取得した際には相続登記の申請がきちんと行うことが必要になります。
相続登記の手続き方法
被相続人から不動産を相続した相続人は、法務局に対して、必要書類を揃えて相続登記に申請を行う必要があります。相続登記に必要な書類は遺言書の有無などによって相続ごとに異なってきますので注意が必要です。
不動産の所有者を確認する
相続登記を行うにあたっては、まず、不動産の所有者が誰であるかを確認することが重要となります。「亡くなった母親の所有する家など思っていたが、実際に母親より先に亡くなっている祖父名義のままになっていた」といったケースは決して珍しくありません。相続登記の準備中に実は所有者が異なっていたことが判明した場合、追加の書類が必要になるなど手続きに余計な時間がかかることもありますので、不動産の所有者を最初に確認してきましょう。
必要な書類を集める
どのような場合でも必要な書類
①所有権移転登記申請書:
申請書を記載する際には、法定相続分による場合、遺産分割協議による場合、遺言書による場合に応じて、記載する内容が異なること注意が必要です。
②対象不動産の固定資産評価証明書:
登録免許税を算定するために用いる書類であり、相続登記の申請を行う年度の証明書が必要となります。
③被相続人の住民票除票または戸籍の附票
戸籍と登記後の人物(被相続人)が同一であることを示すための資料です。
④被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
被相続人の特定や被相続人が死亡した事実を示すための資料となります。
遺言書がある場合に必要な書類
⑤遺言書
公正証書遺言書の場合、自筆証書遺言補完制度を用いた場合であれば問題にありませんが、それ以外の遺言書の場合は、検認手続を経たうえで、検認調書を添付することが必要となります。
遺言書がある場合には、上記④は、死亡の記載ある戸籍のみで足りることになります。
遺言書がない場合で法定相続分どおりに登記する場合に必要な書類
⑥相続人全員の戸籍謄本
⑦相続人全員の住民票
遺産分割協議による場合に必要な書類
⑧遺産分割協議書
相続人全員が署名し、実印で押印することが必要となります。
⑨相続人全員の印鑑証明書
遺産分割協議書内の印鑑が実印であることを証明するための資料です。
遺産分割調停または審判による場合
⑩調停(又は審判)調書
調停や審判で決まった内容を明らかにする資料です。
相続関係説明図、登記申請書を作成する
必要書類が揃ったら、登記申請書を作成します。登記申請書(相続登記の場合、正確には「所有権移転登記申請書」)は、遺言書の有無や法定相続分、遺産分割協議等、申請内容に応じて、法務局に様式が準備されています。インターネットからもダウンロードすることが可能です。
また、相続関係説明図を作成する必要もあります。相続関係説明図とは、被相続人と相続人を続柄とともに一覧できるように図面にした書類であり、相続関係説明図を添付しておくと法務局から提出した戸籍の原本の還付が受けられるので、法定相続分どおりの相続登記や、遺産分割協議書による場合などには相続関係説明図を添付することが多いです。
法務局へ申請する
相続登記の準備ができたら法務局に申請手続を行います。申請方法には、①法務局の窓口で行う方法、②郵送で行う方法、③オンラインで行う方法があります。
①については、窓口で確認を取りながら進めていくことができることから訂正があってもその場で対応できるメリットがある一方で、平日の時間内に法務局を訪問する時間を確保する必要性があります。
②は、法務局を訪問する必要がないというメリットがある一方で、訂正があってもすぐに対応をすることができないというデメリットがあります。
③は、自宅で全ての手続を行うことができるのメリットがある一方で、ソフトウェアのインストールが必要となるなど手間がかかる部分があるのがデメリットとなります。
登記識別情報を受け取る
相続登記が無事に完了すると、申請者に対して、法務局から登記識別情報通知という書類が発行されることになります。登記識別情報とは、12桁の英数字で構成された不動産の名義変更に使うパスワードに該当するものです。そのため、登記識別情報通知は大切に保管してください。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続登記を行った場合に掛かる税金は?
不動産登記の申請を行うために登録免許税という税金を納める必要があり、相続登記を行う場合にも登記を免許税の納付が必要となります。登録免許税の金額は、相続登記の対象となる不動産の固定資産評価証明書記載の金額に、0.4%の税率をかけたものです(100円未満は切り捨てとなります)。登録免許税の納付は、現金で行うことが原則となりますが、3万円以下の場合は収入印紙でも行うことも可能です。
相続登記の期限
相続登記に現時点では期限は定められていません。
しかし、法改正により、今後は、不動産の登記名義人が亡くなったときは、当該相続により不動産を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行う必要があります。相続時を怠った場合には10万円の過料という罰則も設けられています。改正法は2024年を目途に施行予定ですので、これからの相続には注意が必要といえます。
相続登記で問題になりやすいケース
相続登記は、期間制限はないとしても、なるべく早く、かつ、将来を見越した形で行っておかないと、後々になってトラブルの原因となってしまうことがあります。相続登記で問題となりやすいケースとして、①相続登記自体を放置してしまった場合、②相続登記を共有名義で行った場合などが挙げられます。
相続登記手続きを放置した場合
まず、相続登記を放置してしまった場合について解説します。
長期間放置するほど、登記が難しくなる
相続登記を行うためには登記義務者の協力を得ることが必要となります。しかし、相続登記を行わないまま放置してしまうと、時間が経過に伴って、本来の相続人が亡くなって代襲相続が発生するなどして登録義務者が増えていってしまい、相続登記に協力を求めるべき人も増えてしまうことになります。当然、準備する資料が増えていくことになります。すぐに行えば揉めることのなかった相続登記でも、放置してしまうことにより、登記に協力してくれない人が出てきたり、相続人の中に海外にいて連絡が取れない人が出てきたりと事後的にトラブルが生じることがあります。
相続登記せず住み続けた場合
相続登記をしていないということは、不動産の権利を対外的に表明する手段がないということになります。そのため、被相続人から相続した不動産に相続登記をしないまま住み続けた場合、事後的に、当該不動産に関する所有権をほかの相続人から主張されたりといったトラブルが生じることがあります。
相続登記を放置しているとできなくなることがある
不動産の相続登記を放置してしまった場合、不動産を売却したい場合、賃貸したい場合などにすぐに手続きを行うことができず、取引の機会を喪失することがあります。また、不動産を担保に融資を受けることも難しくなりますし、抵当権の抹消登記ができないといった支障もあります。
つまり、せっかく不動産を相続したにもかかわらず、不動産を十分に有効活用することができなくなってしまう可能性があります。
共有名義で相続登記した場合
次に、相続登記を共有名義で行った場合について解説します。
後から共有関係を解消する場合に、費用が高額になる
相続時にとりあえずということで複数の相続人による共有名義で相続登記をしようと考えることもあるかもしれません。しかし、後々になって、不動産の登記名義を1人にまとめたいとなったとしても、共有者の1人にほかの共有者の持分を移転するための登記費用や贈与する場合に課税される贈与税の金額は、相続時と比べて相当高額になってしまいます。
売却等、処分をするときに手間がかかる
相続登記をした後、不動産を売却しようと考えたとき、共有者の間で、売却すること自体について意見が合致しなかったり、売却価格や仲介業者の選択について意見が合わなかったりすることがあり、不動産の売却を思うように行うことができず、余計な手間がかかることがあります。
相続登記のお悩みは弁護士にご相談ください
相続登記については、必要となる書類も多くあるうえ、事案ごとに必要となる書類が異なるなど、手間のかかる手続きですし、先々のことを見据えて、速やかに手続きを行っておかないと、トラブルが生じてしまうことも少なくありません。特に、相続登記を放置してしまうことによる問題は相当多いといえます。相続登記にお悩みの方は是非一度弁護士に相談してみてください。
相続の際、亡くなった方(被相続人)の遺産を処理するメジャーな方法としては、①遺産をそのまま受け取る方法と②相続放棄をする方法があります。
しかし、第三の方法である「限定承認」という方法があります。
この記事では、皆様の相続をより良いものとしていただくべく、限定承認がどういう制度であるかを説明させていただきます。
限定承認とは
限定承認とは、裁判所が選任する相続財産管理人の下で、被相続人の遺産の限度で被相続人の債務を清算し、残った遺産を相続人の下に返す制度となります。
限定承認のメリット
負債を負うことがない
限定承認の手続きの中で、被相続人の負債は、残されていた遺産によって清算されます。
相続財産管理人が、被相続人が残した財産の範囲で、被相続人の債務の弁済を行うのです。
仮に、被相続人の負債が多く、遺産では払いきれないとしても、それ以上、相続人が債務を支払う責任を負うことはありません。
連帯保証人の地位は受け継ぐことに注意が必要
被相続人が連帯保証人となっていた場合、限定承認によって相続人が連帯保証人の地位を受け継ぎます。これは、相続が、被相続人の財産を受け取る権利を得るという性質のものではなく、被相続人の権利も義務も受け継ぐものであるからです。
限定承認をすると、相続人が連帯保証人の立場となるため、債権者から請求を受けた場合には、遺産の範囲内で支払う義務があります。
特定の財産を残せる
限定承認手続の際、通常、不動産等は競売によって清算されますが、遺産を一部残したい場合もあるでしょう。
実家や事業用資産が遺産になってしまっている場合、先買権を行使することが考えられます。
先買権は、家庭裁判所が選任する鑑定人の鑑定結果上の評価額以上の金額を支払うことで、相続人が優先的に遺産の一部を購入できる権利です。
被相続人の借金が多い一方で、どうしても残したい遺産がある場合には、先買権を考慮して限定承認を選択すべき場合もあるでしょう。
限定承認のデメリット
被相続人の負債を負わない、特定の財産を残せる可能性がある限定承認手続ですが、他方で、次のようなデメリットもあります。
相続人全員が限定承認する必要がある
限定承認は、被相続人の遺産を手続き中に清算するものです。
そのため、相続人の中に遺産をそのまま受け取りたい人がいる(単純承認をした相続人がいる)場合とは両立しません。
限定承認を行いたい場合、相続人全員の足並みをそろえるよう、相続人間で意思の調整をしておく必要があるでしょう。
相続放棄した人がいる場合
上述のように、限定承認を行いたい場合には、相続人全員が限定承認を行う意思である必要があります。しかし、相続放棄をした相続人がいるときには、その者以外の相続人で限定承認を行うことができます。
これは、相続放棄をした者は、初めから相続人ではなかった扱いとなるからです。
相続財産に手を付けることができない
限定承認を行う場合には、限定承認手続きが終了するまで、相続人が勝手に遺産を処分することはできません。
手続開始後、遺産の一部を使用する必要があるとしても、一時的な使用であっても遺産に手を付けることは許されません。
限定承認手続が完了するまで、通常、数か月以上かかりますので、遺産の一部を急遽使用する必要が想定される場合、限定承認手続の利用は再考すべきでしょう。
税金がかかってしまう場合がある
通常の相続の場合、相続人は、被相続人の所得税の申告(準確定申告)と相続税の申告を行う必要があります。限定承認の場合にも、相続人がこれらの申告を行う必要があります。
そして、限定承認に伴う準確定申告には、みなし譲渡という考え方があります。
これは、限定承認によって、被相続人の財産が時価で相続人に譲渡したものと扱われるというものです。この扱いにより、被相続人には、所得が生じていることになり、予想以上に所得税が生じてしまう場合もあります。
そのため、被相続人の遺産にどのような財産が含まれているか、十分な調査をしたうえで限定承認手続きに臨むことが重要です。
申請までに手間や時間が掛かる
限定承認を行う上で上述のように、税金がかかってしまう場合があります。
そのため、申立てを行う時点で、相続財産の調査をある程度済ませ、どの程度税金が発生するかを把握しておく必要があるでしょう。
相続財産の調査を進めようとしても、一定の手がかり(例えば、預金通帳、保険会社からの郵便物など)すらない場合、容易に遺産を明らかにできません。
その場合には、遺産を明らかにするだけでも数か月かかってしまうこともあり、申請には時間がかかってしまいます。
受理された後も、更に手続きがある
限定承認は裁判所に申立書類を提出して終わりではありません。
裁判所は限定承認の申述を受理すると、遺産の清算を行う相続財産管理人を選任します。
この相続財産管理人は、相続人の中から選任されることが原則となっています。
そして、選任された相続財産管理人は、被相続人の債権者に債権を届け出てもらうための広告手続を行います。
その後も、届け出のあった債権者に対して、遺産から弁済を行う等、様々な手続きを進める必要があります。
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限定承認の手続き方法
以下、限定承認手続きのポイントを解説します。
限定承認に必要な書類
限定承認を行う場合、以下の書類が最低でも必要となります。
相続人と被相続人の関係性次第では、さらに書類が必要となる場合もあります。
- 限定承認の申述書
- 財産目録(遺産の中にどのような財産があるのかをまとめた一覧表)
- 被相続人の戸籍(除籍)謄本
- 被相続人が出生から死亡までのすべての戸籍謄本類
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)が亡くなっている場合は、その子(及びその代襲者)が出生してから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類
限定承認の手続きの流れ
限定承認は大まかに次のような流れで進みます。
1 相続財産と相続人の調査
限定承認は、相続人全員で行う必要があるので、相続人が誰であるかを初めに確認する必要があります。
また、可能な限り、相続財産の調査を行うことも重要です。
調査の結果、相続人の足並みをそろえるための話合いをすべき場合もあるでしょう。
2 申述書等の作成・必要書類の収集
続いて限定承認の申述書や財産目録を作成し、戸籍等必要な書類を収集します。
3 家庭裁判所への申述書等の提出・受理
申述書や必要書類をそろえたら、家庭裁判所に申述を行います。
その際、必要な費用は前述したとおりです。
4 相続財産管理人の選任・公告や催告
限定承認の申述が受理されると、家庭裁判所から相続財産管理人が選任されます。
その後、相続財産管理人は、被相続人の債権者を確定するために、官報に公告を行い、知れている債権者に対する催告を行います。
5 換価・評価
相続財産には現金ではない不動産や株式などが含まれていることが少なくありません。
債務の弁済に必要な場合には、相続財産の換価手続が行われます。
6 弁済
換価手続が終わると、相続財産から債権者に対する弁済が行われます。
この弁済手続は、各債権者の保有する債権の金額の割合に応じて行われます。
7 残余財産の取得
債権者の弁済が終了し、残余財産がある場合には相続人が残余財産を取得します。
費用
家庭裁判所に限定承認の申述を行う際には、収入印紙800円及び郵便切手代が必要となります。
郵便切手代は、申述を行う先の裁判所によって異なるので、申立の際に確認しておく必要があります。
限定承認の期限は3ヶ月
限定承認の申述期限は原則として、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月です。
この期限までに、相続人が限定承認の申述を行わないと、単純承認をしたものとみなされてしまいます。
そうなってしまうと、限定承認の申述が受理される見込みはなくなってしまいます。
相続財産の調査が間に合わない場合には、期限を延長する手続きを裁判所に行う必要があります。
なお、期限を延長する場合、3か月延長されることが通例です。
限定承認についてご不明な点はぜひご相談下さい
以上より、相続の際には、限定承認という選択肢があることをご理解いただけたと思います。
もっとも、これまで見てきたように、他の相続の方法に比べ、手続きが段違いに煩雑です。
特に、限定承認を裁判所に申し立てた後に、相続財産管理人に選任される可能性があることも考えると、不安もあるでしょう。
相続にあたり、限定承認をすべきかお悩みの方は一度、弊所にご相談ください。
離婚を見据えて別居する場合でも、今後の夫婦関係を冷静に見つめ直すために別居する場合でも、離婚していない以上、まだ夫婦であることに変わりありません。そのため、別居中であっても夫婦としてお互いに生活を支え合う必要があります。具体的には、収入の多い方は少ない方に「婚姻費用」を支払わなければなりません。
今回は、支払いを巡って争いになることも多い「婚姻費用」について解説します。金額の計算方法や内訳、請求方法やその流れなどを知りたい方は、ぜひご覧ください。
婚姻費用とは
婚姻費用とは、夫婦が結婚生活を続けるうえで必要な一切の費用をいいます。例えば、家賃や光熱費、生活費、医療費、子供の学費といった費用が挙げられます。
養育費と混同されている方もいらっしゃいますが、養育費は純粋に子供を育てるための費用であり、離婚してから支払義務が発生するものです。一方、婚姻費用は養育費も含んだ生活費であるため、養育費よりも高額になるのが通常で、離婚すると支払義務がなくなります。
計算する際の基準なども違うので、誤って理解しないように気をつけましょう。
婚姻費用の分担義務(生活保持義務)について
同居しているか別居しているかを問わず、結婚している以上夫婦は支え合って生活する義務があるので、それぞれの生活水準が同レベルになるように助け合わなければなりません。これを「生活保持義務」といいます。
生活保持義務の内容のひとつに「婚姻費用の分担」があります。婚姻費用の分担とは、夫婦が生活水準を合わせるために、それぞれの収入に応じて生活費を出し合うことをいいます。基本的には収入が多く、より支払い能力がある方が、少ない方に対して生活費(婚姻費用)を支払います。
同居中に問題になることはそれほどありませんが、夫婦仲が悪くなり別居した後、支払義務の有無や金額を巡って争いになることが多いです。
婚姻費用の内訳
婚姻費用には、主に下記に挙げるものが含まれます。
- 食費
- 光熱費
- 衣服代
- 居住費(家賃、固定資産税など)
- 医療費
- 冠婚葬祭費
- 常識的に必要な範囲の交際費、娯楽費
- 子供の養育費(保育園代、学費、塾や習い事の月謝など)
婚姻費用を請求できるケースとできないケース
婚姻費用を請求しても、必ず支払ってもらえるとは限りません。次項以下で、婚姻費用を請求できるケースとできないケースをそれぞれ紹介するので、どのような場合に婚姻費用の分担請求が認められるのか、確認していきましょう。
婚姻費用を請求できるケース
婚姻費用を請求できるのは、主に次のようなケースです。
同居中、収入のある配偶者が生活費を入れないケース
生活費を入れられるだけの十分な収入を得ているにもかかわらず、同居している相手方が生活費を入れない場合、婚姻費用を分担し合うという生活保持義務に反しているため、婚姻費用を請求できます。
自分に責任のない事情で別居することになったケース
夫婦には同居して生活を助け合う義務がありますが、相手方の不貞行為(浮気)やDV、モラハラなどが原因で、やむを得ず別居を選択することもあります。
こうしたケースや、性格の不一致を原因とする別居または離婚前に冷却期間を置くための別居など、どちらに責任があるとは言い切れない別居のケースでは、夫婦の生活保持義務が継続するため、婚姻費用の請求が可能です。
子供を引き取って別居しているケース
親である以上、自立していない子供の面倒をみる義務があるので、子供と同居しているか別居しているかに関係なく養育費を負担する必要があります。
そのため、子供を引き取って別居している配偶者は、相手方に対して養育費を含めた生活費を請求することができます。
婚姻費用を請求できないケース
次のようなケースでは、婚姻費用を請求しても支払ってもらえない可能性が高いでしょう。
相手の収入より自分の収入の方が多いケース
婚姻費用は、夫婦それぞれの収入に応じて負担し合うのが基本です。通常は収入の多い方から少ない方へ婚姻費用を支払うことになるため、自分の収入が相手より多い場合は婚姻費用の請求が認められない可能性が高いです。
ただし、親には子供の養育費を支払う義務があるので、子供を育てるためにかかる費用は請求できると考えられます。
婚姻費用の請求が権利濫用にあたるケース
一般常識からみて、婚姻費用の請求を認めるのが妥当でないと考えられるケースでは、婚姻費用を請求することができません。例えば下記のような事情がある場合には、婚姻費用を支払ってもらうことは難しいでしょう。
- 夫婦関係が壊れる原因を作った配偶者が請求した
- 正当な理由なく、一方的に別居に踏み切った配偶者が請求した
- 既に多くの離婚給付金(財産分与や慰謝料など)が支払われている
婚姻費用の計算方法
婚姻費用の金額は、夫婦が話し合って自由に決めることができます。その際、家庭裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」が参考にされます。
夫婦間の話し合いで金額が決められなければ、家庭裁判所の調停や審判を利用することになります。
調停では調停委員を介した話し合いによって、審判では裁判官が婚姻費用の金額を決定しますが、どちらの場合も「養育費・婚姻費用算定表」を元に金額を計算するのが基本です。
つまり、婚姻費用の月々の支払額は、夫婦の収入や財産の状況、社会的地位、支出の状況などを考慮したうえで、算定表を基準に計算されます。
婚姻費用の請求の流れ
婚姻費用の請求は、基本的に「夫婦の話し合い→婚姻費用分担調停→婚姻費用分担審判」の流れで行います。
婚姻費用の受け取りを希望する配偶者は、まず、もう一方の配偶者に口頭または書面で婚姻費用を請求します。そして、夫婦で婚姻費用について話し合い、合意による解決を目指します。
しかし、夫婦間の話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立て、調停委員を介して再度話し合うことになります。調停でも合意できない場合は、基本的に審判に移行するので、家庭裁判所に最終的な判断を委ねることになります。
婚姻費用を請求できるのはいつからいつまで?
婚姻費用は、夫婦の生活保持義務が続く間、つまり結婚している間は請求することができます。
ただし、実際に支払ってもらえるのは“請求した時”以降に発生する婚姻費用だけです。つまり、婚姻費用を支払ってもらえるのは、基本的に“請求が認められた時点から離婚が成立するまで”の間です。
請求した時期によって受け取れる婚姻費用の総額が変わってくるので、別居したらすぐに請求することをおすすめします。
一度決めた婚姻費用を増額・減額することは可能?
婚姻費用は、取り決め後も、夫婦が合意に至れば増額・減額が可能です。合意できなくても、当初とは事情が変わり、変更が妥当だと判断されるときは、婚姻費用の変更が認められ得ます。明確な基準はありませんので、各々のケースに応じて柔軟に判断されます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
取り決めた婚姻費用が支払われなかった場合、どうしたらいい?
取り決めどおりに婚姻費用を支払ってもらえないときは、
- 内容証明郵便で支払いを催促する
- 調停を申し立てる
- 審判の手続きを行う
- 強制執行によって財産を差し押さえる
といった対処をすることになります。
ただし、強制執行による財産の差押えは、婚姻費用に関する取り決めについて公正証書(強制執行認諾文言付のもの)を作成していた場合や、調停や審判で取り決めをしていた場合にしかできません。それ以外の場合に強制執行をするためには、結構な時間と手間がかかります。
婚姻費用について取り決める際には、婚姻費用の支払いが滞ったときに備えて、あらかじめ準備をしておくと良いでしょう。
勝手に別居した相手にも婚姻費用を支払わなければならない?
勝手に別居した配偶者から婚姻費用を請求された場合でも、自分の収入が相手の収入よりも多ければ、婚姻費用を支払わなければならないのが基本です。
ただし、相手が別居を始めた原因によっては、支払わずに済んだり、大幅に減額できたりする可能性があります。
例えば、相手が不貞行為(浮気)をして夫婦仲を悪化させたうえに、一方的に別居を始めたようなケースでは、常識にみて婚姻費用を支払う妥当性がありません。そのため、婚姻費用を支払う必要がないと判断される、または金額が大幅に減額される可能性が高いでしょう。
反対に、相手にDVやモラハラをしていた結果、相手が耐え切れずに別居に踏み切ったようなケースでは、婚姻費用を支払う義務があります。
婚姻費用と養育費の違いは?
婚姻費用と養育費は、どちらも家族間で発生する生活費ですが、「誰の」生活費なのか、「いつからいつまでの期間に対して」支払う必要があるのかといった点が違います。
まず、婚姻費用は、夫婦の一方が配偶者と自立していない子供のために支払う「家族の」生活費ですが、養育費は、親が自立していない子供のために支払う「子供の」生活費です。したがって、子供の生活費だけでなく夫婦の生活費も含む婚姻費用の方が、養育費よりも高額になるのが通常です。
また、一般的に、婚姻費用は「結婚してから離婚するまで」の期間に対して支払うものですが、養育費は「離婚してから子供が自立するまで」の間支払わなければならないものです。
離婚調停と婚姻費用分担請求の関係
離婚請求と婚姻費用の分担請求は相反するものではないので、離婚調停と同時に、婚姻費用分担請求調停を申し立てることができます。
離婚調停が成立するまでには年単位の時間がかかることもあるので、その間の生活費の不安を軽減して安心して手続きを進めるためにも、同時に申し立てることをおすすめします。
この2つの手続きを同時に申し立てると、同じ期日で話し合いを進めることができるようになるため、時間や労力の軽減につながります。
ただし、異なる内容の話し合いをひとつの手続きの中で行うことになるので、調停が成立するまでにより時間がかかってしまう可能性があります。同時に申し立てるかどうかは、メリットとデメリットをよく比較して検討しましょう。
婚姻費用の様々なご相談は経験豊富な弁護士へお任せください
夫婦である以上、婚姻費用は負担しなければならないものです。逆にいえば、収入があるのに生活費を入れない配偶者に対しては婚姻費用の分担を請求できます。
婚姻費用を確保できれば、別居中など、特に離婚を視野に入れて動いているときに、経済的な不安なく手続きを進められるようになります。婚姻費用をもらって困ることはないので、別居している場合や生活費の負担が偏っているように感じている場合には、請求を検討されてはいかがでしょうか。
その際には、相続問題に詳しい弁護士に相談してアドバイスを受けられることをおすすめします。
弁護士なら、婚姻費用の分担請求と併せて離婚手続の代行も任せることができるので、精神的な負担やかける労力を最小限にできます。ぜひ経験豊富な弁護士への相談をご検討ください。
日本では、離婚する夫婦の約9割が協議離婚を選択しています。しかし、夫婦2人の話し合いだけでは、離婚することやその条件についてなかなか合意できないこともあります。
このように、協議離婚が難しい場合に選択できる方法のひとつに「離婚調停」があります。
では、離婚調停とは具体的にどういった方法なのでしょうか?
このような疑問に答えるべく、本記事では、離婚調停の利用方法や手続きの流れ、必要な準備などについて解説していきます。
離婚調停とは
離婚調停とは、離婚に関する夫婦の話し合いがまとまらない場合や、話し合い自体が難しい場合に家庭裁判所の調停手続きを利用して行う、離婚に向けた話し合いです。正式には「夫婦関係調整調停」といいます。
離婚調停では、裁判官や調停委員からなる調停委員会が夫婦の間に入って話し合いを進め、合意に向けて双方の意見を調整します。客観的な視点を持つ調停委員会を間に挟んではいるものの、離婚審判や離婚裁判とは違い、あくまで“話し合い”で離婚問題を解決しようとする方法です。
離婚調停のメリット・デメリット
離婚調停のメリットとデメリットは、それぞれ次のとおりです。
【メリット】
- 円滑な話し合いが期待できる
第三者である調停委員会が介入し、必要に応じて解決に向けたアドバイス等をするため、夫婦2人だけで話し合うよりも落ち着いて意見をすり合わせることができます。そのため、話し合いが円滑に進む可能性があります。 - 夫婦が対面で話し合う必要がない
調停委員を介して話し合うため、基本的に夫婦が直接顔を合わせることがありません。そのため、DVやモラハラの被害者も安心して話し合いに臨むことができます。 - プライバシー保護が徹底されている 離婚調停は非公開で、調停委員も守秘義務を負っているので、秘密が外に漏れる心配がありません。
【デメリット】
- 合意できなければ不成立に終わる
いくら時間をかけて話し合っても、夫婦が合意しなければ調停は不成立となります。そのため、場合によっては、かけた費用や時間が無駄になってしまう可能性があります。 - 日程調整などの手間がかかる
離婚調停は家庭裁判所の開廷時間に合わせて行われるため、どうしても平日の昼間に時間を作る必要があります。また、一度で解決することはないので、何度も裁判所へ足を運ばなければなりません。
離婚調停の流れ
家庭裁判所に調停を申し立てる
離婚調停は、管轄の家庭裁判所に申立書を提出し、受理されることによって始まります。
基本的には、相手方となる配偶者の住所地を管轄する家庭裁判所が管轄の家庭裁判所となります。ただし、夫婦が合意のうえ選んだ家庭裁判所がある場合は、こちらに離婚調停を申し立てることもできます。
離婚調停の申立書は、下記のリンク先から、「夫婦関係調停申立書」という名称で入手することができます。
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazityoutei/syosiki_01_23/index.html
調停開始
離婚調停の申立てが受理されると、1~2ヶ月程度で、裁判所から第一回目の調停の日時(調停期日)を知らせる呼出状が夫婦双方に送られます。
調停期日当日は、夫婦が交互に調停室に入り、調停委員と話し合うことを繰り返します。基本的には、調停委員と話し合って一方が出した条件を、調停委員が他方に提案して合意できるか確認するという作業の繰り返しになります。
なお、一方が調停委員と話している間に待機する待合室も夫婦別なので、夫婦が顔を合わせることはありません。
第一回目の調停期日が終了すると、その後は1ヶ月~1ヶ月半に1回程度のペースで調停期日を行うことになります。
調停終了
離婚調停は、調停の「成立」「不成立」「取下げ」のいずれかの方法によって終了します。
詳しくは次項以下をご覧ください。
調停成立
当事者が離婚自体やその条件について納得して合意し、合意内容も妥当なものである場合は、調停が成立します。
離婚調停が成立すると、裁判所が調停調書を作成します。
調停調書は合意内容が記載されているもので、判決と同じように強い効力を持ちます。そのため、例えば、合意どおりに養育費が支払われないようなときには、調停調書を根拠に強制執行を申し立てることができます。
調停が成立したら、調停調書に間違いがないかどうか、しっかりと確認するようにしましょう。
調停不成立
話し合っても合意できない場合や、相手方が期日に出席しなかったためにそもそも話し合いができないような場合には、調停は「不成立」となり手続きが終了します。
調停が不成立になると、不成立調書が作成されます。そして、当事者である夫婦は、他の離婚手続を進めるか、離婚自体を諦めるかを検討することになります。
依然として離婚を希望している場合は、通常、離婚裁判を起こします。
なお、調停に代わる審判で離婚が認められることもあります。しかし、審判離婚は異議を申し立てれば効力がなくなってしまうので、離婚自体には合意しているものの細かい条件で折り合いがつかず、当時者が裁判所に判断を委ねている場合など、例外的なケースでしか利用されません。
調停取下げ
離婚調停を申し立てた人(申立人)は、相手の同意を得ることなくいつでも調停を取り下げることができます。そのため、取下げによって調停手続きが終了する場合もあります。
調停を取り下げる理由としては、次のようなものが考えられます。
- 調停手続きの外で協議離婚が成立したから
- 夫婦関係が修復したので、離婚調停を続ける必要がなくなったから
離婚調停の準備
離婚調停をスムーズに進めるためにも、あらかじめ準備をしておくことをおすすめします。
以下、申立書の作成前後・第一回調停期日前・各調停期日など段階を分けて、それぞれのタイミングで必要になる準備について確認していきましょう。
申立書の作成前に確認すること
申立書を作成する前の段階では、申立てを行うために必要な情報を集めるとともに、「離婚調停で何を決めたいのか」を明確にしておきます。
例えば、管轄の裁判所がどこなのか確認したり、申立て費用を調べたり、申立書に必要な書類の準備をしたりします。
加えて、離婚調停のなかでどのような離婚条件を求めていくのかも整理します。
例えば、親権が欲しい、慰謝料を支払ってもらいたい、財産分与や年金分割を求めたいといった希望があれば、その理由や具体的な金額、支払方法などの細かい条件をまとめておきます。
なお、離婚調停と同時に婚姻費用の分担を請求する場合でも、離婚調停の申立書とは別の申立書を提出する必要があるので注意しましょう。
申立書を作成する
離婚調停の申立てには申立書が欠かせません。申立書にはテンプレートがあり、家庭裁判所や裁判所のWebサイトから入手できるので、これに従って記載していけば問題ないでしょう。
申立書には、下記の事項を記載するのが一般的です。
- 自分と配偶者の氏名、住所、連絡先
- 子供の名前
- 離婚に関する意思
- 離婚を希望する理由
- 離婚時の条件
なお、裁判所に提出後、申立書は相手方にも送付されます。DVをする配偶者から逃げているため現在の住所や連絡先を知られたくないといったケースでは、あらかじめ家庭裁判所に「非開示申出書」を提出することになります。
第一回調停期日までの準備
申立てが受理されたら、第一回調停期日に向けた準備をはじめます。
まず、スムーズに話をするために、
- 希望する離婚条件の詳細
- 調停委員に話す内容
- 調停委員からされる質問への回答
をメモ書きにするなどして整理しておきます。
加えて、相手のDV・不貞などの証拠があれば、提出できるようにしておきます。
また、当日の持ち物として、
- 申立書など、裁判所に提出した書類のコピー
- 離婚調停の呼出状
- 身分証明書
- メモ用紙、筆記用具
- スケジュール帳
- 電卓
- 自分の銀行口座の番号のメモ
などを用意しておくと良いでしょう。
服装は、普段着や仕事着でも構いませんが、清潔感のある華美過ぎないものをおすすめします。
調停期日ごとの準備
第一回調停期日後は、調停期日ごとに、前回までの調停期日での相手方の反応を踏まえて、提示する離婚条件を再検討したり、説明方法を考え直したり、資料や証拠を集め直したりします。
争点によって効果的な対策は異なるので、「この対策さえしておけば心配ない」と言い切ることはできませんが、調停期日の終わり際に調停委員から伝えられる宿題・準備事項に対応できるようにしておくことは重要です。
調停の付属書類について
離婚調停を申し立てる際には、申立書に下記の書類を添えて提出する必要があります。
- 事情説明書…離婚調停の申立て内容に関する事項を記載する書面
離婚調停を申し立てるより前に行った相手方との話し合いの経緯や内容、合意に至らなかった事項、それに対する自分の意見などを具体的に書きます。 - 子についての事情説明書…未成年の子供の現在の状況、心配事の有無などを記載する書面
未成年の子供がいる場合、必ず提出しなければなりません。 - 進行に関する照会回答書…調停を進める際の参考になるアンケート
相手方に手続きに応じる意思はあるか、どのような態度が予想されるかといった質問に答えます。配偶者からDVを受けていたようなケースでは、被害の内容や裁判所に求める配慮等を記載します。 - 夫婦の戸籍謄本
3ヶ月以内に発行されたものでなければなりません。 - 年金分割のための情報通知書
年金分割を請求する場合に必要なので、希望する場合は年金事務所に問い合わせるなどして入手しましょう。
離婚調停で聞かれること
離婚調停では、調停委員から、離婚や結婚生活にまつわる質問をされます。質問の内容はたいてい決まっているので、下記に挙げた5つの質問に答えられるように準備しておくと良いでしょう。
①結婚の経緯(出会いから結婚するまでのエピソード)
②離婚しようと考えた理由
③夫婦関係が修復する可能性の有無
(関係修復のために手は尽くしたか、本当に結婚生活を続けることは不可能なのか、よく考えた結論うえでの結論なのかなど)
④具体的な夫婦生活について
⑤希望する具体的な離婚条件(財産分与、養育費、婚姻費用、慰謝料、親権についてなど)
また、親権について調停を申し立てたときは、子供の利益を考える必要があるので、追加で次の質問をされる可能性が高いです。
⑥離婚後の生活の見通しについて(離婚後の住居や仕事に関する予定など)
離婚調停にかかる期間や回数
離婚調停は、1ヶ月~1ヶ月半に1回程度のペースで、大体2~4回ほど繰り返して終了することが多いです。
期間にすると、3ヶ月~半年ほどで終了するのが一般的です。とはいえ、話し合いがまとまらず、1年以上かかるケースもあります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚調停で決めておいたほうがいいこと
離婚調停では、下記に挙げる事項をはじめ、詳しい離婚条件についても取り決めます。
- 財産分与…結婚生活を送るなか、夫婦が協力して作り上げた財産を分け合うこと
どれくらいの割合で、具体的にどのような方法で財産を分け合うかを決めます。 - 親権…子供の世話や教育をしたり、財産を管理したりする権利・義務
どちらが親権を持つか、親権と監護権を分けるかといったことを決めます。なお、離婚するにあたって、どちらが親権を持つのかは必ず決めなければなりません。 - 養育費…子供と離れて暮らす親が支払わなければならない、子供が自立するまでにかかる費用
具体的にいつまで、どのようなペースで一回につきいくら支払うのか、支払日や支払方法はどうするのか、また、入学金など特別な出費が必要になった場合にどう対応するのかといった点を決めます。 - 面会交流…離れて暮らす親子が交流すること
面会交流を行うペースや一回あたりの時間、場所、子供と待ち合わせる方法、面会交流について打ち合わせるための連絡方法、プレゼントの可否などの詳細なルールを決めます。 - 年金分割…結婚していた間に納付した厚生年金の記録を分割すること
年金分割を行うか、行う場合どのような割合で分けるかを決めます。 - 慰謝料…離婚そのものや、離婚原因となった配偶者の違法な行為から精神的苦痛を受けた場合に請求できる賠償金
そもそも支払う必要があるのか、いくら支払えば良いのか、支払日や支払方法等についても決めます。
離婚調停を欠席したい場合はどうしたらいい?
どうしても外せない用事があるなど、調停期日に出席できない事情があるなら欠席する旨を事前に知らせておくか、期日変更の手続きをしましょう。
なぜなら、何も連絡せずに欠席した場合、大きな不利益を受けてしまうからです。
無断で欠席すると、調停委員や裁判官に「信用できない人だ、いい加減な人だ」という印象を与えるため、心証が悪くなり、その後の話し合いで不利になる可能性があります。
また、調停後審判に進んだ場合、審判の結論には調停委員や裁判官の心証が大きく影響するので、不利な判断がなされる可能性が高まってしまいます。
さらに、5万円以下の過料に処される可能性もあります。
離婚調停が成立したら
離婚調停が成立した後も、するべき手続きは残っています。
具体的には、調停調書を確認し、離婚届や各種書類を届け出る必要があります。次項以下で詳しくみていきましょう。
調停調書の確認
離婚調停が成立したら、裁判官が調停室で合意内容を読み上げるので、誤りがないかしっかりと確認しましょう。
また、数日後に調停調書が送られてくるので、こちらにも誤りがないことを確認する必要があります。
調停調書とは、調停での合意内容を書面にしたもので、判決と同じ強い効力を持ちます。内容に誤りがあると後々大きなトラブルになりかねないので、届き次第、念入りに確認して細かい誤字などがあればすぐに裁判所に伝えましょう。
調停調書は一度作成されてしまうと変更できないのが基本ですが、変更内容によっては、送付後すぐに伝えることで訂正に応じてもらえる可能性があります。
離婚届を提出する
離婚調停が成立しても、自動的に戸籍に離婚の記載がされるわけではありません。
そこで、調停が成立した日を含めて10日以内に、夫婦の本籍地または申立人の所在地にある市区町村役場へ「離婚届」と「調停調書(省略)謄本」を提出する必要があります。
なお、本籍地以外に届け出る場合は、「届出人の戸籍謄本(全部事項証明書)」も必要なので注意しましょう。
また、10日を過ぎてしまっても、成立した調停が無効になることはありません。ただし、届出義務違反として5万円以下の過料が課される可能性があります。
その他、提出すべき書類
必要に応じて、次のような手続きを行うことになります。
- 離婚後も婚姻中の姓を使いたい場合
⇒離婚調停成立の日の翌日から3ヶ月以内に、市区町村役場へ「婚氏続称の届出」を行います。
【必要書類】
身分証明書、届出人の印鑑(認印でも可)
なお、離婚届と同時に届け出ることができるので、手続き的な手間を少なくするためにも、併せて届け出ることをおすすめします。 - 子供を自分の戸籍に移したい場合
⇒家庭裁判所に「子の氏の変更許可の審判」を申し立て、許可を得たら市区町村役場に「入籍の届出」をします。
【必要書類】
審判書謄本、自分と子供の戸籍謄本(全部事項証明書) - 年金分割をしたい場合
⇒離婚調停成立の日の翌日から2年以内に、年金事務所で「年金分割の手続き」を行います。
【必要書類】
調停調書省略謄本(年金分割用)、元夫婦の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)、年金手帳 - ひとり親家庭に対する扶助制度を利用したい場合
⇒市区町村役場で「児童扶養手当」を申請します。
【必要書類】※自治体によって異なる場合があります
自分と子供の戸籍謄本・マイナンバー確認書類、自分の身分証明書、自分名義の預金通帳、印鑑(認印でも可)
いきなり離婚裁判をしたくても、まずは調停が必要
離婚裁判を起こすためには、例外的な場合を除いて、まずは離婚調停を行わなければなりません。
これを「調停前置主義」といいますが、具体的にどのような決まりなのでしょうか?
調停前置主義とは
調停前置主義とは、離婚裁判を起こす前に、まずは離婚調停を行わなければならないという法律上の考え方のことです。
離婚問題は、単純に法律の解釈だけで解決するのが難しく、また、夫婦や子供の精神に大きな影響を与える重要かつデリケートな問題です。いきなり法廷の場で争うことは望ましくない事柄なので、調停前置主義がとられています。
調停前置主義に反して離婚裁判を提起した場合、訴えを却下されるか、裁判所の職権で離婚調停が行われることになります。
調停前置主義の例外
調停前置主義には例外もあります。下記のような事情があるケースでは、基本的に離婚調停の手続きを踏むことなく離婚裁判を起こすことができます。
- 配偶者が行方不明で離婚調停をすることができない
- 配偶者が精神障害を抱えているなど、離婚調停では解決できない
- 配偶者が離婚調停に応じないことが明らかである
- 当事者である夫婦が外国籍で外国に在住しているなど、離婚調停になじまない
調停を取り下げて訴訟できる場合もある
たとえ離婚調停を取り下げたケースでも、離婚裁判を起こすことができる場合があります。
例えば、次のようなケースでは、実際に調停手続きを利用して離婚の話し合いを試みたといえるので、調停前置主義を満たすと判断される可能性があるでしょう。
- 相手方と離婚調停で何回も話し合いを重ねたものの、合意できそうになかったため離婚調停を取り下げたケース
- 相手方が調停期日に連続して欠席したため、離婚調停を取り下げたケース
弁護士に依頼するメリット
離婚調停の際に弁護士に依頼すると、次のようにたくさんのメリットを得られます。
- 交渉を有利に進められる可能性が高まる
法律のプロであり、離婚問題を数多く扱ってきた弁護士なら、調停委員や裁判官に効果的に訴えられる主張の方法を知っています。そのため、ポイントを押さえた主張をすることで、交渉を有利に進められる可能性が高まります。 - 調停に同席してもらえる
弁護士に依頼すれば、調停に同席し、こちらの希望をより実現しやすい形にまとめて主張してくれます。こうしたサポートによって、希望に適う条件で離婚調停を成立させられる可能性が増します。 - より迅速な調停の成立が期待できる
弁護士は、妥協すべきポイントや、大きくは不利にならない妥協の仕方などを熟知しているので、アドバイスを受けることで、無用な対立を避けながら調停の成立を目指すことができます。その結果、スピーディーに解決できる可能性が高まります。
離婚調停を希望するなら弁護士にご相談ください
協議離婚の成立が難しく、離婚調停を利用することを検討されている方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
離婚調停では、様々なことを話し合い、合意に向けて双方の意見をすり合わせる必要があります。しかし、ご自身だけで対応する場合、妥協すべきポイントや調停委員に効果的に訴える方法がわからず、なかなか有利な条件が引き出せなかったり、調停が長引いたりする可能性があります。
この点、離婚問題を取り扱った経験が豊富な弁護士なら、離婚調停を有利かつスムーズに進めるためのポイントを知っているので、アドバイスを受けることで、希望に適う離婚条件での調停成立に近づきます。
離婚調停を有利に進めたい方は、まずはお電話で専任のスタッフに事情をお聴かせください。お悩みの解決に向けてお手伝いさせていただきます。
交通事故で、当事者のどちらか一方にしか責任が認められないことは稀です。後続車から追突されたケースや、対向車線からセンターラインをはみ出してきた車とぶつかったケースでもない限り、事故の被害者にも責任があると判断されるのが基本です。
今回は、事故の被害者に“2割”の責任が認められる「過失割合8対2」のケースについて解説していきます。過失割合が8対2となる具体的な事故のパターンや、過失割合に納得がいかない場合の対処法など、損害賠償金を増額するために必要な知識をお伝えしますので、ぜひご覧ください。
交通事故で過失割合が8対2とは?
過失割合とは、発生した交通事故に対する当事者の責任の大きさを数値にしたもののことです。
過失割合が8対2の場合は、交通事故に対して、加害者が8割・被害者が2割の責任を負うことになります。
「たった2割」と思われるかもしれませんが、過失割合が少しでも認められてしまうと、損害賠償金を満額では受け取れなくなってしまいます。
具体的には、過失割合が2割認められる場合、実際にもらえる損害賠償金は、「過失相殺」によって、本来もらえたはずの損害賠償金の8割まで減額されてしまいます。
交通事故で過失割合8対2の場合の過失相殺
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 8 | 2 |
損害額 | 500万円 | 1000万円 |
請求金額 | 500万円×0.2=100万円 | 1000万円×0.8=800万円 |
実際にもらえる金額 | 0円 (700万円支払う必要があります) | 800万円-100万円=700万円 |
過失割合が8対2で被害者の損害額が1000万円の場合、被害者の過失の2割分が1000万円から減額されてしまうので、被害者が請求できる金額は1000万円の8割の800万円となります。
しかし、実際に800万円を満額もらえるわけではありません。被害者には2割の過失があるので、加害者の損害額の2割である100万円を支払わなければならないからです。
つまり、実際にもらえる金額は、請求できる金額から支払わなければならない金額を差し引いた額になるので、「800万円-100万円=700万円」ということになります。
過失割合8対2に納得がいかない場合
交通事故後しばらくして、保険会社から「今回の事故の過失割合は〇対〇です」といった提示を受けることがあります。しかし、交渉においては、過失割合は当事者が合意のうえ決めるので、保険会社との交渉次第では変更できます。
保険会社が提示してくる過失割合は、事故の状況を機械的にパターンに当てはめた“基本過失割合”であることが多いです。そのため、相手がスピード違反をしていたなど、自分に有利な事情を証明できれば、過失割合を修正できる可能性があります。
では、過失割合が8対2の場合、どのような事情が修正要素となるのでしょうか?次項よりみていきましょう。
過失割合8対2の修正要素とは
過失割合の“修正要素”とは、事故のおおまかな状況に応じて機械的に出される“基本過失割合”を修正する、個々の事故における具体的な事情をいいます。
例えば、同じ道路を走行している直進車(被害者)と右折車(加害者)が衝突したという自動車同士の事故のケースでは、下表にまとめたような事情が修正要素となります。
なお、表をご覧いただくとわかるとおり、修正要素によって修正後の過失割合の比率も異なるのでご注意ください。
※以下の表中の修正要素及び修正割合はサンプルであり実際のものとは異なる場合があります
修正割合 | ||
---|---|---|
修正要素 | 加害者 | 被害者 |
加害者が徐行しなかった | +10 | |
加害者が右折禁止違反を破った | +10 | |
加害者がウィンカーを出さなかった | +10 | |
加害車の車両が大型車である | +5 | |
被害者の15km/h以上の速度違反 | +10 | |
被害者の30km/h以上の速度違反 | +20 | |
被害者に著しい過失がある (脇見運転、酒気帯び運転など) | +10 | |
被害者に重過失がある (酒酔い運転など) | +20 |
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
過失割合を8対2から8対0にできるケースがある
過失割合8対2に納得がいかない場合、過失割合を「8対0」とする“片側賠償”にすることで、折り合いをつけられる可能性があります。
“片側賠償”とは、事故の当事者両方に過失を認めつつ、一方にだけ損害賠償金の支払義務を負わせることをいいます。
過失割合を8対0とする場合、8対2の場合よりももらえる損害賠償金は増えます。ただし、完全に過失のない10対0の場合と比べれば低額になる点にはご注意ください。
8対0の計算方法
過失割合が8対0の場合、8対2の場合と比べて、もらえる損害賠償金はどれくらい増額するのでしょうか?
加害者と被害者の損害額がそれぞれ500万円と1000万円のケースを例に、もらえる損害賠償金について表にまとめてみました。
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 8 | 0 |
損害額 | 500万円 | 1000万円 |
請求額 | 0円 | 800万円 |
実際にもらえる金額 | 0円 | 800万円 |
8対0といっても被害者に2割の過失があることに変わりはないので、被害者は損害額の8割の800万円しか請求できません。
しかし、加害者だけが損害賠償金を支払う義務を負うので、8対2の場合のように、加害者の損害額の2割に相当する100万円を支払う必要はありません。
つまり、損害賠償金100万円の支払いが免除される分、請求額を満額もらうことができるので、実際にもらえる金額が100万円増額することになります。
交通事故の過失割合8対2からより有利に修正できた解決事例
粘り強い交渉によって8対2から10対0へ修正することができた事例
依頼者が交差点の優先道路側を自動車で走行していたところを、一時停止を無視した加害者の自動車に衝突されてしまった事例です。
相手方(加害者側)保険会社の「過失割合は8対2である」という主張に納得がいかなかったため、弊所にご相談くださいました。
担当弁護士は過去の裁判例をもとに、事故態様からして加害者側の過失が大きく、8対2は不当である旨を主張しました。
また、依頼者は将来的に自動車を売却予定であったため、事故により車の価値が下がってしまったことへの賠償金も支払うよう、資料を揃えて交渉しました。
粘り強い交渉の結果、過失割合を9対0に修正する内容で合意し、修理費に加えて修理費の約1割に相当する金額を支払ってもらえることになりました。
過失割合の修正要素について交渉した結果、過失割合の修正に成功した事例
続いて、自動車を運転する依頼者が青信号に従い交差点を直進していたところ、対向車線から右折してきた加害者の自動車に衝突されたという事故の事例をご紹介します。
この事故により、依頼者はむちうちと肋骨骨折の傷害を負い、乗っていた車両も全損してしまいました。
保険会社との示談交渉では、過失割合を8対2とする賠償案が提示されましたが、適切かどうか疑問に思われ、弊所にご相談いただきました。
保険会社は、当初、物損について「基本過失割合の修正を認めない」という立場をとっていました。しかし、弊所が事故状況に関する追加証拠を集めたうえで、改めて過失割合の修正要素について交渉を重ねたところ、最終的には過失割合を95対5として交渉を進めることで合意しました。
また、弊所が後遺障害等級認定の申請を代行し、後遺障害等級14級9号の認定を獲得した結果、人損についても依頼者に有利な過失割合で示談を成立させることに成功しました。
交通事故の過失割合8対2でもめている場合はすぐに弁護士にご相談ください
保険会社から提示された過失割合に納得がいかない場合には、交通事故問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
なぜなら、弁護士以外が適正な過失割合を見極めることは難しく、また、保険会社は、専門知識があり交渉のプロでもある弁護士の主張でなければ聞き入れないことが多いからです。
また、特に過失割合の適正さを判断するにあたっては、事故状況の正しい分析や細かい修正要素の拾い上げが欠かせないので、弁護士のアドバイスが役に立ちます。
8対2という過失割合が本当に適正なのかお悩みの方や、過失割合について加害者側ともめてしまっている方、損害賠償金の増額を希望される方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
交通事故で肘や膝などの関節部分を怪我した場合、治療しても、交通事故に遭う前のようには動かなくなってしまうことがあります。このような場合、交通事故による後遺障害として「可動域制限」が認定される可能性があります。
今回は、この「可動域制限」について、後遺障害等級認定を受けるための要件や認定され得る等級、もらえる慰謝料の相場などを解説していきます。
可動域制限とは
可動域制限とは、怪我をした関節の動きが正常な関節と比べて悪くなっている状態をいいます。
例えば、交通事故により右膝の半月板という組織を損傷してしまい、治療後も右膝が曲げにくいという症状が残ったようなケースで、可動域制限と認められる可能性があります。
このようなケースでは、怪我をした右膝の関節の可動域(関節を動かせる範囲)が、正常な左膝の関節の可動域と比べてどれだけ狭まったかを測って、可動域制限の程度を判断します。
交通事故による可動域制限の原因
交通事故による可動域制限は、原因別に3種類に分けられます。
- 器質的変化を原因とするもの
骨折や脱臼により関節自体が破壊されたり、関節の動きを安定させる靭帯が強く伸び縮みしたりすることで、関節や周辺部の骨組織や軟部組織が損傷した結果、可動域が制限される可能性があります。 - 機能的変化を原因とするもの
神経麻痺による筋力の低下や動かすと痛むといった理由から、関節の曲げ伸ばしが難しくなり、可動域制限が起こることもあります。 - 人工関節などの挿入を原因とするもの
関節の状態や痛みを改善するために、治療の一環として人工関節や人工骨頭を挿入することがあります。このような施術を受けた場合、可動域が制限されたと判断されます。
上記のいずれの可動域制限も、関節周辺部を骨折・脱臼する事故や神経麻痺を引き起こすような事故に遭った場合に、発生することが多いといえるでしょう。
可動域制限の後遺障害認定に必要な要件
事故で関節に可動域制限が残ってしまった場合でも、それだけで必ず後遺障害として認められるとは限りません。
可動域制限で後遺障害等級認定を受けるには、
①可動域制限の症状の重さが一定以上であること
②可動域制限の原因が、医学的な検査によって明らかになっていること
という2つの要件を満たさなければなりません。
後遺障害として認定され得る可動域制限は、症状の重い順に、
- 関節の「用を廃したもの」
- 関節の「著しい機能障害」
- 関節の「機能障害」
の3段階に分けられます。以下、詳しくみていきましょう。
関節の「用を廃したもの」
関節の「用を廃したもの」とは、関節がまったく動かせないか、または怪我をした側の関節の可動域が正常な側と比べて10%程度以下になっている場合を指します。
一般的に、関節内の筋肉組織が壊れ、固まって動かなくなってしまう「関節強直」や、筋肉につながる末梢神経の機能が損なわれたことによる「完全弛緩性麻痺」などが原因となっていると考えられます。
また、人工関節や人工骨頭の挿入・置換術を受け、怪我をした側の可動域が正常な側の2分の1以下になった場合にも、関節の「用を廃したもの」として扱われます。
関節の「著しい機能障害」
関節の「著しい機能障害」とは、怪我をした側の関節の可動域が正常な側の2分の1以下になっている場合、または人工関節や人工骨頭の挿入・置換術が行われた場合を指します。
例えば、正常な左膝の可動域が130度であるにもかかわらず、怪我をした右膝の可動域が50度に留まるケースでは、右膝の可動域が左膝の2分の1以下に狭まっているので、関節の「著しい機能障害」にあたると判断されます。
関節の「機能障害」
関節の「機能障害」とは、怪我をした側の関節の可動域が正常な側の4分の3以下になっている場合を指します。可動域制限の中では一番程度が軽いものをいいます。
具体例としては、怪我をした右肩の上下運動の可動域が20度であるのに対して、正常な左肩の可動域が30度であるケースなどが挙げられます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
動域制限の後遺障害等級と慰謝料
後遺障害等級が認定されれば、認定された等級に応じた金額の後遺障害慰謝料を受け取ることができます。
可動域制限の場合、認定される後遺障害等級は、可動域制限の症状の重さ(後遺障害の内容)に応じて異なるので、後遺障害慰謝料の金額も可動域制限の程度によって変わることになります。
具体的な後遺障害慰謝料の金額を知りたい方は、可動域制限として認定される可能性のある後遺障害等級とその慰謝料の相場をまとめた下表をご覧ください。
上肢
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級6号 | 1上肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
下肢
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級7号 | 1下肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級7号 | 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
可動域制限が認められた事例
ここで、弁護士法人ALGがご依頼を頂戴し、解決に導いた実際の事例をご紹介します。
依頼者がバイクで直進中、わき道から出てきた自動車と衝突して右肩付近を骨折し、治療後も肩関節の可動域制限と痛みが残ってしまった事例です。
保険会社から提示された賠償金額は、特に後遺障害逸失利益の金額がかなり低く見積もられていたため、適正な賠償金額を巡って争いになりました。
受任後、弁護士は、依頼者の可動域制限等の後遺症が仕事に与える影響といった点を踏まえて賠償金額を算定し直し、将来的に依頼者に大きな減収が生じる可能性などを指摘しつつ交渉を行いました。その結果、後遺障害逸失利益を当初の3倍近くの金額に引き上げることができました。
また、慰謝料の増額にも成功し、最終的に全体で約530万円の増額に成功しました。
可動域制限の後遺障害が残ってしまったらご相談ください
医師は後遺障害等級認定の専門家ではないので、たとえ整形外科医であっても、等級認定に欠かせない可動域の測定を誤ることがあります。しかし、可動域を正確に測れなければ正しい等級認定が受けられないので、適正な賠償金を受け取れない可能性があります。
十分な賠償を受けるためにも、可動域制限などの後遺症がみられる場合は、交通事故に詳しい弁護士などの専門家の意見を聴くことが重要です。
特に弁護士法人ALGには、交通事故分野や医療分野をはじめ、各法律問題に特化した事業部があるので、専門性の高いサービスを提供できます。また、事業部を超えて連携して問題の解決にあたるので、交通事故に関する知識はもちろん、後遺障害の問題を解決するうえで欠かせない医療分野の知識も活用することができます。
可動域制限の後遺症が疑われる方は、まずはお電話で状況をお聴かせください。専任のスタッフが対応させていただきます。
人が死亡したときには、相続が発生します。しかし、相続が発生した場合に、誰が相続人となるのか、正確には理解していない人もたくさんいるのが現状です。誰が相続人となるのか正確に理解しておかないと、遺産分割協議もできません。今回は、よくあることである一方、正確には理解されていない代襲相続について、詳しく説明していきます。
代襲相続とは
代襲相続とは、被相続人(今回死亡した人)が死亡する前に、本来相続人(財産を受け継ぐ人)となるはずだった人が死亡する等の理由で相続できなくなったときに、その相続人の子供がかわりに相続人となることをいいます。そして、被相続人の死亡前に死亡した本来の相続人の子供のことを、代襲相続人といいます。代襲相続人は、他の相続人と同様に、相続人として扱われることになります。
代襲相続が起きるのはどんな時?
相続人が先に亡くなった場合
代襲相続が発生する代表的なケースは、被相続人が死亡する前に、相続人が死亡し、その相続人の子が代襲相続人となるケースです。
例えば、親が死亡する前に子がなくなった場合、孫が代襲相続人となります。
兄弟姉妹が相続人の場合(被相続人に子や尊属がいない場合)であれば、相続人である兄弟姉妹の子(被相続人からすれば甥や姪にあたります)が代襲相続人となります。
相続人の資格を失った場合
代襲相続が発生する他のケースとしては、相続人が「廃除」された場合と、相続人が「相続欠格」に該当し、相続権を喪失した場合の2種類があります(相続放棄の場合は代襲相続は発生しません。)。これらの場合、廃除された相続人の子や、相続欠格と判断された相続人の子は、代襲相続人となります。
相続人廃除
相続人の廃除とは、相続人が被相続人を虐待していたというような一定の場合において、家庭裁判所に申し立てをすることで、その相続人の相続権を剥奪するというものです。
被相続人は存命中に、自ら家庭裁判所に相続人廃除を申し立てることになります。また、遺言書に、相続人廃除を記載することもできます(この場合も家庭裁判所が相続人廃除を認める必要があります)。
相続欠格
相続欠格とは、利益を得る目的で、被相続人を死亡させようとしたり、被相続人を脅迫して遺言書を作成させたりしたような場合等、一定の要件に該当すると、自動的に相続権を失うというものです。一定の場合に該当すれば、自動的に相続権を喪失するという点で、相続人の廃除とは異なります。
また、被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しないような場合にも、相続欠格事由に該当します。
代襲相続人になるのは誰?
代襲相続人となれる人について説明します。
被相続人の子が、被相続人よりも先に死亡していた場合、孫が代襲相続人となります。さらに、その孫が被相続人よりも先に死亡している場合には、ひ孫も代襲相続人となります。このように、直系卑属については、再代襲相続、再々代襲相続とどこまでも続きます。
一方、相続人が兄弟姉妹の場合、その兄弟姉妹の子(甥、姪)は代襲相続人となることはできますが、その甥や姪の子が、再代襲相続人となることはできません。
代襲相続するために必要な手続きはあるの?
代襲相続には、特別な手続きは必要ではなく、法律上当然に効果が生じます。もっとも、代襲相続人が、実際に金融機関で預金を相続する場合や、不動産の登記を行う場合には、自身が代襲相続人であることを公的文書で証明する必要があります。つまり、戸籍を取得し、被相続人、相続人、及び代襲相続人の身分関係にあること、また、相続人が被相続人よりも先に死亡していることを証明しなければなりません。
代襲相続人の相続割合(法定相続分)
代襲相続では、相続人の相続分を、そのまま代襲相続人が引き継ぎます。代襲相続人だからといって相続分が少ないといったようなことはありません。もっとも、相続人が一人で、その相続分を引き継ぐ代襲相続人が複数いる場合、引き継ぐ相続分が、代襲相続人らに平等に割り当てられます。具体的なケースにおける処理は、以下のようになります。
孫が代襲相続する場合

上記の例で、被相続人の相続人は、①配偶者、②子A、③子Bの3人です。もっとも、③の子Bは、被相続人が死亡する前に死亡しているため、④孫B1と⑤孫B2が、代襲相続人となります(嫁Bは③子Bの子ではなく、代襲相続人にはなりません。)。
結果的に、上記例における相続人は、①配偶者、②子A、④孫B1、⑤孫B2となります。
法定相続分ですが、もともと、①配偶者が2分の1、②子Aが4分の1、③子Bが4分の1でした。③子Bの相続分については、そのまま④孫B1と⑤孫B2が引き継ぎ、平等に割り振られるため、④孫B1が8分の1,⑤孫B2が8分の1となります。
甥姪が代襲相続する場合

上記の例では、被相続人には、子がおらず、直系尊属である父母も死亡しているため、兄弟姉妹が相続人となります。つまり、①兄、②姉が相続人です。②姉は、被相続人よりも先に死亡しているため、③甥、④姪が代襲相続人となります(姉夫は②姉の子ではなく、代襲相続人とはなりません。)。
もともとの法定相続分は、①兄が2分の1,②姉が2分の1です。②姉の相続分を代襲相続人は引き継ぎ、平等に分配されるため、③甥が4分の1,④姪が4分の1となります。
養子の子の場合
相続人が養子縁組をした場合、代襲相続は少し複雑になります。
代襲相続が生じるには、相続人の直系卑属(子)であることだけでなく、被相続人の直系卑属(孫)であることが必要です。
さて、被相続人が養子縁組をして、養子を設けたとします。養子は被相続人の子としての身分を取得するため、相続人になります。
被相続人が死亡する前に相続人である養子が死亡したとします。
このとき、養子に子がいたとして、その子は、代襲相続人に当たるでしょうか。
①養子縁組をした後に、養子の子が出生した場合、その子は、法的に、被相続人の孫にあたります。そのため、代襲相続人になることができます。
②養子縁組をする前に、養子の子が出生していた場合、その子は、法的に、被相続人の孫にはあたりません。そのため、代襲相続人になることができません。
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代襲相続の代襲相続もある(再代襲)
孫が代襲相続人の場合、その孫が被相続人の死亡前に死亡したり、相続人廃除、相続欠格によって相続権を失った場合、その孫の子(ひ孫)が再代襲相続人となることができます。これを再代襲相続といいます。これは更に、再々代襲相続、再々々代襲相続と続くことができます。
代襲相続人が複数人いて、そのうち一人が相続発生前に死亡して再代襲相続が発生する場合、再代襲相続人は、親である代襲相続人の相続分を引き継ぐごとになります。
甥・姪の子は再代襲しない
孫、ひ孫、玄孫というように、代襲相続は続くことがありますが、一方、兄弟が相続人の場合に代襲相続が発生し、甥や姪が代襲相続人となった場合、甥や姪の子は、再代襲相続人とはなりません。
これは、甥や姪の子、更にその子らまで代襲相続が続いていくとすると、どんどん被相続人から縁遠くなってしまい、財産が散逸してしまうからです。
代襲相続で税金が安くなることも
相続税には、基礎控除額というものがあります。基礎控除額が高くなるほど、税金が安く済みます。
基礎控除額は、まず3000万円あり、加えて、相続人1人につき600万円加算されます。例えば、相続人が3人であれば、3000万円+600万円×3人=4800万円が基礎控除額となります。
ここで、相続人のうち一人が、相続発生前に死亡し、その子2人が代襲相続人となったとします。この場合、相続人が1人増えることになります。そのため、3000万円+600万円×4人=5400円が基礎控除額となり、代襲相続が生じたことで税金が安くなったといえます。
税金の2割加算について
被相続人の一親等の血族(両親、子)、代襲相続人となる孫及び配偶者以外の者が、相続、遺贈等により財産を取得した場合、その人の相続税額が2割加算されます。
孫が代襲相続する場合には、相続税額が2割加算されることはありません。一方、姪や甥が代襲相続人の場合には、「被相続人の一親等の血族(両親、子)、代襲相続人となる孫及び配偶者」以外の者が相続したことになるので、2割加算されます。
相続放棄後の代襲相続に注意
次のような場合は注意が必要です。
例えば、あなたの父親が死亡したとします。あなたは父親の相続について、相続放棄をしました。そのため、父親が残した借金をあなたは相続せずに済みました。
ところが、被相続人である父親の父親(祖父。第二順位の相続人)は、相続放棄をしませんでした。そのため、祖父は、父親の残した借金を背負うことになりました。
祖父が死亡したとき、あなたの父親は既に死亡しているため、あなたが祖父の代襲相続人となりました。ここであなたが相続を承認してしまった場合には、父親から祖父に相続されていた父親の借金を、あなたが代襲相続することになります。
父親の借金を免れるために相続放棄したにもかかわらず、最終的に父親の借金を背負うことになってしまいました。このようなことにならないよう、注意が必要です。
代襲相続人に遺留分は認められているか
相続には遺留分という制度があります。遺留分というのは、一定の相続人に認められる、最低限相続で獲得できる価値というイメージです。
この「一定の相続人」というのは、配偶者、子、両親を指します。そして、子に遺留分が認められる以上、その子が相続発生前に死亡する等して孫が代襲相続人となった場合、孫にも遺留分は認められます。
一方、甥や姪が代襲相続人の場合、そもそも相続人である兄弟姉妹には遺留分は認められていないため、それを引き継ぐ甥や姪にも遺留分は認めらません。
代襲相続と数次相続の違い
数次相続とは、被相続人が死亡して、相続人らは遺産分割をしなければならないところ、その遺産分割が未了のまま、相続人のうち一人が死亡してしまい、複数の相続状態が生じている場合を指します。
代襲相続と異なり、被相続人が死亡した後に、相続人が死亡します。
また、代襲相続は、相続人の子が代襲相続人として被相続人の遺産分割に参加しますが、数次相続の場合、相続人の法定相続人(子だけではなく、配偶者も)が被相続人の遺産分割に参加することになります。
代襲相続でお困りでしたらご相談ください
代襲相続は比較的起こりやすい事象であるといえます。もっとも、代襲相続や数次相続について正確な理解がなされているとは言い難く、遺産分割においても様々なトラブルが生じてしまいます。手続面でも、代襲相続は発生すると戸籍の取得が複雑になり、代襲の範囲が広がるほどに、戸籍収集の難易度も上がります。
代襲相続が発生したような場合には、正しく遺産分割協議をし、手続きを進めるためにも、一度、弁護士に相談をしてみた方が良いでしょう。
寄与分とは
寄与分とは、被相続人の財産や維持に貢献した相続人がいる場合に、その相続人に対して特別に与えられる相続財産への持ち分のことです。寄与分が認められる場合には、法定相続分とは別に遺産の一部を受け取ることができます。
寄与分請求の要件
寄与分が認められるためには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
どれか一つでも書けると、認められませんのでご注意ください。
共同相続人であること
寄与分自体、相続人の中で、被相続人の財産や維持に貢献した者がいる場合に初めて考慮されるものです。相続人でない者がどれだけ被相続人に対して献身的な協力をしていたとしても、その者が寄与分を受け取ることはできません。
財産が維持・増加していること
寄与分は、被相続人の財産を維持・増加させるために貢献したと認められる場合にのみ、認められます。そのため、被相続人に対する何かしらの貢献があると主張したとしても、被相続人の財産関係に何ら影響を及ぼさないのであれば、寄与分が認められません。
期待を超える貢献があること
財産を維持・増加させる貢献があるだけでは足りません。
寄与分が認められる貢献は、その相続人が通常期待される程度を超える特別な貢献に限られます。
例えば、子どもが足の悪い親の家に定期的に見舞いに行って、身の回りの簡単な世話をする程度では、特別な貢献とまでは言えないでしょう。
財産の維持・増加と因果関係があること
最後に、相続人の貢献が、財産の維持・増加につながったことが認められる必要があります。
ここで求められるのは、法的な意味での因果関係ですので、結果的に財産が維持・増加したかだけで判断されるものではありません。
寄与分の種類
他人の財産の維持・貢献をするにはいろいろな方法がありますが、大抵は、以下の5類型のいずれかに分類できます。
各類型によって、寄与分額の計算方法も変わってきますので、ここで確認しましょう。
家事従事型
家事従事型と呼ばれる類型がありますが、料理や洗濯のような日常家事を行うことで寄与分が認められる、という意味ではありません。
家族の行う事業について、一定の貢献を無償(もしくは少額の対価)で行った場合に寄与分が認められるのです。
そのため、家業従事型と呼ぶ方が正確でしょう。
この類型で注意が必要なのは、専従性が求められること、つまり、片手間で家業を手伝っている程度では認められない点です。
金銭出資型
金銭出資型は、被相続人の事業や生活のために、一定の財産上の給付を行った場合のことを指します。金銭的援助を行った場合以外にも、不動産や動産を貸した場合も含まれます。
ただ、あくまでも被相続人への給付である必要があるので、被相続人の会社に出資しただけである場合には認められません。
扶養型
被相続人との関係性から通常期待されるような扶養義務の範囲を超えて、日常生活に関する支援をしていた場合が、扶養型となります。
例えば、兄弟の中で長男だけが、長期間、親の住居費や生活費の一切を仕送りし続けた場合であれば扶養型の寄与分を認められやすいでしょう。
療養看護型
療養看護型は、相続人が療養看護を行ったために被相続人が看護や介護の費用を支出せずに済んだ場合にあたります。
日常生活の合間に定期的に看護や介護を子なっている場合は含められず、仕事を辞める等して付きっ切りで被相続人の看護や介護をした場合に初めて認められます。
財形管理型
財産管理型は、その名前のとおりで、相続人が被相続人の財産を管理したことによって、被相続人の財産が維持・増加した場合に認められます。
ただ、財産管理にあたる行為をしていても、無償かつ継続的に行われていなければなりません。
そのため、財産管理行為に対して、相続人が手間賃をもらっていたり、一時的に行われたに過ぎない場合には、寄与分が認められません。
寄与分を主張する相続人が複数いる場合はどうなる?
被相続人の財産維持・増加に対する貢献をした相続人が複数人いる場合があります。
その場合、いずれの相続人も寄与分を主張することができます。
また、どのような貢献をしたかによって優先順位をつけられることもありません。
各相続人は、自己の貢献に応じた寄与分を平等に受け取ることができます。
寄与分決定までの流れ
寄与分は自動的に分配されるものではなく、寄与分があると考える相続人が主張する必要があります。
そして、寄与分が遺産を分ける際に問題となる事項ですので、次のように、遺産に関する手続きと同時もしくは先行して決めることになります。
遺産分割協議で寄与分を決める
寄与分は、遺産の分け方の問題ですので、まずは当事者の協議によって分けられないかを模索することになります。そして、相続人全員の同意の下、一部の相続人に対して寄与分を認めることができます。
もっとも、寄与分を認めれば、自己の取り分が減ってしまう相続人は納得しないことが多いですので、遺産分割協議の段階で寄与分を認めてもらうのは難しいでしょう。
協議で決まらない時は調停へ
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所の調停にて解決を目指すことになります。
遺産分割の話とまとめて、遺産分割調停の中で寄与分について協議をすることもできますし、寄与分を定める処分調停という手続きを用いることもできます。
同時に両方の手続を申し立てることも可能です。
それでも決まらない場合は裁判(審判)・即時拮抗へ
調停手続きの中で合意に至ることができない場合もあります。
遺産分割調停が不成立となった場合には、自動的に審判手続きに移行します。
もっとも、寄与分を定める処分調停については、遺産分割に関する調停や審判が裁判所に係属していない場合に開始できません。
なお、審判手続の結果に不満がある場合には、即時抗告という手続きによって争うことも考えられます。
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寄与分の計算方法
寄与分については、複数の類型があることは既に説明しましたが、その類型毎に計算方法の傾向が異なります。
ここでは、一つの計算方法を示しますが、被相続人に対する貢献も多種多様であるので、以下の計算方法によらずに寄与分を計算することもあります。
家事従事型(事業従事型)の計算方法
被相続人の家業を手伝うにあたり、本来もらえたはずの給与・報酬額が寄与分として認められます。
ただ、家事従事型の場合、適正な報酬を受け取っていないとしても、被相続人と家計を同一にしている等、一定の生活費相当の負担を免れていることが多いです。
そのため、具体的な計算式としては、
相続人が受け取るべき報酬額×(1-生活費控除割合)×貢献があった年数
となります。
金銭出資型の計算方法
一般的には、被相続人に与えた利益がどの程度であったかを算出することになります。
ただ、金銭の価値も不動産の価値も時の経過とともに変わりますので、相続開始時の価値に引き直す必要があります。
金銭を贈与した場合であれば、
贈与額×貨幣価値変動率(現在の価値に引き直すための係数)×裁量的割合
という計算式によって求められます。
なお、寄与分の計算には「裁量的割合」という概念が現れますが、これは、公平の観点から裁判所が決める割合です。
扶養型の計算方法
扶養型の場合、その相続人に期待されている程度を超えて扶養義務を果たしています。
そのため、その相続人が通常果たすべき程度を超えて行った貢献の分だけ、寄与分として認められるべきです。
計算式としては、
被相続人のために負担した扶養額×(1-相続人の法定相続分割合)
という式が立てられるでしょう。
療養看護型の計算方法
本来であれば、被相続人がお金を支払い、療養介護を行ってくれる人を雇えます。
ただ、相続人が療養介護を行ったことでその費用の支払いをしていない場合、その費用を寄与分の計算上考慮します。
具体的には、
本来相続人に支払われるべき日当×療養介護を行った日数×裁量的割合
という計算式によって寄与分額を計算できます。
財産管理型の計算方法
この類型も、療養看護型と同じように、相続人でない第三者に財産管理をお願いする場合の費用を、寄与分額の計算上考慮します。
計算式としては、
本来であれば相続人に支払われるべき報酬×裁量的割合
寄与分が認められやすいケース
以下のケースでは、寄与分が認められやすい要素があります。
夫の個人事業のヒット商品の開発に貢献した場合
夫の会社の発展につながるような貢献をし、夫の財産の増加に貢献をしたと認められる場合、寄与分を得られる可能性が高くなります。
もっとも、夫の会社でヒット商品を開発したとしても、その売り上げ全額を寄与分として認められる訳ではありません。
あくまでも、ヒット商品開発によって、被相続人である夫の財産の維持・増加につながった割合に応じた寄与分が認められることになるでしょう。
兄弟で出資をしていた場合
兄弟で共同出資して、親である被相続人の住む家を購入した場合、その貢献が通常、子どもとして期待される程度を超えている場合には寄与分が認められやすいです。
この場合、不動産を購入した際の価額に対して、兄弟それぞれがどの程度出資をしたが寄与分の計算上重要となります。
介護費用を全額出した場合
被相続人である親の介護費用を全額出した場合、それが相続人となった子どもとして期待される程度を超える範囲の貢献と評価できる場合には寄与分が認められます。ただ、介護サービスも様々であり、低額のものから非常に高額なサービスもあります。
実際に支出された介護費用の金額が、寄与分を認めるかどうかの分水嶺となるでしょう。
寄与分が認められにくいケース
以下のケースですと、寄与分が認められにくい要素があります。
夫の仕事を無償で手伝っていたが離婚した場合
寄与分が認められるためには、被相続人が亡くなった時点で相続人である必要があります。
しかし、離婚済みの場合、そもそも元配偶者の相続人となることはできません。
したがって、残念ながら、どれだけ財産の維持・増加に貢献が認められるとしても、この場合には寄与分は認められません。
父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合
この場合、会社が法人である場合には、寄与分が認められにくい傾向があります。
原則として、法律上の手続では法人と被相続人を区別して扱います。
そのため、会社の発展に貢献がどれほど大きい場合であっても、被相続人の財産の維持・形成に貢献してないと評価されることもあります。
ただ、会社が法人であっても、父親の個人事業であれば、会社も父親個人の財産と認定できる場合もあり、寄与分が認められる可能性が生まれます。
義両親を介護していた場合
世間では、義理の両親を介護している方も珍しくなく、その負担も決して軽いものではありません。
しかし、義両親が亡くなった場合、法定相続人でない者は寄与分を受け取ることはできません。
法律上、被相続人の子どもは法定相続人になり得ますが、被相続人の子どもの配偶者は法定相続人として想定されていません(義両親の養子となれば、養子という立場に基づいて法定相続人となることはできます)。
そして、法定相続人とならない場合、寄与分が認められることもありません。
仕送りをしていた場合
被相続人に対して定期的な仕送りをしていた場合、仕送り額や頻度が通常、親族の扶養義務として期待される程度を超える限り、寄与分が認められる可能性があります。
そのため、親に仕送りを送っていたが、微々たる金額であったため親の財産が減るばかりであった場合には、寄与分が認められにくいです。
寄与分を認めてもらうのは難しいため、弁護士にご相談ください
被相続人の生前、被相続人の生活等に貢献してきたにもかかわらず、寄与分として認められないことがあります。
裁判所に寄与分を認めてもらうハードルが非常に高いため、相続人が十分な主張・立証を行ったと考えていても、実は不十分であったケースも少なくありません。
そのため、ご自身に寄与分が認めてもらえる余地があるか、認めてもらうにはどうすればよいのか、是非一度弁護士にご相談ください。
離婚する際に決めるべきことはいろいろありますが、なかでも「親権」についてはしっかりと決めておく必要があります。取り決めの内容によっては、離婚後、子供と一緒に暮らせなくなってしまう可能性がありますし、親権者が決まらないままでは、そもそも離婚することもできないからです。
ところで、親権とはどのような権利なのか、きちんと理解できていますか?
「親権について決める」といっても、具体的にどういった内容をどのように決めるべきなのか、疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
今回は親権に関する基礎知識について、親権を獲得するためのポイントや取り決める際の注意点などを中心に解説していきます。
親権とは
親権とは、子供の身のまわりの世話や教育、財産の管理などをする親の権利・義務をいいます。親子関係は生涯変わりありませんが、親権者が必要となるのは“未成年の子供”に限られます。
日本では、結婚している間、父母である夫婦は共同で親権を行使します(民法818条3項)。これを「共同親権」といいます。しかし、離婚後は「単独親権」となるので、親権者となった父母のどちらかしか親権を行使できなくなります(同法819条1項、2項)。
親権は子供の成長に関わる重大な権利・義務なので、離婚時に必ず「親権者をどちらにするか」を決めなければなりません。
なお、親権の内容は、財産管理権と身上監護権に分けられます。以降、詳しくみていきましょう。
親権の種類
財産管理権
財産管理権とは、子供の財産に関する権利です。
具体的には、子供の財産を管理する権利と、財産に関する子供の法律行為を代理する権利を指します。
財産管理権によって、親権者は、例えば子供の預貯金口座の通帳を預かったり、出入金記録を把握したりすることができます。また、アパートの賃貸借契約やスマートフォンの利用契約を子供に代わって締結すること、または本人が契約する旨に同意することなども、財産管理権の一環として行うことができます。
なお、財産管理権を行使する親権者は、同時に子供の財産を守り、子供を保護する義務も負うと考えられています。
身上監護権
身上監護権とは、子供の心身の成長のために、身の回りの世話や教育をする権利です。単に「監護権」と呼ばれることもあります。
身上監護権の内容は、次のように分けることができます。
- 監護教育権…子供を健やかに成長させるために必要な措置をとる権利
- 居所指定権…子供の住む場所を指定する権利
- 懲戒権…監護や教育に必要な範囲で子供にしつけをする権利
- 職業許可権…子供にアルバイト等をすることを認める権利
- 身分行為の代理権…子供が結婚や養子縁組等をする際に同意する権利、または代わりに契約を締結する権利
監護権を持つ親は、この権利に基づいて子供を保護し、成長を助ける義務も負うことになります。
親権と監護権について
監護権は親権の一部に含まれるので、基本的に「親権者(親権を持つ人)=監護権者(監護権を持つ人)」となります。
しかし、親権から監護権を切り離して、それぞれの権利を父母で分けて持つことも可能です。この場合、親権者は財産管理権を、監護権者は身上監護権をそれぞれ持つことになります。
ただし、親権と監護権の切り離しは、子供にとって本当にメリットがあるのか、混乱や葛藤を生まないかをよく考えたうえで、子供の利益を第一に行うべきだと考えられています。
例えば、子供の面倒をみるのは母親の方が適しているものの、浪費癖があるなど財産管理能力に大きな問題があるケースなどでは、監護権者を母親・親権者を父親といったように権利を切り離すメリットがあるでしょう。
親権が有効なのはいつまでか
親権は、基本的に子供が成人するまで行使することができます。
つまり、2021年7月時点では、子供が満20歳になるまでということになります。
ただし、2022年4月からは成年年齢が18歳に引き下げられるので、親権の有効期間は、子供が満18歳になるまでに短縮されます。
離婚の際に親権を決める流れ
親権をどちらが持つか決めるにあたっては、まずは夫婦で話し合います。
話し合いで決着がつかない場合は、離婚調停を申し立て、中立的な立場の調停委員を介して親権について話し合います。調停の中では、父母のどちらがより親権者として適任なのかを判断するために、必要に応じて、家庭裁判所調査官による調査が行われることもあります。
しかし、調停でも親権について合意できず不成立に終わった場合は、離婚裁判を提起して、最終的な判断を裁判所に委ねることになります。
親権獲得のためのポイント
親権獲得に向けて有利に事を進めるためにも、次のポイントをアピールすることをおすすめします。
・十分な監護能力があること
子供を養育できるだけの十分な監護能力があると認めてもらうためにも、心身ともに健康であること、家事ができ、経済観念にも問題がないことなどをアピールすると良いでしょう。
これまで子供の世話を適切にしてきた実績があれば、今後もしっかりと監護できる可能性が高いと判断されるため、親権を獲得するうえで有利になります。
・離婚後も子供を適切に養育できる環境を用意できること
子供と一緒に過ごす時間を長くとれるか、仕事などで忙しい場合には代わりに面倒をみてくれる監護補助者がいるかといった点も重視されます。有利な事情がある場合はアピールしましょう。
・子供との関係性が良好であること
日頃から子供と十分なコミュニケーションをとっており、適切な親子関係が築けていることも、親権を決める際に有利な事情となります。また、子供がある程度の年齢であれば、子供自身の意向も尊重されます。
父親が親権を取得することは可能?
父親でも親権を獲得することは可能です。 とはいえ、特に幼い子供は母性を感じさせる存在と暮らした方が健やかな成長につながると考える「母性優先の原則」があるため、一般的に、母親と比べて父親は親権を獲得しにくいといわれています。
しかし、親権者は「父親」か「母親」かではなく、より子供の福祉に適うのはどちらかという観点で決めるべきです。
したがって、母親より父親を親権者とした方が子供の健全な成長につながるとアピールできれば、親権を獲得できる可能性が高まるでしょう。
例えば、以下のような主張が効果的といえます。
- 現在まで主に父親が子供の世話をしてきたこと
- 子供が父親の方によりなついていること
- 離婚後の監護能力や意欲も十分にあること 等
無職でも親権を獲得したい場合
専業主婦(主夫)だった方など、無職の方も親権を獲得できます。
そもそも親権者は、父母のうち、より子供にとって利益になる方を選ぶべきだと考えられています。
具体的には、これまでの監護実績や子供との関係性などが判断材料となりますが、父母の経済力はあまり重視されません。なぜなら、子供が自立するまでにかかる費用は父母で分担するべきだと考えられているので、無職の方が親権を獲得した場合、もう一方から養育費を支払ってもらえるからです。
このように、無職の方の経済面でのマイナスは、養育費を受け取ることである程度は補うことができます。
また、一人親家庭には複数の公的な扶助制度があります。こうした制度による補助金と養育費を合わせれば、子供を養育しながら暮らしていくことは十分にできると考えられるため、無職の方でも親権を獲得できる可能性は十分にあります。
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親権を決める際に注意すべきこと
安易に決めると後々の変更は困難です
一度決めた親権者を変更するには、家庭裁判所による親権者変更調停・審判の手続きを取らなければなりません。つまり、父母の話し合いだけで変更することはできなくなりますので、離婚時に、親権者について安易に決めることは避けるべきです。
また、親権者変更調停を申し立てたとしても、親権者の変更が必ず認められるとは限りません。
親権者の決定と同様、親権者の変更は子供の利益を第一に考えて行われるべきなので、子供の現在の生活環境を変えてでも親権者を変更すべき理由や必要性がなければ認められません。
したがって、下記のようなケースでなければ親権者の変更は難しいでしょう。
- 子供が親権者から虐待や育児放棄などを受けているケース
- 親権者が亡くなった、行方不明になった、または重病にかかったケース
- 子供自身が親権者の変更を希望しているケース
- 養育状況が大きく変わったケース
親権獲得後の養育環境で、親権停止・喪失する場合も
親権について決めた後であっても、子供の養育状況によっては、親権を一時停止したり(親権の停止)、喪失させたり(親権の喪失)することができます。それぞれの概要は以下のとおりです。
親権の停止
2年を超えない範囲で期限を設けて、親権を行使できないようにすることをいいます。
親権者が子供の進学や自立を邪魔しているなど、親権の行使が困難・不適当で、子供の利益を害しているときに「親権停止の審判」を申し立てることで、認められる可能性があります。
親権の喪失
親権者から親権を失わせることをいいます。
親権者が育児放棄や虐待をしているなど、親権の行使が著しく困難・不適当で、子供の利益が著しく害されているときに「親権喪失の審判」を申し立てることで、認められる可能性があります。
なお、親権の停止・喪失を請求できるのは、子供本人、子供の親族、検察官、児童相談所長などです(平成23年民法改正により)。
子を連れた勝手な別居は不利になる場合も
親権者を決める際には監護実績が重視されるので、“子供と一緒に暮らしている”という事実は、親権を獲得するうえで基本的に有利な判断材料となります。 しかし、夫婦で話し合いもせずに勝手に子供を連れて別居したような場合、「違法な連れ去り」と判断され、かえって不利な立場になってしまう危険があります。
例えば、別居している子供を通学路で待ち伏せして連れ去る、別居中に行った面会交流の際に子供を帰さないといった強引な方法での連れ去りは、違法と判断される可能性が高いでしょう。
一方、自分や子供を配偶者の暴力から守るために子供を連れて別居する行為は、子どもの利益を守る正当な理由があるとして、親権者の決定にあたって不利に働くことはないと考えられます。
親権を獲得できなかった場合の養育費について
親権者でなくとも、子供が自立するまでの養育にかかる費用は負担する必要があります。これを「養育費」といいます。
養育費には、子供の衣食住にかかる費用のほか、学費、習い事の費用、病院代、お小遣いなど、子供が生活するうえで必要になる費用全般が含まれます。
養育費を支払う義務は、親権のように、子供が成人したら当然に消えるわけではありません。あくまで“子供が自立するまで”は支払い続ける必要があります。
例えば、子供が高校卒業後に就職するようなケースでは、20歳未満でも自立したと考えられる一方、大学進学するケースでは、少なくとも大学を卒業するまでは自立していないと考えられるでしょう。
このように、養育費について取り決める際には、子供の進学の可能性等を考慮する必要があります。
親権が取れなかった側の面会交流について
離婚後に親権者ではなくなったとしても、「面会交流」によって、子供と交流することはできます。
面会交流とは、離れて暮らす親子が交流することをいいます。交流の手段はさまざまで、直接会ったり、時には宿泊をしたりするケースもあれば、手紙やメールのやりとり、電話やオンライン通話などで交流を図るケースもあります。
ただし、離婚時に面会交流のルールを細かく取り決めておかなければ、後々トラブルになって子供と会えなくなってしまうおそれがあります。親権を獲得できなかった場合を想定して、面会交流についてもきちんと話し合っておくことが大切です。
親権問題は弁護士に相談して入念な準備をしましょう
父母がどちらも親権者になることを希望する場合、激しい争いになってしまうことも珍しくありません。だからといって、離婚をすることに重点をおいて安易に妥協して親権者を決めることは避けるべきです。なぜなら、一度決めた親権者は簡単には変更できないからです。
親権を獲得されたい方は、ぜひ親権問題に強い弁護士にご相談ください。
弁護士は、ご相談者様の事情を丁寧に聴き取ったうえで、親権を獲得するために最良な方法を提案することができます。また、弁護士が代理人となって協議に臨むことで、冷静にお互いの主張を伝えられるようになるので、話し合いがスムーズに進む可能性があります。
特に弁護士法人ALGには、親権問題をはじめ、多数の離婚問題を取り扱った弁護士が在籍しています。親権問題でお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。経験豊富な弁護士とスタッフが対応させていただきます。
離婚をする方法にはいくつか種類がありますが、そのなかでも一番手軽なものは「協議離婚」でしょう。時間や費用をかけずに離婚することができます。
しかし、一時の感情に流されて離婚してしまうと、のちのち後悔したりトラブルに発展したりしかねません。
そこで今回は「協議離婚」について、その概要やメリット・デメリット、全体の流れ、成立させるうえで決めておくべきこと、成立させられない場合の対処法などを解説していきます。
後悔のない選択をするためにも、ぜひ本記事で理解を深めてください。
協議離婚とは
協議離婚とは、夫婦の話し合いによって成立する離婚をいいます。夫婦が離婚することに合意し、必要事項を記入した離婚届を管轄の市区町村役場に提出すれば成立します。
調停離婚のように第三者に家庭の事情を知られる心配がなく、審判離婚や裁判離婚のように「離婚する法的な理由」も必要とされないので、最も簡単な離婚方法だといえます。そのため、日本で行われる離婚のうちの約90%をこの協議離婚が占めているといわれています。
協議離婚のメリット、デメリット
メリットについて
協議離婚には、次のようなメリットがあります。
・手続が簡単ですぐ離婚できる
協議離婚は、夫婦双方が離婚することに納得して離婚届を提出すれば、手続に不備がない限り成立します。離婚を認めるべき法的な理由があるかどうかは問われませんし、必ずしも離婚条件を細かく取り決めたり、取り決めた内容を書類にまとめたりしなければならないわけでもありません。そのため、夫婦が、離婚をすることや離婚条件に合意すれば、離婚をするのに時間もかかりません。
・費用がかからない
裁判所を介した離婚方法とは違い、夫婦の話し合いだけで離婚を成立させられるので、基本的に費用はかかりません。
・夫婦間のプライバシーが守られる
他の離婚方法のように裁判所などの第三者が介入しないので、夫婦間のデリケートな問題を他人に知られてしまう可能性が低いです。
デメリットについて
一方、次のようなデメリットもあるので注意しましょう。
・夫婦の関係性によっては、不利な離婚条件になってしまう可能性がある
モラハラを受けているなど、夫婦が対等に話し合える関係にない場合、一方が不利な条件を呑まされてしまう可能性があります。後になって離婚を撤回したり合意内容を変更したりすることは難しいので、離婚を切り出す前に、対等・冷静に話し合えるかどうかを一度考えてみましょう。
・のちのちトラブルになる可能性がある
協議離婚では、離婚時に未成年の子供の親権者を決めなければなりませんが、それ以外の離婚条件については必ずしも取り決める必要はありません。
そのため、子供のことやお金に関する問題をあやふやにしたまま離婚してしまい、将来的にトラブルに発展する事例も少なくありません。
協議離婚の流れや進め方
続いて、協議離婚の大まかな流れと具体的な進め方について確認しましょう。次項以下をご覧ください。
離婚を切り出し合意を得る
まずは配偶者に離婚したい旨を伝えます。このとき、感情的にならずに冷静に自分の考えを伝えることが重要です。離婚したい理由や求める離婚条件をメモにまとめておくなど、事前に準備しておくことをおすすめします。
また、配偶者の不貞などが理由で離婚を求めるときは、その証拠を集めて言い逃れができないように準備しておく必要もあります。
離婚条件についての話し合い
離婚する・しないだけでなく、離婚に伴う子供やお金の問題をどのように解決するのか、離婚の条件についても話し合っておくことをおすすめします。子どもの親権者については、離婚をするときに必ず決めなければならないので、夫婦で話し合いをしなければなりません。
他にも、次のような条件について話し合い、取り決めておくと良いでしょう。
- 親権者をどちらにするか
(未成年の子供がいる場合、離婚するには離婚後の親権者を決めておく必要があります) - 養育費の金額や支払方法
- 面会交流のルール
- 財産分与の金額や方法
親権者に関する取り決め以外は、離婚後に決めることもできます。
しかし、離婚後に元配偶者と話し合おうとしても、連絡先がわからなかったり、連絡はついても話し合いに応じてもらえなかったりすることが少なくありません。そのため、できるだけ離婚時に話し合って決めておいた方が良いです。
メールで済ませることは可能?
メールやSNSのメッセージのやりとりで離婚条件の話し合いをすることも可能です。相手からDVやモラハラを受けているなど、対面では落ち着いて話し合いができない場合や、別居していて顔を合わせることが難しい場合などに有用な方法といえるでしょう。
ただし、メールで離婚の意思を伝えても相手が真剣に受け取らず、無視されてしまう可能性があります。また、合意の証拠としては不十分なこともあるので、取り決めた内容は離婚協議書等の書面に残すことをおすすめします。
離婚協議書の作成
協議離婚では、離婚する旨や離婚条件についての合意を口約束で済ませることができてしまいます。しかし、後で言った・言わないのトラブルになることを防ぐためにも、合意内容を書面に残しておくことをおすすめします。
離婚に関する合意内容を記載した書面を「離婚協議書」といいます。離婚協議書を作成しておけば、離婚条件が守られなかったときに、協議書を証拠として裁判を起こすことができます。
また、強制執行認諾文言を盛り込んだ公正証書の形で作成しておけば、裁判をすることなく強制執行ができるようになります。つまり、離婚協議書(公正証書)を根拠に、相手の財産を差し押さえてお金を回収できるようになります。
離婚届の提出
離婚について夫婦で合意できたら、夫婦の本籍地またはどちらかの所在地の市区町村役場に離婚届を提出します。(どちらかの所在地の市区町村役場に提出する場合には、夫婦の戸籍謄本も併せて提出しなければなりません。)
協議離婚で提出する離婚届には、夫婦と証人2人の署名・押印が必要です。また、未成年の子供がいる場合は、親権者を指定して記入しなければなりません。
なお、夫婦が揃って離婚届を提出する必要はなく、どちらか1人だけ、あるいは代理人が提出することにしても問題ありません。
協議離婚の証人になれる人
協議離婚では、夫婦それぞれが自分の意思で離婚届に署名・押印したことを証明する証人が2人必要です。
証人は、20歳以上で夫婦が離婚する事実を知っていれば、夫婦とどんな関係性にある人でもなることができます。また、夫側の証人・妻側の証人というような区分もないので、夫婦のどちらかが2人まとめて証人を選ぶことも可能です。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
協議離婚で決めておいた方が良いこと
離婚後トラブルになることを避けるためにも、お金と子供に関する問題について話し合って取り決めておくことをおすすめします。具体的には、次項以下で説明する事項を取り決めると良いでしょう。
なお、協議離婚では、夫婦の合意さえあれば離婚条件について自由に決めることができます。そのため、相手方が応じるのであるならば、相場から外れた内容を離婚条件にすることも可能です。
財産分与
財産分与とは、結婚生活を送るうえで夫婦が協力して作り上げた財産を、それぞれの貢献度に応じて分け合うことです。
とはいえ、財産形成への貢献度を実際に数値にすることは難しいので、2分の1ずつ分けることになるケースが多いです。しかし、協議離婚の場合、夫婦で合意さえできれば分与の割合を自由に変えることができます。
子供がいる場合
親権
子供がいる夫婦が離婚する際には、夫婦のうちどちらがその子の親権者となるかについて“必ず”決める必要があります。離婚届には親権者について記入する欄があり、この記載がないと届出したところで受理してもらえません。
親権とは、子供を育てたり、その財産を管理したりする権利のことで、この親権を持つ人が「親権者」となります。なお、対象となる子供は婚姻していない未成年に限られます。
協議離婚の場合は、話し合いで親権者を決めた後、離婚届の親権者の欄に名前を記入して役場に提出することになります。
養育費
養育費とは、子供が一人立ちするまでにかかる監護や教育のための費用です。例えば、学費・習い事の費用、医療費、衣食住に必要な費用などが挙げられます。
養育費は、子供の面倒をみている親に対して、そうでない方の親が定期的に支払います。金額には相場がありますが、協議離婚の場合、夫婦で合意できれば相場以上又は相場以下の金額に設定することも可能です。
また、特に協議離婚の場合は、支払方法や支払期間、支払日などのルールがあいまいになりがちなので、明確に決めておくことが重要です。
面会交流
面会交流とは、離婚や別居が理由で離れて暮らしている親子が交流することをいいます。対面で話をするといった方法はもちろん、手紙やプレゼントをやりとりする、テレビ電話などで通話するといった交流方法も面会交流にあたります。
安心して面会交流を行うためには、面会交流の頻度や時間・場所・方法などのルールを具体的に決めておく必要があります。特に協議離婚では、離婚後にトラブルに発展することも少なくないので、詳細について話し合っておくと良いでしょう。
離婚慰謝料は請求できるのか
離婚の方法によって慰謝料が請求できなくなるということはないので、協議離婚であっても慰謝料を支払ってもらえる根拠があれば離婚慰謝料を請求できます。
慰謝料とは、精神的な苦痛を受けたときに支払ってもらえる賠償金であり、特に離婚に関連して受けた精神的苦痛に対して支払われるものを「離婚慰謝料」といいます。例えば、配偶者の浮気やDVといった不法行為が原因で離婚することになり、精神的な苦痛を受けたようなときには慰謝料を請求できます。
ただし、協議離婚をする理由の多くは「性格の不一致」など、夫婦のどちらが悪いとはいえないものなので、離婚慰謝料を請求できるケースは限られているでしょう。
協議離婚にかかる期間
協議離婚は一般的に数ヶ月程度で成立することが多いです。とはいえ、揉める問題がなければ話し合いを始めたその日にでも離婚を成立させられますし、逆に問題が多ければ離婚成立まで数年かかることもあります。
夫婦の事情によって最適な離婚方法は異なるので、まずはご自身のケースで協議離婚が適しているかどうかを確認することをおすすめします。
協議離婚が成立しない場合
協議離婚は夫婦の合意によって成立するので、相手が離婚に応じなければ成立しません。
例えば、夫婦の一方がどうしても離婚したくない場合や、親権や財産分与・養育費・面会交流などの離婚条件についてどちらも主張を譲らない場合には、協議離婚を成立させることはできません。
では、このような場合にはどういった対応をすれば良いのでしょうか?以下、ご説明します。
別居する
まずは別居してみることをおすすめします。
離れて暮らすことで冷静に話し合えるようになったり、離婚を頑なに拒んでいた配偶者が話し合いに前向きになったりすることがあるので、離婚への道筋が見えてくる可能性があります。
また、別居期間がある程度長くなり婚姻関係が破綻したと認められると、裁判などで法的に離婚が認められるようになります。
離婚調停へ
別居をしても離婚の話し合いがうまくいかなければ、離婚調停を申し立てて調停での離婚を目指してみると良いでしょう。
離婚調停とは、裁判所の調停委員が夫婦の話し合いを仲介・調整し、離婚問題の解決を図る裁判所の手続をいいます。協議離婚と同じく夫婦の合意で離婚が成立しますが、第三者が話し合いに介入する点で異なります。
話し合いが円滑に進みやすくなるほか、離婚条件などの争点が整理されるので離婚後のトラブルが起こりにくくなる一方、協議離婚よりも離婚成立までに時間がかかるケースが多いです。
夫婦だけでのやりとりとなる協議離婚は難航する場合が多くあります。不安なことがあれば弁護士に依頼してみましょう
協議離婚では、基本的に夫婦の合意だけで離婚が成立します。しかし、どれだけ話し合いを重ねても、夫も妻も主張を譲らなければいつまでたっても離婚は成立しません。
また、離婚後のトラブルを回避するためには、離婚条件を細かく決めておくことが大切ですが、当事者である夫婦だけで漏れのないように取り決めていくのは難しいものです。
この点、交渉のプロである弁護士なら、争点を整理し、ご依頼者様の主張をより効果的な形で相手に提示することができます。そのため、話し合いがスムーズに進む可能性が高まりますし、ご依頼者様にとってより有利な離婚条件になるよう手を尽くします。
弁護士に依頼することで得られるメリットはいろいろあるので、協議離婚を考えている方は、ぜひ弁護士への相談をご検討ください。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)