監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
休業損害とは、交通事故による怪我で仕事を休まざるを得ず、収入が減ってしまった分を「損害」として補償してくれるものです。
ところで、“怪我の治療のために休む”には、欠勤のほかに有給休暇を使用する方もいらっしゃいます。この場合、確かに給料は支払われますので減収はありませんが、本来使用する予定のなかった有給休暇を消化しなければならなくなってしまったのですから、何かしらの補償は受けたいところです。この補償に当てられるのが休業損害となります。
今回は、有給休暇を使用した場合の休業損害の取り扱いについて解説していきます。
有給休暇を使っても休業損害は支払われる
交通事故による怪我の通院のため、有給休暇を使って仕事を休んだ場合でも、休業損害は支払われます。なぜなら、交通事故がなければ自由に有給休暇を取得することができたと考えられるので、有給休暇を使ったこと自体が「損害」となるからです。
そもそも有給休暇は、労働者が自由に時期を決めて使うことができる権利です。しかし、交通事故が原因で使ってしまうと、本来自由に使えたはずの権利が使えなくなってしまいます。
つまり、交通事故による怪我の治療などのために有給休暇を使うこと自体が、交通事故による「損害」ということができるので、休業損害の請求が可能となります。
半日だけ有給休暇を使った場合も休業損害は請求可能
有給休暇は、午前休、午後休といった半日単位でも取得することができます。
怪我の治療のため半日だけ有給を使って通院したような場合も、事故で怪我をしなければ使用することのなかった半休であり、「損害」として扱われます。そのため、休業損害として賠償請求できます。
ただし、損害と認められるのはあくまで有給休暇を使った半日だけなので、休業損害は半日分しか請求できない点に注意しましょう。
休業損害が認められないケース
休暇日に休業損害が認められるのは、交通事故による治療のために有給休暇を使った場合だけです。
例えば、夏季休暇や冬期休暇、忌引休暇などを利用して怪我の治療をした場合でも、休業損害は認められません。なぜなら、これらの休暇は、有給休暇とは違って使用時期や使用理由が制限されているので、交通事故を原因に取得したものとはいえないからです。
また、代休を使って交通事故による治療をしても問題ありませんが、休業損害は請求できません。代休は休日に働いた代わりに与えられる「休日」なので、代休を使って治療すると、そもそも給料の発生しない休日に治療したことになるからです。
有給休暇を使った場合に支払われる休業損害はいくら?
有給休暇を使った場合でも、1日あたりに支払われる休業損害の金額は変わりません。
利用する算定基準によって休業損害の金額や計算方法は異なりますが、具体的には下記のようになります。
(なお、任意保険基準は、各保険会社が独自に設定しており公表されていないため、ここでは説明を省略しています。)
・自賠責基準
「1日あたり6100円×休業日数」
ただし、1日あたりの損害額が6100円を超えており、その金額を証明できる場合は、1万9000円を上限にその金額を損害額として計算できます。
・弁護士基準
「1日あたりの基礎収入×休業日数」
ここで、具体例を使って実際に計算してみましょう。
【例:事故前3ヶ月間の給料90万円、休業日数25日(うち有給休暇10日)】のケース
・自賠責基準
「6100円×休業日数25日=15万2500円」
・弁護士基準
事故前3ヶ月間の給料が90万円なので、その間に労働した日数が1ヶ月あたり22日だと仮定すると、1日あたりの基礎収入は、
「90万円÷22日×3ヶ月=1万3636円(切捨)」
となります。
したがって、休業損害は、
「1万3636円×25日=34万900円」
ということになります。
休業損害の請求方法
会社員や公務員が休業損害を請求するためには、勤務先に「休業損害証明書」を作成してもらい、前年度の源泉徴収票を添付したうえで、相手方の保険会社に提出する必要があります。
休業損害証明書とは、勤務先が作成する、労働者の勤務日数や欠勤日数、遅刻・早退の記録などを証明する書類です。休業損害には、主に下記の事項を記載してもらいます。
- 欠勤、遅刻、早退した旨とその時間帯
※なお、基本的に有給休暇を使った日は欠勤(全休)扱いとして記入します - 作成日付
- 勤務先の代表者の氏名
- 勤務先の印証
- (パートやアルバイトの場合)所定労働時間の時間数と時間給
休業損害が支払われるか、いくら認められるかは休業損害証明書の記載内容にかかってくるので、しっかりと作成してもらい、ミスがないか確認してから提出するようにしましょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
有給休暇の取得と欠勤どちらが得か
金銭的な面だけからみると、有給休暇を取得する方が得です。有給休暇を取得して治療を受ければ、会社からの給料と保険会社からの休業損害のどちらも受け取ることができるからです。
とはいえ、有給休暇を残しておきたい事情があるため欠勤したい、欠勤すると皆勤手当がもらえないため有給休暇を使いたいなど、人によって状況は様々です。
一般的には有給休暇を取得する方が得ですが、ご自身にとってはどちらを選択する方が良いのか、状況に応じてしっかりと判断されることをおすすめします。
有給休暇を取得するタイミングに注意
休業損害は、交通事故が原因で減ってしまった収入を補償するものです。つまり、交通事故と因果関係のある減収に対してしか支払われません。
この点、有給休暇を不定期に使って通院したり、交通事故後かなり時間が経ってから有給休暇を使って通院したりした場合には、交通事故と有給休暇の取得との因果関係に疑いがかかってしまいます。その結果、有給休暇を取得したことが交通事故による損害とは認められず、休業損害を支払ってもらえない可能性があるので注意が必要です。
休業損害と有給休暇に関する裁判例
有給休暇を休業損害として全額支給された裁判例
ここで、有給休暇を取得したすべての日に対して休業損害が認められた裁判例をご紹介します。
・大阪地方裁判所 令和3年1月29日判決
原告が自動車を運転して交差点に入ったところ、交差道路から交差点に入ってきた被告の自動車と衝突した交通事故の事例です。
原告が、この事故を原因として4日と13時間分の有給休暇を取得したところ、裁判所は以下のように休業損害を認めました。
- 原告が事故前3ヶ月間に働いた日数:63日
- 1日あたりの稼働時間:7時間45分
- 総支給額:106万4263円
- 1日あたりの支給額:1万6893円(1時間あたり2180円)
したがって、休業損害は「1万6893円×4日+2180円×13時間=9万5912円」
有給休暇を休業損害として認めなかった裁判例
反対に、有給休暇を取得した日数のうち、一部に対してしか休業損害が認められなかった裁判例をご紹介しましょう。
・大阪地方裁判所 令和2年1月30日判決
原告が運転する原動機付自転車と、被告が運転する自動車が衝突した交通事故の事例です。
原告は、症状固定するまでの間に、有給休暇を合計15.5日取得しました。しかし、これらの有給休暇は、「1ヶ月に1~2回は半日有休休暇の申請をするように」という会社の指導のもとで取得されたものでした。
そのため、裁判所は、必ずしもすべての有給休暇が事故と因果関係があるとはいえないと判断し、合計5.5日のみを事故と因果関係のある有給休暇だと認めました。
そして、以下のとおりに休業損害を認めました。
「1日あたりの基礎収入1万5073円×休業日数5.5日=8万2901円」
有給休暇を取得した時の休業損害は弁護士にご相談ください
交通事故により怪我をし、治療などのために仕事を休まなければならなくなった場合、休業損害を支払ってもらえます。これは有給休暇を使って仕事を休んだ日も同じですから、交通事故による怪我の治療のために仕事を休む際には、有給休暇を利用することも検討してみても良いでしょう。
とはいえ、「個人的な目的で有給休暇を取得した」と判断され、交通事故との因果関係がないとみなされてしまうと休業損害は支払ってもらえません。
そのため、交通事故による治療のために有給休暇を取得したものの、休業損害の請求が認められるか不安のある方や、その他休業損害をはじめとする交通事故問題についてお困りごとのある方は、ぜひ弁護士にご相談ください。ご相談者様の疑問や不安を解消できるよう、しっかりと対応させていただきます。
「交通事故に遭ったとき、弁護士に相談すると良いと聞くけれど実際どうなのだろう?」「弁護士に交通事故被害について依頼すると、具体的に何をしてもらえるの?」など、交通事故に関するトラブルを弁護士に相談・依頼するメリットについて、疑問に思われている方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は、このような疑問にお答えするべく、交通事故に関するトラブルを弁護士に相談・依頼するメリットについて詳しくご紹介していきます。
メリット1:弁護士に依頼すると慰謝料が増額する可能性が高くなる
弁護士に依頼すると、3種類ある慰謝料の算定基準の中で、基本的に最も高い金額を算定できる「弁護士基準」で交渉を進められるため、慰謝料が増額する可能性が高くなります。
そもそも弁護士基準は、通常、裁判所や弁護士以外が使用することはできません。余程のことがない限り、被害者の方が弁護士基準で計算した慰謝料額をもって交渉を試みても、保険会社に受け入れられることはほぼないでしょう。
弁護士に依頼することで、弁護士基準で算定した最も高額かつ適正な慰謝料を請求してもらうことができます。また、併せて、その他の細かい増額ポイントも押さえて計算し直してくれるので、当初保険会社から提示を受けた金額より増額した慰謝料を請求できる可能性が高いでしょう。
メリット2:ストレスになる相手保険会社とのやり取りを任せられる
弁護士に依頼することで、損害賠償請求などに伴う相手方保険会社とのやり取りを一括して任せることができるので、ストレスを大幅に軽減できます。
また、各種の請求に必要な書類や資料の作成・収集も任せられるので、手続きにかかる時間や手間も最小限にすることができます。
このように、弁護士に依頼すると、精神的な負担を軽減できるうえに時間も確保できるので、安心して治療に専念することが可能になります。
メリット3:適切な通院の仕方・診察のアドバイスを受けられる
弁護士に依頼すると、適正額の慰謝料、治療費といった損害賠償を受けるために必要な、【適切な通院方法や診察ポイント】についてアドバイスを受けることができます。このアドバイスに従って治療を進めていくことで、被害に見合った損害賠償を受けられる可能性が高まります。
交通事故問題に詳しい弁護士は、慰謝料や治療費を計算する際のポイントを知っていますので、適正な損害賠償を受けるためにはどのように通院すれば良いのか、どういった診察・治療を受ければ良いのかといったアドバイスを受けることができます。
メリット4:保険会社からの治療費打ち切りに対応し、治療延長の交渉をしてもらえる
保険会社は、なるべく早く治療費の支払いを打ち切りたいので、ある程度治療が長引くと「そろそろ治療を終わらせる時期ではありませんか」と治療を終了するように促してきます。
しかし、保険会社の言いなりになって治療を終了させることはありません。医学的な根拠を示して治療の必要性を訴えれば、保険会社に治療費の支払いの継続を認めさせられる可能性があります。
その際に弁護士に相談すれば、治療の必要性を訴える効果的な方法についてアドバイスを受けることができます。
さらに、早い段階で治療費の打ち切りについて相談しておくことで、万が一治療費を打ち切られてしまった場合にとるべき対応を事前に確認することもできます。
メリット5:後遺障害等級認定・異議申立てを行ってくれる
交通事故によって後遺症が残ってしまった場合、適正な慰謝料を受け取るためには、後遺障害等級認定を申請して正しい後遺障害等級を認定してもらう必要があります。
後遺障害等級認定の申請には、法的な知識に加えて医学的な知識も必要になるので、等級認定の手続きに詳しい弁護士のアドバイスはとても役に立ちます。
また、弁護士は、被害者の代わりに後遺障害等級認定の申請をすることもできます。
さらに、納得のいかない等級が認定された、または等級認定が受けられなかった場合に行うことができる、異議申立ての手続きの代行も可能です。
このように、弁護士に任せれば正しい後遺障害等級認定を受けられる可能性が高まります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
メリット6:適正な休業損害がもらえるよう、アドバイスしてもらえる
弁護士に相談することで、休業損害の増額が期待できるケースも多いです。
慰謝料と同じく、休業損害を計算する基準にもいくつかあります。その中で最も高額で適正な金額を算定できることが多いのは、弁護士や裁判所が使う弁護士基準です。そのため、弁護士に相談・依頼し、弁護士基準で計算した休業損害を請求できるようにすることで、結果的にもらえる休業損害が増額する可能性があります。
また、特に主婦(主夫)の方が被害者である場合、そもそも保険会社が休業損害の発生を認めていないことがあります。このような場合も、弁護士に相談・依頼すれば、主婦(主夫)にも休業損害が発生することを法的な根拠をもって主張できるので、休業損害を獲得できる可能性が高まります。
弁護士依頼のデメリットはない?
弁護士に依頼する際に一番気がかりなのは、やはり費用ではないでしょうか。
確かに、弁護士に依頼する場合、増額できた金額に対して費用の方が高額になってしまう、いわゆる「費用倒れ」になるリスクはあります。
また、一口に弁護士といってもそれぞれ得意分野があるので、交通事故分野に不慣れな弁護士に依頼した場合、満足できる結果を得られない可能性があります。
しかし、弁護士法人ALGなら、こうしたデメリットの心配なく安心してご依頼いただけます。
弊所では、費用倒れのリスクがある場合にはご依頼いただく前に必ずご説明いたしますし、交通事故問題に特化したチームがあるので、様々な交通事故の事例に対応可能です。
交通事故に遭ったら、弁護士に相談すべき。迷ったらまずは無料相談を
一般的に、「弁護士に依頼すると高額な費用がかかる」というイメージがあるため、弁護士に相談されることをためらってしまう方もいらっしゃるでしょう。
しかし、たいていのケースでは、弁護士に相談・依頼することで得られるメリットはデメリットを上回っています。
特に弁護士法人ALGの場合、丁寧な事前説明を行うため費用倒れのリスクを回避できますし、交通事故問題に精通した弁護士が数多く所属しているので、専門的な知見を持った弁護士による充実したサポートを受けられます。
また、弁護士費用特約に加入している方は、この特約を利用することで、弁護士費用の補償を多くの場合で300万円まで受けることができます。
交通事故の被害に遭われた方は、ぜひ弁護士法人ALGにご相談ください。まずは無料相談にて、詳しい事故の状況をお伺いします。
損害賠償は「受けた損害を補填する」制度なので、実際に受けた損害の金額以上に賠償金を受け取ることは認められません。しかし、交通事故の被害者は、場合によっては相手方の保険会社以外から金銭を受け取ることもあります。 このような場合、“損害を公平に負担させるため”に「損益相殺」が行われます。
今回は、損益相殺とは具体的にどのような制度なのか、その概要について解説していきます。
耳慣れない言葉かもしれませんが、適正な賠償金を受け取るためにも正しく理解しておく必要がありますので、ぜひ最後までご覧ください。
損益相殺とは
損益相殺とは、交通事故の被害者が損害賠償金を余分に受け取らないようにするための制度です。
具体的には、被害者が交通事故をきっかけに何らかの利益を得た場合に、損害賠償金からその利益分を差し引くことで、損害賠償金の二重取りを防ぎます。
例えば、交通事故によって総額400万円の損害を受けた被害者が、自分の加入している保険から100万円の保険金を受け取ったような場合、損益相殺が行われます。
そのため、この場合に被害者が加害者から受け取ることができる損害賠償金は、
「400万円-100万円=300万円」
となります。
受け取っていると損益相殺により減額されるもの
では、何を受け取っていると損益相殺により減額されてしまうのでしょうか?
一般的に、下記のような金銭を受け取っていると損益相殺の対象になります。
- 自賠責保険金や政府保障事業のてん補金
- 支給が確定した各種社会保険の給付金
- 所得補償保険金
- 国民健康保険法・健康保険法に基づく給付金
- 人身傷害保険金
- 加害者による弁済
- (被害者が亡くなった場合)生活費相当額
以降、それぞれどのような金銭でどういった状況のときに受け取れるのか、簡単に見ていきましょう。
自賠責保険金・政府保障事業のてん補金
自賠責保険から受け取った保険金(自賠責保険金)のほか、加害者が自賠責保険に未加入の場合などに受け取れる政府保障事業のてん補金は、損益相殺の対象となります。
政府保障事業とは、交通事故の被害者を救済する最終手段として、政府が損害をてん補する制度です。損害額の算定やてん補金の限度額については、自賠責基準と同様の基準を採用しているので、同じくらいの金額を受け取ることができます。
支給が確定した各種社会保険の給付金
交通事故により怪我をした、障害が残った、または亡くなった場合、下記のような各種社会保険が給付されることがあります。
これらによる給付が行われる場合、通常、実際の支給額または支給を受けることが確定した金額を上限として、損益相殺により減額されます。
- 労働災害補償保険法に基づく療養補償給付、障害補償年金
- 厚生年金法(または国民年金法)に基づく障害厚生年金
- 国家公務員(または地方公務員)共済組合法に基づく障害年金、遺族共済年金
- 介護保険法に基づく給付金
所得補償保険金
所得補償保険金とは、所得補償保険の加入者が怪我や病気が原因で働けなくなった場合に、収入を補うために支払われる保険金です。
交通事故の影響で被害者が働けない状態になり、所得補償保険金を受け取った場合、損害賠償金のうち休業損害に相当する金額から、この保険金相当額が差し引かれることになります。
健康保険法に基づく給付金
治療の際に保険証を提示すると、加入している健康保険から治療費の一部が支払われるため、被害者の治療費の自己負担分が減額します。健康保険法に基づく給付金とは、このときに支払われる治療費の一部を指します。
このように、健康保険を利用すると治療費の負担が軽くなるため、支払われた治療費相当額が損益相殺の対象となります。
人身傷害保険金
人身傷害保険金とは、交通事故により受傷・死亡したときに、被害者の加入している保険会社から支払われる保険金です。受け取るためには、あらかじめ人身傷害保険に加入している必要がありますが、一般的に自動車保険に付帯して加入していることが多いので、加入状況について一度保険会社に問い合わせておくと良いでしょう。
なお、人身傷害保険を利用しても、翌年の保険料の等級に影響することはありません。
加害者による弁済
相手方の保険会社を通さず、加害者から直接受け取った金銭も、賠償金と同様に交通事故の損害を補うものです。そのため、損益相殺により、受け取った金額分が賠償金から差し引かれます。
しかし、加害者から直接金銭を受け取る場合、加害者から受け取った金銭が何に対する賠償であるのかが明確ではないことが多いですし、後々トラブルに発展してしまう可能性も高いです。香典や見舞金など、一般常識的でやり取りされる金銭を除いて、加害者から直接金銭を受け取ることは避けるべきでしょう。
(亡くなった場合)生活費相当額
被害者が亡くなった場合、その後必要になるはずだった生活費が不要になります。
つまり、生活費に相当する金額分、被害者の負担が減ることになるので、損益相殺によって賠償金から生活費相当額が減額されます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
損益相殺により減額されないもの
交通事故をきっかけに支払われる金銭であっても、その事故による損害を補う目的で支払われるものでなければ、損益相殺の対象になりません。
例えば、次のような金銭は損益相殺の対象とならないので、受け取っても減額されません。
- 生命保険金
- 搭乗者傷害保険金
- 自損事故保険金
- 傷害保険金
- 労働者災害補償保険法に基づく特別支給金
また、上記は、損益相殺の対象とならない金銭の代表的な例ですが、他にも損益相殺により減額されない金銭があります。次項以下でみていきましょう。
税金
交通事故に対する損害賠償金は、あくまで損害を補填するものであり利益ではありません。したがって、基本的に非課税となります。
そのため、支払わずに済んだ所得税等の税金が損益相殺の対象となりそうですが、裁判例によると、損益相殺を行う必要はないと判断されています。したがって、損害賠償金から税金に相当する金額が差し引かれることはありません。
加害者が支払った香典・見舞金
香典や見舞金は、一般的にお詫びの気持ちを示すために支払われるものです。つまり、交通事故による損害を補填するものではないので、基本的に損益相殺の対象にはなりません。
ただし、香典や見舞金の金額が常識的にみてかなり高額な場合には、損害賠償金の一部とみなされてしまう可能性があります。そうなると、常識的な範囲を超えると判断された金額分について、損益相殺が行われることになるので注意が必要です。
子供が死亡してしまった場合の養育費
交通事故により亡くなった被害者が子供だった場合、その後、保護者は養育費を支払う必要がなくなりますが、将来かかったはずの養育費が損益相殺の対象になることはありません。
なぜなら、養育費は子供本人ではなく保護者が支払うべきものなので、事故によって、子供本人が養育費の負担を免れるという利益を得たとは考えられないからです。
つまり、交通事故により損害を受ける人と利益を受ける人が違うため、被害者にかかるはずだった養育費は損益相殺されません。
持病により治療期間が長くなった場合は賠償金が減額される
損益相殺の対象にならない場合でも、被害者に持病があり、その影響で治療が長引いたようなときは、損害賠償金が減額される可能性が高いです。これを「素因減額」といいます。
素因減額は、元々被害者が患っていた持病などの疾患により損害が発生・拡大したときに、疾患による影響の分だけ損害賠償金を減額するというルールです。被害者の抱えている疾患が損害賠償金に影響を与えた場合に、加害者だけに損害を負担させるのは不公平だと考えられるからです。
とはいえ、どのような持病でも必ず素因減額の対象になるというわけではありません。素因減額は示談交渉や裁判などでも争いになりやすい問題なので、被害者に持病等があることが疑われる場合は、専門家のアドバイスを受けると良いでしょう。
損益相殺について不明点があれば弁護士にご相談ください
損益相殺について正しく理解することは、適正な損害賠償金を獲得するうえでとても重要です。もし誤った理解に基づいて損害賠償請求をしたり、提示された賠償案に承諾してしまったりしたら、損害額に見合った賠償金を獲得することは難しくなります。
しかし、損益相殺の対象となるか、いくら減額されるのかなどを判断するためには、金銭の性質や法律の規定をしっかりと確認する必要があるので、専門家の助けがないと難しいケースが多いでしょう。
そこで、弁護士に相談してアドバイスを受けることをご検討ください。弁護士は、単にアドバイスをするだけでなく、依頼を受ければ加害者側との示談交渉を代行することもできます。
最小限の労力で迅速に損害賠償金を受け取るためにも、まずは弁護士に相談されることをおすすめします。
離婚するにあたって、父母のどちらが親権者になるかを決めなければなりませんが、後になって、この時に決めた親権者の変更を望まれる方は少なくありません。しかし、一度決定した親権者を変更することはなかなか難しいのが現実です。
とはいえ、絶対に変更できないというわけではありません。
ここでは、具体的にどのような場合に親権者の変更が認められるのか、変更するための手続きの方法や流れ、手続きを行ううえでのポイントなど、親権者の変更をお考えの方に役立つ情報をご紹介します。ぜひご一読ください。
離婚後に親権者を変更することはできる?
離婚する際に決めた親権者を離婚後に変更することは可能です。しかし、決して容易ではありません。
離婚時にどちらが親権者となるかは、夫婦の話し合いでも決めることができますが、これを変更するとなると、夫婦の合意だけでは認められません。
離婚後に親権者を変更するには、裁判所で所定の手続きを行う必要があります。具体的には、家庭裁判所に「親権者変更調停の申立て」を行うこととなります。
親権変更が可能な場合とは
親権変更は、次の2点の条件を満たす場合に認められます。
- 親権者を変更することに合理的な理由がある
- 親権者を変更することで、子供がより利益(幸せ)を得られる可能性が高い
つまり、親権者変更により子供の養育環境が改善し、より子供の利益につながると裁判所が認める場合に、親権者を変更することができます。
以下、親権変更が認められる具体例をいくつかご紹介します。
- 親権者が子供を虐待、育児放棄している
- 子供が親権者の変更を希望している
- 親権者を変更しないと子供の養育環境が大きく変化してしまう(例:親権者の海外転勤)
- 親権者の心身の健康状態が悪化した、または親権者が亡くなった
親権を変更する方法
子供の健やかな成長のためにも、安定した生活環境のもとで育てることは重要です。そこで、子供の利益を守るべく、一度決まった親権者を変更するためには、家庭裁判所で親権者変更調停または審判を行い、定められた手続きを行わなければならないとされています。
つまり、夫婦がお互いに親権者の変更に合意したとしても、それだけでは親権変更することはできません。
親権者変更調停とは
親権者変更調停とは、離婚後に父母が親権について話し合うために設けられた、家庭裁判所で行われる調停手続のひとつです。
通常、親権を希望する父母のどちらかが家庭裁判所に申し立てて手続きを開始します。
調停では、「親権者を変更することが子供の健全な成長につながるか」という観点から、調停委員を介して父母が話し合い、親権変更すべきかどうかを検討します。
親権者変更調停の手続方法
親権者変更調停の手続きは、親権者である父または母の住所地の家庭裁判所に対して申し立て、開始するのが基本です。
申し立てる際にどのような書類が必要で、何に対する費用がいくらかかるのか、次項以下で簡単に確認しましょう。
申立てに必要な書類
親権者変更調停を申し立てるにあたっては、次の書類を揃えて提出しなければなりません。なお、必要に応じてその他の書類の提出が必要になる場合もあります。
- 申立書とそのコピー
- 事情説明書
- 進行に関する照会回答書
- 申立人、相手方、子供の戸籍謄本(全部事項証明書)
申立書や事情説明書、進行に関する照会回答書には所定の書式があるので、書式に従って記入することで作成できます。
所定の書式は、家庭裁判所に直接出向いて取得するほか、家庭裁判所のホームページからもダウンロードすることができます。
※申込書と当事者目録の書式は、下記のリンク先からダウンロード可能です。
親権者変更の申立書(裁判所)申立てに必要な費用
調停の申立てにかかる費用は、次のとおりです。
- 収入印紙:子供ひとりあたり1200円分
- 連絡用の郵便切手: 1000円程度(申立先の家庭裁判所によって異なるため、正確な金額を知りたい方は各裁判所にお問い合わせください)
書類を提出したら調停期日の案内が届くのを待つ
必要書類と費用を用意したら、
・相手方(親権者)の住所地を管轄する家庭裁判所
または
・当事者が合意で決めた家庭裁判所
のどちらかに提出し、親権者変更調停を申し立てます。
提出した書類に不備がなければ、申立てが受理されて調停手続が開始されます。
調停を行う日時は裁判所が決定します。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
親権者変更調停の流れ
親権者変更調停は、申立てが受理された後、次のような流れで進められます。
①家庭裁判所が初回の調停期日を決定する
裁判所の予定や裁判官・調停委員の都合などに合わせて、家庭裁判所が初回の調停期日を設定します。指定された期日に出席することが難しい場合は、家庭裁判所に変更を申し出ることができますが応じてもらえない場合があります。
②第一回目の調停の実施
調停期日に家庭裁判所に出向き、調停委員を介して話し合います。
③(必要があれば)第二回目以降の調停の実施
第一回目の調停で合意できなかった場合には、第二回目以降の調停を実施し、引き続き話し合いを続けます。
④調停の終了
調停が成立する、または不成立になることによって、手続きが終了します。
調停成立後の手続き
調停が成立したら、成立日から10日以内に市区町村役場に親権者変更の届出をする必要があります。
届出には、主に次のような書類が必要になります。裁判所によっては、この他の書類の提出が求められることもあるので、詳しくは各裁判所に事前にご確認ください。
- 調停調書謄本
- 父母それぞれの戸籍謄本
調停が不成立になった場合
話し合いが合意に至らず、調停が不成立になった場合には、自動的に「親権者変更審判」という手続きに移行します。
審判では、家庭裁判所の調査官による調査結果のほか、子供の意思や養育環境の現状といった一切の事情を考慮したうえで、親権者の変更の可否について裁判官が判断します。
万が一調査官や裁判官の心証が相手方に傾いており、自分にとって不利な判断がなされる可能性が高いときは、親権を諦め、確実に子供と交流できる機会を確保する方針に切り替えるのもひとつの手です。例えば、親権を諦める交換条件として、自分に有利な面会交流のルールを提示するといった方法が考えられます。
親権者変更調停の申立て~成立にかかる期間
元々父母が親権者の変更について合意しており、変更することが子供の利益につながると判断される場合は、第一回目の調停期日で調停が成立するケースが多いです。この場合、申立てから調停が成立するまでの期間は大体1ヶ月程度でしょう。
これに対して、父母の主張が対立している場合は、調停が成立するまでの期間が長期化する傾向にあります。
具体的にどのくらいの期間がかかるのかは、個別の事情によって変わってきますが、調停が成立するまでにはある程度の時間がかかると考えておくべきでしょう。
親権者変更にあたって裁判所が重視していること
親権者の変更について検討する際、裁判所は、親権者を変更する場合としない場合を比べて、「どちらが子供にとってより利益になるか」を考えます。つまり、「子供の利益」を重視して判断しています。
子供にとって利益になるかどうかは、子供側の事情(子供の年齢、性格、心身の健康状態、現在の生活環境、意思など)に加えて、親側の事情(父母の経済状況、心身の健康状態、現在の養育状況、親権変更を希望する理由など)も考慮して、総合的に判断します。
例えば子供が乳幼児の場合には、育児に重要な役割を果たす母親が親権者とされることが多いですが、本質的には親の性別というより子への監護の程度で決せられます。子供が15歳以上である程度自分の意思を伝えられる場合には、子供の意見が尊重される傾向にあります。
とはいえ、裁判所は基本的に親権者の変更に対して慎重なので、子供の現在の生活環境が安定しているときは、わざわざ親権者を変更する必要はないと判断される可能性が高いです。
親権者の再婚相手と子供が養子縁組した後でも親権変更できる?
基本的にできません。
法律上、親権者の変更は「単独親権から単独親権へ」という形の変更しか想定されていませんが、ご質問のケースは「共同親権から単独親権へ」という形の変更にあたるからです。
親権者の再婚相手と子供が養子縁組をすると、親権者が単独で親権を持っている状態(単独親権)から、親権者と再婚相手が共同で親権を持つ状態(共同親権)に変わってしまいます。そのため、親権者の変更は基本的に認められないと考えられます。
離婚後に親権者が死亡した場合、親権はどうなる?
離婚後に親権者が死亡した場合は、子供本人や親族などが家庭裁判所に「未成年後見人」の選任を申し立て、子供の法定代理人となる人を選任してもらうのが原則です。つまり、生存しているもう一方の親が自動的に親権を取得し、親権者になるという仕組みはとられていません。
しかし、生存している親が親権の取得を希望する場合は、家庭裁判所に親権者の変更を申し立てることができます。この場合、家庭裁判所の審判で親権の変更が認められれば、親権を取得して親権者となることができます。
親権者を祖父母に変更したい場合は?
親権者になれるのは父母(親)だけなので、親権者を祖父母に変更することはできません。
しかし、祖父母が養子縁組をして養“親”となることで、親権者になることは可能です。
親権者の変更を希望するなら弁護士に依頼したほうがスムーズに進みます
家庭裁判所は、子供の健全な成長のためにも生活環境を安定させるべきだと考えています。そのため、親権者変更の調停や審判を申し立てても、簡単に親権変更が認められることはありません。
家庭裁判所に親権変更を認めさせるためには、親権者の変更が子供にとって大きな利益になることを証明する必要がありますが、専門知識がなければ効果的な主張・立証をすることは難しいでしょう。
この点、離婚問題に強い弁護士なら、親権者の変更を主張するうえで重要なポイントを把握しているので、調停や審判手続を任せることで、親権者の変更が認められる可能性を高めることができます。また、自分ですべての手続きを行う場合と比べて時間を節約できますし、精神的な負担の軽減にもつながります。
親権者の変更をご希望の方は、まずは弁護士にご相談ください。一人ひとり異なるご相談者様のご状況に応じて、適切なサポートをさせていただきます。
相続登記とは
相続登記とは、被相続人が不動産を所有していた場合に、不動産の登記名義を相続人へ変更をするための手続きをいいます。 不動産には登記制度があり、登記制度に基づき、所有者などの情報が法務局で管理されています。被相続人が亡くなり、相続が開始したからと言って、自動的に不動産の登記名義が変更になるわけではないですし、相続人間で遺産分割協議が成立したとしても、登記名義は変更されるわけではありません。相続によって不動産を取得した際には相続登記の申請がきちんと行うことが必要になります。
相続登記の手続き方法
被相続人から不動産を相続した相続人は、法務局に対して、必要書類を揃えて相続登記に申請を行う必要があります。相続登記に必要な書類は遺言書の有無などによって相続ごとに異なってきますので注意が必要です。
不動産の所有者を確認する
相続登記を行うにあたっては、まず、不動産の所有者が誰であるかを確認することが重要となります。「亡くなった母親の所有する家など思っていたが、実際に母親より先に亡くなっている祖父名義のままになっていた」といったケースは決して珍しくありません。相続登記の準備中に実は所有者が異なっていたことが判明した場合、追加の書類が必要になるなど手続きに余計な時間がかかることもありますので、不動産の所有者を最初に確認してきましょう。
必要な書類を集める
どのような場合でも必要な書類
①所有権移転登記申請書:
申請書を記載する際には、法定相続分による場合、遺産分割協議による場合、遺言書による場合に応じて、記載する内容が異なること注意が必要です。
②対象不動産の固定資産評価証明書:
登録免許税を算定するために用いる書類であり、相続登記の申請を行う年度の証明書が必要となります。
③被相続人の住民票除票または戸籍の附票
戸籍と登記後の人物(被相続人)が同一であることを示すための資料です。
④被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
被相続人の特定や被相続人が死亡した事実を示すための資料となります。
遺言書がある場合に必要な書類
⑤遺言書
公正証書遺言書の場合、自筆証書遺言補完制度を用いた場合であれば問題にありませんが、それ以外の遺言書の場合は、検認手続を経たうえで、検認調書を添付することが必要となります。
遺言書がある場合には、上記④は、死亡の記載ある戸籍のみで足りることになります。
遺言書がない場合で法定相続分どおりに登記する場合に必要な書類
⑥相続人全員の戸籍謄本
⑦相続人全員の住民票
遺産分割協議による場合に必要な書類
⑧遺産分割協議書
相続人全員が署名し、実印で押印することが必要となります。
⑨相続人全員の印鑑証明書
遺産分割協議書内の印鑑が実印であることを証明するための資料です。
遺産分割調停または審判による場合
⑩調停(又は審判)調書
調停や審判で決まった内容を明らかにする資料です。
相続関係説明図、登記申請書を作成する
必要書類が揃ったら、登記申請書を作成します。登記申請書(相続登記の場合、正確には「所有権移転登記申請書」)は、遺言書の有無や法定相続分、遺産分割協議等、申請内容に応じて、法務局に様式が準備されています。インターネットからもダウンロードすることが可能です。
また、相続関係説明図を作成する必要もあります。相続関係説明図とは、被相続人と相続人を続柄とともに一覧できるように図面にした書類であり、相続関係説明図を添付しておくと法務局から提出した戸籍の原本の還付が受けられるので、法定相続分どおりの相続登記や、遺産分割協議書による場合などには相続関係説明図を添付することが多いです。
法務局へ申請する
相続登記の準備ができたら法務局に申請手続を行います。申請方法には、①法務局の窓口で行う方法、②郵送で行う方法、③オンラインで行う方法があります。
①については、窓口で確認を取りながら進めていくことができることから訂正があってもその場で対応できるメリットがある一方で、平日の時間内に法務局を訪問する時間を確保する必要性があります。
②は、法務局を訪問する必要がないというメリットがある一方で、訂正があってもすぐに対応をすることができないというデメリットがあります。
③は、自宅で全ての手続を行うことができるのメリットがある一方で、ソフトウェアのインストールが必要となるなど手間がかかる部分があるのがデメリットとなります。
登記識別情報を受け取る
相続登記が無事に完了すると、申請者に対して、法務局から登記識別情報通知という書類が発行されることになります。登記識別情報とは、12桁の英数字で構成された不動産の名義変更に使うパスワードに該当するものです。そのため、登記識別情報通知は大切に保管してください。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続登記を行った場合に掛かる税金は?
不動産登記の申請を行うために登録免許税という税金を納める必要があり、相続登記を行う場合にも登記を免許税の納付が必要となります。登録免許税の金額は、相続登記の対象となる不動産の固定資産評価証明書記載の金額に、0.4%の税率をかけたものです(100円未満は切り捨てとなります)。登録免許税の納付は、現金で行うことが原則となりますが、3万円以下の場合は収入印紙でも行うことも可能です。
相続登記の期限
相続登記に現時点では期限は定められていません。
しかし、法改正により、今後は、不動産の登記名義人が亡くなったときは、当該相続により不動産を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行う必要があります。相続時を怠った場合には10万円の過料という罰則も設けられています。改正法は2024年を目途に施行予定ですので、これからの相続には注意が必要といえます。
相続登記で問題になりやすいケース
相続登記は、期間制限はないとしても、なるべく早く、かつ、将来を見越した形で行っておかないと、後々になってトラブルの原因となってしまうことがあります。相続登記で問題となりやすいケースとして、①相続登記自体を放置してしまった場合、②相続登記を共有名義で行った場合などが挙げられます。
相続登記手続きを放置した場合
まず、相続登記を放置してしまった場合について解説します。
長期間放置するほど、登記が難しくなる
相続登記を行うためには登記義務者の協力を得ることが必要となります。しかし、相続登記を行わないまま放置してしまうと、時間が経過に伴って、本来の相続人が亡くなって代襲相続が発生するなどして登録義務者が増えていってしまい、相続登記に協力を求めるべき人も増えてしまうことになります。当然、準備する資料が増えていくことになります。すぐに行えば揉めることのなかった相続登記でも、放置してしまうことにより、登記に協力してくれない人が出てきたり、相続人の中に海外にいて連絡が取れない人が出てきたりと事後的にトラブルが生じることがあります。
相続登記せず住み続けた場合
相続登記をしていないということは、不動産の権利を対外的に表明する手段がないということになります。そのため、被相続人から相続した不動産に相続登記をしないまま住み続けた場合、事後的に、当該不動産に関する所有権をほかの相続人から主張されたりといったトラブルが生じることがあります。
相続登記を放置しているとできなくなることがある
不動産の相続登記を放置してしまった場合、不動産を売却したい場合、賃貸したい場合などにすぐに手続きを行うことができず、取引の機会を喪失することがあります。また、不動産を担保に融資を受けることも難しくなりますし、抵当権の抹消登記ができないといった支障もあります。
つまり、せっかく不動産を相続したにもかかわらず、不動産を十分に有効活用することができなくなってしまう可能性があります。
共有名義で相続登記した場合
次に、相続登記を共有名義で行った場合について解説します。
後から共有関係を解消する場合に、費用が高額になる
相続時にとりあえずということで複数の相続人による共有名義で相続登記をしようと考えることもあるかもしれません。しかし、後々になって、不動産の登記名義を1人にまとめたいとなったとしても、共有者の1人にほかの共有者の持分を移転するための登記費用や贈与する場合に課税される贈与税の金額は、相続時と比べて相当高額になってしまいます。
売却等、処分をするときに手間がかかる
相続登記をした後、不動産を売却しようと考えたとき、共有者の間で、売却すること自体について意見が合致しなかったり、売却価格や仲介業者の選択について意見が合わなかったりすることがあり、不動産の売却を思うように行うことができず、余計な手間がかかることがあります。
相続登記のお悩みは弁護士にご相談ください
相続登記については、必要となる書類も多くあるうえ、事案ごとに必要となる書類が異なるなど、手間のかかる手続きですし、先々のことを見据えて、速やかに手続きを行っておかないと、トラブルが生じてしまうことも少なくありません。特に、相続登記を放置してしまうことによる問題は相当多いといえます。相続登記にお悩みの方は是非一度弁護士に相談してみてください。
相続の際、亡くなった方(被相続人)の遺産を処理するメジャーな方法としては、①遺産をそのまま受け取る方法と②相続放棄をする方法があります。
しかし、第三の方法である「限定承認」という方法があります。
この記事では、皆様の相続をより良いものとしていただくべく、限定承認がどういう制度であるかを説明させていただきます。
限定承認とは
限定承認とは、裁判所が選任する相続財産管理人の下で、被相続人の遺産の限度で被相続人の債務を清算し、残った遺産を相続人の下に返す制度となります。
限定承認のメリット
負債を負うことがない
限定承認の手続きの中で、被相続人の負債は、残されていた遺産によって清算されます。
相続財産管理人が、被相続人が残した財産の範囲で、被相続人の債務の弁済を行うのです。
仮に、被相続人の負債が多く、遺産では払いきれないとしても、それ以上、相続人が債務を支払う責任を負うことはありません。
連帯保証人の地位は受け継ぐことに注意が必要
被相続人が連帯保証人となっていた場合、限定承認によって相続人が連帯保証人の地位を受け継ぎます。これは、相続が、被相続人の財産を受け取る権利を得るという性質のものではなく、被相続人の権利も義務も受け継ぐものであるからです。
限定承認をすると、相続人が連帯保証人の立場となるため、債権者から請求を受けた場合には、遺産の範囲内で支払う義務があります。
特定の財産を残せる
限定承認手続の際、通常、不動産等は競売によって清算されますが、遺産を一部残したい場合もあるでしょう。
実家や事業用資産が遺産になってしまっている場合、先買権を行使することが考えられます。
先買権は、家庭裁判所が選任する鑑定人の鑑定結果上の評価額以上の金額を支払うことで、相続人が優先的に遺産の一部を購入できる権利です。
被相続人の借金が多い一方で、どうしても残したい遺産がある場合には、先買権を考慮して限定承認を選択すべき場合もあるでしょう。
限定承認のデメリット
被相続人の負債を負わない、特定の財産を残せる可能性がある限定承認手続ですが、他方で、次のようなデメリットもあります。
相続人全員が限定承認する必要がある
限定承認は、被相続人の遺産を手続き中に清算するものです。
そのため、相続人の中に遺産をそのまま受け取りたい人がいる(単純承認をした相続人がいる)場合とは両立しません。
限定承認を行いたい場合、相続人全員の足並みをそろえるよう、相続人間で意思の調整をしておく必要があるでしょう。
相続放棄した人がいる場合
上述のように、限定承認を行いたい場合には、相続人全員が限定承認を行う意思である必要があります。しかし、相続放棄をした相続人がいるときには、その者以外の相続人で限定承認を行うことができます。
これは、相続放棄をした者は、初めから相続人ではなかった扱いとなるからです。
相続財産に手を付けることができない
限定承認を行う場合には、限定承認手続きが終了するまで、相続人が勝手に遺産を処分することはできません。
手続開始後、遺産の一部を使用する必要があるとしても、一時的な使用であっても遺産に手を付けることは許されません。
限定承認手続が完了するまで、通常、数か月以上かかりますので、遺産の一部を急遽使用する必要が想定される場合、限定承認手続の利用は再考すべきでしょう。
税金がかかってしまう場合がある
通常の相続の場合、相続人は、被相続人の所得税の申告(準確定申告)と相続税の申告を行う必要があります。限定承認の場合にも、相続人がこれらの申告を行う必要があります。
そして、限定承認に伴う準確定申告には、みなし譲渡という考え方があります。
これは、限定承認によって、被相続人の財産が時価で相続人に譲渡したものと扱われるというものです。この扱いにより、被相続人には、所得が生じていることになり、予想以上に所得税が生じてしまう場合もあります。
そのため、被相続人の遺産にどのような財産が含まれているか、十分な調査をしたうえで限定承認手続きに臨むことが重要です。
申請までに手間や時間が掛かる
限定承認を行う上で上述のように、税金がかかってしまう場合があります。
そのため、申立てを行う時点で、相続財産の調査をある程度済ませ、どの程度税金が発生するかを把握しておく必要があるでしょう。
相続財産の調査を進めようとしても、一定の手がかり(例えば、預金通帳、保険会社からの郵便物など)すらない場合、容易に遺産を明らかにできません。
その場合には、遺産を明らかにするだけでも数か月かかってしまうこともあり、申請には時間がかかってしまいます。
受理された後も、更に手続きがある
限定承認は裁判所に申立書類を提出して終わりではありません。
裁判所は限定承認の申述を受理すると、遺産の清算を行う相続財産管理人を選任します。
この相続財産管理人は、相続人の中から選任されることが原則となっています。
そして、選任された相続財産管理人は、被相続人の債権者に債権を届け出てもらうための広告手続を行います。
その後も、届け出のあった債権者に対して、遺産から弁済を行う等、様々な手続きを進める必要があります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
限定承認の手続き方法
以下、限定承認手続きのポイントを解説します。
限定承認に必要な書類
限定承認を行う場合、以下の書類が最低でも必要となります。
相続人と被相続人の関係性次第では、さらに書類が必要となる場合もあります。
- 限定承認の申述書
- 財産目録(遺産の中にどのような財産があるのかをまとめた一覧表)
- 被相続人の戸籍(除籍)謄本
- 被相続人が出生から死亡までのすべての戸籍謄本類
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)が亡くなっている場合は、その子(及びその代襲者)が出生してから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類
限定承認の手続きの流れ
限定承認は大まかに次のような流れで進みます。
1 相続財産と相続人の調査
限定承認は、相続人全員で行う必要があるので、相続人が誰であるかを初めに確認する必要があります。
また、可能な限り、相続財産の調査を行うことも重要です。
調査の結果、相続人の足並みをそろえるための話合いをすべき場合もあるでしょう。
2 申述書等の作成・必要書類の収集
続いて限定承認の申述書や財産目録を作成し、戸籍等必要な書類を収集します。
3 家庭裁判所への申述書等の提出・受理
申述書や必要書類をそろえたら、家庭裁判所に申述を行います。
その際、必要な費用は前述したとおりです。
4 相続財産管理人の選任・公告や催告
限定承認の申述が受理されると、家庭裁判所から相続財産管理人が選任されます。
その後、相続財産管理人は、被相続人の債権者を確定するために、官報に公告を行い、知れている債権者に対する催告を行います。
5 換価・評価
相続財産には現金ではない不動産や株式などが含まれていることが少なくありません。
債務の弁済に必要な場合には、相続財産の換価手続が行われます。
6 弁済
換価手続が終わると、相続財産から債権者に対する弁済が行われます。
この弁済手続は、各債権者の保有する債権の金額の割合に応じて行われます。
7 残余財産の取得
債権者の弁済が終了し、残余財産がある場合には相続人が残余財産を取得します。
費用
家庭裁判所に限定承認の申述を行う際には、収入印紙800円及び郵便切手代が必要となります。
郵便切手代は、申述を行う先の裁判所によって異なるので、申立の際に確認しておく必要があります。
限定承認の期限は3ヶ月
限定承認の申述期限は原則として、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月です。
この期限までに、相続人が限定承認の申述を行わないと、単純承認をしたものとみなされてしまいます。
そうなってしまうと、限定承認の申述が受理される見込みはなくなってしまいます。
相続財産の調査が間に合わない場合には、期限を延長する手続きを裁判所に行う必要があります。
なお、期限を延長する場合、3か月延長されることが通例です。
限定承認についてご不明な点はぜひご相談下さい
以上より、相続の際には、限定承認という選択肢があることをご理解いただけたと思います。
もっとも、これまで見てきたように、他の相続の方法に比べ、手続きが段違いに煩雑です。
特に、限定承認を裁判所に申し立てた後に、相続財産管理人に選任される可能性があることも考えると、不安もあるでしょう。
相続にあたり、限定承認をすべきかお悩みの方は一度、弊所にご相談ください。
離婚を見据えて別居する場合でも、今後の夫婦関係を冷静に見つめ直すために別居する場合でも、離婚していない以上、まだ夫婦であることに変わりありません。そのため、別居中であっても夫婦としてお互いに生活を支え合う必要があります。具体的には、収入の多い方は少ない方に「婚姻費用」を支払わなければなりません。
今回は、支払いを巡って争いになることも多い「婚姻費用」について解説します。金額の計算方法や内訳、請求方法やその流れなどを知りたい方は、ぜひご覧ください。
婚姻費用とは
婚姻費用とは、夫婦が結婚生活を続けるうえで必要な一切の費用をいいます。例えば、家賃や光熱費、生活費、医療費、子供の学費といった費用が挙げられます。
養育費と混同されている方もいらっしゃいますが、養育費は純粋に子供を育てるための費用であり、離婚してから支払義務が発生するものです。一方、婚姻費用は養育費も含んだ生活費であるため、養育費よりも高額になるのが通常で、離婚すると支払義務がなくなります。
計算する際の基準なども違うので、誤って理解しないように気をつけましょう。
婚姻費用の分担義務(生活保持義務)について
同居しているか別居しているかを問わず、結婚している以上夫婦は支え合って生活する義務があるので、それぞれの生活水準が同レベルになるように助け合わなければなりません。これを「生活保持義務」といいます。
生活保持義務の内容のひとつに「婚姻費用の分担」があります。婚姻費用の分担とは、夫婦が生活水準を合わせるために、それぞれの収入に応じて生活費を出し合うことをいいます。基本的には収入が多く、より支払い能力がある方が、少ない方に対して生活費(婚姻費用)を支払います。
同居中に問題になることはそれほどありませんが、夫婦仲が悪くなり別居した後、支払義務の有無や金額を巡って争いになることが多いです。
婚姻費用の内訳
婚姻費用には、主に下記に挙げるものが含まれます。
- 食費
- 光熱費
- 衣服代
- 居住費(家賃、固定資産税など)
- 医療費
- 冠婚葬祭費
- 常識的に必要な範囲の交際費、娯楽費
- 子供の養育費(保育園代、学費、塾や習い事の月謝など)
婚姻費用を請求できるケースとできないケース
婚姻費用を請求しても、必ず支払ってもらえるとは限りません。次項以下で、婚姻費用を請求できるケースとできないケースをそれぞれ紹介するので、どのような場合に婚姻費用の分担請求が認められるのか、確認していきましょう。
婚姻費用を請求できるケース
婚姻費用を請求できるのは、主に次のようなケースです。
同居中、収入のある配偶者が生活費を入れないケース
生活費を入れられるだけの十分な収入を得ているにもかかわらず、同居している相手方が生活費を入れない場合、婚姻費用を分担し合うという生活保持義務に反しているため、婚姻費用を請求できます。
自分に責任のない事情で別居することになったケース
夫婦には同居して生活を助け合う義務がありますが、相手方の不貞行為(浮気)やDV、モラハラなどが原因で、やむを得ず別居を選択することもあります。
こうしたケースや、性格の不一致を原因とする別居または離婚前に冷却期間を置くための別居など、どちらに責任があるとは言い切れない別居のケースでは、夫婦の生活保持義務が継続するため、婚姻費用の請求が可能です。
子供を引き取って別居しているケース
親である以上、自立していない子供の面倒をみる義務があるので、子供と同居しているか別居しているかに関係なく養育費を負担する必要があります。
そのため、子供を引き取って別居している配偶者は、相手方に対して養育費を含めた生活費を請求することができます。
婚姻費用を請求できないケース
次のようなケースでは、婚姻費用を請求しても支払ってもらえない可能性が高いでしょう。
相手の収入より自分の収入の方が多いケース
婚姻費用は、夫婦それぞれの収入に応じて負担し合うのが基本です。通常は収入の多い方から少ない方へ婚姻費用を支払うことになるため、自分の収入が相手より多い場合は婚姻費用の請求が認められない可能性が高いです。
ただし、親には子供の養育費を支払う義務があるので、子供を育てるためにかかる費用は請求できると考えられます。
婚姻費用の請求が権利濫用にあたるケース
一般常識からみて、婚姻費用の請求を認めるのが妥当でないと考えられるケースでは、婚姻費用を請求することができません。例えば下記のような事情がある場合には、婚姻費用を支払ってもらうことは難しいでしょう。
- 夫婦関係が壊れる原因を作った配偶者が請求した
- 正当な理由なく、一方的に別居に踏み切った配偶者が請求した
- 既に多くの離婚給付金(財産分与や慰謝料など)が支払われている
婚姻費用の計算方法
婚姻費用の金額は、夫婦が話し合って自由に決めることができます。その際、家庭裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」が参考にされます。
夫婦間の話し合いで金額が決められなければ、家庭裁判所の調停や審判を利用することになります。
調停では調停委員を介した話し合いによって、審判では裁判官が婚姻費用の金額を決定しますが、どちらの場合も「養育費・婚姻費用算定表」を元に金額を計算するのが基本です。
つまり、婚姻費用の月々の支払額は、夫婦の収入や財産の状況、社会的地位、支出の状況などを考慮したうえで、算定表を基準に計算されます。
婚姻費用の請求の流れ
婚姻費用の請求は、基本的に「夫婦の話し合い→婚姻費用分担調停→婚姻費用分担審判」の流れで行います。
婚姻費用の受け取りを希望する配偶者は、まず、もう一方の配偶者に口頭または書面で婚姻費用を請求します。そして、夫婦で婚姻費用について話し合い、合意による解決を目指します。
しかし、夫婦間の話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立て、調停委員を介して再度話し合うことになります。調停でも合意できない場合は、基本的に審判に移行するので、家庭裁判所に最終的な判断を委ねることになります。
婚姻費用を請求できるのはいつからいつまで?
婚姻費用は、夫婦の生活保持義務が続く間、つまり結婚している間は請求することができます。
ただし、実際に支払ってもらえるのは“請求した時”以降に発生する婚姻費用だけです。つまり、婚姻費用を支払ってもらえるのは、基本的に“請求が認められた時点から離婚が成立するまで”の間です。
請求した時期によって受け取れる婚姻費用の総額が変わってくるので、別居したらすぐに請求することをおすすめします。
一度決めた婚姻費用を増額・減額することは可能?
婚姻費用は、取り決め後も、夫婦が合意に至れば増額・減額が可能です。合意できなくても、当初とは事情が変わり、変更が妥当だと判断されるときは、婚姻費用の変更が認められ得ます。明確な基準はありませんので、各々のケースに応じて柔軟に判断されます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
取り決めた婚姻費用が支払われなかった場合、どうしたらいい?
取り決めどおりに婚姻費用を支払ってもらえないときは、
- 内容証明郵便で支払いを催促する
- 調停を申し立てる
- 審判の手続きを行う
- 強制執行によって財産を差し押さえる
といった対処をすることになります。
ただし、強制執行による財産の差押えは、婚姻費用に関する取り決めについて公正証書(強制執行認諾文言付のもの)を作成していた場合や、調停や審判で取り決めをしていた場合にしかできません。それ以外の場合に強制執行をするためには、結構な時間と手間がかかります。
婚姻費用について取り決める際には、婚姻費用の支払いが滞ったときに備えて、あらかじめ準備をしておくと良いでしょう。
勝手に別居した相手にも婚姻費用を支払わなければならない?
勝手に別居した配偶者から婚姻費用を請求された場合でも、自分の収入が相手の収入よりも多ければ、婚姻費用を支払わなければならないのが基本です。
ただし、相手が別居を始めた原因によっては、支払わずに済んだり、大幅に減額できたりする可能性があります。
例えば、相手が不貞行為(浮気)をして夫婦仲を悪化させたうえに、一方的に別居を始めたようなケースでは、常識にみて婚姻費用を支払う妥当性がありません。そのため、婚姻費用を支払う必要がないと判断される、または金額が大幅に減額される可能性が高いでしょう。
反対に、相手にDVやモラハラをしていた結果、相手が耐え切れずに別居に踏み切ったようなケースでは、婚姻費用を支払う義務があります。
婚姻費用と養育費の違いは?
婚姻費用と養育費は、どちらも家族間で発生する生活費ですが、「誰の」生活費なのか、「いつからいつまでの期間に対して」支払う必要があるのかといった点が違います。
まず、婚姻費用は、夫婦の一方が配偶者と自立していない子供のために支払う「家族の」生活費ですが、養育費は、親が自立していない子供のために支払う「子供の」生活費です。したがって、子供の生活費だけでなく夫婦の生活費も含む婚姻費用の方が、養育費よりも高額になるのが通常です。
また、一般的に、婚姻費用は「結婚してから離婚するまで」の期間に対して支払うものですが、養育費は「離婚してから子供が自立するまで」の間支払わなければならないものです。
離婚調停と婚姻費用分担請求の関係
離婚請求と婚姻費用の分担請求は相反するものではないので、離婚調停と同時に、婚姻費用分担請求調停を申し立てることができます。
離婚調停が成立するまでには年単位の時間がかかることもあるので、その間の生活費の不安を軽減して安心して手続きを進めるためにも、同時に申し立てることをおすすめします。
この2つの手続きを同時に申し立てると、同じ期日で話し合いを進めることができるようになるため、時間や労力の軽減につながります。
ただし、異なる内容の話し合いをひとつの手続きの中で行うことになるので、調停が成立するまでにより時間がかかってしまう可能性があります。同時に申し立てるかどうかは、メリットとデメリットをよく比較して検討しましょう。
婚姻費用の様々なご相談は経験豊富な弁護士へお任せください
夫婦である以上、婚姻費用は負担しなければならないものです。逆にいえば、収入があるのに生活費を入れない配偶者に対しては婚姻費用の分担を請求できます。
婚姻費用を確保できれば、別居中など、特に離婚を視野に入れて動いているときに、経済的な不安なく手続きを進められるようになります。婚姻費用をもらって困ることはないので、別居している場合や生活費の負担が偏っているように感じている場合には、請求を検討されてはいかがでしょうか。
その際には、相続問題に詳しい弁護士に相談してアドバイスを受けられることをおすすめします。
弁護士なら、婚姻費用の分担請求と併せて離婚手続の代行も任せることができるので、精神的な負担やかける労力を最小限にできます。ぜひ経験豊富な弁護士への相談をご検討ください。
日本では、離婚する夫婦の約9割が協議離婚を選択しています。しかし、夫婦2人の話し合いだけでは、離婚することやその条件についてなかなか合意できないこともあります。
このように、協議離婚が難しい場合に選択できる方法のひとつに「離婚調停」があります。
では、離婚調停とは具体的にどういった方法なのでしょうか?
このような疑問に答えるべく、本記事では、離婚調停の利用方法や手続きの流れ、必要な準備などについて解説していきます。
離婚調停とは
離婚調停とは、離婚に関する夫婦の話し合いがまとまらない場合や、話し合い自体が難しい場合に家庭裁判所の調停手続きを利用して行う、離婚に向けた話し合いです。正式には「夫婦関係調整調停」といいます。
離婚調停では、裁判官や調停委員からなる調停委員会が夫婦の間に入って話し合いを進め、合意に向けて双方の意見を調整します。客観的な視点を持つ調停委員会を間に挟んではいるものの、離婚審判や離婚裁判とは違い、あくまで“話し合い”で離婚問題を解決しようとする方法です。
離婚調停のメリット・デメリット
離婚調停のメリットとデメリットは、それぞれ次のとおりです。
【メリット】
- 円滑な話し合いが期待できる
第三者である調停委員会が介入し、必要に応じて解決に向けたアドバイス等をするため、夫婦2人だけで話し合うよりも落ち着いて意見をすり合わせることができます。そのため、話し合いが円滑に進む可能性があります。 - 夫婦が対面で話し合う必要がない
調停委員を介して話し合うため、基本的に夫婦が直接顔を合わせることがありません。そのため、DVやモラハラの被害者も安心して話し合いに臨むことができます。 - プライバシー保護が徹底されている 離婚調停は非公開で、調停委員も守秘義務を負っているので、秘密が外に漏れる心配がありません。
【デメリット】
- 合意できなければ不成立に終わる
いくら時間をかけて話し合っても、夫婦が合意しなければ調停は不成立となります。そのため、場合によっては、かけた費用や時間が無駄になってしまう可能性があります。 - 日程調整などの手間がかかる
離婚調停は家庭裁判所の開廷時間に合わせて行われるため、どうしても平日の昼間に時間を作る必要があります。また、一度で解決することはないので、何度も裁判所へ足を運ばなければなりません。
離婚調停の流れ
家庭裁判所に調停を申し立てる
離婚調停は、管轄の家庭裁判所に申立書を提出し、受理されることによって始まります。
基本的には、相手方となる配偶者の住所地を管轄する家庭裁判所が管轄の家庭裁判所となります。ただし、夫婦が合意のうえ選んだ家庭裁判所がある場合は、こちらに離婚調停を申し立てることもできます。
離婚調停の申立書は、下記のリンク先から、「夫婦関係調停申立書」という名称で入手することができます。
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazityoutei/syosiki_01_23/index.html
調停開始
離婚調停の申立てが受理されると、1~2ヶ月程度で、裁判所から第一回目の調停の日時(調停期日)を知らせる呼出状が夫婦双方に送られます。
調停期日当日は、夫婦が交互に調停室に入り、調停委員と話し合うことを繰り返します。基本的には、調停委員と話し合って一方が出した条件を、調停委員が他方に提案して合意できるか確認するという作業の繰り返しになります。
なお、一方が調停委員と話している間に待機する待合室も夫婦別なので、夫婦が顔を合わせることはありません。
第一回目の調停期日が終了すると、その後は1ヶ月~1ヶ月半に1回程度のペースで調停期日を行うことになります。
調停終了
離婚調停は、調停の「成立」「不成立」「取下げ」のいずれかの方法によって終了します。
詳しくは次項以下をご覧ください。
調停成立
当事者が離婚自体やその条件について納得して合意し、合意内容も妥当なものである場合は、調停が成立します。
離婚調停が成立すると、裁判所が調停調書を作成します。
調停調書は合意内容が記載されているもので、判決と同じように強い効力を持ちます。そのため、例えば、合意どおりに養育費が支払われないようなときには、調停調書を根拠に強制執行を申し立てることができます。
調停が成立したら、調停調書に間違いがないかどうか、しっかりと確認するようにしましょう。
調停不成立
話し合っても合意できない場合や、相手方が期日に出席しなかったためにそもそも話し合いができないような場合には、調停は「不成立」となり手続きが終了します。
調停が不成立になると、不成立調書が作成されます。そして、当事者である夫婦は、他の離婚手続を進めるか、離婚自体を諦めるかを検討することになります。
依然として離婚を希望している場合は、通常、離婚裁判を起こします。
なお、調停に代わる審判で離婚が認められることもあります。しかし、審判離婚は異議を申し立てれば効力がなくなってしまうので、離婚自体には合意しているものの細かい条件で折り合いがつかず、当時者が裁判所に判断を委ねている場合など、例外的なケースでしか利用されません。
調停取下げ
離婚調停を申し立てた人(申立人)は、相手の同意を得ることなくいつでも調停を取り下げることができます。そのため、取下げによって調停手続きが終了する場合もあります。
調停を取り下げる理由としては、次のようなものが考えられます。
- 調停手続きの外で協議離婚が成立したから
- 夫婦関係が修復したので、離婚調停を続ける必要がなくなったから
離婚調停の準備
離婚調停をスムーズに進めるためにも、あらかじめ準備をしておくことをおすすめします。
以下、申立書の作成前後・第一回調停期日前・各調停期日など段階を分けて、それぞれのタイミングで必要になる準備について確認していきましょう。
申立書の作成前に確認すること
申立書を作成する前の段階では、申立てを行うために必要な情報を集めるとともに、「離婚調停で何を決めたいのか」を明確にしておきます。
例えば、管轄の裁判所がどこなのか確認したり、申立て費用を調べたり、申立書に必要な書類の準備をしたりします。
加えて、離婚調停のなかでどのような離婚条件を求めていくのかも整理します。
例えば、親権が欲しい、慰謝料を支払ってもらいたい、財産分与や年金分割を求めたいといった希望があれば、その理由や具体的な金額、支払方法などの細かい条件をまとめておきます。
なお、離婚調停と同時に婚姻費用の分担を請求する場合でも、離婚調停の申立書とは別の申立書を提出する必要があるので注意しましょう。
申立書を作成する
離婚調停の申立てには申立書が欠かせません。申立書にはテンプレートがあり、家庭裁判所や裁判所のWebサイトから入手できるので、これに従って記載していけば問題ないでしょう。
申立書には、下記の事項を記載するのが一般的です。
- 自分と配偶者の氏名、住所、連絡先
- 子供の名前
- 離婚に関する意思
- 離婚を希望する理由
- 離婚時の条件
なお、裁判所に提出後、申立書は相手方にも送付されます。DVをする配偶者から逃げているため現在の住所や連絡先を知られたくないといったケースでは、あらかじめ家庭裁判所に「非開示申出書」を提出することになります。
第一回調停期日までの準備
申立てが受理されたら、第一回調停期日に向けた準備をはじめます。
まず、スムーズに話をするために、
- 希望する離婚条件の詳細
- 調停委員に話す内容
- 調停委員からされる質問への回答
をメモ書きにするなどして整理しておきます。
加えて、相手のDV・不貞などの証拠があれば、提出できるようにしておきます。
また、当日の持ち物として、
- 申立書など、裁判所に提出した書類のコピー
- 離婚調停の呼出状
- 身分証明書
- メモ用紙、筆記用具
- スケジュール帳
- 電卓
- 自分の銀行口座の番号のメモ
などを用意しておくと良いでしょう。
服装は、普段着や仕事着でも構いませんが、清潔感のある華美過ぎないものをおすすめします。
調停期日ごとの準備
第一回調停期日後は、調停期日ごとに、前回までの調停期日での相手方の反応を踏まえて、提示する離婚条件を再検討したり、説明方法を考え直したり、資料や証拠を集め直したりします。
争点によって効果的な対策は異なるので、「この対策さえしておけば心配ない」と言い切ることはできませんが、調停期日の終わり際に調停委員から伝えられる宿題・準備事項に対応できるようにしておくことは重要です。
調停の付属書類について
離婚調停を申し立てる際には、申立書に下記の書類を添えて提出する必要があります。
- 事情説明書…離婚調停の申立て内容に関する事項を記載する書面
離婚調停を申し立てるより前に行った相手方との話し合いの経緯や内容、合意に至らなかった事項、それに対する自分の意見などを具体的に書きます。 - 子についての事情説明書…未成年の子供の現在の状況、心配事の有無などを記載する書面
未成年の子供がいる場合、必ず提出しなければなりません。 - 進行に関する照会回答書…調停を進める際の参考になるアンケート
相手方に手続きに応じる意思はあるか、どのような態度が予想されるかといった質問に答えます。配偶者からDVを受けていたようなケースでは、被害の内容や裁判所に求める配慮等を記載します。 - 夫婦の戸籍謄本
3ヶ月以内に発行されたものでなければなりません。 - 年金分割のための情報通知書
年金分割を請求する場合に必要なので、希望する場合は年金事務所に問い合わせるなどして入手しましょう。
離婚調停で聞かれること
離婚調停では、調停委員から、離婚や結婚生活にまつわる質問をされます。質問の内容はたいてい決まっているので、下記に挙げた5つの質問に答えられるように準備しておくと良いでしょう。
①結婚の経緯(出会いから結婚するまでのエピソード)
②離婚しようと考えた理由
③夫婦関係が修復する可能性の有無
(関係修復のために手は尽くしたか、本当に結婚生活を続けることは不可能なのか、よく考えた結論うえでの結論なのかなど)
④具体的な夫婦生活について
⑤希望する具体的な離婚条件(財産分与、養育費、婚姻費用、慰謝料、親権についてなど)
また、親権について調停を申し立てたときは、子供の利益を考える必要があるので、追加で次の質問をされる可能性が高いです。
⑥離婚後の生活の見通しについて(離婚後の住居や仕事に関する予定など)
離婚調停にかかる期間や回数
離婚調停は、1ヶ月~1ヶ月半に1回程度のペースで、大体2~4回ほど繰り返して終了することが多いです。
期間にすると、3ヶ月~半年ほどで終了するのが一般的です。とはいえ、話し合いがまとまらず、1年以上かかるケースもあります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚調停で決めておいたほうがいいこと
離婚調停では、下記に挙げる事項をはじめ、詳しい離婚条件についても取り決めます。
- 財産分与…結婚生活を送るなか、夫婦が協力して作り上げた財産を分け合うこと
どれくらいの割合で、具体的にどのような方法で財産を分け合うかを決めます。 - 親権…子供の世話や教育をしたり、財産を管理したりする権利・義務
どちらが親権を持つか、親権と監護権を分けるかといったことを決めます。なお、離婚するにあたって、どちらが親権を持つのかは必ず決めなければなりません。 - 養育費…子供と離れて暮らす親が支払わなければならない、子供が自立するまでにかかる費用
具体的にいつまで、どのようなペースで一回につきいくら支払うのか、支払日や支払方法はどうするのか、また、入学金など特別な出費が必要になった場合にどう対応するのかといった点を決めます。 - 面会交流…離れて暮らす親子が交流すること
面会交流を行うペースや一回あたりの時間、場所、子供と待ち合わせる方法、面会交流について打ち合わせるための連絡方法、プレゼントの可否などの詳細なルールを決めます。 - 年金分割…結婚していた間に納付した厚生年金の記録を分割すること
年金分割を行うか、行う場合どのような割合で分けるかを決めます。 - 慰謝料…離婚そのものや、離婚原因となった配偶者の違法な行為から精神的苦痛を受けた場合に請求できる賠償金
そもそも支払う必要があるのか、いくら支払えば良いのか、支払日や支払方法等についても決めます。
離婚調停を欠席したい場合はどうしたらいい?
どうしても外せない用事があるなど、調停期日に出席できない事情があるなら欠席する旨を事前に知らせておくか、期日変更の手続きをしましょう。
なぜなら、何も連絡せずに欠席した場合、大きな不利益を受けてしまうからです。
無断で欠席すると、調停委員や裁判官に「信用できない人だ、いい加減な人だ」という印象を与えるため、心証が悪くなり、その後の話し合いで不利になる可能性があります。
また、調停後審判に進んだ場合、審判の結論には調停委員や裁判官の心証が大きく影響するので、不利な判断がなされる可能性が高まってしまいます。
さらに、5万円以下の過料に処される可能性もあります。
離婚調停が成立したら
離婚調停が成立した後も、するべき手続きは残っています。
具体的には、調停調書を確認し、離婚届や各種書類を届け出る必要があります。次項以下で詳しくみていきましょう。
調停調書の確認
離婚調停が成立したら、裁判官が調停室で合意内容を読み上げるので、誤りがないかしっかりと確認しましょう。
また、数日後に調停調書が送られてくるので、こちらにも誤りがないことを確認する必要があります。
調停調書とは、調停での合意内容を書面にしたもので、判決と同じ強い効力を持ちます。内容に誤りがあると後々大きなトラブルになりかねないので、届き次第、念入りに確認して細かい誤字などがあればすぐに裁判所に伝えましょう。
調停調書は一度作成されてしまうと変更できないのが基本ですが、変更内容によっては、送付後すぐに伝えることで訂正に応じてもらえる可能性があります。
離婚届を提出する
離婚調停が成立しても、自動的に戸籍に離婚の記載がされるわけではありません。
そこで、調停が成立した日を含めて10日以内に、夫婦の本籍地または申立人の所在地にある市区町村役場へ「離婚届」と「調停調書(省略)謄本」を提出する必要があります。
なお、本籍地以外に届け出る場合は、「届出人の戸籍謄本(全部事項証明書)」も必要なので注意しましょう。
また、10日を過ぎてしまっても、成立した調停が無効になることはありません。ただし、届出義務違反として5万円以下の過料が課される可能性があります。
その他、提出すべき書類
必要に応じて、次のような手続きを行うことになります。
- 離婚後も婚姻中の姓を使いたい場合
⇒離婚調停成立の日の翌日から3ヶ月以内に、市区町村役場へ「婚氏続称の届出」を行います。
【必要書類】
身分証明書、届出人の印鑑(認印でも可)
なお、離婚届と同時に届け出ることができるので、手続き的な手間を少なくするためにも、併せて届け出ることをおすすめします。 - 子供を自分の戸籍に移したい場合
⇒家庭裁判所に「子の氏の変更許可の審判」を申し立て、許可を得たら市区町村役場に「入籍の届出」をします。
【必要書類】
審判書謄本、自分と子供の戸籍謄本(全部事項証明書) - 年金分割をしたい場合
⇒離婚調停成立の日の翌日から2年以内に、年金事務所で「年金分割の手続き」を行います。
【必要書類】
調停調書省略謄本(年金分割用)、元夫婦の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)、年金手帳 - ひとり親家庭に対する扶助制度を利用したい場合
⇒市区町村役場で「児童扶養手当」を申請します。
【必要書類】※自治体によって異なる場合があります
自分と子供の戸籍謄本・マイナンバー確認書類、自分の身分証明書、自分名義の預金通帳、印鑑(認印でも可)
いきなり離婚裁判をしたくても、まずは調停が必要
離婚裁判を起こすためには、例外的な場合を除いて、まずは離婚調停を行わなければなりません。
これを「調停前置主義」といいますが、具体的にどのような決まりなのでしょうか?
調停前置主義とは
調停前置主義とは、離婚裁判を起こす前に、まずは離婚調停を行わなければならないという法律上の考え方のことです。
離婚問題は、単純に法律の解釈だけで解決するのが難しく、また、夫婦や子供の精神に大きな影響を与える重要かつデリケートな問題です。いきなり法廷の場で争うことは望ましくない事柄なので、調停前置主義がとられています。
調停前置主義に反して離婚裁判を提起した場合、訴えを却下されるか、裁判所の職権で離婚調停が行われることになります。
調停前置主義の例外
調停前置主義には例外もあります。下記のような事情があるケースでは、基本的に離婚調停の手続きを踏むことなく離婚裁判を起こすことができます。
- 配偶者が行方不明で離婚調停をすることができない
- 配偶者が精神障害を抱えているなど、離婚調停では解決できない
- 配偶者が離婚調停に応じないことが明らかである
- 当事者である夫婦が外国籍で外国に在住しているなど、離婚調停になじまない
調停を取り下げて訴訟できる場合もある
たとえ離婚調停を取り下げたケースでも、離婚裁判を起こすことができる場合があります。
例えば、次のようなケースでは、実際に調停手続きを利用して離婚の話し合いを試みたといえるので、調停前置主義を満たすと判断される可能性があるでしょう。
- 相手方と離婚調停で何回も話し合いを重ねたものの、合意できそうになかったため離婚調停を取り下げたケース
- 相手方が調停期日に連続して欠席したため、離婚調停を取り下げたケース
弁護士に依頼するメリット
離婚調停の際に弁護士に依頼すると、次のようにたくさんのメリットを得られます。
- 交渉を有利に進められる可能性が高まる
法律のプロであり、離婚問題を数多く扱ってきた弁護士なら、調停委員や裁判官に効果的に訴えられる主張の方法を知っています。そのため、ポイントを押さえた主張をすることで、交渉を有利に進められる可能性が高まります。 - 調停に同席してもらえる
弁護士に依頼すれば、調停に同席し、こちらの希望をより実現しやすい形にまとめて主張してくれます。こうしたサポートによって、希望に適う条件で離婚調停を成立させられる可能性が増します。 - より迅速な調停の成立が期待できる
弁護士は、妥協すべきポイントや、大きくは不利にならない妥協の仕方などを熟知しているので、アドバイスを受けることで、無用な対立を避けながら調停の成立を目指すことができます。その結果、スピーディーに解決できる可能性が高まります。
離婚調停を希望するなら弁護士にご相談ください
協議離婚の成立が難しく、離婚調停を利用することを検討されている方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
離婚調停では、様々なことを話し合い、合意に向けて双方の意見をすり合わせる必要があります。しかし、ご自身だけで対応する場合、妥協すべきポイントや調停委員に効果的に訴える方法がわからず、なかなか有利な条件が引き出せなかったり、調停が長引いたりする可能性があります。
この点、離婚問題を取り扱った経験が豊富な弁護士なら、離婚調停を有利かつスムーズに進めるためのポイントを知っているので、アドバイスを受けることで、希望に適う離婚条件での調停成立に近づきます。
離婚調停を有利に進めたい方は、まずはお電話で専任のスタッフに事情をお聴かせください。お悩みの解決に向けてお手伝いさせていただきます。
交通事故で、当事者のどちらか一方にしか責任が認められないことは稀です。後続車から追突されたケースや、対向車線からセンターラインをはみ出してきた車とぶつかったケースでもない限り、事故の被害者にも責任があると判断されるのが基本です。
今回は、事故の被害者に“2割”の責任が認められる「過失割合8対2」のケースについて解説していきます。過失割合が8対2となる具体的な事故のパターンや、過失割合に納得がいかない場合の対処法など、損害賠償金を増額するために必要な知識をお伝えしますので、ぜひご覧ください。
交通事故で過失割合が8対2とは?
過失割合とは、発生した交通事故に対する当事者の責任の大きさを数値にしたもののことです。
過失割合が8対2の場合は、交通事故に対して、加害者が8割・被害者が2割の責任を負うことになります。
「たった2割」と思われるかもしれませんが、過失割合が少しでも認められてしまうと、損害賠償金を満額では受け取れなくなってしまいます。
具体的には、過失割合が2割認められる場合、実際にもらえる損害賠償金は、「過失相殺」によって、本来もらえたはずの損害賠償金の8割まで減額されてしまいます。
交通事故で過失割合8対2の場合の過失相殺
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 8 | 2 |
損害額 | 500万円 | 1000万円 |
請求金額 | 500万円×0.2=100万円 | 1000万円×0.8=800万円 |
実際にもらえる金額 | 0円 (700万円支払う必要があります) | 800万円-100万円=700万円 |
過失割合が8対2で被害者の損害額が1000万円の場合、被害者の過失の2割分が1000万円から減額されてしまうので、被害者が請求できる金額は1000万円の8割の800万円となります。
しかし、実際に800万円を満額もらえるわけではありません。被害者には2割の過失があるので、加害者の損害額の2割である100万円を支払わなければならないからです。
つまり、実際にもらえる金額は、請求できる金額から支払わなければならない金額を差し引いた額になるので、「800万円-100万円=700万円」ということになります。
過失割合8対2に納得がいかない場合
交通事故後しばらくして、保険会社から「今回の事故の過失割合は〇対〇です」といった提示を受けることがあります。しかし、交渉においては、過失割合は当事者が合意のうえ決めるので、保険会社との交渉次第では変更できます。
保険会社が提示してくる過失割合は、事故の状況を機械的にパターンに当てはめた“基本過失割合”であることが多いです。そのため、相手がスピード違反をしていたなど、自分に有利な事情を証明できれば、過失割合を修正できる可能性があります。
では、過失割合が8対2の場合、どのような事情が修正要素となるのでしょうか?次項よりみていきましょう。
過失割合8対2の修正要素とは
過失割合の“修正要素”とは、事故のおおまかな状況に応じて機械的に出される“基本過失割合”を修正する、個々の事故における具体的な事情をいいます。
例えば、同じ道路を走行している直進車(被害者)と右折車(加害者)が衝突したという自動車同士の事故のケースでは、下表にまとめたような事情が修正要素となります。
なお、表をご覧いただくとわかるとおり、修正要素によって修正後の過失割合の比率も異なるのでご注意ください。
※以下の表中の修正要素及び修正割合はサンプルであり実際のものとは異なる場合があります
修正割合 | ||
---|---|---|
修正要素 | 加害者 | 被害者 |
加害者が徐行しなかった | +10 | |
加害者が右折禁止違反を破った | +10 | |
加害者がウィンカーを出さなかった | +10 | |
加害車の車両が大型車である | +5 | |
被害者の15km/h以上の速度違反 | +10 | |
被害者の30km/h以上の速度違反 | +20 | |
被害者に著しい過失がある (脇見運転、酒気帯び運転など) | +10 | |
被害者に重過失がある (酒酔い運転など) | +20 |
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
過失割合を8対2から8対0にできるケースがある
過失割合8対2に納得がいかない場合、過失割合を「8対0」とする“片側賠償”にすることで、折り合いをつけられる可能性があります。
“片側賠償”とは、事故の当事者両方に過失を認めつつ、一方にだけ損害賠償金の支払義務を負わせることをいいます。
過失割合を8対0とする場合、8対2の場合よりももらえる損害賠償金は増えます。ただし、完全に過失のない10対0の場合と比べれば低額になる点にはご注意ください。
8対0の計算方法
過失割合が8対0の場合、8対2の場合と比べて、もらえる損害賠償金はどれくらい増額するのでしょうか?
加害者と被害者の損害額がそれぞれ500万円と1000万円のケースを例に、もらえる損害賠償金について表にまとめてみました。
加害者 | 被害者 | |
---|---|---|
過失割合 | 8 | 0 |
損害額 | 500万円 | 1000万円 |
請求額 | 0円 | 800万円 |
実際にもらえる金額 | 0円 | 800万円 |
8対0といっても被害者に2割の過失があることに変わりはないので、被害者は損害額の8割の800万円しか請求できません。
しかし、加害者だけが損害賠償金を支払う義務を負うので、8対2の場合のように、加害者の損害額の2割に相当する100万円を支払う必要はありません。
つまり、損害賠償金100万円の支払いが免除される分、請求額を満額もらうことができるので、実際にもらえる金額が100万円増額することになります。
交通事故の過失割合8対2からより有利に修正できた解決事例
粘り強い交渉によって8対2から10対0へ修正することができた事例
依頼者が交差点の優先道路側を自動車で走行していたところを、一時停止を無視した加害者の自動車に衝突されてしまった事例です。
相手方(加害者側)保険会社の「過失割合は8対2である」という主張に納得がいかなかったため、弊所にご相談くださいました。
担当弁護士は過去の裁判例をもとに、事故態様からして加害者側の過失が大きく、8対2は不当である旨を主張しました。
また、依頼者は将来的に自動車を売却予定であったため、事故により車の価値が下がってしまったことへの賠償金も支払うよう、資料を揃えて交渉しました。
粘り強い交渉の結果、過失割合を9対0に修正する内容で合意し、修理費に加えて修理費の約1割に相当する金額を支払ってもらえることになりました。
過失割合の修正要素について交渉した結果、過失割合の修正に成功した事例
続いて、自動車を運転する依頼者が青信号に従い交差点を直進していたところ、対向車線から右折してきた加害者の自動車に衝突されたという事故の事例をご紹介します。
この事故により、依頼者はむちうちと肋骨骨折の傷害を負い、乗っていた車両も全損してしまいました。
保険会社との示談交渉では、過失割合を8対2とする賠償案が提示されましたが、適切かどうか疑問に思われ、弊所にご相談いただきました。
保険会社は、当初、物損について「基本過失割合の修正を認めない」という立場をとっていました。しかし、弊所が事故状況に関する追加証拠を集めたうえで、改めて過失割合の修正要素について交渉を重ねたところ、最終的には過失割合を95対5として交渉を進めることで合意しました。
また、弊所が後遺障害等級認定の申請を代行し、後遺障害等級14級9号の認定を獲得した結果、人損についても依頼者に有利な過失割合で示談を成立させることに成功しました。
交通事故の過失割合8対2でもめている場合はすぐに弁護士にご相談ください
保険会社から提示された過失割合に納得がいかない場合には、交通事故問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
なぜなら、弁護士以外が適正な過失割合を見極めることは難しく、また、保険会社は、専門知識があり交渉のプロでもある弁護士の主張でなければ聞き入れないことが多いからです。
また、特に過失割合の適正さを判断するにあたっては、事故状況の正しい分析や細かい修正要素の拾い上げが欠かせないので、弁護士のアドバイスが役に立ちます。
8対2という過失割合が本当に適正なのかお悩みの方や、過失割合について加害者側ともめてしまっている方、損害賠償金の増額を希望される方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
交通事故で肘や膝などの関節部分を怪我した場合、治療しても、交通事故に遭う前のようには動かなくなってしまうことがあります。このような場合、交通事故による後遺障害として「可動域制限」が認定される可能性があります。
今回は、この「可動域制限」について、後遺障害等級認定を受けるための要件や認定され得る等級、もらえる慰謝料の相場などを解説していきます。
可動域制限とは
可動域制限とは、怪我をした関節の動きが正常な関節と比べて悪くなっている状態をいいます。
例えば、交通事故により右膝の半月板という組織を損傷してしまい、治療後も右膝が曲げにくいという症状が残ったようなケースで、可動域制限と認められる可能性があります。
このようなケースでは、怪我をした右膝の関節の可動域(関節を動かせる範囲)が、正常な左膝の関節の可動域と比べてどれだけ狭まったかを測って、可動域制限の程度を判断します。
交通事故による可動域制限の原因
交通事故による可動域制限は、原因別に3種類に分けられます。
- 器質的変化を原因とするもの
骨折や脱臼により関節自体が破壊されたり、関節の動きを安定させる靭帯が強く伸び縮みしたりすることで、関節や周辺部の骨組織や軟部組織が損傷した結果、可動域が制限される可能性があります。 - 機能的変化を原因とするもの
神経麻痺による筋力の低下や動かすと痛むといった理由から、関節の曲げ伸ばしが難しくなり、可動域制限が起こることもあります。 - 人工関節などの挿入を原因とするもの
関節の状態や痛みを改善するために、治療の一環として人工関節や人工骨頭を挿入することがあります。このような施術を受けた場合、可動域が制限されたと判断されます。
上記のいずれの可動域制限も、関節周辺部を骨折・脱臼する事故や神経麻痺を引き起こすような事故に遭った場合に、発生することが多いといえるでしょう。
可動域制限の後遺障害認定に必要な要件
事故で関節に可動域制限が残ってしまった場合でも、それだけで必ず後遺障害として認められるとは限りません。
可動域制限で後遺障害等級認定を受けるには、
①可動域制限の症状の重さが一定以上であること
②可動域制限の原因が、医学的な検査によって明らかになっていること
という2つの要件を満たさなければなりません。
後遺障害として認定され得る可動域制限は、症状の重い順に、
- 関節の「用を廃したもの」
- 関節の「著しい機能障害」
- 関節の「機能障害」
の3段階に分けられます。以下、詳しくみていきましょう。
関節の「用を廃したもの」
関節の「用を廃したもの」とは、関節がまったく動かせないか、または怪我をした側の関節の可動域が正常な側と比べて10%程度以下になっている場合を指します。
一般的に、関節内の筋肉組織が壊れ、固まって動かなくなってしまう「関節強直」や、筋肉につながる末梢神経の機能が損なわれたことによる「完全弛緩性麻痺」などが原因となっていると考えられます。
また、人工関節や人工骨頭の挿入・置換術を受け、怪我をした側の可動域が正常な側の2分の1以下になった場合にも、関節の「用を廃したもの」として扱われます。
関節の「著しい機能障害」
関節の「著しい機能障害」とは、怪我をした側の関節の可動域が正常な側の2分の1以下になっている場合、または人工関節や人工骨頭の挿入・置換術が行われた場合を指します。
例えば、正常な左膝の可動域が130度であるにもかかわらず、怪我をした右膝の可動域が50度に留まるケースでは、右膝の可動域が左膝の2分の1以下に狭まっているので、関節の「著しい機能障害」にあたると判断されます。
関節の「機能障害」
関節の「機能障害」とは、怪我をした側の関節の可動域が正常な側の4分の3以下になっている場合を指します。可動域制限の中では一番程度が軽いものをいいます。
具体例としては、怪我をした右肩の上下運動の可動域が20度であるのに対して、正常な左肩の可動域が30度であるケースなどが挙げられます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
動域制限の後遺障害等級と慰謝料
後遺障害等級が認定されれば、認定された等級に応じた金額の後遺障害慰謝料を受け取ることができます。
可動域制限の場合、認定される後遺障害等級は、可動域制限の症状の重さ(後遺障害の内容)に応じて異なるので、後遺障害慰謝料の金額も可動域制限の程度によって変わることになります。
具体的な後遺障害慰謝料の金額を知りたい方は、可動域制限として認定される可能性のある後遺障害等級とその慰謝料の相場をまとめた下表をご覧ください。
上肢
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級6号 | 1上肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
下肢
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級7号 | 1下肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級7号 | 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
可動域制限が認められた事例
ここで、弁護士法人ALGがご依頼を頂戴し、解決に導いた実際の事例をご紹介します。
依頼者がバイクで直進中、わき道から出てきた自動車と衝突して右肩付近を骨折し、治療後も肩関節の可動域制限と痛みが残ってしまった事例です。
保険会社から提示された賠償金額は、特に後遺障害逸失利益の金額がかなり低く見積もられていたため、適正な賠償金額を巡って争いになりました。
受任後、弁護士は、依頼者の可動域制限等の後遺症が仕事に与える影響といった点を踏まえて賠償金額を算定し直し、将来的に依頼者に大きな減収が生じる可能性などを指摘しつつ交渉を行いました。その結果、後遺障害逸失利益を当初の3倍近くの金額に引き上げることができました。
また、慰謝料の増額にも成功し、最終的に全体で約530万円の増額に成功しました。
可動域制限の後遺障害が残ってしまったらご相談ください
医師は後遺障害等級認定の専門家ではないので、たとえ整形外科医であっても、等級認定に欠かせない可動域の測定を誤ることがあります。しかし、可動域を正確に測れなければ正しい等級認定が受けられないので、適正な賠償金を受け取れない可能性があります。
十分な賠償を受けるためにも、可動域制限などの後遺症がみられる場合は、交通事故に詳しい弁護士などの専門家の意見を聴くことが重要です。
特に弁護士法人ALGには、交通事故分野や医療分野をはじめ、各法律問題に特化した事業部があるので、専門性の高いサービスを提供できます。また、事業部を超えて連携して問題の解決にあたるので、交通事故に関する知識はもちろん、後遺障害の問題を解決するうえで欠かせない医療分野の知識も活用することができます。
可動域制限の後遺症が疑われる方は、まずはお電話で状況をお聴かせください。専任のスタッフが対応させていただきます。
-
保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)