
監修弁護士 伊東 香織弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所 所長 弁護士
近年では、働き方改革やコロナ渦等の影響によって働き方が多様化し、労働時間についてもフレックスタイム制を導入する企業が増えてきました。
そこで、フレックスタイム制について知りたいという方に向けて、この記事では、フレックスタイムを導入する場合に労働基準法上の取扱いで注意すべき点等について解説いたします。
目次
- 1 フレックスタイム制におけるコアタイム、フレキシブルタイムとは?
- 2 コアタイム、フレキシブルタイムは必ず定めなければならないのか?
- 3 コアタイム、フレキシブルタイムはどれくらいのバランスが理想的か?
- 4 コアタイム内の不就労時間に対する取り扱い
- 5 フレキシブルタイム外の労働は残業扱いとなるのか?
- 6 コアタイムとフレキシブルタイムの導入方法
- 7 コアタイム・フレキシブルタイムに関するQ&A
- 7.1 コアタイムを設定せず、全てフレキシブルタイムにすることはできますか?
- 7.2 フレキシブルタイムを、コアタイムの前後どちらかだけに設定することは可能ですか?
- 7.3 コアタイムの時間を「標準となる1日の労働時間」と同程度にすることは問題ないでしょうか?
- 7.4 コアタイム内で半日年休を取得させることは可能ですか?
- 7.5 コアタイム、フレキシブルタイムを設けた場合、休憩はどのタイミングで与えるべきでしょうか?
- 7.6 一度決定したコアタイム、フレキシブルタイムの時間を後から変更することはできますか?
- 7.7 コアタイムに遅刻したが、清算期間の総労働時間を満たしている場合、遅刻時間分の賃金は控除できないのでしょうか?
- 7.8 コアタイムでの欠勤が続く社員に、減給処分を下すことは可能でしょうか?
- 7.9 コアタイムやフレキシブルタイムを、部署ごとで異なるよう設定することはできますか?
- 7.10 会議に参加してもらうため、コアタイム外の時間帯に出社してもらうことは可能ですか?
- 8 コアタイムやフレキシブルタイムの決定でお悩みなら弁護士にお任せください。最適な方法をアドバイスさせて頂きます。
フレックスタイム制におけるコアタイム、フレキシブルタイムとは?
フレックスタイム制とは、一定の期間についてあらかじめ決められた総労働時間の範囲内で、日々の始業・終業時刻、労働時間を労働者の自由な決定に委ねる制度です。
フレックスタイム制を採用する場合でも、使用者は、コアタイムとフレキシブルタイムを設定することができます。
コアタイム
コアタイムとは、全員が必ず勤務すべき時間帯を言います。
フレキシブルタイム
フレキシブルタイムとは、労働者自らの選択によって勤務するか否かを決定することができる時間帯を言います。
コアタイム、フレキシブルタイムは必ず定めなければならないのか?
コアタイムとフレキシブルタイムは必ず定めなければならないものではなく、企業がコアタイムとフレキシブルタイムを設定するか否かを決定することができます。
フレックスタイム制でコアタイムを設けるメリット
フレックスタイム制は基本的に労働者に始業・終業時刻や労働時間の決定を委ねる制度ですが、コアタイムを設定し、一定の時間については出勤を義務付けることで、労働者の実労働時間を把握し、労働時間の管理がしやすくなります。
また、全体の会議等の時間を設定する時間も特定されるので、予定を立てやすくなりますし、仕事に関する情報の共有やコミュニケーションが円滑になるというメリットもあります。
コアタイム、フレキシブルタイムはどれくらいのバランスが理想的か?
コアタイムとフレキシブルタイムを設定するとしても、そのバランスはどのようにすべきなのでしょうか。
フレキシブルタイムを極端に短くしてはいけない
この点、フレックスタイム制は、労働者に労働時間等を委ねる制度であるので、フレキシブルタイムを極端に短くすることで、フレックスタイム制の趣旨を没却すると捉えられるような時間のバランスにすることは避けるべきです。
フレキシブルタイムが極端に短い場合、フレックスタイム制と認められない場合があります。
コアタイム内の不就労時間に対する取り扱い
フレックスタイム制では、出勤時間や退勤時間は労働者の裁量に任せられているため、基本的には、遅刻や早退とみることはできません。
もっとも、コアタイムの定めがある場合には、この限りではありません。
遅刻・早退した場合
コアタイムを設定すれば、労働者には、その時間内は勤務を行う義務が生じるため、コアタイムの開始時間に間に合わない場合や、コアタイムの終了時刻より早く帰宅する場合には、遅刻や早退として扱うことができます。
したがって、コアタイムの遅刻や早退に対して注意や指導を行うことや、勤怠査定で考慮することができます。
欠勤した場合
コアタイムは、前述の通り、出勤を義務付けられた時間帯であるため、コアタイムを欠勤した社員には、注意・指導を行うことや、勤怠査定においてそれを考慮することが可能です。
フレキシブルタイム外の労働は残業扱いとなるのか?
フレックスタイム制では、労働者が働く時間を調整することのできる期間を1か月以内から3か月以内で設定し、その期間における週あたりの平均労働時間が週の法定労働時間(40時間)を超えた場合には、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間が残業扱いとなります。
また、清算期間が1か月を超える場合には、清算期間開始の日以後1か月ごとに区別した各期間ごとに週平均労働時間は50時間以内でなければなりません。
コアタイムとフレキシブルタイムの導入方法
フレックスタイム制を実施するためには、①労使協定において、清算期間(3か月以内)と、その期間における週あたりの平均が40時間を超えない範囲での総労働時間などの制度の枠組みを定め、②就業規則等に始業・終業時刻の決定を労働者に委ねる旨を定めることが必要となります。
なお、清算期間が1か月を超える場合には、所轄の労働基準監督署長への届け出も併せて必要になります。
コアタイム・フレキシブルタイムに関するQ&A
コアタイムを設定せず、全てフレキシブルタイムにすることはできますか?
可能です。
コアタイムを設けるか否かは企業それぞれが選択することができます。
フレキシブルタイムを、コアタイムの前後どちらかだけに設定することは可能ですか?
可能です。
コアタイムとフレキシブルタイムを導入する場合、開始時刻と終了時刻を協定において定める必要がありますが、それらをいつとするかは原則として、自由に定めることができます。
もっとも、コアタイムの開始時刻を始業時間に設定するなど、コアタイムの趣旨に反するようなコアタイムの設定は認められませんので、注意が必要です。
コアタイムの時間を「標準となる1日の労働時間」と同程度にすることは問題ないでしょうか?
コアタイムの時間を「標準となる1日の労働時間」と同程度にしてしまうと、労働者は「標準となる1日の労働時間」と同程度の時間、出勤を義務付けられることになり、フレックスタイム制を採用しない通常の労働時間と変わらない状況となってしまいます。
そのため、これは、フレックスタイム制の趣旨に反するものとして、不適切なものであると考えられます。
コアタイム内で半日年休を取得させることは可能ですか?
可能です。
労働基準法39条は半日年休を予定してはいませんが、その文言に関わらず、半日年休を与えることは許されるとされています。
コアタイム、フレキシブルタイムを設けた場合、休憩はどのタイミングで与えるべきでしょうか?
各人ごとに休憩を設ける必要があります。
フレックスタイム制でも、労働基準法に基づいて、労働者に対し休憩時間を与えなければなりません。
フレックスタイム制では、労働時間が労働者の決定に委ねられるため、一律に休憩時間を設定してしまうと、労働者が決められた時刻に休憩をとるために出社せざるを得なくなり、実情に合わなくなるおそれがあります。
一度決定したコアタイム、フレキシブルタイムの時間を後から変更することはできますか?
変更することはできます。
ただし、コアタイムやフレキシブルタイムの導入に際して締結した労働協約や、就業規則を変更する必要があります。
コアタイムに遅刻したが、清算期間の総労働時間を満たしている場合、遅刻時間分の賃金は控除できないのでしょうか?
控除することはできません。
コアタイムの遅刻・早退に対しては、注意・指導の対象にしたり、勤怠査定上考慮することもできますが、コアタイムに遅刻早退した場合でも、定められた総労働時間を満たしていれば、賃金を控除することはできません。
コアタイムでの欠勤が続く社員に、減給処分を下すことは可能でしょうか?
可能です。
コアタイムの時間は出勤が義務付けられているにもかかわらず、欠勤する行為は会社からの指示命令に反していることになります。
もっとも、懲戒処分である減給処分をするためには、就業規則において、コアタイム時間に欠勤が続いた場合には、減給処分を下すことができる旨を定めておく必要があります。
また、減給処分を下すことが不相当に過大な処分であるとされる場合には、懲戒権の濫用であるとされ、減給処分が無効となるおそれがあることに注意が必要です。
コアタイムやフレキシブルタイムを、部署ごとで異なるよう設定することはできますか?
可能です。
フレックスタイム制を定める際は、労使協定で対象となる労働者の範囲も自由に定めることができ、それぞれにコアタイムやフレキシブルタイムの開始時刻、終了時刻を定めることができます。
会議に参加してもらうため、コアタイム外の時間帯に出社してもらうことは可能ですか?
コアタイム時間外の出社を義務付けることは、フレックスタイム制を導入して労働者に労働時間の決定を委ねた趣旨に反するため、認められません。
コアタイムやフレキシブルタイムの決定でお悩みなら弁護士にお任せください。最適な方法をアドバイスさせて頂きます。
前述のとおり、フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則に定めを置くことが必要であり、それに伴う手続きは複雑です。また、一度決めたフレックスタイム制を変更する場合にも労使協定の締結や就業規則の定めの変更をする必要があり、煩雑です。
そのため、導入時からしっかりと制度を整える必要があります。
専門家である弁護士にご相談していただければ、制度を整えるために最適なアドバイスをさせていただきます。
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保有資格弁護士(神奈川県弁護士会所属・登録番号:57708)
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