監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
労働関係に関する事項について、労働者と企業との間で発生した法的トラブル(個別労働関係民事紛争)の解決手段として、交渉や訴訟のほかに、「労働審判」という制度があります。
本日はこの労働審判がどのような制度かについて、手続きの流れに着目してご説明いたします。
目次
労働審判手続はどのような流れで行われるのか?
労働審判手続は、個別労働関係民事紛争を、紛争の実情に即して、迅速・適正かつ実効的な解決を図ることを目的に創設された制度です(労働審判法1条、以下法名は省略します)。
手続きの流れを見るとこの理念がよく表れていることがわかります。
労働審判は3回以内の期日で審理される
労働審判の迅速性が表れているのが期日の回数です。
労働審判手続において、期日は原則3回以内と決まっています(15条2項)。
一方、訴訟においては期日の回数は制限されていません。労働関係の訴訟は、審理するのに1年以上かかることが通常であるのに対し、労働審判は平均2~3ヶ月で終わります。
労働審判手続の具体的な流れ
それでは、労働審判はどのように始まり、どのように終わるのでしょうか。
手続きの具体的な流れを見ていきましょう。
労働者からの申し立て
労働審判は、当事者が書面により、事件を管轄する地方裁判所に申立てを行うことにより開始されます(5条)。
ここで「当事者」とは、企業と労働者双方を指しますが、この記事では企業が労働者から申し立てられた場合を想定してご説明します。
会社は労働審判の申立てを拒否できる?
労働審判を申し立てられた場合、それを拒否することは原則としてできません。
後述するとおり、労働審判が適法に申し立てられると、第1回期日が指定され、企業は裁判所から呼出しを受けます。
この呼出しに応じず、第1回期日を正当な理由なく欠席した場合、5万円以下の過料の制裁が加えられる場合があります(31条)。
第1回期日の決定・呼出し
労働審判が申し立てられると、労働審判官(地方裁判所の裁判官が務めます)が、申立てがされた日から原則として40日以内に第1回期日を指定し、当事者双方を呼び出します。
期日までに準備しておくべきこととは?
期日が指定されると、企業に対し、裁判所から「期日呼出状」が届きますが、それとともに届くのが、労働者が裁判所に提出した申立書の写しです。証拠書類が添付されていることもあります。
申立書を見れば、労働者が何を請求しているのか、何を主張したいのか、その概要がわかります。
企業はその言い分を見て、「答弁書」を作成し反論を行う必要があります。
反論には客観的証拠が必要ですから、その収集も始めなければなりません。
第1回期日
労働審判は、裁判官が務める労働審判官1名と、労働関係の専門的知識を有する労働審判員2名から構成される労働審判委員会により進行されます。
第1回期日では、この労働審判員会が当事者双方の主張を聴き取り、争点及び証拠の整理を行い、できる証拠については証拠調べを行います(労働審判規則21条1項。以下「規則●条」と書きます)。
労働審判手続は公開されるのか?
通常の訴訟と違い、労働審判手続は非公開です(16条)。
ただし、労働審判委員会は、相当と認める者の傍聴を許すことができます(同条)。
ですから、企業は、決裁権限のある者以外にも、必要だと考える人物(例えば、事情をよく知る従業員や担当者等)について労働審判を傍聴させることができる場合があります。
会社はどのような姿勢で臨むべきか?
労働審判は3回しか期日が開かれません。
先に述べたように、第1回期日で争点が絞られ、その後の主張もここで整理された争点に基づいて行われるので、企業は第1回期日ですべての反論を出し切ることができるよう、準備する必要があります。
最初の段階だと思って油断せず、第1回ですべての主張・証拠を尽くすつもりで臨みましょう。
一方で、後述するとおり、労働審判は早期に柔軟な解決を図れる手段でもあります。
労働者が訴訟を提起すれば、公開の法廷で審理され、時間も費用もその分かかりますから、そのリスクを避けるためには、反論ばかりではなく、第1回までに和解の可能性を探っておく必要もあります。
第2・3回期日
当事者は、やむを得ない事由がある場合を除き、第2回期日が終了するまでに主張及び証拠書類の提出を終えなければなりません(27条)。
したがって、事実上第2回が終われば、あとは結論を待つのみということになります。
ここで、労働審判は迅速・適正かつ実効的な解決を図ることが目的とされているところ、最も早く効果的な解決は、当事者双方が納得して和解をすることです。
そのため、労働審判委員会は、各期日においていつでも調停、すなわち和解を試みることができます。
第3回期日は和解のための期日になることが多いです。
調停が成立した場合
双方の話合いがまとまると、調停が成立します。
調停が成立すると、双方が和解した内容が調停調書に記載されます。
執行文が付与された調停調書には執行力があるので、その記載された条項の内容によっては、調停調書をもって直ちに強制執行することもできるようになります。
調停不成立の場合
調停がまとまらない場合、労働審判委員会は、合議によって解決案を決定し、審判を下します。
この合議においては、労働審判員も含む3名の過半数の意見により決議が出ます(12条1項)。
審判の内容ですが、当事者の権利関係のみを判断するにとどまる訴訟とは違い、より柔軟な内容にすることができます。
労働審判の確定
審判が下されると、審判書が作成されます(20条3項)。
この審判書は当事者に送達され、この送達時から審判の効力が発生します(同4項)。
もしくは、審判書の作成に代えて、すべての当事者が出頭する労働審判手続の期日において労働審判の主文及び理由の要旨を読み上げることによっても審判を下すことができます(同6条)。
この場合は、読み上げがされたときに審判の効力が発生します(同)。
このように発生した審判の効力は、当事者が異議を申し立てなければ確定します。
不服がある場合は異議を申し立てる
労働審判の内容に不服がある場合は、審判の効力が発生した日から2週間の不変期間以内に、裁判所に異議を申し立てることができます(21条1項)。
不変期間とは、何があっても変わらない期間ということです。
すなわち、どのような事情があったとしても、2週間以内に異議を申し立てなければ審判は確定し、それを覆すことはもはやできなくなります。
適法な異議の申立てがされると、審判はその効力を失います(同3項)。
そして、自動的に訴訟に移行します。
申立てから解決までにかかる期間はどれくらい?
労働審判は原則3回以内の期日で終わるため、申立てから解決までにかかる期間は平均2~3ヶ月です。
平成18年から令和5年までに申し立てられた労働審判のうち、約66%は3か月以内に終わっています。
労働関係の民事訴訟は、審理期間だけで1年以上かかるのが通常であることを考えると、いかにスピード感のある手続かわかっていただけると思います。
労働審判委員会が労働審判を終了させるケースとは?
トラブルの内容が複雑で短期間での解決が難しい場合など、労働審判になじまない事案の場合、労働審判委員会は審判を下さずに事件を終了させることができます(24条1項)。
この場合も、自動的に訴訟に移行します(同2項)。
労働審判手続で不備が無いよう、労働問題の専門家である弁護士がサポート致します。
労働審判手続は、原則として3回以内の期日で審理が終結するため、申し立てられた段階から十分な準備をして挑むことが重要です。
さらに、第1回期日においては、原則として口頭で主張を述べる必要があり、その主張を基に争点が整理されますから、法的に的確な主張をよくまとめて臨まなければなりません。
また、訴訟移行のリスクを考えるなら、労働審判が訴訟前にトラブルを解決できる最後の手段です。
その意味でも、労働審判をおろそかにすることは絶対にできません。
ALGでは、労働者との法的トラブルの早期解決のため、経験豊富な弁護士が労働審判の準備や進行について適切にサポートすることができます。まずはお気軽に弁護士にご相談ください。

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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
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