監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
離婚の際に親権を獲得して、子供と一緒に暮らすことになった方の親は、もう一方の親から養育費を毎月受け取ることができます。
しかし、子供との生活を続けていると、思った以上に出費がかさんでしまい、離婚時に取り決めた金額の養育費では家計が回らなくなってしまうこともあるかと思います。このような場合、養育費を増額するよう相手に求めることはできるのでしょうか。
本記事では、養育費の増額が認められる要件や、請求の方法などについて解説します。養育費を増額したいとお考えの方は、ぜひご一読ください。
一度決めた養育費を増額してもらうことはできる?
通常、養育費の金額などの条件を決めるのは離婚時です。ただ、養育費は「子供が社会的に自立できる年齢になるまで」という長い期間、やり取りを続けるものであるため、想定外の出来事が生じて増額してほしいと思うことはあるでしょう。
まず前提として、一度決めた養育費であっても、相手が承諾するのであれば、増額してもらうことはできます。
しかし、いくら頼んでも相手の同意が得られない場合は、裁判所の手続きを踏んで改めて取り決める必要が出てきます。法的には、以下の条件を満たせば、養育費の増額が認められる可能性があります。
- 取り決め時に前提となっていた客観的な事情に変更があったこと
- その事情変更をあらかじめ予測することが困難だったこと
- 事情変更が生じたことに当事者の責任がないこと
- 取り決めどおりの条件をそのまま継続すると著しく不公平になること
養育費の増額請求が認められる要件
養育費の増額請求が認められる事情変更として、具体的には以下のようなケースが考えられます。
- 子供を監護する親が、突如リストラにあって無収入となった。
- 子供を監護する親が、病気などを理由に以前のように働くことができなくなり、収入が減った。
- 子供を監護していない方の親が、転職などによって収入が大幅に増えた。
- 子供が病気やケガをして、高額な治療費がかかるようになった。
- 子供が高校や大学へ進学した。
- 子供が私立学校へ進学した。
なお、子供の進学による支出の増加は、離婚時でも想定できることであるため、「本来であれば最初に取り決めをする際に考慮しておくべき」と裁判所に判断されてしまう可能性はあります。
また、私立学校の学費分の増額については、両親の収入や学歴などを踏まえて相当と判断される場合に認められます。
養育費算定表を参考に増額額が決まる
養育費の増額請求をする場合、離婚時に取り決めたときと同様に「養育費算定表」を参照して、請求する金額を決めます。養育費算定表は裁判所のWEBサイトで公開されていて、双方の収入や子供の人数・年齢を当てはめるだけで、簡単に養育費の相場を調べることができます。
この算定表は2019年12月に改定されており、生活費や税負担の増加など、現在の社会情勢を反映した結果、旧算定表よりも増額傾向となっています。
ただ、算定表が改定されたことだけを理由に、一度決めた養育費を増額するよう請求しても、基本的には認められません。裁判所の手続きを経る場合、増額する正当な理由(事情変更)が求められることになります。
養育費の増額請求の方法について
それでは、実際に養育費を増額するよう相手に請求したい場合、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。以下で説明します。
まずは話し合いを試みる
法的に養育費を増額するに値する事情変更が特になかったとしても、任意の話し合いの段階であれば、相手が合意さえすれば、増額することは可能です。そのため、まずは相手の説得を試みましょう。
ただし、養育費を支払っている相手にお願いする立場となるため、あまり高圧的な態度にならないよう気を付けてください。現在の家計の収支を明らかにし、なぜ増額してほしいのか丁寧に論理立てて説明する必要があります。
内容証明郵便を送る
相手が話し合いに応じてくれるとは期待できない場合、内容証明郵便を送っておくのもひとつの手です。内容証明郵便であれば、差出人や受取人、送付日や受取日だけでなく、手紙の内容までも郵便局に証明してもらうことができ、裁判所の手続きでも養育費の増額請求をしたことの証拠として扱われます。
増額請求が認められた場合、「増額請求したとき」にさかのぼって、変更後の金額を適用することも可能です。「増額請求したとき」=「調停申立て時」となることが多いですが、事前に内容証明郵便を送っていれば、「増額請求したとき」=「内容証明郵便の受取日」となる可能性があるので、早めに送っておくと良いでしょう。
合意を得られなかったら調停・審判へ
任意の話し合いで説得することができなかった場合、家庭裁判所に「養育費増額調停」を申し立てましょう。調停とは、一般市民から選ばれた知識人である“調停委員”が、双方の話し合いを取り持ってくれる裁判所の手続きです。
調停では双方が直接顔を合わせずに済み、調停委員がそれぞれから聴取した事情をもとに解決策を提示してくれるため、話し合いが円滑に進むことが期待できます。
そして、調停で合意に至った際には、「調停調書」が作成されます。この調停調書があれば、相手が約束を守らなかったとしても、強制執行によって相手の財産を差し押さえることができます。
調停でも話し合いが決裂した場合は、裁判官が判断を下す「審判」にそのまま移行します。審判が確定すると「審判書」が作成されますが、こちらも調停調書と同様に強制執行の効力があります。
なお、審判で提示された金額に納得がいかないようであれば、高等裁判所に即時抗告をすることも可能です。
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養育費の増額について決まったら公正証書を作成する
任意の話し合いで養育費の増額が決まったのであれば、必ず公正証書を作成するようにしましょう。話し合って口約束をしただけでは、調停調書や審判書のように、取り決めた内容を証明してくれるものが残りません。最悪の場合、相手から話し合いをなかったことにされてしまうおそれがあります。
公正証書は公証役場で作成を依頼することができ、公文書として扱われるため、法的にも信頼性のある証拠となります。さらに、増額した養育費を約束通り支払わなければ、強制執行に従うという趣旨の内容の文言(強制執行認諾文言)を入れておけば、強制執行を申し立てることも可能になります。
養育費の増額が認められた裁判例
ここで、実際に養育費の増額が認められた裁判例を紹介します。
【東京高等裁判所 令和3年3月5日決定】
長男Aの親権者である母親が、相手方である父親に対して養育費の増額請求調停を申し立て、その後審判に移行した事案です。
両者は平成28年に調停離婚をした際に、長男Aの養育費を「月額5万円」にすると取り決めましたが、以下の2点を理由に、母親が養育費の増額を請求しました。
- 相手方の年収が増額したこと
- 長男Aが15歳になり、公立高等学校に進学したこと
審判では、これらの事情変更は想定内のものであるため、母親の請求は認められないとしましたが、母親はこれを不服として高等裁判所に即時抗告しました。
高等裁判所は、以下の事情を考慮して、養育費を「月額6万円」に増額することが相当と認めています。
①「長男Aが20歳になるまで養育費を増額しないこと」について、協議して合意した証拠がない。
②特段の事情がない限り、子が15歳に達したことは養育費を増額すべき事情変更に該当する。
③離婚時に取り決めた養育費(月額5万円)は、長男Aの英会話学校の費用を考慮して、改定前算定表の目安額(月額4万~6万円)よりも若干高めであった。
④③の事情があるにもかかわらず、長男Aが15歳になった後は、新算定表の目安額(月額6~8万円)より低めの月額5万円を維持すると合意したとは想定しにくい。
この裁判例では、「子が15歳に達したこと」を養育費を増額すべき事情変更として認めており、さらに増額後の養育費の算定については、新算定表を参照しているという点がポイントといえるでしょう。
よくある質問
養育費の増額請求を拒否された場合はどうしたらいいですか?
任意の話し合いで増額請求を相手に拒否されたら、すみやかに調停を申し立てましょう。調停でも相手が一貫して拒否し続けていたり、増額の意向は見せているけれど、ごく一部の条件で折り合いがつかなかったりする場合、家庭裁判所の判断で審判に移行します。
審判では裁判所に判断を下してもらえます。ただし、その内容に不服がある者は、2週間以内に異議を申し立てれば(即時抗告をすれば)審判を無効化することができます。この場合、高等裁判所で再審理がなされることになるので、さらに結論までに時間を要します。
相手側が養育費増額調停を欠席した場合は増額が認められますか?
相手が調停を欠席したからといって、ただちに増額が認められるわけではありません。初回の調停を相手が欠席した場合、よほどの理由がなければ、申立人であるあなたのみが調停委員に事情を聴取されたうえで、改めて別の日程を組み直します。
しかし、その後も相手が欠席を続けるようであれば、裁判所の判断で調停は不成立となり、審判へと移行します。審判では、裁判所が双方の提出した資料や、主張する内容をもとに判断を下します。そのため、審判に至っても相手が何の反応も示さない場合、裁判所はあなたの主張をもとに判断することになるため、増額したい理由が法的に正当であれば、認められる可能性は高いでしょう。
今月15歳になる子供がいます。数年前の離婚時に一律と決めた養育費を、算定表に合わせて増額するよう請求することは可能ですか?
養育費算定表は、子供が14歳以下の場合と15歳以上の場合とで分けられています。15歳以上になると、生活費がよりかかるようになると考えられているため、14歳以下に比べて養育費は高額になるよう設定されているのです。
離婚時は子供が14歳未満で、その年齢を基準に養育費を決めたけれど、15歳になったので改めて算定表に当てはめて算出したら、いま受け取っている金額より高額だったというケースはあるでしょう。
子供が15歳に達したり、高校に進学したりしたことを契機に養育費の増額を求めた場合、その請求が認められる可能性はあります。
また、裁判所は、養育費の金額について、子側に不利な内容の合意については認めない傾向があります。ただ、今回のケースは離婚時に「養育費を一律にする」と取り決めたとのことなので、もともと相場より高額に設定していた等の事情によっては、子供が15歳になったことを理由に増額請求を認めてもらうのは難しい場合もあり得ます。
養育費の増額請求を行う場合は弁護士にご相談ください
養育費を現在受け取っている金額よりも増額してほしい場合、相手が任意で了承してくれるケースを除いて、基本的にはあらかじめ予測することが困難だったといえる“事情変更”が求められます。
そして、実際に相手に増額請求する際は、収入や支出がわかる資料をそろえて、なぜ増額してほしいのかを具体的に説明する必要があります。
この点、弁護士は過去の裁判例などを根拠にして、論理的に相手を説得したり、調停や審判などの場面で主張したりすることを得意とします。
養育費は子供が健全に成長できる環境を整えるために、必要不可欠なお金です。養育費が足りずにお困りの方は、ぜひ弁護士に一度ご相談ください。
遺言書は、相続財産の分配をどのように行うのかを判断するうえで、法的に極めて重要な意味合いを持った書面です。そのため、遺言書は、その効果の重要性ゆえに作成するにあたって守るべきルールが定められており、ルールに反した遺言書については無効となってしまうおそれがあります。せっかく作った遺言書が無効となり、相続人間のトラブルの原因とならないように遺言書作成のためのルールをきちんと把握しておくことが必要となります。
遺言書に問題があり、無効になるケース
遺言書が無効となってしまうケースとしては、自筆遺言書について、作成に関する形式的ルールが守られていない場合、公正証書遺言について不適格な証人が立ち会っていた場合など、様々なものが想定されることになります。以下では遺言書が無効となる典型的なケースをいくつか紹介しますので、遺言書作成の参考にされてください。
日付がない、または日付が特定できない形式で書かれている
自筆証書遺言の場合、作成された日付を記載する必要があり、遺言書に作成された日付の記載がない場合には遺言書が無効となります。日付は、一般的に年月日が記載されていることまでが求められますが、具体的な日付ではなくても、「末日」という記載があれば遺言書が有効される余地があります。
その他、「還暦の日」や「○歳の誕生日」という形で一般的に日にちが特定可能なものについても有効となる場合がありますし、「平成」を「平生」と記載しているような明らかな誤記についても、有効となる場合があります。
遺言者の署名・押印がない
自筆証書遺言の場合、遺言者は署名と押印する必要があり、署名、押印のいずれかを欠く遺言書は原則として無効となります。
もっとも、署名は遺言者が誰であるかを明確にすることが趣旨とされていることから、必ずしも戸籍上の氏名でなくても、通称、芸名、ペンネームなどでも有効とされる場合があります。
また、押印については、実印である必要はなく、認印や指印、拇印でも足りるとされています。
内容が不明確
遺言書の内容が不明確であると、遺言者の真意が分からず、相続手続を行うことができないことから、遺言書は無効となります。例えば、「身内」とだけ記載があり、誰に相続させるつもりなのか分からない場合などが考えらえます。
もっとも、遺言書の解釈にあたっては、一義的に内容が明確ではなくても、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものと考えられており、「単に、遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出し、その文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して、遺言者の真意を探究し、当該条項の趣旨を確定すべきもの」とされています(最高裁昭和58.3.18第二小法廷判決)。
そのため、不明確な表現があったとしても、遺言書の他の記載や、作成当時の状況等から解釈ができるのであれば、無効とならない場合があります。
訂正の仕方を間違えている
遺言書は、内容を訂正することも認められていますが、定められた方法によって訂正を行う必要があり、誤った訂正方法をした場合、遺言書全体が無効とされてしまう可能性もあります。
遺言文中に内容を加えたり、変更を加えたりする場合、遺言者がその場所を指示し、変更した旨を付記してこれに署名し、さらにその変更の場所に印を押さなければなりません。修正テープによる訂正や二重線による訂正を行うことはできないので注意が必要です。
共同で書かれている
「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」と定められていることから(民法975条)、複数人が共同で遺言書を作成することができません。
例えば、AさんがBさんに、CさんがDさんに財産を相続させるといったように、同一の証書に数人のそれぞれ独立した遺言がされる場合、遺言書は無効となります。
認知症などで、遺言能力がなかった
遺言者が遺言をする時には、遺言の能力を有していなければなりません(民法963条)
そのため、遺言書作成の時点で認知症などにより遺言能力がなかったとされた場合には遺言は無効となります。遺言能力とは、遺言の内容や効果を理解する意思能力のことを指すとされており、その有無は、当時の年齢、健康状態やその推移、遺言の内容等の様々な要素から判断されることになります。
誰かに書かされた可能性がある
遺言書は、遺言者の真意に基づいて作成されたことが重要となります。
そのため、遺言書が存在していたとしても、誰かに強迫されて書かされていたり、誰かに騙されて書かされていた場合、あるいは、認知症で理解のできないまま唆されて作成した場合、無効となる可能性があります。
証人不適格者が立ち会っていた
秘密証書遺言や公正証書遺言を作成するためには証人の立会いが必要となります。
しかし、誰でも遺言書の証人になれるわけではありません(民法974条)。
①未成年者、②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人は、遺言の証人又は立会人になることができませんので、これらの者が遺言の証人又は立会人になっていた場合には、遺言が無効になる可能性があります。
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遺言書の内容に不満があり、無効にしたい場合
遺言書を作成した時期には遺言者の認知症がかなり進行していた証拠が残っている場合など、実務上、遺言書が無効になるケースは決して珍しくはありません。
遺言書が自分に不利な内容である場合(例えば、他の相続人に財産の全てを相続させる場合)などについては、遺言書が無効になると、相続できる財産が増える場合が考えられます。例えば、遺言書が有効であれば、遺留分しか請求できなくとも、遺言書が無効となれば、法的相続分どおりに相続できることになるケースなどがあり得ます。
そして、遺言が無効であることを確認するために、遺言無効確認調停の申立てや、遺言無効確認訴訟の提起を行う方法があります。
遺言無効確認調停
遺言無効確認調停とは、遺言が無効であることを確認するための話合いを行うことを求めるものです。遺言書の無効を求める手続きについては、いきなり訴訟を行うことはできず、調停を先に行う必要があります(調停前置主義)。調停が平行線となり、話合いでの解決が難しい場合には、訴訟に移行することになります。
なお、調停前置主義が取られていますが、いきなり訴訟を提起した場合でも、裁判所が調停に付することが相当でないと認める場合には、調停が省略される場合もあります(家事事件手続法257条2項)。
遺言無効確認訴訟
遺言無効確認調停が不成立になる、若しくは、遺言無効確認調停を経たとしても不成立になることが明らかな場合には、遺言無効確認訴訟を提起することになります。
遺言無効確認訴訟については、遺言書が無効であるかどうかを話し合いではなく、裁判官が提出された証拠等に基づいて判断することになります。
時効は無いけど申し立ては早いほうが良い
遺言書が無効であるかを確認する手続きを取るうえで、法律上、時効期間は規定されていません。そのため、いつでも遺言無効確認調停を申し立てたり、遺言無効確認訴訟を提起することが可能であって、相続開始時から時間がたってから行うことも可能です。
しかし、遺言書が作成されてから時間が経てば経つほど、遺言書が無効である事情の証明が難しくなったり、証拠等が処分されたりする可能性があるため、できるだけ早い段階で行動に移す方がよいといえます。
遺言書を勝手に開けると無効になるというのは本当?
遺言書の保管者または保管者がいない場合で、遺言書を発見した相続人は、遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を請求する必要があり(民法1004条1項)、封印のある遺言書は、家庭裁判所において、相続人(またはその代理人)の立会いがなければ、開封することができません(同条3項)。
法律で定められた手続を定めた遺言書の提出や検認を怠った場合には、5万円以下の過料に処せられることがあります(民法1005条)。
遺言書の検認は、一種の検証ないし証拠保全の手続きですので、遺言の効力の有無に直結するものではありません。そのため、遺言書を勝手に開けても直ちに無効と言わけではありませんが、保管されている、もしくは発見した場合には、速やかに家庭裁判所に提出するのがよいといえます。
遺言書が無効になった裁判例
原告が、遺言書が作成された時点で遺言者に遺言能力がなく、遺言者の意思に基づかずに作成されたものであるとして、遺言無効確認訴訟を提起した結果、遺言が無効と判断された事案があります(東京地裁平成30年1月30日判決)。
裁判所は、遺言者が遺言書作成前の時点で夜間徘徊を繰り返していたこと、遺言者の施設での言動の内容等から判断して、遺言書作成時点でアルツハイマー型認知症は相当程度進行していたとし、本件遺言は無効であると結論付けました。本件では、公正証書という一般的に信用性の高いとさせる公正証書遺言が無効となった点で特徴的といえます。
遺言書が無効かどうか、不安な方は弁護士にご相談ください
遺言書が無効となるかどうかによって、相続人の受け取る相続財産の金額は大きく異なることがありますが、遺言書が有効か無効かの判断をすることは容易ではありません。
遺言書の無効を確認することは、自分の利益のためのみならず、被相続人の意思を尊重することにもつながるものです。
適切な相続の実現のためにも、遺言書に関する知識や経験を有している弁護士に依頼した上で、遺言書の有効性を判断してもらうことをおすすめいたします。
多数の相続事件を担当してきた弊所に是非お気軽にお問い合わせください。
被相続人の生前、その財産の維持や増加について特別に貢献した相続人は、他の相続人に対し、法定相続分に寄与分をプラスするよう主張することができます。もっとも、相続人間の話し合いで、寄与分の合意が成立しないこともあります。
その場合、家庭裁判所に遺産分割調停、寄与分を定める処分調停を申し立てることができます。調停では、感情的な主張は避け、法律上どのような場合に特別の寄与が認められるかを意識しながら、主張や立証を行うことが大切です。本記事では、寄与分の調停におけるコツを分かりやすく解説します。
寄与分とは
寄与分とは、被相続人の生前、被相続人の介護や看護を行う、被相続人の事業を手伝うなど財産の維持または増加について特別に貢献した相続人について、法定相続分にその貢献分をプラスしますが、その貢献分をプラスさせる制度のことをいいます。
寄与分が認められる条件として、①相続人であること、②被相続人の財産の維持または増加に貢献したといえること、③法律上の義務の範囲を超えて貢献したこと、④継続的に貢献行為をしたこと、⑤無償または無償と評価できるような貢献をしたことの5つを満たさなくてはいけません。その中でも、③については争われることが多く、「特別の寄与」をしたか否かで対立が生じやすいです。そもそも、対象行為が寄与といえるのかどうかも判断の分かれ目になり、以下の表にまとめてあります。
類型 | 寄与行為 |
---|---|
家業従事型 | 被相続人の自営する店舗で手伝いをした場合(但し無償の場合に限る) |
金銭出資型 | 被相続人の自宅のリフォーム費用を支払った場合など資金援助をした場合 |
療養看護型 | 被相続人の介護を毎日した場合や介護士を雇うのに費用を支出した場合 |
扶養型 | 病気やケガで働けない被相続人に対し生活費を援助した場合 |
財産管理型 | 被相続人の賃貸不動産を管理するなどその財産形成に貢献した場合 |
法改正により新設された「特別寄与料」との違いは?
寄与分 | 特別寄与料 | |
---|---|---|
対象となる人 | 相続人 | 相続人以外の被相続人の親族 |
寄与となる行為 | 被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法 | 被相続人の療養看護その他の労務提供 |
相続人以外の被相続人の親族が、被相続人の生前、介護や看護によりその財産の維持や増加に貢献した場合に、相続人に対し、その貢献度に応じて支払いを請求できる金額のことをいいます。
寄与分と異なり、特別の寄与を主張するのは相続人以外の親族です。また、被相続人に対する財産上の給付行為が寄与行為に当たらない点も寄与分とは異なるため注意が必要です。
特別寄与料の目的は、相続人でなくとも、被相続人の世話を献身的に行った親族に対し、公平な保護を図ることにあります。
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寄与分を主張する方法と流れ
相続が開始すると、相続人同士で遺産分割協議を行い、各々の相続分について話し合いをします。その話し合いの中で寄与分を主張することができます。
話し合いで寄与分について合意ができなかった場合、家庭裁判所に遺産分割調停、寄与分を定める処分調停の申立てができ、併せて申し立てることも可能です。それでも話合いがまとまらず、調停が不成立になれば、自動的に遺産分割審判に移行します。審判では、当事者が家庭裁判所に集まり、主張書面や証拠を提出しますが、追加で意見を述べることも可能です。そして、一通り提出が終われば、審判が下されることになります。
寄与分を主張する調停には2種類ある
遺産分割調停 | 遺産分割の方法を全般的に決める調停 |
---|---|
寄与分を定める処分調停 | 寄与分の具体的金額を決める調停 |
相続人同士の遺産分割協議で話し合いがまとまらない場合、調停を申し立てることができます。
調停には、遺産分割調停、寄与分を定める処分調停の2種類がありますが、前者は寄与分も含む全般的な遺産分割方法を決めるものであり、後者は寄与分の具体的金額を決めるものです。調停は当事者双方が資料を提出し合い、調停委員を介して話し合いが行われます。月に1回、2時間程度の頻度で行われますが、合意に至ればすぐに終結することもあります。
それでも話がまとまらず調停が不成立になると、「審判」という手続きに移行し、裁判官が当事者双方の主張、立証を踏まえて最終的な判断を下すことになります。ただし、自動的に審判に移行するには、上記の調停を両方とも申し立てていなければならないため、一方の申立てしかしていない場合、別途追加で申立てが必要になります。
「寄与分を定める処分調停」の申立て方法
寄与分を定める処分調停の手続きについては、よくわからないという人も多いでしょう。
以下、具体的な手続きについて解説していきます。
申立人
申し立てることができるのは、寄与分があると主張したい相続人になります。よって、申立ての相手方は、申立人以外の他の相続人全員ということになります。
申立先
調停の申立ては、原則として相手方である相続人の住所地を管轄する家庭裁判所または相続人間で合意した家庭裁判所です。もっとも、既に遺産分割調停を行っている場合には、その裁判所に申し立てることになります。
申立てに必要な書類
寄与分を定める処分調停の申立てには、以下の書類の提出が必要です。
- 申立書
- 申立書の写し(相手方の人数分)
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本、住民票または戸籍附票
- 遺産に関する資料の写し(不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書、預貯金の通帳又は残高証明書など)
寄与分の証拠となる資料とは?
寄与分を主張するには、相続人がどのような貢献をしたのか立証する必要があります。寄与の内容により、収集する証拠も変わるため、寄与行為がどの類型にあてはまるのか確認しましょう。一般的には以下の5つの類型に分けられます。
類型 | 証拠となる資料 |
---|---|
家業従事型 | 家業への従事の期間、従事の態様を示す資料、家業の所得、規模の分かる資料 |
金銭出資型 | 給付額・時期またはその期間を示す資料 |
療養看護型 | 療養看護の必要性が分かる資料、相続人による看護介護の内容・期間を示す資料 |
扶養型 | 被相続人の生活状況を示す資料、扶養の内容・期間が分かる資料 |
財産管理型 | 財産管理の必要性を示す資料、相続人が期待を超える貢献をしたことを示す資料 |
申立てにかかる費用
調停の申立てには、申立人1人につき収入印紙1200円分、連絡用の郵便切手(裁判所ごとに金額は異なります。)分の費用が必要になります。
寄与分の請求に時効はあるのか?
寄与分自体に時効はありません。寄与分は、債権ではなく、遺産分割における相続分の1つにすぎないと考えられているためです。もっとも、遺産分割は一度決定すると、原則としてそれを覆すことはできないため、実際には遺産分割の合意が成立するまでに寄与分の主張をする必要があります。
これに対し、特別寄与料は相続分ではなく、金銭の請求なので時効があります。特別寄与料の請求をできるのは、特別寄与者が相続の開始および相続人を知った時から6カ月間です。
寄与分の主張が認められた判例
脳梗塞で入院した被相続人の退院後、相続人が約7年間にわたり、半身麻痺が残る被相続人の介助を行った事例で、相続人に寄与分が認められた裁判例があります。この事例では、相続人が起き上がりや立ち上がりの補助、入浴の手伝い、深夜にトイレに付添い排泄を手伝うなど身の回りの世話を行っていました。退院当初の介助に不慣れな時期や被相続人の体調が悪化した晩年の頃には、介助の負担も相当重かったであろうこと、約7年間にもわたり継続的に行ってきたことから、無償で行った相続人の当該行為は特別の寄与にあたると判断されました。裁判では、調停で提出した資料ももとに、裁判所が相続人の行為が特別の寄与にあたるかを判断することになります。
寄与分に関するQ&A
寄与分の調停を経ずに、いきなり審判から申立てることは可能ですか?
寄与分については、審判を先行することは原則としてできません。寄与分は調停で話し合いを尽くすことが前提とされています(これを調停前置主義といいます)。調停で合意ができず不成立になった場合に初めて、審判へと移行し裁判官が判断を下すことが予定されています。まずは、寄与分を定める処分調停を申し立てましょう。
他の相続人が「調停証書」の内容に従わなかった場合はどうなりますか?
調停手続きにおける話し合いの結果を記載したものを調停調書といい、調停が成立した場合に作成されます。調停調書は確定的なものであり、判決と同様の効力をもちます。そのため、調停調書の内容に従わない相続人に対しては、他の相続人はその財産を差し押さえることにより、遺産相続を完成させることができます。
寄与分は遺留分侵害額請求の対象になりますか?
寄与分とは、被相続人の生前、被相続人の介護や看護を行う、被相続人の事業を手伝うなど財産の維持または増加について特別に貢献した相続人について、法定相続分にその貢献分をプラスしますが、その貢献分をプラスさせる制度のことをいいます。
これに対し、遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人が、最低限度取得できる相続分のことをいい、遺留分侵害額請求の対象は、遺贈及び贈与です。
寄与分は、被相続人の死亡後に評価されるものであり、被相続人の意思に基づき生前に行う遺贈や贈与とは性質が異なります。そのため、寄与分を有する相続人が遺贈や贈与を受けていない限りは、遺留分侵害額請求をすることはできません。
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寄与分の調停を有利に進められるよう、弁護士が全力でサポートいたします。
このように、寄与分を得るためには、遺産分割協議または、遺産分割調停及び寄与分を定める処分調停で他の相続人から合意を得るか、裁判において寄与分の主張が認められる必要があります。
過去の裁判例を踏まえて、どのような主張や立証を行うべきであるかは、やはり法律の専門家である弁護士が詳しく知っており、収集すべき証拠や寄与分の認定にとって有効な証拠についても適切なアドバイスを求めることができます。相続は手続きも複雑であり、何をしていいかと悩む人も多いでしょう。寄与分にかかわらず、相続については、全般的にサポートしてくれる弁護士に依頼する方が、無駄な徒労に終わるといったことを避けられるでしょう。
成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や精神障害等により判断能力が不十分になった人を保護する制度で、成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度があります。
法定後見制度では、家庭裁判所が、判断能力の程度に応じて、後見人、保佐人、補助人を選任し、本人の財産管理や身上監護を行います。
任意後見制度は、本人が元気なうちに、判断能力が乏しくなった場合に自分の代わりに財産等の処分管理をしてもらう人を選んでおき、実際に判断能力が不十分となった場合にその人が本人に代わって法律事務を行う制度です。なお、任意後見人の辞任解任、本人または任意後見受任者が後見開始の審判を受けたときには終了します。
以下では、主に法定後見制度を前提に解説します。
相続の場で成年後見人が必要なケース
遺産分割協議は、法定相続人の全員で遺産分割協議をし、全員がその協議で合意をすることが必要ですが、この遺産分割協議に合意をするためには、自身に影響がある重要な事項の判断となるので、判断能力があることが必要となります。
認知症などで、判断能力が不十分な相続人がいると、その人は遺産分割協議の内容に合意することができないので、いつまでたっても遺産分割協議が成立しないことになりますし、判断能力が不十分な人が合意をしても、その遺産分割協議は無効となってしまいます。このような状況を避けるために、判断能力が不十分な人がいるときには、成年後見人を選任する必要があります。
相続人が未成年の場合は未成年後見制度を使う
未成年者は、親権者の同意がない限り法律行為をすることできず、親権者の同意なくして行った法律行為は取り消すことができます(民法5条)。相続人が未成年者の場合に、遺産分割協議を有効に成立させるためには、親権者の同意が必要となります。仮に、親権者が不在の場合には、未成年者だけで遺産分割協議を進めることができないので、未成年後見人の選任が必要となります。
成年後見制度と未成年後見制度では、目的や役割などで重複することも多いですが、未成年後見制度では、選任の方法は親権を行う者の死後に遺言で指定することができる点や役割の内容においても、教育に関する監督権や未成年者が行った法律行為に対しての同意権、婚姻していない未成年者に子がいる場合の親権代行権など、成年後見制度とは異なる点もあります。
成年後見人ができること
成年後見人等は、本人の財産管理と身上監護を行います。具体的には、日用品の購入以外の売買契約などの法律行為の代理、本人の預貯金等の管理、本人が行った契約の取消しなど法律行為への対処、介護施設への入所契約の締結等広範囲にわたっており、成年後見人等が選任されると本人の日常生活に密に関与していきます。
成年後見人になれるのは誰?
成年後見人等には、誰でも就任できるわけではありません。
未成年者、家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人、補助人、破産者で復権していない人、行方不明者は、成年後見人等にはなれません。また、本人に対して何か請求をしているなど本人と利害関係がある人も成年後見人にはなれません。
誰が申し立てすればいい?
法定後見人の選任手続きは、誰でも申立てをすることはできるわけではなく、本人、配偶者、本人からみた4親等以内の親族、成年後見人等、任意後見人、任意後見受任者、成年後見監督人等、市区町村長、検察官です。
成年後見制度申し立ての手続き
申立ての準備
↓
管轄の家庭裁判所へ申立て
↓
調査
↓
審理
↓
選出
↓
法務局への登記
成年後見人の候補者を決める
成年後見人等の選任を求めて裁判所申し立てを行う場合、成年後見人等になる候補者を選ぶことができます。
ただし、成年後見人になる資格があっても、家庭裁判所が成年後見人等として適格か否かを審理して選出をするので、候補者として申立書に記載したからといって、必ず選任されるわけではありません。
成年後見人等には親族以外の弁護士や司法書士などの専門職の第三者を選出することもあるので、候補者がいなくても申し立てをすることはできます。
必要書類を集める
- 申立書、申立事情説明書、後見人等候補者事情説明書
裁判所のホームページに書式がありますので、ダウンロードして作成します。また、裁判所の受付では、直接申立てに必要な書式をもらうことができます。 - 本人情報シート
福祉関係者に作成してもらうものです。 - 本人の健康状態に関する資料(障碍者手帳や療育手帳など)
- 財産目録、収支予定表、相続財産目録(遺産分割未了の相続財産がある場合のみ)
- 財産や収支を裏付ける資料(通帳、保険証書、不動産登記簿など)
- (本人の)親族の意見書
ここでいう親族とは、本人が亡くなった時に相続人となる推定相続人です。 - 本人の戸籍謄本と住民票
3カ月以内のもの - 後見人等候補者の住民票(戸籍の附票でも可)
3カ月以内のもの - 登記されていないことの証明書
法務局で申請し、交付を受けます。
このほかに、収入印紙(登記手数料、申立て手数料)と郵便切手、鑑定費用がかかります。
後見・補佐・補助について
成年後見制度には、後見、補佐、補助の3種類ありますが、これは、本人の判断能力の程度によって分かれています。申立て段階では、医師や診断書の内容に対応する類型の申立てをすることになります。
申立て後に、当事者の調査や精神鑑定等の結果から、家庭裁判所が申立時とは異なる類型の審判をすることもありますが、その場合には、申立ての趣旨の変更手続きを取ることになります。
家庭裁判所に申し立てを行う
申立て書類が整ったら、家庭裁判所に申し立てを行います。
申立てを行う裁判所(管轄の裁判所)は、本人の住所地(住民登録をしている場所)が管轄の家庭裁判所になります。
なお、申立てを行った後は、公益性や本人保護の観点から、裁判所の許可を得なければ取り下げをすることはできません。
管轄の裁判所によっては、申立て前に調査のための面接の予約をすることができるため、管轄の裁判所に確認をすることをお勧めします。
また、申立て書類は返却されないので、提出前にコピーを取っておく必要があります。
家庭裁判所による調査の開始
申立てがされると、裁判所は、本人の判断能力や成年後見人等候補者の適格性等を判断するために、本人や申立人、後見人等候補者に直接会って面談をしたり、親族への意向照会をしたりなどの調査を行います。
また、場合によっては、本人の判断能力の程度を判断するために、医師による精神鑑定が行われることもあります。
成年後見人が選任される
裁判所において行った調査や精神鑑定の結果を踏まえ、裁判所が後見人等の支援が必要であると判断した場合には、後見等開始の判断をすると同時に、後見人等を選任します。
裁判所が後見等の開始及び後見人等を記載した審判書が、裁判所から送付されます。この審判書が成年後見人等に到着してから2週間以内に不服申立てがされない場合は、裁判所の審判の法的効力が確定します。
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成年後見人の役割は本人の死亡まで続く
成年後見人等は、財産の管理や身上保護など本人を保護するための仕事をするので、判断能力の改善もしくは本人の死亡まで仕事をします。そのため、成年後見人との申立てをするのは、遺産分割協議や福祉サービスの締結などのきっかけがあることが多いですが、これが解決で来た後も成年後見人等の仕事は続きます。
本人が死亡したときには、成年後見人等の仕事も終わります、その際、成年後見人等は、本人が死亡したことと本人の財産状況を家庭裁判所に報告する必要があります。
成年後見制度にかかる費用
成年後見人等の選任を求めて裁判所に申立てた場合、申立手数料800円分と登記手数料2600円分の収入印紙と送達や資料送付のための郵便切手を4000円前後収める必要があります。なお、裁判所や申し立ての類型によって必要な収入印紙や郵便切手の金額が異なるので、申立ての前に管轄の裁判所に確認をする必要があります。その他に、診断書作成のための文書料や戸籍等取得のための収入印紙がかかります。
成年後見人に支払う報酬の目安
成年後見人等が報酬を受け取る場合には、成年後見人等が、都度、家庭裁判所に成年後見人等の報酬付与の申立てをして、家庭裁判所が本人の資力やその他の事情を考慮して決定した金額の報酬をもらうことができます。報酬金額は、管理財産の金額によって異なってきますが、大体2万円から6万円くらいとなります。
親族が成年後見人等に就任した場合にも、報酬をもらうことができますが、実際には報酬を請求しないことも多く、その場合は無償で行うことになります。
成年後見制度のデメリット
成年後見人等は、財産が散在しないようにしたり健康的な生活を送れるようにしたりして、本人の利益になるように仕事をしますので、成年後見人等が就任すれば、遺産分割協議を進めることや福祉サービスを利用することができるようになります。
他方で、成年後見人等選任のためには申立て費用がかかりますし、報酬も発生する可能性があります。また、本人は自由に財産を処分管理することができないので、生前贈与などの相続対策を行うことはできません。
このように、成年後見制度を利用すると、本人が自由に資産運用をしたり相続対策をすることはできなくなりますが、判断能力が不十分な状況の中で行われた法律行為はその後無効となる可能性もあり、更なるトラブルに巻き込まれる危険もありますので、成年後見人等を選任する必要は高いです。
相続対策に関しては、判断能力は乏しくなる前に、遺言書を作成するなどを対策をしておいた方が良いです。
成年後見制度についてお困りのことがあったらご相談下さい
主に法定成年後見制度について解説してきましたが、成年後見人等の選任のためには、申立て書類を作成することや関係各所に必要書類を準備する必要があるだけでなく、本人の生活を見守りつつ、医師や福祉関係者との連絡を取ったりすることが必要になります。そもそも、成年後見制度がどのようなものなのかわからないということもあると思います。
弁護士にご相談いただければ、法定後見制度だけでなく任意後見制度のこと、成年後見人等の選任が必要か否かなど専門的なアドバイスをすることができます。今後の財産管理に関して不安に感じておられる方は、ぜひ一度ご相談にいらしてください。
子供がいる夫婦が離婚をする場合、親権の他に養育費についても取り決めをします。養育費は、子供と離れて暮らす親から、子供と共に暮らす親へと支払われる金銭で、子供が社会的に自立できる年齢になるまでやり取りが行われます。
しかし、子供の年齢によっては十数年という長期的なやり取りになるため、互いの生活環境等が変化した場合、支払う側としては養育費を減額したい事情が出てくるかもしれません。とはいえ、受け取る側にも生活があるので、減額請求を受け入れるのは難しいことかと思います。
本記事では、どのような場合に養育費の減額請求が認められるのか、減額請求の方法と注意点、また減額請求をされた場合の対応についてご説明します。
理由があれば養育費の減額は認められている
養育費の支払いは扶養義務に基づいているため、支払う側が勝手に減額したり、送金を中断したりすることは認められません。とはいえ、様々な事情で支払いが困難になり、減額したいとお悩みの方もいらっしゃることでしょう。
養育費の金額や支払期日、支払期間といった条件は、当事者同士で話し合って合意できるのであれば、自由に変更することができます。
話し合いが決裂してしまったとしても、次の条件に当てはまれば、法的にも養育費の変更が認められる可能性があります。
- 取り決め時に前提となっていた客観的な事情に変更があったこと
- その事情変更をあらかじめ予測することが困難だったこと
- 事情変更が生じたことに当事者の責任がないこと
- 取り決めどおりの条件をそのまま継続すると著しく不公平になること
養育費の減額が認められる条件
それでは、具体的にはどのような場合に、法的に養育費の減額請求が認められるのでしょうか。考えられる代表的なケースは以下のとおりです。
- 義務者(養育費を支払う側)が再婚した場合
- 権利者(養育費を受け取る側)が再婚した場合
- 義務者の年収が減少した場合
- 権利者の年収が増加した場合
それぞれのケースについて、順番に説明していきます。
義務者が再婚した場合
支払う側が再婚すると、扶養する対象が増えることになるため、取り決めどおりの金額で養育費の支払いを続けると、支払う側の新しい家族が経済的に困窮してしまうおそれがあります。
そのため、減額請求をすれば裁判所に認めてもらえる可能性があるのですが、単に「再婚した」だけで認められるわけではなく、次のような事情が必要になります。
- 再婚相手との間に子供が生まれた
- 再婚相手の連れ子と養子縁組をした
- 再婚相手が病気や育児等を理由に働けない、または働いているが収入が少ない
- 離婚から相当な期間が経過
- 再婚や再婚相手との間の子の出生について、支払う側が離婚当時予想できなかったこと
権利者が再婚した場合
受け取る側の再婚も、養育費の減額が認められる事情になり得ます。ただし、受け取る側の再婚相手と子供が“養子縁組をしているか否か”という点がポイントになります。
【養子縁組をしている場合】
養子縁組によって、再婚相手にも子供を扶養する義務が発生します。そのため、再婚相手の収入に応じた減額や、支払いの免除が認められることになります。
【養子縁組をしていない場合】
再婚相手に子供を扶養する義務が発生しないため、親である支払う側の方がそのまま養育費を支払い続ける必要があります。
義務者の年収の減少・権利者の年収の増加
養育費の金額は、取り決め時の当事者双方の年収等をもとに算定しているため、双方の収入の増減は、養育費を減額する事情変更として裁判所に認められる可能性があります。
【義務者の年収が減少した場合】
支払う側が、突如勤めている会社からリストラされたり、病気の治療や療養のために働けなくなったりして収入が減少した場合、養育費の減額や支払い免除が認められるでしょう。
ただし、自身の希望で取り決め時より収入の低い会社に転職した場合等は対象外です。
【権利者の年収が増加した場合】
婚姻中は専業主婦(主夫)だった受け取る側が就職したり、パートから正職員になったりして収入が大幅に増加した場合、養育.費の減額請求が通る可能性があります。
ただし、就職しても非正規雇用等の場合は一時的なものに留まることもありますし、増加した収入のほとんどを生活費や子供の教育費等に充てているケースもあるので、裁判所は判断に慎重になることが多いです。
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養育費の減額請求をしたい場合の方法と注意点
ここからは、養育費の減額請求の手順と注意点について解説します。
まずは話し合う
受け取る側の了承を得ることができれば、それだけで養育費を減額することが可能です。そのため、まずは受け取る側に減額してほしい理由を説明して、しっかりと話し合いをしましょう。
話し合う方法は、二人の関係によりますが、直接会って話す、電話やメール等の様々な方法があるかと思います。
話し合いによって減額することが決まったら、その内容を公正証書のかたちで残すようにしておくと安心です。
話し合いを拒否されたら内容証明郵便を送る
受け取る側に話し合いを拒否された場合、養育費の減額を請求する旨を記載して、内容証明郵便を送っておくのも一つの手です。内容証明郵便は、後々の調停や審判で、減額請求したことを示す証拠として扱ってもらえます。
ただ、拒否された時点ですぐに調停を申し立てるつもりであれば、内容証明郵便は送らなくてもかまいません。
なお、養育費の減額は、話し合いレベルではあくまでも受け取る側に変更を“受け入れてもらって”成立することなので、いきなり内容証明郵便を送ってしまうと、高圧的だと捉えられて揉めてしまうおそれがあります。やはり、まずは穏便に話し合うのが賢明でしょう。
決まらなかったら調停へ
話し合っても養育費の条件が決まらない場合や、そもそも相手が話し合いを拒否する場合は、家庭裁判所に「養育費減額請求調停」を申し立てましょう。
調停では、まず支払う側(申立人)が裁判所内の個室に入り、養育費を減額したい事情等について、調停委員に説明をします。次に、受け取る側が生活状況や収支、減額請求に対する考え等について、調停委員に説明します。調停委員は、双方の意見や提出された資料を整理したうえで、解決策を提示してくれます。
調停によって双方の意見がまとまったら、調停成立となり、新たに取り決めた内容をもとに調停調書が作成されます。
もし調停で解決できなければ、自動的に審判に進み、裁判官が判断を下すことになります。
踏み倒しは絶対にしないこと
養育費の支払いで生活が苦しいからといって、勝手に支払いを中断して踏み倒すことは許されません。
離婚の際に、養育費について公正証書※で取り決めをした場合や、裁判所の手続きを経て取り決めをした場合、決めた内容を守らなければ、相手が強制執行を申し立ててくる可能性があります。強制執行がなされると、銀行口座等の財産を差し押さえられてしまいます。給与も差し押さえ対象となるため、踏み倒しをしている現状が職場に知られてしまうおそれもあります。
こうした取り決めを一切していなかったとしても、相手が養育費請求調停を申し立ててくれば、最終的には強制執行をされる可能性が高いです。そのため、養育費を減額したいのであれば、面倒に感じても正当な手続きを踏むようにしましょう。
※強制執行認諾文言付のもの
養育費の減額請求をされた方の対応
ここまで、養育費を減額したい立場の方に向けて解説してきましたが、減額請求をされた立場の方は、どうすればよいのでしょうか。減額請求を受け入れたくない場合に、やるべき対応について、以下で説明します。
減額請求されたら無視しないこと
支払う側から養育費の減額を打診され、受け入れられないと思ったとしても、無視をするのはあまり得策ではありません。
相手も何かしらの事情があって相談してきたのでしょうし、相手に資産がなければ養育費の支払い自体が止まってしまうおそれがあります。その場合、強制執行をすれば財産の差し押さえは可能ですが、手続きに多少なりとも時間がかかるので、まずは話し合いをして事情を聞きましょう。
話し合いを拒否し続けると、相手が調停を申し立ててくる可能性があります。調停も無視し続けた場合、調停不成立となって審判に進みます。相手の主張する事情が法的に正当なものであれば、審判で減額が決まってしまうため、自身の主張をする機会を得るためにも、調停には必ず出席しましょう。
養育費をできるだけ減額されないためにできること
養育費減額請求調停では、相手の主張が正当ではないと反論する必要があります。相手の言う“事情変更”が、「予測可能なものではなかったのか」「相手に責任はなかったのか」といった点を押さえて、主張をしていきましょう。
また、調停はあくまでも話し合いであり、いかに調停委員を味方につけるかということも重要になってきます。感情的になって強く主張し続けるのではなく、相手の事情も推し量ったうえで、「子供の幸福や健全な成長のために、今後このように養育していくつもりだ」というプラン等も説明しましょう。
ただ、本当に相手に資力がなく、主張も正当なケースもあります。そのような場合は、程よく譲歩する姿勢を見せて、お互いの妥協点を探っていくようにしましょう。
養育費の減額についてお困りなら弁護士にご相談ください
一度取り決めた養育費を減額することは、簡単なことではありません。支払う側の方は、自身に生じた事情変更が法的に正当であることを、論理的に主張していくことになります。一方、受け取る側の方は、相手から不当な主張をされた場合に言いくるめられてしまわないように、しっかりと反論する必要があります。
現在の事情に応じて養育費の適正額を算出することは、一般の方には難しいことかと思います。弁護士であれば、あらゆる事情を加味して、法的知識やこれまでの経験をもとに適切なアドバイスをすることが可能です。養育費の減額でお困りの方は、ぜひご相談ください。
後遺障害が残るような事故や死亡事故に遭われた方は、 “逸失利益” についても正当な賠償を受けるべきです。事故がなければ不自由なく生活できていたはずなのに、それが絶たれてしまったことは大きな「損害」といえます。この先後悔しないためにも、こうした損害は妥協することなく賠償請求しましょう。
逸失利益は、きちんと請求すれば何十万、何百万、場合によっては何千万円単位で損害賠償金額を左右しかねない費目です。ただし、内容を理解していないときちんと請求しようにもできません。
ここでは、【交通事故の逸失利益】について取り上げ、概要や計算方法、増額するポイントなどについて解説していきますので、ぜひ参考になさってください。
交通事故の逸失利益とは
交通事故でいう逸失利益とは、交通事故に遭わなければ得られたであろう利益のことをいいます。つまり、事故がなければ日常生活を送れていたはずで、働いて収入を得られていたはずなのに、事故のせいで制限がかかったり絶たれてしまったりしたことを指します。いわば、「将来の可能性を奪われた」として立派な損害といえるのです。
交通事故の逸失利益には、大きく後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の2つがあります。
これらについて大枠を捉えておきましょう。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、事故による後遺障害が残った場合に発生し請求できる逸失利益のことです。
不本意な事故で怪我を負い、さらに後遺障害を抱えることになった事態は、できていた仕事ややりたかったことに制限がかかりますから、その分を「損害」として請求できます。
請求上は、個々人で損害の程度をはかることは現実的ではないので、後遺障害等級ごとに定められている“失われた労働能力の数値”にしたがって算出していくのが基本です。
そのため、後遺障害等級の認定を得ること、何級に認定されるかは、後遺障害逸失利益の金額を左右する重要なポイントとなります。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、死亡事故により発生し請求できる逸失利益のことです。
事故により死亡したその瞬間から被害者の将来の可能性が奪われることになるので、この分を「損害」として相手方に請求します。
請求金額を算出するには、被害者の年齢や性別のほか、個別具体的な事情を考慮していくことになります。
逸失利益の計算方法
逸失利益を請求するには、具体的な金額を導き出さなくてはなりません。
交通事故の損害賠償請求上、決まった計算式によって算出できますのでここでしっかり押さえておきましょう。
●後遺障害逸失利益
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
●死亡逸失利益
基礎収入×(1‐生活費控除率)×就労年数に応じたライプニッツ係数
どれも普段目にしない用語かと思います。
ただ、逸失利益の算出時にはすべて重要な意味をなしますので、理解しておくべきです。
一つ一つ取り上げてご説明します。
基礎収入
基礎収入とは、基本的に被害者が事故前に得られていた年収のことをいいます。
会社員であれば源泉徴収票で確認できますし、自営業者であれば確定申告書や納税証明書などで提示します。この際、会社員の方は手取りではなく額面の金額となる点、自営業者の方は固定経費を除く諸経費を控除する必要がある点にご注意ください。
また、事故前に実際収入のない子供や学生、主婦(主夫)であっても、逸失利益は認められ得ます。請求上は、前年の収入がないので賃金センサスを用いて計算していきます。
賃金センサスについて
賃金センサスとは、厚生労働省が全国規模で行っている賃金に関する統計調査結果を指します。毎年実施している結果は、厚労省HPや簡略化されたまとめサイトなどでも確認することができます。
内容としては、国民の賃金について、性別や年齢のほか、学歴、職種、企業規模などとの関係を比較するために、分類ごとの平均賃金額が確認できるようになっています。
交通事故以外にも医療事故などで起きた逸失利益の算出時においても用いられるものです。
実務上は、収入のない子供や学生、主婦(主夫)の基礎収入として適用しますが、収入があっても兼業主婦や新入社員などの場合には、実収入と賃金センサスを比べて高いほうを基礎収入とすることも可能です。
労働能力喪失率
逸失利益でいう労働能力喪失率とは、後遺障害を抱えることによって失われる労働能力をパーセンテージで表したものです。後遺障害等級ごとに数値が決められており、障害が重ければ重いほどパーセンテージが上がるので、前提として認定されること、何級に認定されるかは非常に重要です。
実際、どのくらい仕事に支障が出るか、減収が生じ得るかは、一人ひとり異なるところですが、膨大な交通事故案件を一律に処理するために設けられている基準という背景があります。このため、仕事内容や後遺障害の症状などにより、個別的な争いが生じる可能性も否めません。
労働能力喪失期間
逸失利益でいう労働能力喪失期間とは、労働能力が失われる期間を指し、定義上就労可能とされる67歳から症状固定時の年齢を差し引くことで求められます。ただし、被害者の年齢や後遺障害の内容によっては、扱いが異なってきます。
例えば、子供や学生の場合には、症状固定時ではなく一般的な就労開始年齢である18歳や22歳を差し引いた年齢を対象とします。また、67歳間近やそれ以上の高齢者の場合には、平均余命の2分の1とされるケースもあります。
くわえて、後遺障害が比較的軽いとされるむちうちの症状であれば、労働能力喪失期間に年齢が考慮されないことが多いです。傾向として、14級であれば5年程度、12級であれば10年程度とされがちです。
ライプニッツ係数
逸失利益におけるライプニッツ係数とは、いわゆる中間利息控除を指します。
逸失利益の賠償を受けるということは、“将来”得られるであろう利益(=お金)を“今”まとめて受け取ることを意味します。すると、まとまった将来分のお金を銀行に預けておくだけで利息が発生しますし、人によっては運用することで資産を増やすこともできるでしょう。
この点は、賠償する加害者側との公平性に欠けるとされます。双方のバランスを図ることを目的として、法定利率による控除をするために用いられるのがライプニッツ係数となります。
算出上は、労働能力喪失期間に応じた数値があらかじめ一覧表になっていますので、当てはまる数値を計算式に用いることになります。
死亡逸失利益の場合は生活費控除率と就労可能年数が必要
死亡逸失利益の算出には、生活費控除率と就労可能年数が必要です。
後遺障害逸失利益の計算式を見比べると、基礎収入をベースに以下の違いがみられます。
●労働能力喪失率の代わりに生活費控除率
●労働能力喪失期間の代わりに就労可能年数
それぞれどういうことか、違いを詳しくみていきましょう。
生活費控除率
生活費控除率とは、「死亡すれば収入が得られなくなるが、生活費もかからなくなる」という賠償上のバランスを図るために逸失利益から生活費分を控除するために用いられる数値です。死亡した被害者の労働能力喪失率は100%である代わりに、死亡後の生活費がかからなくなるためその分を控除することを目的としています。
とはいえ、個別に計算するのは現実的ではないため、実務上は下表のように「被害者の家庭内における役割・属性」に応じて決められたパーセンテージを活用するのが一般的です。
被害者の家庭内における役割・属性 | 生活費控除率 |
---|---|
一家の支柱(被扶養者1人の場合) | 40% |
一家の支柱(被扶養者2人以上の場合) | 30% |
女性(主婦、独身、幼児等を含む) | 30% |
男性(独身、幼児等を含む) | 50% |
※年金受給者の場合は、受給年金に占める生活費の割合が大きいとして例外的に50~70%とされるケースが多いです。
就労可能年数
就労可能年数とは、事故で死亡していなければ働けていたはずの年数のことで、基本的に後遺障害逸失利益でいう労働能力喪失期間と同じ考え方をします。
就労可能な上限年齢が67歳とされているので、死亡時から67歳までの年齢を差し引いて求めます。子供や学生の場合には、死亡時ではなく18歳や22歳を始期とすることや、高齢者(67歳間近、それ以上の方)の場合には、平均余命の半分とされるケースもあるというのは、労働能力喪失期間の考え方と同じです。
計算上は、就労可能年数に値するライプニッツ係数を乗じて金額を求めるようになります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故の逸失利益を請求できるのは誰?
交通事故の逸失利益を請求できるのは、被害者または遺族と覚えておきましょう。
後遺障害逸失利益は、基本的に被害者本人が請求することになります。しかし、被害者が意識障害といった重度の後遺障害を負っている場合には、成年後見人を立てて、選定された成年後見人が請求することになります。
一方、死亡逸失利益の場合は、被害者の遺族が請求するのが基本です。「本来請求権を持っている被害者本人が死亡しているので、その請求権は相続される」という判例上の考え方によるものです。内縁関係の場合はどうなるのかなど、死亡事故のケースは、相続に絡む問題に発展することもありますので、お困りの際は弁護士に相談することをおすすめします。
減収しなくても逸失利益が認められるケース
後遺障害が残っても実際には減収せずに事故前どおり収入を得られている人もいるでしょう。この場合、相手方からすると「減収がないのだから逸失利益はないはずだ」と反論したくなるのは当然で、逸失利益の存否について争いに発展しやすくなります。
この点、最高裁判例では、「特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はない」としています(最高裁 昭和56年12月22判決第3小法廷判決)。つまり、裏を返せば「特段の事情が認められれば、逸失利益が認められ得る」ということです。
ここでいう“特段の事情”とは、以下に挙げるようなことで、これらが認められれば一定程度の逸失利益が認められる可能性があります。
- 生活上、業務上において、実際に支障がある
- 被害者本人による特別な努力によって収入を維持している
- 将来の昇進、昇給、転職などにおいて、不利益を受けるおそれがある
- 勤務先での特別な配慮・温情があった
- 勤務先の規模や存続可能性 など
逸失利益が増額するポイント
交通事故の逸失利益を増額させるには、いくつかポイントがあります。
これらを踏まえて、相手方保険会社と交渉していくのが効果的です。
●正しい後遺障害等級の認定を受ける
後遺障害逸失利益の金額は、等級が高ければ高いほど高額になります。
後遺症が残り申請手続きをしたからといって、必ずしも正当な等級が認定されるとは限りません。後遺障害等級認定を得ることもさることながら、正しい等級の認定を受ける必要があります。
●正しい基礎収入を適用する
基礎収入は、逸失利益の金額を左右するとても重要な計算の根拠となるものです。
事故前の収入がベースとなりますが、そこに個別の事情が絡む場合は、きちんと主張・立証しつつ正しい基礎収入が適用されるように交渉していく必要があります。
●弁護士基準で算定する
「算定基準が弁護士基準になっているか」という点は、逸失利益だけでなく慰謝料やその他の損害賠償費目を増額させるポイントにまで通じてきます。最低限度の補償を目的とする自賠責基準と、実際の裁判を想定し弁護士が使用する弁護士基準とでは、最終的に受け取れる損害賠償金額が雲泥の差となり得ますので、重要なチェックポイントとなります。
逸失利益の獲得・増額は、弁護士へご相談ください
逸失利益は、交通事故に遭わなければそもそも発生し得ないものです。本来ないほうがいいに決まっているのに、意図せず事故に遭ったことで将来の可能性を奪われてしまったことは、とてもお辛いことだと思います。正当な賠償を受けましょう。
とはいえ、初めての交通事故に遭い、ご自身の逸失利益は果たしていくらが正当なのか、保険会社を相手取ると不安に思われるのも当然です。ぜひ、弁護士にご相談してみてはいかがでしょうか。
交通事故事案の経験を積んできた弁護士であれば、「適正額」をきちんと見極められるだけでなく、交渉にまで持ち掛けることができます。ひいては、逸失利益だけでなく慰謝料なども含めた正当な損害賠償請求を実現させます。
少しでも迷いやお困りごとがあれば、ぜひ一度弁護士法人ALGにご相談ください。
いざ身内が亡くなると、相続の手続を進めなければいけないことは分かってはいるものの、何をすればいいのか分からない、整理がつかない、という方が少なくありません。
特に、身内が亡くなった直後ですと、心身ともに疲弊してしまって相続についてゆっくり考える余裕がない場合があります。
このページでは、相続に必要な手続について説明をしておりますので、ご参考になればと思います。
相続の手続きには期限のあるものが多い
相続は、亡くなった方(以下「被相続人」と言います。)が亡くなった時点から各種手続が始まります。
そして、相続に関する手続には期限が設定されているものが少なくありません。
各期限を過ぎないように手続きを進めておく必要がありますので、以下の各期限については具体的な日にちをメモしておくなりしておくとよいです。
7日以内に必要な手続き
死亡届の提出
まず、被相続人が亡くなってから7日以内に、市区町村役場に死亡届を提出する必要があります。
死亡届を提出しなければ、火葬許可証や埋葬許可証といった火葬や納骨のために必要な書類を取得することができません。許可証無しで、火葬や埋葬をしてしまうと、違法行為となりますのでご注意ください。
死亡届自体、病院や事件で亡くなった場合、右半分(死亡診断書・死体検案書)が記入された状態で取得できることもありますが、市区町村役場でももらうことができます。
また、死亡届の提出先は、①死亡者の死亡地、または、②死亡者の本籍地、または、③届出人の所在地のいずれかの市区町村役場となります。その際、親族や同居人、(被相続人が借家で亡くなった場合には)家主、地主、土地家屋の管理人が手続きを進めることになりますが、役所では届出人の印鑑と身分証明書が必要ですので、忘れずに持参するようにしましょう。
10日以内に必要な手続き
被相続人の年金受給の停止(厚生年金)
被相続人が亡くなりますと、年金を受け取る資格を失いますので、被相続人が亡くなってから10日以内に年金の受給を止める手続きを行う必要があります。この手続きは、年金事務所や年金相談センターで行うことができます。
この手続きの際、死亡診断書や通帳の写し等、必要な書類がありますが、個別の事情によって必要な書類が異なることもありますので、年金事務所などに問い合わせたうえで手続きを進めましょう。
14日以内に必要な手続き
保険証の返還(国民健康保険)
国民健康保険も、被相続人の死亡によって被保険者の地位を失いますので、保険証を変換する必要があります。被相続人が亡くなってから14日以内に、被相続人が居住していた市区町村の役場に、国民健康保険資格喪失届を保険証とともに提出しましょう。
年金受給の提出の場合と同様に、手続きを進める上で、個別の事情、また地域によって必要な書類が異なる場合もあります。役場に問い合わせのうえ確認しましょう。
被相続人の年金受給の停止(国民年金)
厚生年金の場合と同じく、被相続人が国民年金を受給していた場合も、受給停止の手続を行う必要があります。厚生年金と手続期限は異なりますが、いずれにしても期限が短いので、速やかに手続を進めるようにしましょう。
3ヶ月以内に必要な手続き
相続方法の選択
被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内(この期間を「熟慮期間」といいます。)に、相続人となった人は、それぞれ、遺産をどのように相続をするか決める必要があります。
選択肢としては、単純承認、相続放棄、そして限定承認の3択があります。
以下、それぞれの特徴を見ていきます。
単純承認は、被相続人のすべての遺産について、無条件で相続をする方法です。
単純承認をするには特段手続きは必要ありません。
もっとも、単純承認をするつもりがなくとも、遺産の一部を処分してしまうと、単純承認をしたものと扱われてしまいます。また、熟慮期間内にほかの相続手続きを行わない場合にも、単純承認をしたと扱われてしまいますので、注意が必要です。
限定承認は、被相続人の遺産のうち、プラスの財産とマイナスの財産を清算した結果、遺産にプラスの財産が残っている限り、相続をする特殊な相続方法です。
3つの手段のうち、一番損をしない手段と見られやすい限定承認ですが、税負担やかかる手間を考えると、かえって損をする場合もあります。
そのため、限定承認を選択肢に入れる場合、法律家や税理士へのご相談をお勧めいたします。
相続放棄は、被相続人の遺産を一切相続しない方法です。
相続放棄をする場合、ただただ相続放棄を宣言するだけでは足りず、家庭裁判所での手続きを進める必要があります。
上述したように、熟慮期間内に手続を進めないと、単純承認をしたと扱われてしまうので、相続放棄の手続は速やかに進めましょう。
相続財産の調査、目録の作成
被相続人がどのような財産が遺産に含まれているか一覧を作成している場合、その一覧を元にどのような相続方法を選択するかを検討すればいいでしょう。ただ、そのような一覧が残されていない場合、相続人が被相続人の遺産を調査することになります。
不動産や預貯金、そのた資産を熟慮期間のわずか3か月以内に調査しきることは容易でなく、場合によっては見落としもあるかもしれません。
相続人となった場合には、速やかに調査に掛かる必要がありますので、ご注意ください。
4ヶ月以内に必要な手続き
準確定申告
被相続人が亡くなったからと言って、被相続人の生前の所得税が免除されるわけではありません。
相続人全員がそろって、被相続人の生前の確定申告と納税を行う必要があり、この手続のことを準確定申告と言います。
相続人が被相続人の所得の状況を知っていたり、被相続人が従前から確定申告を依頼していた税理士がいたりする場合は大きな問題になりにくいですが、それ以外の場合は資料収集から行わなければならず、非常に手間と時間がかかる可能性があります。
そのため、被相続人が亡くなった後、準確定申告の必要があるか、資料収集は誰が行うかは早期に確定しておくほうが良いです。
10ヶ月以内に必要な手続き
相続税の申告及び納税
相続人が受け取る遺産の価値が一定以上となりますと、相続人は相続税の申告および納税を行う必要があります。
相続税の計算は遺産の種類や価額によっては、複雑になる場合もあります。
また、様々な「控除」の制度があり、その適用を受けることができるかによって相続税の金額が大きく変わり得ます。
遺産分割協議書の作成
法律上、遺産分割を行う期限はありません。
ただ、10カ月以内に遺産分割が終了しないからと言って、相続税の申告・納税の期限は延びません。遺産分割が未了の場合、各相続人は、各種税金の軽減措置を受けられない状態で、法定相続分や包括遺贈の割合に従って遺産を取得したとして相続税の計算を行い、申告・納税を行うことになります。
後日、遺産分割が完了した時点で、再度正確な計算を行い、正しい相続税の申告(修正申告・更正の請求)を行うこともできますが、時期によっては税金の軽減措置が受けられない場合もありますので、注意が必要です。
その他にも、特別受益や寄与分を主張できる期限があったり、今後の法改正によっては主張できる内容に期限が設けられることもあったりしますので、遺産分割に時間がかかりそうな場合には専門家に相談しましょう。
1年以内に必要な手続き
遺留分侵害額請求
相続人の中には、遺産に対して一定の割合の権利を持つ者がいる場合があります。
被相続人の兄弟姉妹(及びその相続人)を除く法定相続人には、遺留分という権利が認められており、本来得られるはずの遺留分をもらえない場合には遺留分侵害額請求を行って、遺産の一部を取得できることがあります。
もっとも、この権利自体、被相続人が亡くなったこと、そして、遺留分が侵害されていることを知ってから1年以内に行う必要があります。
2年以内に必要な手続き
埋葬料・葬祭費の請求
被相続人が国民健康保険や後期高齢者医療保険に加入していた場合、葬儀を行った日の翌日から2年以内に市区町村役場へ請求することで、市区町村の規定次第で3万円から7万円程度の葬祭費が支給されます。
また、健康保険によっては、被相続人が亡くなってから2年以内に請求があれば、一定の埋葬料が支払われることもあります。
3年以内に必要な手続き
生命保険(死亡保険)の生命保険会社への請求
生命保険金(死亡保険金)は、請求できる期限があり、被相続人が亡くなってから3年以内に請求する必要があります。
もっとも、生命保険金や死亡保険金は保険会社から自動的に支給されるものではなく、請求がないと支払われないことが通常ですので、受け取ることができる立場にある相続人は、速やかに保険会社に連絡を取って手続きを進めるとよいでしょう。
相続税の軽減措置
上述したように、相続税には各種軽減措置があります。
相続税がかかる財産の価格を減らす小規模宅地等の特例や、相続税額から一定の金額を差し引く未成年者控除、障害者控除等様々な措置があります。
ただ、これらの特例はすべて必ず受けられるとは限らず、どの軽減措置を受けられるかは専門家に相談が必要な場合もあります。
5年以内に必要な手続き
相続税の還付請求
相続人が相続税を過大に申告してしまった場合、後日、更正の請求を行うことで、払いすぎた相続税の還付を受けることができます。
ただ、いつまでも還付を受けることができるわけでもなく、被相続人が亡くなってから5年10ヶ月以内に還付請求手続を行う必要があります。
期限のない相続手続き
期限が明確に定められてはいないものの、様々な観点から早期に進めておくべき手続もあります。
以下は、そのような手続の例となりますので、ご確認ください。
法定相続人の確定
被相続人に複雑な生い立ちがある場合、誰が被相続人の遺産を受け取る相続人となることができるかが分かりにくい場合があります。
その場合に参照するのが戸籍です。
戸籍を調べてみると、思いもよらない相続人がいることがあります。
法定相続人が誰であるのかを早期に確定できないと、相続の各種手続をどのように進めるかが確定できませんので、被相続人が亡くなって速やかに戸籍を確認した方がよいです。
遺言書の有無の確認、検認
公正証書遺言以外の遺言を見つけた場合、勝手に開けてはいけません。
そのような遺言があった場合には、裁判所の検認手続きを経て内容を確認することになります。
もっとも、遺言があるかどうかが不確かな場合もあるでしょう。
被相続人が公正証書遺言を作成している場合には、公証役場に申し込みをすることで遺言書があるかどうかを確認することができます。
また、自筆証書遺言保管制度が利用されていた場合、遺言書保管官が被相続人の死亡を確認したときに、被相続人の指定した者に対して遺言書が保管されていることを通知する制度もあります。
遺産分割協議
既に述べているように、遺産分割協議を行う期限は法律上ありません。
もっとも、相続税や主張できる内容への制限といった観点から早期に進めることが好ましいです。
預貯金などの解約、名義変更
被相続人が生前保有していた預貯金や金融商品は遺産となりますが、相続に当たって各種金融機関毎に解約や名義変更の手続きを求められることが通常です。
金融機関によっては、相続全員分の署名・捺印が必要となったり、印鑑証明書や戸籍などの書類を要求されたりと手続きが煩雑になることも珍しくありません。
もっとも、金融機関との手続を進めなければ誰も受け取ることもできませんので、いずれは手続きを進める必要があります。
(不動産を相続する場合)相続登記
不動産については、誰がどのような権利を持っているかを管理する登記制度があります。
相続によって不動産の所有者が変わった場合、法務局に対して相続登記を進める必要があります。
家屋の種類(戸建てかマンションか)等、手続きの進め方に影響を与える要素が様々ありますので、どのような手続が必要となるかは早期に確認しておくとよいでしょう。
(車やバイクを相続する場合)名義変更
車も、所有者が変わった場合に、不動産と同様に役場に一定の登録が必要であり、名義変更の手続を陸運局で行う必要がります。
また、車両の持ち主が変わった場合、保険についても考えなければいけません。
被相続人の保険を引き継ぎたい場合には、保険契約についても名義変更の手続きを進めることになります。
なお、車両の売却や廃車を考えている場合、一度、相続人に名義を変えた上で進める必要がある点は要注意です。
相続の手続きは自分でできる?
相続の手続きを自分で進めることは可能です。
もっとも、役場をはじめとする各手続先は平日の昼間しか開いていないことが多く、仕事、育児、その他の都合により、手続きが期限内に行えないこともあります。
被相続人が亡くなった後、速やかに何をいつまでに進めるかを整理し、全ての手続きを進めることが可能か慎重に検討をしましょう。
相続手続きについてわからないことがあったら弁護士にご相談ください
家族やご親族が亡くなった後の手続きは上に見てきたように多岐にわたり、すべてをご自身で行おうとすると大きな負担となってしまいます。
弁護士にご依頼いただければ、相続にかかわる手続のほとんどを代理人として進めることが可能となります。
また、遺産をどのように処理するかは非常に揉めやすい問題です。
一度揉めてしまうと、相続人の代わりに交渉できる資格があるのは弁護士だけです。
揉めた場合にどうなるかを想定しながら争わない相続を目指す整理・助言を行ったり、揉めた場合にどのように争いを治めるかは、弁護士の得意分野となります。
その他にも、そもそも何から手を付ければいいのか分からない場合にも、お気軽にご相談下さい。
弁護士法人ALG&Associatesでは、相続についての経験や知見を備えた弁護士が多数在籍しており、今後どのようにご相談者様が進むべきかを提案することができます。
相続財産に家屋が含まれている場合、相続登記など、家屋を相続するために手続きを行う必要があります。必要な手続きを怠ると相続人間で後々トラブルが生じる原因となりかねませんし、今後は法改正により相続登記が義務化されることになります。そのため、相続の際に、家屋を相続することになる場合には早めに必要な手続きを行うべきです。以下の内容を読んで、手続の参考にしてください。
家屋の相続手続きには相続登記が必要
家屋を相続した場合、相続によって家屋が自分のものになったことを第三者に明らかにするため、相続登記をしておく必要があります。相続登記をしておかないと、登記簿上、相続人全員で家屋を共有している状態となってしまい、相続した家屋を売却したり、担保にすることができないほか、家屋に居住する場合であっても自身の家屋に対する権利が不安定な状態となります。そのため、相続登記は、家屋を相続することが決まった後、速やかに行うべきといえます。
相続登記をするとできるようになること
相続登記をすれば、相続した家屋が自身の所有物になったことを第三者に明らかにしたことになります。その結果、家屋を売却したり、賃貸に出すなどして相続財産を有効利用できるようになるほか、家屋に居住する場合に法的に安定した立場で住み続けることができるようになります。また、相続登記未了のうちに、他の相続人の債権者から家屋に差押登記がされるリスクを回避することもできるようになります。
相続登記の手続きに期限はある?
これまで相続登記には期限はありませんでした。しかし、法改正によって今後は相続登記が義務化されることになります。改正された法律は2024年4月頃に施行される見込みとなっており、相続登記の期限は、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権の取得をしたことを知った日から3年以内」に行わなければならないと定めています。単純に「相続の開始があったことを知った日から3年」ではなく、「所有権の取得をしたことを知った日から3年」となっている点がポイントです。つまり、疎遠となっていた親戚が亡くなった場合など、自分が相続人となったことを知らないまま長期間経過してしまった場合でも、相続人となったことを知った時から3年以内に相続登記すれば問題ないということです。
また、法改正前の相続も対象となる点には注意が必要です。既に発生している相続や2024年4月頃の法律の施行までに生じる相続についても対象となっており、以下のいずれか遅い日から3年が期限となります。
①自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日
②民法および不動産登記法の改正法の施行日
家屋の相続手続きの流れ
相続手続の流れはざっくりというと以下のようなものです。
①相続人は一人の場合、家屋を含めた相続をするかどうかを決める。
②相続人が複数いる場合には、上記①に加えて、誰が相続をするかを決める(遺産分割協議を行う)
③家屋を相続する相続人が決まった場合、相続登記に必要な書類を集める(登記簿や固定資産評価証明書、遺産分割協議書など)
④必要書類とともに、登記申請書を法務局に提出する
⑤相続登記完了後、窓口か郵送にて登記識別情報を受け取る
相続登記の必要書類
相続登記は、相続の対象となっている家屋が所在する場所を管轄する法務局に対して申請することになります。法務局に申請をする際には申請書のほか、登記簿などの複数の必要書類を準備する必要があります。
基本的に必要なもの
相続登記をする際、基本的に必要なとなる書類は以下のものです。
相続人が多数であったり、遠方にいたりする場合、郵送で住民票などを集めていくのは相当時間がかかることがあるので注意が必要です。
- 登記簿謄本 法務局で入手
- 固定資産評価証明書 市区町村の税務課で入手
- 被相続人の住民票の除票 市区町村の戸籍課で入手
- 被相続人全員の戸籍謄本 同上
- 家屋を相続する相続人の住民票 同上
遺言書がない場合の追加書類
遺言書がない場合、相続人が一人であるケース、法定相続分どおりに相続登記をするケースでは上記3.1の書類を集めて申請すれば足ります。しかし、遺言書がない場合で法定相続分とは異なる内容で相続登記をするためには遺産分割協議書を準備する必要があります。相続人間で協議して遺産分割協議が整えばよいのですが、話し合いがうまくいかないときには遺産分割の調停など法的手続を経ないと相続登記ができないことになります。
遺言書があり、遺贈がない場合の追加書類
遺言書がある場合で、遺贈がないケースとしては、法定相続分どおりに相続することをあえて遺言書に記載しているケースと特定の相続人の一部に家屋を相続させる旨の遺言が記載されているケースがあります。前者の場合、遺言書を必要書類として添付してもよいといえますが、法定相続分どおりですから、わざわざ遺言書を準備することは必須ではありません。一方で、相続させる旨の遺言書がある場合、相続を受けた相続人は単独で相続登記を行うことができる反面、相続登記の必要書類として遺言書を用意する必要があります。遺言書が自筆証書遺言の場合、検認済みであることも要します。
遺言書があり、遺贈がある場合の追加書類
遺言書があり、遺贈がある場合には遺言執行者によって相続登記の手続きを行うことが基本となってきます。そのため、遺言執行者を指定した遺言書や家庭裁判所で遺言執行者を指定した遺言執行者選任の審判書が追加書類として必要となります。また、遺言執行者の指定のないまま相続登記をする場合には、相続人全員での共同申請とする必要があり、相続人全員分の印鑑証明書が必要となります。
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書類の郵送先
相続登記の申請は、窓口で申請することもできますし、郵送申請も可能です。いずれにしても、申請先は対象となる家屋が存在する場所を管轄する法務局です。オンライン申請という方法もあるのですが、オンライン申請をするためのシステムに個人で登録するのは手続きがかなり大変ですので、窓口申請か郵送申請をするのが一般的です。
何を相続するのかによって相続登記の範囲が異なる
相続する家屋が戸建ての場合
相続する家屋が戸建ての場合、家屋と家屋が建っている土地の両方を相続することが少なからずあります。そのため、家屋の相続をする場合には、家屋だけでなく、土地の相続登記もセットで行う必要があります。居住に必要なのは家屋ですから、うっかり土地の相続登記を失念してしまうと、家屋と土地の所有者が登記簿上異なることになってしまい、事後にトラブルが生じることとなります。また、戸建ての相続の際には土地を相続するにあたっての相続税が減免される特例がありますので利用できるかどうかを忘れずに確認してください。
分譲マンションを相続する場合
分譲マンションを相続する場合、マンションは登記簿上、敷地権付き区分建物とされているケースがほとんどです。マンションも建物である以上、土地の上に建っているわけですが、分譲マンションのように区分建物の場合、専有部分ごとに登記されることになりますので、敷地権と建物を一体化させることで、分譲マンションの相続登記の際に土地と建物を分けて登記して権利関係が複雑になるのを防止しています。分譲マンションについては固定資産評価証明書も敷地権付き建物ごとに作成されることから建物と土地を分けて評価するわけではありません。
手続きせず空き家として放置したらどうなる?
家屋を相続したものの、そのまま空き家として放置してしまうケースも少なくありません。しかし、空き家だからといって税金が免除されるわけではありませんから、税金の請求書をきちんと確認しておかないと後々になって延滞分を含めた高額の請求を受ける可能性があります。また、空き家の増加を踏まえて、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されました。 この法律に基づき、自治体によって特定空き家に指定されて勧告を受けた場合、空き家が建っている土地にかかる固定資産税を軽減する優遇措置が適用されなくなり、固定資産税が大幅に増加するおそれがあります。また、勧告に従わない場合には行政代執行として強制的に空き家の撤去や解体がなされ、その費用は所有者に請求されることになります。 さらに、空き家を放置することで家屋の倒壊などで近隣住民に迷惑をかけてしまった場合には近隣住民からの損害賠償請求を受ける可能性もあります。
家屋の相続は揉めやすいので弁護士への相談をお勧めします
家屋を相続する場合は、相続登記等の手続が必要になるところ、手続を適切に行うには専門知識を要することも少なからずあります。相続登記の手続きに失敗してしまうと大きなトラブル巻き込まれるおそれもありますし、家屋を空き家として放置したままにしないようにするための対策も必要です。相続の内容というのは類似点があっても千差万別ですから、ご自身の状況に応じた適切なアドバイスを受けるためには法律の専門家である弁護士に相談されることをお勧めいたします。弁護士法人ALGには、相続について経験豊富な弁護士が多く在籍しておりますので是非一度ご相談ください。
今後、相続件数は増えていくと予想されます。遺産が少ない場合、相続紛争とは無縁だと思いがちですが、実際にはそんなことはありません。遺産が少ない場合でも、紛争につながっている相続案件は数多くあります。自分の死後、家族が相続で争うことは避けたいものです。相続紛争の予防策として、代表的なものが、遺言書の作成です。ここでは、遺言書の効力について説明します。
遺言書の効力で指定できること
遺言書に記載したことの全てに法的効力が認められるわけではありません。遺言で決められる事項については、法律上定められており、それ以外の記載内容は、法的には効力のないものとして扱われます。
ここでは、遺言書に記載することで法的効力が認められるもののうち、代表的なものを紹介していきます。
遺言執行者の指定
遺言執行者とは、遺言書に記載されている内容を実現させるべく、各種の手続きを行う人のことを指します。例えば、遺言執行者は、不動産の登記名義を受遺者に移転させたり、預金の解約・払戻等をして受遺者に預金を交付する手続きを行ったりします。
そして、遺言者は、「Aを遺言執行者として指定する」等と遺言書の中に記載することで、遺言執行者の指定をすることが可能です。
誰にいくら相続させるか
遺言者は、法定相続分と関係なく、誰にいくら相続させるかを指定することができます。
その指定の方法にはいろいろな定め方があります。
例えば、「妻の相続分を10分の7、長男の相続分を10分の1、長女の相続分を10分の2とする」といったように、遺産全体について割合を決めることも可能ですし、特定の財産の取得割合を個別に定めることも可能です。この割合を100%として指定することも可能です。
誰に何を相続させるか
遺言者は、誰に何を分配するかも指定できます。
例えば、「遺言者は、遺産分割において、長女がA不動産、長男が預貯金、二男がB株式会社の株式全部を取得するように、分割の方法を指定する。」というように記載することがあります。
他に、実務上頻繁に用いられる工夫として、「A不動産を長女に相続させる、預貯金を長男に相続させる」というように記載をして、後の遺産分割協議を不要にすることも可能です。
遺産分割の禁止
相続案件の中には、様々な事情から、死後すぐに遺産分割をすることを避けたいということがあります。そのような場合、遺言者は、遺言書に記載することにより、5年を超えない期間を定めて、遺産分割を禁止することができます。
永遠に遺産分割できないとすると相続人の不利益は大きいものとなってしまうため、5年を超えない期間に制限されています。また、遺言による分割禁止の更新規定も無効です。期間が記載されていない場合も、遺産分割の禁止自体は有効ですが、禁止されているのは5年間に限られます。
遺産に問題があった時の処理方法
遺産分割の際に考慮されていないかった権利又は物に関するリスク(取得した財産に不適合があったり、他人の権利であったというような場合等)が、遺産分割後に明らかとなった場合に、共同相続人が、相続分に応じて、そのリスクを負担し合うというのが、民法911条に定められている担保責任です。 この規定は任意規定であり、遺言者の意思により、その内容や責任の範囲を変更することが可能です。例えば、相続人が3人いるうちの一人には、担保責任を負わせないようにする旨の遺言をすること等が可能です。
生前贈与していた場合の遺産の処理方法
例えば、相続人の一人が、被相続人から不動産の生前贈与を受けていたような場合(生前贈与が特別受益に該当する場合)、通常の遺産分割においては、他の相続人との公平をはかるため、特別受益があったことを考慮して、各相続人の相続分を計算します。 他方、被相続人が「特別受益の持戻し免除の意思表示」をすれば、その特別受益を、今回の相続の際に考慮しないようにすることが可能です。この意思表示は、遺言書に記載するのが明確でお勧めです(特に、遺贈の場合は、遺言で持戻し免除の意思表示をすることが必要だと考えられています。)。
生命保険の受取人の変更
保険法は、遺言によって、保険金受取人の変更をすることができる旨を規定しています。例えば、被相続人が契約者兼被保険者である生命保険について、保険金受取人が妻であったところ、遺言により、保険金受取人を長女に変更するというようなことが可能です。
もっとも、実際にこの手続きを行う場合には、保険会社との関係でスムーズに手続きが進むように、事前に、保険会社に遺言書の記載文言や具体的な手続き等を確認した方がよいでしょう。
非嫡出子の認知
法律上の婚姻関係にない父母の間に生まれた子を非嫡出子といいます。非嫡出子と父親とは、認知という手続きにより、法律上の親子関係が生じます。法律上の親子関係が生じると、その子は、相続人としての立場を得ることになります。
遺言者は、遺言によって認知をすることができます。
その場合、他の相続人からすれば、突然相続人が増えるということになりますので、認知を知らなかったことにして、遺産分割することを考えることもあるでしょう。しかし、遺言認知された者を除いて遺産分割してしまった場合、被認知者から価額支払請求(民法910条)を受ける可能性がありますので、被認知者を無視するのは適切とはいえません。
相続人の廃除
遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待等をした場合には、「廃除」によって相続権が剥奪されることがあります。
遺言者は、特定の相続人を廃除することを遺言書に記載することができます。もっとも、廃除の与える不利益は非常に大きく、遺言書において廃除の意思表示をしても、直ちに廃除の効力が生じるわけではありません。遺言書で廃除の意思表示がされた場合には、遺言執行者が、遺言の効力が生じた後、遅滞なく、家庭裁判所に推定相続人の廃除の請求をすることになります。廃除の審判が確定した又は調停が成立した場合に、廃除の効力が生じることになります。
未成年後見人の指定
例えば、離婚して単独親権者として未成年者を育てている被相続人が死亡した場合、親権者が存在しないことになり、その後の未成年者の生活に支障が生じることになります。そこで、親権者に代わって未成年者を監護し、財産を管理する人(未成年後見人)が必要となります。
遺言者は、遺言によって、未成年者の未成年後見人を指定することができ、未成年後見人に指定された人は、遺言者の死亡と同時に未成年後見人となります。
遺言書が複数ある場合、効力を発揮するのはどれ?
遺言書が複数ある場合、最新の日付のものが有効です。通常は、新しい遺言書に、以前の遺言書を撤回する旨を記載し、最新のものが有効であることを明確にします。仮に、最新の遺言書に、以前の遺言書を撤回する旨の記載がない場合でも、以前の遺言書と最新の遺言書の内容が抵触するときは、最新の遺言書の内容に、遺言内容が変更されたことになります。
なお、自筆遺言証書が2通あり、うち1通にのみ日付の記載があり、もう一通に日付の記載がないような場合、日付の記載がない以上、(内容からして明らかに最新の遺言書であったとしても)その遺言書は無効なため、日付のある遺言書が有効ということになります。
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遺言書の効力は絶対か
遺言書が存在する場合でも、それに従わなくてもよい場合があります。
代表的には、①遺言が無効である場合、②記載事項が法定遺言事項ではない場合が考えられます。
①について、遺言は、法の定める方式を満たしていることを厳密に要求されており、形式的な不備があるだけで、無効となってしまいます。例えば、自筆遺言証書において、日付の記載がなかったり、署名を自書していなかったりする場合は、遺言は無効です。
②について、遺言書に記載することで効力が生じるものは、法律上定められており、それ以外の記載については、法的な効力は生じません。例えば、「長男は遺留分を放棄すること」というような記載には、法的な効力はありません。
これらの場合には、遺言書の内容に従う必要はありません。
遺言書の内容に納得できない場合
遺言書の内容に納得できない場合もあります。例えば、遺言が無効であると考える場合には、遺言に任意に従う必要はなく、民事訴訟で解決を図ることができます。また、他の相続人との協議により、遺言書の内容とは異なる内容で遺産分割をすることも可能です。
もっとも、遺言書の内容に納得できない場合というのは、特定の相続人に有利で、他の相続人に不利な内容の遺言書であることが多いため、遺言の効力をめぐっては主張が対立することが多いと思われます。
勝手に遺言書を開けると効力がなくなるって本当?
自筆遺言証書(遺言書保管制度を利用するものを除きます)と秘密証書遺言の場合には、遺言の保管者は、相続開始を知った後、遅滞なく家庭裁判所に検認の請求をしなければなりません。検認というのは、裁判所において、遺言書を開封し、その内容を確認し、その状態を保存する手続きです。この手続きを経ることで、遺言書の改ざん等を防止することができます。
検認の手続きを経ずに遺言書を開封してしまう場合もありますが、それによって遺言が無効になるということはありません。もっとも、検認の手続きを経ずに開封した場合、5万円以下の過料に処されることがあります。
効力が発生する期間は?
遺言の効力は、遺言者が死亡したときから生じます。遺言の有効期限はなく、遺言書の効力は、相続開始時以降、ずっと生じていることになります。
例えば、30年前に発生した未解決の相続について、遺言書が50年前に作成された非常に古いものだったとしても、それが有効要件を満たしている限り、その遺言は有効です。したがって、その相続問題については、その遺言書の内容にしたがって処理をすることになります。
認知症の親が作成した遺言書の効力は?
遺言をするには、遺言能力が必要です。遺言能力とは、自分のする遺言の内容と、その結果生じる法律効果を理解・判断できる能力を指します。民法上は、満15歳以上に達すれば、遺言能力が備わることが定められていますが、満15歳以上でも、十分な判断能力がない場合には、遺言能力がないと判断され、遺言が無効となることがあります。
実務的には、認知症の場合に遺言能力が問題となることが多いです。認知症であるというだけで遺言が無効と判断されるわけではなく、有効な遺言として扱われることもあります。他方、重度の認知症である場合等は、遺言が無効と判断されることがあります。
記載されていた相続人が亡くなっている場合でも効力を発揮するの?
遺贈については、遺言の効力が生じる前に受遺者が死亡している場合について、明文で、遺贈の効力が生じないと定められています(民法994条1項)。また、遺産を特定の相続人に「相続させる」と記載されている遺言についても、遺言効力発生前に当該相続人が死亡している場合には、原則として効力を生じません。
そのような場合には、無効となった部分について、遺産分割をすることになります。
遺留分を侵害している場合は遺言書どおりといかないことも
兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、直系尊属)には、遺留分というものが認められています。遺留分というのは、その相続人に、最低限保障された取得分を指します。例えば、父が死亡し、母、子の2人が相続人であり、遺産総額が1000万円というケースでは、母の遺留分は4分の1に相当する250万円ということになります。
上記のケースで、遺言書に、「全ての遺産を子に相続させる」と記載されている場合、母の遺留分は侵害されていることになります。そのような場合でも、遺言自体は有効です。もっとも、母は、子に対して、遺留分侵害額請求という請求をすれば、250万円の支払いを受けられることになります。
遺言書の効力についての疑問点は弁護士まで
遺言の有効・無効については、個別のケースで判断が分かれるため、専門家の意見を聞くことをお勧めします。また、遺言が有効だとしても、専門家の関与にもかかわらず十分とはいえない遺言書であったり、全く想定していなかった問題が生じていたり、最終的な解決まで一筋縄ではいかないことも多いです。
これから遺言書を作成したいという場合にも、注意点は多岐にわたりますので、弁護士と十分に打ち合わせすることをお勧めします。
あなたが再婚したり、元配偶者が再婚したりしたとき、子供の面会交流はどうなるのか、気になる方は多いのではないでしょうか?
本ページでは、【再婚後の面会交流】をテーマに、
- 再婚しても面会交流を続けていく必要があるのか
- 再婚を理由に面会交流を拒否することはできるのか、拒否された場合はどうしたらいいのか
といったことについて詳しく解説していきます。再婚を理由に面会交流を拒否したいと考えている方、あるいは拒否されて困っているという方には、特によく読んでいただきたい内容です。ぜひ最後までご覧ください。
再婚しても面会交流は必要?
再婚しても、基本的には面会交流を続ける必要があります。再婚したからといって、元配偶者と子供との親子関係が絶たれるわけではないからです。元配偶者が子供の親であることに変わりはないので、面会交流する権利を持つという考え方もあります。
さらに言えば、面会交流は子供の権利です。再婚によって、子供が離れて暮らす親と触れ合う機会を奪われてしまうというのは、“子の福祉(しあわせ)”に反しかねません。したがって、再婚後も面会交流は必要とするのが、基本的な考え方となります。
再婚相手と子供が養子縁組した場合
再婚相手と子供が養子縁組した場合であっても、基本的に面会交流は必要です。たしかに、養子縁組したら再婚相手は子供の養親となり、元配偶者(実親)よりも優先して扶養義務を負います。しかし、元配偶者と子供の親子関係がなくなるわけではありません。引き続き、子は面会交流する権利を持つことになります。
したがって、「再婚相手と子供が養子縁組したから」という理由だけで、ただちに面会交流ができなくなったりはしないのです。
再婚後の面会交流を拒否したい・拒否された場合
再婚相手に早く慣れてほしいといった気持ちから、「子供と元配偶者を会わせたくない」と思うこともあるでしょう。一方で、再婚を理由に元配偶者から面会交流を拒否されたら、「この先ずっと子供と会えなくなってしまうのか…」と不安に感じられるかと思います。
再婚後の面会交流を拒否したい側と拒否された側、それぞれの立場のケースについて詳しくみていきましょう。
再婚を理由に面会交流の拒否は可能か
再婚そのものを理由に、面会交流を拒否することはできません。面会交流は、“子の福祉(しあわせ)”を第一に考えて、実施するかどうか決めるべきものです。通常、離れて暮らしている親からも愛されていると実感できるようにと、裁判所は「面会交流はできるだけ実施した方がいい」と考える傾向にあります。そのため、面会交流が子供の成長に悪影響を及ぼすような事情がない限り、「再婚したから面会交流を拒否したい」というのは認められません。
面会交流を拒否された場合の対処法
再婚を理由に面会交流を拒否され、子供に会わせてもらえない場合の対処法としては、例えば次のようなものが考えられます。
- 履行勧告:家庭裁判所から相手方に対し、「面会交流を行うように」と促してもらう手続き。
- 間接強制:家庭裁判所から相手方に対し、面会交流の実施を命じ、期限内に従わないときは間接強制金を課すという手続き。
ただし、上記に挙げた対処法は、家庭裁判所の手続き(調停・審判・裁判など)で面会交流の取り決めをした場合にしか利用できません。さらに、間接強制については、合意の内容が一定の条件を満たしている必要があります。話し合いなどで取り決めをした場合には、まずは面会交流の調停を申し立てて、改めて面会交流の取り決めをしていくことになります。
再婚相手に慰謝料を請求することもできる
面会交流を行うと約束していたのに拒否されてしまった場合、相手が拒否する理由が正当なものでないときには、慰謝料を請求できます。例えば、「再婚後の新しい家庭を邪魔されたくないから」と拒否するケースは、正当な理由があるとはいえないでしょう。
また、再婚相手も一緒になって面会交流の妨げをしていたのなら、再婚相手に対しても慰謝料請求できる可能性があります。実際、面会交流を拒否した元配偶者とその再婚相手に対し、慰謝料の支払いを命じた裁判例もあります。ただ、慰謝料請求が認められるかどうかは、あくまでもケースバイケースであり、残念ながら認められない場合が多い点ご注意ください。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
再婚相手が面会交流に同席したいと言ってきたら
再婚後の面会交流を行うにあたって、再婚相手が同席したいと言ってきたら、どう対応すればいいのでしょうか?面会交流は、離れて生活する親子が触れ合う貴重な時間ですから、慎重な判断が必要です。以降で詳しく確認していきましょう。
子供の意思を最優先に考える
再婚相手が面会交流に同席したいと言ってきたとき、何より大切にすべきは子供の意思です。面会交流をどのように行うかは、親の都合で決めるものではありません。というのも、面会交流は、子供が離れて暮らす親から愛情を感じられるようにすることも、その目的としているからです。
まずは子供の意思を確認して、再婚相手を同席させていいものか判断することが重要です。例えば、再婚相手が一緒にいることで子供が緊張してしまったり、ストレスを感じてしまったりするようなら、同席させない方がいいでしょう。
面会交流調停を申し立てる
再婚相手を面会交流に同席させるかどうかは、子供の意思を確認したうえで、「面会交流調停」を申し立てて話し合った方が、スムーズに決められることもあります。
面会交流調停とは、家庭裁判所の調停委員会が当事者の間に入り、面会交流について話し合う手続きです。最初に面会交流するかどうかを取り決める際だけではなく、取り決めた後、ルールの変更をする際にも利用できます。調停では本人同士が直接やりとりすることはないので、落ち着いて話し合いを進めやすくなることが期待できるでしょう。
面会交流調停について、詳しくは下記のページをご覧ください。
面会交流調停について再婚後の面会交流に関するQ&A
再婚を理由に面会交流の回数を減らすことは可能ですか?
単に「再婚したから」というだけでは、面会交流の回数を減らす理由としては認められません。しかし、子供に与える影響を考慮して、回数を減らすことが認められる場合もあります。
例えば、離れて暮らす親と頻繁に会っていたら、なかなか再婚相手と過ごす生活に慣れず、子供が葛藤を抱えてしまうこともあるでしょう。このような場合、子供のために行う面会交流が、かえって子供を悩ませる原因になりかねません。したがって、面会交流の回数を減らすよう、調整されることもあるのです。
元夫が面会交流に再婚相手を連れて来ていることが判明しました。一人で会わないなら面会交流を拒否したいのですが可能ですか?
「面会交流に再婚相手を同席させてはいけない」といったルールを定めていた場合、注意しても再婚相手を連れて来るようなら、面会交流を拒否できる可能性があります。
一方、再婚相手の同席について、特に何も取り決めをしていなかった場合には、面会交流の拒否が認められるのは困難です。ただし、再婚相手を連れて来たせいで、子供が面会交流を嫌がる、面会交流をストレスに感じるなどの状況にあるなら、拒否が認められる可能性はあります。子供の健全な成長に悪影響を及ぼすおそれがある面会交流を、裁判所は良しとはしないからです。
子供が元妻の再婚相手に懐いています。子供のためにも会わない方がいいですか?
子供が元妻の再婚相手に懐いていたとしても、あなたが父親であるという事実に変わりはありません。あなたと子供がお互いに会いたいと思っているなら、引き続き面会交流を行った方がいいでしょう。
再婚後の面会交流をどうするか考えるとき、何より優先してほしいのが子供の気持ちです。ご自身の勝手な判断で、「会わない方が子供のためになる」と決めつけ面会交流を拒否してしまうと、子供は「見捨てられた」と感じてしまうかもしれません。
すぐさま会わないとするのではなく、会う頻度を減らす、交流の仕方を変える(例:手紙や写真のやりとり等にする)といった、面会交流のルールを見直してみるのも一つの手です。
再婚し、子供が生まれたので新しい家庭に集中したいです。面会交流の拒否はできるのでしょうか?
再婚して子供が生まれ、新しい家庭に集中したいからという理由だけでは、面会交流の拒否はできないと考えられます。拒否する理由が、ご自身の都合によるものであって、これまで面会交流をし続けてきた子供に与える影響を考慮してのものではないからです。
面会交流は、子供のためにある制度なので、親の都合で拒否することはできません。裁判所が拒否を認めるのは、「面会交流が子供の健全な成長のためにならない」と判断した場合に限られます。
再婚後の面会交流で疑問点があれば弁護士に相談してみましょう
再婚したら、子供を再婚相手に早く慣れさせたい、再婚後の生活に集中したいなどの理由から、面会交流を控えたいと思う方もいるでしょう。しかし、面会交流は子供のために行うものですから、親の都合で「面会交流しない」とすることはできません。
ただ、再婚後の状況によっては、子供に与える影響を考慮して、面会交流の拒否や制限(会う回数を減らす・時間を短くする等)が認められることもあります。
それぞれ抱えている事情は違っているので、再婚後の面会交流について、疑問や不安が生じることもあるでしょう。そのようなときは弁護士に相談し、専門家の意見を聞いてみてはいかがでしょうか。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)