
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
自由な働き方が謳われる昨今、注目を集めているのが「スーパーフレックスタイム制度」です。
この記事では、スーパーフレックスタイム制度のご説明から始まり、スーパーフレックスタイム制度における給与控除の扱いや、導入に当たり注意するべきことなどをご紹介していきます。
目次
スーパーフレックスタイム制度とは
フレックスタイム制とは、各日の始業・終業時刻の決定を従業員の自由な決定に委ねるものです。
そして、勤務するか否かの選択が可能な時間帯(フレキシブルタイム)や、必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)等を設定せず、従業員の完全な自由に委ねる労働時間の制度を、スーパーフレックスタイム制度といいます。
スーパーフレックスタイム制度における給与の控除は可能?
結論から言うと、スーパーフレックスタイム制度のもとでも給与控除は可能です。
何時から何時まで働くかを従業員の完全な自由に委ねるスーパーフレックス制度のもとにおいては、当然遅刻や早退という概念は存在しません。
しかし、「欠勤」を定義し、欠勤控除を行うことはできるのです。
それでは、詳しく見ていきましょう。
コアタイムがない場合では「遅刻」「早退」は発生しない
フレックスタイム制においても、コアタイムがある場合は、コアタイムの開始時刻に遅れたり、その終了時刻より早く帰ったりすれば、遅刻・早退ということになります。
しかし、スーパーフレックスタイム制度においてコアタイムは存在しません。
そうすると、何時に仕事を始めても、また仕事が終わっても、完全に自由なわけですから、遅刻や早退という状態は考えられないことになります。
したがって、遅刻や早退による労働時間の短縮に基づく給与控除はできないことになります。
清算期間における総労働時間に満たない場合は欠勤控除が可能
ただし、スーパーフレックスタイム制度においても、「欠勤」という概念は考えることができます。
スーパーフレックスタイム制度を導入する際には、
- 清算期間
- 清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間ともいいます)
を定めることになります。
清算期間とは、フレックスタイム制において労働者が労働すべき時間を定める期間のことです。
上限は3か月です(労働基準法32条の3、同施行規則12条の3第1項)。
そして、その期間を通じて、例えば1ヶ月160時間というように各清算期間を通じて一律の時間を定めたり、清算期間における所定労働日を定め、所定労働日1日あたり●時間というように定めたりしたものが、清算期間における総労働時間になります。
従業員が働いた時間が、この清算期間における総労働時間に満たない場合は「欠勤扱い」となり、欠勤控除を行うことができます。
清算期間における総労働時間に不足があった場合の対応
清算期間における総労働時間が不足した場合、上記のとおり欠勤扱いとして欠勤控除を行う方法のほかにも、もう一つ対応方法が考えられます。
①不足時間分を給与から控除する
こちらが「欠勤控除」になります。この方法をとる場合は、清算期間ごとに実労働時間を計算して、給与に反映させることになります。
②不足時間分を次の清算期間に繰り越す
しかし、せっかくスーパーフレックスタイム制度をとるからには、この期間は思いっきり仕事して、この期間は思いっきり羽を伸ばしたいと考える従業員も多いでしょう。
そうなると、ある清算期間における実労働時間が清算期間における総労働時間を下回ったので、その分は給与から控除したけれども、次の清算期間における実労働時間は、その総労働時間を大きく上回るということがありえます。
超過分には当然割増賃金が発生しますが、通算すればきっかり所定労働時間分しか働いていないということも考えられます。
このとき、前の清算期間における不足時間分を次の清算期間に繰り越して、合算するという方法があります。このようにすれば、割増賃金支払いの負担を軽減することができます。
ただし、加算後の時間(総労働時間+前の清算期間における不足時間)は、法定労働時間の総枠の範囲内である必要があります。
スーパーフレックスタイム制度の労務管理を適切に行うには
スーパーフレックスタイム制度において従業員が自由な働き方をしていても、使用者の管理の必要が免除されるわけではありません。使用者は従業員の実労働時間を把握し、労働時間を適切に管理の上、賃金の清算をしなければなりません。
以下見ていきましょう。
労働時間の管理を徹底する
始業時間や就業時間が決まっている場合に比べて、従業員が自由な時間に出勤し、退勤する(場合によっては、場所まで自由)スーパーフレックスタイム制度においては、労働時間の管理が複雑になることは一目瞭然です。
勤怠管理システムを導入するなどして、労働時間の管理を徹底しないと、適切な賃金清算ができなくなるほか、安全配慮義務違反(労働契約法5条)に問われるおそれがあります。
就業規則・労使協定を整備する
フレックスタイム制を導入するためには、始業・終業時刻を労働者の決定に委ねることを就業規則等に定め、さらに、労使協定で所定の事項を定める必要があります。
労使協定に定めるべき所定の事項とは、
- 対象となる労働者の範囲
- 清算期間
- 清算期間における総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイム(任意)
- フレキシブルタイム(任意)
の6つです。
このうち下2つを定めないのがスーパーフレックスタイム制度です。
ただし、これはフレックスタイム制を導入するための“最低限の”要件です。
適切な労務管理を行うためには、
- 超過時間の取扱い
- 不足時間の取扱い:給与から控除するか、繰り越すか
まで、丁寧に定めておく必要があります。
違法な給与控除を行った場合のペナルティ
本来は働いていた時間分まで控除を行うなどの違法な給与控除を行った場合は、賃金全額払いの原則(労働基準法24条1項)に違反し、30万円以下の罰金が課せられるおそれがあります(同法120条1号)。
フレックスタイム制の労務管理について、経験豊富な弁護士がアドバイスいたします。
フレックスタイム制は、導入するための要件が複雑であるばかりでなく、導入してからも、適切な労務管理を行うために気を配るべきところが多くあります。
弁護士法人ALG&Associatesの弁護士であれば、豊富な経験から、フレックスタイム制のメリットやデメリット、労務管理において注意するべきことなど、問題が起こってしまってからの対応はもちろん、問題が起こる前に予防的な観点からアドバイスすることもできます。
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